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死生観を問いなおす [哲学・歴史・芸術]

 「死生観を問いなおす」 広井良典 (ちくま新書)


 時間とは何なのかを問いながら、死というものの本質をとらえようとした著書です。
 2001年刊行。宮崎哲弥「新書365冊」で、数年に1度の本だと絶賛されていました。


死生観を問いなおす (ちくま新書 317)

死生観を問いなおす (ちくま新書 317)

  • 作者: 広井 良典
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2001/11/01
  • メディア: 新書



 「私の生そして死が、宇宙や生命全体の流れの中で、どのような位置にあり、どのよ
 うな意味をもっているか」(P12)

 それ(死生観)を考えるためには、時間というものを理解しなければなりません。
 それゆえ著者は、時間を探る4つの旅という形で、時間を思索し考察します。

 第一の旅では、流れ続ける「現象する時間」の底に「潜在する時間」を見つけます。
 そして、時間は世界そのものにあるのではなく、認識する人間にあると指摘します。

 第二の旅では、「俗なる時間」(仕事の時間)の底に「遊びの時間」を見つけます。
 そして、老人や子供が生きる「遊びの時間」こそ、根源的な時間であると言います。

 第三の旅では、「人間の時間」の底に意識に根差した「自然の時間」を見つけます。
 「自然の時間」は進化の産物として生じ、生物によって無限に多様化しています。

 しかしそれは、おのおの独立してあるのではなく、重層的に存在しているのです。
 我々は「人間の時間」の奥に、「生命の時間」や雄大な「宇宙の時間」を持ちます。

 人類は、産業化社会によってますます「自然の時間」の時間から離れていきました。
 しかし時として、根源的な時間である「自然の時間」に触れることができるのです。

 ところで、人間はもちろん宇宙でさえ(自然はすべて)最終的に死にゆく存在です。
 死すべき存在の人間にとって、すべて死んでゆくということは救いなのではないか?

 自然そのものもまた永続するものでないとすれば、真に永続するものとは何か・・・
 そしていよいよ第4の旅で、「俗なる時間」と「聖なる時間」の考察に入って・・・

 著者は、死というものは我々が「時間的存在ではなくなることである」と言います。
 そして宗教は、なんらかの形で「時間」から超え出て行くことを目指すと言います。

 時間からの超越について、キリスト教と仏教を比較しているところが興味深いです。
 キリスト教は現象世界を超越していき、仏教はそれを内在する方向に突き抜けます。

 キリスト教が志向しているのは、時間を超え出た世界です。未来の果ての永遠です。
 仏教が志向しているのは、時間が生まれる以前の世界です。現在の底の永遠です。

 そして永遠とは、人が生まれそして帰って行く場所です。魂の帰って行く場所です。
 そして死とは、あるいは永遠とは、有でもなく無でもない何ものかなのです・・・

 私が本書の中でもっとも面白いと思ったのは、第3の旅の「自然の時間」です。
 「自然の時間」は私に、登山のとき感じていた「山の時間」を思い出させました。

 どこまでも青く広がる空、澄み渡った空気、生き生きした緑、キラキラと輝く太陽!
 夜には満天に散らばる星々、星明りに照らされた峰々、耳が痛くなるほどの静寂!

 山では、雄大な自然に溶け込んで一体化したような、幻想的な時間を感じました。
 大げさな言い方ですが、山では宇宙を感じました。あるいは神的存在を感じました。

 あれこそが、著者の語る我々にとっての根源的な「自然の時間」なのではないか?
 あのときの根源的な時間にどこまでも入り込み、それを突き抜けたところには・・・

 さて、死生観を論じた本で、最近とても評判になったのが「死は存在しない」です。
 ゼロ・ポイント・フィールド仮説は、一度読む価値があります。
 「死は存在しない1」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-12-02
 「死は存在しない2」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-12-05

 また、私がもっとも繰り返し読んだ、時間に関する本が「時間を哲学する」です。
 著者の中島義道は、30代の初め(1998年から2001年)にマイ・大ブームでした。


「時間」を哲学する (講談社現代新書 1293)

「時間」を哲学する (講談社現代新書 1293)

  • 作者: 中島 義道
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1996/03/19
  • メディア: 新書



 さいごに。(来年こそは山へ)

 山に行かなくなって、もう10年以上が経ちました。また山へ行きたい!
 来年こそは夏休みに・・・と思うものの、なかなか休みが取れなくて。

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自省録 [古代文学]

 「自省録」 マルクス・アウレーリウス著 神谷恵美子訳 (岩波文庫)


 五賢帝最後の皇帝が、多忙な政務の傍らで、日々思索したことを綴った日記です。
 古代ギリシャ語で書かれています。著者は、2世紀の後半のローマ皇帝です。

 初訳はなんと昭和23年(敗戦の3年後!)で、昭和33年に岩波文庫入りしました。
 2007年に改版され、今年2024年に「100分de名著」で放映され注目を浴びました。


マルクス・アウレーリウス 自省録 (岩波文庫)

マルクス・アウレーリウス 自省録 (岩波文庫)

  • 作者: 神谷 美恵子
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/12/18
  • メディア: Kindle版



 「プラトーンは哲学者の手に政治をゆだねることをもって理想としたが、この理想が
 歴史上ただ一回実現した例がある。それがマルクス・アウレーリウスの場合であった。
 大ローマ帝国の皇帝という地位にあって多端な公務を忠実に果たしながら彼の心はつ
 ねに内に向かって沈潜し、哲学的思索を生命として生きていた。」(訳者序)

 第16代ローマ皇帝マルクス・アウレーリウスは、ストア派の哲学者でもありました。
 それゆえ、忙しい政務の合間に「運命をいかに克服していくか」を考え続けました。

 「自省録」には、皇帝の日常の苦悩や思索が書かれていて、たいへん興味深いです。
 1900年も前の、しかもローマの皇帝が、現代の我々と同じ悩みを抱えていました。

 特に、私たち人間の生命のはかなさについて述べた部分が多くて、共感しました。
 永遠の時間の流れの中において、人生はなんとあっけなく過ぎていくのだろう・・・

 「なんとすべてのものはすみやかに消え失せてしまうことだろう。その体自体は宇宙
 の中に、それに関する記憶は永遠の中に。」(P30)

 「肉体に関するすべては流れであり、霊魂に関するすべては夢であり煙である。人生
 は戦いであり、旅のやどりであり、死後の名声は忘却にすぎない。」(P33)

 「時というものはいわばすべて生起するものより成る河であり奔流である。あるもの
 の姿が見えるかと思うとたちまち運び去られ、他のものが通って行くかと思うとそれ
 もまた持ち去られてしまう。」(P66)

 「このほんのわずかの時間を自然に従って歩み、安らかに旅路を終えるがよい。あた
 かもよく熟れたオリーヴの実が、自分を産んだ地を讃めたたえ、自分をみのらせた樹
 に感謝をささげながら落ちていくように。」(P68)

 「葡萄の樹はひとたび自分の実を結んでしまえば、それ以上なんら求むるところはな
 い。(中略)人間も誰かによくしてやったら、(それから利益をえようとせず)別の
 行動に移るのである。あたかも葡萄の樹が、時が来れば新たに房をつけるように。」
 (P74)

 「すべての存在は絶え間なく流れる河のようであって、(中略)常なるものはほとん
 どない。我々のすぐそばには過去の無限と未来の深淵とが口をあけており、その中に
 すべてのものが消え去って行く。」(P85)

 というように、名文の宝庫です。まとめれば、彼の主張はこうなるでしょうか。
 「人生は短くはかないが、その運命を受け入れて、真面目に真剣に生きよう。」

 さて、2006年には、講談社学術文庫から「自省録」の新訳(鈴木照雄訳)が出ました。
 南川高志の解説書「マルクス・アウレリウス『自省録』のローマ帝国」も出ています。

マルクス・アウレリウス「自省録」 (講談社学術文庫)

マルクス・アウレリウス「自省録」 (講談社学術文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/02/11
  • メディア: 文庫



マルクス・アウレリウス 『自省録』のローマ帝国 (岩波新書 新赤版 1954)

マルクス・アウレリウス 『自省録』のローマ帝国 (岩波新書 新赤版 1954)

  • 作者: 南川 高志
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2022/12/21
  • メディア: 新書



 「100分de名著」で「自省録」を解説したのが、「嫌われる勇気」の岸見一郎でした。
 岸見一郎による「マルクス・アウレリウス『自省録』を読む」も、読んでみたいです。

マルクス・アウレリウス「自省録」を読む (祥伝社新書)

マルクス・アウレリウス「自省録」を読む (祥伝社新書)

  • 作者: 岸見 一郎
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2022/09/01
  • メディア: 新書



 さいごに。(ずっとこの人がキライだった4)
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 私は今、臆面もない手のひら返しで、ずっとキライだった立花孝志を応援しています。
 兵庫県知事選では、NHKだけでなく全てのオールドメディアをぶっ壊す勢いでした。

 また彼は、稲村支持を表明した市長22名の選挙に、刺客を立てるとも言っています。
 本当でしょうか? いずれにしても、政治に関心を向けさせた彼の功績は大きいです。

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日本語に探る古代信仰 [哲学・歴史・芸術]

 「日本語に探る古代信仰」 土橋寛(つちはしゆたか) (中公新書)


 儀礼の言葉や神話や歌などを資料として、日本の古代信仰について考察しています。
 1990年刊行。万葉集や記紀歌謡の研究者である著者が、81歳で出した名著です。


日本語に探る古代信仰: フェティシズムから神道まで (中公新書 969)

日本語に探る古代信仰: フェティシズムから神道まで (中公新書 969)

  • 作者: 土橋 寛
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 1990/04/01
  • メディア: 新書



 人間には霊魂の観念があり、霊魂的なものの信仰が、宗教の基本となっています。
 未開人は、身体とは別に霊魂の存在を考えましたが、その考えがアニミズムです。

 一方、そのような霊魂とは別種の生命力や霊力があります。それがマナ=呪力です。
 呪力は、アニミズム以前の「すべてのものに生命力がある」という信仰によります。

 古代日本では、太陽などへの自然崇拝や、しめ縄などへの呪物崇拝が行われました。
 その根底に呪力の信仰があります。古代信仰の理解には、呪力の理解が不可欠です。

 その一例のタマフリは、タマ(生命力)を振り動かして、活力を与える呪術です。
 天の岩戸伝説は、太陽の生命力を回復させるための、タマフリ儀礼の起源神話です。

 アメノウズメは、呪力を太陽のタマに感染させようとして、女体を露出し踊ります。
 冬至のころ、衰弱した太陽の生命力を回復させるため、タマフリ儀礼も行われ・・・

 興味深い記述が続きます。特に面白かったのは、花見が呪術信仰だという話です。
 美しい花には生命力を強化するタマフリの呪力があるので、人は花見をするのです。

 また古代人は、水鳥も霊力のあるものとし、それを見ることに意味を見出しました。
 そのことを知った上で、大津皇子の処刑の歌を鑑賞すると、まるで違って見えます。

 「ももづたふ磐余(いわれ)の池に鳴く鴨を今日のみ見てや雲隠りなむ 万葉集416」
 鴨を見るという行為が、生命あるものにとっては、重要な意味を持っていたのです。

 さて本書には、「タマ」のほか「チ」「イ」「ヒ」などについても説明があります。
 「チ」は乳であり血であり親であり茅であるなど、知的好奇心がくすぐられます。

 さらに深く知りたければ、中西進の「ひらがなでよめばわかる日本語」がオススメ。
 私は、社会人の2~3年目ぐらいが、古語における古代信仰のマイ・ブームでした。
 「ひらがなで」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2024-05-27

 さいごに。(ずっとこの人がキライだった3)
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 大手メディアや兵庫県議会に対する不信感は、彼らが何かを隠蔽していたからです。
 県民はもちろん全国民が、元局長の公用パソコン内の秘密を知りたいと思いました。

 それを教えてくれたのが、NHKファンの私がずっとキライだったN党の立花孝志。
 SNSと街頭演説で真相を伝え、我々の度肝を抜いた彼の行動は、賞賛に値します。

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カササギ殺人事件2 [21世紀イギリス文学]

 「カササギ殺人事件 下」アンソニー・ホロヴィッツ作 山田蘭訳(創元推理文庫)


 「カササギ殺人事件」の失われた最終章と、作者アランの死を巡る推理小説です。
 2016年刊行。2019年本屋大賞翻訳小説部門第1位。ほか数々の受賞があります。


カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/09/28
  • メディア: 文庫



 編集者のスーザン・ライランドは、「カササギ殺人事件」を読んで腹を立てました。
 最終章の「明かされたことのない秘密」が無くて、結末が分からなかったからです。 

 そこへ、作者アラン・コンウェイが、事故で死んだというニュースが入りました。
 翌朝、会社にアランの遺書が届きました。彼はがんで、余命6か月だったのです。

 スーザンは、最終章の原稿を探すため、アランの屋敷や姉や弁護士を訪ねました。
 話を聞いて回るうちに、彼が自殺するはずがないという確信を持つに至りました。

 アランは、本当に自宅の塔から飛び降りたのか?
 アランから送られた手紙は、本当に遺書として書かれたものなのか?

 いつのまにかスーザンは、ピュントの世界に入り込んで、探偵をしていました。
 すると、これまで見えなかったさまざまな人間模様が見えてきて・・・

 いよいよ下巻です。ここでは、作者アラン・コンウェイの死の謎が解明されます。
 と同時に、「カササギ殺人事件」の結末も発見され、それを読むことができます。

 なるほど! これはすごいです。確かに、これまでに無いミステリー小説でした。
 そして、「カササギ殺人事件」の結末も、アラン殺しの犯人も、実に意外でした。

 ただし、ひとつ残念だったことは・・・アランが、くそ野郎だった点です。
 小説中に仕込んでおいたアナグラムは・・・それはないだろうというものでした。

 私は、アランの死には、もっとロマンティックな裏事情があると思っていました。
 彼の仕組んだことは、ミステリ・ファンを冒涜する行為です。絶対許されません。

 一方、編集者のスーザンは、ミステリに対してたいへんな思い入れがありました。
 「ミステリとは、真実をめぐる物語である」と言い、次のように続けます。

 「わたしたちの周囲には、つねに曖昧さ、どちらとも断じきれない危うさがあふれ
 ている。真実をはっきりと見きわめようと努力するうち、人生の半分は過ぎていっ
 てしまうのだ。ようやくすべてが腑に落ちたと思えるのは、おそらくはもう死の床
 についているときだろう。そんな満ち足りた喜びを、ほとんどすべてのミステリは
 読者に与えてくれるのだ。」(P259)

 もしかしたら、作者ホロヴィッツは、この部分を最も訴えたかったのではないか。
 ミステリとアガサ・クリスティに対する愛に満ちた作品でした。

 さて、作者ホロヴィッツは、シャーロック・ホームズ・シリーズや、ジェームズ・
 ボンド・シリーズも手掛けています。新人ではなく、売れっ子作家だったのです。

 ホームズものの続編である「絹の家」や「モリアーティ」を読みたいです。
 また、2017年刊行の「メインテーマは殺人」も、たいへん話題になりました。

 さいごに。(ずっとこの人がキライだった2)
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 中田敦彦の「兵庫県知事選挙という究極のミステリー」が、評判になっています。
 そして、この動画における陰の主役が、私のずっとキライだった男、立花孝志です。

 兵庫の「ミステリー」の謎を解き、真相を世に広めてくれたのが、彼だったのです。
 特に、当選を目指さない立候補という思いもよらぬ手段に訴えた点が、すごかった!

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カササギ殺人事件1 [21世紀イギリス文学]

 「カササギ殺人事件上」アンソニー・ホロヴィッツ作 山田蘭訳(創元推理文庫)


 田舎町で起こった殺人事件を、名探偵アティカス・ピュントが解明する物語です。
 2016年刊行。2019年本屋大賞翻訳小説部門第1位。ほか数々の受賞があります。


カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/09/28
  • メディア: 文庫



 1955年7月、家政婦のメアリ・ブラキストンが、死んでいるのを発見されました。
 捜査の結果、掃除機のコードに足を引っかけ、階段から落ちたことが分かりました。

 屋敷には鍵がかけられ、ほかに誰もいなかったことから、事故死と判断されました。
 ところで、彼女が死んでホッとしている人が、村には何人かいたのです。

 数日後、屋敷の主人のサー・マグナス・パイが、玄関ホールで殺されていました。
 誰か屋敷に来ていた者に、ホールにあった鎧の剣で、首を切断されたようなのです。

 その直前に、パイ屋敷は空き巣に入られていました。犯人は空き巣でしょうか?
 ところで、彼は村の嫌われ者でした。多くの村人に、殺人の動機があったのです。

 名探偵のアティカス・ピュントは、重病にも関わらず事件の捜査に乗り出しました。
 助手のフレイザーにさえ秘密にしていましたが、余命3か月と宣告されていました。

 時々襲う頭痛と闘いながら、村人たちから根気よく話を聞き、推理を組み立てます。
 そして、犯人を見抜いたようです。「あの男こそ、この事件のきっかけだ。」・・・

 上巻はここで終わっています。続きを読もうと下巻を開きますが・・・話が違う! 
 まったく違う人物の物語が始まっているのです。いったいどうしたことか!・・・

 実をいうと、私はこのことを読書仲間から聞かされていました。上巻は〇中〇だと。
 ここまでも充分面白いのですが、本当にすごいのはここからなのだそうです。

 そういえば、上巻の最初に、「作者について」というページがありましたが・・・
 作者が「アラン・コンウェイ」となっているので、分かる人には分かるのでしょう。

 さて、この物語の魅力は、アティカス・ピュントの魅力によるところが大きいです。
 特に、彼の捜査の仕方が良いです。シャーロック・ホームズを彷彿とさせます。

 「ピュントは手がかりを探しているというよりも、ここの空気を感じとろうとしてい
 るのだということが、フレイザーにはわかっていた—―犯罪そのものの記憶、事件の
 超自然的な名残のようなものが、悲しみや暴力的な死によってその場に刻みつけられ
 ているのだと、かつて何度も聞かされたことがあったからだ。」(P234)

 ところが一般的に、ピュントはポワロをイメージしていると言われているようです。
 この作品自体が、「クリスティへの愛に満ちた完璧なるオマージュ」だそうです。

 正直に言って、「クリスティのオマージュ」というのが私には分かりませんでした。
 もう少しクリスティ作品を読んでおきたいものです。(ホームズも読み直したい。)

 また、ときに人間というものを、哲学的に考察している点も、ホームズっぽいです。
 たとえば次のように、人間の邪悪さというものについて語る場面が味わい深いです。

 「人間の邪悪さの本質について、わたしは以前きみに話したことがあったね。誰も目
 にとめない、気づくこともない、ほんの小さな嘘やごまかしが積もり積もったあげく、
 やがては火事であがる煙のように、人を包みこんで息の根を止めてしまうのだ」(P202)

 さて、下巻はいったいどんな展開をするのでしょうか。
 「伏線の回収がすごすぎる」という話を、複数の読書仲間から聞いていますが・・・

 さいごに。(ずっとこの人がキライだった)
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 私はずっと、N党の立花孝志がキライでした。とてもうさんくさい人に見えたので。
 ところが兵庫県知事選では、確たる証拠を示した上で貴重な情報を伝えていました。

 テレビが隠していた闇を、白日のもとにさらした手腕はみごとでした。あっぱれ!
 今後、南あわじ市の市長選に出馬すると言っているようです。注目したいです。

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邪馬台国はどこですか? 新・日本の七不思議 [日本の現代文学]

 「邪馬台国はどこですか?」「新・日本の七不思議」 鯨統一郎 (創元推理文庫)


 雑誌記者の宮田と歴史学者の早乙女が、日本の歴史の謎に挑む連作小説集です。
 「邪馬台国はどこですか?」は1998年刊行。「新日本の七不思議」は2011年刊行。


邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫) (創元推理文庫 M く 3-1)

邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫) (創元推理文庫 M く 3-1)

  • 作者: 鯨統一郎
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1998/05/24
  • メディア: 文庫



新・日本の七不思議 (創元推理文庫)

新・日本の七不思議 (創元推理文庫)

  • 作者: 鯨 統一郎
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/04/29
  • メディア: 文庫



 「邪馬台国はどこですか?」は、覆面作家鯨統一郎のデビュー作で、代表作です。
 早乙女静香と宮田六郎の歴史オタク・コンビは、この作品からスタートしました。

 テーマは、仏陀、邪馬台国、聖徳太子、本能寺の変、明治維新、キリスト、と広い。
 早乙女と宮田の絶妙な掛け合いとともに、毎回あっと驚く仮説が披露されます。

 冒頭「悟りを開いたのはいつですか」は、記念すべきシリーズ第1作です。
 宮田と早乙女は初めて出会いましたが、最初から宮田はぶっ飛んでいます。

 「ブッダは悟りなんか開いてない」「ブッダは王子ではなく商人の子だ」
 「ブッダの本当の悩みは奥さんの浮気だ」「ブッダは、性的〇〇〇だった」

 そんな、バカな! と思いながら読むうちに、どんどん引き込まれていきます。
 そして、宮田説をいつのまにか信じ始めている自分がいて、私はびっくりしました。

 タイトル作では、邪馬台国について九州説でも畿内説でもない珍説が飛び出します。
 宮田は言います。「魏志倭人伝」の方角表記が誤りなら、その場所は〇〇になると。

 「到・至」の字を考察して、魏の使節が伊都国までしか行っていないと主張し・・・
 奴国が二度記述されている理由は、ぐるっと回ってそこに戻って来たからで・・・

 「聖徳太子はだれですか?」では、太子を〇〇を人格化した架空の人物だとします。
 そして当時、実際の大王は〇〇家であって、二つの王家が争っていて・・・

 このスリリングな聖徳太子説は、本書最大の読みどころでしょう。
 大化の改新の新解釈が、まるで見てきたかのように語られています。

 「奇蹟はどのようになされたのですか?」では、キリスト復活の謎が解明されます。
 そこには、ある種の入れ替えのトリックがあり、実際に死んだのは〇〇で・・・

 本書「邪馬台国はどこですか?」は、評判が良かったため、続編が生まれました。
 2005年刊行の「新・世界の七不思議」は、すでに紹介しました。
 「新・世界の七不思議」→  https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2018-05-24

 シリーズ第三弾の「新・日本の七不思議」では、以下のテーマが語られています。
 「原日本人」「邪馬台国」「万葉集」「空海」「本能寺の変」「写楽」「真珠湾」。

 「邪馬台国」と「本能寺の変」は、第一作において語られたものの補足説明です。
 マンネリ感とネタ切れ感があるものの、「万葉集」と「空海」は面白かったです。

 柿本人麻呂は、持統と不比等の体制に反逆し、猿と名を変えて猿丸太夫となった?
 しかし宮田は言います。柿本人麻呂こそ、〇〇〇だったのだと・・・

 空海はなぜ短期間で密教の後継者となり、わずか2年で帰国できたのか?
 宮田は言います。空海は〇〇〇だったのだと・・・

 さて、前2作は、宮田対早乙女の喧嘩まがいの丁々発止が読みどころでした。
 ところが、本書では宮田と早乙女が仲良くなっているので、鋭い論戦がありません。

 早乙女は宮田のふたりは、いつから付き合うようになったのでしょうか?
 言葉のやりとりが生ぬるくなり、切れ味を欠いたような感じで、やや残念でした。

 宮田&早乙女コンビは、「崇徳院を追いかけて」などの長編も生み出しました。
 しかし、「邪馬台国はどこですか?」と「新・世界の七不思議」がベストでしょう。

 さいごに。(兵庫県知事選挙)

 まさか斎藤前知事の当確がこんな早く出るとは! まれにみるどんでん返しでした。
 それはまた、嘘を広めるテレビに、真実を伝えるネットが勝った瞬間でもあります。

 もっとも男を上げたのはN党の立花孝志で、県民からの感謝の声が後を絶ちません。
 もっとも評価を下げたのは維新でしょう。最後まで彼を支えていれば、今頃は・・・
 また、お手手つないで稲村支持を表明した兵庫市長会22人も、実に格好悪くて・・・

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名画を見る眼Ⅰ [哲学・歴史・芸術]

 「カラー版 名画を見る眼Ⅰ 油彩画誕生からマネまで」 高階秀爾 (岩波新書)


 15世紀から19世紀半ばまでの名画を例に、近代絵画の鑑賞法を指南してくれます。
 初版は1969年で挿し絵はモノクロでした。2023年に本書のカラー版が出ました。


カラー版 名画を見る眼Ⅰ 油彩画誕生からマネまで (岩波新書 新赤版 1976)

カラー版 名画を見る眼Ⅰ 油彩画誕生からマネまで (岩波新書 新赤版 1976)

  • 作者: 高階 秀爾
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2023/05/20
  • メディア: 新書



 油彩画の創始者ファン・アイクから、19世紀のマネまでの15作品を解説しています。
 含蓄のある語り口で、絵の魅力を教えてくれるため、知的好奇心が満たされます。

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 たとえば、冒頭のファン・アイクの「アルノルフィニ夫妻の肖像」について。
 夫が右手を胸元に上げ、左手で妻の手を取るのは、婚約の誓いの身振りだそうです。

 一見ふたりしか描かれていないように見えますが、奥の凸面鏡をよく見ると・・・
 そこには入り口にいる2人の来客が映っています。ひとりはアイク自身でしょうか。

 壁には「ヤン・ファン・アイクここにありき」と、ラテン語で書かれています。
 これはただの署名ではなく、婚約の立会人として来たことを示しているようです。

 天井から吊るされたシャンデリアには、なぜか1本しか蠟燭が灯されていません。
 実は1本だけ灯された燭台は結婚のシンボルで、「婚礼の燭台」と呼ばれています。

 凸面鏡の左にロザリオの数珠、右には聖刷毛と、宗教的シンボルが描かれています。
 刷毛の上の像は聖女マルガレーテの像で、子宝を待ち望む女性の守護神であり・・・

 私は大学生のころ、学生協で本書の旧版を購入し、絵画の見方の基本を学びました。
 あれから40年近く経ってカラー版を購入し、あのころを懐かしく思い出しました。

 さて、本書ではほかに、以下14人の14作品が紹介されています。
 ボッティチェルリ「春」      ダ・ヴィンチ「聖アンナと聖母子」
 ラファエルロ「小椅子の聖母」   デューラー「メレンコリア・Ⅰ」
 ベラスケス「宮廷の侍女たち」   レンブラント「フローラ」
 プーサン「ザビニの女たちの掠奪」 フェルメール「絵画芸術」
 ワトー「シテール島の巡礼」    ゴヤ「裸体のマハ」
 ドラクロワ「アルジェの女たち」  ターナー「国会議事堂の火災」
 クールベ「画家のアトリエ」    マネ「オリンピア」

 いずれも名画ですが、この中で特に印象に残ったのがレンブラントです。
 生前描いた4枚のフローラのうち、3枚は妻のサスキアをモデルにしています。

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 このフローラが描かれた1630年代は、富と名声に恵まれた華やかな時期でした。
 それゆえ、サスキアは豪奢なドレスを身にまとい、表情に何の憂いもありません。

 レンブラントの初期の成功は、こういう絢爛たる衣装と金銀の飾りによるものです。
 彼の絵が、オランダの黄金時代を支えた富裕な市民階級の趣味に、叶ったからです。

 1642年、「夜警」を描いていたころ、サスキアが先立って彼の人生は暗転します。
 レンブラントの内面的な表現が、しだいに人々から敬遠されるようになったのです。

 そのころ失意のレンブラントを支えたのが、後半生の伴侶のヘンドリッキエでした。
 彼女は、サスキアの遺言によって、生涯レンブラントが再婚できなかった相手です。

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 ヘンドリッキエがモデルのフローラは、白い衣装に包まれ、清楚で慎ましやかです。
 レンブラントは市民の趣味を理解していましたが、自己の表現を変えませんでした。

 「彼はまた、何の飾りもつけていないヘンドリッキエの『フローラ』の方が、豪奢な
 飾りをちりばめたサスキアの『フローラ』よりもいっそう内面的な輝きに満ちている
 ことも知っていた」(P100)

 ほか、名画を通してさまざまな謎が解明され、ミステリー小説のように面白いです。
 私もこの本によって、これまで見えなかったものが、見えてくるようになりました。

 本書には、続編「カラー版 名画を見る眼Ⅱ 印象派からピカソまで」があります。
 すでに購入済みです。ゆとりがあるときに、じっくり読みたい本です。


カラー版 名画を見る眼 Ⅱ 印象派からピカソまで (岩波新書)

カラー版 名画を見る眼 Ⅱ 印象派からピカソまで (岩波新書)

  • 作者: 高階 秀爾
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2023/07/27
  • メディア: Kindle版



 余談ですが、この本を読んで、宗教のシンボルについてもっと知りたくなりました。
 そこで、中公新書の「宗教図像学入門」を購入し、現在ちびちび読んでいます。


宗教図像学入門-十字架、神殿から仏像、怪獣まで (中公新書 2668)

宗教図像学入門-十字架、神殿から仏像、怪獣まで (中公新書 2668)

  • 作者: 中村 圭志
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2021/10/18
  • メディア: 新書



 さいごに。(高階先生、ありがとうございました)

 なお、この本を読んでいるときに、著者高階秀爾(しゅうじ)の訃報が届きました。
 10月17日、心不全とのことです。92歳でした。ご冥福をお祈りいたします。

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ナイルに死す [20世紀イギリス文学]

 「ナイルに死す」 アガサ・クリスティー作 加島祥造訳 (ハヤカワ文庫)


 ナイル川クルーズ船で富豪の娘が殺された事件を、探偵ポアロが解明する物語です。
 1937年刊行。加島訳は1977年でやや古いです。新訳の黒原訳が2020年に出ました。


ナイルに死す (クリスティー文庫)

ナイルに死す (クリスティー文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/08/01
  • メディア: Kindle版



ナイルに死す〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 15)

ナイルに死す〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 15)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/09/11
  • メディア: 文庫



 大富豪の娘で、社交界の花形であるリネット・リッジウェイが、突然結婚しました。
 相手は管理人のサイモン・ドイルで、リネットの友人ジャクリーンの婚約者でした。

 つまりリネットはその富と美貌によって、友人から婚約者を奪って結婚したのです。
 そして今、新婚旅行中のドイル夫妻の行く先々で、ジャクリーンが現れるのです。

 恐怖を感じたリネットは、同じホテルに宿泊していた名探偵ポワロに相談しました。
 ポワロはジャクリーンに同情していたので、彼女にアドバイスをしに行きました。

 「あなたの心を悪魔のために開かないで(中略)あなたが心を開けばーー悪魔が入っ
 てくるからです・・・ええ、たしかに入ってきます。入ってきて、あなたの心の中で巣
 をつくります。しばらくしたら、絶対に追い出せなくなってしまうのです」(P135)

 ドイル夫妻が乗った、ナイル川を遡るクルーズ船にも、ジャクリーンがいました。
 そしてある夜、ジャクリーンはサロンでサイモンに向かって発砲してしまいます。

 脚を砕かれたサイモンは、医者に手当され、医者の部屋で夜を明かしました。
 そしてその夜、なんと、リネットが殺されてしまったのです。

 ジャクリーンは看護婦に預けられていたので、完全なアリバイがありました。
 また、なぜか彼女のピストルが、どこかに消えていました。謎が深まります。

 同船していた者に、リネットの財産管理者がいて、彼は横領していたようで・・・
 レイス大佐が追う凶悪犯も、そして宝石泥棒も、この船の中にいるようで・・・

 580ページととても長い小説ですが、最初の発砲事件が起こるのは254ページです。
 しかし、まったく間延びしていません。さまざまな人間模様が面白いのです。

 舞台がエジプトということもあり、エキゾチックな雰囲気が醸し出されています。
 そして、ロマンティックな展開をします。ラストは、とてもドラマティックです。

 「恋って時には恐ろしいものにもなりますねえ」
 「だからこそ、有名な恋物語はほとんど悲劇に終わっているのです」(P572)

 本書は、私がこれまでに読んだクリスティ作品の中で、もっとも好きな作品です。
 世界的にも人気があり、2020年に上映された映画は話題になりました。



 ところで、この作品で私は、珍しく途中で犯人を言い当てることができました。
 ジャクリーンがストーカーできる理由を考え、P218を読んだら、はっきりしました。

 しかし、犯人が分かりながらも、「どういうこと?」と思う部分が多々ありました。
 だから、犯人の目星がついていても、最後までとても楽しめました。おススメです。

 さいごに。(あてにならないテレビの情報)

 アメリカ大統領選で、トランプ氏がハリス氏に圧勝したとき、妻は驚いていました。
 妻は、ハリス氏が接戦を制するものと信じきっていたのです。それは、なぜか?

 テレビの情報を鵜呑みにしたからです。多くの番組がハリス氏に肩入れしていました。
 一方ネットでは、トランプ圧勝を予想するものが多かった。テレビはあてにならない!

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笹まくら [日本の現代文学]

 「笹まくら」 丸谷才一 (新潮文庫)


 かつて徴兵忌避者として逃げ回っていた過去を持つ男の、苦悩を描いた物語です。
 1966年刊行。丸谷の初期の代表作です。村上春樹の本で言及されていました。


笹まくら (新潮文庫)

笹まくら (新潮文庫)

  • 作者: 才一, 丸谷
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1974/08/01
  • メディア: 文庫



 大学の事務員として働いている浜田庄吉のもとに、阿貴子の死亡通知が来ました。
 阿貴子は、浜田が徴兵忌避者として逃げ回っていたころ、助けてくれた恩人です。

 昭和15年の秋から終戦まで、20代前半の5年間、浜田は杉浦健次として生きました。
 後半2年余りの間、彼を命がけで養ってくれたのが、質屋の娘阿貴子だったのです。

 「国の権力に逆らうことに、ぼくたちは二人の情熱を献げた。ぼくは阿貴子の情熱を
 利用して生き残り、生き残ることに成功したとき、うまく彼女と別れた。」(P54)

 終戦後、徴兵忌避は罪でなくなり、浜田は父の親友の口利きで大学に職を得ました。
 幼い妻と平和に暮らしていましたが、阿貴子の死が徴兵忌避の過去を呼び戻し・・・

 「大学事務員として平和に暮らしている。何者にも追われず、ただ過去にだけ追われ
 て。過去は彼を責めつづけ、そして彼は過去を忘れようと努めながら――忘れること
 ができずに生きている。」(P52)

 浜田は、日常生活の中において突如、徴兵忌避で逃げていた過去を思い出します。
 ラジオ修理、砂絵師としての放浪、阿貴子との出会い、阿貴子との生活、別れ・・・

 「これもまたかりそめ臥しのささ枕一夜の夢の契りばかりに」
 藤原俊成の養女の歌です。「ささ枕」は、旅先でのかりそめの恋のことだそうです。

 さて、浜田庄吉はいつのまにか杉浦健次となり、不意に浜田庄吉に戻っていきます。
 あっちこっちに行き来する書き方が、不安な心理と不安定な立場を表現しています。

 若い妻の陽子がいながら、死んだ阿貴子のことを想い・・・
 課長に出世するかと思ったら、逆に左遷されそうになり・・・

 ところで、終盤の学生時代の浜田・堺・柳たちの、国家談義が面白いです。
 もしかしたら、丸谷はこの辺のことを、一番書きたかったのかもしれません。

 堺:「ぼくにはね、国家というものの目的が戦争以外にないような気がするんだ」
 浜田:「なぜ、国家の目的は戦争なんだろう?」
 堺:「戦争が最大の浪費だからじゃないか。資本家は利潤のために浪費を願うし、
   その浪費が大きければ大きいほどいい。国家は資本家のものだから」

 (現在でも、ロシア・ウクライナ戦争など、世界で悲惨な戦争が行われています。
  それをやめようとしないのは、戦争によって得をしている人がいるからでは?)

 ラストは、杉浦健次が出発する場面で終わります。この終わり方は良いです。
 今の浜田も、もう一度阿貴子を探し求めて、出発するのではないでしょうか。

 さて、私が大学時代、国文学の先生が絶賛していたのが丸谷の「輝く日の宮」です。
 当時はあまり興味を持ちませんでした。現在ぜひ読んでみたいのですが、絶版です。


輝く日の宮 (講談社文庫)

輝く日の宮 (講談社文庫)

  • 作者: 丸谷才一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/03/20
  • メディア: Kindle版



 さいごに(妻はおかんむり)

 トランプ氏がハリス氏に圧勝し、ハリス推しだった妻は最近ずっと不機嫌です。
 だから、トランプ派の私はあまり喜べません。妻に八つ当たりされるので。

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新版 日本国紀3 [哲学・歴史・芸術]

 「新版 日本国紀(下)」 百田尚樹 (幻冬舎文庫)


 縄文時代から現代までを一本の糸でつないだ壮大な物語の、明治維新以後の巻です。
 2018年刊行。「日本国紀」についてすでに2回紹介しました。今回が最終回です。


[新版]日本国紀〈下〉 (幻冬舎文庫)

[新版]日本国紀〈下〉 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 百田 尚樹
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2021/11/17
  • メディア: 文庫



 昭和7年の五・一五事件、11年の二・二六事件で、軍が政治の主導権を握りました。
 中国では日本人に対する襲撃が増え、12年から中華民国軍と戦闘状態に入りました。

 つまり、実質上の戦争は、昭和12年(1937年)の支那事変から始まっていたのです。
 そして、昭和16年(1941年)、真珠湾攻撃によって大東亜戦争が始まりました。

 この戦争には、日本を指導者とする大東亜共栄圏を作るという、理想がありました。
 そのため、アジアを植民地支配していた欧米諸国を、排斥する必要があったのです。

 しかし軍は、戦争が生産や輸送も含めた総力戦であることを、理解しませんでした。
 せっかく油田を奪っても、日本に輸送できなかったため、日本は窮境に陥りました。

 昭和20年3月には、東京大空襲によって10万人以上の非戦闘員が無残に殺され・・・
 その年の8月には、原子爆弾の投下によって、広島と長崎が一瞬で焼け野原に・・・

 どんなにアメリカ人が、「原爆投下は正しかった」と言っても、詭弁にすぎません。
 どう考えてみても、何十万人もの人間を、無差別に殺していいはずがありません。

 それができてしまったのは、日本人を人間とはみなしていなかったからです。
 そこには、有色人種に対する根強い差別が見られます。白人種特有の偏見です。

 昭和19年にN.Y.で、ルーズベルト大統領とチャーチル英首相が協定を結びました。
 そこで、原爆はドイツではなく日本に投下すると確認したのだそうです。(P241)

 さて、アメリカ以上に許しがたいのは、日本にいながら日本を傷つけた者たちです。
 その筆頭が、朝日新聞の本多勝一。彼の書いた「南京大虐殺」がいかにデタラメか!

 南京大虐殺は、蒋介石がでっち上げて、証拠写真まで捏造して広めたもので・・・
 本多のいいかげんな記事が、のちに中国政府によって外交カードとされて・・・

 その他朝日は、朝鮮人従軍慰安婦の嘘を広め、首相の靖国神社参拝を非難しました。
 いずれも中国や韓国によって外交上の問題にされ、日本の国益を著しく損ねました。

 日本にいながら、嘘によって日本を貶めようとするのは、どういうわけでしょうか。
 ほんの短い期間でしたが、朝日新聞を読んでいた自分の愚かさが、身に沁みます。

 一方、昭和天皇が戦争終結のため下した痛ましい決断は、あまり知られていません。
 P242からのコラムは、涙なしには読めません。ぜひ歴史教科書に載せてほしいです。

 「自分の任務は祖先から受けついだこの日本を子孫に伝えることである。今日となっ
 ては、一人でも多くの日本人に生き残っていてもらい、その人たちが将来再び起ち上
 がってもらう以外に、この日本を子孫に伝える方法はないと思う。そのためなら、自
 分はどうなっても構わない」(P245)

 私たちが、このような歴史を経て存在するのだと考えると、感動が湧きおこります。
 日本という国を、みんなで大事にしていこう、そのためには平和な世の中を・・・

 このほか、書きたいことはまだまだあります。
 たとえば、GHQによって、押し付けられた憲法・・・
 たとえば、国のために亡くなった人々を祭る靖国神社・・・
 そして何といっても、教職追放によって、押し進められた自虐史観・・・

 「国旗と国歌を堂々と否定する文化人が持て囃される国は、世界広しといえど日本だ
 けでしょう。」(P307)

 さいごに。(35年前の君が代問題)

 私が社会に出たばかりのころ、君が代問題というのがありました。
 学校の式典で君が代を歌うとき、起立もせず歌いもしない教員が多数出た問題です。

 彼らには、国を愛する心や、あたたかい心があるようには見えませんでした。
 そんな情けない人間に教壇に立ってもらいたくないものだ、と当時思ったものです。

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