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恩讐の彼方に [日本の近代文学]

 「藤十郎の恋・恩讐の彼方に」 菊池寛 (新潮文庫)


 タイトル作など、菊池寛の初期の作品中、歴史モノの傑作を10編収録した短編集です。
 菊池は「文藝春秋」を創刊し、芥川とは親友で、芥川賞を作ったことでも有名です。


藤十郎の恋・恩讐の彼方に (新潮文庫)

藤十郎の恋・恩讐の彼方に (新潮文庫)

  • 作者: 菊池 寛
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1970/03/27
  • メディア: 文庫



 菊池寛と言ったら、何といっても「恩讐の彼方に」ですよ!
 これは、日本国民全員に読んでほしい。全高校生の必読書に指定してほしいです。

 市九郎は、愛妾と通じて殺されるべきところを、逆に主人を殺してしまいました。
 愛妾と逃げて強盗を働くようになりましたが、自分の罪を悔いるようになります。

 一転して仏道に帰依し旅に出て、鎖渡しという難所で犠牲になった死者を見ました。
 そして、二百間以上ある大絶壁を、自分一人の力でくり抜こうと決意したのです。

 初め市九郎を笑っていた村人たちは、一年二年とたつうちに・・・
 そして19年たったとき、市九郎の前に突然現れたのは・・・

 「敵は、父を殺した罪の懺悔に、身心を粉に砕いて、半生を苦しみ抜いている。しか
 も、自分が一度名乗りかけると、唯々として、命を捨てようとしているのである。か
 かる半死の老僧の命を取ることが、何の復讐であるか」(P110)

 敵とは何か? 復讐とは何か? 人は過去の過ちを正すことができるのか?
 さまざまなことを考えさせられます。道徳の教科書にも出ているそうです。

 「藤十郎の恋」も、有名な物語です。
 坂田藤十郎が近松門左衛門から与えられた狂言は、命がけの恋を描いたものでした。

 しかし、そのような恋をしたことのない藤十郎は、どう演じていいか分かりません。
 そこで彼が思い立ったことは・・・その結果、ある悲劇が・・・

 「忠直卿行状記」もまた、とても考えさせられる物語です。
 槍術の大仕合で家来を次々と破った忠直卿は、偶然意外な言葉を立ち聞きしました。

 忠直が真槍で勝負したところ、罪を自覚していた家来たちはどうしたか?
 傷を負って屋敷に運ばれた彼らは、そのあとどうしたか?

 「忠直卿は、つくづく考えた。自分と彼等との間には、虚偽の膜が、かかっている。
 その膜を、その偽(いつわり)の膜を彼等は必死になって支えているのだ。その偽は、
 浮ついた偽でなく、必死の懸命の偽である。」(P56)

 こういう文章を書かせたら、菊池寛は抜群にうまいです。
 非常に練られた文章が、物語の完成度をぐっと上げています。

 「形」はわずか4ページ足らずの小品ですが、鮮烈な印象を残します。
 槍の名人中村は、自身の猩々緋の羽織を、若い武士の初陣に貸してやります。

 「あの羽織や兜は、申さば中村新兵衛の形じゃわ。」
 若武者の初陣は成功しますが、しかし、猩々緋を貸した中村は・・・

 さて、「恩讐の彼方に」が書かれたのが、大正8年でした。
 その翌年の大正9年には「真珠夫人」が書かれました。ギャップが大きすぎる。


真珠夫人 (文春文庫)

真珠夫人 (文春文庫)

  • 作者: 菊池 寛
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2002/08/02
  • メディア: 文庫



 さいごに。(電卓じゃないって)

 私がついこのあいだまで使っていたケータイは、AUのsportioというガラケーです。
 「お洒落な電卓ですね」とよく言われました。・・・電卓じゃないし。ガラケーだし。

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