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大統領閣下 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「大統領閣下」 アストリアス作 内田吉彦・吉田榮一訳 (集英社・世界文学全集)


 大統領の腹心の恋愛を中心に、秘密警察を使った恐怖政治を描いた独裁者小説です。
 「グアテマラ伝説集」の作者が、帰国後、独裁制下での経験をもとに描いています。


世界文学全集〈82〉アストリアス.オネッティ (1981年)大統領閣下 はかない人生

世界文学全集〈82〉アストリアス.オネッティ (1981年)大統領閣下 はかない人生

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2020/03/02
  • メディア: -



 アンヘルは、カナレス将軍が逮捕される前に、彼を逃亡させるように命令されました。
 それは将軍に対する罠。無実の将軍が逃げたところを、警察が射殺するのが目的です。

 ところが、将軍の娘カミラに恋していたアンヘルは、将軍を逃げのびさせたのです。
 また、アンヘルはどさくさにまぎれてカミラを手中に収め、彼女をかくまいました。

 やがて大統領は、アンヘルが自分の敵の娘と結婚したことを知ると・・・
 そしてアンヘルは、大統領からワシントンへ行くよう命令が出されましたが・・・

 主人公は、大統領の全幅の信頼を得ている腹心、ミゲル・カラ・デ・アンヘルです。
 「魔王(サタン)のように美しく、また悪辣でもあった」というのが、決まり文句。

 サタンのように悪辣に冷酷に振舞っていた間は、大統領から寵愛されていました。
 しかし恋に落ち、サタンらしからぬ同情心を持ち始めてから、転落が始まり・・・

 ちなみに作者は、ミゲル・アンヘル・アストゥリアス。
 物語のアンヘルは作者の分身です。実際この小説は、体験をもとに描かれています。

 アストゥリアスは、パリで「グアテマラ伝説集」を成功させたあと、帰国しました。
 そして、帰国後に路線を変えて、独裁者小説「大統領閣下」に取り組み始めました。

 彼の父は、独裁者エストラーダ・カブレラににらまれて、判事の職を追われました。
 そして彼自身は、その後の軍事政権ににらまれたため、パリに脱出したのでした。

 この物語には、独裁政権がいかに人々を圧迫していたかが、具体的に描かれています。
 賄賂、ごますり、暴力、略奪。それを支える秘密警察、張り巡らされたスパイ網・・・

 しかし、最も恐ろしいのは、大統領が何を考えているのかさっぱり分からない点です。
 決して表舞台に現れず、陰で人々を操っている。こういう人物が、一番タチが悪い!

 さて、アストゥリアスが始めた「魔術的リアリズム」は、この作品でも生きています。
 大事な場面で突然、呪術師やら霊媒師やら得体のしれない人物が、登場するのです。

 たとえば、アンヘルが最後の特命を受けた直後、いきなり呪術師らが踊り出します。
 そこに何かの兆しを見たカミラ。しかし、アンヘルはそのまま旅立ち・・・

 「大統領閣下」が出たのは1946年です。書かれたのはさらに20年ほど遡るようです。
 1970年代になって「族長の秋」などが出たとき、独裁者小説はピークを迎えます。

 そう考えるとアストゥリアスは、独裁者小説においても、先駆的役割を果たしました。
 しかも、「族長の秋」に比べてずっと読みやすくて面白いです。文庫化を期待します。

 さいごに。(ヲタ活)

 休校が続き、ほぼそのまま春休みに突入。部活も禁止で、娘に久々に暇ができました。
 娘はTVばかり見ています。「押し」が出ている番組が、たっぷり録画してあるので。

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