大統領閣下 [20世紀ラテンアメリカ文学]
「大統領閣下」 アストリアス作 内田吉彦・吉田榮一訳 (集英社・世界文学全集)
大統領の腹心の恋愛を中心に、秘密警察を使った恐怖政治を描いた独裁者小説です。
「グアテマラ伝説集」の作者が、帰国後、独裁制下での経験をもとに描いています。
アンヘルは、カナレス将軍が逮捕される前に、彼を逃亡させるように命令されました。
それは将軍に対する罠。無実の将軍が逃げたところを、警察が射殺するのが目的です。
ところが、将軍の娘カミラに恋していたアンヘルは、将軍を逃げのびさせたのです。
また、アンヘルはどさくさにまぎれてカミラを手中に収め、彼女をかくまいました。
やがて大統領は、アンヘルが自分の敵の娘と結婚したことを知ると・・・
そしてアンヘルは、大統領からワシントンへ行くよう命令が出されましたが・・・
主人公は、大統領の全幅の信頼を得ている腹心、ミゲル・カラ・デ・アンヘルです。
「魔王(サタン)のように美しく、また悪辣でもあった」というのが、決まり文句。
サタンのように悪辣に冷酷に振舞っていた間は、大統領から寵愛されていました。
しかし恋に落ち、サタンらしからぬ同情心を持ち始めてから、転落が始まり・・・
ちなみに作者は、ミゲル・アンヘル・アストゥリアス。
物語のアンヘルは作者の分身です。実際この小説は、体験をもとに描かれています。
アストゥリアスは、パリで「グアテマラ伝説集」を成功させたあと、帰国しました。
そして、帰国後に路線を変えて、独裁者小説「大統領閣下」に取り組み始めました。
彼の父は、独裁者エストラーダ・カブレラににらまれて、判事の職を追われました。
そして彼自身は、その後の軍事政権ににらまれたため、パリに脱出したのでした。
この物語には、独裁政権がいかに人々を圧迫していたかが、具体的に描かれています。
賄賂、ごますり、暴力、略奪。それを支える秘密警察、張り巡らされたスパイ網・・・
しかし、最も恐ろしいのは、大統領が何を考えているのかさっぱり分からない点です。
決して表舞台に現れず、陰で人々を操っている。こういう人物が、一番タチが悪い!
さて、アストゥリアスが始めた「魔術的リアリズム」は、この作品でも生きています。
大事な場面で突然、呪術師やら霊媒師やら得体のしれない人物が、登場するのです。
たとえば、アンヘルが最後の特命を受けた直後、いきなり呪術師らが踊り出します。
そこに何かの兆しを見たカミラ。しかし、アンヘルはそのまま旅立ち・・・
「大統領閣下」が出たのは1946年です。書かれたのはさらに20年ほど遡るようです。
1970年代になって「族長の秋」などが出たとき、独裁者小説はピークを迎えます。
そう考えるとアストゥリアスは、独裁者小説においても、先駆的役割を果たしました。
しかも、「族長の秋」に比べてずっと読みやすくて面白いです。文庫化を期待します。
さいごに。(ヲタ活)
休校が続き、ほぼそのまま春休みに突入。部活も禁止で、娘に久々に暇ができました。
娘はTVばかり見ています。「押し」が出ている番組が、たっぷり録画してあるので。
大統領の腹心の恋愛を中心に、秘密警察を使った恐怖政治を描いた独裁者小説です。
「グアテマラ伝説集」の作者が、帰国後、独裁制下での経験をもとに描いています。
世界文学全集〈82〉アストリアス.オネッティ (1981年)大統領閣下 はかない人生
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2020/03/02
- メディア: -
アンヘルは、カナレス将軍が逮捕される前に、彼を逃亡させるように命令されました。
それは将軍に対する罠。無実の将軍が逃げたところを、警察が射殺するのが目的です。
ところが、将軍の娘カミラに恋していたアンヘルは、将軍を逃げのびさせたのです。
また、アンヘルはどさくさにまぎれてカミラを手中に収め、彼女をかくまいました。
やがて大統領は、アンヘルが自分の敵の娘と結婚したことを知ると・・・
そしてアンヘルは、大統領からワシントンへ行くよう命令が出されましたが・・・
主人公は、大統領の全幅の信頼を得ている腹心、ミゲル・カラ・デ・アンヘルです。
「魔王(サタン)のように美しく、また悪辣でもあった」というのが、決まり文句。
サタンのように悪辣に冷酷に振舞っていた間は、大統領から寵愛されていました。
しかし恋に落ち、サタンらしからぬ同情心を持ち始めてから、転落が始まり・・・
ちなみに作者は、ミゲル・アンヘル・アストゥリアス。
物語のアンヘルは作者の分身です。実際この小説は、体験をもとに描かれています。
アストゥリアスは、パリで「グアテマラ伝説集」を成功させたあと、帰国しました。
そして、帰国後に路線を変えて、独裁者小説「大統領閣下」に取り組み始めました。
彼の父は、独裁者エストラーダ・カブレラににらまれて、判事の職を追われました。
そして彼自身は、その後の軍事政権ににらまれたため、パリに脱出したのでした。
この物語には、独裁政権がいかに人々を圧迫していたかが、具体的に描かれています。
賄賂、ごますり、暴力、略奪。それを支える秘密警察、張り巡らされたスパイ網・・・
しかし、最も恐ろしいのは、大統領が何を考えているのかさっぱり分からない点です。
決して表舞台に現れず、陰で人々を操っている。こういう人物が、一番タチが悪い!
さて、アストゥリアスが始めた「魔術的リアリズム」は、この作品でも生きています。
大事な場面で突然、呪術師やら霊媒師やら得体のしれない人物が、登場するのです。
たとえば、アンヘルが最後の特命を受けた直後、いきなり呪術師らが踊り出します。
そこに何かの兆しを見たカミラ。しかし、アンヘルはそのまま旅立ち・・・
「大統領閣下」が出たのは1946年です。書かれたのはさらに20年ほど遡るようです。
1970年代になって「族長の秋」などが出たとき、独裁者小説はピークを迎えます。
そう考えるとアストゥリアスは、独裁者小説においても、先駆的役割を果たしました。
しかも、「族長の秋」に比べてずっと読みやすくて面白いです。文庫化を期待します。
さいごに。(ヲタ活)
休校が続き、ほぼそのまま春休みに突入。部活も禁止で、娘に久々に暇ができました。
娘はTVばかり見ています。「押し」が出ている番組が、たっぷり録画してあるので。
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