SSブログ

大地(四) [20世紀アメリカ文学]

 「大地(四)」 パール・バック作 小野寺健訳 (岩波文庫)


 激動の時代の流れに翻弄されながら生きてゆく、王家三代目の男女の物語です。
 「第三部 崩壊した家」の続きで、王虎の息子である王元を中心に描いています。


大地 (4) (岩波文庫)

大地 (4) (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1997/04/16
  • メディア: 文庫



 結婚を強要する父王虎に嫌気がさし、王元(ワン・ユアン)は革命党に入りました。
 しかし、革命党狩りで逮捕されたとき、彼は父の集めた金によって釈放されたのです。

 混乱する故国を離れ、王元はアメリカに留学し、さまざまな新しい技術を学びました。
 そして、6年ぶりに帰郷してみると、父も国もすっかり変わり果てた姿で・・・

 息子の帰郷を喜ぶ老父、父の苦労に初めて気付く王元。再会シーンは感動的でした。
 「いいか倅、お前がいやなことをする必要はないのだ」と言う、父の悲しい妄想・・・

 第四巻は、革命の前後の中国を具体的に描いていて、最も興味深い巻となっています。
 愛と裏切り、逮捕と釈放、国外逃亡、旧勢力の没落、革命軍の堕落、故国の荒廃・・・

 作者パール・バックは、宣教師である父の中国赴任で、17歳まで中国で育ちました。
 当時の中国の様子をこれだけ克明に描けたのは、自身の体験と見聞があったからです。

 「ぼくらの国の人間は、まだ夜だ、世界じゅうどこにも起きている人間はいないと思っ
 て、カーテンをしめたまま眠っていた。ところが、世界はとうの昔に朝になっていたの
 だ。そして、外国人はみんな起きて働いていたのだ・・・」(P94)

 これが、作者にとっての中国社会の素直な感想ではないでしょうか。
 また、アメリカの大地についての指摘に、作者独特の「大地」観が見られます。

 「この国の大地は新しく、人間の骨が埋まっていない。そのために人間のものになっ
 ていない。この新しい民族にはまだ死んだものの数が少なく、彼の祖国の土とはちが
 って人間の肉体の精髄がじゅうぶんしみこんでいないのだ。」(P69)

 こういう表現は、実際に農業に携わってみないと生まれてこないものだと思います。
 パールの最初の夫が、農業経済の学者だったということが、生きているのでしょうか。

 さて、これで「大地」全四巻を読み終わりました。三代にわたる壮大な物語でした。
 すばらしい作品でした。おそらく今年読んだ本のベスト5に入ると思います。

 中でも圧倒的にすばらしかったのが、初代を描いた第一巻、「第一部 大地」です。
 王龍(ワン・ルン)と阿蘭(オラン)の物語は、英雄叙事詩のように思われました。

 全巻読んで良かったと思いますが、読み返すとしたら第一巻だけかもしれません。
 私の中では、第一巻だけは、他の巻とまったく別の物語のような気がするのです。

 それもすべて、阿蘭というたぐいまれな女性が登場するからです。
 巻末の解説に、次のような指摘を見つけたとき、「我が意を得たり」と思いました。

 「なかでも、しゃにむに生きていく王龍の陰にいる忍従の女、阿蘭の像が、王龍以上
 に感動的であることには、誰も異論がないだろう。彼ら夫婦の生涯を描いた第一部は、
 それだけでじゅうぶんに完結した一種の神話だと言える。」(P406)

 ところで「ノーベル賞作家が書いた三代にわたる物語」は、もう一つ傑作があります。
 スタインベックの「エデンの東」です。これも絶対に読まなくては!


エデンの東 新訳版 (1) (ハヤカワepi文庫)

エデンの東 新訳版 (1) (ハヤカワepi文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2008/01/24
  • メディア: 文庫



 さいごに。(今年も「不二家」延期)

 私の誕生日には、不二家で「ケーキ4つセット」を食べることになっています。
 そのために、40キロ離れた町の不二家へ、家族3人で行くのが恒例となっています。

 ところが、昨年はコロナのため中止。そして今年もコロナのため中止。
 ショックです。これが私にとって、もっとも楽しみな家族行事なので。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。