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楡の木陰の欲望 [20世紀アメリカ文学]

 「楡の木陰の欲望」 ユージン・オニール作 井上宗次訳 (岩波文庫)


 楡の木陰に立つ家の息子と若き後妻の、禁断の愛と悲劇を描いた傑作戯曲です。
 作者オニールは、アメリカ近代劇の創始者として知られています。


楡の木陰の欲望 (岩波文庫 赤 325-1)

楡の木陰の欲望 (岩波文庫 赤 325-1)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1974/01/01
  • メディア: 文庫



 行方不明だった75歳の父親が、いきなり35歳の後妻を伴って家に帰ってきました。
 農場が後妻のものになると考えた二人の兄は出て行き、三男のエビンは残りました。

 初めてエビンと会った日、後妻のアビーは、財産目当ての結婚だったと言いました。
 エビンはそんなアビーを憎みながらも、アビーに肉感的な魅力を感じていました。

 ある日二人は、エビンの亡き母の部屋で愛し合い、やがて子どもが生まれました。
 事情を知らない老父キャボットは、それを我が子だと思い祝宴を開きましたが・・・

 子の誕生で農場を手にしたアビーは、しかしエビンを本気で愛してしまっていました。
 アビーはどのような行動に出たか? そしてエビンはどのような行動に出たか?

 とても衝撃的な戯曲でした。
 特に、第三部の展開に驚きました。私はもっと穏やかな結末を想像していたので。

 この戯曲には、どこかホラーっぽいところがあります。
 不気味な雰囲気を醸し出しているのが、エビンの亡くなった母の面影です。

 アビー:さっき初めてはいって来たとき—暗がりの中に—何かいるような気がしたわ。
 エビン:おふくろだよ。
 アビー:まだいるような気がするわ—何か・・・
 エビン:おふくろだよ。(P88)

 エビン:墓の中へ帰って行ったのがわからなかったのか?
 キャボット:誰がよ?
 エビン:おふくろだよ。おふくろは、こんどこそ休める。そして安心して眠れるんだ。
 (P97)

 そして、エビンの亡くなった母を象徴しているのが、家を覆うように立つ楡の木です。
 冒頭部で、楡の木を「不気味な母性」と呼び、次のように描写しています。

 「重苦しく家をおおっている様子は、ちょうど疲れきった女が、たるんだ乳房と両手
 と髪の毛を屋根の上にやすませているようである。」(P7)

 この物語の悲劇は、エビンの死んだ母親の呪いによって、もたらされたのでは?
 楡の木に宿る霊が、計画的に二人を破滅に導いたのでは?

 さて、この劇を味わい深くしているのが、老父キャボットの存在です。
 ある意味、道化的な存在ですが、所々で印象深い言葉を吐いています。

 「ここは石っころだらけの原っぱで、わしがここを買ったら、みんなぁ笑った
 よ。やつらにゃわしの思わくがわからなかったんだ。石っころの中から麦の芽
 を出せたら、その人間の中にゃ神さまが宿ってるんだ!」(P78)

 ユージン・オニールには、ほかに「奇妙な幕間狂言」がありますが、絶版です。
 「喪服のエレクトラ」も絶版。この3作は、文庫で手に入るようにしてほしい。

 さいごに。(ケーキ2個)

 私のバースデイ・ケーキは、シャトレーゼでカットケーキ2個ずつとなりました。
 来年は、不二家のケーキ・バイキングに挑戦したい。サバラン10個食べてやる!

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