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火の路2 [日本の現代文学]

 「火の路 下」 松本清張 (文春文庫)


 若き古代史学者の女性が、古代飛鳥の石造物とペルシア文明との関係を探る物語です。
 作者の古代史ミステリーの代表作であり、朝日新聞連載時から話題となりました。


新装版 火の路 (下) 長篇ミステリー傑作選 (文春文庫)

新装版 火の路 (下) 長篇ミステリー傑作選 (文春文庫)

  • 作者: 松本 清張
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/07/10
  • メディア: 文庫



 高須通子はイランへ旅立ち、ゾロアスター教に関わる名所旧跡を巡りました。
 聖地イェズドで沈黙の塔と拝火神殿を見ると、さまざまな思いが湧きおこりました。

 神の使徒としてのカラス、太陽のモチーフ、結びの呪術、密教とゾロアスター教、
 拝火儀式と護摩焚き、修験道の験術と幻術、アマテラスとアフラ・マズダ・・・

 一方カメラマンの坂根要助は、通子に頼まれて飛鳥の益田岩船を訪れました。
 その後、横穴古墳群で盗掘の穴を発見して、さまざまな疑惑が湧きおこりました。

 盗掘者と骨董屋の関係、美術館の佐田と偽物事件の関係、佐田追い落としの陰謀、
 海津信六と増田亮子の関係、海津と姪の倶子、海津がT大を追われた理由・・・

 やがて、高須通子の論文「飛鳥文化のイラン的要素」が雑誌「史脈」に載り・・・
 その後、海津が姿を消した理由は? 倶子はなぜ自殺を? 村岡は本当に事故死か? 

 坂根の推理で少しずつ真相が明かされるラスト100ページは、怒濤の展開でした。
 それにしても痛ましい最後でした。

 さて、前回も書きましたが、この作品の魅力は、清張の蘊蓄が随所で聞ける点です。
 たとえば、法輪も日輪から来たのではないかなど、衝撃的仮説がさりげなく出ます。

 「古代ペルシア地方のミトラ信仰(太陽崇拝)が、紀元前二、一世紀のインド(シュ
 ンガ王朝時代)仏教美術に、日輪を法輪に転化させたと考えられる。法輪は、太陽の
 ごとく回転していく。」(P212)

 また、相変わらず、学界に対する批判的なぼやきが、随所で聞かれます。
 そして、高須通子こそ作者の分身であり、理想を体現する存在でした。

 「細分化も深化もけっこうですが、大局にはまったく関係のない、センチ・ミリ単位
 で測るような計画主義の考古学やそれに類似する歴史学ばかりに耽っているようにみ
 えるのは、どうですかね。(中略)まあ、微視的なことばかりやっていれば、だれか
 らも批判を受けることなく、無難なことはたしかですけれどね」(P343)

 今のところ「火の路」は、松本清張作品のマイ・ベストです。
 といっても、彼の作品をまだそれほど読んだわけではありませんが。

 「砂の器」1 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2019-05-08
      2 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2019-05-11
 「ゼロの焦点」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2018-10-10
 「点と線」  → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2018-03-27

 次は、「100分de名著」で高く評価されていた「神々の乱心」を読んでみたいです。
 ただし、未完というのが少し残念なのですが。


神々の乱心 上 (文春文庫)

神々の乱心 上 (文春文庫)

  • 作者: 松本 清張
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2000/01/10
  • メディア: 文庫



 さいごに。(奈良への思い)

 私の若いころの趣味は、陸上を除くと、登山と仏像巡りでした。
 結婚してからも山には登りました。妻も登山が好きだったので。

 しかし、結婚してからこれまで20年間、奈良には一度も行っていません。
 妻は仏像巡りには付き合ってくれなかったので。退職したら一人で行くぞ!

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