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夢の丘 [20世紀イギリス文学]

 「夢の丘」 アーサー・マッケン作 平井呈一訳 (創元推理文庫)


 作家志望で妄想癖のある青年ルシアンの、魂の遍歴を描いた半自伝的な小説です。 
 平井呈一の名訳です。2021年に復刊されました。新カバーはオシャレです。


夢の丘 (創元推理文庫)

夢の丘 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1984/09/26
  • メディア: 文庫



 主人公のルシアンは、ある田舎の牧師館のひとり息子です。
 12歳のときに丘の麓で見た夕焼け空が、脳裡に焼き付いて離れませんでした。

 「真紅の色は空一面を領するにつれて、大地と大地の上にあるものを染めつくし、灰
 色の枯野や枯山までがことごとく茜色になり、水溜りも貯水池も溶けた真鍮になり、
 田圃道までがギンギラに輝いた。ルシアンは、夕焼けの真紅の魔術の前に、ほとほと
 仰天するほどの驚嘆に打たれた。」(P10)

 そのころはまだ母が生きていて、家に帰って来たルシアンを温かく迎え入れました。
 ルシアンは、このときの幸せな日々を、生涯かけて追い求めていたようなのです。

 やがて母が亡くなり、父親と二人だけで、質素な暮らしを営むようになりました。
 17歳のとき、学資が払えなくなって学校を中退し、作家を志すようになりました。

 あるとき、近道をしようとして道に迷い、そこで再び幻想的な夕空を見ました。
 そのあとの闇の中でアニーとたまたま会い、月光のもとで彼女にキスをして・・・

 と、いくつもの幻想的で美しい場面が重ねられ、物語は夢のように進行します。
 時に、ルシアンの妄想なのか、それとも現実なのか、判断に迷う場面もありました。

 特にⅦ章は、妄想が妄想を呼び、何がなんだかよく分からなくなっています。
 これは、狂気に陥ったルシアンの、頭の中の世界を描いているのでしょうか。

 「琥珀の小像」という小編の成功も、ルシアンの妄想のひとつなのですよね?
 実際は、読めない字でわけの分からないことを書いていた、ということですよね?

 さて、アーサー・マッケンには「パンの大神」という問題作があります。
 ちくま文庫の「恐怖」に平井訳が収録されています。ぜひ読みたいです。


恐怖 (創元推理文庫 F マ 1-3)

恐怖 (創元推理文庫 F マ 1-3)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/05/19
  • メディア: 文庫



 さいごに。(某高校の先生によると)

 今年の1年生から科目が変わり、さらに成績の付け方も変わりました。
 観点別評価で成績を付けることになり、以前の3倍の労力が必要だと言います。

 しかも、「無意味なことをやっている感」がハンパない、のだそうです。
 私たち親も、5段階の数値だけ分かれば充分。観点別評価なんて、見ないって!

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