息子と恋人2 [20世紀イギリス文学]
「息子と恋人」 D・H・ロレンス作 小野寺健・武藤浩史訳 (ちくま文庫)
母親との密着度の高い青年が、親子関係や恋を通して成長する姿を描いた小説です。
前回第一部を紹介しました。今回は第二部の前半を紹介します。
「息子と恋人1」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-07-16
次男のポールは繊細な子供で、事務員として働きながら、時々絵を描いていました。
長男のウィリアムの死後、ポールは母ガートルードの愛を一身に受けて育ちました。
あるときポールは母と一緒にリーヴァース家の農場を訪れ、温かく迎えられました。
リーヴァース家の長男エドガーとは親友となり、たびたび訪れるようになりました。
やがてポールは、ひとつ年下の娘ミリアムに、精神的に惹かれるようになりました。
純情なふたりは一緒に話をするうちに、プラトニックな愛を育むようになりました。
ところがガートルードは、ミリアムがポールの心を捉えていることにいら立ち・・・
そしてポールは、あからさまにミリアムを嫌う母親に対していら立ち・・・
さて、第二部に入り物語はがらっと変わりました。まるで別の物語です。
第二部は、第一部の続きというよりも、「息子と恋人」の「続編」という感じです。
第一部は、母であるガートルードが主役でした。(私は母の視点で読みました。)
主題は、「手塩にかけて育てた長男を、小娘に奪われた母親の悲劇」でした。
ところが第二部は、次男ポールが主役です。(私はポールの視点で読みました。)
主題は、「母の愛に縛られているために、恋を犠牲にした息子の悲劇」です。
第一部ではガートルードに同情しましたが、第二部では彼女を憎悪したくなります。
ポールだけは、いつまでも自分の近くに置いておきたいようです。まさに毒親です。
「あなたは幸せにならなくちゃいけないの」とか言っていますが、笑えました。
あんたがポールを不幸にしているんだよ、と誰かが教えてあげなくてはいけません。
ガートルードがミリアムを嫌うのは、嫉妬以外の何ものでもありません。
そして、母に逆らえず、「僕は結婚しない」とか言うポールも、実にふがいない!
ところで、ここで「息子と恋人」というタイトルのもう一つの意味が分かりました。
今さらながらですが、「息子であり、恋人でもある」という意味が含まれています。
ポールは、そして長男のウィリアムも、母ガートルードにとって、恋人でした。
夫を諦めた彼女は、まるで恋人にすがるかのように、息子たちにすがっています。
だから、ガートルードは、露骨にミリアムとポールの取り合いをするのでしょう。
ウィリアムをリリーに取られたので、ポールに対する執着心はとても強いのです。
そういうわけで、ポールは母親に支配された男です。いや、「男の子」です。
そういう乳離れしていない男子を好きになってしまった点が、ミリアムの不幸です。
と、ダメダメなポールですが、不思議なことにまったく憎めません。
彼の優柔不断さと、優しさからくる身勝手さは、むしろかわいく感じてしまいます。
ところで、ポールが自分の絵についてミリアムに話す、印象的な場面があります。
ふたりが出会って間もなくのころ、ポールが描いた絵について説明しました。
「葉っぱの中や至るところに、ゆれてやまない命の原形質を描きこんだみたいだろ。
(中略)このゆらめきこそが、ほんとうの生だ。形はぬけがらだ。本当は、ゆらめ
きが中にあるんだ。」(P297)
その「ゆらめき」や「命の原形質」ってやつが、ポールには足りないのではないか?
母親に魂をぎゅっとつかまれているポールは、形だけのぬけがらなのではないか?
さて、第二部に入っても、文章はまったくだれません。
特に、ポールとミリアムが一緒にいる場面は、印象的な表現で描かれています。
「砂丘の向こうから、海のささやきが聞こえた。二人は黙って歩いた。突然、彼がぴ
くっとした。全身の血が燃えあがる思いで、ほとんど息ができなくなった。巨大な橙
色の月が、砂丘の縁から二人を見つめていた。彼はそれに気づいて、立ちつくした。」
(P352)
現在、500ページほどまで読みました。この本は、なんと800ページ近くあります。
次回は第二部の後半を紹介します。
さいごに。(サニブラウン決勝進出)
世界陸上で、サニブラウンが初めて100mの決勝に残りました。歴史を変えました!
結果は7位でしたが、世界を相手に充分戦えることを証明してくれました。
母親との密着度の高い青年が、親子関係や恋を通して成長する姿を描いた小説です。
前回第一部を紹介しました。今回は第二部の前半を紹介します。
「息子と恋人1」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-07-16
次男のポールは繊細な子供で、事務員として働きながら、時々絵を描いていました。
長男のウィリアムの死後、ポールは母ガートルードの愛を一身に受けて育ちました。
あるときポールは母と一緒にリーヴァース家の農場を訪れ、温かく迎えられました。
リーヴァース家の長男エドガーとは親友となり、たびたび訪れるようになりました。
やがてポールは、ひとつ年下の娘ミリアムに、精神的に惹かれるようになりました。
純情なふたりは一緒に話をするうちに、プラトニックな愛を育むようになりました。
ところがガートルードは、ミリアムがポールの心を捉えていることにいら立ち・・・
そしてポールは、あからさまにミリアムを嫌う母親に対していら立ち・・・
さて、第二部に入り物語はがらっと変わりました。まるで別の物語です。
第二部は、第一部の続きというよりも、「息子と恋人」の「続編」という感じです。
第一部は、母であるガートルードが主役でした。(私は母の視点で読みました。)
主題は、「手塩にかけて育てた長男を、小娘に奪われた母親の悲劇」でした。
ところが第二部は、次男ポールが主役です。(私はポールの視点で読みました。)
主題は、「母の愛に縛られているために、恋を犠牲にした息子の悲劇」です。
第一部ではガートルードに同情しましたが、第二部では彼女を憎悪したくなります。
ポールだけは、いつまでも自分の近くに置いておきたいようです。まさに毒親です。
「あなたは幸せにならなくちゃいけないの」とか言っていますが、笑えました。
あんたがポールを不幸にしているんだよ、と誰かが教えてあげなくてはいけません。
ガートルードがミリアムを嫌うのは、嫉妬以外の何ものでもありません。
そして、母に逆らえず、「僕は結婚しない」とか言うポールも、実にふがいない!
ところで、ここで「息子と恋人」というタイトルのもう一つの意味が分かりました。
今さらながらですが、「息子であり、恋人でもある」という意味が含まれています。
ポールは、そして長男のウィリアムも、母ガートルードにとって、恋人でした。
夫を諦めた彼女は、まるで恋人にすがるかのように、息子たちにすがっています。
だから、ガートルードは、露骨にミリアムとポールの取り合いをするのでしょう。
ウィリアムをリリーに取られたので、ポールに対する執着心はとても強いのです。
そういうわけで、ポールは母親に支配された男です。いや、「男の子」です。
そういう乳離れしていない男子を好きになってしまった点が、ミリアムの不幸です。
と、ダメダメなポールですが、不思議なことにまったく憎めません。
彼の優柔不断さと、優しさからくる身勝手さは、むしろかわいく感じてしまいます。
ところで、ポールが自分の絵についてミリアムに話す、印象的な場面があります。
ふたりが出会って間もなくのころ、ポールが描いた絵について説明しました。
「葉っぱの中や至るところに、ゆれてやまない命の原形質を描きこんだみたいだろ。
(中略)このゆらめきこそが、ほんとうの生だ。形はぬけがらだ。本当は、ゆらめ
きが中にあるんだ。」(P297)
その「ゆらめき」や「命の原形質」ってやつが、ポールには足りないのではないか?
母親に魂をぎゅっとつかまれているポールは、形だけのぬけがらなのではないか?
さて、第二部に入っても、文章はまったくだれません。
特に、ポールとミリアムが一緒にいる場面は、印象的な表現で描かれています。
「砂丘の向こうから、海のささやきが聞こえた。二人は黙って歩いた。突然、彼がぴ
くっとした。全身の血が燃えあがる思いで、ほとんど息ができなくなった。巨大な橙
色の月が、砂丘の縁から二人を見つめていた。彼はそれに気づいて、立ちつくした。」
(P352)
現在、500ページほどまで読みました。この本は、なんと800ページ近くあります。
次回は第二部の後半を紹介します。
さいごに。(サニブラウン決勝進出)
世界陸上で、サニブラウンが初めて100mの決勝に残りました。歴史を変えました!
結果は7位でしたが、世界を相手に充分戦えることを証明してくれました。
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