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スーツの神話 [読書・ライフスタイル]

 「スーツの神話」 中野香織 (文春新書)


 17世紀の衣服改革から現代までのスーツの歴史をたどり、その魅力に迫っています。
 2000年刊。私にとってスーツの教科書的な本です。著者はファッション評論家です。


スーツの神話 (文春新書)

スーツの神話 (文春新書)

  • 作者: 中野 香織
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2000/03/01
  • メディア: 新書



 1660年の王政復古で迎えられたチャールズ二世は、「陽気な王様」と綽名されました。
 1665年にペストが流行すると、道楽にふける王とその宮廷への天罰だと言われました。

 そこで王は、宮廷のイメージを変えるため、「衣服改革」で地味な服を採用しました。
 「上着+半ズボン+ヴェスト+シャツ+タイ」という、スーツの原形が生まれました。

 また、スーツの表現すべき基本理念は「ジェントルマンシップ」として定着しました。
 中には「目立ちすぎない」など、ダンディズムにつながる考え方も含まれていました。

 1789年のフランス革命では、キュロットを着用する貴族が片っ端から殺されました。
 その後フランスでは、サンキュロット派にならい、長ズボンを履くようになりました。

 イギリスでは18世紀後半に、新古典主義がおこり、男性服に大きな影響を与えました。
 古代ギリシアの裸体像が美の基準となり、脚にぴったり合う長ズボンが流行しました。

 19世紀初頭、プリーツの入った宮廷服から、今のジャケットに近い上着に移りました。
 それは、ジェントルマンが田舎で着ていたアウトドア用の、地味で古びた服でした。

 これ以後、ファッションと無縁だったカントリー・ジェントルマンが注目されました。
 ファッションから超然としていたところが、逆に人々には「クール」に映ったのです。

 19世紀の初頭から、ダンディズムがイギリスを熱気で包み、フランスで流行しました。
 その理想的体現者であるボー・ブランメルは、男性服の美の基準を打ち立てて・・・

 この本を読んだのは、今から20年ほど前の頃で、私はまだ30代前半でした。
 まるで教科書で学習するかのように、せっせとノートにまとめながら読みました。

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 当時の私にとって最も面白かったのは、ダンディズムに関して論じた部分でした。
 「ダンディー」という言葉に、思想的な裏付けがあることを知って興味を持ちました。

 ブランメル登場前夜、古い世代のこれみよがしの装飾が、宮廷を席巻していました。
 ブランメルは引き算の美学によって彼ら貴族階級に対抗し、その違いが際立ちました。

 すると貴族階級は逆にそれを取り入れたのです。自分たちにしか分からない粋として。
 そしてダンディズムは、貴族階級が新興成金との差別化を図るために用いられました。

 ダンディの王を目指したジョージ四世が没すると、ダンディズム批判が始まりました。
 やがて中産階級が力を持つと、彼らをも含めたジェントルマン像ができあがりました。

 というように、時代の変遷によって、美学も服装も変わりました。
 しかし、時代の変遷があっても、伝統的な美学と服装に対する敬意は残されました。

 この本で男性ファッションについて学んでから、私はスーツの選び方が変わりました。
 流行しているものよりも、トラディッショナルなものを選ぶようになりました。

 ついでながら、この本の出た当時(2000年)、クールビズは始まっていませんでした。
 夏であっても、半そでのワイシャツを着るなんて、カッコ悪くてできませんでした。

 今では半そでシャツしか着れません。自分だけ周りから浮いてしまうので。
 しかし心の中では、「邪道な格好をしている」という感じが離れません。

 2020年までは、環境省がクールビズの始まりを大々的に伝えていました。
 そのときの彼らの服に、違和感を覚えた人はいませんか?(本当にいつもアレ?)

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 日本はもともと着物文化でしたが、戦後急速に洋服に切り替えてきた歴史があります。
 だから、服装に対するこだわりや敬意といったものが、少ないのかもしれません。

 さて、中野香織にはほかに、「ダンディズムの系譜 男が憧れた男たち」があります。
 現在、新潮選書から出ているので、新潮文庫に入ったら購入したいです。


ダンディズムの系譜 (新潮選書)

ダンディズムの系譜 (新潮選書)

  • 作者: 中野 香織
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/02/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 さいごに。(QRコードが気持ち悪い)

 私はいまだにガラケーなので、QRコードを読み取ることができません。
 だから、「QRコードを読み取って」と言われるたびに、フリーズしてしまいます。

 しかし世間はQRコードだらけ。それを見かけるたびに気持ち悪くなります。(笑)
 一番の悩みは、NHK「クロ現」の途中から左上に出て来るヤツ。アレ消してくれ!

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