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箱男 [日本の現代文学]

 「箱男」 安部公房 (新潮文庫)


 大きな段ボール箱を頭から被って、のぞき穴から世界を眺めている箱男の物語です。
 1973年刊行。2024年の今年は安部公房生誕100年。「箱男」が映画化されました。


箱男 (新潮文庫)

箱男 (新潮文庫)

  • 作者: 公房, 安部
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2024/10/12
  • メディア: 文庫



 「これは箱男についての記録である。
  ぼくは今、この記録を箱のなかで書きはじめている。頭からかぶると、すっぽり、
 ちょうど腰の辺まで届くダンボールの箱の中だ。」(P7)

 「ぼく」は先日ある看護婦から、箱男の箱を5万円で買い取りたいと言われました。
 箱代の5万円と手紙が渡され、それには、箱を海に流してくれと書いてありました。

 「ぼく」は約束を反故にしてもらうため、病院の近くの彼女の部屋を訪れました。
 そこには「ぼく」そっくりの箱男(ニセ箱男)がいたので、出直すことにしました。

 後日、箱を置いてそこを訪れると、ニセ箱男が奇妙な提案をしてきました。
 この家で彼女と自由に暮らしていい、その代わり自分は箱の中でそれを覗き見・・・

 というように、実にスリリングに、そしてヘンタイ的に物語は進行します。
 「書いているぼくと 書かれているぼくとの不機嫌な関係をめぐって」の章が良い!

 ニセ箱男:それじゃ聞くけど、君はいまこの瞬間に、何処で、何をしているんだい?
 箱  男:あんたの見ているとおりさ。ここで、あんたと、喋くっているよ。
 ニセ箱男:すると、このノートは、何処で誰が書いていることになるのかな?・・・

 この場面で、私たち読者は衝撃の真実を知ります。
 すべては「ぼく」の箱の中の落書きの産物なのか?・・・

 箱  男:ぼくが書きやめたら、次の一字一句だって、出て来はしないんだ。
 ニセ箱男:と、誰か別の人間が、何処か別の場所で書いているのかもしれない。

 と、さらに読者を煙に巻いたこの場面で、この作品は終わった方が良かったです。
 このあと、本筋に関係ないエピソードが続くため、読者は迷子になってしまいます。

 おそらくこれらは、箱男が箱の内側に書いた妄想だと思うのですが・・・
 しかし、彼女がどこかの迷路に入り込んでしまう結末部分は、とてもイミシンです。

 「箱はぼくにとって、やっとたどり着いた袋小路どころか、別世界への出口のよう
 な気さえする。何処へかは知らないが、とにかく何処か、別の世界への出口」(P30)

 さて、ちょうど現在、「箱男」は上映中です。
 文虎本には、映画版の限定カバーが付いていました。

 

 さいごに。(空飛ぶ男)

 今から40年ほど前、高校の国語で安部公房の「空飛ぶ男」を学習しました。
 当時は、ヘンな小説だと思いました。結末も、「だから、何?」と思いました。

 しかし、そのヘンな感じがずっと気になっていて、大学に入ってからハマりました。
 「砂の女」「箱男」「密会」「他人の顔」・・・当時読んだ本が今は無いのが残念です。

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sknys

純文学書き下ろし特別作品『箱男』や『密会』などは書棚にあります。
生誕100周年とのことで、今年文庫化された『飛ぶ男』と『死に急ぐ鯨たち・もぐら日記』を読みました。
「飛ぶ男」はスプーン曲げの少年マリ・ジャンプ(腹違いの弟?)、「さまざまな父」 は透明人間だったりしますが、未完にゃん^^;
「もぐら日記 I」 は 「予想していた以上に難解な内容」 と著者自ら述べています。
初めてワープロで書いた日本人作家らしく、エッセイやインタヴューは40年近く経っても全く古びません。
by sknys (2024-10-21 00:02) 

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