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笹まくら [日本の現代文学]

 「笹まくら」 丸谷才一 (新潮文庫)


 かつて徴兵忌避者として逃げ回っていた過去を持つ男の、苦悩を描いた物語です。
 1966年刊行。丸谷の初期の代表作です。村上春樹の本で言及されていました。


笹まくら (新潮文庫)

笹まくら (新潮文庫)

  • 作者: 才一, 丸谷
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1974/08/01
  • メディア: 文庫



 大学の事務員として働いている浜田庄吉のもとに、阿貴子の死亡通知が来ました。
 阿貴子は、浜田が徴兵忌避者として逃げ回っていたころ、助けてくれた恩人です。

 昭和15年の秋から終戦まで、20代前半の5年間、浜田は杉浦健次として生きました。
 後半2年余りの間、彼を命がけで養ってくれたのが、質屋の娘阿貴子だったのです。

 「国の権力に逆らうことに、ぼくたちは二人の情熱を献げた。ぼくは阿貴子の情熱を
 利用して生き残り、生き残ることに成功したとき、うまく彼女と別れた。」(P54)

 終戦後、徴兵忌避は罪でなくなり、浜田は父の親友の口利きで大学に職を得ました。
 幼い妻と平和に暮らしていましたが、阿貴子の死が徴兵忌避の過去を呼び戻し・・・

 「大学事務員として平和に暮らしている。何者にも追われず、ただ過去にだけ追われ
 て。過去は彼を責めつづけ、そして彼は過去を忘れようと努めながら――忘れること
 ができずに生きている。」(P52)

 浜田は、日常生活の中において突如、徴兵忌避で逃げていた過去を思い出します。
 ラジオ修理、砂絵師としての放浪、阿貴子との出会い、阿貴子との生活、別れ・・・

 「これもまたかりそめ臥しのささ枕一夜の夢の契りばかりに」
 藤原俊成の養女の歌です。「ささ枕」は、旅先でのかりそめの恋のことだそうです。

 さて、浜田庄吉はいつのまにか杉浦健次となり、不意に浜田庄吉に戻っていきます。
 あっちこっちに行き来する書き方が、不安な心理と不安定な立場を表現しています。

 若い妻の陽子がいながら、死んだ阿貴子のことを想い・・・
 課長に出世するかと思ったら、逆に左遷されそうになり・・・

 ところで、終盤の学生時代の浜田・堺・柳たちの、国家談義が面白いです。
 もしかしたら、丸谷はこの辺のことを、一番書きたかったのかもしれません。

 堺:「ぼくにはね、国家というものの目的が戦争以外にないような気がするんだ」
 浜田:「なぜ、国家の目的は戦争なんだろう?」
 堺:「戦争が最大の浪費だからじゃないか。資本家は利潤のために浪費を願うし、
   その浪費が大きければ大きいほどいい。国家は資本家のものだから」

 (現在でも、ロシア・ウクライナ戦争など、世界で悲惨な戦争が行われています。
  それをやめようとしないのは、戦争によって得をしている人がいるからでは?)

 ラストは、杉浦健次が出発する場面で終わります。この終わり方は良いです。
 今の浜田も、もう一度阿貴子を探し求めて、出発するのではないでしょうか。

 さて、私が大学時代、国文学の先生が絶賛していたのが丸谷の「輝く日の宮」です。
 当時はあまり興味を持ちませんでした。現在ぜひ読んでみたいのですが、絶版です。


輝く日の宮 (講談社文庫)

輝く日の宮 (講談社文庫)

  • 作者: 丸谷才一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/03/20
  • メディア: Kindle版



 さいごに(妻はおかんむり)

 トランプ氏がハリス氏に圧勝し、ハリス推しだった妻は最近ずっと不機嫌です。
 だから、トランプ派の私はあまり喜べません。妻に八つ当たりされるので。

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コメント 1

サンフランシスコ人

「ハリス推しだった妻は最近ずっと不機嫌です....」

サンフランシスコでは"お通夜"です...
by サンフランシスコ人 (2024-11-12 02:17) 

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