笹まくら [日本の現代文学]
「笹まくら」 丸谷才一 (新潮文庫)
かつて徴兵忌避者として逃げ回っていた過去を持つ男の、苦悩を描いた物語です。
1966年刊行。丸谷の初期の代表作です。村上春樹の本で言及されていました。
大学の事務員として働いている浜田庄吉のもとに、阿貴子の死亡通知が来ました。
阿貴子は、浜田が徴兵忌避者として逃げ回っていたころ、助けてくれた恩人です。
昭和15年の秋から終戦まで、20代前半の5年間、浜田は杉浦健次として生きました。
後半2年余りの間、彼を命がけで養ってくれたのが、質屋の娘阿貴子だったのです。
「国の権力に逆らうことに、ぼくたちは二人の情熱を献げた。ぼくは阿貴子の情熱を
利用して生き残り、生き残ることに成功したとき、うまく彼女と別れた。」(P54)
終戦後、徴兵忌避は罪でなくなり、浜田は父の親友の口利きで大学に職を得ました。
幼い妻と平和に暮らしていましたが、阿貴子の死が徴兵忌避の過去を呼び戻し・・・
「大学事務員として平和に暮らしている。何者にも追われず、ただ過去にだけ追われ
て。過去は彼を責めつづけ、そして彼は過去を忘れようと努めながら――忘れること
ができずに生きている。」(P52)
浜田は、日常生活の中において突如、徴兵忌避で逃げていた過去を思い出します。
ラジオ修理、砂絵師としての放浪、阿貴子との出会い、阿貴子との生活、別れ・・・
「これもまたかりそめ臥しのささ枕一夜の夢の契りばかりに」
藤原俊成の養女の歌です。「ささ枕」は、旅先でのかりそめの恋のことだそうです。
さて、浜田庄吉はいつのまにか杉浦健次となり、不意に浜田庄吉に戻っていきます。
あっちこっちに行き来する書き方が、不安な心理と不安定な立場を表現しています。
若い妻の陽子がいながら、死んだ阿貴子のことを想い・・・
課長に出世するかと思ったら、逆に左遷されそうになり・・・
ところで、終盤の学生時代の浜田・堺・柳たちの、国家談義が面白いです。
もしかしたら、丸谷はこの辺のことを、一番書きたかったのかもしれません。
堺:「ぼくにはね、国家というものの目的が戦争以外にないような気がするんだ」
浜田:「なぜ、国家の目的は戦争なんだろう?」
堺:「戦争が最大の浪費だからじゃないか。資本家は利潤のために浪費を願うし、
その浪費が大きければ大きいほどいい。国家は資本家のものだから」
(現在でも、ロシア・ウクライナ戦争など、世界で悲惨な戦争が行われています。
それをやめようとしないのは、戦争によって得をしている人がいるからでは?)
ラストは、杉浦健次が出発する場面で終わります。この終わり方は良いです。
今の浜田も、もう一度阿貴子を探し求めて、出発するのではないでしょうか。
さて、私が大学時代、国文学の先生が絶賛していたのが丸谷の「輝く日の宮」です。
当時はあまり興味を持ちませんでした。現在ぜひ読んでみたいのですが、絶版です。
さいごに(妻はおかんむり)
トランプ氏がハリス氏に圧勝し、ハリス推しだった妻は最近ずっと不機嫌です。
だから、トランプ派の私はあまり喜べません。妻に八つ当たりされるので。
かつて徴兵忌避者として逃げ回っていた過去を持つ男の、苦悩を描いた物語です。
1966年刊行。丸谷の初期の代表作です。村上春樹の本で言及されていました。
大学の事務員として働いている浜田庄吉のもとに、阿貴子の死亡通知が来ました。
阿貴子は、浜田が徴兵忌避者として逃げ回っていたころ、助けてくれた恩人です。
昭和15年の秋から終戦まで、20代前半の5年間、浜田は杉浦健次として生きました。
後半2年余りの間、彼を命がけで養ってくれたのが、質屋の娘阿貴子だったのです。
「国の権力に逆らうことに、ぼくたちは二人の情熱を献げた。ぼくは阿貴子の情熱を
利用して生き残り、生き残ることに成功したとき、うまく彼女と別れた。」(P54)
終戦後、徴兵忌避は罪でなくなり、浜田は父の親友の口利きで大学に職を得ました。
幼い妻と平和に暮らしていましたが、阿貴子の死が徴兵忌避の過去を呼び戻し・・・
「大学事務員として平和に暮らしている。何者にも追われず、ただ過去にだけ追われ
て。過去は彼を責めつづけ、そして彼は過去を忘れようと努めながら――忘れること
ができずに生きている。」(P52)
浜田は、日常生活の中において突如、徴兵忌避で逃げていた過去を思い出します。
ラジオ修理、砂絵師としての放浪、阿貴子との出会い、阿貴子との生活、別れ・・・
「これもまたかりそめ臥しのささ枕一夜の夢の契りばかりに」
藤原俊成の養女の歌です。「ささ枕」は、旅先でのかりそめの恋のことだそうです。
さて、浜田庄吉はいつのまにか杉浦健次となり、不意に浜田庄吉に戻っていきます。
あっちこっちに行き来する書き方が、不安な心理と不安定な立場を表現しています。
若い妻の陽子がいながら、死んだ阿貴子のことを想い・・・
課長に出世するかと思ったら、逆に左遷されそうになり・・・
ところで、終盤の学生時代の浜田・堺・柳たちの、国家談義が面白いです。
もしかしたら、丸谷はこの辺のことを、一番書きたかったのかもしれません。
堺:「ぼくにはね、国家というものの目的が戦争以外にないような気がするんだ」
浜田:「なぜ、国家の目的は戦争なんだろう?」
堺:「戦争が最大の浪費だからじゃないか。資本家は利潤のために浪費を願うし、
その浪費が大きければ大きいほどいい。国家は資本家のものだから」
(現在でも、ロシア・ウクライナ戦争など、世界で悲惨な戦争が行われています。
それをやめようとしないのは、戦争によって得をしている人がいるからでは?)
ラストは、杉浦健次が出発する場面で終わります。この終わり方は良いです。
今の浜田も、もう一度阿貴子を探し求めて、出発するのではないでしょうか。
さて、私が大学時代、国文学の先生が絶賛していたのが丸谷の「輝く日の宮」です。
当時はあまり興味を持ちませんでした。現在ぜひ読んでみたいのですが、絶版です。
さいごに(妻はおかんむり)
トランプ氏がハリス氏に圧勝し、ハリス推しだった妻は最近ずっと不機嫌です。
だから、トランプ派の私はあまり喜べません。妻に八つ当たりされるので。
「ハリス推しだった妻は最近ずっと不機嫌です....」
サンフランシスコでは"お通夜"です...
by サンフランシスコ人 (2024-11-12 02:17)