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砂の本 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「砂の本」 ボルヘス作 篠田一士(はじめ)訳 (集英社文庫)


 アルゼンチン幻想文学のボルヘスが、簡潔な言葉で異常な世界を描いた短編集です。
 晩年の短編集「砂の本」と、処女短編集「汚辱の世界史」の、二つを収録しています。


ラテンアメリカの文学 砂の本 (集英社文庫)

ラテンアメリカの文学 砂の本 (集英社文庫)

  • 作者: ホルへ・ルイス・ボルヘス
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2011/06/28
  • メディア: 文庫



 ある朝ベンチで座っていた時、突然「この瞬間は以前に経験した」と思いました。
 そしてボルヘスは、向こう側のベンチに座っている男に気付き、声を掛けました。

 「あなたの名はホルヘ・ルイス・ボルヘスです。
 1969年に、われわれはケンブリッジ市にいるのです。」

 「いや」と、彼はまぎれもなく私自身の声で答えて・・・
 読者は、冒頭の「他者」から、いきなりボルヘスの迷宮さまようことになります。

 「鏡と仮面」はアイルランド王と詩人オランの物語で、短いけど印象的でした。
 オランが三度目に王に捧げた詩はたった一行で・・・その詩を味わった王は・・・

 「疲れた男のユートピア」もまた迷宮もので、とても印象的な作品でした。
 平原の道を進んでいると一軒の家があって、背の高い男がいてこう言いました。

 「御召しになっているものから見て、別の世紀からこられたようですな。」
 「私」はどこに来てしまったのか? 「彼」のいる世界はどのような状況か?

 その男は言います。「われわれは過去を忘れたい」のだと。
 そして、「現在、世界中の人間が〇〇することの是非が議論されている」と・・・

 「砂の本」は13の短編と後書きから成っていますが、どれも魅惑的な作品ばかり。
 しかし、なんといってもサイコーだったのは、タイトル作の「砂の本」でしょう。

 あるとき聖書を売りに来た男が、「砂の本」というものを取り出しました。
 「砂と同じくその本にも、はじめもなければ終りもない、というわけです」

 「この本のページは、まさしく無限です。
 どのページも最初ではなく、また、最後でもない。」・・・

 もう一つの「汚辱の世界史」は、1935年に出たボルヘスの処女短編集です。
 内容は「世界悪者カタログ」。その40年後の「砂の本」に比べて分かりやすいです。

 吉良上野介も紹介されています。痛切な忠義を呼びさました人物と、皮肉を込めて。
 しかし、吉良の刃傷沙汰も、他の登場人物たちに比べたら、かわいい、かわいい。

 黒人奴隷を解放すると騙して逃亡させ、他の農園に売り渡す男、ラザラス・モレル。
 7年間好き勝手に人を殺しまくり、その数21人に及んだ、ビリー・ザ・キッド。

 一方、愛すべき悪党は、自分と全く似ていない名家の息子になりすましたカストロ。
 見破られて訴訟を起こされた時、腹心の黒人ボウグルは、どんな手段を取ったか?

 さて、同じ岩波文庫から出ている「アレフ」も、傑作短編集です。ぜひ読みたい。
 河出文庫の「怪奇譚集」「幻獣事典」も、この機会に読んでおきたいです。


アレフ (岩波文庫)

アレフ (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/02/17
  • メディア: 文庫



ボルヘス怪奇譚集 (河出文庫)

ボルヘス怪奇譚集 (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2018/04/06
  • メディア: 文庫



幻獣辞典 (河出文庫)

幻獣辞典 (河出文庫)

  • 作者: ホルヘ・ルイス ボルヘス
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2015/05/08
  • メディア: 文庫



 さいごに。(ドリフが好きなこと、なんで分かった?)

 アマゾンプライムビデオでビデオを見ると、下の方にオススメ番組が出てきます。
 私が仏像の番組を見たとき、なぜか「8時だよ全員集合」がオススメになりました。

 ママさんが驚いて言いました。「AIはパパの好みを知り尽くしている!」と。
 それにしても、どうして? まるで私の心を読んでいるかのようで、怖いです。

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