SSブログ

2020年4月発売の気になる文庫本 [来月発売の気になる文庫本]

 2020年4月発売予定の文庫本で、気になるものを独断で紹介します。
 データは、出版社やamazonの、HPやメルマガを、参考にしています。


・4/7 「フランス怪談集」 日影丈吉 (河出文庫)
 → 河出の怪談シリーズ。絶版文庫の復刊。貴重な作品を含む。気になる。

・4/8 「たゆたえども沈まず」 原田マハ (幻冬舎文庫)
 → 誰も知らないゴッホの真実が描かれている。傑作アート小説の文庫化。買い。

・4/10 「ペルシア人の手紙」 モンテスキュー (講談社学術文庫)
 → モンテスキューの名を一躍高めた名作。しかし2000円超。気になる。

・4/11 「メソポタミアの神話」 矢島文夫 (ちくま学芸文庫)
 → 古代メソポタミア神話をやさしく解説した入門書。とても気になる。

・4/30 「キャプテンフューチャー最初の事件」アレン・スティール(創元SF文庫)
 → アレン・スティールによる「新キャプテンフューチャー」。気になる。


◎NHK海外ドラマ「レ・ミゼラブル」

 日曜23時からNHKでやっている、「レ・ミゼラブル」を楽しみにしています。
 言うまでもなく、文豪ユゴーの名作のドラマ化です。制作はイギリス。全8回。

 とてもお金をかけて、丁寧に贅沢に作られています。映像が非常にきれいです。
 そしてなによりも、物語をとてもうまく再構成しています。本当にすばらしい。

 こういう海外ドラマを選んで放送してくれるところが、さすがNHKです。
 だてに受信料を取っているわけではない。ぜひ多くの人に見てほしい作品です。


◎県内最大級の書店が閉店へ

 駅北にあって、多くの市民に愛されてきた大型書店が、5月に閉店となります。
 我が町の「知のシンボル的な存在」である店なので、ショックが大きいです。

 地下1階~地上2階の3フロアに埋め尽くされた本、優秀で親切な書店員・・・
 閉店の知らせは、地元の新聞の一面に載り、その日の職場で話題になりました。

 現在は、大型書店の運営が苦しい時代で、良い店がどんどん撤退していきます。
 5月から、市内の大型書店は1店舗だけになります。知の衰退を感じてしまう。


◎さいごに(コロナによって成果を上げた?)

 普段は、毎月80時間前後の残業があります。もちろん、サービス残業です。
 ところが、今月はコロナの流行によって、残業が20時間以内で収まりました。

 特に、土日の仕事がゼロだったことが大きい。こんなこと、これまでなかった。
 働き方改革に、成果をもたらしたものは、皮肉にもコロナウィルスでした。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

大統領閣下 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「大統領閣下」 アストリアス作 内田吉彦・吉田榮一訳 (集英社・世界文学全集)


 大統領の腹心の恋愛を中心に、秘密警察を使った恐怖政治を描いた独裁者小説です。
 「グアテマラ伝説集」の作者が、帰国後、独裁制下での経験をもとに描いています。


世界文学全集〈82〉アストリアス.オネッティ (1981年)大統領閣下 はかない人生

世界文学全集〈82〉アストリアス.オネッティ (1981年)大統領閣下 はかない人生

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2020/03/02
  • メディア: -



 アンヘルは、カナレス将軍が逮捕される前に、彼を逃亡させるように命令されました。
 それは将軍に対する罠。無実の将軍が逃げたところを、警察が射殺するのが目的です。

 ところが、将軍の娘カミラに恋していたアンヘルは、将軍を逃げのびさせたのです。
 また、アンヘルはどさくさにまぎれてカミラを手中に収め、彼女をかくまいました。

 やがて大統領は、アンヘルが自分の敵の娘と結婚したことを知ると・・・
 そしてアンヘルは、大統領からワシントンへ行くよう命令が出されましたが・・・

 主人公は、大統領の全幅の信頼を得ている腹心、ミゲル・カラ・デ・アンヘルです。
 「魔王(サタン)のように美しく、また悪辣でもあった」というのが、決まり文句。

 サタンのように悪辣に冷酷に振舞っていた間は、大統領から寵愛されていました。
 しかし恋に落ち、サタンらしからぬ同情心を持ち始めてから、転落が始まり・・・

 ちなみに作者は、ミゲル・アンヘル・アストゥリアス。
 物語のアンヘルは作者の分身です。実際この小説は、体験をもとに描かれています。

 アストゥリアスは、パリで「グアテマラ伝説集」を成功させたあと、帰国しました。
 そして、帰国後に路線を変えて、独裁者小説「大統領閣下」に取り組み始めました。

 彼の父は、独裁者エストラーダ・カブレラににらまれて、判事の職を追われました。
 そして彼自身は、その後の軍事政権ににらまれたため、パリに脱出したのでした。

 この物語には、独裁政権がいかに人々を圧迫していたかが、具体的に描かれています。
 賄賂、ごますり、暴力、略奪。それを支える秘密警察、張り巡らされたスパイ網・・・

 しかし、最も恐ろしいのは、大統領が何を考えているのかさっぱり分からない点です。
 決して表舞台に現れず、陰で人々を操っている。こういう人物が、一番タチが悪い!

 さて、アストゥリアスが始めた「魔術的リアリズム」は、この作品でも生きています。
 大事な場面で突然、呪術師やら霊媒師やら得体のしれない人物が、登場するのです。

 たとえば、アンヘルが最後の特命を受けた直後、いきなり呪術師らが踊り出します。
 そこに何かの兆しを見たカミラ。しかし、アンヘルはそのまま旅立ち・・・

 「大統領閣下」が出たのは1946年です。書かれたのはさらに20年ほど遡るようです。
 1970年代になって「族長の秋」などが出たとき、独裁者小説はピークを迎えます。

 そう考えるとアストゥリアスは、独裁者小説においても、先駆的役割を果たしました。
 しかも、「族長の秋」に比べてずっと読みやすくて面白いです。文庫化を期待します。

 さいごに。(ヲタ活)

 休校が続き、ほぼそのまま春休みに突入。部活も禁止で、娘に久々に暇ができました。
 娘はTVばかり見ています。「押し」が出ている番組が、たっぷり録画してあるので。

nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:

アクロイド殺し [20世紀イギリス文学]

 「アクロイド殺し」 アガサ・クリスティー作 羽田詩津子訳 (ハヤカワ文庫)


 地主のアクロイド氏が殺害された事件を、名探偵ポワロが解決する傑作推理小説です。
 トリックが探偵小説のルールに反しているかどうか、論争を巻き起こした問題作です。


アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2003/12/01
  • メディア: 文庫



 金持ちの未亡人フェラーズ夫人が、睡眠薬の過剰摂取で亡くなりました。
 翌日、医師シェパードは、村の地主アクロイド氏の屋敷に呼ばれ、相談を受けました。

 ロジャーは、死の直前のフェラーズ夫人から、夫を毒殺したと打ち明けられたのです。
 そして夫人は、夫の毒殺を知っている何者かに、脅迫されていたと言うのです。

 2人が相談している最中に、ロジャーへ生前のフェラーズ夫人から手紙が届きました。
 そこには、フェラーズ夫人を脅していた者の名が記されていたらしいのですが・・・

 シェパードが去った後、ロジャーは殺害され、養子のラルフに殺人容疑がかかり・・・
 シェパードの隣人となっていたポワロが、シェパードと一緒に捜査に乗り出して・・・

 結末には驚きました。まさか、この人物が犯人だとは!
 評判を聞いていたので、注意深く読んできましたが、まったくの予想外でした。

 「アクロイド殺し」はトリックの奇抜さで知られています。私も罠にはまりました。
 驚嘆すると同時に「こういうのもあり?」と思いました。論争になるのも分かります。

 探偵小説のルールに則っているかどうかという難しいことは、私には分かりません。
 ただ、これだけは言えます。絶対楽しめる本です。読書好きの人全員にオススメです。

 ロジャー家の人々が、少しずつ隠し事をしていることも、物語を面白くしています。
 新たな事情や人間関係が見えてくるのに、犯人は全くわからない。(そりゃそーだ)

 さて、時々ポワロはシャレたことを言います。たとえばブラント少佐を評した言葉。
 こういう言葉のセンスが、作品の面白さをぐっと引き立てるのだと思います。

 (自分を「愚か者だ」というブラント少佐を見て、)「どこから見ても愚か者じゃない
 ですよ(中略)ただ ― 恋に落ちた愚か者というだけです」(P346)

 ハヤカワ文庫版は、2003年に出た新訳です。文章はとても読みやすかったです。
 名作なので多くの訳が出ていますが、絶版になっている文庫が多いです。

 さいごに。(久々に家族で運動)

 この三連休、家族で近くの公園を走ったり、筋トレをしたりする時間が取れました。
 普段だったら、娘は午前中に部活で走るので、なかなか一緒に運動ができません。

 考えてみると、娘の中学入学以降、家族みんなで何かをする時間が激減しています。
 コロナは困るけど、家族そろって運動するという、貴重な時間が得られました。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

遊戯の終わり [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「遊戯の終わり」 コルタサル作 木村榮一訳 (岩波文庫)


 幻想で現実世界を豊かにしようと目論んだコルタサルの、夢と狂気の短編集です。
 1956年に出ました。3年後に出た「秘密の武器」と並ぶ、作者の短編集の代表作です。


遊戯の終わり (岩波文庫)

遊戯の終わり (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2012/06/16
  • メディア: 文庫



 絶版で手に入らなかった本を、2012年に岩波文庫が出しました。さすが岩波さん。
 全18編。日常世界が足元から、ガラガラと崩壊していくような短編が多いです。

 冒頭の「続いている公園」は3ページ足らず。しかし、鮮烈な印象を残します。
 小説の中の男がナイフを持って走り出し、入り込んだ屋敷にいたのは・・・

 「いまいましいドア」も短いながら、印象的なホラー小説です。
 ホテルの部屋に不自然に付いているドアから、夜な夜な赤ん坊の泣き声が・・・

 「キクラデス諸島の偶像」は、18編中私が最も気に入った作品です。
 奇人ソモーサは、掘り出した彫像を理解するため、像と一体化しようと努めました。

 「倦むことなく対象に近づこうと努めれば、いつか始原の彫像と一体化できるはず
 だ。(中略)完全な融合、本原的な触れ合いが起こるのだ。」(P93)

 そして彼は、彫像を使って行われていた、古代の残虐な儀式を蘇らせてしまい・・・
 日常生活の時空間に、突如異質な時空間が出現する、コルタサルらしい傑作です。

 「黄色い花」は、輪廻転生をテーマにした、とても興味深い作品です。
 昔の自分そっくりの少年に出会った男は、自分を不死だと信じるようになり・・・

 「正確無比な輪廻の歯車にちょっとした狂いが生じ、時間に襞がよってしまったの
 です。本来なら引き続いて起こるべき生まれ変わりが同時に起こってしまったので
 すよ。」(P104)

 「山椒魚」も、突如異質な時空間が出現し、ハッとさせられる作品です。
 「ぼく」は水族館に通って、何時間も山椒魚を眺めているうちに、とうとう・・・

 「その時、彼ら山椒魚の秘めた意志、つまり一切に無関心になりじっと動かずにいる
 ことによって、時間と空間を無化しようとする彼らの意志がおぼろげながら理解でき
 るように思えた。」(P204)

 「夜、あおむけにされて」もまた、突如異質な時空間が出現する作品です。
 事故で入院した「彼」は、アステカ族に捕らえられている夢を、何度も見たが・・・

 ほか、「誰も悪くはない」「バッカスの巫女たち」「水底譚」なども面白かったです。
 タイトル作「遊戯の終わり」は、意外にも郷愁を誘うような作品でした。

 さて、コルタサルの短編集は色々出ているので、選ぶときには注意が必要です。
 2012年に岩波文庫から出た「遊戯の終わり」と「秘密の武器」を読むのがオススメ。


秘密の武器 (岩波文庫)

秘密の武器 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2012/07/19
  • メディア: 文庫



 以前から出ている「悪魔の涎」は選集。重複している作品が多いのでいらないかも。
 処女短編集「動物寓話集」も、古典新訳文庫から「奪われた家」として出ています。


悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)

悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1992/07/16
  • メディア: 文庫



奪われた家/天国の扉 (光文社古典新訳文庫)

奪われた家/天国の扉 (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/06/08
  • メディア: 文庫



 しかし、コルタサルといったら、なんといっても、長編「石蹴り遊び」でしょう。
 以前集英社文庫から出ていましたが、現在は絶版です。ぜひぜひ復刊してほしい!


石蹴り遊び(上) (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

石蹴り遊び(上) (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1995/01/20
  • メディア: 文庫



 さいごに。(髭ダンと言えば・・・)

 娘に「髭ダン」を知ってるかと聞かれたので、「もちろん知ってる」と答えました。
 しかし、私の知っているのとは違いました。

 てっきり、志村とカトちゃんの「髭のダンス」のことだと思っていました。
 今では「髭ダン」と言えば、「オフィシャル髭男ディズム」のことだって?

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

世界文学の流れをざっくりとつかむ20 [世界文学の流れをざっくりとつかむ]

≪第5章≫ 中世東洋

 3 日本文学の黄金期

 日本は700年代に「古事記」と「万葉集」を生みましたが、宮廷における文学は漢詩が主流でした。中でも白居易は広く受け入れられ、「源氏物語」にも影響を与えました。日本独自の文化が主流となるのは、894年に遣唐使が廃止されてからです。特に仮名文字が作られ、宮廷の女性に使われたことが、のちの黄金期の女流文学の隆盛を実現させました。

 905年頃「古今和歌集」が成立しました。これは最初の勅撰和歌集で、全20巻に約1100首が収められています。選者は、紀友則、紀貫之、凡河内躬恒、壬生忠岑など男性ばかりですが、女流歌人の歌も多く収められています。表記は仮名文字であり、この時期に文学の主流が、男性を中心とする公的な漢詩文から、女性を中心とする私的な和歌へ移っていったことが分かります。また「古今和歌集」は、歌集全体で王朝生活の一大絵巻となるように仕立てられていて、その有機的な構成は、のちの勅撰和歌集の模範となりました。

 900年頃には、現存最古の物語である「竹取物語」も誕生しました。仮名文字を使って書かれた最初の物語です。内容は、かぐや姫の物語として知られていますが、さまざまな民話が取り入れられてできたものと思われます。また、946年頃には、最初の歌物語である「伊勢物語」が誕生しました。125段の短い話の中心に必ず和歌があり、全体として在原業平の一代記の形をとっています。この物語における在原業平像は、「源氏物語」の光源氏像に影響を与えました。

 935年頃に「土佐日記」が書かれました。これは、初めて仮名で記された日記です。当時の日記は主に記録用で、男性が漢字で書いていました。仮名を使うのは主に女性だったため、作者の紀貫之は女性に仮託して書いています。内容は、土佐から京都へ向かう旅日記ですが、任地で亡くした女児への思いなどを、和歌を交えて綴っています。「土佐日記」のスタイルは、のちの女流日記に影響を与えました。974年頃に書かれた「蜻蛉日記」は、初の女流日記文学です。作者は藤原道綱母で、藤原兼家の妻となった人です。不実な夫を持った者のつらい思いを、生々しく描いています。このように、内面を描写した小説的手法に「蜻蛉日記」の特徴があり、「源氏物語」などにも影響を与えました。

 西暦1000年頃、日本文学は最盛期を迎えました。この黄金期を代表するのが、「枕草子」を書いた清少納言と、「源氏物語」を書いた紫式部の、二人の女流作家である点に、世界における日本文学の特異性があります。このような女流作家は、藤原氏の摂関政治が有能な女房を宮中に集め、サロンを開いたことによって登場しました。清少納言は中宮定子の、紫式部は中宮彰子の女房で、それぞれの中宮のサロンで活躍しました。調和や優美さなど、女性の感性がこれほど大切にされた国は、この時期の世界ではほかにありませんでした。西欧のキリスト教世界が東西に分裂して対立していた暗黒の時代に、女性を中心とした王朝文学が花開いていた当時の日本は、注目に値します。

 1001年頃、清少納言の随筆「枕草子」は評判になっていたようです。そこには、中宮定子が健在だった頃の、宮中生活の様子が生き生きと描かれています。その清新な美意識によって、「をかし」の文学と称せられています。約300の短い章段で構成されています。おそらく中宮定子が亡くなった後の不遇な時代に、華やかだった時代を思い出しながらまとめたものと思われます。

 1008年頃、紫式部の「源氏物語」が成立しました。光源氏を主人公に、その人生の栄華と苦悩を描いています。当時から大きな評判を呼び、次々と書き継がれて、全54帖にわたる長大な物語となりました。物語全体から醸し出されるしみじみとした情感や無常観から、「あはれ」の文学と評されます。内容的にもスケール的にも、まさに王朝物語の頂点であり、これ以後の多くの作品に模倣されました。

 1100年代初めに、「大鏡」が成立しました。これは、紀伝体で書かれた歴史物語です。14代にわたる天皇と、20人の藤原氏の大臣などが描かれています。また、1100年代前半には、「今昔物語集」も成立しました。天竺、震旦、本朝の三部に、約1000話を収めた最大の説話集です。特に本朝篇は庶民の様子が生き生きと描かれています。しかし、1100年代後半からから、世の中に戦乱が広がり始めました。

 1100年代終盤には、源平の争乱が起こりました。1192年に源頼朝による鎌倉幕府が成立し、武士中心の世の中へと大きく変わっていきました。しかし、文化は京都が中心でした。1205年頃には、後鳥羽院の命によって藤原定家らを中心に編纂されていた「新古今和歌集」が出来上がりました。

 1200年代半ばに、「平家物語」が成立したようです。琵琶法師による平曲として広まりながら、様々な逸話を付け加えていきました。和漢混交文で語られたため、文字のわからない多くの民衆にも伝わりました。1212年頃、「方丈記」が成立しました。著者は鴨長明で、隠者文学の代表の一つです。その100年以上のちの1331年頃、隠者文学の最高傑作である「徒然草」が成立しました。著者は兼好法師です。王朝文化が衰退していったこの時代の文学の特徴は、いずれも無常観が漂うことです。1300年代中頃に、南北朝の内乱を描いた「太平記」が成立した後は、江戸時代を迎えるまで、見るべき作品はほとんどありません。

 さいごに(逆転に次ぐ逆転のマスク劇)

イオングループの「接客時のマスク禁止」が話題になったのは、昨年12月でした。
その頃は、「マスクをしたままでの接客は相手に失礼」という発想がありました。

ところが、コロナウィルスの流行によって、マスクについての感覚が逆転しました。
「マスクなしでの接客は相手に失礼」という感覚が、あっという間に広まりました。

特に、3月初めの卒業式等では、出席者の全員がマスク着用を求められました。
万一マスクなしで参加してしまうと、多くの咎めるような視線を感じたはずです。

電車で、マスクなしで咳などしようものなら、袋叩きにあいそうな雰囲気でした。
「マスクをしない人は他人のことを考えない人」というような認識がありました。

ところが、最近この傾向が再び変わりつつあります。
きっかけは、様々なところで、マスクが予防にならないと言われ出したことです。

TV番組で、マスク不足の今、健康な人はマスクをしなくていいと言っていました。
マスクを本当に必要な人が、ちゃんと買えるようにしてあげて、とのことです。

私の職場は人との接触が多いのですが、現在マスク着用の人はほとんどいません。
「マスクをしない人は買うのを遠慮している人」という認識ができつつあります。

(しかしその後、政府がアベノマスクの配布に踏み切り、マスクの信頼度がアップ。
マスクを付けずに出歩くことは、再びタブーになりました。)

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

百年の孤独2 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「百年の孤独」 ガルシア・マルケス作 鼓直訳 (新潮社)


 架空の町マコンドの建設から滅亡までを、奇想天外なエピソードで綴った物語です。
 ラテンアメリカブームを巻き起こした名作ですが、まだ文庫本になっていません。


百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)

百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/12/01
  • メディア: 単行本



 この本を150ページぐらいまで読んだところで、私は1日に読む量を制限しました。
 そうしないと、自分自身がマコンドの町の中に取り込まれてしまいそうだったので。

 そこで1日1章ずつ読みました。1章が20ページほどで、約40分かかりました。
 この本を読んでいたここ半月ほどは、作品の世界にどっぷりとつかっていました。

 「百年の孤独」は、マコンドの町の創建から消失までの、百年にわたる物語です。
 その中心にあるブエンディア家は、七代にわたって同じ名前が繰り返されます。

 一代目は、ホセ・アルカディオ・ブエンディア。
 二代目は、大男ホセ・アルカディオとアウレリャノ・ブエンディオ大佐の兄弟。
 三代目は、残虐な支配者アルカディオ。
 四代目は、ホセ・アルカディオ・セグンドとアウレリャノ・セグンドの双子。
 五代目は、法王見習のホセ・アルカディオ。
 六代目は、アウレリャノ・バビロニア。
 七代目は、アウレリャノ。

 以上、同じ名前ばかりで混乱しますが、どうやらそれも作者の狙いのようです。
 時間感覚がぐちゃぐちゃになり、堂々巡りをしているみたいな気分になります。

 「時は少しも流れず、ただ堂堂めぐりをしているだけであることをあらためて知り、
 身震いした。」(P385)

 これは、一族を長年見守り続けた、一代目の妻ウルスラが突然感じ取ったことです。
 作者が作品で伝えたかったことは、まさにこういう感覚ではなかったでしょうか。

 ところで、上記のブエンディア家七代の名前では、男子の名前だけを挙げましたが、
 大事な役割を果たしているのは、むしろ女性の方かもしれません。

 特に、一代目の妻ウルスラは100歳を超えてなお、傾いた一族を支え続けました。
 彼女は町の創建時から登場し、六代目のアウレリャノ誕生後まで生きのびています。

 その間、一族のはてしなく続く途方もない歴史を、陰でずっと見守り続けています。
 作者が語り口を真似たという祖母が、ウルスラに重ねられているような気がします。

 ウルスラは死ぬ直前に、豚のしっぽを避けるため、家訓として近親婚を禁じました。
 しかし、アウレリャノ・バビロニアとアマランタ・ウルスラが、それと知らず・・・

 さて、ウルスラ以上に長生きして一族に関わり続けるのが、ピラル・テルネラです。
 彼女はウルスラとともに登場しながら、ブエンディア家にとっては影の存在でした。

 「この一家の歴史は止めようのない歯車であること、また、軸が容赦なく徐々に摩滅
 していくことがなければ、永遠に回転し続ける車輪であることを知っていた」(P450)

 表に出ていませんが、彼女の血もまた、一族の本流に流れ込んでいます。
 皮肉なことにそのトランプ占いが、アウレリャノ・バビロニアを導いてしまい・・・

 実は、「百年の孤独」を読み終わったら、ロスになるかとずっと心配していました。
 しかし読み終わった今、私は解放された気分です。やっと呪縛を解かれた!

 この本を読んでいる間、私自身の半分は、マコンドの町に迷い込んでいました。
 良くも悪くも、「百年の孤独」は、まれにみる読書体験をもたらしてくれました。

 さいごに。(必ず二度寝してしまうアラーム)

 ケータイに音楽を入れておき、毎朝好きな曲をアラーム音に設定して起きています。
 平日はヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」や、ユーリズ・ミックスの「エンジェル」。

 日曜など仕事の休みの日は、岩崎宏美の「聖母たちのララバイ」にしています。
 「さあ、眠りなさい~」という歌いだしを聞くと、気持ちよく二度寝できるので。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

百年の孤独1 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「百年の孤独」 ガルシア・マルケス作 鼓直訳 (新潮社)


 架空の町マコンドの建設から滅亡までを、奇想天外なエピソードで綴った物語です。
 1967年に出ると世界的にヒットして、ラテンアメリカブームを巻き起こしました。

 新潮社から全訳が出ています。原作の雰囲気が伝わり、味わい深い訳です。
 1972年に初訳が出て、1999年に改訳が出ましたが、未だに文庫になっていません。


百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)

百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/12/01
  • メディア: 単行本



 ホセ・アルカディオ・ブエンディアと妻のウルスラは、いとこ同士の結婚でした。
 両家では近親婚が続いていて、親戚には豚の尾のある子が生まれたりもしました。

 ウルスラの母が心配し、男女の行為を禁止したため、夫は苦境に立たされました。
 それをからかった友を殺したことで、彼ら夫婦は数人の仲間と共に村を離れました。

 放浪の果てにたどり着いた土地で、彼らはマコンドという町を建設して・・・
 彼らはマコンドに多くの子孫を残し、一族はしだいに繁栄していきますが・・・

 まれに、その世界にのめり込んでしまうような、すごい作品があります。
 ガルシア・マルケスの「百年の孤独」が、まさにそのような小説です。

 仕事中に突然、この世界がニセモノで、マコンドが本物のような気がしました。
 これは、社員としてはサイテーですが、読書人としてはサイコーの体験です。

 齋藤孝の「読書入門」にも、次のように書かれています。(P353)
 「本書を読み始めると、読者はガルシア・マルケスが構築した複雑な世界に迷い込
 んだかのような錯覚を覚えます。そして、不思議なエピソードと奇妙な人々との出
 会いを重ねていくうちに、まるでこの世界の住人の一人のようになっていきます。」

 この小説を面白くしているのは、数々の奇想天外なエピソードです。
 しかも、リアルでない出来事が積み重なることで、かえってリアルになってくる!

 プルデンシオ・アギラルの幽霊、アウレリャノの予知能力、町中に伝染する不眠症、
 土を食べるレベーカ、ジプシーの空飛ぶ魔法の絨毯、生き返ったメルキアデス、
 200歳近い流れ者、必ず当たるテルネラのトランプ占い、ニカルノ神父の空中浮遊、
 頭が狂って死者と語らうようになったホセ・アルカディオ・ブエンディア・・・

 そんなばかな、と思って読んでいるうちに、いつのまにか納得してしまうのです。
 そして読者は不意に、この現実世界と作品世界が逆転しているのに気付くのです。

 作品世界に引き込む力の源泉となっているのが、祖母を真似たという語り口です。
 祖母は、今見たばかりという顔で、ぞっとするようなことを語ったのだそうです。

 祖母の語りの文体が、「百年の孤独」の命なのかもしれません。
 この語り口には、幻想を現実にしてしまうパワーがあるようです。

 現在、もう少しで前半部分が終わるというところまで読み進めました。
 アウレリャノ・ブエンディア大佐を中心にした、革命小説みたいになってきました。

 ところで、私は結局、書店で「百年の孤独」(単行本)を買ってしまいました。
 本当に良い本だった場合、実物を目にしたら、買わずにはいられなくなりますね。

 さいごに。(「テストが良かったのでアイス」は、かわいそう?)

 学年末テストの結果が良かったので、娘にアイスを買ってあげることになりました。
 娘は大喜び。しかし、他の友達に話すと「かわいそう」と言われたのだそうです。

 というのも、ほかの子の場合は、ゲームとか服を買ってもらえると言うのです。
 アイスなんて、「食べたい」と言えば、たいてい買ってもらえるのだそうです。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

ラテンアメリカ文学入門2 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「ラテンアメリカ文学入門」 寺尾隆吉 (中公新書)


 約100年にわたるラテンアメリカ文学の動向を、分かりやすくまとめています。
 現代ラテンアメリカ文学史の入門書の決定版。2016年に中公新書から出ました。

 20世紀ラテンアメリカ文学を読むために、この本でその流れを学習しています。
 全6章のうち、ブームの初めから終焉後まで、第3章~第6章をまとめました。


ラテンアメリカ文学入門 - ボルヘス、ガルシア・マルケスから新世代の旗手まで (中公新書)

ラテンアメリカ文学入門 - ボルヘス、ガルシア・マルケスから新世代の旗手まで (中公新書)

  • 作者: 寺尾 隆吉
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/10/19
  • メディア: 新書



 第3章 ラテンアメリカ小説の世界進出

 1958年に出たカルロス・フエンテスの「澄みわたる大地」がブームの出発点です。
 膨大な人物をあらゆる手法を駆使して描き、文学の新たな可能性を示しました。

 メキシコの外交官の子である彼は、ラテンアメリカ文学を世界に売り込みました。
 彼の努力で、各国の作家たちは、国境を越えた連帯感を持つようにもなりました。

 このころ都市での人口増加と識字率向上によって、読書熱が沸き上がりました。
 南米の文学市場が拡大し、出版点数が増えたことなどがブームを支えしました。

 1959年にコルタサルの「秘密の武器」、1963年に「石蹴り遊び」が売れました。
 特に破壊的なほど斬新だった「石蹴り遊び」は、合衆国でもヒットしました。

 1963年のバルガス・ジョサの「都会の犬ども」は、スペイン語圏で売れました。
 彼はパリ在住のペルー人で、大胆に省略する技法で、リアリズムを刷新しました。

 1959年のキューバ革命を、ラテンアメリカの作家は注目し、熱烈に支持しました。
 彼らは、フエンテス、バルガス・ジョサ、コルタサルらを中心にまとまりました。

 第4章 世界文学の最先端へ

 1967年にガルシア・マルケスの「百年の孤独」が出ると、全世界に広がりました。
 成功の要因は、異文化の読者に、ラテンアメリカ世界をイメージさせたことです。

 「魔術的リアリズム」とは、ファンタジーとリアリズムを融合した用語です。
 これ以後先進国に売り込む際に、「魔術的リアリズム」が宣伝文句となりました。

 1970年にチリのホセ・ドノソが「夜のみだらな鳥」を出し、成功を手にしました。
 これは、支離滅裂な語り手を中心に醜悪な権力闘争を描いた、悪魔的作品でした。

 このとき、ラテンアメリカ文学ブームの五人衆が出そろいました。
 フエンテス、バルガス・ジョサ、コルタサル、ガルシア・マルケス、ドノソです。

 以前の文学の拠点は、ブエノスアイレス、メキシコシティ、パリの三都市でした。
 1970年代に、作家がバルセロナに集結し、出版の作業効率が各段に上がりました。

 1960年代半ばから、キューバ革命政権は、作家に対する締め付けを始めました。
 1971年の詩人パディージャの逮捕をきっかけに、作家が政権に抗議し始めました。

 やがて政治的立場の微妙な違いが、作家のこれまでの友情に亀裂を入れました。
 1974年にバルガス・ジョサがバルセロナを去ると、五人衆の結束が崩れました。

 1974年から、カルペンティエールの「方法異説」、ロア・バストスの「至高の我」、
 ガルシア・マルケスの「族長の秋」と、三大独裁者小説が次々と発表されました。

 これらは絶対権力に伴う孤独を独裁者に突きつけ、支配体制を内側から崩します。
 これがブームの最後の輝きとなり、このあと作家たちはばらばらになっていきます。

 第5章 ベストセラー時代の到来

 1970年代の終わり、ラテンアメリカ文学ブームの終焉は顕著になり始めました。
 難解な作品が出される一方、娯楽の読書を求める読者層が急速に拡大しました。

 1982年、チリの女流作家イサベル・アジェンデの「精霊たちの家」が出ました。
 興味を引く内容で文体も平易だったため、驚異的なベストセラーとなりました。

 この後、魔術的リアリズムの表層部分を取り込んだ読みやすい小説が流行ります。
 1988年のパウロ・コエーリョの「アルケミスト」も、世界的にヒットしました。

 1980年代以降、娯楽的作品が流行る一方で、純文学作品は厳しい状況でした。
 こういった状況下で注目されたのが、史実を想像力で補った新歴史小説です。

 その最高峰が、1987年に出たフェルナンド・デル・パソの「帝国の動向」です。
 ナポレオン三世の傀儡として、メキシコに送られたマクシミリアンの物語です。

 第6章 新世紀のラテンアメリカ小説

 1998年に、チリのロベルト・ボラーニョの「野生の探偵たち」が出ました。
 新世代の道標となりましたが、ボラーニョは50歳の若さで亡くなりました。

 21世紀に入ってからは、ブーム時と比べても出版点数が大きく増加しました。
 アルゼンチンのセサル・アイラのように、大量生産する作家も出てきました。

 作家は作品を出さなければ忘れられ、安易な作品を出せば見捨てられます。
 ブーム時のように、良い作品が質の高い読者に支えられるのは稀有なことです。

 ブックガイド(個人的に気になる本で主に文庫になっているもの)

 「澄みわたる大地」カルロス・フエンテス → 現代企画室(単行本)
 「秘密の武器」コルタサル → 岩波文庫
 「石蹴り遊び」コルタサル → 集英社(単行本・文庫本)
 「緑の家」バルガス・ジョサ → 岩波文庫
 「楽園への道」バルガス・ジョサ → 岩波文庫
 「密林の語り部」バルガス・ジョサ → 岩波文庫
 「百年の孤独」ガルシア・マルケス → 新潮社(単行本)
 「族長の秋」ガルシア・マルケス → 集英社文庫
 「夜のみだらな鳥」ホセ・ドノソ → 水声社(単行本)
 「精霊たちの家」イサベル・アジェンデ(河出文庫・上下二巻)
 「アルケミスト」パウロ・コエーリョ(角川文庫)
 「帝国の動向」フェルナンド・デル・パソ(未訳)
 「野生の探偵たち」ロベルト・ボラーニョ(白水社・単行本)

 さいごに。(ブエノスアイレスに行ってみたい)

 この本を読んで、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスに興味を持ちました。
 幻想文学の土壌となったこの都市について、こんなふうに書いてあったので。

 「首都ブエノスアイレスは『無』から建設された町であり、歴史的基盤の脆弱
 さが常に意識されるせいか、表面上の華やかさの裏側に消失への恐怖が見え隠
 れする。カルロス・フエンテスによれば、ブエノスアイレスの特徴は『不在』
 にあり、それ自体虚構とすら言えるこの町に住む人々は、言葉によって自らの
 存在を支えるための文学、とくにフィクションに救いの場を求める。」(P52)

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

オリエント急行の殺人 [20世紀イギリス文学]

 「オリエント急行の殺人」アガサ・クリスティー作 山本やよい訳(ハヤカワ文庫)


 オリエント急行の中で起きた殺人事件を、名探偵ポワロが解決する傑作推理小説です。
 奇抜なアイディアによって、作者の代表作となっています。2回映画化されました。


オリエント急行の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

オリエント急行の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/04/05
  • メディア: 文庫



 名探偵エルキュール・ポアロは、急遽オリエント急行に乗り込むことになりました。
 冬なのに一等寝台は満員で、さまざまな国のあらゆる階級の人々が乗っていました。

 ポアロはアメリカの富豪ラチェットに、護衛を頼まれましたが、それを断りました。
 そしてその夜ラチェットは、刺殺されたのでした。刺し傷は12か所もありました。

 ポアロはさっそく事件解明に乗り出しましたが、乗客全員にアリバイがありました。
 燃えさしの手紙から、被害者がアームストロング家の誘拐事件の主犯だと分かり・・・

 この作品は、クリスティーの代表作であり、推理小説の傑作として知られています。
 私は1974年の「オリエント急行殺人事件」を見たので、内容は知っていました。

 映画を見ていなくても、結末を知っているという人は多いのではないかと思います。
 結末を知っていても楽しめました。オリエント急行を舞台にしているところがいい。

 「あらゆる階級、あらゆる国籍、あらゆる年齢の人が集まっている。これから3日間、
 この人々が、知らない者どうしが、一緒に過ごすことになる。(中略)その3日間が
 終わると、別れていく。それぞれの目的地へ向かい、おそらく、二度と会うことはな
 い」(P45)

 面白かったのは、あらゆる階級の人々が、ひとつの目的でつながったという点です。
 そして、彼らは真相を攪乱するために、それぞれ自分にふさわしい役を演じました。

 「念入りに組み立てられたジグソーパズルのようなもので、ジグソーの新しいピース
 がひとつ出てくるたびに、事件全体の解決がむずかしくなる仕掛けになっていたので
 す。」(P398)

 中でも味わいのある人物が、ハバード夫人でした。彼女の正体は・・・
 「昔からずっと、喜劇をやりたいと思ってましたのよ」(P404)・・・

 さて、ごちゃごちゃした情報を、丁寧に整理して解明していく過程はさすがでした。
 ポアロの推理に「なるほど」と感心し、最後の判断に「よかった」と安心しました。

 この決着の付け方については、賛否両論あるようですね。
 次のような言葉に、アガサ・クリスティーの考えが垣間見えるようで、面白いです。

 「今回に関しては、正義がーー本当の意味での正義がーーおこなわれたと思っており
 ます」(ドラゴミロフ公爵夫人の言葉・P356)

 ところで、この小説を読んでいると、オリエント急行に乗ってみたくなります。
 今でもオリエント急行を復元した列車が、部分的に運行しているらしいです。

オリエント急行.png

 クリスティーのほかの作品で、有名なものは次の二作です。今後読んでみたいです。
 「そして誰もいなくなった」と「アクロイド殺し」。


そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2003/10/01
  • メディア: 文庫



アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2003/12/01
  • メディア: 文庫



 さいごに。(一斉休校)

 新型コロナウィルスの流行防止のため、市内の小中高校は一斉休校に入っています。
 娘は月曜日の午前だけ登校して、その後は2週間休み。久々にのんびりしています。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

族長の秋 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「族長の秋」 ガルシア・マルケス作 鼓直訳 (集英社文庫)


 暴虐の限りを尽くした大統領の、残虐な行為とその孤独を描いた、幻想的小説です。
 1975年に刊行された独裁者小説です。「百年の孤独」と並ぶ、作者の代表作です。


ラテンアメリカの文学 族長の秋 (集英社文庫)

ラテンアメリカの文学 族長の秋 (集英社文庫)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2011/04/20
  • メディア: 文庫



 ある朝、大統領が死にましたが、死体を見てもその死を、誰も信じませんでした。
 というのも、大統領が死んだのは、これが初めてではなかったからです。

 かつて同じような状況で見出された死体は、実は影武者アラゴネスのものでした。
 大統領の身代わりとして死んだアラゴネスは、死の床で必死に訴えかけました。

 「それよりも閣下、このさい、真相に目を向けられたらいかがです、ほんとに心の
 なかで思っていることを閣下に言った人間は、一人もいないんですよ、みんなが、
 閣下が聞きたがっているなと思うことを口にする、閣下の前ではぺこぺこし、後ろ
 ではアカンベエをしている、・・・」(P41)

 この言葉は象徴的です。まさにそこに、大統領の孤独の原因があります。
 しかし大統領は信じません。民衆は自分を愛しているのだと思い込んでいて・・・

 さて、この本を手に取ってページをめくったところ、私はいきなり面食らいました。
 文章が段落なしで、50ページ以上にわたって続いています。文字がぎっしりです。

 覚悟して読み始めましたが、最初は戸惑ってばかりでした。
 語り手の人称がころころ変わるし、話はあっちへ行ったりこっちに行ったりします。

 しかも、ありえないことが、平然と当たり前のように記されています。
 ハゲタカの群れが大統領の死体を啄んだとか、バルコニーには牛がいたとか・・・

 ハゲタカや牛は、何かの比喩なのか? それとも、文字通りに解釈してよいのか?
 この手の小説の読み方がいまいち分からなくて、慣れるまでがたいへんでした。

 ともかく文字通り解釈しようと開き直ってからは、少し理解しやすくなりました。 
 文体は、バルザックやドストエフスキー同様にリズムがあり、クセになります。

 内容は、時に現実的で、時に非現実的、たまに突拍子もないたわごともあります。
 時に悲劇的で、時に喜劇的。たまにお下劣で、下ネタもあります。

 特に印象に残ったのは、中盤に語られる、身の毛もよだつ残虐行為です。
 2000人の子供らをいかに始末したか? 終生の友ロドリゴ将軍をいかに処分したか?

 しかし終盤、大統領が頻繁に「おふくろよ」とつぶやく場面は、痛々しかったです。
 結局、自分を終生本当に愛してくれたのは、亡き母ベンディシオンだけでした・・・ 

 さて、「族長の秋」は実に読みにくい小説でした。文体が良くも悪くも個性的です。
 次は、いよいよ「百年の孤独」にチャレンジです。覚悟を決めて読み始めなければ。


百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)

百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/12/01
  • メディア: 単行本



 さいごに。(歩き高跳びか!)

 娘の陸上教室の走高跳の先生は、良い先生なのですが、ちょっと毒舌です。
 うちの娘は助走が遅いので、「お前のは歩き高跳びか!」と言われたのだそうです。

 それでも娘は、めげずによくがんばっていると思います。
 助走の練習をしてから跳んだら、「お前にしては速くなった」と言われたそうです。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ: