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ラテンアメリカ文学入門2 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「ラテンアメリカ文学入門」 寺尾隆吉 (中公新書)


 約100年にわたるラテンアメリカ文学の動向を、分かりやすくまとめています。
 現代ラテンアメリカ文学史の入門書の決定版。2016年に中公新書から出ました。

 20世紀ラテンアメリカ文学を読むために、この本でその流れを学習しています。
 全6章のうち、ブームの初めから終焉後まで、第3章~第6章をまとめました。


ラテンアメリカ文学入門 - ボルヘス、ガルシア・マルケスから新世代の旗手まで (中公新書)

ラテンアメリカ文学入門 - ボルヘス、ガルシア・マルケスから新世代の旗手まで (中公新書)

  • 作者: 寺尾 隆吉
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/10/19
  • メディア: 新書



 第3章 ラテンアメリカ小説の世界進出

 1958年に出たカルロス・フエンテスの「澄みわたる大地」がブームの出発点です。
 膨大な人物をあらゆる手法を駆使して描き、文学の新たな可能性を示しました。

 メキシコの外交官の子である彼は、ラテンアメリカ文学を世界に売り込みました。
 彼の努力で、各国の作家たちは、国境を越えた連帯感を持つようにもなりました。

 このころ都市での人口増加と識字率向上によって、読書熱が沸き上がりました。
 南米の文学市場が拡大し、出版点数が増えたことなどがブームを支えしました。

 1959年にコルタサルの「秘密の武器」、1963年に「石蹴り遊び」が売れました。
 特に破壊的なほど斬新だった「石蹴り遊び」は、合衆国でもヒットしました。

 1963年のバルガス・ジョサの「都会の犬ども」は、スペイン語圏で売れました。
 彼はパリ在住のペルー人で、大胆に省略する技法で、リアリズムを刷新しました。

 1959年のキューバ革命を、ラテンアメリカの作家は注目し、熱烈に支持しました。
 彼らは、フエンテス、バルガス・ジョサ、コルタサルらを中心にまとまりました。

 第4章 世界文学の最先端へ

 1967年にガルシア・マルケスの「百年の孤独」が出ると、全世界に広がりました。
 成功の要因は、異文化の読者に、ラテンアメリカ世界をイメージさせたことです。

 「魔術的リアリズム」とは、ファンタジーとリアリズムを融合した用語です。
 これ以後先進国に売り込む際に、「魔術的リアリズム」が宣伝文句となりました。

 1970年にチリのホセ・ドノソが「夜のみだらな鳥」を出し、成功を手にしました。
 これは、支離滅裂な語り手を中心に醜悪な権力闘争を描いた、悪魔的作品でした。

 このとき、ラテンアメリカ文学ブームの五人衆が出そろいました。
 フエンテス、バルガス・ジョサ、コルタサル、ガルシア・マルケス、ドノソです。

 以前の文学の拠点は、ブエノスアイレス、メキシコシティ、パリの三都市でした。
 1970年代に、作家がバルセロナに集結し、出版の作業効率が各段に上がりました。

 1960年代半ばから、キューバ革命政権は、作家に対する締め付けを始めました。
 1971年の詩人パディージャの逮捕をきっかけに、作家が政権に抗議し始めました。

 やがて政治的立場の微妙な違いが、作家のこれまでの友情に亀裂を入れました。
 1974年にバルガス・ジョサがバルセロナを去ると、五人衆の結束が崩れました。

 1974年から、カルペンティエールの「方法異説」、ロア・バストスの「至高の我」、
 ガルシア・マルケスの「族長の秋」と、三大独裁者小説が次々と発表されました。

 これらは絶対権力に伴う孤独を独裁者に突きつけ、支配体制を内側から崩します。
 これがブームの最後の輝きとなり、このあと作家たちはばらばらになっていきます。

 第5章 ベストセラー時代の到来

 1970年代の終わり、ラテンアメリカ文学ブームの終焉は顕著になり始めました。
 難解な作品が出される一方、娯楽の読書を求める読者層が急速に拡大しました。

 1982年、チリの女流作家イサベル・アジェンデの「精霊たちの家」が出ました。
 興味を引く内容で文体も平易だったため、驚異的なベストセラーとなりました。

 この後、魔術的リアリズムの表層部分を取り込んだ読みやすい小説が流行ります。
 1988年のパウロ・コエーリョの「アルケミスト」も、世界的にヒットしました。

 1980年代以降、娯楽的作品が流行る一方で、純文学作品は厳しい状況でした。
 こういった状況下で注目されたのが、史実を想像力で補った新歴史小説です。

 その最高峰が、1987年に出たフェルナンド・デル・パソの「帝国の動向」です。
 ナポレオン三世の傀儡として、メキシコに送られたマクシミリアンの物語です。

 第6章 新世紀のラテンアメリカ小説

 1998年に、チリのロベルト・ボラーニョの「野生の探偵たち」が出ました。
 新世代の道標となりましたが、ボラーニョは50歳の若さで亡くなりました。

 21世紀に入ってからは、ブーム時と比べても出版点数が大きく増加しました。
 アルゼンチンのセサル・アイラのように、大量生産する作家も出てきました。

 作家は作品を出さなければ忘れられ、安易な作品を出せば見捨てられます。
 ブーム時のように、良い作品が質の高い読者に支えられるのは稀有なことです。

 ブックガイド(個人的に気になる本で主に文庫になっているもの)

 「澄みわたる大地」カルロス・フエンテス → 現代企画室(単行本)
 「秘密の武器」コルタサル → 岩波文庫
 「石蹴り遊び」コルタサル → 集英社(単行本・文庫本)
 「緑の家」バルガス・ジョサ → 岩波文庫
 「楽園への道」バルガス・ジョサ → 岩波文庫
 「密林の語り部」バルガス・ジョサ → 岩波文庫
 「百年の孤独」ガルシア・マルケス → 新潮社(単行本)
 「族長の秋」ガルシア・マルケス → 集英社文庫
 「夜のみだらな鳥」ホセ・ドノソ → 水声社(単行本)
 「精霊たちの家」イサベル・アジェンデ(河出文庫・上下二巻)
 「アルケミスト」パウロ・コエーリョ(角川文庫)
 「帝国の動向」フェルナンド・デル・パソ(未訳)
 「野生の探偵たち」ロベルト・ボラーニョ(白水社・単行本)

 さいごに。(ブエノスアイレスに行ってみたい)

 この本を読んで、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスに興味を持ちました。
 幻想文学の土壌となったこの都市について、こんなふうに書いてあったので。

 「首都ブエノスアイレスは『無』から建設された町であり、歴史的基盤の脆弱
 さが常に意識されるせいか、表面上の華やかさの裏側に消失への恐怖が見え隠
 れする。カルロス・フエンテスによれば、ブエノスアイレスの特徴は『不在』
 にあり、それ自体虚構とすら言えるこの町に住む人々は、言葉によって自らの
 存在を支えるための文学、とくにフィクションに救いの場を求める。」(P52)

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