SSブログ

2020年7月発売の気になる文庫本 [来月発売の気になる文庫本]

 2020年7月発売予定の文庫本で、気になるものを独断で紹介します。
 データは、出版社やamazonやhontoの、メルマガを主に参考にしています。


・7/7 「この世界を知るための 人類と科学の400万年史」
    レナード・ムロディナウ(河出文庫)
 → 単行本で出て分かりやすいと評判だった科学史の本。気になる。

・7/10「図説 神さま仏さまの教えの物語 今昔物語集」小峯和明(青春文庫)
 → 図説というところが面白そうで気になる。図がきれいだったら買い。

・7/22「黒死病 ペストの中世史」ジョン・ケリー(中公文庫)
 → 迫力ある記述で評価が高い。アマゾンで中古が16000円。気になる。

・7/30「失われた世界【新訳版】」コナン・ドイル(創元SF文庫)
 → 私が本好きになったきっかけの本。現在多くの訳あり。気になる。


◎ フエンテスの「テラ・ノストラ」をどうするか?

 1975年に出た「テラ・ノストラ」は、二段組みで1000ページ超の長大な小説です。
 図書館で手に取ってみて、その重量感にビビリました。筋トレができそうです。

 例によって話があちこち飛び、人称がころころ変わり、理解しがたい本だと言う。
 取り掛かるには相当の時間と労力が必要ですが、私には今その両方がありません。

 ということで、定年後の楽しみとして、取って置きたいと思っています。
 ちなみに、以下のような魅力的な文章で始まります。ああ、定年が待ち遠しい!

 「別の動物のことを夢見た最初の動物。怪物的ともいうべき、二本足で歩行するこ
 とのできた最初の脊椎動物。かくして人間は、いまだに創造の源である泥土を、の
 ほほんと、ありのままの姿で血を這いずりまわる動物たちの間に、恐怖を撒き散ら
 したのである。・・・」(P19)

 この小説は、木村榮一の「ラテンアメリカ十大小説」でも紹介されています。
 冒頭の展開を読んだだけで、これがとてつもない物語であることが分かります。


テラ・ノストラ (フィクションの楽しみ)

テラ・ノストラ (フィクションの楽しみ)

  • 出版社/メーカー: 水声社
  • 発売日: 2016/05/01
  • メディア: 単行本




◎ 「石蹴り遊び」を中古でゲット。

 コルタサルのこの名作は、集英社文庫版の中古の相場が上下で4000円ほどでした。
 そのため一時は、購入するのも読むのも諦めていました。

 ところが、以前からチェックしていたサイトで、2100円で出たので購入しました。
 送料を入れると2冊で2400円。若干高いけど、まあ、許容範囲としておきましょう。

 多少傷みのある商品のようですが、届くのを楽しみにしています。
 ただ、時間があまりないので、読むのはかなり先になりそうなのですが。


石蹴り遊び(上) (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

石蹴り遊び(上) (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1995/01/20
  • メディア: 文庫



石蹴り遊び(下) (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

石蹴り遊び(下) (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1995/01/20
  • メディア: 文庫




◎ 「ブラス・クーバスの死後の回想」は、新品が手に入った!

 マシャード・ジ・アシスのこの名作は、古典新訳文庫で出たものの現在は絶版です。
 中古はアマゾンで4000円超です。ところが、hontoでは定価でちゃんと買えました。

 受取店に届くまで2週間以上かかりましたが、全国から取り寄せてくれたためです。
 新品の本が、定価で買える。当たり前のようですが、とてもありがたいことです。
 (ちなみに kindle unlimited で0円)


ブラス・クーバスの死後の回想 (光文社古典新訳文庫)

ブラス・クーバスの死後の回想 (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/12/20
  • メディア: Kindle版




◎ 村上春樹の短編集発売!

 hontoメールによると、7/18に文芸春秋から村上春樹の短編集が発売されるそうです。
 タイトルは、「一人称単数」。6年ぶりとなる短編小説集。文庫化されたら買い。


◎ 岩波ジュニア新書「世界の神話」をチェック

 文庫本ではないけど、岩波ジュニア新書は良書を出すので、時々チェックしています。
 今回目にとまったのは、沖田瑞穂の神話入門書、「世界の神話」です。これは、買い。

 世界中の神話を紹介し、その特徴と意味を述べています。詳しくは特設サイトを。
 特設サイト→ https://www.iwanami.co.jp/jr40th/shinwa/


世界の神話 (岩波ジュニア新書)

世界の神話 (岩波ジュニア新書)

  • 作者: 瑞穂, 沖田
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2019/08/23
  • メディア: 新書




◎ さいごに。

 むし暑い日が続きます。職場でクーラーをつけることが多くなりました。
 室外と室内の温度差が大きいのでとても疲れます。最近はなかなか本が読めません。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

アウラ フエンテス短編集 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「アウラ・純な魂 他四編」 フエンテス作 木村榮一訳 (岩波文庫)


 怪奇幻想小説の傑作「アウラ」を含む、カルロス・フエンテスの短編全6編です。
 1995年に岩波文庫から出ました。木村訳は、比較的読みやすいです。


フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇 (岩波文庫)

フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1995/07/17
  • メディア: 文庫



 冒頭の「チャック・モール」は、古代マヤの神像にまつわる不思議な物語です。
 ゴシック小説のように進みますが、途中からユーモア小説のような感じです。

 フィリベルトは、ある日骨董店で、雨の神チャック・モールの神像を買いました。
 その神像に命が芽生えて動き出し、しだいに人間生活に染まっていき・・・

 神像が蘇ったとき、いったい何が起こるか?
 古代マヤの尊い神は、人間社会に何をもたらすのか?

 という興味で読んでいましたが、途中からは、思わず笑ってしまう展開でした。
 最後の場面で、語り手がフィリベルトの家に行ったとき、出てきたのは?!

 最後を飾る「アウラ」は、フエンテスを代表するゴシック小説です。
 映画「雨月物語」や上田秋成の原作から、多くの影響を受けて作られたようです。 

 フェリーペ青年は、高額の報酬につられて、コンスエロ夫人の屋敷を訪ねました。
 60年前に亡くなったリョレンテ将軍の回想録をまとめるように、と依頼されました。

 ただし、住み込みという条件があり、フェリーペはそこから出ることができず・・・
 コンスエロ夫人には、緑色の服を着たアウラという美しい姪がいて・・・

 フェリーペは冥界に迷い込んだのではないか?
 コンスエロ夫人やアウラが行っていた秘儀には、どのような意味があるのか?

 コンスエロ夫人とアウラは、結局どういう関係だったのか?
 フェリーペとリョレンテ将軍は、いったいどういう関係にあったのか?

 物語には謎めいた言葉がちりばめられ、物語は謎めいた展開をします。
 結末もまた謎めいています。いろんな解釈ができて、非常に興味深い作品です。

 「アウラ」と並んでゴシック色が強い作品が、「女王人形」です。
 読み終わったときの、後味の悪さはピカイチですね。背筋が凍りつきます。

 子供の頃に読んだ本の中から、一枚のカードが出てきました。「アミラミアは
 友だちのことを忘れません。ここに書いてある場所へさがしに来てください」

 「僕」は思い出します。14歳の頃、7歳だった彼女といっしょに過ごした日々を。
 29歳になった今、カードに書かれた住所を頼りに、彼女を訪ねますが・・・

 出だしは、幼いころの恋がテーマなのかと思わせます。しかし、この後の展開は!
 彼女の屋敷で見た「女王人形」とは何か? 再訪したとき、「僕」は何を見たか?

 「純な魂」は、近親相姦的な兄妹愛による、悲劇的な物語です。
 最初は、4年ぶりに兄を迎えに行く妹を描いた、牧歌的な作品かと思いました。

 ところが読み進めていくうちに、まったく違う状況であることが分かってきます。
 結末まできて、悲劇の全貌が理解できます。これまたゴシック的な小説でした。

 この短編集は、「アウラ」「チャック・モール」「女王人形」「純な魂」など、
 ゴシック的な、とてもフエンテスらしい小説を収録した短編集となっています。

 しかし、その一方で、どこか中途半端な感じもします。
 というのも、「生命線」「最後の恋」など、長編の一部が含まれているからです。

 この二編に代わるゴシック小説は、無かったのでしょうか。
 この二編が、優れた短編であると認めつつも、やはり他の作品が欲しかったです。

 さいごに。(遠近両用で快調)

 しばらく前から、仕事で遠近両用メガネを使っています。とても便利です。
 いちいちメガネを外さなくても、資料を読むことができる点がすばらしい。

 私は、眼鏡市場で購入しています。遠近にしても追加料金なしというのが嬉しい。
 この店のイチオシは、なんと言っても「ゼログラ」です。掛け心地が抜群です。


nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

アルテミオ・クルスの死2 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「アルテミオ・クルスの死」 フエンテス作 木村榮一訳 (岩波文庫)

 一代で成り上がったアルテミオ・クルスの生涯と、その時代背景を描いた物語です。
 ラテンアメリカ文学ブームの先駆的作品です。昨年2019年に岩波文庫から出ました。


アルテミオ・クルスの死 (岩波文庫)

アルテミオ・クルスの死 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2019/11/16
  • メディア: 文庫



 すばらしい作品でした。「百年の孤独」級の衝撃を受けました。
 最後、アルテミオ・クルスの誕生と死が、混然一体となって終わるところがいい。

 さて、死を前にしてアルテミオ・クルスは、人生における12の場面を振り返ります。
 これらのエピソードは、朦朧とした意識によって、以下のように順不同で蘇ります。

 1 1941年7月(52歳) 妻カタリーナと買い物へ。アメリカ人との取引。
 2 1919年5月(30歳) カタリーナと結婚。
 3 1913年12月(24歳) メキシコ革命で、永遠の女レヒーナとの恋。
 4 1924年6月(35歳) カタリーナとの行き違い。国会議員選挙に出る。
 5 1927年11月(38歳) 政権交代における危機を乗り切る。
 6 1947年7月(58歳) リリアと過ごした休暇で、老いを感じる。
 7 1915年10月(26歳) メキシコ革命で敵軍に捕まるが、生き延びる。
 8 1934年8月(45歳) ラウラのアパートで過ごした一日。
 9 1939年2月(49歳) 息子ロレンソがスペイン内乱に参加し、戦死する。
 10 1955年12月(66歳) リリアと一緒に大パーティーを開く
 11 1903年1月(13歳) ルネーロと過ごした少年時代。出生のこと。
 12 1889年4月(0歳)  アルテミオが生まれる。

 これら12のエピソードは、おそらく彼にとって、人生で重要な場面だったのでしょう。
 これを、以下のように年齢順に並び直すと、アルテミオの人生の略図が見えてきます。

 1 1889年4月(0歳)  アルテミオが生まれる。
 2 1903年1月(13歳) ルネーロと過ごした少年時代。出生のこと。
 3 1913年12月(24歳) メキシコ革命で、永遠の女レヒーナとの恋。
 4 1915年10月(26歳) メキシコ革命で敵軍に捕まるが、生き延びる。
 5 1919年5月(30歳) カタリーナと結婚。
 6 1924年6月(35歳) カタリーナとの行き違い。国会議員選挙に出る。
 7 1927年11月(38歳) 政権交代における危機を乗り切る。
 8 1934年8月(45歳) ラウラのアパートで過ごした一日。
 9 1939年2月(49歳) 息子ロレンソがスペイン内乱に参加し、戦死する。
 10 1941年7月(52歳) 妻カタリーナと買い物へ。アメリカ人との取引。
 11 1947年7月(58歳) リリアと過ごした休暇で、老いを感じる。
 12 1955年12月(66歳) リリアと一緒に大パーティーを開く

 これら12のエピソードの中で、印象的だったのは、メキシコ革命時のものです。
 特に、24歳の時の、レヒーナとの熱い恋の場面は、涙なしには読めません。

 ふたりはどのようにして結ばれたのか? そして、どのように終わったのか?
 アルテミオ・クルスの人生で、レヒーナの存在は、いかに大きかったか!

 また、26歳の時の、敵軍の捕虜となる場面は、ちょっとした冒険小説です。
 銃殺刑の直前、アルテミオはどのように、九死に一生を得たのか?

 ここで彼は、初めて人を裏切り、自分を裏切りました。
 彼は、命拾いしたこの日に、生まれ変わったのかもしれません。

 こののち、アルテミオ・クルスは、純粋な革命家ではなくなってしまいます。
 やがて彼は、手を汚し、堕落し、その見返りとして、成り上がっていくのです。

 中で、もっともよく描けているエピソードは、リリアと過ごす休暇の場面です。
 これまで自信を持ってひたすら走ってきた彼が、不意に老いを感じて・・・

 この場面は「最後の恋」というタイトルで、「短編集」に収録されていました。
 人生の悲哀をしんみり味わうことのできる、秀逸な作品となっています。

 ほかに、フエンテスの作品で読みたいものに、「澄みわたる大地」があります。
 まだ文庫本になっていません。単行本を買って読むしかなさそうです。


澄みわたる大地

澄みわたる大地

  • 出版社/メーカー: 現代企画室
  • 発売日: 2012/03/01
  • メディア: 単行本



 さいごに。(月間「ムー」を買いたい)

 私は高校卒業と同時に、月間「ムー」も卒業し、かれこれ35年近くがたちました。
 ところが、2020年の7月号は久々に買いたい。特集が「松原照子の未来予言」なので。

 彼女は、トランプの勝利を当て、2020年の東京五輪が無いことを当てています。
 いったいどんな予言をしているのか。とても気になっています。


ムー 2020年 07 月号 [雑誌]

ムー 2020年 07 月号 [雑誌]

  • 出版社/メーカー: 学研プラス
  • 発売日: 2020/06/09
  • メディア: 雑誌



nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

アルテミオ・クルスの死1 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「アルテミオ・クルスの死」 フエンテス作 木村榮一訳 (岩波文庫)


 一代で成り上がったアルテミオ・クルスの生涯と、その時代背景を描いた物語です。
 1962年に出て、ラテンアメリカ文学ブームの口火を切ることとなった作品です。


アルテミオ・クルスの死 (岩波文庫)

アルテミオ・クルスの死 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2019/11/16
  • メディア: 文庫



 メキシコの経済界の大立者であるアルテミオ・クルスは、ある日突然倒れました。
 病の床にあって、時々朦朧としながらも、自分の生涯を少しずつ振り返ります。

 娘の結婚準備、妻への求婚、メキシコ革命、最愛の女とその死、妻とのすれ違い、
 富の獲得、地主との取引、敵軍の牢で出会った学士、九死に一生を得る・・・

 10~20ページの断章が集まってできているので、比較的読みやすいです。
 ただし、断章の語り口が次々に変わっていくので、最初は戸惑いました。

 1人称→2人称→3人称→1人称→2人称→3人称というように続いていきます。
 そして、この語り口の変化こそが、本作品を唯一無二のものとしている特徴です。

 1番目の断章は1人称の「わし」を使い、現在形で語られています。
 「わしは何々している」と語られ、死を目前にした男の内的独白となっています。

 2番目の断章は2人称の「お前」を使い、未来形で語られています。
 「お前は何々するだろう」と語られ、男の過去の行為を、予言的に表しています。

 3番目の断章は3人称の「彼」を使い、過去形で語られています。
 「彼は何々した」と語られ、男の人生を、神の視点から客観的に記しています。

 しかも、3人称の断章にだけ、冒頭に日付がきちんと記されています。
 まるで、この断章だけは正確に記した客観的事実なのだ、と言っているようです。

 これら「わし」「お前」「彼」は、すべてアルテミオ・クルスを指しています。
 アルテミオ・クルスのことが、さまざまな語り手によって、描かれているのです。

 では、語り手は誰なのか?
 矛盾するようですが、これまたすべて、アルテミオ・クルスのようなのです。

 「わし」と言ったときはもちろん、「お前」と呼びかけるときも、距離を置いて
 「彼」と語るときも、主体は同じアルテミオ・クルスのような気がするのです。

 「お前」と言うのは、混濁した意識から生じる、アルテミオの分身ではないのか?
 「彼」と言うのは、死後の世界から一生を振り返っている、自分ではないのか?

 さて、3人称の断章に記された日付は、時間軸にそっていません。
 それは、朦朧とした意識が、過去と現在を、あっちこっちに飛ぶからでしょう。

 この記憶の扱い方が、プルーストの「失われた時を求めて」に似ています。
 日付順にたどれば、分かりやすくなりますが、魅力は半減しそうです。

 ちなみに私は、1人称→2人称→3人称と続く3断章を、1セットと考えました。
 毎日3つの断章ずつ(1日約30ページ)読んだら、ちょうどよいペースでした。

 現在、ちょうど物語の半ばくらいまで読みました。
 読み慣れてくると、非常に面白いです。独特の語りに、ぐいぐい引き込まれます。

 特に引き込まれた部分は、若いころ革命軍に身を投じていたときのことです。
 強引にものにしたレヒーナを愛し、そして失ってしまう場面は、少し泣けました。

 所々で「レヒーナ」という呼びかけがあるたびに、読んでいて胸がうたれました。
 心にいつまでも存在する永遠のレヒーナ。しかし、それは誰にも明かせず・・・

 後半、ますます面白くなりそうです。このあとも物語から目が離せません。
 なお、フエンテス短編集が岩波文庫から出ていることを、今更ながら知りました。


フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇 (岩波文庫)

フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1995/07/17
  • メディア: 文庫



 さいごに。(ムーTシャツは?)

 ファッションセンターしまむらでは、時々月間ムーとのコラボ商品を出しています。
 今年も「ムーTシャツ」は、出るのでしょうか? 出たら絶対手に入れたい。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

エジプトの神話 [古代文学]

 「エジプトの神話」 矢島文夫 (ちくま文庫)


 パピルスに書かれたエジプト神話のうち、重要なものを分かりやすく紹介した本です。
 1983年に「世界神話」シリーズとして出ました。その後、ちくま文庫入りしました。


エジプトの神話―兄弟神のあらそい (ちくま文庫―世界の神話)

エジプトの神話―兄弟神のあらそい (ちくま文庫―世界の神話)

  • 作者: 矢島 文夫
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2020/05/22
  • メディア: 文庫



 全4章に、さまざまな神話や伝承が紹介されています。
 また、冒頭の「はじめに」では、おおまかな解説があって、参考になりました。

 私的に最も印象に残ったのは、第Ⅲ章の「サトニ・ハームスの怪奇な物語」です。
 ゴーチェやルゴーネスが書きそうな怪奇幻想小説です。現代でも通じる作品です。

 ある日サトニが、魔力のある書物の話をしていると、ある老人が来て言いました。
 「おまえさまを、トト神自身が書かれた書物のあるところにつれてつれていこう。」

 サトニは老人に連れられて、ネフェルカブタハ王子のお墓に入っていきました。
 すると、その妃のミイラが突然立ち上がって、「おまえはだれだ。」と・・・

 しかし、本書の中心は第Ⅱ章のようです。副題が、「兄弟神のあらそい」なので。
 第Ⅲ章には「ホルスとセトのあらそい」「アヌブとバタの物語」などがあります。

 しかし上記の二つは、講談社学術文庫の「古代エジプト」にも入っていました。
 「古代エジプト」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2016-01-24

 むしろ本書で特徴的なのは、第Ⅳ章の「三つの神話パピルス」だと思います。
 第Ⅳ章の三つの物語は、アモン神殿の神官を主人公にした「死者の書」です。

 いずれも、死者が西方の楽園に行くまでを描くことで、それを祈願しています。
 本書では、図版で示しながら説明しているので、とても分かりやすかったです。

 白い帽子のオシリス神に死者が捧げ物をする → 太陽の舟で死者の国へ向かう →
 金狼の頭のアヌビス神が死者の心臓を測る → つり合いが取れて死者は喜ぶ・・・

 中でも、私にとってもっとも興味深かったのは、腕を持つ巨大な空飛ぶ目です。
 「ホルスの目」と言うようです。死者の書の随所に登場しますが、謎が多い。

 いろいろと知りたくて、岩波新書の「古代エジプト人の世界」を読みました。
 オールカラーなので、「死者の書」の絵はとてもよく分かりました。

 また、壁画もヒエログリフも、神々に見られることを目的としていて、書かれた
 ことは本当になると考えられていた、などという指摘は実に興味深かったです。


カラー版 古代エジプト人の世界―壁画とヒエログリフを読む (岩波新書)

カラー版 古代エジプト人の世界―壁画とヒエログリフを読む (岩波新書)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2004/11/19
  • メディア: 新書



 「死者の書」については、つぎのような興味深い(ムー民的な)本もあります。
 「世界最古の原点 エジプト死者の書」ウオリス・バッジ(たまの新書)。

 死んだ書記官のアニが、霊界の様子を詳しく報告してくれます。
 内容はまゆつばモノですが、著者は、大英博物館のエジプト学部長だそうです。


世界最古の原典エジプト死者の書 (たまの新書)

世界最古の原典エジプト死者の書 (たまの新書)

  • 出版社/メーカー: たま出版
  • 発売日: 1994/05/01
  • メディア: 新書



 さいごに。(忠誠心?)

 「アベノマスク」を付けるのは、首相への忠誠心を示すためなのだそうですね。
 私は、うちのママさんへの忠誠心を示すために、「ママのマスク」を付けています。

 布のマスクなので、暑くなってくると、とてもたいへんです。
 しかし、ほかのマスクに変えるのも・・・

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

世界文学の流れをざっくりとつかむ23 [世界文学の流れをざっくりとつかむ]

≪第六章≫ ルネサンス期から十七世紀の文学

 3 スペイン黄金期の文学

 フランスでルネサンス文化の花が開いた16世紀、隣のスペインでは黄金の世紀を迎えました。16世紀の前半、カルロス一世によってスペインは一大帝国を築き上げました。その原動力となったのは、アステカ、マヤ、インカの文明を次々と滅ぼし、略奪して得た富でした。1556年に国王となったフェリペ2世は絶対主義を推し進め、イベリア半島統一後も世界中で植民地を獲得し、スペインを太陽の沈まぬ国と言われるほどにまで拡大しました。その一方で、人々のモラルは低下し、治安は悪化しました。このような風潮のもと、社会の矛盾をあからさまに描いた作品が、次々と登場しました。

 1554年に「ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯」が出版されました。これは、最初のピカレスク小説です。最下層で育った少年ラサロが、さまざまな主人に仕えながら悪賢さを身に付けていく物語で、架空の話でありながら、もっともらしく描かれています。意地汚い聖職者が登場したり、免罪符売りの詐欺の手口が暴露されたりもしています。そのため、フェリペ二世によって禁書目録に加えられ、作者は名前を伏せることになりました。しかしスペインで大流行し、その後のピカレスク小説の発展に大きな影響を与えました。

 1605年に「ドン・キホーテ」を出版したミゲル・デ・セルバンテスは、スペインで最も有名な作家です。物語の主人公は、騎士物語を読みすぎて妄想に陥った、中年男ドン・キホーテです。従者サンチョパンサを従え旅に出て、数々の滑稽な事件を巻き起こします。風車を巨人だと思い込んで立ち向かったり、羊の大軍を軍隊だと思って突入したり、宿屋の女中を美しい姫様だと思い込んで話しかけたりと、その夢想はとどまることを知りません。多くの笑いをもたらす一方で、時として登場人物は神妙な言葉を吐き、読者は人間について、また人生について考えさせられます。そのため、「人生の書」とも呼ばれ、近代小説の祖とされています。その内容は普遍的な価値を持ち、今も世界中の人々によって読み継がれています。

 1626年に「ぺてん師ドン・パブロスの生涯」を出版したフランシスコ・デ・ケベードも、この時代を代表する作家です。この作品は、ピカレスク小説の最高傑作と言われています。語り手のパブロスは、卑しい生まれを隠しながら、なんとか貴族にのし上がろうとします。その手口は冷徹であくどく、彼の行動を通して、当時の社会の歪みを描き出しています。

 スペイン黄金期には、いくつかの有名な劇場が誕生し、演劇の人気が高まりました。特に、17世紀初頭に活躍したロペ・デ・ベガは、伝統的な作劇法にこだわらず、大衆の好みに合わせた新しい演劇の様式を掲げ、大衆演劇の発展に貢献しました。生涯に書いた800編ほどの戯曲のうち、「オルメードの騎士」などは、現代でも読み継がれている傑作です。ロペ・デ・ベガが始めた新しい演劇の様式は、17世紀後半に出たペドロ・カルデロン・デ・ラ・バルカへと受け継がれ、さらに磨きがかけられました。「人の世は夢」「サラメアの村長」など、現代でも読まれ続けています。

 次回は、イギリス・エリザベス朝文学について述べたいと思います。

 さいごに。(運動できなくて)

 5月まではコロナで、走ることができませんでした。今は忙しくて、走れません。
 職場の階段を、マスクをしたまま、1階から5階まで歩いたら、へとへとでした。

 体重は依然70キロ。運動していないのだから、当たり前か。
 それなら甘いものを食べるのを控えればいいのだけど・・・これが難しいのです。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

メソポタミアの神話 [古代文学]

 「メソポタミアの神話」 矢島文夫 (ちくま学芸文庫)


 メソポタミアの神話の中で、特に重要なものを、分かりやすく紹介した入門書です。
 1982年に「世界神話」シリーズの一冊として出た本が、2020年に文庫化されました。


メソポタミアの神話 (ちくま学芸文庫)

メソポタミアの神話 (ちくま学芸文庫)

  • 作者: 矢島 文夫
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2020/04/10
  • メディア: 文庫



 メソポタミアの神話の中で、まっ先に思い浮かべるのは「ギルガメシュ」でしょう。
 全Ⅳ章中、第Ⅲ章が「ギルガメシュ神話」に充てられ、本書の中心となっています。

 森の怪物フンババの征討に向かうとき、親友であるエンキドゥはそれを止めました。
 そのときギルガメシュはエンキドゥに対して、まるで悟ったようなことを言います。

 「太陽のもとで永遠に生きるものは神々だけであって、人間が生きる日数というもの
 は限られているのだ。」と。

 しかしエンキドゥが死んだとき、ギルガメシュは初めて死の恐ろしさを感じました。
 不死を探して旅に出て、その途上、酒屋の女将から、こんなふうに教えられました。

 「神々が人間を創られたとき、生命は自分たちの手のうちにとどめておき、人間には
 死を割りふられたのです。」と。

 ギルガメシュは、不死の人ウトナビシュティムから、どのような話を聴いたのか?
 ギルガメシュは、不死の秘密を手に入れることができたのか?・・・

 「ギルガメシュ叙事詩」は、「不死の探求」をテーマにした神話です。
 いや、聖典と言ってもいいかもしれません。内容は実に深遠です。

 これまで、さまざまな「ギルガメシュ叙事詩」を読んできました。
 本書「メソポタミアの神話」で、「ようやく決定版に出会った」という感じです。

 同じ矢島文夫の「ギルガメシュ叙事詩」は、原文に非常に忠実に訳してあります。
 しかし、忠実すぎてよく分かりません。粘土板の欠損部分も多くて話が飛びます。
 「ギルガメシュ叙事詩」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2010-08-27

 「シュメール神話集成」も、原文に非常に忠実で、分かりにくくなっています。
 「シュメール神話集成」も「ギルガメシュ叙事詩」も、学術面を重視しています。
 「シュメール神話集成」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2016-01-21

 逆に、ガスターの「世界最古の物語」は、意訳のしすぎという感じがします。
 「ほとんど別の作品ともいえるほどにリライトされて」いるそうです。(P195)

 その点、本書「メソポタミアの神話」は、ほどよくまとまっていると言えます。
 部分的に補筆したそうですが、とても分かりやすくて、ストレスなく読めました。

 さて、この本にはほかにも、興味深い物語がいくつか収められています。
 たとえば、マルドゥーク神話や、イナンナ(イシュタル)の冥界下り・・・

 ちなみに、「イナンナの冥界下り」では、「肛門をかきむしって」という部分が、
 見当たりませんでした。(「肛門を」については「シュメール神話集成」を参照)
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2016-01-21

 しかし、私的にもっとも印象に残ったのは、「怪鳥ズー」です。
 エンリル神の神殿を守る怪鳥ズーは、エンリル神に対する反逆を企みました。

 エンリル神が水浴しているとき、神宝の「天命の書板」を奪って飛び去り・・・
 「天命の書板」を持つ者こそが、神々と万物を支配すると言われていて・・・

 「天命の書板」が気になります。何かのゲームか、ファンタジーに出てきました。
 ここで言う書板とは、粘土板のことか。神による命令が記されるのでしょうか。

 ちくま文庫には、ほかにも「エジプトの神話」や「ケルトの神話」もあります。
 ちくま学芸文庫には「インド神話」や「北欧の神話」もあります。読んでおきたい。


エジプトの神話―兄弟神のあらそい (ちくま文庫―世界の神話)

エジプトの神話―兄弟神のあらそい (ちくま文庫―世界の神話)

  • 作者: 矢島 文夫
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2020/05/17
  • メディア: 文庫



ケルトの神話―女神と英雄と妖精と (ちくま文庫)

ケルトの神話―女神と英雄と妖精と (ちくま文庫)

  • 作者: 君江, 井村
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1990/03/27
  • メディア: 文庫



インド神話―マハーバーラタの神々 (ちくま学芸文庫)

インド神話―マハーバーラタの神々 (ちくま学芸文庫)

  • 作者: 上村 勝彦
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2003/01/01
  • メディア: 文庫



北欧の神話 (ちくま学芸文庫)

北欧の神話 (ちくま学芸文庫)

  • 作者: 静, 山室
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2017/03/08
  • メディア: 文庫



 さいごに。(コロナ後の過労)

 今、コロナの休業分を取り戻そう(?)と、様々な仕事が重層的に進んでいます。
 毎日3~4時間、そして土日にも、(手当のつかない)仕事が入ります。

 私を含めて多くの仲間が、6月1週目の残業時間は、20時間を余裕で超えました。
 今は「コロナよりも過労が心配」という状況。(平日の読書量は0ページだし。)

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

ルゴーネス幻想短編集 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「アラバスターの壺・女王の瞳 ルゴーネス幻想短編集」
 ルゴーネス作 大西亮訳 (光文社古典新訳文庫)


 物理学、生物学、考古学など多岐にわたる知識を盛り込んで描いた、幻想小説集です。
 作者ルゴーネスは、ボルヘスやコルタサルへと続く、南米幻想文学の先駆者です。


アラバスターの壺/女王の瞳 ルゴーネス幻想短編集 (光文社古典新訳文庫)

アラバスターの壺/女王の瞳 ルゴーネス幻想短編集 (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/01/08
  • メディア: 文庫



 冒頭の「ヒキガエル」から、作者一流のおどろおどろしい世界に誘い込まれます。
 ある日「ぼく」が殺したヒキガエルを老いた女中に見せると、彼女は言いました。

 「焼き殺さないと生き返るってことも知らないのね?」
 そのあと女中が語った、ヒキガエルにまつわる恐ろしい話は・・・

 続く「カバラの実践」も、日常生活に、不可解なことが当然のように起こります。
 若き博物学者が、ガラスケースの中の女の骸骨に、戯れてこんなことを言いました。

 「愛すべきあなたという存在をよみがえらせるのです。」
 30分後、彼が眠りに落ちたあと、正面の椅子には若い女が座っていて・・・

 さて、この幻想小説集の全18編で、中心となるのが、タイトル作の二作でしょう。
 どちらも古代エジプトに関わり、古代文明ファンの私にはたまらない作品でした。

 「アラバスターの壺」は、カーナーヴォンの死とファラオの呪いを扱った物語です。
 カーナーヴォンは、ツタンカーメンの王墓発掘に、資金提供した実在の人物です。

 「いにしえの民は墓を守るために〈肉体を具えた霊〉を置いたのです。
 それは永遠に目覚めている復讐者です。」(P89)

 ツタンカーメンの部屋の外側には、アラバスター製の壺が二つ置かれていました。
 カーナーヴォンが、そのひとつの壺の栓を回すと、中から芳香と冷気が・・・

 「女王の瞳」は、「アラバスターの壺」の続編となっています。
 ツタンカーメンの王墓発掘で、命をとりとめたニールは、ある女と知り合い・・・

 なぜニールは死んだのか? シャイトという美貌の女は何者か?
 ハトシェプスト女王の鏡には何が映ったのか? 女王とシャイトの関係は?

 「いにしえの人々は、みずからが所有する品々のなかに、存在の根拠となる霊魂、
 すなわち〈分身〉が宿っていると考えていました。」(P128)・・・

 この二作と似た味わいがあるのが、シバの都にまつわる「ヌラルカマル」です。
 アルベルティ氏の指紋と、指輪に刻印された指紋が一致したのはなぜか?・・・

 私にとって、もっとも興味深かった物語は、「死んだ男」です。
 わずか6ページで、とても分かりやすく、少し笑えるお話です。

 ある村に、自分はすでに死んでいると思い込んでいる男がいて、「わたしは狂人な
 んかじゃありません。じつはもう三十年前から死んでいるのです。」と訴え・・・

 「円の発見」も面白かったです。チョークで描いた円から出ない狂人の話です。
 新任の医師は、彼が眠っている間に、チョークの円を消していったら・・・

 「ウィオラ・アケロンティア」は、毒を持つスミレを育てている庭師の物語です。
 「人間が発する〈ああ!〉という声は、じつは自然界の叫び声なのです」・・・

 ほか全18編、すべて短いながらも、たいへん印象的な作品ばかりでした。
 特にタイトル作となった二作は、絶対オススメです。

 さいごに。(体重計購入)

 コロナ太りという言葉があるそうです。最近、とても体が重くて重くて・・・
 5月の自粛期間に、競技場で練習できなくて、だいぶ体重が増えていました。

 例年この時期、65キロほどまで落ちているはずが、現在70キロ超ありました。
 さっそく、ネットで、タニタの体重計を購入しました。自分専用です。


タニタ 体重計 アナログ 大画面 ブラック HA-650 BK 見やすい大きな目盛版

タニタ 体重計 アナログ 大画面 ブラック HA-650 BK 見やすい大きな目盛版

  • 出版社/メーカー: タニタ(Tanita)
  • メディア: ホーム&キッチン



nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

老いぼれグリンゴ [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「老いぼれグリンゴ」 フエンテス作 安藤哲行訳 (集英社文庫)


 死地を求めてメキシコ革命に参加したグリンゴ爺さんが、亡くなるまでの物語です。
 アメリカ文学史上最大の謎であるビアス失踪事件を描き、映画にもなりました。
 ビアス → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2014-04-13


老いぼれグリンゴ (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

老いぼれグリンゴ (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1994/08/19
  • メディア: 文庫



 「わたしは死にに来た。わたしは作家だ。みてくれのいい死体になりたい。」
 「鉄砲の弾丸は怖くない。死ぬまえに『ドン・キホーテ』を読みたい。メキシコで
 グリンゴであること、それがわたしの死に方」(P92)

 そう言ってメキシコの革命軍に身を投じた老グリンゴ(「アメ公」みたいな蔑称)。
 彼には、何があったのか? そして、彼は誰なのか?

 家庭教師として、ワシントンからやって来た、美しいハリエット・ウインズロー。
 雇い主はすでにパリに逃れ、ひとり呆然とする中、彼女は革命軍と出会いました。

 その土地で革命軍を指揮していたのは、トマス・アローヨ将軍です。
 グリンゴ、ハリエット、アローヨ、三者にはそれぞれのつらい半生があり・・・

 集英社文庫のカバーの紹介欄に、ビアスの最後の謎が描かれているとありました。
 ビアスの失踪事件は気になっていたので、私はとても期待して読みました。

 ところが、推理小説のつもりで読むと、失望を味わうかもしれません。
 誰がビアスで、最期はどうなるのか、しょっぱなですっかり示唆されています。

 この作品は映画にもなりましたが、ドラマティックな展開を期待してはいけない。
 登場人物それぞれが、自己の心理をぐじゃぐじゃ述べている部分が多かったです。

 フエンテスのいちばん描きたかったのは、グリンゴやグリンガのことではなく、
 メキシコ革命に身を投じたメキシコ人や、メキシコ革命そのものだったのでは?

 訳者による解説には、本書について、次のように書かれていました。
 「アメリカとメキシコを熟知するフエンテスが両国を見すえて批判した作品」と。

 最後の、ハリエットの言葉はイミシンでした。「わたしはメキシコとともに
 生きることを学びたいんです。メキシコを救うというのは嫌です」(P258)

 さて、集英社文庫版「老いぼれグリンゴ」は、現在絶版です。
 私はアマゾンで、送料込み980円で手に入れました。1994年の初版本でした。

 視点が次々と移り、話があちこち飛ぶので、正直に言って読みにくかったです。
 2009年の池澤夏樹「世界文学全集版」も、同じ訳者でした。新訳は出ないのか。

 さいごに。(遠近両用)

 5年ぐらい前から、手元が見えにくくなって、老眼が進行し始めました。
 最近、文庫本を読むときは、完全に眼鏡を外してしまうことが多くなりました。

 特に、仕事中に困るので、とりあえず仕事用の眼鏡だけ、遠近両用にしました。
 書類の細かい字を読むときに、いちいち眼鏡を外さなくていいので、便利です。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

この世の王国 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「この世の王国」 カルペンティエール作 木村榮一訳 (サンリオ文庫)


 ハイチにおける権力者の移り変わりを、魔術的リアリズムで描いた幻想小説です。
 黒人のブードゥー教の文化や、ハイチの驚異的世界を描き、注目を集めました。


この世の王国 (サンリオ文庫)

この世の王国 (サンリオ文庫)

  • 出版社/メーカー: サンリオ
  • 発売日: 2020/05/03
  • メディア: 文庫



 事故で片腕となった、黒人奴隷のマッカンダルは、ある日、農場から消えました。
 彼は逃亡した後、多くの農場をまわって、奴隷たちと連絡を取るようになりました。

 彼は苦行してブードゥーの祭司となり、人並み優れた能力を持つに至ったのです。
 そして白人たちを毒殺し、黒人奴隷による一大帝国を築くために行動を始めました。

 「双蹄動物、鳥、魚、あるいは昆虫に変身する能力を授けられたマッカンダルは、姿
 を変えて平原に点在する農場を訪れ、信者の動きに目を光らせ、(中略)こうして彼
 は島全体を支配下に収めていた。」(P41)

 マッカンダルが捕らえられて、火刑に処せられるとき、火刑台から飛翔して・・・
 その数十年後、ブックマンは、ブードゥーの儀式をしたのち反乱を起こして・・・

 ハイチでは、長きにわたって反乱が続き、何度も権力者が変わってきました。
 しかし、底辺にいる者たちの暮らしは、常に変わることがありませんでした。

 「さまざまな悲しみと義務に苦しめられ、貧困にあえぎながらも気高さを保ち、逆境
 にあっても人を愛することのできる人間だけが、この世の王国においてこのうえもな
 く偉大なものを、至高のものを見出すことができるのだ。」(P149)

 ところで、この小説で最も有名なのは、「序」における次のような宣言かもしれない。
 「アメリカ大陸の歴史とは一切が、現実の驚異的なものの記録ではないだろうか?」

 そして実際、ハイチの歴史物語の随所に、驚異的エピソードを盛り込んでいます。
 作者が、「魔術的リアリズムの創始者のひとり」と言われたゆえんがここにあります。

 ただし私は、エピソードがもっと有機的につながっていると良かった、と思いました。
 あるいは、マッカンダルに関わる事件だけで完結させてしまうとか・・・

 さて、この本には、「亡命者庇護権」という作品も、同時に収録されています。
 こちらは、「この世の王国」より20年以上後の、1972年に書かれています。

 マビリャン将軍が反乱を起こし、官房長官の主人公はある国の大使館に亡命し・・・
 魔術的リアリズムとは、少し違うようですが、短いながら味わい深い作品でした。

 さて、サンリオ文庫のこの本は、現在絶版で手に入りにくい状況です。
 当時380円だったこの本を、1000円+送料で手に入れました。日焼けで真っ黒でした。

 中古の文庫本を買うとき、私の場合は、1冊1000円までが許容範囲です。
 2冊4000円で出ている「石蹴り遊び」は、予算オーバーで買えません。どうしよう?

 カルペンティエールの、絶対的な代表作は、何と言っても「失われた足跡」でしょう。
 以前集英社文庫で絶版となったものの、現在は岩波文庫に入っています。ありがたい。

失われた足跡 (岩波文庫)

失われた足跡 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/05/17
  • メディア: 文庫



 さいごに。(マスク安売り合戦か)

 4月の初旬、50枚入り3800円だったマスクが、今では2000円を切っています。
 yahooショッピングでは送料込み1200円というのも。昔の金額で3箱買える!

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ: