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2020年8月発売の気になる文庫本 [来月発売の気になる文庫本]

 2020年8月発売予定の文庫本で、気になるものを独断で紹介します。
 データは、出版社やamazonやhontoの、メルマガを主に参考にしています。


・8/11 「アレクサンドロス大王物語」 カリステネス (ちくま学芸文庫)
 → 東方遠征に従軍記者として参加した作者による本格評伝。待望の文庫化。買い。


アレクサンドロス大王物語 (ちくま学芸文庫 (カ-48-1))

アレクサンドロス大王物語 (ちくま学芸文庫 (カ-48-1))

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2020/08/11
  • メディア: 文庫


・8/12 「現象学の理念」 フッサール (講談社まんが学術文庫)
 → あの難解なフッサールの著書を、どのようにマンガ化しているか。気になる。


現象学の理念 (まんが学術文庫)

現象学の理念 (まんが学術文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/08/12
  • メディア: 文庫



◎ 「ヒストリエ」が面白い。

 アレクサンドロス大王の秘書官となった、エウメネスの生涯を描いたコミックです。
 amazonで試し読みができます。私は読み始めたとたん、すぐに引き込まれました。

 現在、第11巻まで出ています。いつか時間を取って、全巻通して読みたいです。
 これも、老後の楽しみか・・・


ヒストリエ(1) (アフタヌーンコミックス)

ヒストリエ(1) (アフタヌーンコミックス)

  • 作者: 岩明均
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/09/28
  • メディア: Kindle版



◎ 岩波新書7月の復刊

 7月11日に「古典への案内 ギリシア天才の創造を通して」が、復刊されました。
 著者は、なんと、西洋古典学者にして有名な哲学者、田中美知太郎です。買い。

 長い間、絶版でした。この機会に、絶対に手に入れたい。
 近所の書店には置いてなかったけど、人混みを通って町のお店まで行くのも・・・


◎ 「漱石を知っていますか」(阿刀田高・新潮文庫)をチェック

 6月に発売され、何度か書店で見かけて、ずっと気になっていたのがこの本です。
 阿刀田一流の文学入門、「知っていますか」シリーズです。

 未だに買っていません。amazonの読者からの評価が、ちょっと微妙だからです。
 レビューでは、「引用が多すぎる」「上から目線」という指摘が目につきました。

 特に、六つの鑑賞ポイントから、作品の評価を下している部分が、評判悪いです。
 「何様だ」というお叱りもあります。しかしそういう点が、逆に面白そうです。


漱石を知っていますか (新潮文庫)

漱石を知っていますか (新潮文庫)

  • 作者: 阿刀田 高
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/06/24
  • メディア: 文庫


 ちなみに、初期の「知っていますか」シリーズは、いずれもみな名著です。
 このCDが廃れた時代に、四作品の朗読CDが、発売されたぐらいですから。


ギリシア神話を知っていますか【朗読CD文庫】[CD][5枚組]阿刀田高

ギリシア神話を知っていますか【朗読CD文庫】[CD][5枚組]阿刀田高

  • 出版社/メーカー: ことのは出版
  • 発売日: 2019/03/31
  • メディア: CD



旧約聖書を知っていますか【朗読CD文庫】[CD][7枚組]阿刀田高

旧約聖書を知っていますか【朗読CD文庫】[CD][7枚組]阿刀田高

  • 出版社/メーカー: ことのは出版
  • 発売日: 2019/03/31
  • メディア: CD



新約聖書を知っていますか【朗読CD文庫】[CD][7枚組]阿刀田高

新約聖書を知っていますか【朗読CD文庫】[CD][7枚組]阿刀田高

  • 出版社/メーカー: ことのは出版
  • 発売日: 2019/03/31
  • メディア: CD



コーランを知っていますか【朗読CD文庫】[CD][7枚組]阿刀田高

コーランを知っていますか【朗読CD文庫】[CD][7枚組]阿刀田高

  • 出版社/メーカー: ことのは出版
  • 発売日: 2019/03/31
  • メディア: CD



◎ 6月に出た「小公子」(バーネット・新潮文庫)は川端訳

 「小公子」は、以前も新潮文庫から出ていました。その旧版は、中村能三訳でした。
 同じ新潮文庫から出るのだから、新版も、てっきり中村訳だと思い込んでいました。

 ところが、なんと、新版は川端康成訳だったのです。名訳です。これは、買いです。
 これまでなぜか文庫では出ていなかった「小公子」を、この機会にぜひ読みたい。


小公子 (新潮文庫)

小公子 (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/06/24
  • メディア: 文庫



◎ さいごに。(仏像Tシャツ)

 最近は、ネットで気軽に、オリジナル・デザインのTシャツが作れるようです。
 私は以前から、仏像をデザインしたTシャツを、作りたいと思っていました。

 現在、デザイン作成中です。お絵かきソフトを使いこなせないので、手描きです。
 なかなか難しいです。美術は好きだったけど、昔からあまり成績は良くなかった。

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神話学入門 [哲学・歴史・芸術]

 「神話学入門」 大林太良(たりょう) (中公新書)(ちくま学芸文庫)


 ヨーロッパで発達した神話学について、分かりやすく整理して解説した入門書です。
 中公新書から1966年に出版されました。現在は、ちくま学芸文庫に入っています。


神話学入門 (中公新書 96)

神話学入門 (中公新書 96)

  • 作者: 大林 太良
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2020/07/15
  • メディア: 新書



神話学入門 (ちくま学芸文庫)

神話学入門 (ちくま学芸文庫)

  • 作者: 太良, 大林
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2019/03/08
  • メディア: 文庫



 著者はまず神話を、宇宙起源神話、人類起源神話、文化起源神話の三つに分けます。
 そのあと、それぞれの神話について、具体例を示しながら詳しく解説しています。

 たとえばジャワの人間創造神話など、未開人の神話には魅力的なものがあります。
 「ああ悲しい。私は女と一緒に生活できないが、女無しでも生活できない。」(笑)

 また、西アフリカのパングヴェ族には、エデン追放と似た内容の神話がありました。
 蛇(=ペニス)が男に、エボンの実(=女陰)を与えた結果、神は人類に死を・・・

 また、アフリカのロアンゴで行われる、火の儀式の紹介も興味深かったです。
 国民の前で交接させられた男女は、穴の中に突き落とされ、土をかぶせられて・・・

 と、魅力的な神話や儀式が紹介されている点で、この本は面白いです。
 ただ、内容が古い点と、書き方が学術的で味気ない点が、少し気になりました。

 著者は、当時の学説を、ひたすらまじめに整理分類することに力を注いでいます。
 「面白い話を共に楽しもう」というサービス精神は、ほとんど感じませんでした。

 実は、冒頭の第Ⅰ章が「神話研究の歩み」であり、40ページも費やされています。
 しかしこの部分は、あくび無しでは読めません。いきなり挫折しそうになりました。

 こういう研究史の部分は、私のような素人には必要なかったと思います。
 それよりも、もっとたくさんの面白い神話を、披露してほしかったです。

 第Ⅱ章「神話とはなにか?」も、神話と伝説と昔話の違いを説明しているだけです。
 本論は第Ⅲ章「神話の分類」からですよ。ここから読むことをオススメします。

 さて、著者の大林太良が中心となって、「世界神話事典」が編集されました。
 現在、角川ソフィア文庫から出ています。さっそく購入してしまいました。


世界神話事典 世界の神々の誕生 (角川ソフィア文庫)

世界神話事典 世界の神々の誕生 (角川ソフィア文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2012/10/04
  • メディア: Kindle版



世界神話事典 創世神話と英雄伝説 (角川ソフィア文庫)

世界神話事典 創世神話と英雄伝説 (角川ソフィア文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2012/12/17
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(帰って来た「半沢直樹」)

 待ちに待った「半沢直樹」の続編、この7月になって、ようやく放送されました。
 第1回の15分拡大版も、面白すぎてあっという間でした。次回も楽しみです。

 今回は、「ロスジェネの逆襲」と「銀翼のイカロス」のドラマ化です。
 しまった! 「銀翼のイカロス」を読むのを忘れていた! 早々に読まなくては。

 「ロスジェネの逆襲」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2015-09-13

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神話の力2 [哲学・歴史・芸術]

 「神話の力」 J・キャンベル&B・モイヤーズ著 飛田茂雄訳 (ハヤカワ文庫)


 神話学の大家キャンベルと、ジャーナリストのモイヤーズとの、対談の記録です。
 インタビューが終わった翌年、キャンベルは亡くなり、これが遺作となりました。


神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/06/24
  • メディア: 文庫



 後半に入っても、キャンベルの語りはまったく衰えません。
 特に、「第五章 英雄の冒険」は、本書のクライマックスではないかと思います。

 ジョン・レノン、オデュッセウス、ブッダ、ヨナ、ジ-クフリート、テセウス、
 スフィンクス、ガウェイン、クロクォイ族の娘、そして、ダース・ベーダー・・・

 次から次にさまざまな英雄物語の主役と脇役が登場し、目まぐるしく展開します。
 TVシリーズで、この章が第1回で放送されたのは、やはり秀逸だったからでしょう。

 また、神話を語りながら生き方を語るというスタイルは、ますます冴えています。
 愛のために地獄も覚悟する「トリスタン」。続くキャンベルのコメントが良いです。

 「人が自分の無上の喜びに従ってどんな人生を選ぶとしても、それには、だれから脅
 されようがこの道から絶対に外れないという覚悟が必要です。そして、どんなことが
 起ころうとも、この覚悟さえあれば、人生と行動は正当化されます。」(P398)

 行動を正当化するのは、その人の覚悟であると言う。これはユニークな教えでした。
 この本をとても味わい深くしているのは、きっとキャンベルの人柄の魅力でしょう。

 第四章で語られる学生時代の思い出話が、またすばらしい。それは1929年のこと。
 「当時はほんとに職がなかったんです。私にとってはすばらしい時期でしたよ。」

 5年間職に就けなかった彼は、この時期に読書をしまくりました。至福の時でした。
 そういう至福の時には、隠れた手に助けられている感じを、たびたび受けたと言う。

 「それは、もし自分の至福を追求するならば、以前からそこにあって私を待っていた
 一種の軌道に乗ることができる。そして、いまの自分の生き方こそ、私のあるべき生
 き方なのだ、というものです。そのことがわかると、自分の至福の領域にいる人々と
 出会うようになる。その人たちが、私のために扉を開いてくれる。」(P262)

 「心配せずに自分の至福を追求せよ、そうしたら思いがけないところで扉が開く」
 ここで語られたこの言葉は、現在私の座右の銘になっています。

 「自分にとっての至福を追求せよ」「やりたいことは何でも徹底的にやれ」
 そういうメッセージを発信するキャンベルは、間違いなく魅力的な先生だったはず。

 さて、同じハヤカワ文庫から、「千の顔をもつ英雄(新訳版)」が出ています。
 キャンベルの若き日の出世作です。遺作の「神話の力」より40年も前に出ました。


千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/12/18
  • メディア: 文庫



 また、角川ソフィア文庫からは、「生きるよすがとしての神話」が出ています。
 こちらも「神話の力」並みに面白いという評判です。読んでみたいです。


生きるよすがとしての神話 (角川ソフィア文庫)

生きるよすがとしての神話 (角川ソフィア文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/11/25
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(コロナ太り解消せず)

 私もまた、コロナ太りになったひとりです。おなかの脂肪が邪魔で邪魔で・・・
 家で時々筋トレをしますが、以前よりずっとキツイので、なかなか長続きしません。

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神話の力1 [哲学・歴史・芸術]

 「神話の力」 J・キャンベル&B・モイヤーズ著 飛田茂雄訳 (ハヤカワ文庫)


 神話学の大家キャンベルと、ジャーナリストのモイヤーズとの、対談の記録です。
 1985年から1986年にかけてTV番組のために撮影され、のちに出版されました。


神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/06/24
  • メディア: 文庫



 「古代から伝えられた様々な神話は、人生を支え、文明を築き、数千年にわたって
 宗教を伝えてきました。神話は人間の奥深くにあるもの、人間の内なる神秘と関わ
 っています。」(TVシリーズ第2回)

 本書は、キャンベルが世界の神話について語り尽くした、実に興味深い対談集です。
 長年神話学に携わってきたからこその、含蓄ある言葉と、鋭い洞察に満ちています。

 特に、神話は森羅万象の奥深くに潜む神秘と関わる、との指摘は印象に残りました。
 神話というものに対する見方が、まったく変わりました。まさに瞠目の書です。

 「神話は世界の目を神秘に向かって開き、あらゆる物象の底にある神秘の認識へと
 人々を導きます。その認識を失った人は神話を持つことができません。」(P94)

 まだ半分ほどしか読んでいませんが、パラパラ見返すのに時間がかかりました。
 というのも、線を引いた箇所が多すぎるので。線を引いてないページなんて、無い!

 私の友は、本に付箋を貼っていったら、分厚くなってしまったと言う。そりゃそうだ。
 私が特に気に入ったフレーズは、「まえがき」だけでも、これだけあるのですから。

 「『あらゆる苦しみや悩みの隠れた原因は』とキャンベルは言った。
 『生命の有限性であり、それが人生の最も基礎的な条件なのだ。・・・』」(P22)

 「宗教や戦争から愛、死に至るまで、今日の生活の多くを儀式化し、神話化する必
 要があるんだ」(P25)

 「『人生の意味の探求が必要だということですね』と私はたずねた。
 『そうじゃない。生きているという経験を求めることだ』」(P29)

 「生命体の本質は、それが他のものを殺して食べることにある。それこそ神話が扱
 うべき偉大な神秘だ」(P30)

 「神に対してわれわれが与える名前とイメージのすべては、当然のことながら、言
 語と芸術を超越した究極的実在を暗示する仮面だ」(P32)

 さらに、この本は、単なる神話の解説ではありません。彼は時に、人生を語ります。
 しかも、とても魅力的な言葉で。この本の魅力は、この点にもあります。

 「唯一の正しい知恵は人類から遠く離れたところ、はるか遠くの大いなる孤独のなか
 に住んでおり、人は苦しみを通じてのみそこに到達することができる。」
 (P22 エスキモーのシャーマンの言葉)

 本編に入ってからは、すばらしい言葉が、紹介しきれないほど次々と出てきます。
 ここではひとつだけ、本を読む喜びについて語った言葉を紹介しましょう。

 「部屋に座って本を読むーーひたすら読む。然るべき人たちが書いたまともな本です
 よ。すると知性がその本と同じ高さまで運ばれ、あなたはそのあいだずっと、穏やか
 な、静かに燃える喜びを感じ続けるでしょう。こういう生命の自覚は、あなたの日常
 生活のなかで常に持てるはずです・・・」(P220)

 さて、この対談は全6回のシリーズでまとめられ、TVで放映されました。
 日本でも放送されたのですが、その動画がユーチューブで見られました。

 時間があれば、本を読む前に動画を見た方がいいです。理解しやすくなるので。
 ただし、番組は、本と違う順序で語られるため、少しだけ注意が必要ですが。

 ちなみに私がとても興味深く感じたのは、TVシリーズ第3回「古代の語り部」です。
 この中でキャンベルは、古代の狩猟の意味について、面白いことを指摘しています。

 動物と人間には絆がある、動物は人間のために、すすんで命を捧げてくれている・・・
 動物は神の使者である、狩猟は神を殺す儀式でもある・・・

 さいごに。(いつ入る?10万円)

 いろんな人が、「10万円入った」と言い始めました。
 でも、うちはまだです。郵送した書類に不備があって送り直したため。とほほ・・・

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ブラス・クーバスの死後の回想 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「ブラス・クーバスの死後の回想」
 マシャード・ジ・アシス作 武田千香訳 (古典新訳文庫)


 死んでから作家となったブラス・クーバスが、生涯を振り返って書いた回想録です。
 作者はブラジルで最も有名な作家のひとりです。1881年に出た本書は代表作です。


ブラス・クーバスの死後の回想 (光文社古典新訳文庫)

ブラス・クーバスの死後の回想 (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/12/20
  • メディア: Kindle版



 「わたし」ブラス・クーバスは、1869年8月に自分の屋敷で息を引き取りました。
 死後、どういうわけか作家となり、64年の生涯を160の断章で綴っていきます。

 死んだ日のこと、死の直前の幻想、誕生、家族のこと、子供のころの思い出・・・
 マルセーラ、エウジェニア、そして、自分と結婚するはずだったヴィルジニア・・・

 この作品は「小説の常識を覆す小説」「小説に挑戦した小説」などと紹介されます。
 というのも、各断章はユニークで、とりとめのないつながり方をしているからです。

 「七十一章 本の欠点」では、前章までの話の流れは、どこかにいってしまいます。
 そして「この本のことを後悔している」と話し始めますが、これがなかなか面白い。

 「なぜなら、本書の最大の欠点は、読者よ、あなただからだ。
 あなたは老いを急ぐが、本の歩みはのろのろしている。」

 「百三十九章 いかに国務大臣にならなかったかについて」は、なんと、空白です。
 理由は次章で「物事には沈黙で語ったほうがいいことがある。」と説明されています。

 さて、この作品の命は、死者が生涯を語り出すという奇抜な発想にあります。
 私はとても期待したのですが、しかし、彼の人生自体は、まったく普通でした。

 ちょっとお金がある男が、結婚もせず、成功もせず、ぐだぐだと生きています。
 人生唯一のヤマ場は、ヴィルジニアとの不倫話ですが、劇的な展開はありません。

 自分が死霊となって出現することもなく、他の死者を蘇らせることもありません。
 これでは、死者が作者となった意味が、ほとんどないのではないでしょうか?

 ところで、この作品は細切れなので、読みやすかったです。訳も分かりやすいです。
 章ごとにページが変わるので余白が多くて、分量が多いわりにサクサク進みました。

 なお、マシャード・ジ・アシスの作品は、現在ほとんど出ていないので貴重です。
 古典新訳文庫からは、さらにもう一つの代表作「ドン・カズムッホ」も出ました。


ドン・カズムッホ (光文社古典新訳文庫)

ドン・カズムッホ (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/09/26
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(娘の大会)

 中学2年生の娘の、陸上競技の大会が行われましたが、見に行けませんでした。
 厳重なコロナ対策のため、3年生の保護者以外は、入場禁止となったからです。

 これは、仕方ありません。高校の方は、無観客でやっていましたから。
 ちなみに娘は、走高跳に出て記録なし。最初の1m25が跳べなかったのだそうです。

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世界文学の流れをざっくりとつかむ24 [世界文学の流れをざっくりとつかむ]

≪第六章≫ ルネサンス期から十七世紀の文学

 4 イギリスルネサンス文学

 14世紀の後半にチョーサーは、外交上の任務でしばしばイタリアやフランスを訪れ、当時の先進文化に触れていました。イタリアでは、ペトラルカやボッカチオと交流しました。特にボッカチオの「デカメロン」から大きな影響を受けて、晩年の1391年頃「カンタベリー物語」を書きました。宿に集まった30人ほどの巡礼者が、カンタベリー大聖堂への途上で、退屈しのぎに順番で話をするという枠物語です。当時の世俗語である中英語で書きましたが、彼の使った言葉が、のちの英語の基礎となったとも言われています。

 イタリアから始まったルネサンス文化は、じわじわとヨーロッパ中に広がり、ラテン語やギリシア語の古典研究が流行しました。中でもオランダの人文主義者エラスムスは、古典の知識を駆使して、1511年に「痴愚神礼賛」をラテン語で刊行しました。人間社会で繰り広げられる愚行を、饒舌に風刺した作品で、たいへん広く読まれました。エラスムスから影響を受けたドイツのルターは、1517年に「95か条の論題」を発表し、宗教改革を始まったのです。

 エラスムスから影響を受けたもうひとりの重要人物が、トマス・モアです。モアは、イギリスのヘンリー8世の顧問官でした。親友エラスムスの「痴愚神礼賛」に触発され、1516年に「ユートピア」をラテン語で刊行しました。現実には存在しない理想的な社会を描くことで、当時のイギリス社会を批判したのです。のちにモアは、ヘンリー8世から離婚問題で助言を求められたとき、カトリック教徒としての信念を曲げず反対しました。これで国王の不興を買い、最後には反逆罪で処刑されるに至りました。

 悪名高きヘンリー8世は、6度の結婚をし、カトリック教会から離脱して、イギリス国教会の首長となりました。ところが皮肉にも、教皇から離れたことで、イギリスは急速に発展し始めたのです。1558年にエリザベス1世が即位した時期から、イギリスは絶頂期に向かっていきました。1588年にはスペインの無敵艦隊を撃破して、イギリスの国威はいっきに高揚しました。同時に文化も発展しました。エリザベス朝がイギリスルネサンスの最盛期となり、その象徴的な出来事がシェイクスピアの登場です。

 ウィリアム・シェイクスピアは、世界最大の劇作家です。37編の戯曲を残しました。その活動は、四つの時期に分かれます。第1期は1591年頃からのデビュー時代で、史劇「ヘンリー6世」、悲劇「ロミオとジュリエット」、喜劇「間違いの喜劇」「真夏の世の夢」などがあります。第2期は1956年頃からの喜劇の時代です。喜劇「ベニスの商人」「空騒ぎ」「お気に召すまま」「十二夜」、悲劇「ジュリアス・シーザー」などがあります。第3期は1601年頃からの悲劇の時代です。悲劇「ハムレット」「オセロー」「リア王」「マクベス」、喜劇「終わり良ければすべて良し」などがあります。第4期は1608年頃からのロマン劇の時代です。ロマン劇「ベリクリーズ」「冬物語」「テンペスト」などがあります。シェイクスピアの作品は普遍的な価値を持ち、現代でも多くの劇場で上演されています。また彼の残した戯曲は、全集で読む価値があると言われています。

 次回は、イギリスピューリタン文学について述べたいと思います。

 さいごに。(じわじわ増える感染者・・・)

 再び新型コロナウィルスの感染者が、じわじわと増えてきました。
 しかし国は以前ほど問題にしていません。感染者増は検査を広く行われた結果だとか。

 でも、今さら経済活動を止めることはできない、というのが本音ではないでしょうか。
 再開したばかりの経済活動。その一方で、東京の感染者は連日200人超え・・・

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密林の語り部 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「密林の語り部」 バルガス=リョサ作 西村英一郎訳 (岩波文庫)


 アマゾンの密林に入り込み、先住民の語り部となった、ユダヤ人青年の物語です。
 1987年に出ました。80年代の作者の代表作です。実験的な手法で描かれています。


密林の語り部 (岩波文庫)

密林の語り部 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2011/10/15
  • メディア: 文庫



 「私」は、フィレンツェのある画廊で、アマゾンの密林の写真展を見ました。
 マチゲンガ族の輪の中心にいる、ひとりの語り部の姿を見て、戦慄が走りました。

 写っていたのは、大学時代の親友、ユダヤ人のサウル・スラータスではないのか?
 彼は、未開の先住民文化に深く傾倒し、あるとき忽然と姿を消していたが・・・

 さて、この小説も、最初はなかなか手強かったです。
 第1章と第2章は良かったのですが、第3章に入ると訳が分からなくなりました。

 「その後、地上の人々は、太陽が落ちていくほうへまっすぐ歩きはじめた。昔は、
 人々もじっとしていた。天の眼である太陽は動かなかった。眠ることもなく、いつ
 も眼を開けて、私たちを見つめ、世界を眺めていた。」(P53)

 いったい、何の話が始まっちゃったんだ? しかし、もう私は慌てません。
 「訳者あとがき」を、さっさと読んでしまえばいいのです。

 構成は全8章。第1章と第8章に挟まれた6章は、対位法的に配されていると言う。
 そして、3・5・7の奇数章は、語り部が話している神話や伝説なのだそうです。

 なるほど。だから、なんだかよく分からないのか。
 語り部の話はあちこちに飛ぶし、でたらめなカタカナ語がやたら出てくるし・・・

 分からなくていいのだと、割り切ってからは、安心して読み進められました。
 しかし、この語り部の話こそが、この作品の命なのです。できれば、分かりたい。

 「悪戯者のカマガリーニがおちんちんを刺してからというもの、どのように、どうし
 て起こるか分からないが、タスリンチは、突然、思いついたことをせずにはいられな
 い。〈命令が聞こえてくる〉(中略)女をさらってきたのもその命令の一つだったよ
 うだ。」(P151)

 こういうとりとめのない話が、次から次に重ねられていきます。
 これを、「面白い」と思うか、「アホか」と思うかは、非常に微妙なところですね。

 「語り部が話すように話すとは、その文化のもっとも深奥のものを感じ、生きること
 であり、その底部にあるものを捉え、歴史と神話の神髄をきわめて、先祖からのタブ
 ーや言い伝えや、味覚や、恐怖の感覚を自分のものとすることだからだ。」(P333)

 「話す」ということは、その民族の文化の根源に関わることです。
 そういったことを、作者は最も言いたかったのではないでしょうか?

 さて、「密林の語り部」を読んだら、古代マヤの神話を読みたくなってきました。
 中公文庫から「マヤ神話ポポル・ヴフ」が出ています。この機会に読みたいです。


マヤ神話 ポポル・ヴフ (中公文庫)

マヤ神話 ポポル・ヴフ (中公文庫)

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/04/21
  • メディア: 文庫



 2003年に出た「楽園への道」は、池澤夏樹の世界文学全集にも入っていました。
 バルガス=リョサの作品では、「楽園への道」がイチオシという人も多いです。


楽園への道 (河出文庫)

楽園への道 (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2017/06/16
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(第二波は?)

 再びコロナの感染者数が、じわじわと増えてきました。
 昨日はとうとう全国で350人。米国の5万人に比べたら全然ましですが・・・

 とにかく、しっかり予防して、これ以上増えないように気を付けたいです。
 それでも「第二波は来る」と言われているので、しっかり備えておかなければ。

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緑の家2 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「緑の家 下」 バルガス=リョサ作 木村榮一訳 (岩波文庫)


 三つの場所で繰り広げられる五つの物語が、絡み合いながら展開する長編小説です。
 岩波文庫から上下二巻で出ています。読みにくい作品ですが、訳は分かりやすいです。


緑の家(下) (岩波文庫)

緑の家(下) (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/08/20
  • メディア: 文庫



 「この作品は、一見構成が解きほぐしがたいほど入り組んで見えるが、読み進むにつ
 れてそれまでまったく脈絡を欠いているかに見えた個々の断章、エピソードが互いに
 結びつき、照応し合って、やがて作品の全体像が浮かび上がるという仕掛けになって
 いる。」(訳者解説)

 と述べられていますが、私の場合、そんな素敵な変化はなかなか起こりませんでした。
 それぞれの断章は、結びつきもせず、照応し合いもせず、全体像は全く見えません。

 まるでトランプの神経衰弱です。あのカードは何だっけ? このカードは何だっけ?
 次から次に開けられるカードを、覚えていくことができず、頭は混乱するばかりです。

 それでも私は、この洞窟の迷路からようやく抜け出しました。それは、なぜか?
 下巻の途中で、「訳者解説」を読んだからです。(邪道だと言うなら言え! 笑)

 そうしなかったら、緑の家が二つ存在したなんて、分からなかったかもしれない。
 アンセルモとラ・チェンガの関係も、最後まで分からなかったかもしれない。

 特にP478~P481を読むと、物語の構成が分かり、頭の中がだいぶ整理されました。
 もっと早く「訳者解説」に書かれたあらすじを、読んでしまえばよかった!

 私は、分かりやすく書かれていることが、優れた文学の重要な条件だと考えています。
 また、優れた文学は、込み入ったことも、分かりやすく書かれていると考えています。

 確かに「緑の家」は面白い物語でした。しかし、芸術的に優れていたでしょうか?
 この作品はあまりにも技巧に走りすぎて、「遊び」になってしまったのではないか?

 そういう意味で、「ラテンアメリカ十大小説」の中の記述は、的確だと思います。
 「緑の家」を、ジグソー・パズルという「遊び」で、たとえているので。

 「読み進むうちに個々の断章がジグソー・パズルのピースのように徐々に組み上がっ
 て行き、少しずつ全体像が浮かび上がってきます。」(P133)

 私は、5つの物語は、時間軸にそって書かれた方が、はるかに良かったと思います。
 バラバラになったジグソーパズルからは、文学の面白さが得られにくかったです。

 だからこそ、ラテンアメリカ文学ブームは、急に衰退してしまったのかもしれません。
 「緑の家」を読む人も、2000ピースのパズルをやる人も、よほど物好きな人ですよ。

 と、自分の読解力の無さを棚に置いて、否定的なことばかり書いてしまいました。
 が、南米の雑多な社会に迷い込む感覚を味わいたい人には、断然オススメの作品です。

 バルガス=リョサの作品はハズレなしだと、どこかで聞いたことがあります。
 「ラ・カテドラルでの対話」と「密林の語り部」は、ぜひ読んでみたいです。


ラ・カテドラルでの対話(上) (岩波文庫)

ラ・カテドラルでの対話(上) (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2018/06/16
  • メディア: 文庫



密林の語り部 (岩波文庫)

密林の語り部 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/04/20
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(凝りもせず)

 娘がいまだに、友達へのプレゼントに迷っていたので、つい口を挟んでしまいました。
 「おかしにしたら?」 おかしなら、外したとしても、家族の誰かが食べるでしょう。

 「パパがおかしを食べたいだけでしょ!」と、言われました。
 いえいえ、まごころからアドバイスをしているのですけど・・・

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緑の家1 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「緑の家 上」 バルガス=リョサ作 木村榮一訳 (岩波文庫)


 三つの場所で繰り広げられる五つの物語が、絡み合いながら展開する長編小説です。
 作者はラテンアメリカ文学ブームを牽引した一人で、ペルー初のノーベル賞作家です。


緑の家(上) (岩波文庫)

緑の家(上) (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/08/20
  • メディア: 文庫



 シスターと治安警備隊は、密林のインディオの集落で、少女たちを連れ去りました。
 拉致した少女たちを、サンタ・マリーア・デ・ニエバの尼僧院で教育しているのです。

 尼僧院で働くボニファシアは、彼女たちを可哀そうに思って、故意に逃がしました。
 そのため、僧院を追われることになり・・・

 あるときピウラに流れてきたアンセルモという男は、町の人々と親しくなりました。
 しばらくして彼は、砂漠の土地に「緑の家」を建てましたが、その家は・・・

 フシーアという日本人は、これまでさまざまな場所で、悪事を働いてきました。
 今は、旧友アキリーノのボートに乗り、昔を思い出しながら、奥地へ向かい・・・

 現在、上巻を読み終わったところです。
 ラテンアメリカ文学特有の、わざと分かりにくくしたような展開に苦しんでいます。

 「五つの物語が絡み合いながら展開する」ということを、どこかで聞いていました。
 しかし私は、恥ずかしながら、3つの物語しか判別できませんでした。

 1つは「尼僧院とボニファシアの物語」。1つは「緑の家とアンセルモの物語」。
 1つは「フシーアの語る昔の物語」。その他の物語が、よく分からないのです。

 ほかにもいろんな人物が登場しますが、ごちゃごちゃしていて整理しきれません。
 読んでいるうちに、さまざまな矛盾にぶつかり、私は頭を抱えています。

 たとえば、尼僧院にいたボニファシアは、密林の奥で、前触れなく姿を見せます。
 また、緑の家を繁盛させていたアンセルモは、いつのまにか盲目になっています。

 行政官と呼ばれる男は、ある場面ではファビオで、ある場面ではレアテギです。
 どうやらそれぞれの場面で、時間の隔たりがあるようだとは分かるのですが・・・

 「地図を作った連中はこのアマゾン地方が片時もじっとしていない、燃えるような
 女みたいなものだってことが分かってないんだ。ここでは、川も木も生き物もすべ
 てその姿を変えてゆく。わしたちが住んでいるのは狂った大地なんだよ。」(P84)

 これは、アキリーノがフシーアに語った、印象的な言葉です。
 私は、この物語自体も、じっとしていないアマゾンの密林のように感じました。

 私も歩くたびにつるに足を取られ、気づいたら同じ場所を何度も回っていました。
 作者は、意図的に私たちを、物語の密林に迷い込ませようとしているようです。

 コロナ休業で比較的時間があるときなら、多少の回り道もいいでしょう。
 読書時間がほとんど取れない今、「もっと分かりやすく書いてくれ」と思います。

 しかし、この作品を「ワクワクしながら読んだ」と記すレビューも目立ちます。
 下巻に入ってから、その面白さが理解できるようになればいいのだけれども・・・

 さいごに。(娘にアドバイスしても)

 中2の娘が、友達の誕生日のプレゼントに迷っていたので、アドバイスしました。
 「どんなものが欲しいか聞いてみたら?」と。分からないなら、聞けばいいのに。

 「パパは黙っていて!」と言われました。「女子はそういうもんじゃない」と。
 そうか。女子ってたいへんなんだなあ。私は男でよかったです。単純だから。

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マクティーグ [19世紀アメリカ文学]

 「死の谷(マクティーグ)」 ノリス作 石田英二・井上宗次訳 (岩波文庫) 


 巨漢で鈍重な歯科医マクティーグの、結婚生活とその後の悲劇を描いた物語です。
 岩波文庫版は2020年2月に復刊されたばかり。初訳は1957年ですが分かりやすい。


死の谷 上 (岩波文庫 赤 316-1)

死の谷 上 (岩波文庫 赤 316-1)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/06/06
  • メディア: 文庫



死の谷 下―マクティーグ (岩波文庫 赤 316-2)

死の谷 下―マクティーグ (岩波文庫 赤 316-2)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/06/06
  • メディア: 文庫



 愚鈍で従順で巨体で怪力のマクティーグは、無免許で歯科医を営んでいました。
 彼には、たった一人だけ友だちがいました。同じアパートに住むマーカスです。

 あるときマクティーグのところへ、マーカスが恋人のトリナを連れて来ました。
 マクティーグは、治療を通じてトリナに惹かれ、友情と恋の板挟みになりました。

 マクティーグの悩みを知ったマーカスは、男気を起こしてトリナを譲りました。
 男同士の友情は、最高潮に達しました。しかし、トリナが富くじに当たると・・・

 さて。幸運に見えることが、あとから振り返ると、不幸の始まりだったりします。
 宝くじの当選によって、人生の歯車が狂い出すことは、世間でもよくあります。

 最高の友だちが最大の敵になったり、最愛の妻が憎たらしい相手になったり・・・
 そういう人間関係の変化が面白くて、前半からぐいぐい引き込まれました。

 下巻に入ってからは、物語の展開がさらに面白くなり、まったく目が離せません。
 訳は1957年と古いのに読みやすくて、私は物語にのめり込んでしまいました。

 そして、「死の谷」での衝撃のラスト。二人の友は、いかにして破滅したか?
 まったく、この二人ときたら! 悲しいと言うより、滑稽でした。

 ところで、マクティーグの不幸の原因は、体に流れる血の中にもあったようです。
 悲劇はすでに宿命として刻印されていたもので、彼の罪ではないのかもしれません。

 「彼の内部におけるあらゆる善きものの美しい生地の下に、代々伝わる悪の忌まわ
 しい流れが下水のように走っていたのだ。」(上巻P41)

 そういえば、マクティーグが変になったのは、ウィスキーを飲んでからでした。
 ならば、物語の最初に、彼の父について次のように書かれていることは重要です。

 「二週間に一度の日曜日ごとに、彼は酒で気が狂ったようになり、無責任な動物、
 獣、畜生になった。」(P11)

 この物語には、ほかにも魅力的なわき役たちがいて、味わいを深くしています。
 中でも、マリアとザーコフの「金の皿」をめぐる悲劇は、とても印象的でした。

 さいごに。(コロナが懐かしかったりして)

 予想はしていましたが、6月の残業時間は、余裕で過労死レベルでした。
 コロナの頃が懐かしい、在宅勤務が懐かしい、と言ったら、怒られるでしょうけど。

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