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2020年9月発売の気になる文庫本 [来月発売の気になる文庫本]

 2020年9月発売予定の文庫本で、気になるものを独断で紹介します。
 データは、出版社やamazonやhontoの、メルマガなどを参考にしています。


・9/2 「そして、バトンは渡された」 瀬尾まいこ (文春文庫)
 → 2019年本屋大賞受賞作。感動の名作。陸上小説ではないが、少し気になる。

・9/12 「ゴシック文学入門」 東雅夫 (ちくま文庫)
 → ゴシック文学の評論のアンソロジー。乱歩、八雲、龍彦など登場。気になる。

・9/15 「白い病」 チャペック作 阿部賢一訳 (岩波文庫)
 → 白い斑点ができて生きながら腐る病。コロナ流行の今、読みたい。気になる。

・9/27 「小説イタリア・ルネサンス1ヴェネツィア」 塩野七生 (新潮文庫)
 → 新刊ではないと思うが・・・どのような内容か、とても気になる。


◎ なぜ文庫化されない?「夜のみだらな鳥」

 ラテンアメリカ文学には、「百年の孤独」など文庫化されていない名作が多いです。
 ホセ・ドノソ作「夜のみだらな鳥」もまた、未だに文庫化されていない傑作です。

 「百年の孤独」は、単行本で出ているからいい。書店でちゃんと手に入りました。
 しかし「夜のみだらな鳥」は、単行本は絶版。新刊が手に入らない状況なのです。

 私の読書法は、本を買って線を引きながら読むというものなので、困りました。
 結局、古本で手に入れました。35年前の本が、送料込みで2500円。

 この値段が、高いか安いかは、私がこの本を楽しめるかどうかにかかっています。
 世界の奇書とも評される小説が、なぜ文庫化されないのか。読んで確かめたい。


◎ いつか漱石の「明暗」の続きが読める日が来るか

 先日、職場の読書仲間と、夏目漱石の代表作の話になりました。
 漱石の代表作は「こころ」であるというのが、どうやら一般的な見解らしいです。

 もちろん、その見解に文句はありません。
 「こころ」は教科書にも載っています。知名度でも発行部数でも1番でしょう。

 ところが漱石は、「こころ」を上回る傑作を残しています。それが「明暗」です。
 ただし、書いている途中で漱石は亡くなってしまいました。だから未完なのです。

 未完ゆえに代表作になりえません。「明暗」は未完の大作というポジションです。
 しかし完成していたら、教科書には「明暗」が載っただろう、と友は言いました。

 そして友は、「早く『明暗』の続きを読みたいねえ」などと言い出しました。
 水村美苗の「続明暗」のことではありません。では、いったいどういうことか?

 漱石の脳はホルマリン漬けとなり、東京大学医学部の標本室に保存されています。
 何百年かのち科学技術が発展して、脳内の記憶を蘇らせるようになったら・・・

 そしたら、漱石自身が考えていた「明暗」の続きが、読めるようになるのでは?
 「明暗」の完結編が出版されるのでは? 漱石ファンにはたまらない話ですね。


◎ 夢の本屋をめぐる冒険

 8月の中旬に二夜連続で、NHK「夢の本屋をめぐる冒険」が放送されました。
 第1回は、パリで由緒ある「シェイクスピア・アンド・カンパニー」でした。

 作家の卵たちを応援する、タンブルウィード制度が面白かったです。
 無給で働く代わりに、貴重な本を読む自由と、生活の場を与えて・・・

 第2回は、世界でもっとも美しい書店と言われる、中国の「先鋒書店」です。
 百人ほどしか住まない村に、多くの人々が訪れる。その目的は、ある本屋・・・

 この番組は、とてもすばらしい内容でしたが、その後の情報がありません。
 もっともっと夢の本屋をめぐりたい。シリーズ化してくれるといいのだが・・・

 (8/29現在、第1回の分はユーチューブで見られるらしいです)


◎ さいごに。(安倍首相、おつかれさま)

 なんだかんだ言っても、長い安定期をもたらしたことは、大きな成果だと思う。
 8年近い激務、お疲れさまでした。体調の回復に専念していただきたいです。

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蠅の王 [20世紀イギリス文学]

 「蠅の王」 W・ゴールディング作 黒原敏行訳 (ハヤカワepi文庫)


 無人島に不時着した少年たちの社会が、やがて崩壊し抗争に至る過程を描いた小説です。
 人間社会の在り方を風刺して、世界中に衝撃を与えました。作者はノーベル賞作家です。

 長い間、新潮文庫と集英社文庫の平井訳が定番でしたが、数年前、黒原訳が出ました。
 新訳のハヤカワepi文庫版は、カバーも秀逸で、モノとしての価値を格段に高めました。


蠅の王〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

蠅の王〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/04/20
  • メディア: 文庫



蠅の王 (新潮文庫)

蠅の王 (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1975/03/30
  • メディア: 文庫



 疎開先に向かっていた飛行機が、無人島に不時着し、少年たちだけが残されました。
 ほら貝の音で集まった少年たちは、ラルフをリーダーに選び、ルールを決めました。

 少年たちの社会は最初順調でしたが、しだいにラルフとジャックが対立し・・・
 ジャックが豚を殺し、船が通り過ぎて行った日から、少しずつ何かが変わり・・・

 「豚殺せ。喉を切れ。血を流せ」「豚殺せ。喉を切れ。ぶちのめせ」(第四章)
 ジャックたちのこの歌が、魔物を引き連れてきたような気がしてなりません。

 私は、タイトルの「蠅の王」とは悪魔ベルゼブルのことだ、と聞いていました。
 そのため、ホラー小説のつもりで読み始めました。実際、最初から不気味でした。

 小さい子どもたちは、「獣みたいなもの」「蛇みたいなもの」を見たと言いました。
 そして突然、ひとりの子供が理由もなくいなくなり、その後ずっと戻ってきません。

 この島には何か邪悪なものがいる! おそろしい何かが、子供たちを狙っている!
 しかし、彼らの見たという〈獣〉は、どうやら自分たちの中にいたようなのです。

 「〈獣〉ってぼくたちのことかもしれないってことなんだ」(P153)
 寡黙な少年サイモンが、不意に発したこの言葉は、とてもイミシンです。

 そしてこのサイモンだけが、「蠅の王」の言葉を耳にするのです。
 「おまえは知っていたんだな。わたしがおまえたちの一部であることを。」(P252)

 この物語が、刊行当時世界に衝撃を与えたということが、とてもよく分かります。
 第九章以降は、狂気のような展開でした。ホラー小説以上に恐ろしかったです。

 この小説は、ヴェルヌの「十五少年漂流記」のパロディだとも言われています。
 「蠅の王」と比べたら、ヴェルヌの作品はとても健全でした。改めて読み直したい。

 さいごに。(チコちゃんに叱られ・・・)

 NHKのチコちゃんが、「ぼーっと生きてるんじゃないよ」と言うたびに、
 自分のことを言われているみたいで、腹が立ってしまいます。(あーあ)

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黒い蜘蛛 [19世紀ドイツ北欧文学]

 「黒い蜘蛛」 ゴットヘルフ作 山崎章甫訳 (岩波文庫)


 領主の圧政で虐げられた人々が、悪魔と契約したことで起こる悲劇を描いています。
 民話をもとにしたホラーっぽい小説です。ゴットヘルフはスイスの国民的作家です。


黒い蜘蛛 (岩波文庫)

黒い蜘蛛 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1995/05/16
  • メディア: 文庫



 領主の無謀な命令に、村人たちが嘆いているところへ、緑の服を着た男が現れました。
 緑の男は、村人たちを助けると言います。しかも、報酬はほんのわずかでいいと。

 「さっきも言ったように、私の望みは大したことではない。
 まだ洗礼を受けておらん子供が欲しいだけなんだよ」(P57)

 そんなことを言うものは、もちろん、悪魔しかいません。
 悪魔は契約の証拠に、村の女クリスティーネに口づけすると、頬に小さなシミが・・・

 「頬の燃えるような痛みはますます激しくなり、黒いふくらみはさらに大きくなった。
 明らかに脚と分かるものがそこからのび出し、短い毛が生えてきた。背の部分にきら
 きらする点と線が現れ、そのふくらみは頭になった。」(P91)

 実に怖いです。これは、明らかにホラー小説でしょう。
 終盤、黒い蜘蛛を封じ込めるために、ある女はいったい何をしたのか?

 さて、この物語は、P137の3行目で終わってしまっても良かったと思います。
 続く物語は蛇足です。やたらと説教臭い、と思ったら、作者は牧師なのだそうです。

 もし後日譚を作るなら、初孫の洗礼の日の続きを書くべきでしょう。
 老人の話を信じなかった若者たちが、面白半分に柱の栓を抜くと、そこには・・・

 最後に、500年以上にわたって封印を解かれることを待ち望んだ蜘蛛が出てきたら!
 その蜘蛛が、雷鳴のような高笑いをするところで結末となったなら!

 作品に対する私の評価は、惜しいところで傑作になりそこねた佳作、というもの。
 物語を通して神の教えを広めようという、いやらしい下心が失敗の原因ではないか。

 さいごに。(24時間テレビ以外で見たかったQちゃん)

 24時間テレビのチャリティマラソンに、私の好きな、高橋尚子が登場しました。
 久々に見たQちゃんの走りは、昔とほとんど変わらず、感動しました。さすがです。

 ただ、24時間テレビの、感動の押し売り・寄付の押し付け的雰囲気には違和感あり。
 この番組にも、どこかいやらしい下心があるような気が・・・

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サロメ(原田マハ) [日本の現代文学]

 「サロメ」 原田マハ (文春文庫)


 ビアズリーの挿絵で世間を驚かせた、ワイルドの戯曲「サロメ」にまつわる物語です。
 作者一流の絵画小説で、今年5月に文庫化されたばかり。カバーのイラストが美しい。


サロメ (文春文庫)

サロメ (文春文庫)

  • 作者: 原田 マハ
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2020/05/08
  • メディア: Kindle版



 1981年、18歳のオーブリー・ピアズリーは、画家バーン=ジョーンズを訪ねました。
 そこにたまたま居合わしたのが、今を時めく36歳のオスカー・ワイルドでした。

 ビアズリーの絵を一目見て、ジョーンズもワイルドも驚愕し、言葉も出ませんでした。
 オーブリーがワイルドを見返したとき、ふたりの間には強い磁力が働き合い・・・

 「君は芸術家になる。それも、不世出の。そして、もう決してあとには戻れなくなるだ
 ろう。なぜなら・・・
  ――なぜなら、私が君をより遠いところまで連れていくことになるだろうから。」
 (P98)

 推理小説っぽく始まりますが、それを期待していると、軽い失望を覚えるでしょう。
 名作「楽園のカンヴァス」のような、あっと驚くような展開は無いので。

 そのかわり、十九世紀の世紀末の退廃的な雰囲気に、どっぷり浸かることができます。
 特に、裏の主役であるオスカー・ワイルドの、妖しい雰囲気がたまらない!

 「私は、とっくに覚悟している。罪人になることを。なぜなら、あらゆる芸術は不道
 徳だからだ。
  君がやるべきことは、たったひとつ。
  地獄に落ちることだ。——この私と一緒に。」(P232)

 一方、ビアズリーの挿絵の魅力については、こんなふうに書かれていました。
 ほんと、こういう文章を書かせたら、原田マハは天下一品ですね。

 「仄暗い沼底で妖しく揺らめく得体の知れぬ微光。ほのかな明滅に引き寄せられる迷
 いびとが、ひと目その光を見たならば、またたくまに引き込まれ、沼底へと飲み込ま
 れてしまう、抗いがたい魅力。」(P148)

 なお、「サロメ」の挿絵には、ワイルドをデフォルメして描き込んでいると言います。
 知らなかった。改めて、岩波文庫版「サロメ」の挿絵を、チェックしてしまいました。
 「サロメ」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2010-09-18

 次は、ゴッホを描いた「たゆたえども沈まず」や「ゴッホのあしあと」を読みたい。
 それから、ピカソを描いた「暗幕のゲルニカ」も読まなければ。


たゆたえども沈まず (幻冬舎文庫)

たゆたえども沈まず (幻冬舎文庫)

  • 作者: 原田 マハ
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2020/04/08
  • メディア: 文庫



ゴッホのあしあと (幻冬舎文庫)

ゴッホのあしあと (幻冬舎文庫)

  • 作者: 原田 マハ
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2020/08/06
  • メディア: 文庫



暗幕のゲルニカ(新潮文庫)

暗幕のゲルニカ(新潮文庫)

  • 作者: 原田マハ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/12/21
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(声をかけないでって?)

 先日、陸上競技場に行ったら、娘の中学校が練習で来ていました。
 ところが、娘にこういうときは「声をかけないで」と言われています。

 近くで走っていたので、声をかけたり手を振ったりしたかったのですが、我慢しました。
 思春期の女の子には、何かと気を使いますね。

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ジーヴズの事件簿 才知縦横の巻 [20世紀イギリス文学]

 「ジーヴズの事件簿 才知縦横の巻」
 P・G・ウッドハウス作 岩永正勝・小川太一編訳 (文春文庫)


 完璧な執事ジーヴズが、おバカな主人の厄介ごとを、鮮やかに解決していく物語です。
 ユーモアあふれる短編集です。数年前に、美智子様の愛読書として注目されました。


ジーヴズの事件簿 才智縦横の巻 (文春文庫)

ジーヴズの事件簿 才智縦横の巻 (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2011/05/10
  • メディア: 文庫



 タイトルは、「ジーヴズの事件簿」。しかも、ホームズと同じく短編集です。
 しかし、ホームズのような探偵小説を期待すると、肩透かしを食らいます。

 決して大きな事件は起きません。せいぜい、詐欺師に引っかかる程度です。
 多くは、主人のどうでもいいような悩みを、機転を利かせて解決する話です。

 冒頭「ジーヴズの初仕事」では、主人バーティとジーヴズの出会いが語られます。
 「間違いない、この男は世界の驚異だ。一家に一人いるべき男だ。」(P11)

 バーティが、婚約者のフローレンスに頼まれたことは、泥棒まがいの・・・
 ジーヴズが、主人の知らないうちにおこなったことの裏には、どのような計算が?

 続く「ジーヴズの春」には、バーティの友人で、恋多き男ビンゴが登場します。
 ジーヴズは、ビンゴの恋を助けるために、どんな献策をし、どんな結果を得たか? 

 「ロヴィルの怪事件」では、傍若無人の中年女アガサ叔母が登場します。
 バーティはどのような事件に巻き込まれ、ジーヴズはどのように解決したか?

 その他4話で、全7話。難しい話は、一切ありません。とても気軽に楽しめます。
 時々、彼らの会話は笑えます。読みながらニヤニヤしてしまうかもしれません。

 何もすることのない日曜日に、ぼんやりソファに寝ころびながら読みたい作品です。
 ただし、良くも悪くも、あとに何も残りません。頭を空にして読み進めましょう。

 さて、この「才知縦横の巻」は、2018年に「大胆不敵の巻」と同時に購入しました。
 そのときちょっとだけ読んで、以来2年間ほど、部屋で積ん読状態だったのです。

 今思うと、読む順番を間違えて、「大胆不敵の巻」から読んだのがいけなかった。
 登場人物のイメージができる前に、「大胆不敵の巻」を読むべきではありません。

 「大胆不敵の巻」の最初の「トゥイング騒動記」は、賭け事の話ばかりです。
 なんでもかんでも賭けの対象にする、イギリス上流階級の俗悪さに嫌気がさします。

 また、ジーヴズの仕組んだことも、あまり感心できません。
 私は、上流階級に対する反感が生じてしまったため、先を読む気が無くなりました。


ジーヴズの事件簿 大胆不敵の巻 (文春文庫)

ジーヴズの事件簿 大胆不敵の巻 (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/12/21
  • メディア: Kindle版



 ところで、ジーヴズのような執事には、賛否両論あるようです。
 そういう頼もしい執事がほしいと言う人と、そんなお節介な奴はいらないと言う人と。

 私は「いらない」派です。ボッチが好きなので。
 というか、私たち庶民には、執事の存在そのものが、荷が思いのではないでしょうか。

 さいごに。(UFO専門組織)

 昨日8月16日「米国防総省、UFO専門組織を設置」というニュースが入りました。
 今年4月以来、ムー民的にとても気になっていたニュースです。ムーの時代が来た!

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世界文学の流れをざっくりとつかむ25 [世界文学の流れをざっくりとつかむ]

≪第六章≫ ルネサンス期から十七世紀の文学

 5 イギリス・ピューリタン文学

 イギリスの黄金期を築いたエリザベス女王は、1603年に死去しました。その後即位したスコットランドのジェームズ1世は、王権神授説を唱えて、国教会をバックに専制政治を行いました。それに反対したピューリタンを、ジェームズ1世は容赦なく弾圧しました。1620年には、102名のピューリタンが、弾圧を逃れてメイフラワー号でアメリカへ移住しました。

 ジェームズ1世の死後、息子のチャールズ1世も専制政治を継承し、議会を無視し続けました。1628年に議会から「権利の請願」が出されたため、王は議会を解散させ、王党派と議会派の対立が激化しました。議会派の中心は都市部の商工業者であり、その多くはピューリタンでした。1642年、ピューリタン革命が起こり、1649年には、チャールズ1世が処刑されました。クロムウェルは厳格な独裁政治を始め、娯楽を禁止し、劇場を閉鎖したため、演劇は衰退しました。

 ミルトンは、クロムウェルのもとでラテン語書記をしていました。革命を擁護する文章などを書いていましたが、過労により失明してしまいました。1660年の王政復古後は不遇の中、詩作に専念し、「失楽園」を口上筆記しました。旧約聖書の創世記を題材に、堕天使の逆襲と人間の楽園追放を描いた長編叙事詩で、キリスト教の根本にあるアダムとイブの原罪をテーマにしています。1967年に刊行され、発禁処分となりますが、現在ではピューリタン文学の最高傑作とされています。

 1688年、名誉革命が起こり、王が追放されウィリアム3世が即位しました。「権利の章典」が出され、議会政治が行われるようになり、国教会が確立しました。こののち、王からの経済干渉が無くなったため、18世紀に産業革命が始まります。また、仕事に励み、現世での成功を目指すというピューリタンの特質も、産業革命をもたらす要因となりました。

 ジョン・バニヤンは、陽気で人気のある伝道師でした。1678年に、「天路歴程」の正篇が出されました。クリスチャンという名の男が、様々な苦難の果てに、天の都にたどりつくまでの旅の記録です。人が理想的なキリスト教徒になるための過程を寓意した物語です。アメリカ移住者のプロテスタントの間では、最も広く読まれた宗教書です。

 二つの革命があった17世紀のイギリスは、社会が混乱状態にあって、芸術活動は停滞しました。しかし、いちはやく市民革命を体験したイギリスでは、次の世紀に他国に先立って市民中心の芸術活動が始まったのです。

 次回はフランスの古典主義文学について述べたいと思います。

 さいごに。(31に行きたい理由)

 娘と一緒に31アイスに行きました。娘には、31に行きたい理由があったのです。
 それは、山田涼介がプロデュースしたポッピング・ドリームを食べたいというもの。

 ところが、それは期間限定のフレーバーで、すでに販売が終わっていました。
 どうやら、コロナの自粛でお店が閉まっていた頃に、それは出ていたらしい・・・

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石蹴り遊び2 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「石蹴り遊び 下」 コルタサル作 土岐恒二訳 (集英社文庫)


 絶対的なものを求めて彷徨する、アルゼンチン青年オリベイラを描いた長編小説です。
 全155章、三部構成です。いくつもの読み方ができるという、唯一無二の作品です。


石蹴り遊び(下) (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

石蹴り遊び(下) (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1995/01/20
  • メディア: 文庫



 第二部「こちら側から」に入ると、舞台はパリからブエノスアイレスに移ります。
 オリベイラは旧友トラベラーを頼り、その妻タリタと、三人暮らしが始まります。

 ところが、書いてある内容が曖昧で、どうもよく分からないのです。
 しばらくのちにオリベイラは、精神病院で生活を始めているようだし・・・

 「わたしはわたしなり、わたしは彼なり。わたしたちはあり、しかしわたしたちは
 わたしなり、まず第一にわたしはわたしなり、わたしは守りとおすであろう、力の
 及ぶかぎり、わたしであることを。」(下巻P39)

 そして、「分身」とか「相棒(ドッペルゲンガー)」とかいう言葉が頻出します。
 さらに、次のようなイミシンな会話が突如現れます。

 「あれがタリタだということはぼくも知っているけど、ちょっと前にはあれはラ・
 マーガだったんだ。彼らは二人なんだよ、ぼくらのように」(下巻P136)

 いったい、どういうことなのか? オリベイラは、どうなってしまったのか?
 もやもやします。ネタバレで詳しいあらすじがあったら、ありがたいのですが。

 第26章や第31章には、オリベイラについて、こんなことが書かれていました。
 今振り返ってみると、なかなかイミシンな言葉です。

 「彼は、パリのどこかに、ある日、ある死、あるいはある出会いの中に、ひとつの
 鍵があるのではないかと考えて、それを狂気のように探しています。」(P211)

 「なにかって言うとあなたは探しものばかりしていましたが、あなたの探していた
 ものはポケットの中に入っていたんだっていう気がするんですよ」(P300)

 絶対的な真理を、あちこち探しまわったが、そんなものは見つからなかった、
 それは、分身であるもう一人が握っているのだ、ということでしょうか?

 さて、改めて物語を思い返して、三分の一ほどしか理解できなかったと思いました。
 結末がどうなったのかさえ、私には分かりませんでした。あーあ。

 この作品にはいろいろな仕掛けがあるので、ぜひ読んで確かめてみてと言われます。
 実際に読んでみたけど難しくて、その仕掛けに私は気づきませんでした。あーあ。

 自分の理解力の無さを棚に上げて言うなら、これは文学ではなく、「遊び」ですよ。
 まさにタイトル通り、人をあっちこっちに連れまわす「石蹴り遊び」なのです。

 そういえば誰かがレビューに、この作品について書いていました。
 「この本はゲームブックのはしりだ」と。ゲームブック! うまいことを言う。

 ゲームブックが廃れたように、この作品も今ではほとんど顧みられなくなりました。
 文庫本が復刊される見込みは少ないでしょう。そういう意味でこれは貴重な本です。

 私は2000円と少し出して、中古でこの本を上下二冊購入しました。
 しかし今では、「コルタサルは短編」と割り切ることをオススメします。

 さいごに。(腹筋を2週間で)

 陸上仲間の友人に、「Get abs in 2 WEEKS」という動画を紹介されました。
 女性用だというので、気軽にやってみたのですが、たいへんでたいへんで・・・

 わずか10分ですが、へとへとになります。というか、最後までできません。
 → https://www.bing.com/videos/search?q=get+abs+in+2weeks&&view=detail&mid=A51718C0D63A328F6609A51718C0D63A328F6609&&FORM=VRDGAR&ru=%2Fvideos%2Fsearch%3Fq%3Dget%2520abs%2520in%25202weeks%26qs%3Dn%26form%3DQBVRMH%26sp%3D-1%26pq%3Dget%2520abs%2520in%25202weeks%26sc%3D0-17%26sk%3D%26cvid%3D83170AD0E0784B47A4670DE83C8DE13C

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石蹴り遊び1 [20世紀ラテンアメリカ文学]

 「石蹴り遊び 上」 コルタサル作 土岐恒二訳 (集英社文庫)


 絶対的なものを求めて彷徨する、アルゼンチン青年オリベイラを描いた長編小説です。
 1963年に出てブームを巻き起こしました。いくつもの読み方が可能な、問題作です。

 1995年に集英社文庫から出ましたが、現在は絶版。中古は、上下で4000円ほどです。
 私は上下二冊を2000円ちょいで手に入れました。訳は比較的分かりやすかったです。
 

石蹴り遊び(上) (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

石蹴り遊び(上) (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1995/01/20
  • メディア: 文庫



 この小説は全155章あり、三部構成となっています。
 そして、いくつもの読み方ができる点が、最大の特徴となっています。
 
 第一部「向こう側から」は、第1章から第36章までで、舞台はフランスのパリです。
 主人公オリベイラと、シングルマザーのラ・マーガとの、愛と別れが描かれています。

 第二部「こちら側から」は、第37章から第56章までで、舞台はブエノスアイレス。
 故国に帰ったオリベイラは、親友トラベラーとその妻タリタと、三角関係になります。

 第三部「その他もろもろの側から」は、第57章から第155章までです。
 新聞記事、メモ、何かの引用など、雑多な断章が、一見無意味に集められています。

 さて、作品の冒頭に、作者は「指定表」なるものを置いています。
 そして、次の二通りの読み方のうち、いずれか一方を選択するよう述べています。

 第1の読み方は、普通の方法に従って、第一部から第二部まで読むというものです。
 その場合、第三部の雑多な断章は、「なんの未練もなく放り出して」もよいと言う。

 第2の読み方は、第73章から始めて1、2、116、3、84、4、71・・・というように、
 指定表の順序に従って、第三部の断章を挟み込みながら読んでいくというものです。

 もちろん私は、第2の方法を選択しました。第三部を切り捨てるなんてできません。
 いったい、第1の方法を取る人がいるのでしょうか?

 ところが読み始めてすぐ、私は挫折しそうになりました。意味が分からないのです。
 そもそも登場人物らは、なんだか人を煙に巻いたようなことばかりを言っています。

 「絶対ってなんなの、オラシオ?」
 「いいかい」とオリベイラは言った。「それは煎じ詰めればなにかがその深さの極限、
 その射程の極限、その意味の極限に到達してしまい、面白味を完全に失ってしまう瞬
 間のことさ」(P66)

 「ものの事物性ってなに?」とラ・マーガが尋ねた。
 「ものの事物性というのは、われわれの推測の終るところにわれわれの罰が始まると
 いうあの不愉快な感情のことです。」(P108)

 こういう会話があちこち散乱している上に、第三部の雑多な断章が紛れ込むのです。
 ひどすぎて引用できません。たとえば第68章や第96章などを読んでみてください。 

 しかし、突然こういう断章に飛ぶところが、「石蹴り遊び」たるゆえんなのでしょう。
 蹴った石が変な場所へ飛び、新しい展開が始まる点こそ、その醍醐味かもしれません。

 それに第三部には、意外と大事な場面が混ざっているのです。いわば、玉石混淆です。
 特に最後の第154章と第155章は、この作品のネタばらし的な部分でとても重要です。

 現在、第2の方法で、第一部を(第36章まで)読みました。まだ全体の6割ほどです。
 正直に言って、私は、ここまでの物語の半分ほどしか理解できていないと思います。

 では、ほかの人たちはどんなふうにこの本を読んでいるのでしょうか。
 そこでようやく、「ラテンアメリカ十大小説」にあった読み方を思い出しました。

 そこで勧めているのは、最初に第1の方法で読んで次に第2の方法で読むという方法。
 そうすると、第2の方法で読んでいるとき、全く新しい景色に出会うのだそうです。

 なるほど! 私もそうしたかった。
 しかし、今更もう一度この作品を読み直す気力なんて、とてもありません。あーあ。

 さいごに。(半沢直樹、面白すぎ)

 半沢直樹にはまっています。実に面白い。何年かぶりに、ドラマを毎週見ています。
 どんな苦境も諦めずに全力で乗り切るところが、かっこいいです。元気をもらえます。

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世界の神話 [古代文学]

 「世界の神話」 沖田瑞穂 (岩波ジュニア新書)


 世界を10の地域に分けて、それぞれの代表的神話を、分かりやすく紹介しています。
 2019年8月に出たばかりの、とても読みやすい本です。文庫本ではなく、新書です。


世界の神話 (岩波ジュニア新書)

世界の神話 (岩波ジュニア新書)

  • 作者: 瑞穂, 沖田
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2019/08/23
  • メディア: 新書



 10の地域とは、インド、メソポタミア、エジプトとアフリカ、ギリシア、ケルト、
 北欧、インドネシア、中国、オセアニア、中南米と北米。付録として「古事記」。

 ひとりの著者によって書かれているため、内容が有機的につながっていて面白い。
 (「世界神話事典」は執筆者が多い分、バラバラで無機的な印象がありました。)

 その反面、著者の好みでチョイスしているためか、どうしても偏りがありました。
 たとえば著者の専門のインド神話だけ、他の地域より大幅にページ数が多いです。

 満遍なく世界に目を配ることよりも、自分の伝えたいことを優先しているようです。
 その方針が、この本を魅力的なものにしています。

 「中国人は、古来現実世界に興味を持っていたから、歴史書を多く残した。
 インド人は、神々の世界に興味を持っていたから、神話や哲学書を多く残した。」

 「インド・ヨーロッパ語族は、もともと一つの社会を営み、同じ神話を持っていた。
 オリエントから、インド、ギリシアの洪水神話は、すべて起源が同じである。」

 「蛇は、神話では原初の混沌を表す。英雄が蛇を退治して、秩序を作り上げる。
 蛇はもともと女神だった。旧石器以来、蛇は女神と一体だった。」

 「世界の始まりのとき、新しい秩序を作るために、秩序を超えた力が必要となる。
 その力を生み出すのが、秩序を超えた結婚、すなわち近親相姦であると解釈する。」

 「中国人の世界観では、世界は整然と方眼状に区画されていて碁盤に喩えられる。
  碁石の黒と白は陰と陽を表し、碁を打つことは天体の運行と人間の営みを表す。」

 「アポリジニにとって、神は世界そのものであるから、自然を傷つけられない。
 一神教の人々にとって、世界は神から与えられたものだから、存分に利用できる。」

 「アステカの神話では、世界は神々の犠牲で創られ、やがて滅亡する定めである。
 万物の死滅を少しでも遅らせるために、自分たちも犠牲を捧げるべきだと考えた。」

 さて、中でもとびっきり印象に残っている神話が、「フィアナ神話」です。(P116)
 常若の国からオシーンが帰ってみると、故郷はまったく変わっていて・・・

 なお、ここで紹介される神話は、「世界神話事典」からの引用が多かったです。
 改めて「世界神話事典」が、基本的資料として大事にされていると感じました。

 「世界神話事典 世界の神々の誕生」
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2020-08-01

 さいごに。(コロナ拡大)

 7月31日に、新規感染者は、全国で1580人に達しました。東京は463人でした。
 「Go To トラベル」も始まって、わざとコロナを広めているようにも思えます。

 先日カフェのカウンターで、隣に座った人から、興味深い話を聴かされました。
 「コロナが拡大することのメリットに国は気づいた」と言うのです。まさかね。

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世界神話事典 世界の神々の誕生 [古代文学]

 「世界神話事典 世界の神々の誕生」 大林太良ほか編 (角川文庫)


 世界を19の地域に分けて、各地域の神話の専門家が分かりやすく解説した事典です。
 2005年に刊行された「世界神話事典」の中の、「地域別にみる神話」の文庫化です。


世界神話事典 世界の神々の誕生 (角川ソフィア文庫)

世界神話事典 世界の神々の誕生 (角川ソフィア文庫)

  • 出版社/メーカー: 角川学芸出版
  • 発売日: 2012/03/24
  • メディア: 文庫



 19の地域とは、日本、中国、朝鮮、東南アジア、インド、イラン、メソポタミア、
 エジプト、ギリシア・ローマ、ケルト、ゲルマン、スラヴ、シベリア、内陸アジア、
 オセアニア、北アメリカ、メソアメリカ、南アメリカ、アフリカです。

 それぞれの地域の神話の概要が、わずか10ページほどで書かれています。
 興味を持った地域の神話を、さくっと理解したいのなら、もってこいの事典です。

 読んだことのない神話を、ゼロから知ることができます。たとえば、オセアニア。
 通過儀礼、人間の起源、脱皮型死、兄弟争い・・・「夢の時代」の記述は傑作です。

 「オーストラリア原住民は、原初の夢の時代に神話的な存在が広く移動したと伝えて
 いる。これは決して生活から遊離した空想でもなければ、死んだ過去の物語なのでも
 なく、生きていて、現実生活の指針を与えてくれるものなのである。(中略)彼らは精
 霊の形で生存し続けている。」(P167)

 スラヴの神話では、「吸血鬼と人狼」が目を引きました。
 ネウロイ人はみな年に一度だけ数日にわたって狼に変身し、それから元の姿に・・・

 「自分の意志でなる場合は、好きなときに人間に戻れるが、意図せず人狼にされた場
 合には、七年間あるいは五十年間、人を襲ってその肉を食べる。」(P143)

 アフリカの神話も興味深かったです。
 いろいろある中でも、亀がもたらした「死の起源」が面白かったです。

 「子供が欲しい」と言う亀に、神は言います。「子供を産むと死ななければならない」
 「子供が持てるなら死んでもいい」 子供を得た結果、出産と死がもたらされ・・・

 さて、ここまでの話と矛盾するようですが、この本はもの足りなかったです。
 それもそのはず。わずか10ページずつですからね。世界全体でも200ページほど。

 つまり、ここに紹介された神話は、全体のほんの一握りにすぎないのです。
 ほとんどの部族の神話が、取りこぼされているのです。

 どうやら姉妹版の「世界神話事典 創世神話と英雄伝説」が、事典の本編のようです。
 そして、今回読んだ「世界の神々の誕生」の方は、付録のような位置でしょうか。

 「創世神話と英雄伝説」の方は、項目別になっています。ぜひ読みたいです。
 「世界の起源」「人間の起源」「洪水神話」「死の起源」「火の起源」・・・

 さいごに。(夏休みは23日間)

 子供たちの夏休みの短縮が話題となっています。
 うちの娘の中学校は8月1日から23日までです。週休日等を入れて23日間です。

 8月の終わりの残暑厳しい時期に、授業が始まります。しかもクーラー無しです。
 ちょっとかわいそうな気がしますが、それ以上に先生方もたいへんでしょう。

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