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ユリシーズ2 [20世紀イギリス文学]

 「ユリシーズ Ⅰ」 ジェイムズ・ジョイス作 丸谷才一・永川玲二・高松雄一訳
 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ)


 1904年6月16日のダブリンでの一日を、さまざまな文体を駆使して描いた小説です。
 プルーストの「失われた時を求めて」と並んで、20世紀を代表する文学作品です。


ユリシーズ 1 (集英社文庫)

ユリシーズ 1 (集英社文庫)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2003/09/19
  • メディア: 文庫



 すでに前回、紹介をしました。現在、ようやく第一巻を読み終わったところです。
 「ユリシーズ1」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-05-28

 相変わらずよく分からない小説です。読んでみても、内容が分からないのです。
 それなのに、この作品には「なにかある」と感じさせるため、投げ出せません。

 この物語の最大の特徴は、ホメロスの「オデュッセイア」と対応関係にある点です。
 そもそも「ユリシーズ」とは、「オデュッセウス」のラテン語の英語読みなのです。

 ではどのように対応しているかというと、オデュッセウスが主人公のブルームです。
 息子のテレマコスがスティーヴンに、妻のペネロペイアが妻モリーになっています。

 そして、オデュッセウスの10年間の漂流は、わずか1日の出来事となっています。
 というわけなので、「オデュッセイア」を知っていないと、充分に味わえません。

 トロイ戦争の勝利ののち、オデュッセウスが10年間漂流して帰郷できなかったこと、
 息子テレマコスが父を探す旅に出て、最後には再会することは、最低限の知識です。

 「ユリシーズ」の18の章のタイトルは、「オデュッセイア」から取られています。
 そしてそれぞれの扉には、要約のほかご丁寧にも「神話的対応」の説明があります。

 たとえば第1章の「テレマコス」では、「スティーヴンが『オデュッセイア』の
 テレマコスに対応する。」とあるので、彼が主人公と再会することが分かります。

 2章は「ネストル」、3章は「プロテウス」、4章は「カリュプソ」と続きます。
 それぞれの語のイメージができないと、物語を真に味わうことができません。

 そういう意味で「ユリシーズ」は、西洋以外では理解することが困難だと思います。
 我々はまず、「オデュッセイア」を読んでから、「ユリシーズ」に向かうべきです。

 「オデュッセイア1」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2016-05-14
 「オデュッセイア2」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2016-05-17

 さて、「オデュッセイア」と対応すると言ったものの、実はピンとこないのです。
 オデュッセウスは主人公ブルームにあたりますが、まったく冴えない男だからです。

 スティーヴンも同様。妻モリーに至っては、浮気女として描かれているのです。
 そこに何かしら深い意味があるのでしょう。私には何が面白いのか分かりませんが。

 「ユリシーズ」の第二の特徴は、「意識の流れ」という技法を使っている点です。
 これは、会話文がカギかっこなしで、じゃんじゃん挿入されてくるというものです。

 のちの作家は、大きな影響を受けたましたが、同時に多くの読者も失ったはずです。
 この技法が、この作品を非常に読みにくくしています。

 3章「プロテウス」でその技法が発揮されますが、ここで諦める人が多いのも事実。
 まあ、テキトーに読み飛ばしてしまえばいいと、私は思うのですが。

 さらに、この作品には、多くのダジャレや引用があると言います。
 そのために150ページにわたる注釈があるのでしょうが、私は読む気になれません。

 それをひとつひとつ読んで味わうのは、文学の鑑賞ではないような気がします。
 思い切って言えば、それはただの「あそび」だと思うのです。

 「ユリシーズ」は、ぎりぎりの地点で「あそび」から脱しているとは思います。
 というのも、時として次のような、非常に心揺さぶられる言葉に出会えるからです。

 「人間は死ぬまでずっと孤独に暮すことができる。そうとも、できるんだ。だけど
 死んだあとでは誰かに土をかぶせてもらわなけりゃならない。墓穴は自分で掘って
 置くとしても。」(P270)

 ところで第Ⅰ巻を読むにあたって、私に大きな助力を与えてくれたものがあります。
 それが、「演劇の結城」氏によるユーチューブ動画です。



 この動画を見てから読んだので、なんとか読み続けることができました。
 ただし、2022年5月現在、第6章までしかアップされていません。

 非常に内容が濃いので、作るのが大変なのでしょう。
 他人には真似できないすばらしい仕事です。続編を期待しています。

 さいごに。(おのれ、ペイペイカードよ)

 ペイペイを敬遠してきました。以前おこなったキャンペーンが、品が無かったので。
 しかし、ヤフーカードが勝手にペイペイに切り替わり、勝手に送られてきたのです。

 しかも、ペイペイカードになって、一部ネットでの支払いができなくなりました。
 電話で聴こうとしたら、お金がかかるというし。どうしましょうか・・・

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ユリシーズ1 [20世紀イギリス文学]

 「ユリシーズ Ⅰ」 ジェイムズ・ジョイス作 丸谷才一・永川玲二・高松雄一訳
 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ)


 1904年6月16日のダブリンでの一日を、さまざまな文体を駆使して描いた小説です。
 プルーストの「失われた時を求めて」と並んで、20世紀を代表する文学作品です。


ユリシーズ 1 (集英社文庫)

ユリシーズ 1 (集英社文庫)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2003/09/19
  • メディア: 文庫



 スティーヴン・ディーダラスは、友人バック・マリガンと共同生活をしています。
 文学を志しながらも、現在は学校で教師として働いて、生活費を稼いでいます。

 朝食のあとバックは水泳へ行き、スティーヴンは授業をしに学校に向かいました。
 スティーヴンは校長に頼まれて新聞社に行く途中、さまざまな思いに囚われます。

 同じ日の朝レオポルド・ブルームは、妻モリーのために朝食を用意していました。
 レオポルドは、広告取りをしている38歳のユダヤ人の男で、物語の主人公です。

 レオポルドはモリ―の浮気を心配しながらも、自分は他の女と文通しています。
 彼は馬車で墓地へ行きますが、たまたまスティーヴンの父親と乗り合わせて・・・

 といった具合に始まります。この物語は「オデュッセイア」が元になっています。
 レオポルドはオデュッセウスに、スティーヴンは息子テレマコスに対応しています。

 「オデュッセイア」では、父オデュッセウスと息子テレマコスが最後に再会します。
 ということは、レオポルドとスティーヴンも、どこかで出会うはずだと思います。

 しかし、ふたりが出会ったとしても、「だから何?」って感じです。
 冴えない広告取りと、冴えない学校教師。何も起こりそうにありません。

 正直に言って、何が面白いのかよく分からない小説です。
 それどころか、章によっては何が書いてあるのかさえ分かりません。

 巻末の150ページ分の訳注が、参考になるようですが・・・読めないって!
 だいたい、訳注が無ければ成立しないような作品を、私は良いとは思えません。

 こういう面倒くさい作品なので、「最も途中で放棄される本」の1位だと言います。
 ところが、そう言われると逆に読んでみたくなるのが人情。私も罠にはまりました。

 第一部の3「プロテウス」はひどかったです。
 浜辺を歩くスティーヴンの、目まぐるしく変わる心の中を、そのまま写しています。

 「彼の唇は空に浮ぶ肉のない唇に唇を重ね、口を合わせた。口を女のムームに。ウー
 ム、子宮。あらゆるものをはらむ墓。彼の口は形を作って息を吐きだしたが、言葉に
 はならなかった。ウゥイィィハー。巨大な滝となって落下する惑星群の響き。球とな
 り、燃えあがり、響きわたりながら消えて行く、遠い、遠い、遠い、遠い、遠い向こ
 うへ。」(P126)

 なんだか変態的な妄想のあと、なぜか宇宙的に思いを馳せています。なぜか?
 「ムーム」は子宮や墓のほか、月をも表すのだと訳注に書いてあります。なるほど。

 こういう表現を、超絶的技巧と言うか、ただの遊びと言うかは、微妙なところです。
 超絶技巧はやりすぎると、単なる遊びに堕するものだと、私は考えていますが。

 さて、私は「ユリシーズ」を、どんなにつまらなくても最後まで読む覚悟でいます。
 ある意味この作品は、つまらなさと分からなさが、独特の味わいとなっています。

 さいごに。(誕生日プレゼント)

 5月で55歳になりました。妻から誕生日プレゼントをもらいました。
 「地球の歩き方」と「ムー」のコラボで出た「異世界の歩き方」です。

 ピラミッドとか、巨石文明とか、UMA発見地とか、とても勉強になります。
 55歳の男が読む本としてどうかはともかく。


地球の歩き方 ムー-異世界(パラレルワールド)の歩き方ー超古代文明 オーパーツ 聖地 UFO UMA

地球の歩き方 ムー-異世界(パラレルワールド)の歩き方ー超古代文明 オーパーツ 聖地 UFO UMA

  • 出版社/メーカー: 学研プラス
  • 発売日: 2022/02/10
  • メディア: 単行本



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そんなバカな! [理系本]

 「そんなバカな! 遺伝子と神について」 竹内久美子 (文春文庫)


 動物または人間の身近な話題を通して、利己的遺伝子について解説した著書です。
 1991年に出てベストセラーとなり、竹内久美子を一躍有名人にした著書です。


遺伝子と神について そんなバカな! (文春文庫)

遺伝子と神について そんなバカな! (文春文庫)

  • 作者: 竹内 久美子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1994/03/10
  • メディア: 文庫



 私たちひとりひとりの体は、遺伝子が自らを乗せるために作り上げた乗り物なのです。
 遺伝子は、悠久の時間を旅するという目的のため、私たちの体を利用しているのです。

 私たち個体は、いくつもの遺伝子が偶然乗り合わせているだけのうたかたの存在です。
 私たち個体の死は命の終わりではなく、主体である遺伝子はいつまでも生き続けます。

 私たちの行動は、この遺伝子によって、都合よく操られているのです。
 その行動を決めるのは、種の繫栄でもなく個体の利益でもなく、遺伝子の利己性です。

 なぜ人間のメスだけは、いつ排卵するのか自分でも分からないのか?
 なぜ小児ぜんそくは、ある程度成長すると自然に治るのか?

 姑の嫁に対する意地悪な行動の、真の目的は何か?
 親が子を叱る行動の、真の目的は何か?・・・
 
 さまざまな動物行動学的な謎を、利己的遺伝子の戦略という視点から説明しています。
 どれも面白いのですが、印象的だったのは「遺伝子が神をつくった」という指摘です。

 どの宗教でも、礼拝では、頭を垂れたり、身をかがめたり、ひれ伏したりしています。
 それはまるで、劣位のサルが優位のサルに対して、振舞っているように見えるのです。

 しかし人間がサルと決定的に違うのは、神という架空の存在を対象にしている点です。
 神は、遺伝子によって長年にわたって作り上げられてきた概念なのであり・・・

 さて、ほかにもちょっとしたエピソードの中に、面白いネタがたくさんありました。
 たとえば、「専門家の穴」の話(P69)。なるほどなあ、と思いました。

 この本は、竹内久美子入門として、まず最初に手に取るべき一冊かと思います。
 妻もこの本が好きで、浮気の竹内的解釈などについては、よく話のネタにしました。

 竹内久美子には、ほかにも多くの多くの著書があります。
 「男と女の進化論」「遺伝子が解く!男の指のひみつ」なども面白いと評判です。


男と女の進化論―すべては勘違いから始まった (新潮文庫)

男と女の進化論―すべては勘違いから始まった (新潮文庫)

  • 作者: 久美子, 竹内
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1994/03/01
  • メディア: 文庫



遺伝子が解く! 男の指のひみつ (文春文庫 た 33-7 私が、答えます 1)

遺伝子が解く! 男の指のひみつ (文春文庫 た 33-7 私が、答えます 1)

  • 作者: 竹内 久美子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2004/07/09
  • メディア: 文庫



 さいごに。(数学がピンチだが)

 娘は高校に入って、すでに数学が分からなくなってきて、少しピンチです。
 しかし、別につらいわけではないと言っています。

 というのも授業中、生徒同士で教え合う時間に、隣の男子生徒に教えてもらえるため。
 中学生の時は、こういうときにいつも教える側にいたので、新鮮で嬉しいのだとか。

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半身 [20世紀イギリス文学]

 「半身」 サラ・ウォーターズ作 中村有希訳 (創元推理文庫)


 ヴィクトリア朝のミルバンク監獄を舞台にした、貴婦人と女囚の謎めいた物語です。
 1999年に出てモーム賞を受賞し、日本でも「このミス」海外部門1位となりました。


半身 (創元推理文庫)

半身 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2003/05/24
  • メディア: 文庫



 1874年9月、老嬢のマーガレット・ブライアは、ミルバンク監獄を慰問しました。
 怪物にたとえられる堅牢な建物の中、さまざまな女囚たちが監禁されていました。

 マーガレットはそこで、不思議な雰囲気を持つ19歳の美しい女囚と出会いました。
 彼女の名はシライナ。彼女は霊媒で、1年前に貴婦人を怪我させたのだそうです。

 「霊はいつでもわたしたちのまわりにいる」
 シライナと言葉を交わしたことで、彼女のことが急に気になり始めました。

 やがて不思議なことが起こり、マーガレットはシライナの能力を信じ始め・・・
 交流するうちに知らず知らず惹かれ合い、やがてふたりの関係は・・・

 この物語の大きな魅力は、ミルバンク監獄のおどろおどろしい雰囲気です。
 我々読者もまた、どこに連れて行かれるのか分からない恐怖があります。

 そしてもうひとつの魅力が、妖しい魅力を持ったシライナです。
 霊媒としての彼女の言葉が、ますます我々読者を迷わせます。

 そう、霊は誰かのもとに飛んでいく。わたしたちはみんな誰かのもとに飛んでいって、
 ふたりでひとつの光り輝く魂に戻る。裂かれた魂のかたわれと、ふたりでひとつ。魂
 の半身と。」(P287)

 「わたしはあなたを探すために生まれてきた、あなたはわたしを探すために生まれて
 きた。あなたはわたしを求めていたの、あなたの半身を。」(P374)

 シライナが監獄にいるなら、マーガレットもまた家庭という監獄にいました。
 ふたりが求めたのは自由。シライナは自由を手にするか? マーガレットはどうか?

 そして、終盤の怒涛の展開と、おどろくべきラスト。
 本当によくできたミステリー小説だと思いました。

 作者サラ・ウォーターズは、ヴィクトリア朝を描いた作品で知られています。
 と同時に、レズビアン小説でも知られています。本作もそのひとつです。

 彼女の作品で、「半身」以上に評価が高いのが次作「荊(いばら)の城」です。
 「このミス」海外部門で、二作連続で一位となりました。いつか読みたいです。


 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2004/04/22
  • メディア: 文庫



 さいごに。(見てくれる人は?)

 高校生になって、娘の朝の準備時間が長くなりました。
 髪の毛をやたらといじくって・・・お前、見てくれる人がそんなにいるのか?

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読書のすすめ [読書・ライフスタイル]

 「読書のすすめ」 岩波文庫編集部編 (岩波文庫)


 小説家、詩人、哲学者、科学者、画家など、各界の第一人者による読書案内です。
 執筆陣は、安野光雅、大岡信、大江健三郎、中野孝次など、錚々たる顔ぶれです。


読書のすすめ (岩波文庫)

読書のすすめ (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1997/10/16
  • メディア: 文庫



 「書物は、人類が生み出したもっともすばらしいものである。そこにはもっとも高貴
 な人間精神が秘められ、すべての文化、学問、思想がもっとも純粋なかたちでそこに
 凝縮されている。書物は、私たちがおかれている小さな世界を超えて、遠い過去にさ
 かのぼり、広い世界に足をふみ入れることを可能にする。また人間の精神の奥深くま
 で入って、人類がこれまで蓄積してきた膨大な知識、思想、技術を私たちの前に提示
 する。」(P40・宇沢弘文の文章より)

 初めて読んだとき(30歳前後の頃)、この文章を何度も何度も読み返しました。
 まさに、本の魅力を簡潔に伝えた名文だと思いました。

 特に「書物は、私たちがおかれている小さな世界を超えて・・・」の一文が良いです。
 この文章は、鉛筆で傍線が引かれた上に、蛍光ペンで塗られていました!

 「人類は文字を発明することによって、それまで自分の脳で記憶し言葉で伝承する
 だけだった情報を、文字で記録して保存し、それを他人に伝達することを始めた。
 文字の発明は、体の外に第二の脳を作ることになったのだ。(中略)人間は自分の
 中で新しい情報を作り出す存在だが、同時に外部から、他人の脳が作り出した情報
 を取り込んで常に自己変革をしている存在でもある。だから、文字を書き、読むと
 いうのは、人間の基本的な生命活動なのである。」(P158・多田富雄の文章より)

 この文章もまた、鉛筆で傍線が引かれた上に、蛍光ペンで塗られていました。
 「書くこと」と「読むこと」の魅力を伝えてくれた名文だと思います。

 さて、多読術の話は、中村真一郎の「わが読書」という文の中で述べられています。
 成毛眞の「本は10冊同時に読め!」の元ネタ(?)が、ここにあります。

 まず、メモ帳に次のような項目を立てます。
「宗教、思想、詩、小説、エッセー、戯曲、語学、社会科学、数学」などです。

 毎週月曜日に、各項目それぞれに、日本の本と外国の本を書き込んでいきます。
 たとえば「小説」なら「偽紫田舎源氏」と「虚栄の市」と言う具合です。

 上の項目だと、9項目×2で18冊になります。これらを毎日並行して読むのです。
 そして翌週の月曜日に、読み終わった本はリストから外し、新たな本を加えます。

 そして、1930年代までに、人類の代表的な文化遺産はマスターするというのです。
 自分たちの時代が来たら、この蓄積をもとに出発しようと。さすが、志が高い。

 私も当時、真似しました。ただし五項目に絞り、日本と外国は分けませんでした。
 たとえば、「哲学、科学、日本の古典、日本文学、外国文学」といった具合です。

 実際当時の手帳には次のようなメモがありました。なかなか魅力的なリストです。
 「ユング心理学入門」「コスモス」「万葉集」「それから」「夏への扉」

 しかしすぐ諦めました。5冊同時に読むと、1冊10分ほどしかとれないからです。
 ちっとも本が読み終わらず、いつまでもリストの本が入れ替わらなかったのです。

 しかし、時間がある人にとっての読書法としては、とても面白いと思います。
 私は定年退職後に、この方法で読書したいと考えています。

 ほか、色川大吉の「敗戦前夜 『一日一冊』のころ」が興味深かったです。
 色川は18歳で東大に繰り上げ入学した直後、学徒出陣となり入隊が決まりました。

 戦争による死の気配が迫る中、一日一日の命を惜しむことに気が焦っていました。
 そのとき「一日一冊本を読もう」と決めて、古典をかたっぱしから読み始め・・・

 大岡信もまたこの本で、杉浦明平の「一日一冊読むルール」を紹介していました。
 そして杉浦明平は、岩波新書の「私の読書法」で独特の読書法を披露しています。

 それは、「毎月一万ページ」の読書の義務を自分に課す、というものでした。
 毎日300ページ超ということになります。もちろん、誰もそんな真似はできません。

 杉浦はまた、本を同時に四冊読む、ということをしていたと言います。
 うち二冊はあらかじめ決めた本で、二冊は自由選択(翻訳と日本文学)だそうです。

 岩波新書の「私の読書法」も、執筆陣は錚々たる顔ぶれです。
 清水幾太郎、梅棹忠夫、中村光夫、田中美知太郎、開高健、円地文子などなどです。


私の読書法 (岩波新書 青版 397)

私の読書法 (岩波新書 青版 397)

  • 作者: 大内 兵衛
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2022/05/18
  • メディア: 新書



 さいごに。(2時間待ちで入れず)

 先日の東京旅行で、スタバックス・リザーブ・ロースタリーに行きました。
 いつも混んでいるとは聞いていました。しかし、まさか2時間待ちとは!

 待っていたら、妻と娘との合流時間に間に合わなくなるので、諦めました。
 まあ、いいです。地元にあるスタバで我慢します。

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多読術 [読書・ライフスタイル]

 「多読術」 松岡正剛 (プリマー新書)


 読書と編集の達人が、読書法について、問答形式でやさしく教えてくれる本です。
 著者の松岡は、ネット上で「千夜千冊」という本の紹介サイトを運営しています。


多読術 (ちくまプリマー新書)

多読術 (ちくまプリマー新書)

  • 作者: 松岡 正剛
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2009/04/08
  • メディア: 新書



 本を手に取ったら目次をじっくりと読んで、おおざっぱな内容を想像します。
 そして「知のマップ」ができたところで読み始めます。これが「目次読書法」です。

 読書の醍醐味は、著者の書いた内容と自分の感情とが混ざっていくことにあります。
 つまり読書とは、「著者と自分とのコラボ」なのであり、「相互編集」なのです。

 「相互編集」を通して、時に読者は、新たな時空に入ったことを実感します。
 そのことをリアルタイムに感じたら、ぜひそれを本にマークしておきたい。

 また、読書しながら感じたことや考えたことは、どんどん本に書き込んでいきたい。
 「マーキング読書法」では、本を「テキストが入っているノート」とみなします。

 というように、著者の読書法と読書に対する考えが、分かりやすく語られています。
 読書は「相互編集」だという考え方は、私にとって特に面白かったです。

 また、人類の「音読」と「黙読」の歴史を語った場面は、非常に興味深かったです。
 14世紀から16世紀に活版印刷の普及によって、世界は「黙読社会」へ進化しました。

 さらに、黙読が脳内に「無意識」を発生させた、という仮説があるのだそうです。
 音読社会ではつながっていた言葉と意識が、黙読社会によって分かれたのだと。

 ほかにも、「なるほど!」とうなるような言葉が、随所に散りばめられていました。
 以下にいくつか引用してみます。

 「たとえていえば、読書は何かを着ることに似ています。読書はファッションだと言
 ってもいいくらいだけど、もっとわかりやすくいえば、日々の着るものに近い」(P12)

 「本はやっぱりパンドラの箱。読書によって、そのパンドラの箱が開く。そこに伏せ
 られていたものが、自分の前に躍り出てくるということです。」(P69)

 「読書世界と本棚とは一体だ」(P116)「もともと本は左右三冊ずつの並びをもって、
 書物のなかで右にも左にも数珠つなぎにつながっているんです。」(P118)

 「テキストは完全には自立していないんじゃないか、それらの光景をうんと上から見
 れば、網目のようにいろんなテキストが互いに入り交じって網目や模様をつくってい
 るんじゃないか」(P151)

 「私たちは本にとらわれていいんですよ。それでしばらく行方不明になってもいいん
 です。」(P169)

 さて、タイトルは「多読術」であり、実際に松岡は多読を中心に語っています。 
 一方で、さまざまな読み方があっていいと言います。読み方はたくさんあります。

 多読、少読、広毒、狭読、感読、耽読、惜読、愛読、敢読、氾読、食読、録読、味読、
 雑読、乱読、吟読、攻読、引読、精読、閑読、蛮読、散読、粗読、筋読、熟読、逆読。

 ところで、私が松岡正剛を知ったのは、「本は10冊同時に読め!」においてでした。
 この本の内容もまさに、「多読術」に関するものでした。
 成毛眞「本は10冊同時に読め!」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2013-06-11

 しかし、私が「多読術」を知ったのは、岩波文庫別冊「読書のすすめ」においてです。
 この中の中村真一郎の「わが読書」がとても参考になりました。

 さらに、岩波新書「私の読書法」にも、参考になることがたくさん書かれていました。
 多読の実践報告である、杉浦明平の「一月・一万ページ」など、次回紹介したいです。

 さいごに。(折れてしまった)

 前回紹介した「野中寺の金銅弥勒」は、壁に取り付けた専用の棚に納めています。
 しかし、かわいいので何度も手に取って撫でているうちに、トラブルが発生しました。

 向かって右側の長い髪が、根元からポキッと折れてしまったのです!
 幸い、アロンアルファでくっつきましたが、それ以降はとても気を付けています。

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宇宙囚人船の反乱 [20世紀アメリカ文学]

 「宇宙囚人船の反乱 / 異次元侵攻軍迫る! キャプテン・フューチャー全集7」
 エドモンド・ハミルトン作 野田昌宏訳 (創元SF文庫)


 フューチャーメンが宇宙を舞台に冒険する、スペース・オペラの全集の第七弾です。
 「宇宙囚人船の反乱」は、「時のロスト・ワールド」と並ぶ傑作と言われています。


宇宙囚人船の反乱/異次元侵攻軍迫る!<キャプテン・フューチャー全集7> (創元SF文庫)

宇宙囚人船の反乱/異次元侵攻軍迫る!<キャプテン・フューチャー全集7> (創元SF文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2005/05/10
  • メディア: 文庫



 「宇宙囚人船の反乱」は、愛機コメットが出てこない異色の作品として有名です。
 囚人たちとの友情や、泣けるラストシーンなど、人間ドラマが読みどころです。

 惑星警察機構の囚人護送船ヴァルカンは、凶悪犯たちを収容しながら進んでいます。
 目指すは冥王星の衛星ケルベルス。警備にジョオン・ランドールが付いていました。

 ジョオンの身を案じたキャプテン・フューチャーもまた、囚人船に乗り込みました。
 そして目的地まであとわずかと迫ったとき、囚人たちの反乱に巻き込まれたのです。

 囚人たちを率いるキム・イヴァンは、船をアルファ・ケンタウリへ向かわせました。
 ところが、ヴァルカン号は小惑星に不時着して、溶岩の中に沈んでしまいました。

 しかもこの小惑星は、二か月後には太陽の潮汐力によって破壊されると言うのです。
 助かる道はただひとつ。フューチャーメンは、宇宙船を建造する決意を固めました。

 「素手で宇宙船をつくろうというのか?」
 弱気から疑念を口にする囚人たちを、キャプテン・フューチャーが励まします。

 「素手だけじゃない、脳だってあるぞ」カーティスが訂正した。「おれたちは、猿
 人がはじめて石斧を使いはじめて以来の知識をたくわえているんだ」(P93)

 キム・イヴァンとフューチャーメンが協力して、宇宙船の建造を始めたが・・・ 
 狂気にとらわれた者、なぜか少しずつ姿を消していく囚人たち・・・

 「小惑星の主」とは何か? 「立方体」は何者か? 食人樹とは?
 宇宙船建造は間に合うのか? 制御剤のカルシウムは手に入るのか?

 手に汗握る終盤の怒涛の展開!
 涙なしには読めない感動のラスト! そして、読後の深い余韻!

 また、悪役のキム・イヴァンが良い味を出していて、作品を奥深くしています。
 何度でも読み返したくなる作品です。絶対にオススメの作品です。

 さて、この本にはもうひとつ「異次元侵攻軍迫る!」が収録されています。
 ところがこちらは、ハミルトンではなく、ジョゼフ・サマクソンの作品です。

 謎の生物スヴァードを操って、次々と星を侵略するゴーマ・ハスと戦います。
 ポイントはゴーマ・ハスが、異次元の宇宙からやってきているというところです。

 「おれは、空間曲率がここより十倍も大きい宇宙からやってきたのだ。おまえがわ
 れわれの宇宙では生きていけないように、おれもこの宇宙では物理的には生きてい
 くことができない」(P380)

 「物質は、次元の枠を越えて二つの宇宙の間を転移することはできない。しかし放
 射線は単なる波動だから、四次元の深淵を隔てていても、われわれの宇宙まで伝わ
 ってくるのだ。(中略)この社会がさまざまな形で発射する放射線が、われわれの
 宇宙に対して深刻な影響を及ぼしていたのだ。」(P301)

 いいですねえ。正しいかどうか分かりませんが、こういう蘊蓄は大好きですよ。
 いかにもハミルトンが書きそうな講釈です。

 また、物語のテーマは「異次元から来た敵との戦い」です。
 「宇宙囚人船の反乱」より、よほどハミルトンらしい作品のように感じました。

 さて、「キャプテン・フューチャー全集」全10巻のうち、5巻を紹介しました。
 どれも、私にとって懐かしくて大事な作品です。

 「全集1」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2021-04-05
 「全集4」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2021-06-29
 「全集5」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2021-07-23
 「全集6」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2021-11-04

 しかし、まだ紹介していないのがあと5巻あります。
 今後紹介する楽しみが、5巻分も残っていることが嬉しいです。

 さいごに。(かわいい金銅弥勒さま)

 先日の姪の結婚式で東京に行ったついでに、仏像フィギュアのイSムに行きました。
 完全予約制で、1時間自由に見た結果、とてもかわいい子を見つけました。

 野中寺(やちゅうじ)の金銅弥勒菩薩半跏像です。製造終了で、在庫限りとのこと。
 興福寺の阿修羅か広隆寺の半跏思惟を狙ってきたので、迷った末に購入しました。

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若い藝術家の肖像2 [20世紀イギリス文学]

 「若い藝術家の肖像」 ジェイムズ・ジョイス作 丸谷才一訳 (集英社文庫)


 文学を志すようになる青年の成長過程を、多くの断章によって描いた自伝的作品です。
 前半では宗教との決別と芸術への意欲が、後半では自身の美学論が書かれています。


若い藝術家の肖像 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

若い藝術家の肖像 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/07/18
  • メディア: 文庫



 芸術への道を進む決意をしたスティーヴンは、大学で多くの仲間と出会いました。
 彼らと芸術について話すうちに、スティーヴン自身の芸術論も確立してきました。

 自我も育ち、自分が信じないことに仕えたりはしない、と思うようになりました。
 復活祭で聖体拝領するようにと言う母親と喧嘩して、友人に相談すると・・・

 「この糞だめみたいに臭い世の中では、ほかのものはみんな不確かだけれど、母親
 の愛情だけはそうじゃない。お母さんは君をこの世に連れて来た人だし、最初に自
 分の体のなかに君をかかえてきたわけだ。」(P453)

 妥協してお母さんを安心させろという、親友クランリーの意見にも納得しません。
 周囲との間に隔たりを感じたスティーヴンは、この後どのような決意をするのか?

 さて、終盤にかけての読みどころは、若者たちの芸術談話でしょう。
 タイトルからして、作者の最も書きたかったことは、この場面にあると思います。

 ところがこの場面は、若者特有の熱に駆られて、小難しい言葉を使っています。
 だから内容を理解するのがたいへんなわりに、中身が薄いようにも感じました。

 「いちばん単純な叙事的形式というのは、藝術家が叙事的事件の中心としての自分
 を延長し、そういう自分について考えるときに、抒情文学から現れて来るものだ。
 そしてこの形式が進展すると、とうとう、情緒の重力の中心が藝術家じしんからも
 他人からも同距離の所にあるようになるんだよ。」(P400)

 こういう議論は文学好きならばけっこう楽しいものです。
 しかし、読者みなが楽しめ、味わうことができるものでしょうか?

 ところで、清水義範「独断流『読書』必勝法」には、興味深い指摘がありました。
 スティーヴンは理屈をこねているうちに、なんとなく藝術家を志した、とのこと。

 なるほど。そう言われてみると、藝術を志すための大きなきっかけはありません。
 そういう意味で、スティーヴンは軟弱というか、おこちゃまというか・・・

 それを証明するように、「ユリシーズ」に登場する22歳のスティーヴンは・・・
 そう考えると、彼らの芸術論もまた浅はかなものとして描かれているのか・・・

 さあ、次はいよいよ「ユリシーズ」全四巻に挑戦です。
 その第一巻からスティーヴンが登場すると言います。ちょっと楽しみです。

 さいごに。(エンサイマーダ)

 スペイン料理で有名なマヨルカは、日本では二子玉川ライズだけにあるようです。
 菓子パンのエンサイマーダは、ザッハトルテと並んでおいしかったです。

 表面はパリッとしていて、口に含むと溶けていくような独特の食感でした。
 サングリアと一緒にひとつ食べました。あと3つくらい食べておきたかったです。

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若い藝術家の肖像1 [20世紀イギリス文学]

 「若い藝術家の肖像」 ジェイムズ・ジョイス作 丸谷才一訳 (集英社文庫)


 文学を志すようになる青年の成長過程を、いくつかの断章によって描いた作品です。
 主人公のモデルはジョイス自身です。大作「ユリシーズ」につながる自伝的小説です。


若い藝術家の肖像 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

若い藝術家の肖像 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/07/18
  • メディア: 文庫



 スティーヴン・ディーダラスは、カトリックの国アイルランドで生まれ育ちました。
 全寮制の学校に入り、一家の没落と転校などを経験しながら、成長していきました。

 15歳の頃、作文の賞金で得たカネで娼婦を買った後、娼婦のもとに通い始めました。
 ある日、神学校における校長の説教によって動揺し、罪を自覚して懺悔しました。

 改心したスティーヴンは、校長先生に見込まれて、司祭になるよう勧められました。
 しかし、ある啓示によって文学の道へ、藝術の道へと進むようになって・・・

 宗教の道へ進むことを拒んで、藝術の道へ進んでいく青年の物語。
 そして、スティーヴン イコール ジョイス。そのような予備知識はありました。

 ところが冒頭を読んで、私は戸惑いました。
 いったいこれは何なのか。昔話なのか。

 「むかし むかし、そのむかし、とても たのしい ころのこと、いっぴきの うし
 もうもうが、みちを やってきました。」(P13)

 しばらく読み進めても、作者の意図が分からなかったので、巻末の解説を読みました。
 結城の解説で物語の大枠が提示されているので、それを読んでようやく納得しました。

 スティーヴンの精神状態を、文体で表現しているとは!
 予備知識なしに読んで、「なるほど」と感心する人は、どのくらいいるのでしょう?

 また、多くの断章から成っているので、なかなかストーリーが見えてきませんでした。
 180ページぐらいまでは、読むのがたいへんでした。

 ところで、この本(集英社文庫版)は、約680ページあります。最初はびびりました。
 しかしよく見ると、訳注が100ページほどあるではありませんか。(読まないって!)

 ジョイスの他の作品も含めて、物語の核心に迫るには、膨大な訳注が必要だと言う。
 しかし本当にそうでしょうか。むしろ、訳注に頼るようではいけないのではないか。

 ともかく私は、読まなければならないのは475ページまでだと知り、ほっとしました。
 訳注と解説をバッサリ削り、値段を1000円以内におさめてくれたらありがたいです。

 話は戻りますが、「むかし むかし、」のような書き方を、表現の工夫と考えるか、
 表現の遊びと考えるかは、微妙なところでしょう。私はあまり感心しませんでした。

 そういえばフォークナーの「響きと怒り」も、同じような試みをしていました。
 「響きと怒り」はもっとひどくて、読者を混乱させる罠のように私は感じました。

 さて、「若い藝術家の肖像」が面白くなるのは、娼婦と関係を持ってからです。
 そして、Ⅲ章に入ってから、50ページほども続く校長の説教!

 「地獄とは、狭く、暗く、臭い牢獄であります。悪霊と亡霊の棲み家で、火と煙に満
 ちています。この牢屋の狭さは、神の掟にしばられることを拒んだ人々を罰するため、
 神が特別に設けたものである。」(P223)

 この説教の部分は、非常に力を入れて、そしてややコミカルに描かれています。
 私的には、前半の最大の読みどころでした。

 こんなふうに脅かされたら、あとになって、なんとなく違和感を覚えるものですよ。
 スティーヴンが校長の誘いを蹴って、藝術を目指す伏線となっているように思います。
 
 現在、「若い藝術家の肖像」は、Ⅳ章まで読みました。
 次回、この続きを紹介したいです。

 さいごに。(ザッハトルテ)

 先日、姪っ子の結婚式で、東京に行ってきました。
 ウィーン料理で有名なカフェで、ランチをしました。

 ここで食べたザッハトルテは、チョコのコーティングが本格的でおいしかったです。
 「なんちゃってザッハトルテ」ではありません。760円ですが、また食べたいです。

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恋愛対位法 [20世紀イギリス文学]

 「恋愛対位法上」 オルダス・ハクスリー作 朱牟田(しゅむた)夏雄訳 (岩波文庫)


 複数の男女の関係が、音楽の対位法のように重なりながら進行する長編小説です。
 ハクスリーは、アンチユートピア小説「すばらしい新世界」の作者として有名です。
 「すばらしい新世界」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2012-02-02

 岩波文庫の初版は1962年と古く、活字が小さくて読みにくかったです。現在絶版。
 「すばらしい新世界」は新訳が出ているので、ぜひこちらも新訳で出してほしい。


恋愛対位法 上 (岩波文庫 赤 259-1)

恋愛対位法 上 (岩波文庫 赤 259-1)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2022/04/24
  • メディア: 文庫



 マージョリーはウォルターと暮らして2年ですが、すでに彼の心は離れ始めています。
 夫から逃げて彼と同棲し子供まで宿しました。しかし彼は、ほかの女に夢中です。

 ウォルター・ビドレイクが夢中になっているのは、タンタマウント家のルーシーです。
 彼は身重のマージョリーを置いて、タンタマウント家のパーティーに出かけます。

 タンタマウント家の奥方ヒルダは、25年前からジョン・ビドレイクと関係があります。
 ジョンはウォルターの父で、彼もまたこのパーティーにやってきています。

 タンタマウント家の主人エドワードは男女関係に疎くて、妻の不倫を全然知りません。
 彼はパーティーには出ず、助手のイリッジとともに、生物学の研究に没頭しています。

 イリッジはウォルターの友達のようです。
 しかし彼はウォルターがルーシーを好きだと知らず、彼女をさんざんけなしています。

 ウォルターの姉エリナーもまた、夫のフィリップとともにパーティーに来ていました。
 ところがふたりの関係は、どうやら冷めきっているようで・・・

 というように、話があちこちに飛んで、何が何だかよく分かりません。
 いろんな人物が入り乱れているので、まったく名前が覚えられません。

 しかも活字が小さくて読みにくいため、私はすっかり嫌になってしまいました。
 上巻の中ほどで挫折しました。こんなに早く投げ出したのは、久しぶりのことです。

 すでに絶版となっていた本書を、新品より高い値段で上下巻セットで購入しました。
 それにもかかわらず、私はこの二冊を書庫の奥に押し込みました。もったいない!

 最近は仕事が忙しいため、なかなか読む時間も無くて・・・
 いやいや、これも年のせいかもしれません。理解力が落ちている気がします。

 それはともかく、中には興味深い登場人物もいました。老ビドレイクとヒルダです。
 腐れ縁の俗物不倫カップルですが、そこがまたすてきです。良い味を出しています。

 読み続ければ、ほかにも彼らのような魅力的な人物に、出会えるのかも知れません。
 しかし、ここでやめます。新訳が出たら読み直すかもしれませんが。

 さいごに。(4月は残業94時間。120時間超!)

 4月の残業時間は94時間でした。過労死ライン80時間を超えました。
 でも、持ち帰りの仕事時間を入れたら、120時間を余裕で超えてしまいます。

 年度初めはいつもそうなので、もう驚きません。
 と言いつつ、この数字に驚かなくなった自分に、今さらながら驚いています。

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