SSブログ

トレインスポッティング1 [20世紀イギリス文学]

 「トレインスポッティング」アーヴィン・ウェルシュ作 池田真紀子訳 (角川文庫)


 ヘロイン中毒の青年たちの、絶望的で退廃的な生活を描いた、半自伝的な作品です。
 90年代に出て話題となり、ユアン・マクレガー主演で映画化され、ヒットしました。


トレインスポッティング〔新版〕 (ハヤカワ文庫NV)

トレインスポッティング〔新版〕 (ハヤカワ文庫NV)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/08/21
  • メディア: 文庫



トレインスポッティング [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

トレインスポッティング [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • 発売日: 2017/09/06
  • メディア: Blu-ray



 レントンは、スコットランドのエディンバラに住む、ヘロイン中毒の青年です。
 失業保険詐欺をしていますが、本当はまともな生活をしたいと考えているようです。

 シック・ボーイはヤク中で女たらし、ベグビーはレントンの幼馴染でアル中で狂暴。
 スパッドもヤク中だが心優しい青年、トミーは女と別れてからヤク中になりました。

 レントンはヘロイン中毒から脱しようと努力しますが、仲間から離れられず・・・
 あるとき知り合ったダイアナは、まだ14歳の少女で・・・

 主にレントン、時にシック・ボーイ、ベグビー、スパッドらの視点で描いています。
 登場人物が多く、語りの主体も変わるため、時々誰の話なのか分からなくなります。

 トレインスポッティングは、直訳すると「鉄道マニア」という意味です。
 鉄道操車場にヤク中が集まったことから、「ヘロイン中毒」を指すのだそうです。

 この小説には、レントンたちを中心に、ヤク中やアル中の連中ばかりが登場します。
 そしてこのクズ野郎どものハチャメチャな行動が、ひとつの読みどころです。

 レントンがようやく手に入れたアヘンの座薬を、出してしまう場面はサイコーです。
 急にもよおして大便を出しましたが、その便所は詰まっていて、クソの山でした。

 一緒に出てしまった座薬を探すため、そのクソの山に手を突っ込んで・・・
 やっとのことで見つけ出した座薬を、きれいに洗って、もう一度尻の穴へ・・・

 チンピラ同士に喧嘩をさせる場面では、ベグビーのクレイジーぶりが際立ちました。
 自分でビール・ジョッキをちんぴらにぶつけておいて、犯人捜しを仕切り始め・・・

 そういえばベグビーは、レントンの飲んでいるビールに、小便を混ぜたりしました。
 レントンは、知らずにそれを飲んでしまって・・・

 ヤク打った、女とやった、喧嘩した、ゲロ吐いた、ウンコもれた、という話ばかり。
 ですから、この小説に対して、嫌悪感を覚える人も多いと思います。

 この小説の品を、ギリギリのところで救っているのが、スパッドかもしれません。 
 気弱な彼ですが、リスに石をぶつけようとするレントンを、押さえつけました。

 「リスはすごくかわいい生き物だ。自分のことだけを考えて生きてる。自由な生きも
 のなんだ。きっとだからレンツはリスが嫌いなんだ。リスは自由に生きているから。」
 (P233)

 さて、この小説には、一貫した作者の思いが感じられます。
 それは、作者の故郷スコットランドに対する思いです。

 「俺はイギリス人を憎んではいない。あんなやつら、ただのあほうじゃないか。いい
 かい、俺たちはそのあほうの集団に植民地にされたんだぜ。(中略)それがどういう
 意味か、わかるかい? 俺たちは最低中の最低、世界のクズだってことさ。この世に
 創られたあらゆるものの中で、一番みじめで、卑しくて、情けなくて、とるに足りな
 いクズなんだ。俺はイギリス人を憎んでなんかいない。やつらはやつらで、勝手にや
 らせておけばいい。俺が憎んでるのは、スコットランド人さ。」(P117)

 作者が一番言いたかったのは、こういうことだったのではないかと思います。
 だからこそ、作品全体から、どことなく悲哀や寂しさを感じるのでしょう。

 多くの登場人物を通して描きたかったのは、エディンバラなのかもしれません。
 スコットランドの首都エディンバラの、退廃的な様子を・・・

 そういう意味で、ジョイスの「ユリシーズ」と似ているのかもしれません。
 ジョイスが描いたのは、アイルランドの首都ダブリンの、退廃的な様子で・・・

 さいごに。(映画トレインスポッティング)

 1990年代といえば、私が社会人になったばかり、まだ20代でした。
 当時とても流行っていましたが、私は見ませんでした。見てみたいです。



nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

「死ぬ瞬間」と死後の生 [心理・宗教・オカルト]

 「『死ぬ瞬間』と死後の生」 エリザベス・キューブラー・ロス著
 鈴木晶訳 (中公文庫)


 ロス博士が1976年から1989年までに行った8つの公演を編集しまとめたものです。
 「死は存在しない」「生、死、死後の生」など、死後をテーマにした内容が多いです。


「死ぬ瞬間」と死後の生 (中公文庫 (キ5-7))

「死ぬ瞬間」と死後の生 (中公文庫 (キ5-7))

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: 文庫



 五章で構成されていますが、中でも三つ目の「生、死、死後の生」が興味深いです。
 臨死体験、幽霊、体外離脱等が語られていますが、注目は死への移行プロセスです。

 私たちはみな、宇宙の源である神から生まれたとき、神性の一部を与えられました。
 だから私たち人間は不滅であり、そのことに多くの人が気づき始めています。

 肉体はいわば繭であって、死に移行するまでの期間だけ借りている仮の住まいです。
 死ぬ瞬間に、私たちは繭から出て、ふたたび蝶のように自由になるのです。

 ゆっくりと死んでいく患者たちは、死に先立って、体外離脱の体験をしています。
 そのとき、自分を導いてくれる守護霊や、先に死んだ知人に出会うこともあります。

 トンネルを通ると、光の源に近づきますが、それは宇宙意識とでも言うものです。
 光の前で、私たちは絶対的で無条件の愛に包まれ、あらゆる知識を手に入れます。

 霊的エネルギーの世界において、私たちは肉体的な形をとる必要はありません。
 生まれる前と同じ状態となり、別の形で生まれ変わるまでこの形でいて・・・

 私たちが神から与えられた能力には、肉体を脱ぎ捨てられる能力もあるそうです。
 それは死ぬ瞬間だけでなく、疲れ切ったときや睡眠中にもできるのだそうです。

 そして、肉体を脱ぎ捨てると、私たちは時間も空間もない場所に入り込みます。
 そこでは、思考と同じスピードで、どこにでも瞬間的に移動できるのだそうです。

 ロス博士は、臨死体験の例を、これまでに二万件以上集めました。
 そして、自身も体外離脱の体験を、立花隆のインタビューで語っていました。

 「ついこの間は、プレヤデス星団(すばる)まで行ってきました。そこの人たち
 は、地球人よりずっと優れた文明を持っていて、『地球人は地球を破壊しすぎた。
 もう元に戻らないだろう。地球が再びきれいになる前に、何百万人もの人間が死
 ぬ必要がある』といっていました」(立花隆「臨死体験」上巻P489)

 この話の続きを聞きたかったです。
 ロス博士の著書には、プレアデス文明の話はないでしょうか。

 さいごに。(不二家のサヴァラン)

 先日、ケーキ4つを食べたあと、さらにサヴァラン1つをテイクアウトしました。
 翌日食べましたが、めちゃくちゃおいしかったです!

16father_savarin.jpg

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

ユリシーズ5 [20世紀イギリス文学]

 「ユリシーズⅣ」 ジェイムズ・ジョイス作 丸谷才一・永川玲二・高松雄一訳
 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ)


 1904年6月16日のダブリンでの一日を、さまざまな文体を駆使して描いた小説です。
 全四巻のうちの最後の第四巻で、第三部にあたる16~18挿話が収録されています。

 「ユリシーズ1」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-05-28
 「ユリシーズ2」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-05-31
 「ユリシーズ3」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-06-06
 「ユリシーズ4」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-06-15


ユリシーズ 4 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

ユリシーズ 4 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2003/12/16
  • メディア: 文庫



 幻覚に惑わされたスティーヴンは娼家を出て、ブルームはそれを追いかけました。
 ブルームはスティーヴンを喫茶店に連れて行き、ふたりはようやく話し始めました。

 話が音楽に及び、ブルームはオペラ歌手である妻の写真をスティーヴンに見せました。
 そしてブルームは、スティーヴンを自宅へ招いて、ふたりはさらに語り合い・・・

 とうとうふたりは出会い、語り合いますが、特別どうってこともありませんでした。
 しかも、今夜は泊っていくかと思われたスティーヴンは、とっとと去っていきますし。 

 しかしながら、「オデュッセイア」においては、父子の再会はクライマックスです。
 それだからか、17挿話の「イタケ」は、問答形式という特別な描き方がされています。

 ブルームとスティーヴンの様子が、滑稽なぐらいにバカ丁寧に描写されています。
 たとえば次の部分には、どのような効果があるのか? ただふざけているだけなのか?

 「どちらが早く(ココアを)飲んだか?
  ブルーム。彼は飲みはじめにおいても十秒早く、柄に着実な熱の流れを伝導しつつ
 あるスプーンの凹状面から啜りこむ速度においても、相手の一啜りに対して三。二に
 対して六。三に対して九であった。」(P153)

 「ブルームに関するスティーヴンの考えとスティーヴンに関するブルームの考えに関
 するスティーヴンの考えとに関するブルームの考えは、もっとも単純な相互的形式に
 要約すればいかなるものであったか?
  彼がユダヤ人であると彼は考えていると彼は考えていたけれども、彼がそうではな
 いことを彼が知っていると彼が知っていることを彼は知っていた。」(P163)

 さて、オデュッセウスの妻は、貞淑なペネロペでした。(不貞だったとの説もあり)
 ところが、ブルームの妻は、浮気女のモリーです。

 想定していたことですが、ブルームは寝室で、モリ―の浮気の行為の跡を見ました。
 そしてブルームは、寝ているモリ―に対して、何をしたかというと・・・

 「彼は彼女の腰部の肥満豊熟した黄ばんだ香しいメロン二個にキスした。肥満したメ
 ロンの半球の一つ一つに、その豊熟な黄ばんだ畝のあいだに、ほの暗い持続的挑発的
 芳香性メロン的な前面接触を満喫しながら。」(P270)

 ブルーム、サイコー!
 「香しいメロン」とは、いったいどんな香りだったのでしょうか。

 この辺りまで来ると、ブルームのヘンタイ的な性癖が暴露されて面白いです。
 とはいえ、私たちはそれを求めて読んできたわけではないのですが。

 そして、このあとが最終の第18挿話「ペネロペイア」です。
 ここまで男の物語だったのに、なぜか最終章だけは、すべてモリ―の独白なのです。

 モリーの独白は、読点がなくて、ひらがなばかりなので、非常に読みにくいです。
 しかも、たわいのない話がだらだら続くので、苦労して読む価値があるか疑問です。

 「何をぐずぐずしてますのOあたしの恋人よひたいにキスして別れましょうそこは
 あたしのお尻のあなよ彼はむちゅうだったかんだかい声をはりあげ・・・」(P297)

 「あたしのへやがほしいおならをするためのそれともほんのちょっとしたことをも
 っとうまくやるためのyesがまんしながらこんなふうにほんのすこし横むきにな
 って、よわくそっとやさしいいいずっととおくをあの汽車がきわめてよわくいいい
 いいいい唄をもうひとつ」(P340)

 しかし、ラストの展開はちょっと劇的でした。
 良い終わり方なので、少しだけ救われた気になりました。

 さいごに。(3年ぶりの完全勝利)

 昨年も一昨年も、父の日恒例「不二家ケーキ4個セット」ツアーは、中止でした。
 だから今年は3年ぶりです。気合を入れて、体調を充分に整えて勝負に臨みました。
 (4つを楽しく食べられれば勝ち。途中で気持ち悪くなったら負け。)

 今年は、サクランボのケーキ、イタリアン・ショートケーキ、プレミアム・モンブラ
 ン、フルーツ・プリンタルトの4つをチョイス。最後まで味わって食べられました!

DSCF6166-2.png
DSCF6169-2.png

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

人生は廻る輪のように [心理・宗教・オカルト]

 「人生は廻る輪のように」 エリザベス・キューブラー・ロス著
 上野圭一訳 (角川文庫)



 死につて探求し、「死ぬ瞬間」の著者として著名な、ロス博士の自伝です。
 後半にオカルト的な内容があるため、評価が分かれる著書です。


人生は廻る輪のように (角川文庫)

人生は廻る輪のように (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2003/06/22
  • メディア: 文庫



 三つ子のひとりとして育った子ども時代、カントリードクターとして働いた日々、
 結婚して渡ったアメリカでの仕事と生活、死とその過程について研究した後半生。

 いかにしてロス博士は、「死というものは無い」と結論するに至ったのか?
 また、死の研究を通して、ロス博士はどのような体験をしてきたのか?・・・

 ロス博士は、死の受容プロセスを説明した「死ぬ瞬間」の著者として有名です。
 この著書は1969年に刊行されて話題となり、彼女は大きな名声を得ました。

 しかし、ロス博士の人生で面白いのは、その後の後半生なのです。
 彼女の人生のオカルト的な部分が、「ムー民」的には実に興味深いのです。

 セミナーで紹介された患者シュウォーツ夫人から、臨死体験の話を聞いて・・・
 死の十か月後、シュウォーツ夫人が再び現れてから、少しずつ考えは変化し・・・

 ショックと否定 → 怒りと憤り → 嘆きと苦痛 → 神との取引 → やすらぎと受容。
 ロス博士が提唱した「死への五段階」のプロセスは、大きな反響を呼びました。

 しかし、ロス博士はその後、それとは別の「死への四段階」を提唱しているのです。
 それは、臨死体験をした人々のデータをもとにまとめたものです。

 第一期 体外離脱
 死後、自分が上空から死んだ自分自身を眺める段階で、自分は完全な状態にあります。

 第二期 ガイドとの出会い
 自分が完全に肉体を離れ別次元へ移行する段階で、そのとき守護天使などに会います。

 第三期 愛の光
 ガイドに光の方へ導かれていく段階で、その光は宇宙の根源である愛だと認識します。

 第四期 回顧
 霊的エネルギーそのものとなる段階で、自分の人生すべてを一瞬のうちに回顧します。

 その後も、妖精の写真が撮れたり、異界とのチャネリングをしたり、前世を知ったり、
 モンロー研究所を訪れて、実際に体外離脱の体験をしたり・・・

 特に、最終章で語られる、著者の最後のメッセージは、たいへん力強く印象的でした。
 次の言葉などは、ロス博士の生と死に対する考え方を端的に示しています。

 「学ぶために地球に送られてきたわたしたちが、学びのテストに合格したとき、卒業
 がゆるされる。未来の蝶をつつんでいるさなぎのように、たましいを閉じこめている
 肉体をぬぎ捨てることがゆるされ、ときがくると、わたしたちはたましいを解き放つ。
 そうなったら、痛みも、恐れも、心配もなくなり・・・美しい蝶のように自由に飛翔
 して、神の家に帰っていく・・・」(P509)

 しかし、とりわけ私が気になったのは、次の言葉です。
 もしかしたら彼女は、何らかの方法で、本当に未来を見てきたのかもしれません。

 「人類の所業に報いる大地震、洪水、火山の噴火など、かつてない規模の自然災害が
 起こるだろう。わたしにはそれがみえる。」(P510)

 ついでながら、本書の中で私が最も気に入っているのは、次の言葉です。
 人生をいかに生きるかを、気の利いた「洗濯機の石」を使って表現しています。

 「人生は洗濯機のなかでもまれる石のようなものだ。粉砕されてでてくるか磨かれて
 でてくるか、けっきょくは、それぞれの人が選択している。」(P344)

 キューブラー・ロス博士の著書は、中公文庫から出ていて手に入れやすいです。
 最も有名なのは「死ぬ瞬間」ですが、私が気になるのは「死ぬ瞬間と死後の生」です。


死ぬ瞬間-死とその過程について (中公文庫 (キ5-6))

死ぬ瞬間-死とその過程について (中公文庫 (キ5-6))

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2020/01/21
  • メディア: 文庫




「死ぬ瞬間」と死後の生 (中公文庫 (キ5-7))

「死ぬ瞬間」と死後の生 (中公文庫 (キ5-7))

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: 文庫



 さいごに。(最近便通がいいです)

 7年ほど前に、ひどいぢになり、肛門科の病院に通いました。
 毎日薬を飲んで、便を出やすくすることで、ぢにならないようにしていました。

 その後、医者に勧められて、毎朝たくさんの水を飲むようにしました。
 起きてすぐに500mlの水を飲んでいますが、以前に比べて便通がだいぶいいです。

nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:

ユリシーズ4 [20世紀イギリス文学]

 「ユリシーズⅢ」 ジェイムズ・ジョイス作 丸谷才一・永川玲二・高松雄一訳
 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ)


 1904年6月16日のダブリンでの一日を、さまざまな文体を駆使して描いた小説です。
 全四巻のうちの第三巻で、14と15挿話が収録されています。

 「ユリシーズ1」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-05-28
 「ユリシーズ2」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-05-31
 「ユリシーズ3」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-06-06


ユリシーズ 3 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

ユリシーズ 3 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2003/12/16
  • メディア: 文庫



 夜の十時、ブルームは立ち寄った病院で、酒を飲む医学生たちと出会いました。
 その中にいたスティーヴンを見ると、ブルームは死んだ息子を思い出したのです。

 酒場で騒いだ後、スティーヴンらは娼家街に入り、ブルームはそのあとを追います。
 しかし、途中で彼らを見失い、突然ブルームはさまざまな幻覚に襲われて・・・

 14章「太陽神の牛」は、古代英語、中世英語、現代英語と、文体が次々と変化します。
 それに合わせて翻訳も、古事記風、源氏物語風、平家物語風と、次々と変化します。

 「南行保里為佐。南行保里為佐。南行保里為佐。
  いざ賜へ、光の神、日の神、角々先生様、胎動初感と胎の実を、いざ賜へ」(P13)

 「げに、才ある学生どもなればこそ。産婦と子のいづれをわきに救ふべうにやの品さ
 だめ、おのおのし給ふを、聞し召すに、・・・」(P23)

 「約メテ之ヲ申サバ、此ノ応酬ノ終ルヤ忽地、埃克爾斯街馬利亜病院ノ抽克遜殿、ニ
 コヤカニ笑ンデ若キ史梯芬ニ問ヒケルハ、」(P30)

 稀有な試みです。原作も翻訳も、この部分は、たいへんな作業だったと思います。
 その一方で、「そんなことをしてどんな意味があるのか?」と思ってしまいました。

 文体のパロディを入れることで、猥雑な感じは出ました。
 でも、「だから、何?」と言いたいです。

 これを文学と称していいのでしょうか。ただの「あそび」ではないでしょうか?
 とても手の込んだ「あそび」ではないでしょうか?

 正直に言って、作品にどのような効果をもたらしたのか、まったく分かりません。
 ついでながら、内容もほとんど分かりませんでした。

 とはいえ、「さすがジョイス、サイコー!」と思っている方もいるはずです。
 そのような優れた読解力をお持ちの方に、分かりやすい解説をお願いしたいです。

 さて、続く15章「キルケ」は断片から成っているので、最初はとっつきやすいです。
 しかし、幻覚が度々挟まれるので、話についていけなくなりました。

 いきなり裁判がはじまったり、ブルームが皇帝になったり、女になったり・・・
 そのうち、何が幻覚で何がリアルなのか分からなくなってしまいました。

 しかも、15章は400ページほどです。我ながら、よく投げ出さなかったと思います。
 ある意味、この第三巻が、最大の山場だったかもしれません。

 次はいよいよラストの第四巻です。
 いったいどんな結末を迎えるのか?

 さいごに。(古典だけは)

 高校に入って、娘の学習内容のレベルが、一段も二段も上がりました。
 他の科目はまったく分かりませんが、辛うじて国語だけなら教えることができます。

 古文の宿題を手伝ったら、「たまには役に立つじゃん」と上から目線で言われました。
 そんなふうに言われたのは、久しぶりだったので、不覚にも喜んでしまいました。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

まんがで読破 ユリシーズ [20世紀イギリス文学]

 「まんがで読破 ユリシーズ」 ジェイムズ・ジョイス作 (イースト・プレス)


 1904年6月16日のダブリンでの一日を、さまざまな文体を駆使して描いた小説です。
 文庫本で4巻、1500ページを超える大長編を、まんが1巻で要約しています。


ユリシーズ (まんがで読破)

ユリシーズ (まんがで読破)

  • 出版社/メーカー: イースト・プレス
  • 発売日: 2009/04/28
  • メディア: 文庫



 マンガの力はすごいですね。驚くほど分かりやすくて、すらすらと読み進められます。
 それでいて、大きな省略はありません。18章すべてが描かれていました。

 たとえば3章の「プロテウス」などは、カットされているものと思っていました。
 しかし、わずか9ページとなったものの、分かりやすくまとめられていました。

 11章「セイレーン」の、ブルームのおならのシーンも、ちゃんとあるし。
 13章「ナウシカー」の、きわどいシーンも、しっかりと描かれているし。

 8章や9章は、「そうだったのか!」という、大きな発見がありました。
 この辺りは、小説では、なにがなんだかまったく分からなかったので。

 また、15章「キルケー」は、マンガでもなにがなんだか分かりませんでした。
 幻覚が頻繁に現れるせいです。小説はこれから読みます。先が思いやられます。

 「まんがで読破」版で、ひとつ気になる点は、バランスの悪さでしょうか。
 文庫本で真ん中に当たる13章「ナウシカー」が、本書では四分の三の位置です。

 つまり、前半に280ページ費やしながら、後半90ページほどを駆け足で進みます。
 後半は、少しざつのように感じました。

 しかし、バランスが悪いと言えば、原作もまた、時間的なバランスが悪かったです。
 残り半分を残して、すでに午後8時。一日のほとんど終わっているではありませんか。

 ところで私は、難解な物語を分かりやすくした点で、本書の意味は大きいと思います。
 しかし一方で、マンガ化したことによって、まったく違う作品になったとも思います。

 「ユリシーズ」という小説は、分かりにくくてヘンテコなところに特徴があります。
 分かりやすくなったということは、「ユリシーズ」でなくなったということです。

 マンガはあくまでそのストーリーを追うだけの参考書です。
 さあ、集英社文庫版で、本物の「ユリシーズ」を味わおう。あと2巻!

 さいごに。(時代がムーに追いついてきた)

 先日、「NASAがUFO等を調査する研究チームを秋に立ち上げる」と発表しました。
 調査は、およそ9か月間行われ、結果は一般公開される(!)ということです。

 少しずつ極秘情報をオープンにしてくれそうで、とても楽しみです。
 ようやく時代が「超ムーの世界」に追いついてきたな。

nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:

運命を拓く [心理・宗教・オカルト]

 「運命を拓く 天風瞑想録」 中村天風 (講談社文庫)


 インドのヨガ修行で悟りを得た天風が、人生の意味と生き方について語った本です。
 あの大谷翔平が座右の書としていたことで、近年再び注目が集まりました。


運命を拓く (講談社文庫)

運命を拓く (講談社文庫)

  • 作者: 中村 天風
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1998/06/12
  • メディア: 文庫



 日露戦争ののち、結核となった中村は、救いを求めて世界を旅していました。
 エジプトで大喀血したとき、ヨガの聖者カリアッパと出会い、弟子となりました。

 ヨガの修行を通して「わが生命は、大宇宙の生命と通じている」と直感しました。
 やがて結核は治り、中村天風は92歳で没するまで、多くの人々を教化しました。

 宇宙には、宇宙を生み出し、宇宙を支配している「気」があります。
 天風はそれを「宇宙霊」と呼びますが、ある人は神と呼び、ある人は仏と呼びます。

 世界は「宇宙霊」に満ちていて、特に人類は「宇宙霊」を最も多く含んでいます。
 我々の霊魂は「宇宙霊」に通じ、自由に交流したり結合したりすることができます。

 心をいつも積極的な状態していれば、「宇宙霊」もそれに応じて働き出します。
 感謝と歓喜を常に持ち続けていれば、「宇宙霊」の無限の力がほとばしり・・・

 これは、中村天風の語ったことを、お弟子さんが13章にまとめたものです。
 その特徴は、天風の迫力のある語り口が、そのまま生かされているところです。

 一方、系統的に書かれていないので、話にややまとまりのないところもあります。
 また、同じ挿話や同じ言葉が何度も繰り返されてもいます。

 「自分の生命の背後には、見えないけれども宇宙霊が、自分を抱き締めるように、
 自分と共に在るんだ! 我は宇宙霊とともにいる!」(P272)

 冒頭に、「天風小伝」があるのも便利です。
 中村天風とその思想に初めて触れるのなら、本書は良い入門書かもしれません。

 ただし、本書には若干ムラがあるように、私には感じられました。
 むしろ、宇野千代の「中村天風の生きる手本」の方が、分かりやすかったです。


中村天風の生きる手本―世界でいちばん価値ある「贈り物」 (知的生きかた文庫)

中村天風の生きる手本―世界でいちばん価値ある「贈り物」 (知的生きかた文庫)

  • 出版社/メーカー: 三笠書房
  • 発売日: 2007/03/01
  • メディア: 文庫



 中村天風の著名な弟子だった著者が、天風の講話を編集し、まとめたものです。
 最初「天風先生座談」として刊行され、現在は知的生きかた文庫に入っています。

 さいごに。(9クラス中3位)

 文化祭での娘のクラスの出し物が、9クラス中3位でした。良かった。
 小道具係として、遅くまで小道具作りをがんばってきたかいがありました。

 ところが動画を見てみると、うちの子はカーテンを後ろで支えているだけの役。
 小道具係ゆえ、舞台では裏方に徹していました。まあ、いいのだけど。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

ユリシーズ3 [20世紀イギリス文学]

 「ユリシーズⅡ」 ジェイムズ・ジョイス作 丸谷才一・永川玲二・高松雄一訳
 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ)


 1904年6月16日のダブリンでの一日を、さまざまな文体を駆使して描いた小説です。
 全四巻のうちの第二巻で、9~13挿話までが収録されています。

 「ユリシーズ1」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-05-28
 「ユリシーズ2」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-05-31


ユリシーズ 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

ユリシーズ 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2003/09/19
  • メディア: 文庫



 午後二時になりました。酒場を出たスティーヴンは、国立図書館にやって来ました。
 そこで、名のある文学者たちを相手に、独創的な「ハムレット」論を披露しました。

 午後三時。スティーヴンはある本屋で、たまたま知り合いに会って話をしました。
 同じころ、ブルームは別の本屋にいて、色々な本をパラパラと見ていました。

 午後五時。ブルームは酒場で、犬を連れた「市民」というあだ名の男に会いました。
 ところが、ユダヤ人嫌いの「市民」から、ちょっとしたことで怒りを買って・・・

 スティーヴンとブルームが、出会いそうで出会わないまま、やがて夜を迎えます。
 相変わらず話に筋がなく、ダブリンでの光景と人々の心理を描写しているだけです。

 と、今さらですが、ここで一つだけ気づいたことがあります。
 主役はこの二人ではなく、都市ダブリンそのものなのではないか、ということです。

 そういえばジョイスは、「たとえダブリンが滅んでも、『ユリシーズ』があれば再現
 できる」と語ったというではありませんか。主役は1904年6月16日のダブリンですよ。

 ところで、読書仲間が以前言いました。「二巻目に入る頃、文体に慣れてくるよ」と。
 ところが、依然としてまったく慣れません。内容がまるで分からない箇所もあります。

 私は、高校時代の数学の授業を思い出しました。
 理解できないまま、ひたすら先生の話を聞いていたあのころを。これは修行ですよ。

 「プルルプルル。
  きっとバーガのせい。
  フフフ! ウー。ルルプル。
  ≪世界の国々のあいだに≫。後ろには誰もいない。あの女は通り過ぎた。≪そのとき、
 そのときまで≫。電車。クラン、クラン、クラン。絶好のチャ、やって来る。クランド
 ルクランクラン。きっとあのバーガンディの。そうだよ。一、二。≪わたしの墓碑銘は
 ≫。クラーアアアア。≪書かれぬままであれ。わがこと≫。
  ププルルプフフルルププフフフフ。
  ≪終れり≫。」(P278)

 これでは理解できません。ブルームのおちゃめなところの分かる貴重な場面なのに。
 この場面を味わうには、頭の中でさらに意訳しなければなりません。

 「ああ、屁が出ちゃう。さっき飲んだ炭酸のせいか。ああ、屁が出ちゃう。
  大丈夫、後ろには誰もいない。歌も聞こえる、音楽も鳴ってる。電車の音もする。
  よし、屁を出しちゃえ。どさくさに紛れて屁を出しちゃえ。
  ピアノも盛り上がってきたぞ。音に合わせて、いち、にの、さん。
  ブハーブハーブー!
  ああ、すっきり。」

 ところで、第二巻における最大の読みどころは、12章「キュクロプス」でしょう。
 語り手「おれ」は、姓名不詳の「取り立て屋」で、誰なのか謎とされていました。

 その謎を解いた(?)のが、柳瀬尚紀です。なんと、「おれ」は〇〇だと言います。
 詳細は、1996年刊の「ジェイムズ・ジョイスの謎を解く」で、説明されています。


ジェイムズ・ジョイスの謎を解く (岩波新書)

ジェイムズ・ジョイスの謎を解く (岩波新書)

  • 作者: 柳瀬 尚紀
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1996/01/22
  • メディア: 新書



 私はこの本を読んでいませんが、例の読書仲間からだいたいの内容を聞いています。
 「すごい!」と「アホか?」のギリギリのところにあるように感じました。

 ちなみにジョイス自身、「この作品には非常に多くの謎を詰め込んだので、人々は何
 世紀にもわたって議論するだろう」みたいなことを、生前語っていたようです。

 私はここに、大いに違和感を覚えてしまいます。
 「ユリシーズ」は、小説以外の何かになってしまっているのではないでしょうか。

 さらに言うと、文学作品というよりも、「なぞなぞ」に近いのではないでしょうか。
 文学史よりもギネスに残るのではないでしょうか。世界一壮大な「なぞなぞ」として。

 さいごに。(言語文化だけは・・・)

 娘の高校の最初の定期テストが返されました。なんと言語文化だけはクラスで1番。
 言語文化というのは、文学作品中心の国語科目です。私としては、少し嬉しいです。

 一緒に古文の予習をしたり、古典文法を暗記したりして、良かったと思います。
 娘も、言語文化を唯一の得意科目にしようという目標ができました。応援したいです。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

自分の考え整理法 [読書・ライフスタイル]

 「自分の考え整理法」 鷲田小彌太 (PHP文庫)


 著者が日ごろから行っている考える技術を、軽快な語り口で教えてくれる著書です。
 著者はヘーゲルなどの研究家ですが、読書論や思考法の本もたくさん書いています。


「自分の考え」整理法 頭を軽快にする実践哲学講座 PHP文庫

「自分の考え」整理法 頭を軽快にする実践哲学講座 PHP文庫

  • 作者: 鷲田 小彌太
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/12/12
  • メディア: Kindle版



 意識的に三つの命題で考えます。ひとつ命題を出したら、続く命題を考えます。
 三つ目の命題は、最初の命題とつながり、1→2→3→1という展開をします。

 これが、長い間人類がすっきりものを考える場合に用いてきた常套手段です。
 最初は目前にある問題から出発してみると、自然とつながっていくもので・・・

 以上、第一部「三分割で考える」が、本書の最も特徴的な部分だと思いました。
 しかし、私にとっていちばん興味深かったのは、第二部「実践読書法」でした。

 著者は、本は道具だから線を引いたり切ったり、自由に扱っていいと言います。
 そのためにも本は買うべきで、再利用可能な状態にしておくべきだと言います。

 また、読書は他人の思考回路を経験することで、ハマると世界に入り込みます。
 「ノルウェイの森」などは、主人公と一緒に死んでもいいと思ったそうです。

 ほかにも、ひとりで読んでみんなで話すとか、自分の「この人を見よ」を見つけ
 ろとか、共感する箇所が多かったのですが、最も印象的だったのは次の言葉です。

 「一日に活字を一つも見なければ、気が狂ってしまう、というのが、普通の人間
 であります。一日に活字を見なくても、何にも感じないという水準に、もし、あ
 なた方がいたら、まだ人間になってない、と思ってください。」(P127)

 本を読まない友人に、「人生の楽しみを失っている」と言ったことがあります。
 彼は、「酒を飲まないことこそ、人生の楽しみを失っている」と返しましたが。

 さて、最終の第三部「難問突破法」では、割と好き勝手なことを言っています。
 たとえばP194からの大前研一批判は、読んでいて笑えました。

 正直な感想を言うと、第三部はなんだか漫談になってきたように思いました。
 私は本書の中心を第二部と考えて、これを「読書法」の本と位置づけています。

 ところで、著者にはほかに「やりたいことがわからない人たちへ」があります。
 30代の初めころ、文庫本で出て評判だったので、読んでみました。


「やりたいこと」がわからない人たちへ 人生にとって「仕事」とは何か? PHP文庫

「やりたいこと」がわからない人たちへ 人生にとって「仕事」とは何か? PHP文庫

  • 作者: 鷲田 小彌太
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/12/12
  • メディア: Kindle版



 やりたいことを求め続け、結局何もしないで人生が終わってしまう人もいます。
 やりたいことはいくらでも転がっているのに、それを拾わない億劫な人が多い。

 やりたいことを探す前に、まず目の前の仕事に全力で取り組んでみるべきです。
 始めたことをある程度続けてみて、初めてやりたいことが見えてくるのです。

 と、非常にまっとうなことを教えてくれています。
 「仕事ができない人は雑用もできない」と、鋭い指摘もあって有意義な本です。

 ただ、私はこういう想像もしています。
 「やりたいことがわからない人たち」が、安易にこの本を手に取ったのでは?


大学教授になる方法 (PHP文庫)

大学教授になる方法 (PHP文庫)

  • 作者: 鷲田 小彌太
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2015/05/22
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(帰りにラーメン)

 6月に文化祭があります。娘は小道具係になって、連日遅くまで活動しています。
 先日は特に遅くなったので、係りの仲間たちとラーメンを食べて帰ってきました。

 感心してしまいました。
 くそまじめでモジモジさんの娘が、学校帰りに仲間とラーメンを食べるなんて!

nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ: