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男の装い 基本編 [読書・ライフスタイル]

 「男の装い 基本編」 落合正勝 (講談社文庫)


 スーツ、シャツ、ネクタイ、靴、ブレザーなど、男が装う意味と方法を述べた本です。
 落合正勝は服飾評論家として知られています。生前は「サライ」で連載していました。


男の装い 基本編 (講談社文庫)

男の装い 基本編 (講談社文庫)

  • 作者: 落合 正勝
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/07/26
  • メディア: 文庫



 「西洋の男たちと日本の男たちの決定的な相違は、服装とは何なのだという意識を、前
 者は明確に持ち、後者は持っていないということだ。換言すれば、装う意味を知ってい
 るかいないかだ。装う意味とは、服装によるアイデンティティの立証である。」(P8)

 つまり、人は服装によって、自分が何者なのかを社会に発信する必要があるのです。
 そのためには、装うものの意味と、その正しい装い方を知っていなければなりません。

 英国やイタリアの政治家の大半は、紺系のネクタイを締めています。
 西洋では、紺は「誠実、愛情、信仰、平和」表し、男の服装の基本色となっています。

 アメリカの政治家は、意図的に、赤いネクタイを締めています。
 赤には「神と同胞に対する愛、勇気と激しさ」という思想が込められているからです。

 彼らは、このようにネクタイの色から、明白なメッセージを発信しているのです。
 服装における色や柄の持つ意味を知り、装うということを意識的に行っていて・・・

 非常に含蓄に富んだ文章です。服飾についての蘊蓄が詰まっています。
 読んでいてさまざまなことを知ることができ、知的好奇心を充分満たしてくれます。

 たとえば、西洋の小紋柄は、11世紀に端を発する貴族や豪族の紋章を起源とします。
 縞柄は、16世紀英国の連隊旗を起源とし、今では学校ごとに独自のものを持ちます。

 つまり、ネクタイには、その柄によって自分の所属を表すという意味がありました。
 現在、学校の制服のネクタイに校章が付いているのは、歴史の正しい解釈なのですね。

 ブレザーの起源も面白かったです。時は1837年、ヴィクトリア女王18歳のときです。
 英国海軍「ブレザー号」の閲兵時、水兵たちの制服を女王が気に入って広まったとか。

 私は、先に紹介した「スーツの神話」(中野香織)を、スーツの教科書としています。
 そして本書を、シャツ、ネクタイ、カジュアルなど、服飾全般の教科書としています。

 ところで、本書が「基本編」とあるので、いつか「応用編」が出ると思っていました。
 ところが、とうとう出ませんでした。少し残念です。

 しかしながら、「応用編」的な本が、同じ2003年に光文社新書から出ていたのです。
 タイトルは「ダンディズム 靴、鞄、眼鏡、酒・・・」です。


ダンディズム―靴、鞄、眼鏡、酒… (光文社新書)

ダンディズム―靴、鞄、眼鏡、酒… (光文社新書)

  • 作者: 落合 正勝
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2022/07/26
  • メディア: 新書



 こちらの本はテーマを服飾に限らず、食べ方や遊び方など、行動にまで広げています。
 相変わらず落合節は健在で、著者のこだわりがさまざまなところから垣間見えます。

 「ダンディは、個々の人間のお洒落に過ぎなかったが、ダンディズムは、それを様式
 (スタイル)として抱合したのだ。表現するなら、洗練された「だてしゃの様式ない
 しは行動」である。様式は衣服のみならず、あらゆる趣味嗜好において首尾一貫し、
 その人らしさを表現する必要がある。(P16)

 「流行に背を向け、自分だけのスタイルを装う。それをどこへ着ていくか、その服装
 を試みたとき、他人の目に自分がどう映るかを考える。うつろうモノでなく、真の価
 値を具えたモノを選択する。」(P40)

 流行に左右されることなく、自分にとって真に価値あるモノを選ぶ、という点がいい。
 私の本選びと同じスタンスなので、とても共感できます。

 さいごに。(腎機能低下)

 だいぶ前から、人間ドックでの腎機能の数値が良くない状態でした。
 ところが今回の検診では、その値がいっきに悪くなっていました。

 食事では塩分をひかえて、3か月後に再検査をするように言われました。
 減塩の食事なんて、したくないなあ。

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2010年宇宙の旅 [20世紀イギリス文学]

 「2010年宇宙の旅」 アーサー・C・クラーク作 伊藤典夫訳 (ハヤカワ文庫)


 ディスカバリー号とランデブーして、モノリスの謎の解明を目指す人々の物語です。
 名作「2001年宇宙の旅」の続編です。1982年に出て大きな話題となりました。
 「2001年宇宙の旅」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2013-05-18


2010年宇宙の旅〔新版〕

2010年宇宙の旅〔新版〕

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/07/17
  • メディア: Kindle版



 アメリカの宇宙船ディスカバリー号が連絡を絶ってから、9年が過ぎました。
 ディスカバリー号はいまだ木星軌道上にあり、船長ボーマンの行方は知れません。

 ボーマンは、「信じられない! 星がいっぱいだ!」という言葉を残していました。
 そのとき彼は、スペースポッドに乗って、巨大なモノリスに向かっていたのです。

 2010年、ソ連を中心に、ディスカバリー号とランデブーする計画が進んでいました。
 ソ連製レオーノフ号の乗組員には、アメリカのフロイド博士も加えられていました。

 フロイド博士はかつて、ディスカバリー号によるモノリス調査の中心的人物でした。
 ディスカバリー号に搭載されていたAIハルの生みの親、チャンドラ博士もいました。

 ところが、レオーノフ号を追い抜いて、中国のチェン号が先に木星系に入りました。
 しかしチェン号は、衛星エウロパで謎の生命体に襲われ、破壊されてしまいました。

 その後、レオーノフ号はディスカバリー号とランデブーして・・・
 調査していた巨大モノリスが、あるとき忽然と消えてしまい・・・

 ハルはなぜ故障したのか? ボーマンはどうなってしまったのか?
 モノリスはいったい何なのか? 木星では何が起ころうとしているのか?

 前作同様、壮大なスケールで描かれています。
 本書は、映画「2001年宇宙の旅」の謎解きバージョン的な作品でした。

 ところで、私が一番気になっていたのは、モノリスを作った者たちについてです。
 次のように書いてあるので、時空を超えた存在になったようですが・・・

 「彼らは、空間構造そのものに知識をたくわえ、凍りついた光の格子のなかに思考
 を永遠に保存する仕組みを学んだ。物質の圧制を逃れ、放射線の生物になることが
 可能になったのだ。/ 当然の成行きとして、彼らはほどなく純粋エネルギーの生
 物に変貌した。」(P421)

 相変わらず謎めいた存在のままでした。彼らの歴史をもっと知りたかったです。
 彼らはなぜモノリスを造ったのか? どのようにモノリスを操作しているのか?

 そして、ボーマンもまた「純粋エネルギーの生物」に変貌しているようなのです。
 彼はどのような仕方で変貌したのか? 彼の役割は、エウロパの監視役なのか?

 映画「2010年」を見ると、いろいろなことが分かると聞きました。
 1984年の公開時、とても話題となっていたのを覚えています。見てみたいです。

 ちなみに映画「2010年」については、ユーチューブに解説がありました。
 分かりやすくて面白かったです。私はこれを見て、とりあえずは満足しました。



 これ以後、「2061年宇宙の旅」「3001年終局への旅」と、続編が続きました。
 たとえば定年後、時間ができたら読んでみたいです。


2061年宇宙の旅

2061年宇宙の旅

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/07/17
  • メディア: Kindle版



3001年終局への旅

3001年終局への旅

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/07/17
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(定年が逃げていく)

 60歳で定年退職したら、「あの本もこの本も読みたい」と考えていました。
 なんという見通しの甘さよ! どうやら我々世代は、65歳まで働かされるらしい。

 55歳になったとき、「あと5年」と思いましたが、「あと10年」となったのです。
 どんどん定年が逃げていく。生活を考えれば、働けるだけありがたいのだけど・・・

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スーツの神話 [読書・ライフスタイル]

 「スーツの神話」 中野香織 (文春新書)


 17世紀の衣服改革から現代までのスーツの歴史をたどり、その魅力に迫っています。
 2000年刊。私にとってスーツの教科書的な本です。著者はファッション評論家です。


スーツの神話 (文春新書)

スーツの神話 (文春新書)

  • 作者: 中野 香織
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2000/03/01
  • メディア: 新書



 1660年の王政復古で迎えられたチャールズ二世は、「陽気な王様」と綽名されました。
 1665年にペストが流行すると、道楽にふける王とその宮廷への天罰だと言われました。

 そこで王は、宮廷のイメージを変えるため、「衣服改革」で地味な服を採用しました。
 「上着+半ズボン+ヴェスト+シャツ+タイ」という、スーツの原形が生まれました。

 また、スーツの表現すべき基本理念は「ジェントルマンシップ」として定着しました。
 中には「目立ちすぎない」など、ダンディズムにつながる考え方も含まれていました。

 1789年のフランス革命では、キュロットを着用する貴族が片っ端から殺されました。
 その後フランスでは、サンキュロット派にならい、長ズボンを履くようになりました。

 イギリスでは18世紀後半に、新古典主義がおこり、男性服に大きな影響を与えました。
 古代ギリシアの裸体像が美の基準となり、脚にぴったり合う長ズボンが流行しました。

 19世紀初頭、プリーツの入った宮廷服から、今のジャケットに近い上着に移りました。
 それは、ジェントルマンが田舎で着ていたアウトドア用の、地味で古びた服でした。

 これ以後、ファッションと無縁だったカントリー・ジェントルマンが注目されました。
 ファッションから超然としていたところが、逆に人々には「クール」に映ったのです。

 19世紀の初頭から、ダンディズムがイギリスを熱気で包み、フランスで流行しました。
 その理想的体現者であるボー・ブランメルは、男性服の美の基準を打ち立てて・・・

 この本を読んだのは、今から20年ほど前の頃で、私はまだ30代前半でした。
 まるで教科書で学習するかのように、せっせとノートにまとめながら読みました。

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 当時の私にとって最も面白かったのは、ダンディズムに関して論じた部分でした。
 「ダンディー」という言葉に、思想的な裏付けがあることを知って興味を持ちました。

 ブランメル登場前夜、古い世代のこれみよがしの装飾が、宮廷を席巻していました。
 ブランメルは引き算の美学によって彼ら貴族階級に対抗し、その違いが際立ちました。

 すると貴族階級は逆にそれを取り入れたのです。自分たちにしか分からない粋として。
 そしてダンディズムは、貴族階級が新興成金との差別化を図るために用いられました。

 ダンディの王を目指したジョージ四世が没すると、ダンディズム批判が始まりました。
 やがて中産階級が力を持つと、彼らをも含めたジェントルマン像ができあがりました。

 というように、時代の変遷によって、美学も服装も変わりました。
 しかし、時代の変遷があっても、伝統的な美学と服装に対する敬意は残されました。

 この本で男性ファッションについて学んでから、私はスーツの選び方が変わりました。
 流行しているものよりも、トラディッショナルなものを選ぶようになりました。

 ついでながら、この本の出た当時(2000年)、クールビズは始まっていませんでした。
 夏であっても、半そでのワイシャツを着るなんて、カッコ悪くてできませんでした。

 今では半そでシャツしか着れません。自分だけ周りから浮いてしまうので。
 しかし心の中では、「邪道な格好をしている」という感じが離れません。

 2020年までは、環境省がクールビズの始まりを大々的に伝えていました。
 そのときの彼らの服に、違和感を覚えた人はいませんか?(本当にいつもアレ?)

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 日本はもともと着物文化でしたが、戦後急速に洋服に切り替えてきた歴史があります。
 だから、服装に対するこだわりや敬意といったものが、少ないのかもしれません。

 さて、中野香織にはほかに、「ダンディズムの系譜 男が憧れた男たち」があります。
 現在、新潮選書から出ているので、新潮文庫に入ったら購入したいです。


ダンディズムの系譜 (新潮選書)

ダンディズムの系譜 (新潮選書)

  • 作者: 中野 香織
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/02/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 さいごに。(QRコードが気持ち悪い)

 私はいまだにガラケーなので、QRコードを読み取ることができません。
 だから、「QRコードを読み取って」と言われるたびに、フリーズしてしまいます。

 しかし世間はQRコードだらけ。それを見かけるたびに気持ち悪くなります。(笑)
 一番の悩みは、NHK「クロ現」の途中から左上に出て来るヤツ。アレ消してくれ!

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息子と恋人3 [20世紀イギリス文学]

 「息子と恋人」 D・H・ロレンス作 小野寺健・武藤浩史訳 (ちくま文庫)


 マザコン青年ポールが、親子関係や恋を通して成長していく姿を描いた小説です。
 すでに第一部と第二部の前半を紹介しました。今回は第二部の後半を紹介します。

 「息子と恋人1」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-07-16
 「息子と恋人2」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-07-19


息子と恋人 (ちくま文庫)

息子と恋人 (ちくま文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/02/09
  • メディア: 文庫



 ポールは、ミリアムを通して、30歳の美しい夫人クララ・ドーズを知りました。
 クララは自立心が強く、婦人参政権運動に関わっていて、夫とは別居中でした。

 ポールは、母親がミリアムを嫌っているので、別れることに決めました。
 そして、クララに接近し、同じ職場となったことで、付き合うようになりました。

 あるときクララは、「ミリアムが欲しているのは魂の合一だ」と言うポールに対し、
 「彼女の一番の基本が分かっていない。彼女のほしいのはあなただ」と答えました。

 ポールはふたたびミリアムのもとに通い、愛はこれまで以上に深まりました。
 ふたりが一線を越えたとき、ミリアムは自分を生贄として捧げているようでした。

 ポールはミリアムとの関係に息苦しさを感じ、またも別れる決意を固めました。
 そして今度はクララにのめり込みましたが、彼女は夫と別れようとしませんでした。

 ところがあるとき、母ガートルードが不治の病であることが分かり・・・
 母親と同じ病院に、クララの夫ドーズがチフスで入院していて・・・

 読んでいて、ポールの煮え切らない態度にイライラしてきます。
 ミリアムとクララの間でふらふらと揺れるポール。しかし、彼の本命は、ママ!

 ポールはミリアムから逃げ、クララからも逃げ、そして故郷からも逃げるのか?
 ところがなぜか、そんなダメダメなポールのことが、かわいく感じられるのです。

 また、ドーズと奇妙な友情が芽生える場面が、意外性があって面白かったです。
 裸の憎しみをぶつけた者同士だからこそ生じる連帯感。終盤のよみどころです。

 さて、ポールは母親から解放されるために、いかなる方法をとるのか?
 ポールとミリアムの恋は、いったいどうなるのか?

 「ポールはぐしゃぐしゃで一人ぼっちになった気分だった。母こそが文字通り彼の人
 生の支えだったのだ。彼は母を愛した。二人でともに世界と対峙した。その母が逝っ
 て、彼の背後に、人生の亀裂が、ベールの裂け目が永遠に生じた。そこから人生がず
 るずると流れ出て、死の方向に引き寄せられるようだった。」(P762)

 ここに、ポールというマザコン人間の本質が垣間見えます。
 母から解放された今、ポールにはまったく新しい人生を歩んでほしいです。

 ところで、ロレンスを読むなら「チャタレイ夫人の恋人」も手に取ってほしいです。
 過激な描写で有名ですが、森番のメラーズが語る「自然との合一」が興味深いです。
 「チャタレイ夫人の恋人」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2016-05-11

 「黙示録論」という著作もあります。聖書における黙示録について論じています。
 少しだけ気になります。


黙示録論 (ちくま学芸文庫)

黙示録論 (ちくま学芸文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2004/12/09
  • メディア: 文庫



 さいごに。(まるごとメロン)

 昨年に続き、今年も昼食に、メロンまるまるひとつを食べました。
 「食ったー!」って感じです。これは新しい恒例行事にしたいです。

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息子と恋人2 [20世紀イギリス文学]

 「息子と恋人」 D・H・ロレンス作 小野寺健・武藤浩史訳 (ちくま文庫)


 母親との密着度の高い青年が、親子関係や恋を通して成長する姿を描いた小説です。
 前回第一部を紹介しました。今回は第二部の前半を紹介します。
 「息子と恋人1」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-07-16


息子と恋人 (ちくま文庫)

息子と恋人 (ちくま文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/02/09
  • メディア: 文庫



 次男のポールは繊細な子供で、事務員として働きながら、時々絵を描いていました。
 長男のウィリアムの死後、ポールは母ガートルードの愛を一身に受けて育ちました。

 あるときポールは母と一緒にリーヴァース家の農場を訪れ、温かく迎えられました。
 リーヴァース家の長男エドガーとは親友となり、たびたび訪れるようになりました。

 やがてポールは、ひとつ年下の娘ミリアムに、精神的に惹かれるようになりました。
 純情なふたりは一緒に話をするうちに、プラトニックな愛を育むようになりました。

 ところがガートルードは、ミリアムがポールの心を捉えていることにいら立ち・・・ 
 そしてポールは、あからさまにミリアムを嫌う母親に対していら立ち・・・

 さて、第二部に入り物語はがらっと変わりました。まるで別の物語です。
 第二部は、第一部の続きというよりも、「息子と恋人」の「続編」という感じです。

 第一部は、母であるガートルードが主役でした。(私は母の視点で読みました。)
 主題は、「手塩にかけて育てた長男を、小娘に奪われた母親の悲劇」でした。

 ところが第二部は、次男ポールが主役です。(私はポールの視点で読みました。)
 主題は、「母の愛に縛られているために、恋を犠牲にした息子の悲劇」です。

 第一部ではガートルードに同情しましたが、第二部では彼女を憎悪したくなります。
 ポールだけは、いつまでも自分の近くに置いておきたいようです。まさに毒親です。

 「あなたは幸せにならなくちゃいけないの」とか言っていますが、笑えました。
 あんたがポールを不幸にしているんだよ、と誰かが教えてあげなくてはいけません。

 ガートルードがミリアムを嫌うのは、嫉妬以外の何ものでもありません。
 そして、母に逆らえず、「僕は結婚しない」とか言うポールも、実にふがいない!

 ところで、ここで「息子と恋人」というタイトルのもう一つの意味が分かりました。
 今さらながらですが、「息子であり、恋人でもある」という意味が含まれています。

 ポールは、そして長男のウィリアムも、母ガートルードにとって、恋人でした。
 夫を諦めた彼女は、まるで恋人にすがるかのように、息子たちにすがっています。

 だから、ガートルードは、露骨にミリアムとポールの取り合いをするのでしょう。
 ウィリアムをリリーに取られたので、ポールに対する執着心はとても強いのです。

 そういうわけで、ポールは母親に支配された男です。いや、「男の子」です。
 そういう乳離れしていない男子を好きになってしまった点が、ミリアムの不幸です。

 と、ダメダメなポールですが、不思議なことにまったく憎めません。
 彼の優柔不断さと、優しさからくる身勝手さは、むしろかわいく感じてしまいます。

 ところで、ポールが自分の絵についてミリアムに話す、印象的な場面があります。
 ふたりが出会って間もなくのころ、ポールが描いた絵について説明しました。

 「葉っぱの中や至るところに、ゆれてやまない命の原形質を描きこんだみたいだろ。
 (中略)このゆらめきこそが、ほんとうの生だ。形はぬけがらだ。本当は、ゆらめ
 きが中にあるんだ。」(P297)

 その「ゆらめき」や「命の原形質」ってやつが、ポールには足りないのではないか?
 母親に魂をぎゅっとつかまれているポールは、形だけのぬけがらなのではないか?

 さて、第二部に入っても、文章はまったくだれません。
 特に、ポールとミリアムが一緒にいる場面は、印象的な表現で描かれています。

 「砂丘の向こうから、海のささやきが聞こえた。二人は黙って歩いた。突然、彼がぴ
 くっとした。全身の血が燃えあがる思いで、ほとんど息ができなくなった。巨大な橙
 色の月が、砂丘の縁から二人を見つめていた。彼はそれに気づいて、立ちつくした。」
 (P352)

 現在、500ページほどまで読みました。この本は、なんと800ページ近くあります。
 次回は第二部の後半を紹介します。

 さいごに。(サニブラウン決勝進出)

 世界陸上で、サニブラウンが初めて100mの決勝に残りました。歴史を変えました!
 結果は7位でしたが、世界を相手に充分戦えることを証明してくれました。



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息子と恋人1 [20世紀イギリス文学]

 「息子と恋人」 D・H・ロレンス作 小野寺健・武藤浩史訳 (ちくま文庫)


 母親との密着度の高い青年が、親子関係や恋を通して成長する姿を描いた小説です。
 1913年に刊行した自伝的小説で、ロレンスの代表作として知られています。


息子と恋人 (ちくま文庫)

息子と恋人 (ちくま文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/02/09
  • メディア: 文庫



 没落した中産階級出身のガートルードは、プライドが高くて美しい娘でした。
 坑夫の青年モレルと結婚しましたが、半年も経つと幻滅を味わうようになりました。

 夫は金にだらしなく、ごまかしてばかり。禁酒は続かず、泥酔することもあります。
 夫への愛は冷め、希望を失い、まるで生き埋めにされたようだと感じています。

 夫からの暴言、暴力。絶え間のない夫婦喧嘩。いら立ちと倦怠。かつかつの生活。
 惨憺たる生活の中、人生を諦め、夫を諦め、子どもだけを慰めに生きています。

 「人生が人生を捉えて、その体を動かし、生涯をまっとうさせても、その人生には
 中身がなく、当の本人が忘れられているようなことがある。」(P15)

 長男のウィリアム、長女のアニー、次男のポール、そして末っ子のアーサー。
 自分が失ったものを取り戻そうとするかのように、子どもたちに愛情を注ぎます。

 特に長男のウィリアムに対しては、大きな期待をかけていました。
 彼は聡明で、運動神経も抜群で、ダンスもうまく、女の子たちにモテモテでした。

 仕事をしながら猛勉強し、20歳で大会社に見込まれ、ロンドンに出て行きました。
 ところがそこで、リリーという身勝手で軽薄な美女と付き合うようになり・・・

 「息子と恋人」というタイトルから、私はこの小説を次のように想像しました。
 美しい未亡人が、息子をとるか恋人をとるかで、悩み苦しむ物語ではないか、と。

 ところが、夫はいつまでたっても死なず、恋人はいつまでたっても登場しません。
 第一部の終わりまで読んで、タイトルの解釈を間違えたようだと気づきました。

 タイトルは、「私の息子と私の恋人」ではなく、「息子と彼の恋人」なのでしょう。
 ちなみに原題は「Sons and Lovers」(息子たちと恋人たち)なのだそうです。

 第一部においてそれは、「長男ウィリアムとその婚約者リリー」を指すようです。
 そして第一部の主題は、「溺愛する息子が軽薄な娘に奪われる物語」のようです。

 ガートルードの全人生を賭けた最愛の息子が、リリーにあっさりと奪われます。
 それどころかウィリアムは・・・というように、母親の悲劇が描かれています。

 さて、この小説は私にとって久々の大ヒットです。
 なんといっても、文章がうまい! 一文たりとも不要な文がありません。

 原文が良いのか、訳が良いのか?
 時々「おー!」と叫びたくなるほど、うまい表現に出会います。

 「自分の人生は脇に置いて、子供という名の銀行に預けてしまっていた。」(P65)
 こういう文がぽんぽん飛び出します。ワクワクしながら読んでいます。

 さいごに。(ああ、やはり落選)

 Y氏はやはり落選。投票直前、狙ったかのように不倫問題が蒸し返されていました。
 もちろん浮気はいけないけど、それをネタにする方も品が無いように思います。

 私はY氏支持ではありません。むしろ、与党のW氏支持です。
 しかし、武士の情けってものを知らぬ世間に抗議するべくY氏へ投票しました。(笑)

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夢の丘 [20世紀イギリス文学]

 「夢の丘」 アーサー・マッケン作 平井呈一訳 (創元推理文庫)


 作家志望で妄想癖のある青年ルシアンの、魂の遍歴を描いた半自伝的な小説です。 
 平井呈一の名訳です。2021年に復刊されました。新カバーはオシャレです。


夢の丘 (創元推理文庫)

夢の丘 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1984/09/26
  • メディア: 文庫



 主人公のルシアンは、ある田舎の牧師館のひとり息子です。
 12歳のときに丘の麓で見た夕焼け空が、脳裡に焼き付いて離れませんでした。

 「真紅の色は空一面を領するにつれて、大地と大地の上にあるものを染めつくし、灰
 色の枯野や枯山までがことごとく茜色になり、水溜りも貯水池も溶けた真鍮になり、
 田圃道までがギンギラに輝いた。ルシアンは、夕焼けの真紅の魔術の前に、ほとほと
 仰天するほどの驚嘆に打たれた。」(P10)

 そのころはまだ母が生きていて、家に帰って来たルシアンを温かく迎え入れました。
 ルシアンは、このときの幸せな日々を、生涯かけて追い求めていたようなのです。

 やがて母が亡くなり、父親と二人だけで、質素な暮らしを営むようになりました。
 17歳のとき、学資が払えなくなって学校を中退し、作家を志すようになりました。

 あるとき、近道をしようとして道に迷い、そこで再び幻想的な夕空を見ました。
 そのあとの闇の中でアニーとたまたま会い、月光のもとで彼女にキスをして・・・

 と、いくつもの幻想的で美しい場面が重ねられ、物語は夢のように進行します。
 時に、ルシアンの妄想なのか、それとも現実なのか、判断に迷う場面もありました。

 特にⅦ章は、妄想が妄想を呼び、何がなんだかよく分からなくなっています。
 これは、狂気に陥ったルシアンの、頭の中の世界を描いているのでしょうか。

 「琥珀の小像」という小編の成功も、ルシアンの妄想のひとつなのですよね?
 実際は、読めない字でわけの分からないことを書いていた、ということですよね?

 さて、アーサー・マッケンには「パンの大神」という問題作があります。
 ちくま文庫の「恐怖」に平井訳が収録されています。ぜひ読みたいです。


恐怖 (創元推理文庫 F マ 1-3)

恐怖 (創元推理文庫 F マ 1-3)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/05/19
  • メディア: 文庫



 さいごに。(某高校の先生によると)

 今年の1年生から科目が変わり、さらに成績の付け方も変わりました。
 観点別評価で成績を付けることになり、以前の3倍の労力が必要だと言います。

 しかも、「無意味なことをやっている感」がハンパない、のだそうです。
 私たち親も、5段階の数値だけ分かれば充分。観点別評価なんて、見ないって!

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ロード・ジム2 [19世紀イギリス文学]

 「ロード・ジム」 ジョセフ・コンラッド作 柴田元幸訳 (河出文庫)


 海難事故で自分の弱さを露呈した船員が、英雄的行動を志して悲劇に至る物語です。
 1900年刊のコンラッドの代表作です。河出文庫の柴田訳が格段に分かりやすいです。


ロード・ジム (河出文庫)

ロード・ジム (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2021/06/18
  • メディア: Kindle版



 マーロウ船長は、友人のスタインにジムの世話を頼み、ジムは奥地へ赴任しました。
 ジムにとっては人生をやり直すチャンスであり、二度と戻らぬ覚悟でいました。

 ジムは、流れ者のシェリーフ・アリの野営地を陥落させ、人々から信頼を得ました。
 古い大砲二門を、小山の上に運び上げることは、ジム以外にはできないことでした。

 族長ドラミンの息子ダリン・ワリスと親交を結び、また、美しい娘と結ばれました。
 やがてジムは、現地において伝説的存在となり、「ロード・ジム」と呼ばれました。

 ところが、ジムに恨みを抱いている者がいました。小悪党のコーネリアスです。
 そこへ、ブラウンという悪党が流れてきたことによって、意外な展開が・・・

 「事実というものは往々にして、この上なく狡猾に配置された言葉以上に謎めいて
 いるものだ。」(P457)

 なぜジムは、戦わなかったのか? なぜジムは、弁明しなかったのか?
 誰の理解も期待しないジムの胸には、常にあの「飛び降り」があったのではないか?

 「君はいつまでも、彼らにとって解きがたい謎であり続けるだろうよ。」(P411)
 マーロウのこの言葉は、奇しくもその通りとなりました。

 ジムの行動には、確かに理解しがたいものがあります。
 愛する女性や自分を慕う人々のために、説明はするべきですよ。

 逆に、ブラウンの卑劣で残虐な行動は、小気味いいほど分かりやすかったです。
 コーネリアスの卑怯な行動も、好感が持てるぐらいに徹底していました。

 皮肉なことに、現地人の中ではコーネリアスこそが、ジムの最大の理解者なのです。
 実際コーネリアスは、ジムがブラウンに会いに来るという予言を的中させました。

 「まっすぐここへ、あなた様と話をしに来ますよ。とにかく馬鹿みたいな男ですか
 ら。会えばどれだけ馬鹿だか分かります。(中略)幼い子供みたいなのです。」
 (P505)

 考えてみると、ブラウンを簡単に信じたところなど、ただのお人よしの子供です。 
 しかし、その純粋さゆえに、読者はジムに魅了されるのかもしれません。

 さて、コンラッドの作品ンいは、有名な「闇の奥」があります。
 「闇の奥」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2011-03-19

 また、「シークレット・エージェント」も古典新訳文庫から出ています。


シークレット・エージェント (光文社古典新訳文庫)

シークレット・エージェント (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/06/10
  • メディア: 文庫



 さいごに。(与党支持の私が、野党候補者に投票する理由)

 昨年の参院補選では、圧倒的優位の与党W氏を、Y氏が倒して話題になりました。
 その直後、Y氏は2年も前に終わっている不倫を蒸し返され、総スカンを食いました。

 しまいには、これまで二人三脚で歩んできた知事にさえ、見捨てられてしまいました。
 私はここに納得できない! Y氏に同情票を1票!(あくまでも同情票)

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ロード・ジム1 [19世紀イギリス文学]

 「ロード・ジム」 ジョセフ・コンラッド作 柴田元幸訳 (河出文庫)


 海難事故で自分の弱さを露呈した船員が、英雄的行動を志して悲劇に至る物語です。
 1900年に出ました。コンラッドの代表作です。1965年に映画化されています。

 以前は講談社文芸文庫でしか読めませんでした。しかもひどく古い訳でした。
 現在は、河出文庫から柴田元幸の訳が出ています。格段に分かりやすいです。


ロード・ジム (河出文庫)

ロード・ジム (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2021/06/18
  • メディア: Kindle版



 主人公のジムは、のちに「ロード・ジム」(ジム閣下)と呼ばれるようになる男です。
 牧師の息子ですが、大きな理想を持って船乗りとなり、活躍の場を求めていました。

 「二年間訓練を受けた末に船乗りとなって、己の想像力がすでによく知っている世界
 に入ってみると、そこには奇妙に冒険が欠けていた。」(P19)

 航海中に怪我をしますが、退院後は本国へ帰らずパトナ号の一等航海士となりました。
 パトナ号は化石的に古い蒸気船で、800人もの巡礼者たちを載せていました。

 ある夜、船が異常事態に陥りますが、船長や船員たちは密かにボートで脱出しました。
 ジムは船客と運命を共にしようと思いながら、無意識にボートに飛び降りていました。

 しかしパトナ号は沈まず、フランス軍艦に助けられ、船員の行動は問題となりました。
 船長らが逃げてしまったあと、ジムはひとり裁判にかけられ、屈辱を味わいました。

 ジムに同情したマーロウ船長(語り手)は、ジムに知り合いの工場を紹介しました。
 ジムは居場所を見つけましたが、しばらくのちに、なぜか突然去って行き・・・

 以前、講談社文芸文庫で読んだときには、これを孤高の英雄の物語とみなしました。
 講談社文芸文庫「ロード・ジム」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2011-03-21

 しかし、今回新訳で読み直してみて、次のように思い直しました。
 これは、英雄的な冒険に憧れた青年の悲劇なのではないか。しかも、やや滑稽な。

 ジムを追い詰めたのは、自分は英雄的な人物だ、というジム自身の思い込みでは?
 だからジムは、自分自身の犯した卑劣な行動を、決して許せなかったのでしょう。

 「でもぼくは、こいつを乗り越えなくちゃいけない。何ひとつ逃れちゃいけないん
 です、さもないと・・・駄目です、絶対何ひとつ逃れやしません。」(P209)

 トンズラした船長らに比べて、裁判を受けたジムは、確かにとても立派でした。
 だから最初、現実逃避のように遠くへ流れていくジムの姿に、違和感を覚えました。

 ジムは、英雄として行動したかったので、ひとりでも裁判に立ち向かったのでは?
 そして、英雄として存在したかったので、パトナ号事故の噂から逃げ回ったのでは?

 ジムのそのような性向を、スタインは「ロマンチスト」と呼びました。なるほど。
 確かにジムは夢や空想を追っていて、現実離れした面があるように思います。

 さて現在、ちょうど半分ほどを読み終わりました。
 マーロウがスタインにジムを預けるところからです。物語はここからが面白い!

 「自分の命は救われたが、人生はもう終わったとーー足元の地面を失って、目の
 前に見えるものも消えて、耳に聞こえる声もなくなって。すべて滅ぼされたんだ
 とーー」(P157)

 しかし、ここから、ロマンチスト・ジムの人生やり直し大作戦が始まります。
 がんばれ、ジム。彼は、失った名誉を取り戻すことができるのだろうか。

 さいごに。(パラレル・ワールド)

 うちではしょっちゅうパラレルワールドが出現します。
 というのも、今使っていた消しゴムが、忽然として消えてしまっていたり・・・

 そういう時、私と娘は、「パラレル・ワールドに行っちゃった」と言います。
 その証拠に、探すのをやめると、忽然と現れることが多いので。

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近江散歩、奈良散歩 街道をゆく24 [日本の近代文学]

 「近江散歩、奈良散歩 街道をゆく24」 司馬遼太郎著 (朝日文芸文庫)


 東大寺や興福寺を中心に、様々な回想を交えながら奈良を歩いた時の紀行文集です。
 「週刊朝日」で、1971年から25年間連載された「街道を行く」の第24巻です。


街道をゆく 24 近江散歩、奈良散歩 (朝日文庫)

街道をゆく 24 近江散歩、奈良散歩 (朝日文庫)

  • 作者: 司馬 遼太郎
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2009/01/09
  • メディア: 文庫



 「おそらく首都が山城の平安京にひっこして以来の南都のさびしさというものが、
 沈殿して伝承しているとしか思えない。」(P206)

 奈良のものさびしさを、司馬はこう表現します。「奈良散歩」は私の青春の書です。
 1988年の朝日文庫の初版を持って、大学時代最後の春休みに、奈良を歩きました。

 観光ガイドに書いてあるようなありきたりな説明は書いてありません。
 ほとんど東大寺の話だけですが、奈良を味わい尽くした人の蘊蓄に満ちています。

 三月堂と四月堂のあいだをぬけていく道が良いと聞けば、そこを通ってみました。
 下の茶屋の屋根に鍾馗さんがいると聞けば、探してみました。(見つからなかった)

 ふつうの屋根の鬼瓦が、桃になっていると聞けば、ひとつひとつ見て回りました。
 でっかい猫がいると聞けば、猫を見るたびに近寄って見ました。(もういないって)

 しかし極めつけは、お水取りを見に行ったことでしょう。
 火の粉をかぶりたくて、2時間前から場所を取り、この本を読みながら待ちました。

 当時の私が見たのは、クライマックス(?)の「お松明」でした。
 次の機会には、過去帳を聞きたいです。目当てはもちろん「青衣の女人」です。

 「源頼朝のくだりでひとつ山を終え、あとは坂をくだるようによんでいると、にわ
 かに青い衣を着た女人があらわれ、するすると集慶(じゅうけい)のそばに寄って
 きて、
  など我をば過去帳にはよみおとしたるぞ。
 といった。集慶はとっさに『青衣ノ女人(しょうえのにょにん)』とよみあげると、
 掻き消えた。」(P319)

 鎌倉時代の修二会でのことだそうです。
 司馬は、東大寺再建のために帝や院を動かした女人ではないか、と推測しています。

 さて、大学時代に購入した初版は、旅先でボロボロになってしまいました。
 10年ほどのちに、近江を旅したとき、この本を買い直しました。

 本書の前半は「近江散歩」です。特に「寝物語の里」が思い出深いです。
 著者同様、見過ごしてしまい、半日ほどかけて石碑を探し回りました。

 現在、手もとに残っているのは、このとき購入した本です。
 すでに日焼けで真っ黒になってしまいましたが、私にとって大事な一冊です。

 ちなみに、私はこの本で、宮大工の棟梁の西岡常一を知りました。
 「木に学べ」(小学館文庫)は、再読したい名著です。


木に学べ 法隆寺・薬師寺の美(小学館文庫)

木に学べ 法隆寺・薬師寺の美(小学館文庫)

  • 作者: 西岡 常一
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2003/11/07
  • メディア: 文庫



 さいごに。(ガラケーはつらい)

 「簡単なアンケートです。3分で終わります。」と言われたので協力しました。
 ところが、最初からいきなりつまづいて、15分やっても結局できませんでした。

 「このQRコードを読み取ってください。」と言われ、最初からいきなりアウト!
 ラインからQRリーダーを開いても、パケット代がかかるとメッセージが出て・・・

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