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木に学べー法隆寺・薬師寺の美ー [哲学・歴史・芸術]

 「木に学べー法隆寺・薬師寺の美ー」 西岡常一 (小学館文庫)


 法隆寺と薬師寺の宮大工棟梁の著者が、木を組むことの奥義を語り尽くした本です。
 西岡は、妥協を許さぬ厳しさから「法隆寺の鬼」と言われた法隆寺最後の宮大工です。


木に学べ 法隆寺・薬師寺の美(小学館文庫)

木に学べ 法隆寺・薬師寺の美(小学館文庫)

  • 作者: 西岡 常一
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2003/11/07
  • メディア: 文庫



 「私どもの、仕事に対する考え方やおもい入れは、神代以来の体験の上に体験を重ね
 た伝統というものをしっかり踏まえて、仕事に打ち込んでますのやがな。」(P272)

 そう語る西岡棟梁の言葉には、信念とプライドがあります。
 木を知り尽くした西岡棟梁の、その語り口にしびれます。

 「このことにお釈迦様は気がついておられた。『樹恩』ということを説いておられる
 んですよ、ずっと昔に。それは木がなければ人間は滅びてしまうと。人間賢いとおも
 っているけど一番アホやで。動物は食う量にしても、木や自然とうまくつりあっとる。
 それが人間はすぐ利益をあげようとする。」(P21)

 「自然に育った木ゆうのは強いでっせ。なぜかとゆうたらですな、木から実が落ちま
 すな。それが、すぐ芽出しませんのや。出さないんでなくて、出せないんですな。ヒ
 ノキ林みたいなところは、地面までほとんど日が届かんですわな。/こうして、何百
 年も種はがまんしておりますのや。それが時期がきて、林が切り開かれるか、周囲の
 木が倒れるかしてスキ間ができるといっせいに芽出すんですよな。今年の種も去年の
 種も百年前のものも、いっせいにですわ。」(P22)

 なるほど! 我々は木に学ばなければいけません。
 西岡棟梁の語る「木」には、崇高さがあります。

 さて、西岡棟梁に案内され、法隆寺と薬師寺を巡るのは、ぜいたくな時間でした。
 写真が多いので、本書ではとてもリアルな疑似体験ができました。

 面白かったのは、薬師寺金堂の屋根の上の鴟尾についての説明です。
 私はあれを、大きな「魚の尾」で、火事から建物を守るものだと学んできました。

 西岡棟梁は、あれを「鳥の尾」だと言います。
 屋根の反り返りが「鳥の翼」を表し、鴟尾が「鳥の尾」を表すのだと言います。

 つまり、金堂の屋根全体が「二羽の鳥が抱き合ってキスをしている形」だそうです。
 そして、王者は天に近づくという天帝思想を表したものなのだそうです。

 東塔は三重目の軒が短いとか、先が南に倒れているとかという指摘もありました。
 また、次のような言葉にも出会い、改めて薬師寺を訪れたくなりました。

 「東塔が歪んだまま立っているのに、西塔が倒れたということになったら作ったわ
 たしは生きてはいられないですな。腹切って死ななければなりませんな。」(P166)

 「わたしの薬師寺に対する考えは、東塔の上にある水煙にあります。/天人が舞い
 降りてくる姿を描いてありますが、天の浄土をこの地上に移そうという考えですな。」
 (P248)

 ほか、この本は名文の宝庫でもあります。棟梁の心意気に、心を打たれます。
 木や建築のことばかりではありません。人生についても考えさせられます。

 「初め器用な人はどんどん前に進んでいくんですが、本当のものをつかまないうち
 に進んでしまうこともあるわけです。だけれども、不器用な人は、とことんやらな
 いと得心ができない。こんな人が大器晩成ですな。頭が切れたり、器用な人より、
 ちょっと鈍感で誠実な人のほうがよろしいですな。」(P186)

 なるほど。西岡哲学とでも呼べるようなものが、ここにはあります。
 建築家だけでなく、すべての人に手に取ってほしい一冊です。

 さいごに。(寄付したかった!)

 法隆寺のクラウドファンディングが、想像以上の反響を呼んだことを知りました。
 2000万円の目標額に対して、1億5000万円を上回る額が集まったのだそうです。

 法隆寺のためならお金を出したい、という人は多かったでしょう。
 私も参加したかった! 知ったのが少し遅すぎました。

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