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ナナ [19世紀フランス文学]

 「ナナ」 エミール・ゾラ作 川口篤・古賀照一訳 (新潮文庫)

 高級娼婦ナナが、群がる男たちを次々と破滅させる物語です。
 ナナは、マノン、カルメンにも増して、世界的に名高い悪女です。

 ほとんど裸同然の姿で、舞台に登場したナナは、
 その豊満で魅惑的な肉体で、あらゆる男たちを悩殺します。

 「円味のある肩、
  槍のように堅くぴんと尖ったバラ色の突起のある豊かな乳房、
  肉感的に揺れ動く大きな腰、
  脂ののったブロンドの太腿・・・」

 こういう描写は、マノンやカルメンには、無かったものです。
 しかし私は、むしろこの直後の叙述に、釘付けになりました。

 「ナナが腕をあげると、フットライトの光で、
  金色の腋毛が見えるのだった。」(P46)

 ナナはこの時、「金髪のヴィーナス」を演じていたのですが、
 私の脳裏には、「わき毛のヴィーナス」として、
 ナナの印象が、刻み込まれてしまいました。(わき毛も魅力のうち?)

 絶頂期のナナは、このように書かれています。
 ゾラの描写は、うますぎます。

 「それは、蛇のようにしなやかな身のこなし、
  巧まざる如くして巧んだえも言われぬ優雅な色気、
  良種の猫のような神経の行き届いた気品、
  全能の女王としてパリを闊歩(かっぽ)する
  傲慢にして反抗的な淫楽の貴族だった。」(P459)

 しかし、同時にナナは、「金蠅」にも、たとえられています。
 自分は金色に輝きながら、社会に病原菌をまき散らし、
 次々と男を堕落させ、破滅させるからです。

 「場末街の溝泥(どぶどろ)から飛び立った蠅は、
  社会を腐敗させる黴菌(ばいきん)を運び、
  ただ男たちの肩に止まるだけで彼らを毒したのである。
  それは、良いことであった。正しいことであった。
  彼女は自分が属する階級、赤貧洗うがごとき人々や、
  社会から見棄てられた人々のために復讐したのだ。」(P683)

 ゾラは、本当に、うまい!

 ところが、この小説は、約700ページもあるのです。
 当時の社会を、書き写したかったのかもしれませんが、
 話の展開に関係ない描写が、多かったです。
 思い切ったカットをして、400ページにまとまれば、さらに良かった。

 さて、「ナナ」は、新潮文庫で読むことができます。
 数年前に改版となり、表紙がおしゃれになりました。
 「居酒屋」(ゾラ)と一緒に並べると、なかなか素敵です。
 引用から分かる通り、訳はうまいです。

ナナ (新潮文庫)


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