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新世界より [日本の現代文学]

 「新世界より(上・中・下)」 貴志祐介 (講談社文庫)


 1000年後の日本を舞台に、呪力を持った人々の世界を描いた、長編SF小説です。
 2008年に刊行され、日本SF大賞を受賞し、2012年にはアニメが放映されました。


新世界より 文庫 全3巻完結セット (講談社文庫)

新世界より 文庫 全3巻完結セット (講談社文庫)

  • 作者: 貴志 祐介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/01/14
  • メディア: 文庫



 舞台は今から1000年後の日本のある町で、人々は生まれながら呪力を持っています。
 ミノシロという巨大な芋虫や、化けネズミという人型ネズミなどが生息しています。

 また、町はしめ縄で囲われていて、子どもはその外へ出ることを禁じられています。
 しめ縄の中は呪力で守られていますが、外には悪鬼などがいて危害を加えられます。

 渡辺早季は、12歳で呪力を授かると、儀式を受けて「全人学級」に進級しました。
 儀式では、自分の呪力を封印して、新たに真言(マントラ)を与えられました。

 全人学級では、小学校時代の友人秋月真理亜、朝比奈覚、青沼瞬と再会しました。
 この3人のほか、伊東守、天野麗子を合わせて6人が第一班を形成していました。

 学校では班ごと行動しますが、呪力で劣る麗子はいつのまにかいなくなりました。
 また、競技会で規則を破った片山学もまた、いつのまにかいなくなっていました。

 どうやらこの社会に適応しない子供たちは、どんどん排除されるらしいのです。
 そして、そういった残酷なシステムは、子どもたちの目から巧みに隠されています。

 夏季キャンプでは、各班がカヌーで利根川を進み、野営することになっていました。
 5人は禁じられていた区域に立ち入り、そこで「悪魔のミノシロ」に遭遇しました。

 しかし、それはミノシロに偽装していた国立国会図書館つくば館だったのです。
 彼らは「悪魔のミノシロ」に問いかけ、大人たちが禁じていた知識を得ました。

 サイコキネシス(PK)の発展、PKによる無差別テロ、PK能力者に対する弾圧、
 PK能力者の逆襲と政府の瓦解、人口の激減、PK能力者による支配と腐敗・・・

 5人の少年たちは、この1000年の血なまぐさい歴史を初めて知り、驚愕しました。
 そこで離塵師に出会ったことで、化けネズミの戦闘に巻き込まれることになり・・・

 ひとりの強力な呪力者が、核兵器にも匹敵する力を持つ、という事実。
 人類は強力な呪力を持つと、その使用を抑制できなくなる、という現実。

 そのためにあみ出された「愧死機構」と、不適応者を排除する異常な教育制度。
 読みだしたら止まりません。どっぷりとこの異様な世界に入り込みます。

 ただし、この世界観は読む人を選びます。私にとっては、少し気持ち悪かったです。
 SFファンタジーのつもりで読み始めたのに・・・これはホラー小説ですよ。

 もうひとつ人を選ぶ理由があります。それは、物語があまりにも長すぎることです。
 講談社文庫では三分冊で1500ページ近く。その半分だったら全部読めたのですが。

 私は第二章「夏闇」(中巻の途中)で諦めました。全6章なので、約3分の1です。
 しかし、そのあとの展開と結末は気になります。では、どうしたか?

 実は、Uネクストでアニメ(全25話)を見たのです。(それなら原作を読めよ!)
 アニメは割と原作に忠実でした。ちなみに、1.6倍で見たので時短にはなりました。

 ところで、彼らが14歳になると、話がさらに暗く気味悪くなって・・・
 悪鬼とは何か? 業魔とは何か? 彼らが26歳になったときに大惨事が・・・



 さいごに。(ドヴォルザークの「新世界より」)

 「『新世界より』と言ったら、ドヴォルザークだろ」、と言う人も多いでしょう。
 この小説の題名も、ドヴォルザーク「新世界より」の第2楽章から付けられました。

 ドヴォルザークの交響曲では、第2楽章と第4楽章がとても有名です。
 しかし、私は第1楽章が好きです。特に50秒ぐらいのところからが超カッコいい!



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小公子 [19世紀アメリカ文学]

 「小公子」 F・H・バーネット作 川端康成訳 (新潮文庫)


 突然跡取りとなった少年セドリックが、祖父伯爵のかたくなな心を癒す物語です。
 1886年に出た児童文学の傑作です。私は、川端康成訳の新潮文庫版で読みました。


小公子 (新潮文庫)

小公子 (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/06/24
  • メディア: 文庫



 名作なのでさまざまな訳が出ています。講談社からは村岡花子訳も出ています。
 文庫本では、羽田訳の角川文庫版や、土屋訳の古典新訳文庫版もオススメです。


小公子 (角川文庫)

小公子 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/01/22
  • メディア: 文庫



小公子 (光文社古典新訳文庫)

小公子 (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2021/03/12
  • メディア: Kindle版



 アメリカ生まれのセドリックは、7歳の天真爛漫な少年で誰からも好かれています。
 母と二人暮らしでしたが、靴磨きのディックや、ホップス氏などの友達がいました。

 ある日ひとりの弁護士が来て、セドリックを小公子フォントルロイ様と呼びました。
 祖父のドリンコート伯爵の息子たちが死んで、セドリックが跡継ぎになったのです。

 セドリックは伯爵のお城で暮らすために、母とともにイギリスに渡りました。
 純真で無邪気なセドリックと接するうちに、意地悪な伯爵の心はしだいに変化し・・・

 「本当に、世の中で、親切な心ほど強いものはない。その親切を、子どもの心は、か
 わいく、すっぽりと包んでいるのだ。」(P146)

 ここに、作者バーネットの言いたいことが表れているように思えます。
 そして、セドリックの優しい思いやりにあふれた心が、物語の魅力となっています。

 ここで忘れてはいけないのが、セドリックの美しい心を育てた母親の存在です。
 つらい境遇に耐えながらも、決して美しい心を失わない母は、たいへん印象的です。

 そして、伯爵が母と和解する場面は感動的です。 
 その和解の場面をもたらすのが、あのペテン師たちの事件です。

 終盤に登場する小悪党たちは、物語を面白くするだけでなく重要な意味を持ちます。
 ここで、ディックやホップス氏たちが再登場して、活躍してくれるのも嬉しいです。

 さて、「小公子」は、同じバーネット作の「小公女」とワンセットです。
 ともに1980年代に「世界名作劇場」で放映されました。

 「小公女セーラ」については、私は子供のころに家族で見ていました。
 逆境に負けず、常に気高く優しく振舞うセーラの姿は、とても印象に残っています。

 「小公女」も名作なので、さまざまな訳が出ています。私はまだ読んでいませんが。
 文庫本では、羽田訳の角川文庫版や、土屋訳の古典新訳文庫版などが良いようです。


小公女 (角川文庫)

小公女 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/06/15
  • メディア: Kindle版



小公女 (光文社古典新訳文庫)

小公女 (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2021/04/13
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(もう一度奈良へ)

 先日の奈良ツアーでは、時間が足りなかったです。
 せっかく東大寺に行きながら、法華堂も戒壇院も見られませんでした。

 妻も娘もそれなりに満足したようですが、仏像マニアの私には物足りなかったです。
 また行きたいです。今度は一泊して、薬師寺や唐招提寺にも足を伸ばしたいです。

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二人の女王 [19世紀イギリス文学]

 「二人の女王」ヘンリー・ライダー・ハガード作 大久保康雄訳(創元推理文庫)


 アフリカの奥地にあるという白色人種の国を目指して、冒険する男たちの物語です。
 「ソロモン王の洞窟」の続編で、アラン・クォーターメンのシリーズの第2作です。


二人の女王 (創元推理文庫 518-3)

二人の女王 (創元推理文庫 518-3)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1975/02/14
  • メディア: 文庫



 アラン・クォーターメンは、ひとり息子に死なれて、悲しみのどん底にありました。
 彼は、この悲しみを癒してくれるのは、自然のエネルギーだけだと感じていました。

 「たしかに、悲しみにうちひしがれたときや、屈辱にまみれたときには、文明は、ま
 るで私たちの力になってくれない。そんなとき、私たちは、後へ後へとあとずさりし
 て、自然の大きな懐へとびこんで、子供のようにそこに身を横たえる。自然は私たち
 を慰め、痛みを忘れさせてくれるだろう。」(P14)

 そんな折突然、クォーターメンのもとへ、カーティス卿とグッド大佐が訪れました。
 この3人は、3年前に「ソロモン王の洞窟」を求めてアフリカを探検した仲間です。

 そして、「もう一度アフリカ探検に」という話になりました。あの大自然の中へ!
 3人は、ケニア山の奥にあるという、伝説の白色人種の国を目指して出発しました。

 途中、ズル人の老戦士ウンスロボガースを仲間に加え、一行はタナ河を遡ります。
 宣教師マッケンジーの伝導館においては、獰猛なマサイ族との殺戮戦がありました。

 一行のカヌーが洞穴に飲み込まれ、火柱が上がる水面を抜けて出た場所は・・・
 ズ・ペンディ国を統治するのは、ニレプタとソレイスという双子の美しい女王・・・

 この物語の魅力は、エキゾチックな雰囲気です。
 アフリカ奥地に謎の白人王国があり、ふたりの女王が治めている、という設定です。

 特に姉のニレプタは、情もあり知性もあり、たいへん魅力的に描かれています。
 そしてときどき、次のような気の利いたセリフを吐きます。

 「結婚とは、口をつけて飲むまではどんな味がするものか誰にもわからぬ酒杯のよう
 なものじゃ。」(P273)

 「幸福とは、めったに姿を見せぬ白い鳥のようなものじゃ。いま見かけたと思うと、
 あっという間に、はるか遠くへ飛び去り、いつしか雲のなかに姿を消してしまう。そ
 れゆえ、たとえ一瞬でも、その鳥がわたしたちの手にとまるようなことがあったら、
 しっかりつかまえておかなければならぬ。」(P313)

 双子姉妹の女王によって治められた王国は、微妙なバランスを保っていました。
 しかし、外部からの侵入者クォーターメンらによって、大きな内乱が勃発しました。

 その展開を、ロマンティックと言う人もいますが、私には少々愚かしく思えました。
 ふたりの女王は、内乱を避ける方法を、考えることができなかったのでしょうか?

 あっというまに国を割る内乱に突入してしまう展開は、いかがなものでしょうか?
 B級小説っぽい雰囲気にあふれています。そういうところは、嫌いでないのですが。

 ちなみに、B級っぽい感じをぎりぎりのところで救っているのが、作者の文章です。
 たとえば、読者は物語の中で、次のような素敵な文に不意に出会って驚くのです。

 「どんな真剣な事件にも、たいていユーモアという形の銀の縁がとり巻いていて、見
 る目さえあれば笑ってすまされるということを、私たちは心から感謝すべきであろう。
 ユーモアのセンスは、人生における貴重な財産の一つだ」(P277)

 ところで、結末はなかなか衝撃的でした。最も印象に残ったのは妹王ソレイスです。
 ひとりひとりに感謝の言葉を述べたあと、彼女はどのような行動に出たのか?!

 そして、ウンスロボガースの死! そして、クォーターメンの死!
 しかし、クォーターメンは、ファンに惜しまれて、のちに復活するのだそうです。

 さて、名作「洞窟の女王」にも続編があって、それが「女王復活」です。
 こちらも絶版です。もし手に入ったら、ぜひ読んでみたいです。


女王の復活 (創元推理文庫 518-4)

女王の復活 (創元推理文庫 518-4)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1977/03/18
  • メディア: 文庫



 さいごに。(奈良天理ラーメン)

 先日の奈良旅行の帰りに、「奈良天理ラーメン」というカップ麺を買いました。
 スーパーで250円ぐらいでしたが、これが、めちゃくちゃおいしかったです。


寿がきや 全国麺めぐり 奈良天理ラーメン 117g ×12個

寿がきや 全国麺めぐり 奈良天理ラーメン 117g ×12個

  • 出版社/メーカー: 寿がきや食品
  • 発売日: 2020/03/16
  • メディア: 食品&飲料



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ノーサンガー・アビー [19世紀イギリス文学]

 「ノーサンガー・アビー」ジェイン・オースティン作 中野康司訳(ちくま文庫)


 社交界で知り合った兄妹に、ノーサンガー・アビーに招待された少女の物語です。
 作者の死後1818年に「説得」と合本で刊行されましたが、実質的には処女作です。


ノーサンガー・アビー (ちくま文庫 お 42-8)

ノーサンガー・アビー (ちくま文庫 お 42-8)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2009/09/09
  • メディア: 文庫



 17歳のキャサリンは大地主のアレン夫妻に、一緒にバースに行こうと誘われました。
 バースで社交界デビューを果たし、25歳のヘンリー・ティルニーと知り合いました。

 キャサリンはダンスの後でヘンリーとおしゃべりし、すっかり彼を気に入りました。
 また、ヘンリーの妹とも知り合い、彼らが立派な家柄の出であることも知りました。

 キャサリンは、年上のイザベラと、その兄で気取り屋のジョンとも知り合いました。
 ジョンには好意を寄せられますが、彼の虚言癖によりたびたび振り回されるのです。

 ティルニー家はバースを去るとき、キャサリンを彼らの屋敷に招待してくれました。
 その屋敷こそが「ノーサンガー・アビー」(元修道院の屋敷をアビーと言います)。

 ゴシック小説ファンのキャサリンは、アビーと聞いただけでワクワクし始めました。
 多くの謎とスリルに満ちた古い修道院は、よくゴシック小説の舞台となるからです。

 ノーサンガー・アビーの主人ティルニー将軍は、キャサリンを丁重に迎えました。
 しかし、キャサリンはなぜか将軍に対して、不自然で冷たいものを感じました。

 ミス・ティルニーが亡き母の部屋を案内しようとすると、将軍はきつく止めました。
 なぜ母の部屋が立ち入り禁止なのか? キャサリンの妄想があふれ出しました。

 「ティルニー夫人はまだ生きていて、なにかわけがあって、秘密の部屋に閉じ込めら
 れていて、冷酷な夫から毎晩粗末な食事を与えられているのだ。」(P284)

 翌日、ミス・ティルニーとその部屋に行くと、将軍がいて大声で怒鳴り・・・
 しかし、もっとも不可解なのは、キャサリンが理由もなく追い出されたことで・・・

 という具合に、この作品はなんとなくミステリー小説ふうなのです。
 「あとがき」によると、ホラー小説の読みすぎを揶揄しているのだそうです。

 キャサリンはゴシックのファン。その愛読書はラドクリフの「ユードルフォの謎」。
 彼女が「世界一すてきな本」という「ユードルフォの謎」を、読んでみたいです。


ユドルフォ城の怪奇 上

ユドルフォ城の怪奇 上

  • 出版社/メーカー: 作品社
  • 発売日: 2021/09/02
  • メディア: 単行本



 「子供のころのキャサリン・モーランドを知っている人は、彼女が小説のヒロインに
 なるように生まれついたなんて絶対に思わないだろう。」(P8)

 という冒頭で分かる通り、主人公キャサリンは、どこにでもいる平凡な女の子です。
 平凡な少女をヒロインにした点で、当時の小説のヒロイン像に異を唱えています。

 オースティンは、当時流行の小説やホラー小説のパロディを書きたかったのですね。
 一方、次のような記述からは、小説を書くプライドのようなものが感じ取れます。

 「つまり小説とは、偉大な知性が示された作品であり、人間性に関する完璧な知識と、
 さまざまな人間性に関する適切な描写と、はつらつとした機知とユーモアが、選び抜
 かれた言葉によって世に伝えられた作品なのである。」(P47)

 しかし、処女作であるこの作品には、まだどこか習作っぽい雰囲気がありました。
 オースティンは、何を書きたいのか充分に的が絞れていないように思えました。

 たとえば「ノーサンガー・アビー」という語が登場するのは、やっとP209からです。
 この辺りを境に前後半が分かれ、そこに大きな断絶があるように感じられました。

 さて、すでにオースティンの作品は四つ紹介しました。
 あと二作品「分別と多感」「マンスフィールド・パーク」も今年中に読みたいです。


分別と多感 (ちくま文庫 お 42-6)

分別と多感 (ちくま文庫 お 42-6)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2007/02/01
  • メディア: 文庫



マンスフィールド・パーク (ちくま文庫 お 42-9)

マンスフィールド・パーク (ちくま文庫 お 42-9)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2010/11/12
  • メディア: 文庫



 さいごに。(「砂の惑星」を見てしまった)

 先日から咳が出始めて、昨日の午後急に熱が出たので、医者で診てもらいました。
 検査の結果、コロナでもインフルでもなくひと安心。念のため仕事は休みました。

 処方してもらった風邪薬が効いたのか、一日ですんなり回復しました。
 貴重なお休みの日、Uネクストで「DUNE砂の惑星」を見ました。良かったです!


DUNE/デューン 砂の惑星 [DVD]

DUNE/デューン 砂の惑星 [DVD]

  • 出版社/メーカー: ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
  • 発売日: 2022/10/07
  • メディア: DVD



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仏像のみかた・仏像~そのプロフィル~(保育社カラ―ブックス) [哲学・歴史・芸術]

 「仏像のみかた」 入江泰吉・關信子 共著 (保育社カラ―ブックス)
 「仏像~そのプロフィル~」 入江泰吉・青山茂 共著 (保育社カラ―ブックス)


 「仏像のみかた」は、多くの図版を通して、仏像の時代ごとの特徴を解説しています。
 「仏像~そのプロフィル~」は、如来・菩薩・王・天など種類ごとに解説しています。

 
仏像のみかた (カラーブックス 455)

仏像のみかた (カラーブックス 455)

  • 出版社/メーカー: 保育社
  • 発売日: 1979/01/01
  • メディア: 文庫



仏像 そのプロフィル (カラーブックス 111)

仏像 そのプロフィル (カラーブックス 111)

  • 出版社/メーカー: 保育社
  • 発売日: 2024/02/13
  • メディア: 文庫



 大学3年で仏像の魅力にはまり始めたころ、私にとってこの2冊はバイブルでした。
 保育社カラ―ブックスという手のひらサイズの本で、私は仏像の基本を学びました。

 この本は、2冊でワンセットです。内容の説明は、こう言えば充分でしょう。
 「仏像のみかた」ではその歴史を、「そのプロフィル」ではその種類を学べる、と。

 さらに素晴らしいのは、入江泰吉の美しい仏像写真が、多く挿入されている点です。
 小さいけれど贅沢な本です。昭和60年代、この本がたった500円ほどで買えたとは!

 「一部の人の手にしか入らない豪華本ではなく、手軽に買えて、しかも内容は豪華本
 に負けず美しく、楽しみながら仏像の基礎がわかるような本を作ってみたいというぜ
 いたくな望みを持った。」(「仏像~そのプロフィル~」の「はしがき」より)

 以上の言葉から、明確な目的とプライドを持って本が作られたことが分かります。
 ああ、古き良き時代よ。本というものが尊ばれ、信頼されていた懐かしき時代よ・・・

 結婚後は奈良に行く機会はなく、一緒に仏像巡りをしてくれる人もいませんでした。
 そのため、この本たちも手に取ることがなく、押し入れの奥で忘れられていました。

 日帰りの奈良旅行を計画した昨年末、私はこの本を発掘し、再会を果たしました。
 仏像の基本をおさらいするのにちょうど良かったです。残っていて良かったです。

 保育社カラーブックスの良いところは、小さくて手軽に持ち運べるところです。
 その割に内容が濃くて、奈良通いで持ち歩くうちにボロボロになってしまいました。

 特に「仏像のみかた」は、私の記憶が正しければ、2度買い直しています。
 1冊目はすでに失く、2冊目の平成4年版と3冊目の平成11年版が手元にあります。

 そして、カラーブックスの唯一の欠点は、ページが離れやすいところでしょうか。
 何度も見たページはいつのまにか切り離されるので、どこかに落としてしまいます。

 平成4年版の「仏像のみかた」は、7~10ページがテープでとめてありました。
 法隆寺百済観音と、中宮寺半跏思惟像のページです。このページを何度見たことか!

 さて、保育社カラーブックスは、1962年に文庫サイズの小百科として始まりました。
 最初は1冊200円だったとか。そして1999年までに909点が刊行されたと言います。

 入江泰吉では、ほかに「法隆寺」など「奈良の寺」シリーズ(全7巻)があります。
 今ではもちろんすべて絶版ですが、もしどこかで安く売っていたら買いたいです。


法隆寺 (カラーブックス 180)

法隆寺 (カラーブックス 180)

  • 出版社/メーカー: 保育社
  • 発売日: 2024/02/13
  • メディア: 文庫



 保育社カラーブックスを読んだら、次にもう少し詳細な解説本に進みたいです。
 色々出ていますが、「日本仏像史講義」や「日本の仏像」などの新書が良いのでは?


新書775日本仏像史講義 (平凡社新書 775)

新書775日本仏像史講義 (平凡社新書 775)

  • 作者: 山本 勉
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2015/05/15
  • メディア: 新書



日本の仏像―飛鳥・白鳳・天平の祈りと美 (中公新書 1988)

日本の仏像―飛鳥・白鳳・天平の祈りと美 (中公新書 1988)

  • 作者: 長岡 龍作
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2009/03/01
  • メディア: 新書



 さいごに。(大仏も良かったが)

 東大寺の大仏は本当に大きくて迫力がありました。奈良時代によく作ったものです。
 それにしてもうちの娘は、奈良まで来て大仏様を見なかったとは!

 しかし、同じぐらい印象に残ったのは、東大寺ミュージアムで見た誕生仏でした。
 これが、実にかわいらしかったのです。うちにもひとつほしかった!

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木精(こだま) [日本の近代文学]

 「木精(こだま)―或る青年期と追想の物語―」 北杜夫 (新潮文庫)


 ドイツの研究所で学ぶ30歳の「ぼく」の、過去の追想と将来の希望を描いた物語です。
 初期の傑作「幽霊」の20年後に書かれた続編です。自伝的要素の強い小説です。
 「幽霊」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2020-01-26-2


木精―或る青年期と追想の物語―(新潮文庫)

木精―或る青年期と追想の物語―(新潮文庫)

  • 作者: 北 杜夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/09/06
  • メディア: Kindle版



 30歳の「ぼく」は、ドイツのチュービンゲンにある、神経研究所で学んでいます。
 実は日本を離れたのは、倫子(のりこ)という人妻と別れるためでもありました。

 それにも関わらず、あれから2年たった今も、倫子のことばかり思い出します。
 4年前の出会い、初めての関係、4歳の子、数々の逢瀬、口喧嘩、そして別れ・・・

 「ぼくらの恋は、背徳の、不倫の恋であることに間違いはなかった。そしてそのゆえ
 に、それはときにはほの暗く、ときには閃光のように燃え、一種ほろ苦い蜜の味を有
 していたのかもしれない。」(P124)

 日本の雑誌に送った作品が評価され、「ぼく」は小説家になる夢を持ち始めました。
 クレッチュマー教授に学び、ドクターまで取りながら、「ぼく」は迷っていました。

 とうとう「ぼく」は、3年間の留学を終えるころ、日本に帰る決心をしました。
 その前にスイスに旅行し、敬愛する作家トーマス・マンの墓のある教会に詣で・・・

 この場面がとても印象に残っています。おそらく北の体験とほぼ同じなのでしょう。
 北自身も、トーマス・マンの作品に、とても大きな影響を受けたのです。

 「静かに! このおびえたような鼓動は一体何なのだろう? 長いこと急坂を登って
 きたための動悸なのだろうか。いや、長年、ぼくの精神を少しずつ育んでくれた旋律
 が、この墓の周囲に漂っているのではなかろうか。
 『ぼくはやってきました、遠い国から』
  と、半ば無意識に、墓石に向かってささやいた。」(P139)

 北は、マンの「トニオ・クレーゲル」から、特に大きな影響を受けたのだそうです。
 そこで、ペンネームを「杜夫」(トニオ = 杜二夫 → 杜夫)にしたとも言います。

 そして、「トニオ・クレーゲル」は、この作品の随所に登場し、時に引用されます。
 人妻倫子との禁断の恋の始まりを思い出し、当時の心情を次のように書いています。

 「ぼくという人間は、トニオ・クレーゲル少年のごとく、ひそかな愛慕をよせたハン
 ス・ハンゼンやインゲボルク・ホルムからは決して好意を持たれることもなく、せい
 ぜい芸術家の女友達リザヴェーダ・イワノヴナなどと冷静な友情を結べるくらいが実
 情なのではあるまいか。」(P92)

 トニオも、ハンゼン少年に好意を寄せるという、ある意味禁断の恋を経験します。
 自分とトニオを重ね合わせ、すでにこの時点で、恋の終わりを予感しているのです。

 さて、この作品は北の青年期とトーマス・マンへの思いが分かる点で興味深いです。
 ただ、別れた女のことをいつまでもうじうじ書いている点は、引いてしまいました。

 たとえば、「ぼく」の書いた手紙を倫子がブラジャーの中へ入れておいたとか・・・
 ああ恥ずかし。いい年してそんなこと書いてるなよ、体がかゆくなってくるよ!

 ついでながら、私には倫子という女性が、あまり魅力的には思えなかったです。
 「ぼく」からの手紙を、夫に読まれてしまうなんて・・・ちょっとバカっぽいです。

 私には倫子がつまらない女に思えたので、主人公「ぼく」に共感できませんでした。
 倫子を追想する「木精」よりも、母を追想した「幽霊」の方が、はるかに良かった。

 ところで、トーマス・マンについては、2013年~14年にひととおり読んでいます。
 もちろん、「トニオ・クレーゲル」もすでに紹介しています。
 「トニオ・クレーガー」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2013-10-24

 ラストのクライマックスで、「ぼく」は「トニオ・クレーゲル」を手に旅をします。
 この場面が良いです。本当に北杜夫は、「トニオ・クレーゲル」が好きなんですね。

 さいごに。(奈良弾丸ツアー)

 昨年12月、娘が修学旅行で奈良に行きながら寺を見なかったので、私は怒りました。
 そこで、我が家では2月11日(日)に日帰りで、「追」の修学旅行を決行しました。

 午前に法隆寺を、午後に興福寺と東大寺を回りましたが、日程が超ハードでした。
 それでも娘は、教科書に載っている国宝を見ることができて、満足だったようです。

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説得 [19世紀イギリス文学]

 「説得」 ジェイン・オースティン作 中野康司訳 (ちくま文庫)


 周りに「説得」されて婚約を解消したアンが、8年後に元恋人と再会する物語です。
 1818年に刊行された最後の長編小説です。「説きふせられて」の題でも出ています。


説得 (ちくま文庫 お 42-7)

説得 (ちくま文庫 お 42-7)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2008/11/10
  • メディア: 文庫



 ウォルター・エリオットは虚栄心の塊で、准男爵であることを鼻にかけています。
 13年前に妻が亡くなってからは、大きな屋敷で贅沢三昧の暮らしを続けてきました。

 エリオット家には3人の娘がいて、29歳の長女エリザベスが切り盛りをしています。
 27歳の次女アンがこの物語の主人公です。3女のメアリーはすでに結婚しています。

 さて、贅沢に慣れた一家は毎年借金を重ね、生活様式を変える必要に迫られました。
 エリオット家はこれまでの屋敷を他人に貸して、バースに引き込むことにしました。

 そして彼らの屋敷を借りることになったのは、海軍で活躍したクロフト提督でした。
 その妻には弟がいました。それがウェントワース大佐だと知ってアンは驚きました。

 ウェントワースは、以前アンが周りに説得されて婚約を解消した相手だったのです。
 当時23歳の彼はまだ財産がなくて、准男爵家には不釣り合いだと考えられたのです。

 しかし、この8年間にウェントワースは手柄を立て、相当な財産を築いていました。
 彼は今も、アンを許していないようでした。一方アンは今では、後悔していました。

 「あのときの自分と同じような状況に立たされた若い娘が、もしいま自分に助言を求
 めてきたら、アンは、あのような不確実な将来の幸福のために、あのような絶対確実
 な不幸を選ぶような助言は絶対に与えないだろう。」(P50)

 アンが妹メアリーの嫁いだマスグローヴ家にいるとき、ウェントワースが来て・・・
 ウェントワースはマスグローヴ家の娘たちと仲良くなり、屋敷に通うように・・・

 読んでいるうちに、しだいに穏やかで優しい気持ちになっていきます。
 それもみな、主人公アンの良識と思いやりによるものでしょう。

 アンには早く幸せになってほしい。早くウェントワースとよりを戻してほしい。
 しかし、ふたりの関係は遅々として進みません。展開が遅くてじれったくなります。

 やや退屈な中盤をなんとか持ちこたえさせているのが、怪しげな〇〇〇〇〇氏です。
 なぜ急に態度を改め交際を求めてきたのか? こういう悪党が物語を面白くします。

 第21章で氏の正体が明かされてから、物語はテンポが良くなりいっきにラストへ。
 かつて〇〇〇〇〇氏は、何を企んだのか? そして今彼は、何を企んでいるのか?

 そして、アンの控えめだがしっかりした態度が、幸せを呼び寄せます。
 ウェントワースとのほんのちょっとした会話が、ふたりの運命を変えるのです。

 「でも時が経てばいろいろ変わるでしょう」
 「いいえ、私はそんなに変わっていませんわ」
 「ずいぶん昔の話です! 八年半といえば一昔前です!」(P373)

 良い人と悪い人が明確に分けられているため、展開も文章も分かりやすかったです。
 アンが絶対幸せになって終わるはずだという確信が持てて、安心して読めました。

 ところで、時代が時代なので、物語のいたるところから階級差別を感じました。
 アンと従兄のエリオットとの次のような会話から、当時の英国の状況が分かります。

 「エリオットさん、私が考える良き交際相手とは、知性と教養にあふれた、話題の豊
 富な人たちですわ。それが私の言う良き交際相手ですわ」
 「いや、それは違いますね」とエリオット氏は穏やかに言った。「それは良き交際相
 手ではなくて、最高の交際相手です。良き交際相手に必要なのは、家柄と教育と礼儀
 作法だけです。」(P246)

 アンの言葉はそのままオースティンの言葉でしょう。作者の趣味の良さを感じます。
 次は、出版時に合本になっていた「ノーサンガー・アビー」を読んでみたいです。

 さいごに。(Uネクストでムーは・・・)

 Uネクストでは、「超ムーの世界R」の全186話がすべて見られます。すばらしい!
 しかし186話もあると逆に見る気が失せて、「退職後でいいか」と思ってしまいます。

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幽霊列車 [日本の現代文学]

 「幽霊列車」 赤川次郎 (文春文庫)


 列車の乗客が消えた表題作など、中年警部と女子大生が事件を解決する短編集です。
 1976年刊行の「幽霊列車」は赤川のデビュー作で、「幽霊シリーズ」の第一作です。


新装版 幽霊列車 (文春文庫) (文春文庫 あ 1-39)

新装版 幽霊列車 (文春文庫) (文春文庫 あ 1-39)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/01/04
  • メディア: 文庫



 岩湯谷駅で乗車した8人が、次の大湯谷駅に着いたときには全員消えていました。
 この幽霊列車事件の謎を解くため、40歳の宇野警部は客を装い、調査を始めました。

 推理オタクの21歳の女子大生永井夕子と出会い、一緒に事件を追いかけますが・・・
 走る列車から、どのようにして乗客はいなくなったのか? なぜいなくなったのか?

 以上の表題作「幽霊列車」は、赤川次郎の記念すべきデビュー作です。
 そして本書は、宇野警部と夕子が初めて出会う作品です。のちにシリーズ化します。

 デビュー作の割には完成度が高く、文章のテンポもよくて、とても面白かったです。
 トリックもなかなか凝っていました。また、謎が解明されていく場面もうまいです。

 内容にはたいへん満足しました。しかし、その一方で違和感を覚えたのも確かです。
 冴えない中年警部が、美人女子大生に気に入られ、関係まで持ってしまうのはなぜ?
 
 さて、この短編集には、「幽霊列車」を含めて全5作が収録されています。
 どの作品も、良い意味でも悪い意味でも娯楽小説です。とても上質な娯楽小説です。

 もっとも面白かったのは「善人村の村祭」です。推理小説というより冒険小説です。
 宇野警部と永井夕子が偶然訪れた「善人村」では、元日に年に一度の祭があります。

 村人たちはとても親切で、ふたりは至れり尽くせりの歓迎を受けました。
 村長の屋敷に泊まると、その妖艶な妻が裸になって、宇野の床に入ってきて・・・

 ふたりは危機に陥って、初めて行き過ぎた歓迎ぶりの意味に気付きました。
 「正月のお祭のために私たちが必要だったのね。〇〇〇〇として」(P354)

 「善人村」ではるか昔から続けられてきた祭とは、どのようなものだったのか?
 宇野警部と夕子は、その祭においていったいどのような役割を担っていたのか?

 特に村長の妻の絢路夫人が、良い味を出していました。この人をぜひ映像で見たい。
 また、善人ばかりの村の秘密が明かされていくところが、とてもスリリングでした。

 ところで、私は先ほど収録されている作品を、良くも悪くも娯楽小説と評しました。
 というのも「幽霊列車」以外の作品は、推理小説としては物足りなかったからです。

 しかし、赤川作品にはほかに「マリオネットの罠」という高評価の作品があります。
 機会があったらぜひ読んでみたいです。


マリオネットの罠 (文春文庫)

マリオネットの罠 (文春文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/09/20
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(エンドレスエイト)

 Uネクストに31日間お試しで入り、「涼宮ハルヒの憂鬱」(全24話)を見ています。
 その中の「エンドレスエイト」というエピソードは、同じ話を8回繰り返すのです。

 2回目から7回目の6回は見る意味がありません。ファンは怒ったのではないか?
 もしお金を払って見ていたのなら、私も怒ったと思います。無料で良かった。

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ブルーもしくはブルー [日本の現代文学]

 「ブルーもしくはブルー」 山本文緖 (角川文庫)


 自分とまったく違う生活をしている自分の分身と、1ヶ月だけ入れ替わる物語です。
 1992年刊行。初期の頃のファンタジー&ホラー作品で、NHKドラマになりました。


ブルーもしくはブルー (角川文庫)

ブルーもしくはブルー (角川文庫)

  • 作者: 山本 文緒
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/05/21
  • メディア: Kindle版



 佐々木蒼子は、偶然訪れた福岡の街で、かつて恋人だった河見を見かけました。
 追いかけると、河見が自分とそっくりな女性と一緒だったので、興味を持ちました。

 彼女の名前は、河見蒼子。佐々木蒼子と、名前も生年月日も、記憶も同じなのです。
 河見蒼子(蒼子B)は、佐々木蒼子(蒼子A)の分身なのではないでしょうか。

 いわゆるドッペルゲンガーです。では、蒼子はいつ自分から分離したのでしょう?
 それは以前、佐々木と河見のどちらと結婚するか、死ぬほど悩んだときではないか。

 のちに、けんか別れしていた父と再会したとき、父には蒼子Bが見えませんでした。
 どうやら蒼子Aが本体であり、蒼子Bが影のようです。蒼子Bは落ち込みました。 

 ところで、蒼子Aは6年前に佐々木と結婚し、東京でぜいたくに暮らしています。
 しかし現在、佐々木には恋人がいて、蒼子Aは満たされない毎日を過ごしています。

 蒼子Bは、河見と結婚して、福岡で質素に暮らしながらも、河見に愛されています。
 しかし、河見は酔っぱらうと乱暴になり、蒼子Bはたびたび殴られているのです。

 蒼子Aは、河見と結婚した蒼子Bを羨み、1か月間入れ替わることを提案しました。
 蒼子Bは、河見との結婚を後悔していたので、すんなりその提案を受け入れました。

 「余るほどの自由があれば心の拠り所が欲しくなり、強く愛されればそれは束縛に感
 じる。」(P129)

 蒼子Aと蒼子Bは、周到な準備の末、入れ替わって生活を始め・・・
 蒼子Aは、まさかこの試みで窮地に追い込まれるとは、考えもせず・・・

 「彼女は私のドッペルゲンガーなのだ。影が本体に勝てるわけがない。」(P178 )
 蒼子Aは高をくくっていましたが・・・思いもよらぬ展開で、立場が逆転し・・・

 私は最初、本体と影が力を合わせて、クズ男をやっつける物語かと思いました。
 ところが、物語は意外な展開をします。これは、想定外でした。

 物語は軽快で、読み始めたら止まりません。終盤のどんでん返しもすばらしい。
 ただ、結末は少し寂しすぎます。ふたりとも、もっと変わってほしかったです。

 タイトルは、「ブルー(蒼)もしくはブルー(蒼)」です。
 「結局は同じ」というニュアンスが込められていることに、最後に気づきました。

 さて、この作品は作者が一般の作品に転向してから2作目にあたります。
 だから、これまで書いてきたジュニア作品っぽさが、ちらほら見え隠れします。

 ちなみに、もっともジュニア作品っぽい部分は、文庫のカバーイラストでしょう。
 でも、私はこのイラストが、案外好きだったりします。

 これで、山本文緒の代表作をだいたい制覇しました。
 「ブルーもしくはブルー」を入れて全五作、すべて面白かったです。

 「自転しながら公転する」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2024-01-11
               https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2024-01-14
 「恋愛中毒」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2023-06-30
 「絶対泣かない」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2016-05-05
 「プラナリア」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2024-01-08

 さいごに。(それは、誰?)

 私は先日仕事の仲間に、「あなたにそっくりな人を見たよ」と言われました。
 もちろん、それは私ではありません。しかし、名字も私と同じだったそうです!

 近くの場所なので、確かめることはたやすいのですが、どうしてもできません。
 ちょっと怖いですね。もし、私がドッペルゲンガーだったら、と思うと・・・

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ほら吹き男爵の冒険 [18世紀文学]

 「ほら吹き男爵の冒険」 G・A・ビュルガー作 酒寄進一訳 (古典新訳文庫)


 実在したミュンヒハウゼン男爵の、さまざまな冒険における奇想天外な物語です。
 1788年刊行。「ほら吹き男爵」物語群の完成版です。数々の楽しい挿し絵付きです。


ほら吹き男爵の冒険 (光文社古典新訳文庫)

ほら吹き男爵の冒険 (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2021/09/14
  • メディア: Kindle版



 狩猟に出て、湖で数十羽の野ガモを見つけましたが、すでに弾はありませんでした。
 そこで男爵は、ベーコンの残りを長い長い紐に結んで、野ガモの群れに投げました。

 一羽の野ガモがそれを食べましたが、ベーコンは消化されずに尻から出てきました。
 そのベーコンをもう一羽が食べ、尻から出てきたベーコンをほかの一羽が食べ・・・

 という具合に、紐に通した真珠さながら、数十羽の野ガモがすべてつながれました。
 そして、野ガモが一斉に飛び立ったため、男爵は空中を飛んで楽々帰ってきました。

 トルコ軍と戦った折、愛馬に乗って要塞に駆け込んだ途端、格子が落とされました。
 そのため愛馬は前後で切断されましたが、男爵はそれを知らず敵を蹴散らしました。

 やがて馬は水を飲み始めましたが、後ろが無いので飲んだ水はそのまま流れました。
 馬の後ろ半分はすでに牧場に帰っていたため、鍛冶屋に胴をつなぎ止めさせました。

 また、味方の撃った大砲の玉に乗って、敵軍に向かっていったこともあります。
 途中で気が変わり、空中で相手の撃った玉に乗り移って、自軍に帰って来ました。

 話はどんどん大きくなります。あるときは、トルコ豆のつるを登って月に行きます。
 またあるときは、暴風に見舞われた船が空に投げ出され、風を受けて月に行きます。

 またあるときは、エトナ火山を真っ逆さまに落ちて、地球の反対側から出てきます。
 またあるときは、大鯨に船ごと飲み込まれ、その腹の中で1万人の人々に会い・・・

 という具合に、ほら話は止まりません。読んでいてとても愉快な気分になります。
 しかも、挿し絵が付いているのでとても楽しく読み進めることができました。

 中には、味わいのあるほら話もありました。それが、御者の鳴らなかった角笛です。
 なぜ角笛は鳴らなかったのか? それは、寒さで音が凍結したためだと言うのです。

 やがて寒さがゆるんだとき、角笛の中の音は溶けて、勝手に鳴り始めるのでした。
 そして言います。「もし疑う人がいたら、その方々の猜疑心を気の毒に思う」と。

 まじめな顔をして大法螺を吹くところは、「ガリバー旅行記」にそっくりです。
 実際「ガリバー旅行記」が引用されているので、影響を受けているのが分かります。

 さて、「ほら吹き男爵」は「ミュンヒハウゼン男爵」のことで、実在していました。
 物語にある通り、ロシア帝国に仕官して、トルコ戦争に従軍しているのだそうです。

 そして彼は自分の体験を、周りの者たちに生き生きと語って聞かせたのだそうです。
 しかし、まさか自分が「ほら吹き男爵」と呼ばれるなど想像できなかったでしょう。

 さいごに。(オーディブル、50%オフ)

 聴く読書オーディブルを、1か月だけ試して解約したのは、お高いと思ったから。
 ところが最近、3か月間50%オフでのお誘いが、メールで来ているのです。

 50%オフだと、1か月で750円です。私は、それなら断然安いと思います。
 さっそく再入会の手続きをしました。もちろん、3か月だけでやめる予定ですが。

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