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チャンドス卿の手紙 [19世紀ドイツ北欧文学]

 「チャンドス卿の手紙」 ホーフマンスタール作 丘沢静也訳 (古典新訳文庫)


 有名な劇作家チャンドス卿が、創作活動を停止するに至った苦悩を表現しています。
 作者の転換点となった作品で、自身の問題を、チャンドス卿に託して描いています。


チャンドス卿の手紙/アンドレアス (光文社古典新訳文庫)

チャンドス卿の手紙/アンドレアス (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/11/06
  • メディア: 文庫



チャンドス卿の手紙 他十篇 (岩波文庫)

チャンドス卿の手紙 他十篇 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1991/01/16
  • メディア: 文庫



 若くして詩で名声を博したチャンドス卿は、文学の営みをやめようと考えました。
 そこで、年上の友人フランシス・ベーコンに、その思いを伝える手紙を書きました。

 「これまでの私の文学の仕事と現在の私とのあいだには奈落があって、橋が架かって
 おりません。まったく同様に、これからの私に期待されているらしい文学の仕事と、
 現在の私とのあいだにも奈落があって、橋が架かっておりません。」(P11)・・・

 チャンドス卿には、言葉の限界を知った詩人特有の、精神的変容があったようです。
 そしてこれまでと違い、日常的な何気ない物に生命の輝きを見るようになりました。

 「目立たない形をしたものや、置かれたり立てかけられたりしていても無視される
 ものや、訴えかける特徴のないものこそが、謎めいていて、言葉にならず、節度を
 知らないあの恍惚の、源泉となりうるのです。」(P27)

 さらにチャンドス卿は、そういうものは言葉で充分に捉えられないと感じています。
 そういう言葉に対する不信(?)から、彼は筆を折ったようなのです。

 「解説」にはこう書かれています。「言葉には限界があるのだということを、沈黙
 を梃子にして訴えながら、心臓で考えようとしている」(P252)と。なるほど。

 またホーフマンスタール自身も、この作品の前後から韻文を書かなくなっています。
 だからこの作品は、文学史上とても重要だということになっていますが・・・

 しかし正直に言うと、ただ書けなくなった詩人の言い訳のように聞こえなくもない。
 芸術家は行き詰ったとき、何かと小難しいことを論じて打開しようとするものです。

 「チャンドス卿の手紙」よりもはるかに興味深い作品が、「騎兵物語」なのです。
 わずか15ページほどですが、「チャンドス卿」同様、多くの研究論文が出ています。

 1848年7月の日暮れ、偵察コマンド隊がミラノを通過したあとの進軍中のことです。
 曹長のアントン・レルヒは、街道から外れた村を「怪しい」と思って偵察し・・・ 

 死んだように静まり返ったその村で、曹長は異界に入り込んでしまったようです。
 こちらに向かってくる、同じ隊の曹長は、なんと・・・!

 ドッペルゲンガーに会うのは、死の前兆だと言いますが、曹長もまた・・・
 最後にもう一度読み返して、いろいろと考えたくなる、イミシンな作品でした。

 「バソンピエール元帥の体験」も短いながら、とても鮮烈な印象を残す物語です。
 これは、元帥当人の回想録やゲーテの談話をもとに書かれた物語なのだそうです。

 元帥は若いころ、小間物屋のとても美しい夫人と知り合い、一夜を共にしました。
 翌朝、逢瀬の約束をして、二人は別れました。しかし、元帥が会いに行くと・・・

 読んだあとも謎が残ります。女は、誓いが守れなくて急死したのでしょうか。
 しかし私には、一夜を共にした女は、死に瀕した女の生霊だったように思えます。

 あるいは、すべてが元帥の夢だったようにも受け取れます。
 よく分からないゆえに、なんとも言えない怖さがある作品です。

 「アンドレアス」は、世間知らずな青年貴族の旅における体験を描いています。
 教養小説ですが、未完に終わっていて、収録されているのは冒頭部分のみです。

 そのため、どうしても中途半端な感じがしてしまいます。
 その一方で、とても印象に残る場面もあります。たとえば12歳のときの犬殺し。

 「誰にでも尻尾をふる、卑しい奴め」 彼はそう罵って、近寄る子犬を・・・
 昔の死んだ犬と、今死んだ番犬と、そして自分の間に、何かつながりがあり・・・

 「彼は予感した。十分な高さからの視線が、切り離されたすべての人をひとつに
 するのだ。孤独は錯覚にすぎない。」(P182)

 さて、チャンドス卿同様、ホーフマンスタールも若くして詩で名声を得ました。
 そしてチャンドス卿同様、詩を放擲しました。その詩が岩波文庫から出ています。


ホフマンスタール詩集 (岩波文庫)

ホフマンスタール詩集 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/01/16
  • メディア: 文庫



 さいごに。(走高跳で3位入賞)

 先日、娘の陸上の大会がありました。コロナの影響で、無観客で行われました。
 娘は走高跳に出場しました。目標は1m35。しかし、1m40をクリアしたと言う。

 初めて3位に入賞しました。娘にしては、上出来でした。見たかった!
 しかも、競技会後に練習させてもらったら、1m45もクリアできたと言います。

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黒い蜘蛛 [19世紀ドイツ北欧文学]

 「黒い蜘蛛」 ゴットヘルフ作 山崎章甫訳 (岩波文庫)


 領主の圧政で虐げられた人々が、悪魔と契約したことで起こる悲劇を描いています。
 民話をもとにしたホラーっぽい小説です。ゴットヘルフはスイスの国民的作家です。


黒い蜘蛛 (岩波文庫)

黒い蜘蛛 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1995/05/16
  • メディア: 文庫



 領主の無謀な命令に、村人たちが嘆いているところへ、緑の服を着た男が現れました。
 緑の男は、村人たちを助けると言います。しかも、報酬はほんのわずかでいいと。

 「さっきも言ったように、私の望みは大したことではない。
 まだ洗礼を受けておらん子供が欲しいだけなんだよ」(P57)

 そんなことを言うものは、もちろん、悪魔しかいません。
 悪魔は契約の証拠に、村の女クリスティーネに口づけすると、頬に小さなシミが・・・

 「頬の燃えるような痛みはますます激しくなり、黒いふくらみはさらに大きくなった。
 明らかに脚と分かるものがそこからのび出し、短い毛が生えてきた。背の部分にきら
 きらする点と線が現れ、そのふくらみは頭になった。」(P91)

 実に怖いです。これは、明らかにホラー小説でしょう。
 終盤、黒い蜘蛛を封じ込めるために、ある女はいったい何をしたのか?

 さて、この物語は、P137の3行目で終わってしまっても良かったと思います。
 続く物語は蛇足です。やたらと説教臭い、と思ったら、作者は牧師なのだそうです。

 もし後日譚を作るなら、初孫の洗礼の日の続きを書くべきでしょう。
 老人の話を信じなかった若者たちが、面白半分に柱の栓を抜くと、そこには・・・

 最後に、500年以上にわたって封印を解かれることを待ち望んだ蜘蛛が出てきたら!
 その蜘蛛が、雷鳴のような高笑いをするところで結末となったなら!

 作品に対する私の評価は、惜しいところで傑作になりそこねた佳作、というもの。
 物語を通して神の教えを広めようという、いやらしい下心が失敗の原因ではないか。

 さいごに。(24時間テレビ以外で見たかったQちゃん)

 24時間テレビのチャリティマラソンに、私の好きな、高橋尚子が登場しました。
 久々に見たQちゃんの走りは、昔とほとんど変わらず、感動しました。さすがです。

 ただ、24時間テレビの、感動の押し売り・寄付の押し付け的雰囲気には違和感あり。
 この番組にも、どこかいやらしい下心があるような気が・・・

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オルレアンの少女 [19世紀ドイツ北欧文学]

 「オルレアンの少女(おとめ)」 シルレル作 佐藤通次訳 (岩波文庫)


 神による啓示を受けてフランスのために戦った、ジャンヌ・ダルクの悲劇です。
 1801年に上演され大成功を収めました。チャイコフスキー作オペラも有名です。

 岩波文庫「オルレアンの少女」は、初版が1938年で、改訳が1951年です。
 活字が旧字体で読みにくいのですが、文章自体は意外と分かりやすいです。


オルレアンの少女 (1951年) (岩波文庫)

オルレアンの少女 (1951年) (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/03/17
  • メディア: 文庫



 英仏100年戦争の終わり頃、フランスの地はイギリス軍に蹂躙されていました。
 オルレアンの町は包囲され、敵に攻め落とされるのを待つばかりの状況でした。

 そのとき片田舎で、農夫の末娘ジャンヌは、突然、神の声を聞いたのです。
 「さあ往け、お前は地上でわたしの為に證(あかし)せねばならぬ。」(P35)

 ただし、常に清くなければならない。つまり、男を好きになってはいけない。
 妻にも母にもなれないが、戦いの名誉で、どの女よりも尊い者にしよう、と。

 神の命に従い、ジャンヌはフランス王を戴冠させるため、行動を開始しました。
 威風堂々と現れたジャンヌは、敵軍に勝利し、フランス王にも信頼されました。

 一方、敗走するイギリス軍からは、悪魔の使者として恐れられて・・・
 敵将ライオネルと戦ったことが、皮肉にも彼女にとってアダとなり・・・

 「わたしは、天国の開かれるのを見、マリヤ様のお姿をこの目に拝みました!
 それなのに、今わたくしの望みは、この世にあって、天国にはございませぬ!」
 (P199)

 シャルル七世の戴冠が盛大に行われた時、ジャンヌの父が想定外の行動を・・・
 そして、ジャンヌの運命は急転換して・・・

 これは、ずっと読みたかった戯曲です。2020年2月にようやく復刊されました。
 古い本ですが、文章は分かりやすくて、いっきに読めました。面白かったです。

 ジャンヌのドラマティックな生涯に、ロマンティックな味付けをしています。
 少女としてのジャンヌダルクの悲劇性が際立ち、魅惑的な戯曲となっています。

 特に、結末をシラー流に美しく描いたところがいいです。史実とは違いますが。
 ジャンヌ・ダルクのイメージの多くは、この戯曲によって作られたそうです。

 シラーの作品は、ほかにも次のようなものがあります。参考にしてください。
 「群盗」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2016-11-21
 「ヴァレンシュタイン」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2013-06-18
 「ヴィルヘルム・テル」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2017-06-01

 さいごに。(ようやくマスクが)

 ときどきマスクが、店頭で見られるようになりました。生産が追いつき始めたのか?
 しかし手作りの布マスクは、洗って何度も使えるので、店頭のマスクはいりません。

 もしかしたら、みんなが布マスクを作り始めたので、市場に出てきたのでしょうか。
 今後マスクが余って、店が多くの在庫を抱えるのではと、余計な心配をしています。

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グリム童話もの [19世紀ドイツ北欧文学]

 「だれが、いばら姫を起こしたのか」 フェッチャー作 丘沢静也訳 (ちくま文庫)


 心理的・歴史的・民俗的背景を踏まえて、グリム童話の真相に迫ろうとした著書です。
 副題は、「グリム童話をひっかきまわす」です。グリム童話のパロディの古典です。


だれが、いばら姫を起こしたのか―グリム童話をひっかきまわす (ちくま文庫)

だれが、いばら姫を起こしたのか―グリム童話をひっかきまわす (ちくま文庫)

  • 作者: イーリング フェッチャー
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1991/09
  • メディア: 文庫



 「いばら姫」は15歳のとき、糸巻き棒で指をつきさし、100年間の眠りにつきます。
 では、「糸巻き棒」が象徴するものは? 「つきさす」ことが象徴することは?

 100年間の眠りは、姫がずっと処女でいてほしいという、両親の願望を表していた?
 姫が王子のキスで目覚めるのは、まさに姫が処女喪失恐怖症を克服したということ?

 「カエルの王」では、姫がカエルを壁にたたきつけたところ、王子に変わりました。
 「カエル」というのは何を象徴していた? 「カエル」と姫の関係は?

 姫は実は、カエルと最初に会ったときから、性的な魅力を感じていた?
 嫌悪すべきカエルが、好ましい王子に変わるのは、姫が性体験をしたということ?

 ほか「赤頭巾ちゃん」「白雪姫」「シンデレラ」など、全14編が収録されています。
 さまざまな観点から、童話の意味を深読みし、好き勝手な想像をしています。

 一話が短く、内容は刺激的で、知的好奇心がくすぐられるため、全く飽きません。
 ただし、内容は学術的なものではなく、あくまで趣味として楽しむ本だと思います。


 桐生操の「本当は恐ろしいグリム童話」(ワニ文庫)は、グリム童話の二次創作です。
 1998年に出てまもなくベストセラーとなり、グリム童話ブームを巻き起こしました。


本当は恐ろしいグリム童話 (WANIBUNKO)

本当は恐ろしいグリム童話 (WANIBUNKO)

  • 作者: 桐生 操
  • 出版社/メーカー: ベストセラーズ
  • 発売日: 2001/01/01
  • メディア: 文庫



 たとえば冒頭の「白雪姫」は、大きくデフォルメされ、ヘンな話になっています。
 白雪姫を殺そうとしたのは、継母ではなくて実の母? 王子は死体愛好家?・・・

 王妃は、王が娘の白雪姫と愛し合う場面を目撃しました。白雪姫はまだ7歳です。
 王妃は娘の殺害を計画し、白雪姫は森の小人に助けられ、彼らの夜の相手をします。

 王妃の毒リンゴで倒れた白雪姫の死体を、通りがかりの王子が城に持ち帰りました。
 王子はその死体をこっそり愛好して・・・(この辺で本を放り出してしまった)

 という具合で、「なんじゃこりゃ」という展開です。これは、やりすぎでしょう。
 しかし、グリム童話の魅力を広く知らしめたという点では、読書界に貢献しました。


 1998年、グリム童話ブームに乗って、私も色々な「グリム童話もの」を読みました。
 最も印象的だったのが、森義信の「メルヘンの深層」(講談社現代新書)でした。


メルヘンの深層―歴史が解く童話の謎 (講談社現代新書)

メルヘンの深層―歴史が解く童話の謎 (講談社現代新書)

  • 作者: 森 義信
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1995/02
  • メディア: 新書



 副題は「歴史が説く童話の謎」で、主に歴史的なアプローチがされています。
 「白雪姫」に魔女裁判を、「ヘンゼルとグレーテル」に子捨てを見るという具合。

 最も興味深かったのは、第10章の「青ひげ物語としたたかな女」です。
 残酷な「青ひげ」という一般的な見方とは、全く違った解釈がされていて面白い。


 鈴木晶の「グリム童話 メルヘンの深層」(講談社現代新書)も興味深いです。
 こちらは、主に哲学的・心理学的なアプローチがなされています。

 グリム童話などメルヘンについて、広く知りたいという場合はオススメです。
 グリム兄弟について、童話成立の背景、メルヘンの意味などにも触れています。


グリム童話―メルヘンの深層 (講談社現代新書)

グリム童話―メルヘンの深層 (講談社現代新書)

  • 作者: 鈴木 晶
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1991/01
  • メディア: 新書



 「誰も書かなかった灰かぶり姫の瞳」梁瀬光世(幻冬舎文庫)という本もあります。
 広く浅く手軽に楽しめる本ですが、その分他の本に比べて、物足りない気もします。


誰も書かなかった灰かぶり姫(シンデレラ)の瞳―25の童話の驚くべき真相 (幻冬舎文庫)

誰も書かなかった灰かぶり姫(シンデレラ)の瞳―25の童話の驚くべき真相 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 梁瀬 光世
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 1998/10
  • メディア: 文庫



 ところで、ここで紹介した本のほとんどが、すでに絶版という悲しい状況でした。
 いつの日か、グリム童話ブームが再び来て、復刊されることを願っています。

 さいごに。(からやまの極ダレ丼がうまい)

 ママさんの都合で、時々娘と二人で夕飯を外で食べることがあります。
 そのとき、最近よく行くのが、から揚げ専門店の「からやま」です。

 特に「極ダレ丼」が、めっぽううまい。ニンニクのきいたタレが良いです。
 しかも、約600円ほどと安いので、私と娘はすっかりはまってしまいました。

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春のめざめ [19世紀ドイツ北欧文学]

 「春のめざめ」 F.ヴェデキント作 酒寄進一訳 (岩波文庫)

 少年少女の性の目覚めと、大人たちによる抑圧を描いた、三幕の戯曲です。
 性的な内容が問題視され、当時は上演禁止となりました。

 今年2017年2月に岩波文庫から出ました。
 訳はとても分かりやすかったです。


春のめざめ (岩波文庫)

春のめざめ (岩波文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/04/15
  • メディア: 文庫



 ギムナジウムの優等生のメルヒオールと、劣等生モーリッツは仲の良い友達です。
 メルヒオールはモーリッツに、子供を作る方法を図解して、それが悲劇に・・・

 同じギムナジウムの少女ヴェントラは、子供を作る方法を母親に尋ねました。
 しかし母は教えてくれず、ヴェントラは性について無知で、それが悲劇に・・・

 性を必要以上に抑圧していた、当時のドイツ社会を反映した内容です。
 そのきわどい内容が問題視され、出版当初は上演禁止となりました。

 実際、この戯曲に盛り込まれた内容は、以下の通り。(巻末「解説」から引用)
 サディズム、マゾヒズム、自慰行為、レイプ、自殺、ホモセクシュアル、人工中絶。

 どうしても、そういう衝撃的な部分に注目が集まりがちです。
 しかし私は、メルヒオールとモーリッツの素朴な会話に魅力を感じました。

 「ぼくは生まれはした。だけど、どうやって生まれてきたのかわからない。なのに
 生きていることに責任をとれっていわれてもな。」(P21)

 「人にひどいことをするよりも、ひどいことをされる方がよっぽど甘美なことだ!
 この世の幸福って、甘美な不正をわけもなく耐え忍ぶってことじゃないかな。」
 (P53)

 最後の第3幕第七場で、急にファンタジーになるところは、理解しがたかったです。
 ここで出現するモーリッツは何か? 突然現れる仮面の紳士とは何者か?

 このラストの部分がよく分からないため、もやもやしたまま終わってしまいました。
 訳注と解説が、合わせて50ページ以上あるけど、読む気がしないなあ・・・

 ヴェデキントは「地霊」「パンドラの箱」「春のめざめ」の三作を読みました。
 どれも屈折していて難解です。どれか一つを選ぶのなら、「春のめざめ」でしょう。
 「地霊」「パンドラの箱」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2017-08-10

 さいごに。(龍潭寺も良かった)

 浜名湖の旅行では、摩訶耶寺も良かったけど、直虎ゆかりの龍潭寺も良かったです。
 特に江戸初期に小堀遠州によって作られたお庭は、いつまでも見ていたかったです。

 うちの妻が歴女なので、龍潭寺と井伊家の関係を、色々教えてくれました。
 しかし、ほとんど頭に残りませんでした。ただただこのお庭の美しさが残りました。

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地霊・パンドラの箱 [19世紀ドイツ北欧文学]

 「地霊・パンドラの箱 ルル二部作」 ヴェデキント作 岩淵達治訳 (岩波文庫)


 世紀末を生きる奔放な女ルルが、男たちを破滅させてゆくさまを描いた戯曲です。
 「地霊」と続編の「パンドラの箱」を合わせて、ルル二部作となっています。

 1984年に岩波文庫から出ていますが、品切れになっていることが多い本です。
 今年復刊されたので、手に入れるチャンス。正直に言って、読みにくかったです。


地霊・パンドラの箱――ルル二部作 (岩波文庫 赤 429-1)

地霊・パンドラの箱――ルル二部作 (岩波文庫 赤 429-1)

  • 作者: F.ヴェデキント
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1984/12/17
  • メディア: 文庫



 「地霊」は、衛星顧問官ゴル、画家シュバルツ、編集長シェーンを渡り歩きながら、
 彼らを次々と破滅させてゆき、最後は自分自身をも破滅させてしまう悲劇です。

 ルルの周りには、多くの男が集まっていますが、彼らとの関係がよくわかりません。
 場面が展開するに従って、人間関係が明かされ、ルルの出生の秘密も分かります。

 ところが私は、その目まぐるしい展開に、なかなかついていけませんでした。
 なんで?なんで? と思っているうちに、一人死に、二人死に・・・

 そういう意味で、読みにくい戯曲でした。
 しかし、次のような気の利いたやり取りが随所にあって、楽しかったです。

 ルル  :あの人はわたしを愛してるわ。
 シェーン:なるほどそいつは致命的だ。
 ルル  :わたしを愛している・・・
 シェーン:越えがたい溝だね。

 ルルを愛することは、男にとって致命的で、二人にとって越えがたい溝になる!
 ルルはまさに「地霊」です。我々に恵みをもたらすと同時に災厄ともなります。

 「地霊」が男どもを破滅させる物語だとしたら、「パンドラの箱」はルル自身が
 破滅してゆく物語です。ルルの脱獄から始まり、さらに多彩な人物が登場します。

 愛人の力士、レズの令嬢、詐欺師、極めつけは切り裂きジャック・・・
 「パンドラの箱」をぶちまけたような、ごちゃごちゃした話で読みにくかったです。

 さて、作者の代表作「春のめざめ」は、今年の4月に岩波文庫から出ました。
 性の目覚めを描いた戯曲です。2009年に出た訳か。読みやすさを期待したい。


春のめざめ (岩波文庫)

春のめざめ (岩波文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/04/15
  • メディア: 文庫



 さいごに。(川内、サニブラウン、よくやった)

 男子マラソンで最後に猛追したものの、入賞を3秒差で逃し9位に終わった川内。
 瀬古さんも「引退することはない」と、めずらしく暖かい言葉をかけていました。

 それから男子200mで、サニブラウンが決勝進出したことを忘れてはいけない。
 18歳ながら、世界の強豪と堂々と渡り合った姿は、本当にすばらしかった!

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ヴィルヘルム・テル [19世紀ドイツ北欧文学]

 「ヴィルヘルム・テル」 シラー作 桜井政隆・桜井国隆訳 (岩波文庫)


 スイスの英雄ヴィルヘルム・テルを中心に、代官に抵抗する人民を描いた戯曲です。
 シラーの最後の完成作です。オペラなど、多くの作品に影響を与えました。

 今年2017年2月に岩波文庫から復刊されました。今が購入のチャンスです。
 初版は1929年(昭和4年)ですが、1957年に改訳されていてストレスなく読めます。


ヴィルヘルム・テル (岩波文庫 赤 410-3)

ヴィルヘルム・テル (岩波文庫 赤 410-3)

  • 作者: シラー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1957/09/05
  • メディア: 文庫



 ウーリーのヴィルヘルム・テルは、誠実で義理堅く、弓の名手としても有名でした。
 当時ウーリー州では、オーストリーの代官ゲスラーによる悪政が行われていました。

 あるときテルは、代官の手下に突然呼び止められて、逮捕されてしまいました。
 というのも、代官の「帽子を拝まなかった」ためです。

 テルをかばう人々と手下の間で騒ぎとなり、そこへゲスラー本人がやってきました。
 そして有名な一場面。「この子の頭から林檎を射おとすのだぞ。」・・・

 私はこの後、無事に林檎を射落として、めでたしめでたしとなると思っていました。
 しかし、この後もう一波乱あるのですね。この後の展開が、むしろ面白かったです。

 ゲスラーに、矢を二本持っていたことを見とがめられて、テルが答えた言葉は?
 テルはいかにして危機を脱し、いかにして伝説的英雄となったのか?

 また、テルを取り巻く人々のエピソードも印象に残りました。
 たとえば、ルーデンツとベンダ嬢、ルーデンツと老男爵、メルヒタールと父など。

 その一方で、少し盛り込みすぎだとも思いました。おなかいっぱいです。
 皇帝暗殺の話はいらないのでは? 話の焦点がぼやけたように感じました。

 さて、この名作が絶版で、時々復刊されるのを待つだけという状況は、嘆かわしい。
 ぜひどこかの文庫で、新訳を出してほしいです。

 シラーの作品で最近復刊されていない傑作に、「オルレアンの少女」があります。
 これはぜひ岩波さんで復刊してほしい。(地道に復刊リクエストをするしかないか)


オルレアンの少女 (岩波文庫)

オルレアンの少女 (岩波文庫)

  • 作者: シルレル
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1992/10
  • メディア: 文庫



 さいごに。(出勤が早くなって)

 4月から出勤が少し早くなって、娘の登校する姿が見られるようになりました。
 車で娘たちチビッコ軍団を追い越していくのが、毎朝の楽しみになりました。

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ヘッダ・ガーブレル [19世紀ドイツ北欧文学]

 「ヘッダ・ガーブレル」 イプセン作 原千代海訳 (岩波文庫)


 美貌で自由奔放な女が、退屈な結婚生活の中でいかに行動するかを描いた戯曲です。
 イプセン晩年の作品で、後にヘッダは多くの女優の意欲をそそる役柄となりました。

 現在、岩波文庫から出ています。訳は比較的新しくて、分かりやすかったです。
 ただ、私はイェルゲンの文末に頻出する「え?」というのが、気になりました。


ヘッダ・ガーブレル (岩波文庫)

ヘッダ・ガーブレル (岩波文庫)

  • 作者: イプセン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1996/06/17
  • メディア: 文庫



 ヒロインのヘッダは美貌で自由奔放な女で、新婚旅行ですでに退屈していました。
 夫のイェルゲンは真面目な研究者で、ヘッダの言う事なら何でも聞いてしまいます。

 ある日彼らの屋敷に、昔なじみのエルヴステード夫人が訪ねてきました。
 その日のうちに、イェルゲンのライバルであるエイレルトもやって来て・・・

 エイレルトとエルヴステード夫人の関係は? エイレルトとヘッダの関係は?
 夫イェルゲンの知らない関係が、観客に少しずつ明かされていきます。

 エイレルトとエルヴステード夫人を出し抜くため、ヘッダが取った行動は?
 そして、最後にヘッダ決断したことは?

 ヘッダは悪女です。こういう女を妻に持ってしまうと、男はたいへんです。
 しかし凡庸な夫に比べて、ヘッダはとても魅惑的に描かれています。

 ヘッダ:あたくし、たびたび思ったわ、この世の中で、あたくしに向いているのは、
     たった一つのことっきりなの。
 ブラック:(相手に近づき)、何ですか、そりゃ、いったい?
 ヘッダ:(立って外を眺めながら)退屈すること、死ぬほどね。

 こういうセリフを吐く美貌の女がいたら、彼女の方こそ犠牲者だと思ってしまう!
 ヘッダという存在は、確かに女優魂をかきたてられる役柄でしょう。

 ヘッダ:(激しい嫌悪の表情で相手を見上げ)また違う! ああ、あたしが手を
     触れるものは、何もかも滑稽で、下卑たものになっちまうのね。

 このセリフを吐いた時、おそらくヘッダは最後の決断をしていたのでしょう。
 それにしても・・・初演当時、世間に受け入れられなかった理由がよく分かります。

 ところでヘッダは、ヘッダ・テスマン夫人です。
 ところがタイトルが、未婚時代の「ヘッダ・ガーブレル」になっている所がうまい!

 さいごに。(人間関係の構築におけるストレス)

 前の職場には11年いたので、私は座っていても、色んな人が何かを聞きにきました。
 4月から私はあちこち歩き回って、色んな人にあらゆることを聞きまくっています。

 ところが、相手がどういう人なのかまだよく分からないので、とても気を使います。
 相手のちょっとした反応が気になり、ストレスがたまります。ああ胃が痛い!

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古代への情熱 [19世紀ドイツ北欧文学]

 「古代への情熱 シュリーマン自伝」 シュリーマン著 関楠生訳 (新潮文庫)


 ホメロスの叙事詩に憧れ、トロイアやミケーネを発掘したシュリーマンの自伝です。
 著者の「イーリオス」に含まれていた自伝を、一般向けに補ったものです。

 新潮文庫と岩波文庫から出ています。どちらも訳は古めですが、問題ありません。
 私の手元にあるのは1988年版の新潮文庫。この名著がわずか280円でした。


古代への情熱―シュリーマン自伝 (新潮文庫)

古代への情熱―シュリーマン自伝 (新潮文庫)

  • 作者: シュリーマン
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1977/09/01
  • メディア: 文庫



古代への情熱―シュリーマン自伝 (岩波文庫)

古代への情熱―シュリーマン自伝 (岩波文庫)

  • 作者: ハインリヒ シュリーマン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1976/02/16
  • メディア: 文庫



 「トロイア戦争」といったら、この人でしょう。
 18か国語を次々とマスターして、商売人として大成功した男。

 子供の頃の壮大な夢を、大人になってから見事に実現した男。
 トロイアでプリアモスの財宝を、ミケーネでアガメムノンの財宝を発見した男。

 伝説的な考古学者シュリーマンの、自伝と遺跡発掘の記録です。
 有名なアガメムノンのマスクなど、財宝を発見する場面にはぞくぞくします。

 しかし、それ以上に面白いのが、幼少期から商売で成功するまでの自伝です。
 本人が書いた部分なので、信ぴょう性に欠ける面はあるものの、とても面白い。

 時に、神のささやき声を聞き、時に、天啓を受ける。
 そして、時代の波に乗ってからは、次から次に大きな成功を収めていく・・・

 古代ギリシアの英雄たちに、神が付いていたように、シュリーマンにも神が
 付いていたのではないのか。もしそうなら、やはり詩の女神ムーサだろうか。

 「彼にとってはホメ―ロスの言葉は福音書であり、彼は堅くそれを信仰して
 いた」(P50)幼少の頃に読んだホメロスが、常に彼を導いていたようです。

 さて、よく学校で聞かされる有名な逸話に、彼独特の語学習得法があります。
 翻訳せず、文法にはかまわず、ひたすら音読し、暗唱していく・・・

 私も中学校の時に、そのような話を聞きましたが、実感が湧きませんでした。
 わずか6週間で言語をマスターしてしまう人を、引き合いに出されてもねえ。

 中にはこの自伝を「嘘ばっか」と言う人もいるし、実際嘘も混じっているらしい。
 本当は、商売が成功した後、遺跡発掘を思いついたというけど、信じたくない。

 幼少期に読んだホメロスが、何十年ものちに、彼をホメロスの世界に導いた。
 そう信じたいです。これこそ、正真正銘の、男のロマンなのだから。

 さいごに。(避難所生活)

 熊本の妹の住居は築40年。本震によって傾いて、退去命令が出たとのことです。
 4月初旬に引っ越しが終わったばかりなのに、避難所生活が始まりました。

 大丈夫だから安心してほしいと言いますが・・・
 毎日当たり前のように過ごしている我々の生活が、とてもありがたく思えます。

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ジョゼフ・フーシェ [19世紀ドイツ北欧文学]

 「ジョゼフ・フーシェ」 ツヴァイク作 高橋禎二・秋山英夫訳 (岩波文庫)


 仏革命から続く混乱期に、秘密警察を使ってのし上がったフーシェの伝記です。
 バルザックの小説「暗黒事件」から、大きな影響を受けたと言われています。

 岩波文庫から出ています。1951年に出た旧訳を、秋山氏が修正したものです。
 文章は分かりやすくて、ツヴァイク特有の味わいがありました。


ジョゼフ・フーシェ―ある政治的人間の肖像 (岩波文庫 赤 437-4)

ジョゼフ・フーシェ―ある政治的人間の肖像 (岩波文庫 赤 437-4)

  • 作者: シュテファン・ツワイク
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1979/03/16
  • メディア: 文庫



 かつてロベスピエールと親交を結びながら、後には彼を破滅に追いやった男。
 かつてバラーによって恩を施されながら、後には彼をパリから追放した男。

 皇帝ナポレオンのもとで重用されながら、その皇帝を失脚に導いた男。
 王に 、共和政府に、総裁政府に、統領政府に、皇帝に、再び王に仕えた男。

 この作品の副題は「ある政治的人間の肖像」です。
 フーシェは混乱期を謀略によって切り抜けた、まさに「政治的人間」でした。

 ライバルが争っている間は態度は保留して、こっそり情勢を窺っています。
 決着がほとんどついたところで、突然登場して勝ち馬に乗ってしまいます。

 日和見主義? いえいえ、もっとひどい。これは、あと出しジャンケンです。
 この戦術で、負けるはずはありません。

 情勢を見極めるために、フーシェが存分に活用したのが秘密警察です。
 フーシェといえば、秘密警察。秘密警察といえば、フーシェ。

 フーシェは秘密警察を使い、自分のための巨大で緻密な情報網を組織します。
 そしてフーシェは秘密警察を使い、皇帝に挑戦さえしてしまう!

 特に面白かったのは、 警務大臣フーシェと皇帝ナポレオンの闘争でした。
 この二人の関係は、実に興味深いです。

 「心の中では嫌いで嫌いでたまらないのに、ただただ反対の両極の牽引性に
 よって結ばれて、二人は互いに相手を利用していたのである。」(P215)

 「十年にわたるはげしい敵意が、人と人とを結びつけるありさまは、
 生半可な友情以上にふしぎなものがある。」(P325)

 ところで、フーシェの行動で、どうもよく分からないことがあります。
 ようやく総裁の地位につきながら、なぜあっさりと王政に譲ったのか?

 それは、ナポレオンが没落して、フーシェの勝運も尽きたからではないか。
 ナポレオンの運気とフーシェの運気は、補い合っていたのではないか。

 さて、作者ツヴァイクの文章は、とても味わい深かったです。
 かみしめながら少しずつ読んだため、なかなか進みませんでした。

 ツヴァイクにはもうひとつ、フランス革命期の伝記があります。
 「マリー・アントワネット」です。読むのが楽しみです。


マリー・アントワネット 上 (角川文庫)

マリー・アントワネット 上 (角川文庫)

  • 作者: シュテファン ツヴァイク
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2007/01
  • メディア: 文庫



 私がフーシェに興味を持ったのは、この本からです。オススメです。
 「ナポレオン フーシェ タレーラン」鹿島茂(講談社学術文庫)
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2012-08-24

 ナポレオン、フーシェ、タレーラン。彼らがこれほど人を魅了するのはなぜか。
 それは、その偉業もさることながら、彼らが大ばくちを打ったからではないか。
 
 フランス、ヨーロッパ、世界を相手に、彼らは途方もなくでっかい大ばくちを
 打ったが、そのことが我々(特に男たち)の心を燃えさせるのではないか・・・

 さいごに。(シュート2本)

 サッカー大会の第2戦も、わずか15分の出場でした。
 今回は2本のシュートを放ちました。しかし、ボテボテのシュートでした。

 もう1人のFWに「先輩のパスに合わせられなくてすみません」と言われた。
 パスじゃない。あれはシュートだっちゅーに・・・試合は完敗。

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