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仏像のみかた・仏像~そのプロフィル~(保育社カラ―ブックス) [哲学・歴史・芸術]

 「仏像のみかた」 入江泰吉・關信子 共著 (保育社カラ―ブックス)
 「仏像~そのプロフィル~」 入江泰吉・青山茂 共著 (保育社カラ―ブックス)


 「仏像のみかた」は、多くの図版を通して、仏像の時代ごとの特徴を解説しています。
 「仏像~そのプロフィル~」は、如来・菩薩・王・天など種類ごとに解説しています。

 
仏像のみかた (カラーブックス 455)

仏像のみかた (カラーブックス 455)

  • 出版社/メーカー: 保育社
  • 発売日: 1979/01/01
  • メディア: 文庫



仏像 そのプロフィル (カラーブックス 111)

仏像 そのプロフィル (カラーブックス 111)

  • 出版社/メーカー: 保育社
  • 発売日: 2024/02/13
  • メディア: 文庫



 大学3年で仏像の魅力にはまり始めたころ、私にとってこの2冊はバイブルでした。
 保育社カラ―ブックスという手のひらサイズの本で、私は仏像の基本を学びました。

 この本は、2冊でワンセットです。内容の説明は、こう言えば充分でしょう。
 「仏像のみかた」ではその歴史を、「そのプロフィル」ではその種類を学べる、と。

 さらに素晴らしいのは、入江泰吉の美しい仏像写真が、多く挿入されている点です。
 小さいけれど贅沢な本です。昭和60年代、この本がたった500円ほどで買えたとは!

 「一部の人の手にしか入らない豪華本ではなく、手軽に買えて、しかも内容は豪華本
 に負けず美しく、楽しみながら仏像の基礎がわかるような本を作ってみたいというぜ
 いたくな望みを持った。」(「仏像~そのプロフィル~」の「はしがき」より)

 以上の言葉から、明確な目的とプライドを持って本が作られたことが分かります。
 ああ、古き良き時代よ。本というものが尊ばれ、信頼されていた懐かしき時代よ・・・

 結婚後は奈良に行く機会はなく、一緒に仏像巡りをしてくれる人もいませんでした。
 そのため、この本たちも手に取ることがなく、押し入れの奥で忘れられていました。

 日帰りの奈良旅行を計画した昨年末、私はこの本を発掘し、再会を果たしました。
 仏像の基本をおさらいするのにちょうど良かったです。残っていて良かったです。

 保育社カラーブックスの良いところは、小さくて手軽に持ち運べるところです。
 その割に内容が濃くて、奈良通いで持ち歩くうちにボロボロになってしまいました。

 特に「仏像のみかた」は、私の記憶が正しければ、2度買い直しています。
 1冊目はすでに失く、2冊目の平成4年版と3冊目の平成11年版が手元にあります。

 そして、カラーブックスの唯一の欠点は、ページが離れやすいところでしょうか。
 何度も見たページはいつのまにか切り離されるので、どこかに落としてしまいます。

 平成4年版の「仏像のみかた」は、7~10ページがテープでとめてありました。
 法隆寺百済観音と、中宮寺半跏思惟像のページです。このページを何度見たことか!

 さて、保育社カラーブックスは、1962年に文庫サイズの小百科として始まりました。
 最初は1冊200円だったとか。そして1999年までに909点が刊行されたと言います。

 入江泰吉では、ほかに「法隆寺」など「奈良の寺」シリーズ(全7巻)があります。
 今ではもちろんすべて絶版ですが、もしどこかで安く売っていたら買いたいです。


法隆寺 (カラーブックス 180)

法隆寺 (カラーブックス 180)

  • 出版社/メーカー: 保育社
  • 発売日: 2024/02/13
  • メディア: 文庫



 保育社カラーブックスを読んだら、次にもう少し詳細な解説本に進みたいです。
 色々出ていますが、「日本仏像史講義」や「日本の仏像」などの新書が良いのでは?


新書775日本仏像史講義 (平凡社新書 775)

新書775日本仏像史講義 (平凡社新書 775)

  • 作者: 山本 勉
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2015/05/15
  • メディア: 新書



日本の仏像―飛鳥・白鳳・天平の祈りと美 (中公新書 1988)

日本の仏像―飛鳥・白鳳・天平の祈りと美 (中公新書 1988)

  • 作者: 長岡 龍作
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2009/03/01
  • メディア: 新書



 さいごに。(大仏も良かったが)

 東大寺の大仏は本当に大きくて迫力がありました。奈良時代によく作ったものです。
 それにしてもうちの娘は、奈良まで来て大仏様を見なかったとは!

 しかし、同じぐらい印象に残ったのは、東大寺ミュージアムで見た誕生仏でした。
 これが、実にかわいらしかったのです。うちにもひとつほしかった!

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美の旅人 フランス偏2 [哲学・歴史・芸術]

 「美の旅人 フランス偏Ⅱ~Ⅲ」 伊集院静 (小学館文庫)


 作家の伊集院静が「一枚の素晴らしき絵画」を求めて、フランスを巡ります。
 今回は、全3巻のうち第2巻の後半から第3巻まで(印象派以降)を紹介します。


美の旅人 フランス編 (2) (小学館文庫)

美の旅人 フランス編 (2) (小学館文庫)

  • 作者: 静, 伊集院
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2010/11/05
  • メディア: 文庫



美の旅人 フランス編 (3) (小学館文庫)

美の旅人 フランス編 (3) (小学館文庫)

  • 作者: 静, 伊集院
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2010/12/07
  • メディア: 文庫



 1874年、サロン展に対抗して第1回印象派展が開かれた時、近代絵画が始まりました。
 印象派展では、モネの「印象・日の出」など、伝統を無視した絵画が展示されました。

 印象派の若い画家たちは、見たまま感じたままに、自由に絵を描こうとしました。
 これによって、絵画の自由解放が起こり、絵画は大衆のものとなっていったのです。

 印象派の巨匠といったら、クロード・モネ、オーギュスト・ルノワールの2人です。
 後期印象派には、フィンセント・ファン・ゴッホ、ポール・セザンヌらがいます。

 さらに、エドゥアール・マネ、エドガー・ドガ、トゥールーズ・ロートレック、
 パブロ・ピカソ、アンリ・マティス、マルク・シャガール等、多くの巨匠が・・・

 圧巻は、ゴッホの「星月夜」です。1889年にサン・レミの精神病院で描かれました。
 死の前年です。翌年、ゴッホは発作に襲われ、自身を銃で撃って死んでいきました。

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 ゴッホの発作の原因は、てんかんか統合失調症だという説が、有力なのだそうです。
 「星月夜」に見られるゴッホの感性も、てんかんの症状によるものなのではないか?

 「ゴッホの眼には大好きな糸杉は天に昇ろうとし、星と風は天空を自由に駆け回って
 いるように映っていたのではなかろうか。」(P20)というのが、伊集院の感想です。

 しかし私は、もっと不安をかきたてる何か恐ろしいものを、この絵から感じます。
 星や月が空間を破って突如出現し、奈落の底に吸い込もうとしているような・・・

 そういう不安を、ゴッホは「星月夜」に描き込んだのではないでしょうか。
 それにしても、普通の人の感性ではないですよ。天才なのか、病人なのか?

 ところで、ゴッホと深く関わったゴーギャンは、少ししか触れられていません。
 その点がとても不満でした。私にとってゴーギャンは、とても興味深い画家なので。

 さて、ほかにも、ピカソやシャガールなど、興味深い箇所もありました。
 しかし、もっとも印象に残っているのは、フレデリック・バジールです。

 バジールは、医学部に入学しながら、自分の興味に従って絵画を学び始めました。
 まだ貧しかったモネやルノワールを、時にアトリエに住まわせるなど援助しました。

 そして、1870年に普仏戦争が勃発すると、自ら志願して戦争に行ってしまうのです。
 すでに、モネや他の画家たちは、いちはやくロンドンに逃れていったにも関わらず。

 そこに彼の人間性が表れています。困っている人を放っとけない性格だったのでは?
 結局、まったく無意味な戦闘によって、30歳で亡くなってしまいました。

 「私は自分が殺されることはないと確信しています。なぜなら私には人生の中で他
 にしなければならないことがたくさんありますから」(P37)

 バジールは戦いの前にそう言ったといいます。あまりにも惜しい死でした。
 彼の作品「村からの眺め」を見ると、本当は平和を愛した人なのだと分かります。 

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 この本を読み終わって、改めて近代絵画を、体系的に学び直したいと思いました。
 幸い家に、高階秀爾の「近代絵画史(上)(下)」(中公新書)がありました。

 なんと大学時代に大学の生協で購入した本です。35年ほど積ん読状態だったのです。
 値段は「544円+税」で560円。消費税3%の時代でした。懐かしい。

 ところが、最近(数年前)カラー版が出たと言うではありませんか。
 それなら、ぜひカラー版で読みたいです。買い直さなければ!


カラー版 - 近代絵画史(上) 増補版 - ロマン主義、印象派、ゴッホ (中公新書)

カラー版 - 近代絵画史(上) 増補版 - ロマン主義、印象派、ゴッホ (中公新書)

  • 作者: 高階 秀爾
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2017/09/20
  • メディア: 新書



カラー版 - 近代絵画史(下)増補版 - 世紀末絵画、ピカソ、シュルレアリスム (中公新書)

カラー版 - 近代絵画史(下)増補版 - 世紀末絵画、ピカソ、シュルレアリスム (中公新書)

  • 作者: 高階 秀爾
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2017/09/20
  • メディア: 新書



 高階秀爾の「名画を見る眼」(岩波新書)は、大学時代に絵画の見方を学んだ本です。
 この本は、今年2023年にカラー版が出ていました。こちらも、買い直さなければ!


カラー版 名画を見る眼Ⅰ 油彩画誕生からマネまで (岩波新書 新赤版 1976)

カラー版 名画を見る眼Ⅰ 油彩画誕生からマネまで (岩波新書 新赤版 1976)

  • 作者: 高階 秀爾
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2023/05/20
  • メディア: 新書



名画を見る眼Ⅱ 印象派からピカソまで (岩波新書 新赤版 1977)

名画を見る眼Ⅱ 印象派からピカソまで (岩波新書 新赤版 1977)

  • 作者: 高階 秀爾
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2023/06/21
  • メディア: 新書



 さいごに。(増税反対だが、しかし)

 私は自民党支持です。かつて民主党に投票して騙され、さんざん後悔したので。
 しかし、増税路線が決定的になった今、久々に野党にがんばってほしいと思う。

 とはいえ、増税しないと言って政権を取り、結局増税するというのは最悪です。
 信用できる野党がいるのか? やむなく自民党を支持し続けるしかないのか?

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美の旅人 フランス編1 [哲学・歴史・芸術]

 「美の旅人 フランス編Ⅰ~Ⅱ」 伊集院静 (小学館文庫)


 作家の伊集院静が「一枚の素晴らしき絵画」を求めて、芸術の都パリを巡ります。
 98~2001年に週刊ポストに連載された記事です。スペイン編に続く第二弾です。


美の旅人 フランス編 (1) (小学館文庫)

美の旅人 フランス編 (1) (小学館文庫)

  • 作者: 静, 伊集院
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2010/10/06
  • メディア: 文庫



美の旅人 フランス編 (2) (小学館文庫)

美の旅人 フランス編 (2) (小学館文庫)

  • 作者: 静, 伊集院
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2010/11/05
  • メディア: 文庫



 16世紀にフランソワ1世がフランスを統一し、イタリアとの戦争にも勝利しました。
 王はダ・ヴィンチなどの画家をフランスに呼び寄せ、フランス美術が発展しました。

 17世紀には、ニコラ・プッサン、クロード・ロラン、ラ・トゥールらが出ました。
 18世紀には、ジャン・オノレ・フラゴナール、シメオン・シャルダンらが出ました。 

 そして、19世紀のナポレオンの時代、再びイタリア・ルネサンスが見直されました。
 ジャック=ルイ・ダヴィッドやドミニク・アングルら、新古典主義が流行しました。

 その潮流に対抗した反体制の画家が、ロマン主義のウジェーヌ・ドラクロワらです。
 この時代の最後には、カミーユ・コローが出て、のちの印象派へ橋渡しをして・・・ 

 というように、フランス絵画の流れをきちんとたどりながら解説してくれています。
 16世紀から現代までの絵画の歴史を、代表作の図版を見ながら学ぶことができます。

 私はプルーストを読んでいて、フランス絵画の知識が必要だと思い手に取りました。
 特にプルーストでは、シャルダンの図版が多く出てきたので、参考になりました。

 伊集院の語り口調は優しく、様々な知識を分かりやすく教えてくれる点が良いです。
 また、分かりやすい絵画が良い絵画である、という考え方にも私は共感できました。

 さて、私にとって最も興味深かった絵画は、「浴槽の2人の貴婦人」です。
 1594年ころの作品で、作者は「フォンテーヌブロー派」としか分かっていません。

 浴槽に裸の貴婦人がふたりいて、ひとりがもうひとりの乳首をつまんでいる絵です。
 「なんじゃ?」と言いたくなる絵ですが、ちゃんと意味があるのだそうです。

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 乳首をつままれている方は王の愛人で、彼女は王の子を・・・
 そして、二人の背後にいる侍女が刺繍しているのは・・・

 この本を読んで良かったのは、クロード・ロランというお気に入りができたことです。
 早朝や夕暮れの港を描いた絵が、いずれも素晴らしい。特に、海と空の色が良いです。

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 しかし、やはり、絵画は文庫本ではなくて、もっと大きな本で見たいです。
 できれば本物をじっくり時間をかけて鑑賞したいものです。

 地元の美術館にも、森の風景なのですが、クロード・ロランの作品がありました。
 常設展示されているようでしたら、休日を利用して見に出かけたいです。

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 ここまで、「美の旅人 フランス編」全3巻中、第2巻の半ばまでを紹介しました。
 第2巻の後半から、印象派の絵画になります。次回からも楽しみです。

 さいごに。(ココナッツサンド・アイス)

 アイスを食べる機会が増えました。マイ・ブームは、ココナッツサンド・アイス。
 ココナッツサブレに、バニラアイスがサンドされています。シンプルだけどうまい。

 うちは、近所のスーパーなどで買ってきます。ぜひ見かけたら、食べてみてほしい。
 アマゾンだと割高な上、配送料がかかるので、ぜひ近所のスーパーで探して下さい。





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木に学べー法隆寺・薬師寺の美ー [哲学・歴史・芸術]

 「木に学べー法隆寺・薬師寺の美ー」 西岡常一 (小学館文庫)


 法隆寺と薬師寺の宮大工棟梁の著者が、木を組むことの奥義を語り尽くした本です。
 西岡は、妥協を許さぬ厳しさから「法隆寺の鬼」と言われた法隆寺最後の宮大工です。


木に学べ 法隆寺・薬師寺の美(小学館文庫)

木に学べ 法隆寺・薬師寺の美(小学館文庫)

  • 作者: 西岡 常一
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2003/11/07
  • メディア: 文庫



 「私どもの、仕事に対する考え方やおもい入れは、神代以来の体験の上に体験を重ね
 た伝統というものをしっかり踏まえて、仕事に打ち込んでますのやがな。」(P272)

 そう語る西岡棟梁の言葉には、信念とプライドがあります。
 木を知り尽くした西岡棟梁の、その語り口にしびれます。

 「このことにお釈迦様は気がついておられた。『樹恩』ということを説いておられる
 んですよ、ずっと昔に。それは木がなければ人間は滅びてしまうと。人間賢いとおも
 っているけど一番アホやで。動物は食う量にしても、木や自然とうまくつりあっとる。
 それが人間はすぐ利益をあげようとする。」(P21)

 「自然に育った木ゆうのは強いでっせ。なぜかとゆうたらですな、木から実が落ちま
 すな。それが、すぐ芽出しませんのや。出さないんでなくて、出せないんですな。ヒ
 ノキ林みたいなところは、地面までほとんど日が届かんですわな。/こうして、何百
 年も種はがまんしておりますのや。それが時期がきて、林が切り開かれるか、周囲の
 木が倒れるかしてスキ間ができるといっせいに芽出すんですよな。今年の種も去年の
 種も百年前のものも、いっせいにですわ。」(P22)

 なるほど! 我々は木に学ばなければいけません。
 西岡棟梁の語る「木」には、崇高さがあります。

 さて、西岡棟梁に案内され、法隆寺と薬師寺を巡るのは、ぜいたくな時間でした。
 写真が多いので、本書ではとてもリアルな疑似体験ができました。

 面白かったのは、薬師寺金堂の屋根の上の鴟尾についての説明です。
 私はあれを、大きな「魚の尾」で、火事から建物を守るものだと学んできました。

 西岡棟梁は、あれを「鳥の尾」だと言います。
 屋根の反り返りが「鳥の翼」を表し、鴟尾が「鳥の尾」を表すのだと言います。

 つまり、金堂の屋根全体が「二羽の鳥が抱き合ってキスをしている形」だそうです。
 そして、王者は天に近づくという天帝思想を表したものなのだそうです。

 東塔は三重目の軒が短いとか、先が南に倒れているとかという指摘もありました。
 また、次のような言葉にも出会い、改めて薬師寺を訪れたくなりました。

 「東塔が歪んだまま立っているのに、西塔が倒れたということになったら作ったわ
 たしは生きてはいられないですな。腹切って死ななければなりませんな。」(P166)

 「わたしの薬師寺に対する考えは、東塔の上にある水煙にあります。/天人が舞い
 降りてくる姿を描いてありますが、天の浄土をこの地上に移そうという考えですな。」
 (P248)

 ほか、この本は名文の宝庫でもあります。棟梁の心意気に、心を打たれます。
 木や建築のことばかりではありません。人生についても考えさせられます。

 「初め器用な人はどんどん前に進んでいくんですが、本当のものをつかまないうち
 に進んでしまうこともあるわけです。だけれども、不器用な人は、とことんやらな
 いと得心ができない。こんな人が大器晩成ですな。頭が切れたり、器用な人より、
 ちょっと鈍感で誠実な人のほうがよろしいですな。」(P186)

 なるほど。西岡哲学とでも呼べるようなものが、ここにはあります。
 建築家だけでなく、すべての人に手に取ってほしい一冊です。

 さいごに。(寄付したかった!)

 法隆寺のクラウドファンディングが、想像以上の反響を呼んだことを知りました。
 2000万円の目標額に対して、1億5000万円を上回る額が集まったのだそうです。

 法隆寺のためならお金を出したい、という人は多かったでしょう。
 私も参加したかった! 知ったのが少し遅すぎました。

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どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか? ほか [哲学・歴史・芸術]

 「どうで死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか?」中島義道(角川文庫)
 「カイン 自分の『弱さ』に悩むきみへ」中島義道(新潮文庫)


 自分の死と宇宙の終焉という絶対的不幸を前に、いかに生きるべきかを教えた本です。
 2004年刊の「どうせ死んでしまう・・・・私は哲学病」を、改題・文庫化したものです。


どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか? (角川文庫)

どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか? (角川文庫)

  • 作者: 中島 義道
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/11/22
  • メディア: 文庫



 「私が死んだ後、まもなく地球は膨張する太陽に吞み込まれ、やがて太陽系も無くな
 る。そして、巨大な宇宙はその数十億年後に熱死状態になる。私は10歳に満たないこ
 ろから、この残酷無比な未来像に縛りつけられたように囚われており、(中略)『ど
 うせ死んでしまう、どうせみんな無くなってしまうのだから、人生は何をしても虚し
 い』と思っていた。」(P34)

 自分の死と宇宙の終焉。
 この絶対的不幸のもと、中島少年はいつも「哲学的問い」を持ち続けていました。

 「なぜ、私はこの世に自分の意志ではなく生まれさせられ、苦しみあえいで生きねば
 ならず、そしてじきに死んでしまわねばならないのか、しかもほとんど何もわからな
 いままに。」(P18)

 彼は、この問いこそが、生涯をかけて真剣に問うべき問いであると確信しました。
 そして、そのような「真理を求めるもの」が自殺してはいけないのは明らかです。

 「真理を求めることを第一の生きる目標に定めた者は、それを実現する可能性をみず
 から放棄してはならない。」(P28)

 真理を求める哲学者は、決してそれを途中で投げ出してはならないのです。
 たとえ「どうせ死んでしまう」と分かっていても「いま死んではいけない」のです。

 では、この絶対的不幸のもとで、我々はいかに生きていけばいいのか。
 それは2章「幸福を求めない」と3章「半隠遁をめざそう」で語られます。

 「幸福を求めない」では、死ぬ前にぐれてみよう、という提案が面白かったです。
 「上手にぐれるための10冊」は、すべて読みたくなりました。

 「半隠遁をめざそう」では、必殺の中島節が聴かれます。
 「人生を〈半分〉降りる」でおなじみの、中島独特の人生論が語られます。

 さて、新潮文庫からは「カイン 自分の『弱さ』に悩むきみへ」が出ています。
 絶対的不幸のもとでの生きるヒントを、T君との悩み相談形式で書いています。


カイン―自分の「弱さ」に悩むきみへ (新潮文庫)

カイン―自分の「弱さ」に悩むきみへ (新潮文庫)

  • 作者: 義道, 中島
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/07/28
  • メディア: 文庫



 「カイン」は、中島義道の本では、割と人々に受け入れられているようです。
 それは、T君に宛てた中島の手紙に、優しさと誠実さが滲みでているからです。

 「親を捨てる」「なるべくひとの期待にそむく」「怒る技術を体得する」
 「ひとに『迷惑をかける』訓練をする」「自己中心主義を磨き上げる」・・・

 と書いていくと、例によって中島がへそ曲がりなこと言ってるように感じます。
 しかし、読んでみると・・・中島義道の新たな魅力を発見します。

 さいごに。(教科書3万円)

 娘の進学先は進学校で、教科書&参考書が多くて驚きました。代金総額3万円。
 特に数学と英語が多いですね。娘はこの学校で、勉強についていけるのか?

 さっそく春休みの課題に取り組み始めましたが・・・
 中学校と高校のレベルの差に驚いています。

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孤独について [哲学・歴史・芸術]

 「孤独について」 中島義道 (文春新書・文春文庫)


 孤独だった自分の過去を披露したうえで、孤独を選び楽しむことを勧めた本です。
 1998年に出た文春新書版は絶版ですが、現在は文春文庫に入っています。

 (私が読んだのは文春新書版です。以下の引用のページも、新書のページです。)


生きるのが困難な人々へ 孤独について (文春文庫)

生きるのが困難な人々へ 孤独について (文春文庫)

  • 作者: 中島 義道
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2008/11/07
  • メディア: 文庫



 「ごまかすのはやめなさい! あなたはまもなく死んでしまうのだ。あなたをまもな
 く襲う『死』をおいてほかにもっと大切な問題があるだろうか?(中略)もうすぐ死
 んでしまうあなたが、必死に日常的な問題にかかずらっていること、それはたぶん最
 も虚しい生き方である。」(p12)

 と、本書でも序盤から中島節がさく裂しています。
 日常的な問題に関わるのは虚しい生き方だと断定。では、どうしたらいいのか?

 中島は、時間を与えることをやめて自分のためだけに使え、と言います。
 この考えは「人生を〈半分〉降りる」という考えに通じます。孤独のススメです。

 自分をもっと大事にしようという中島の考え方には、私も救われたことがあります。
 しかし同時に、自分のことしか考えないような姿勢は、病んでいるように思えます

 病んで屈折し、毒を抱え込んでいます。(そこが、たまらなく魅力的なのですが)
 どうして彼は、そのような考えを持つに至ったのか。本書ではそこが分かります。

 「死ぬのが嫌だ! 死ぬのが嫌だ!」と言って、小学校を休んだ日々。
 「ぼくは死んでしまう。そして生き返らない。」と呪文のように唱え続けた日々。

 そして、学校からの帰り道、世界が折れ曲がって、おかしな空間が見え始めて・・・
 異次元の世界の入り口がぽっかり穴を開け、「私」はそこに入っていき・・・

 この本の面白いのは、中島の変人ぶりがよく分かる数々のエピソードです。
 特に、少年時代からの死に対する恐怖を大事にしている点に、深く共感しました。

 「子供のころから、『死』を免れることができないのならごまかして死にたくないと
 私は思っていた。私が抱いている実感を大切にして死にたいと願った。つまり、から
 っぽの宇宙のただ中で、数百億年の宇宙の歴史のうちで、今与えられた生命の火を消
 すこと、そしてその後何億年しても何兆年しても・・・永遠にふたたび生きることは
 ないという背筋の寒くなるような実感を大切にして死ぬことを願った。」(P193)

 普通の人はそれほど強くないので、不死を願ったり思考停止したりします。
 ちなみに、私は生まれ変わりを信じることで、死への恐怖を緩和させています。(笑)

 ところで、本書は文春新書版を持っているのに、文春文庫版も買ってしまいました。
 「人生を〈半分〉降りる」も、新潮OH!文庫版とちくま文庫版の両方を買いました。

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 さいごに。(ロシア、ウクライナ侵攻)

 北京五輪が終わったらロシアがウクライナに侵攻するかも、とは聞いていました。
 バイデン大統領も、ウクライナがやばい、と言い続けていました。

 「まさかね」と思っていましたが、驚くことにロシアは実際に侵攻を始めたのです!
 第三次世界大戦という言葉も聞こえ始めました。「まさかね」と思っていますが・・・

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人生を〈半分〉降りる [哲学・歴史・芸術]

 「人生を〈半分〉降りる」 中島義道 (新潮OH!文庫)


 人生を半分降りて、自分にとって大切な問題について考えることを勧めた本です。
 副題は「哲学的生き方のすすめ」です。中島義道はカントや時間論の専門家です。

 2000年に新潮OH!文庫から出ました。現在は新潮OH!文庫自体がありません。
 しかし現在は、ちくま文庫からちゃんと出ています。さすが名著です。


人生を「半分」降りる―哲学的生き方のすすめ (ちくま文庫)

人生を「半分」降りる―哲学的生き方のすすめ (ちくま文庫)

  • 作者: 中島 義道
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2008/01/09
  • メディア: 文庫



 「100億年以上におよぶ宇宙の歴史において、この二〇世紀後半に至ってたった一
 度だけ与えられた生命なのに、そしてあとは宇宙の終焉までいや永遠に何ごとかを
 感じたり考えたりするチャンスは与えられないであろうに、このままアクセク働い
 て死んでしまうのだとしたら、なんともったいないことであろうか。」(P12)

 このような思いから、筆者は人生を〈半分〉降りることを提案します。
 公職からも世間からも一定の距離を置き、もっと自分自身の問題に向き合おうと。

 「自分の残された時間を人生そのものの謎(真理とは何か、存在とは何か、善とは
 何か、時間とは空間とは、そしてとりわけコノ私とは何か等々)に向けるべきでし
 ょう。」(P26)

 そして自分との向き合い方を、一章「繊細な精神」、二章「批判精神」、三章「懐疑
 精神」、四章「自己中心主義」、五章「世間と妥協しないこと」等で示しています。

 中でも傑作なのは四章と五章です。ここに筆者の言いたいことが詰まっています。
 たとえば、次のような生き方を提唱しています。賛否両論あるかと思いますが。

 「月給だけもらってナルベク好き勝手なことをする、そのためには細かな計算をし
 て、『必要がない』と思ったことからはサッサと手を引く。そして、できるだけ人
 づき合いを制限し孤立して、『自分が今生きておりもうじき死ぬこと』を考える。
 たえずこのことを考える。」(P194)・・・

 この本が2000年に「新潮OH!文庫」から出たときは、ちょっと衝撃的でした。
 「なるほど、そういう生き方もあるんだ!」と、勇気をもらった気がしました。

 当時30代初めだった私は、飲み会に誘われたら、行きたくなくても参加しました。
 この本と出会って、行きたくない飲み会を断ることができるようになりました。

 これを進歩と言っていいかどうかは微妙ですが、確実に生きやすくはなりました。
 大げさなようですが、そういう意味で、本書は私の生き方を変えてくれた本です。

 さて、中島義道との出会いは、講談社現代新書の「『時間』を哲学する」でした。
 面白くて夢中で読みました。それ以降、中島義道は私のメンター的な存在です。

 特に、子どもの頃から死の問題を考え続けてきた点に、私は共感しています。
 私も子どもの頃、死ぬのが怖かった。そして私も、大学で哲学を専攻しました。

 しかし、中島の言う「哲学的生き方」を実践する気にはとうていなれません。
 というのも、まっとうに生きる人間にとっては、かなりの覚悟がいるので。

 「『哲学的生き方』をまかりまちがって選ぶと、あなたはかならず(世間的には)
 『不幸』になります。そして、それでいいのです。まさにこうした不幸を選び取
 ること、不幸を覚悟し、不幸に徹して生きつづけること、これこそ〈半隠遁〉の
 醍醐味なのですから。」(P273)

 中島義道は少し屈折しています。そして、その屈折したところが魅力なのです。
 彼の本は時に毒となります。その毒のあるところがまた魅力なのです。

 中島義道の本に、「孤独について」(文春文庫)というのがあります。
 この本は、中島が屈折し毒を持ってしまったいきさつが分かって興味深いです。


生きるのが困難な人々へ 孤独について (文春文庫)

生きるのが困難な人々へ 孤独について (文春文庫)

  • 作者: 中島 義道
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2008/11/07
  • メディア: 文庫



 さいごに。(カーリング女子、今日決勝!)

 女子カーリングの「ロコソラーレ」を応援しています。
 いつも笑顔でがんばる姿に癒され、元気をもらっています。

 準決勝の対スイス戦は、みごとな勝利でした。夜更かししてよかった。
 今日の午前にいよいよ決勝戦です。相手はイギリス。がんばってほしい。

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千の顔を持つ英雄 [哲学・歴史・芸術]

 「千の顔を持つ英雄(新訳版) 上下」 ジョーゼフ・キャンベル著
 倉田真木・斎藤静代・関根光宏訳 (ハヤカワ文庫)


 著者が収集した膨大な神話を分析し、英雄物語に共通する構造をまとめた名著です。
 ジョージ・ルーカスが「スターウォーズ」を創るときに参考にしたことで有名です。

 「スターウォーズ フォースの覚醒」上映の2015年に、ハヤカワ文庫から出ました。
 新訳ですが、読みにくかったです。神話や聖書などの予備知識がないと難しいです。


千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/12/18
  • メディア: 文庫



千の顔をもつ英雄〔新訳版〕下 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕下 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/12/18
  • メディア: ペーパーバック



 キャンベルは多くの神話や伝説や民話を提示して、その意味を解き明かしています。
 そして、時代や場所によって千変万化する物語に、普遍性があることを指摘します。

 内容はさまざまですが、すべて一人の英雄物語のバリエーションのように見えます。
 あたかも、ひとりの「英雄」が「千の顔」を持っているかのようなのです。

 「英雄の神話的冒険がたどる標準的な道は、通過儀礼が示す定型——分離、イニシエ
 ーション、帰還——を拡大したものであり、モノミス(神話の原形)の核を成す単位
 といってもいいだろう。」(P54)

 「分離 → イニシエーション → 帰還」という道筋は、著者のもっとも有名な概念です。
 そして、①分離 ②イニシエーション ③帰還 の内容を、さらに詳しく述べています。

 ①分離(出立)・・・日常の世界から、自然を超越した不思議の領域へ冒険に出る。
  ・冒険への招集(特別な存在から使命がもたらされる)
  ・招集拒否(使命を拒む場合もある)
  ・自然を超越した力の助け(特別な存在から思いがけない支援を受ける)
  ・最初の境界を越える(境界を守るものと対決し異界へ入る)
  ・クジラの腹の中(魔の領域に入り一度消滅したり死んだ状態となったりする)

 ②イニシエーション・・・途方もない力と出会い、決定的な勝利を得る。
  ・試練の道(いくつもの試練が降りかかる)
  ・女神との遭遇(ふいに女神に遭遇して力を回復する)
  ・誘惑する女(汚らわしい誘惑者に出会うこともある)
  ・父親との一体化(父親と完全に同じ力を得たことに気付く)
  ・神格化(自分自身の中に神が存在することに気付く)
  ・究極の恵み(すべてを回復させる力を得る)

 ③帰還・・・仲間に恵みをもたらす力を手に、冒険から戻って来る。
  ・帰還の拒絶(もとの世界に戻らずに隠遁してしまうこともある)
  ・魔術による逃走(もとの世界に戻るため魔術を使う)
  ・外からの救出(ふいに救いの手が差しのべられる)
  ・帰還の境界越え(境界を越えてもとの世界に戻る)
  ・二つの世界の導師(帰還したときにすべての化身の正体が分かる)
  ・生きる自由(もとの世界に活気が満ちる)

 本書の特徴は、とても多くの神話・伝承・おとぎ話などが引用されていることです。
 この引用の多さが、良い点でもあり悪い点でもあると、私は思いました。

 良い点は、多くの物語を知ることができ、多くの解釈を味わうことができる点です。
 一方悪い点は、引用が多くてごちゃごちゃし、著者の主張が分からなくなる点です。

 正直に言って私は、次から次に引用される話に、時々ついていけませんでした。
 この引用から何を証明したいのか? また、何を言いたかったのか? ん?・・・

 さらに、聖書やギリシア神話について予備知識がないと、理解するのに苦しみます。
 そういう意味で、本書はやや難解な著書であり、読む人を選ぶのかもしれません。

 実は本書は二部構成で、下巻には第二部「宇宙創成の円環」も収録されています。
 しかし私は、第一部だけで「ごちそうさま」状態なので、第二部を読んでいません。

 さいごに。(どれを取るか)

 娘の好きなジャニーズのグループが、新曲を出すのだそうです。CDで3種類も。
 「初回限定盤1」「初回限定盤2」「通常盤」と、それぞれ内容が微妙に違います。

 こういう場合、妻は迷わず3つ買いますが、娘のお小遣いでは、そうはいきません。
 娘はどれを買うか、迷いに迷っています。もう、こういう売り方はやめてくれ!

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見仏記(けんぶつき) [哲学・歴史・芸術]

 「見仏記」 いとうせいこう・みうらじゅん著 (角川文庫)


 仏友の二人が仏像を求め、気ままに旅して雑感を綴ったユニークな仏像案内記です。
 いとうが文を書き、みうらが挿絵を描いて、連載時から仏像ファンを魅了しました。


見仏記 (角川文庫)

見仏記 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1997/06/01
  • メディア: 文庫



 みうらじゅんは小学生から仏像マニアで、仏像スクラップブックを作っていました。
 それをいとうせいこうに見せたときから、連載企画「見仏記」が始まったのです。

 「見仏記」はその第1巻です。東北から九州まで、とても充実した旅をしています。
 興福寺、東大寺、法隆寺、薬師寺、東寺、広隆寺、立石寺、中尊寺、大宰府・・・

 この仏友(ぶつゆう)二人は、気ままに旅をしています。たとえば冒頭の興福寺。
 「阿修羅がいるよ」と言いながらも、阿修羅像についてはほとんど書かれていない。

 国宝館の山田寺仏頭は、「加藤登紀子」のひとことで済ませてしまう。(笑)
 おみやげやをのぞいていたら時間がなくなり、東大寺では戒壇院も大仏殿もスルー。

 しかし時々、仏像マニアならではの、とても興味深い指摘をします。
 仏像は帰化しないガイジンであり、我々はそれを見て古都の情緒に浸っているとか。

 外国人向け日本ガイドを、日本人が真似したところから仏像観光が始まったとか。
 人は自分を超える存在を想像し続けたが、馬頭観音のバリエーションを出ないとか。

 また、黒石寺(こくせきじ)で、蘇民祭で使う六角柱の護符に五芒星を見つけたり、
 慈恩寺薬師堂の日光月光菩薩に、三本足のカラスが彫られているのを知ったり・・・

 旅を重ねるうちに、いとうせいこうの文章は深くなっていきます。
 最後の旅の、平等院の阿弥陀如来の描写など、仏像マニアをうならせる名文です。

 「そこに鎮座している阿弥陀の、大きくて優しい目は、さっきの対岸に向かってい
 た。ゆったりと遠くを眺めている。何かを考えている様子もなく、その顔はただた
 だ空という感じがした。ひたすらな無の中にいて、内面など存在していないのだ。
 微笑まず、悲しまず、とにかく虚。」(P286)

 最後に、「33年後に三十三間堂で会おう」と言って別れる場面はちょっと粋です。
 33年後と言わず、もっと二人で仏遊してほしい、と思った人は多かったようです。

 この旅は、その後も続けられ、文庫の「見仏記」は7巻まで出ているようです。
 「TV見仏記」も始まり、一緒に見仏する臨場感を味わえるようになりました。

 この番組は人気が出てシリーズ化され、DVD化されました。仏像ファンは必見。
 目的は仏像を見に行くことですが、実はそれ以外の場面がとても面白いです。

 二尊院へ行く途中、「マツタケ200円」というのを見て、思わず買ったら紙細工。
 みうらはおみやげを買いすぎて、二尊院に着いたときには、「入るカネねえよ」。


みうらじゅん・いとうせいこうのTV見仏記 1 [DVD]

みうらじゅん・いとうせいこうのTV見仏記 1 [DVD]

  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
  • 発売日: 2002/11/22
  • メディア: DVD



 さて、いとうせいこうは2013年の「想像ラジオ」で、芥川賞候補となりました。
 そのほかにも、「解体屋外伝」など、気になる作品をいくつか書いています。
 「想像ラジオ」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2016-01-05


解体屋外伝 (講談社文庫)

解体屋外伝 (講談社文庫)

  • 作者: いとう せいこう
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/10/09
  • メディア: 文庫



 さいごに。(偉い人のしるし)

 小学1年生だった私が、父の横腹の盲腸の傷跡を見て、「これ何?」と聞くと、
 父は即座に「偉い人のしるしだよ」と答えました。私はそれを信じてしまった!

 学校でみんなに、「あんたの父ちゃんに偉い人のしるしがある?」と聞いても、
 「ある」と答えた子はいなかったので、私は誇らしい気持ちになったものです。

 あれが、単なる盲腸の跡だと知ったのは、だいぶ経ってからのことでした。
 今では、父の絶妙な切り返しに、ただ感心するばかりです。偉い人のしるしとは!

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図説 金枝篇1 [哲学・歴史・芸術]

 「図説 金枝篇(上)」 J・G・フレーザー著 吉岡晶子訳 (講談社学術文庫)


 イタリアのネミの祭司が、殺される宿命にあったのはなぜかを、追求した著書です。
 全13巻の大著「金枝篇」を、図で補いながら、読みやすく編集した簡約版です。


図説 金枝篇(上) (講談社学術文庫)

図説 金枝篇(上) (講談社学術文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/04/11
  • メディア: 文庫



 ネミの聖所には一本の樹があり、その枝は一本も折ってはならないとされていました。
 ただし、逃亡奴隷が一本折ったときには、祭司と一騎打ちをすることを許されました。

 戦いで相手の祭司を殺せば、逃亡奴隷は祭司に代わって「森の王」となるのです。
 運命を決するこの枝こそ、アイネイアスが冥界に旅立つときに手折った金枝なのです。

 ネミの祭司は、なぜ殺されなければならないのか?
 金枝を折ることには、どのような意味があるのか?

 これらの謎を解くため、フレーザーの推論が始まり、十三巻に及ぶ大著ができました。
 壮大さと難解さで知られるこの大著を、全て読むことはほとんど不可能でしょう。

 ここで紹介した「図説 金枝篇」は、分かりやすいので比較的すらすらと読めました。
 しかも原著の雰囲気や味わいはそのままです。フレーザーの入門者にはオススメです。

 最も面白かったのは、「聖なる結婚」で取り上げられている、いくつかの伝承です。
 神々と結婚することで、人間界に豊穣をもたらすことが約束されると言うのです。

 バビロニアの聖所には豪華な寝台があり、選ばれた乙女がそこに入って横たわり・・・
 その乙女は決して男と交われない代わりに、神の妃として皆から敬われ・・・

 ペルーのある先住民は、人型の石像を神とし、それを美しい乙女と結婚させ・・・
 その乙女は決して男と交われない代わりに、神として最高の敬意を払われ・・・

 そういえば、伊勢神宮に使える斎宮や、賀茂神社に使える斎院も、似ている例です。
 どちらも神々と結婚し、神々に仕え、引退後も生涯独身で過ごし・・・

 第三部「死にゆく神」に入ると、ネミの祭司の謎が、少しずつ明かされていきます。
 王を殺す習慣は、聖なる霊を、衰弱した体から活力ある後継者へ移すためだと言う。

 ディンカ族の雨乞い師は、自分が衰えたと感じたら、墓穴を掘って横たわり・・・
 インドの村の王は、12年経った後の祭で、自ら身体の部分を小刀で切り取り・・・

 フレーザー入門で、もうひとつのオススメは、ちくま文庫の「初版 金枝篇」です。
 全2巻にまとめられていて、しかも訳が比較的分かりやすいです。

 さいごに。(娘は今年も1m30)

 昨年、走高跳で大会デビューし、いきなり1m30をクリアして驚かせた我が娘。
 1年たって中2になった今も、記録は1m30のままでした。高跳びは難しい!

 しかし、それでも地区で8位でした。賞状をもらって、嬉しそうでした。
 しかも、県大会進出! 10月の県大会では、1m35を跳んでほしい・・・

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