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指輪物語 王の帰還 2 [20世紀イギリス文学]

 「指輪物語 王の帰還 下」 J・R・R・トールキン作 田中明子訳 (評論社文庫)


 ホビット族のフロドとその仲間たちが、冥王の指輪を破壊するため旅する物語です。
 シリーズは全10巻です。「王の帰還 下」は最終の第9巻で、第10巻は追補編です。


新版 指輪物語〈9〉王の帰還 下 (評論社文庫)

新版 指輪物語〈9〉王の帰還 下 (評論社文庫)

  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 1992/07/01
  • メディア: 文庫



 モルドールに入ったフロドとサムは、はるかかなたの滅びの山に向かって進みます。
 ところがフロドは、指輪の魔力(?)によって、徐々に身心を蝕まれていきました。

 「わたしはとても疲れてしまった。指輪がとても重いんだよ、サム。それに心の中に
 いつも指輪が見え始めたんだ。ぐるぐる回る大きな火の車のようにね。」(P64)

 それでは自分が指輪を持とうと、サムが言うと、フロドはこう言いました。
 これは自分の負った荷であり、それに自分はこの指輪に支配されてしまったのだと。

 そんなフロドに、サムは食料を与えたり、寝ずの番をしたりと、献身的に仕えます。
 滅びの山でサムは、疲れ果てたフロドを背負って登って行きました。

 そしてほとんど火口に着いたとき、スメアゴルが指輪を奪おうと襲いかかりました。
 サムがスメアゴルを相手にしている間、フロドが裂け穴のふちで動かなくなり・・・

 「わたしがここに来てするはずだったことを、もうしないことにした。(中略)指輪
 はわたしのものだ!」(P125)フロドはそう言って、指輪を指にはめて・・・

 土壇場でのフロドの変心! 指輪をはめると同時にサウロンにも気づかれて・・・
 この緊迫した状況を、意外な形で打開するのは、いったい誰か?・・・

 というように、クライマックスでは予想外の展開をします。
 この場面は映画でも、印象的に描かれていました。特にスメアゴルの描き方がいい!

 さて、フロドの任務が果たされてサウロンが滅び、新しい時代がやってきました。
 その新時代を担うのは「人間」だということです。王が帰還したからでしょうか。

 一方ホビットたちは、故郷に帰ってからも、やるべきことが残されていました。 
 映画には描かれていませんでしたが、ラストの場面で彼らの成長ぶりが分かります。

 そして、ある者の最期も描かれています。これもまた、意外で面白い展開でした。
 ただし気になったのが、ここで「人間」が悪者として登場している点です。

 人間に、新しい時代を任せて大丈夫か? なぜ新時代の支配者に選ばれたのか?
 新しい時代の支配者としてふさわしいのは、任務を遂行したホビットではないか?

 このへんのところは、いろいろと考えたのですが、よく分からなかったです。
 作品中で、もう少し分かりやすく説明してくれたらよかったのに、と思いました。

 また、フロドが西の国へ旅立ってしまう理由も、もう少し説明が欲しかったです。
 フロドが指輪によって憔悴したのは分かるけど、ビルボに比べたら若いのだし。

 そういえば、メリーとフロドのセリフで、妙に印象に残っているものがあります。
 この言葉は、フロドが西の国へ旅立つことを、暗示しているのでしょうか。

 「ほかの人たちはみんな、次々とあとに残して来たんだね。まるでゆっくりと醒め
 ていく夢みたいだな。」
 「わたしにとってはそうじゃないね。」と、フロドがいいました。「わたしはもう
 一度眠りに落ちていくような感じだよ。」(P249)

 これで、「指輪物語」は終わりとなります。面白かったけど、長かった!
 第10巻の「追補編」を読む予定はありません。おなかいっぱいなので。

 さいごに。(本を200冊捨てた)

 年末年始に本の整理をしました。読み返しそうもない本を、約200冊捨てました。
 私は本に書き込みながら読むので、古本屋に売りに行くことができません。

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指輪物語 王の帰還 1 [20世紀イギリス文学]

 「指輪物語 王の帰還 上」 J・R・R・トールキン作 田中明子訳(評論社文庫)


 ホビット族のフロドとその仲間たちが、冥王の指輪を破壊するため旅する物語です。
 シリーズは全10巻の大作です。第三部「王の帰還」は、その8巻と9巻です。


新版 指輪物語〈8〉王の帰還 上 (評論社文庫)

新版 指輪物語〈8〉王の帰還 上 (評論社文庫)

  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 1992/07/01
  • メディア: 文庫



 アラゴルンは、ミナス・ティリスを救うために、死者の道を通る決意を固めました。
 エオウィン姫が止めるのも顧みず、アラゴルンら一行は死者たちを従えに行きます。

 「われらを通し、そして来れ! わたしはお前たちをエレヒの石に召集する。」
 「予に従い来るべし。(中略)予はイシルドゥアの世継、エレスサールなれば。」

 セオデン王は戦いのあと休む間もなく、ミナス・ティリスの救援に向かいました。
 そのとき王は、メリーをエオウィン姫とともに国に残るよう命令しました。

 しかしメリーは、若き騎士デルンヘルムに伴われて、密かに軍団に混じったのです。
 出陣したデルンヘルムとメリーの前に、怪鳥に乗った敵の首領が下り立って・・・

 「王の帰還 上」は、フロドとサム以外の仲間たちの物語です。
 アラゴルンがかっこいい。オルサンクの石をのぞいて、サウロンを挑発したり・・・

 しかし、この巻でさらに印象に残るのが、アラゴルンを愛するエオウィン姫です。
 彼をとどめられないと知ると、自分も死者の道へ行く供に加えてほしいと頼みます。

 つまり、命がけの恋をしているのです。
 しかもその後、姫としての責務よりも自分の熱情を優先し、驚くべき行動に出ます。

 「わたくしは馬に乗ることも剣を揮うこともできます。そしてわたくしには苦痛も死
 も恐ろしくはありません。」
 「姫よ、あなたには何が恐ろしいのですか?」と、かれはたずねました。
 「檻です。」と姫はいいました。「柵の後ろに留まることです。」(P104)

 そして圧巻は、怪鳥に乗った黒い騎士と対決する場面でしょう。
 「愚か者め。生き身の人間の男にはおれの邪魔立てはできぬわ!」(P239)
 しかし、それに答えたデルンヘルムは!・・・(ここ、サイコーです)

 さて、ミナス・ティリスを守り切った一行は、今度はモルドールへ向かいます。
 フロドたちの任務遂行を助けるため、陽動作戦に出ますが・・・下巻も楽しみです。

 さいごに。(うっとりラーメン)

 お正月休みに一度ぐらい家族で外食しよう、と言って行ったのがラーメン屋(笑)。
 私が食べたのは、看板メニューの「うっ鳥ラーメン」とチャーシュー丼です。

 「うっ鳥(とり)」というように鶏がらですが、白濁で濃厚なスープです。
 評判のお店なので待ち時間がありましたが、待ってでも食べたいラーメンです。

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20世紀イギリス文学のベスト20を選びました [20世紀イギリス文学]

 私のライフワークは、文庫本で自分だけの文学全集をそろえることです。
 その「文学全集」の第Ⅰ集から第Ⅺ集までは、以下のように完成しています。

・ 第Ⅰ集「19世紀フランス編」(20作)・2010年
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2010-10-23
・ 第Ⅱ集「19世紀イギリス編」(20作)・2011年
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2011-08-04
・ 第Ⅲ集「19世紀ロシア編」(20作)・・2012年
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2012-12-22
・ 第Ⅳ集「19世紀ドイツ北欧編」(20作)2013年
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2013-11-09
・ 第Ⅴ集「19世紀アメリカ編」(10作)・2014年
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-08-06-1
・ 第Ⅵ集「18世紀編」(10作)・・・・・2015年
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2015-09-25-2
・ 第Ⅶ集「古代編」(20作)・・・・・・・2016年
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2016-12-27
・ 第Ⅷ集「中世編」(20作)・・・2017年・2018年
 → https://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2018-12-25
・ 第Ⅸ集「17世紀編」(10作)・・・・・2019年
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2019-10-01
・ 第Ⅹ集「20世紀ラテンアメリカ編」(10作)2020年
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2020-12-11
・ 第Ⅺ集「20世紀アメリカ編」(40作)2021年
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2021-12-28


 さて、今年2022年は、第Ⅻ集「20世紀イギリス編」を決定する年です。
 20世紀イギリス文学で紹介した作品は、以下のとおり80作以上ありました。

 この中で絶対に外したくない作品に●印を付けてみました。
 すると、21作となったので、迷った末にひとつ削って20作としました。

 (作品のあとの数字は刊行された年です)

 コナン・ドイル        「失われた世界」12
 アーサー・マッケン      「パンの大神」1894
                「恐怖」1899
                「夢の丘」07
 ジョージ・ギッシング     「ヘンリ・ライクロフトの私記」03
 モンタギュー・R・ジェイムズ 「好古家の怪談集」04
 ラフカディオ・ハーン     「怪談・奇談」04
 G・K・チェスタトン     「木曜日だった男」05
                「ブラウン神父の無垢なる事件簿」11
 アルジャーノン・ブラックウッド「秘書綺譚」06~
                「人間和声」10
 E・M・フォースター     「眺めのいい部屋」08
                「インドへの道」24●
 オースティン・フリーマン   「オシリスの眼」11
 キャサリン・マンスフィールド 「短編集」11~
 バーナード・ショー      「ピグマリオン」12
 D・H・ロレンス       「息子と恋人」13●
                「チャタレイ夫人の恋人」28●
 ジェイムズ・ジョイス     「ダブリナーズ」14●
                「若い芸術家の肖像」16
                「ユリシーズ」22
 サマセット・モーム      「人間の絆」15●
                「月と六ペンス」19●
                「雨・赤毛(短編集)」21
                「ジゴロとジゴレット」21~
                「夫が多すぎて」23
                「アシェンデン」28●
                「お菓子とビール」30
                「女ごころ」41
                「昔も今も」46
                「世界の十大小説」54
 P・G・ウッドハウス     「ジーヴズの事件簿」16
 ジョン・ゴールズワージー   「林檎の樹」16
 ヴァージニア・ウルフ     「ダロウェイ夫人」25●
                「灯台へ」27
                「オーランドー」28
                「幕間」41
 アガサ・クリスティ      「アクロイド殺し」26
                「オリエント急行の殺人」34
                「そして誰もいなくなった」39●
 イーヴリン・ウォー      「大転落」28
                「回想のブライズヘッド」45●
 オルダス・ハクスリー     「すばらしい新世界」32
 ジェームズ・ヒルトン     「チップス先生さようなら」33
                「失われた地平線」34
 ダフネ・デュ・モーリア    「レベッカ」38
 ジョージ・オーウェル     「動物農場」45
                「一九八四年」49●
 サミュエル・ベケット     「ゴドーを待ちながら」52
 アーサー・C・クラーク    「幼年期の終り」52
                「2001年宇宙の旅」68●
                「宇宙のランデヴー」73
                「2010年宇宙の旅」82
 イアン・フレミング      「007 カジノロワイヤル」53
 J・R・R・トールキン    「指輪物語」54●
 ウィリアム・ゴールディング  「蠅の王」54●
 ローズマリー・サトクリフ   「第九軍団のワシ」54
 グレアム・グリーン      「負けた者がみな貰う」55
                「事件の核心」48●
                「第三の男」50
                「情事の終り」51●
                「ヒューマン・ファクター」78
 C・S・ルイス        「ナルニア国物語」55
 フィリパ・ピアス       「トムは真夜中の庭で」58
 アラン・シリトー       「長距離走者の孤独」59
 アントニイ・バージェス    「時計じかけのオレンジ」62
 ジョーン・ロビンソン     「思い出のマーニー」64
 ギャビン・ライアル      「深夜プラス1」65●
 マーガレット・ドラブル    「碾臼」65
 コリン・ウィルソン      「賢者の石」71●
                「宇宙ヴァンパイアー」77
 ジョン・ル・カレ       「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」74
 ジャック・ヒギンズ      「鷲は舞い降りた」75●
 ブルース・チャトウィン    「パタゴニア」77
 サルマン・ラシュディ     「真夜中の子供たち」81
 R・D・ウィングフィールド  「クリスマスのフロスト」84
 カズオ・イシグロ       「日の名残り」89●
                「わたしたちが孤児だったころ」2000
                「わたしを離さないで」2005
                「夜想曲集」2009
  J・M・クッツェー      「鉄の時代」90
 アーヴィン・ウェルシェ    「トレインスポッティング」93
 J・K・ローリング      「ハリー・ポッターと賢者の石」97●
 イアン・マキューアン     「アムステルダム」98
                「贖罪」2001
 サラ・ウォーターズ      「半身」99


 では改めて、●印のついた20作を出版順に並べてみました。
 第Ⅺ集は、次のようなラインアップとなりました。


① D・H・ロレンス 「息子と恋人」13●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-07-16
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-07-19
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-07-22
② D・H・ロレンス 「チャタレイ夫人の恋人」28●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2016-05-11
③ ジェイムズ・ジョイス 「ダブリナーズ」14●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-02-08
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-02-11
④ E・M・フォースター 「インドへの道」24●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-12-08
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-12-11
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-12-14
⑤ サマセット・モーム 「人間の絆」15●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2011-03-03
⑥ サマセット・モーム 「月と六ペンス」19●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2011-03-05
⑦ ヴァージニア・ウルフ 「ダロウェイ夫人」25●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-02-05
⑧ アガサ・クリスティ 「そして誰もいなくなった」39●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2021-01-02
⑨ イーヴリン・ウォー 「回想のブライズヘッド」45●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2020-12-27
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2021-01-02
⑩ ジョージ・オーウェル 「一九八四年」49●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2012-04-17
⑪ アーサー・C・クラーク 「2001年宇宙の旅」68●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2013-05-18
⑫ J・R・R・トールキン 「指輪物語」54●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2019-01-16
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2019-01-22
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-12-20
⑬ ウィリアム・ゴールディング 「蠅の王」54●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2020-08-26
⑭ グレアム・グリーン 「事件の核心」48●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2015-01-10
⑮ グレアム・グリーン 「情事の終り」51●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2014-10-19
⑯ ギャビン・ライアル 「深夜プラス1」65●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2013-06-08
⑰ コリン・ウィルソン 「賢者の石」71●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-08-18
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-08-21
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-08-24
⑱ ジャック・ヒギンズ 「鷲は舞い降りた」75●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2013-06-15
⑲ カズオ・イシグロ 「日の名残り」89●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2018-08-15
⑳ J・K・ローリング 「ハリー・ポッターと賢者の石」97●
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-08-27
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-08-30

 マッケン、M・R・ジェイムズ、チェスタトン、ブラックウッド、フリーマンはボツ。
 好きな作家ですが、決定的な作品が無かったように感じたので、割り切りました。

 ジョイスでは、「ユリシーズ」と「若い芸術家の肖像」をボツにしました。
 ジョイスを収録しないわけにはいかないので、「ダブリナーズ」を辛うじて採用。

 クラークでは、「幼年期の終わり」をボツにして、「2001年」を選びました。
 ラシュディの「真夜中の子共たち」をボツにしました。

 これらの選択については、「なんでだ!」というツッコミがありそうです。
 私の主観が出てしまっただけですので、謝るしかありません。「申し訳ない!」

 ●印を付けながら、唯一ボツにしたのは、モームの「アシェンデン」です。
 私の好きな小説ですが、これを採るとモームが三作になってしまうので諦めました。

 さて、来年は「20世紀フランス文学」の年にしようと思っています。
 2023年もよろしくお願いします。

 さいごに。(今年も家族3人でクリスマス)

 今年のクリスマスも、家族3人で祝いました。
 ディナーは恒例の、チーズフォンデュと、ケーニヒス・クローネのパフェでした。

 このパフェがおいしかった! 今回は妻のチョイスでした。
 ところで、娘ももう高校1年生。いつまで3人でクリスマス・イブを過ごせるか?

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指輪物語 二つの塔 2 [20世紀イギリス文学]

 「指輪物語 二つの塔 下」J・R・R・トールキン作 田中明子訳(評論社文庫)


 ホビット族のフロドとその仲間たちが、冥王の指輪を破壊するため旅する物語です。
 シリーズは全10巻の大作です。第二部「二つの塔」は、その中間の3巻です。


新版 指輪物語〈7〉二つの塔 下 (評論社文庫)

新版 指輪物語〈7〉二つの塔 下 (評論社文庫)

  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 1992/07/01
  • メディア: 文庫



 「二つの塔」の上巻の二冊は、離散した仲間たちの物語でした。
 下巻は、指輪を破壊するために滅びの山に向かう、フロドとサムの物語です。

 フロドとサムは、自分たちをスメアゴルがつけてきていることに気付いていました。
 スメアゴルは、自分の「いとしいしと」である指輪を狙って、つけて来たのでした。

 サムがスメアゴルを捕らえたとき、フロドはガンダルフの言葉を思い出しました。
 「わが身の運命は見通せないから、せっかちに殺してはいけない」という言葉です。
 (この言葉は、ちゃんと物語の伏線となっています)

 フロドはスメアゴルを道案内として、モルドールに向かいますが・・・
 スメアゴルを信じていいのか? フロドとサムはモルドールに入れるのか?・・・

 「二つの塔」の下巻でもっとも印象に残るのは、なんといってもスメアゴルです。
 指輪に囚われたため狡猾で不気味ですが、しかしどこかかわいいところがあります。

 映画において、彼の善なる心と悪なる心が葛藤するシーンは、とても印象的でした。
 「わしら、約束したよ。そうよ、いとしいしと。」「だけど、ほしいようー!」

 葛藤の中で、スメアゴルは「おばば」に思い当り、ある考えが浮かんで・・・
 「おばば」とは何者か? スメアゴルが勧める「別の道」は本当に大丈夫なのか?

 さて、途中でボロミアの弟であるファラミアに出会います。
 ファラミアもまた真実を見抜く目を持っていて、とても魅力的に描かれています。

 そして、彼がボロミアの遺体を乗せた小舟を見たというシーンは、実に美しい!
 「死の便りにはさまざまな翼がある。夜はしばしば近い親族に便りをもたらす。」

 「二つの塔」の下巻は、フロドがピンチに陥るところで終わりました。
 サムはフロドをいかにして助けるのか? 映画で見たのですが、思い出せません。

 一方、スメアゴルがこの物語で果たす役割は忘れられません。それは実に大きい。
 また、スメアゴルは「指輪物語」において、大きな象徴的意味を持っています。

 そのことを思うと、スメアゴルのことを憎む気にはなれないのです。
 映画版におけるあの不気味な姿が、時に本当にかわいらしく思えてしまいます。

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 さいごに。(腎機能再々検査)

 人間ドックの再検査の結果、腎機能の再々検査が必要とのことでした。
 次は専門医に診てもらわなければなりません。冬休みにやることが増えました。

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指輪物語 二つの塔 1 [20世紀イギリス文学]

 「指輪物語 二つの塔 上」J・R・R・トールキン作 田中明子訳(評論社文庫)


 ホビット族のフロドとその仲間たちが、冥王の指輪を破壊するため旅する物語です。
 シリーズは全10巻の大作です。第二部「二つの塔」は、その中間の3巻です。


新版 指輪物語〈5〉二つの塔 上1 (評論社文庫)

新版 指輪物語〈5〉二つの塔 上1 (評論社文庫)

  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 1992/07/01
  • メディア: 文庫



新版 指輪物語〈6〉二つの塔 上2 (評論社文庫)

新版 指輪物語〈6〉二つの塔 上2 (評論社文庫)

  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 1992/07/01
  • メディア: 文庫



 第一巻「旅の仲間」で、導き手である魔法使いガンダルフが、戦死してしまいました。 
 また、ボロミアがフロドから指輪を奪おうとしたため、彼らは離散してしまいました。

 モルドールを目指すフロドとそれを助けるサム。オークに捕らわれたピピンとメリー。
 二人を救おうとして倒れたボロミア。オークを追うアラゴルンとレゴラスとギムリ・・・

 ピピンとメリーは戦闘のどさくさで逃走し、森の中でエントなるものに出会い・・・
 エントとは何者か? エントとホビットはいかなる行動に出るのか?

 一方、アラゴルンら一行は、二日遅れて森に入り、そこで意外な人物と出会い・・・
 離散した仲間たちは、どこかで合流できるのか? フロドたちの運命はいかに?

 「二つの塔」の上巻(2巻)は、離散した旅の仲間たちの行動を描いています。
 この間フロドはまったく登場しませんが、面白くて読み始めたら止まりません。

 それにしても惜しいのは、いきなりボロミアが死んでしまう点です。
 ボロミアはその弱さも含めて、人間的でいい味を出していたので残念です。

 映画でもこのシーンは、とてもドラマティックに描かれていたように思います。
 ボロミアには、アラゴルンと一緒に、もっともっと活躍してほしかったです。

 「二つの塔」上巻で目立つのは、やはり、ガンダルフとアラゴルンの活躍です。
 しかし印象に残ったのは、脇役ながら、ローハン国のエオメルとハマのふたりです。

 ふたりとも命令に背きながらも、自分の信念に従って自分の判断で行動しました。
 彼らこそ、本物の忠臣と言えるでしょう。ハマの次の言葉には、うなりました。

 「しかし、迷う時こそ、一かどの人間はおのれ本来の分別に頼るもの。」(上2P20)
 あっという間に戦死して物語から退場しますが、この言葉はいつまでも残りました。

 「指輪物語」は、ただのファンタジーではないし、ただの児童文学でもありません。
 人はいかに行動し、いかに生きるべきかを、われわれに考えさせてくれます。

 そして、なんといっても、仲間の大切さや、信頼することの尊さを教えてくれます。
 大戦中の暗い時代に書かれた「指輪物語」は、人生に明るい希望を与える作品です。

 「指輪物語」全10冊のうち、6冊を読み終えました。
 今年の年末年始のお休みで、残りの4冊を読むつもりでいます。

 さいごに。(増えた筆記具)

 この半年で、筆記具がだいぶ増えました。
 漆黒のシャープペン、または、黒&シルバーのシャープペンが、特に好みです。

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鉄の時代 [20世紀イギリス文学]

 「鉄の時代」 J・M・クッツェー作 くぼたのぞみ訳 (河出文庫)


 末期がんの老女が、南アフリカの混乱した状況を、娘への手紙で残した物語です。
 作者は南アフリカ出身で、英語で書いています。2003年にノーベル文学賞受賞。

 クッツェーの作品は、ブッカー賞の「マイケルK」と「恥辱」も文庫で出ています。
 しかし、池澤夏樹の世界文学全集は「鉄の時代」を収録。文庫版はカバーが秀逸。


鉄の時代 (河出文庫)

鉄の時代 (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2020/05/07
  • メディア: 文庫



 南アフリカの白人住宅街で、末期癌の「わたし」ミセス・カレンは暮らしています。
 「わたし」は日々の出来事を綴っていますが、これがこの小説の内容となっています。

 ある日家の敷地内に、ひとりのホームレスの男が、犬と一緒に居座っていました。
 「わたし」が癌の激痛に襲われ、男に助けてもらってから、交流が始まりました。

 男の名はファーカイル。「わたし」は彼に、死後における重要な仕事を頼みました。
 それは、アメリカで暮らす娘に、自分の綴った手紙(遺書)を送るというものです。

 やがてファーカイルは、「わたし」のお金を取って、酒を飲むようになりました。
 黒人の家政婦フローレンスは言い放ちます。「この人は人間のくずです。」と。

 「人間にくずなんていないの。わたしたちはみんなおなじ人間なんだから。」
 「わたし」は弁護しますが、しかし、町では人種差別が平然と行われていて・・・

 この作品を読むに当たっては、二つの予備知識が必要となります。
 ひとつ目は「鉄の時代」。これは、ギリシア神話における時代区分のひとつです。

 神話の時代は、黄金の時代→銀の時代→銅の時代→鉄の時代と移ってきました。
 銅の時代から人心は荒れ始めて、鉄の時代から人間はあらゆる悪行を始めました。

 タイトルの「鉄の時代」とは、戦闘状態にある南アフリカの現状を表しています。
 当時、反アパルトヘイト側と、それをおさえつける権力者側が闘争していたのです。

 予備知識のふたつ目は、南アフリカの状況。特に「アパルトヘイトをめぐる闘争」。
 これが綴られた1986年は、アパルトヘイト体制が崩壊し始めた頃に当たります。

 物語中にも、警察による黒人への暴力や、人種差別が描かれています。
 特に、黒人居住区ググレトゥにおける銃撃戦で、「わたし」が見たものは・・・

 「どれほど偽装を凝らそうと、戦争は戦争。仮面を剥げばわかるわ。ひとつの例外も
 なく、美辞麗句の名のもとに、年長者が若者を死へ送り込むことよ。」(P239)

 最も印象に残っている場面は、「わたし」が少年たちに襲われる場面です。
 金歯を探して口をこじあける少年たちに、慈悲を請うことの無意味さ!

 「ばかばかしい。なぜ、この世に慈悲がなければならないの? 甲虫のことを思った。
 あの大きな黒い甲虫たちが、背中をまるめて、かすかに脚を振り動かしながら死んで
 いくところを。そのうえにたかった蟻が、甲虫のやわらかい部分をかじり、間接、眼
 球と、その肉をむしり取っていく。」(P233)

 そして「わたし」もまた、老いて病におかされた体を・・・
 その最期を看取ることになるのは・・・ラストは味わい深かったです。

 さて、クッツェーの作品中、世界で最も読まれているのが「恥辱」だそうです。
 少し興味を持って、ウィキペディアのあらすじを読んでみたら・・・

 暗澹たる気持ちになり、まったく読む気が湧きませんでした。
 いつかまた、何かの拍子に読みたくなるときまで、待とうと思います。


恥辱 (ハヤカワepi文庫)

恥辱 (ハヤカワepi文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2007/07/15
  • メディア: 文庫



 さいごに。(年末に必ずやりたいこと)

 年末の休暇で、書棚の整理をしたいです。本があふれてしまっているので。
 できれば200冊ぐらい捨てたいのですが、なかなか本は捨てられなくて・・・

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インドへの道3 [20世紀イギリス文学]

 「インドへの道」 E・M・フォースター作 小野寺健訳 (河出文庫)


 イギリスとインド、異なる文化を持つ者たちに現れるさまざまな亀裂を描いています。
 1924年刊行。フォースターの最後にして最大の傑作です。今回は3回目の紹介です。


インドへの道 (河出文庫 フ 21-1)

インドへの道 (河出文庫 フ 21-1)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2022/10/06
  • メディア: 文庫



 すでに2回にわたって紹介してきましたが、まだまだ言い足りないことがあります。
 読後、いろいろなことを考えさせられました。それはこの作品が名作である証です。

 「インドへの道1」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-12-08
 「インドへの道2」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2022-12-11

 ムア夫人とアデラが、マラバー洞窟で聞いた「こだま」とは、何だったのでしょう?
 ムア夫人は、次のように考えを巡らしていますが、これが実に興味深いです。

 「さいしょの洞窟には何が住んでいたのだろう。何か非常に古い、非常に小さなもの
 だったのだ。時間よりも前、空間よりも前のものだったのだ。何か獅子鼻をした、優
 しさなどとは無縁のもの ― 死ぬことのない虫そのものだったのだ。」(P327)

 つまり、ムア夫人はそこに、何か目に見えない神秘的な存在を感じていたのです。
 その「存在」が「こだま」を生じさせ、何やら不可解な体験をさせたようなのです。

 「時間よりも前、空間よりも前のもの」は、古代インドの神のようなものでしょうか。
 それが、侵入者としてのイギリス人を排除しようと、襲いかかったのでしょうか。

 いずれにしてもアデラは、「こだま」に憑かれたようになってしまいました。
 そして不思議と、アジズに対する訴えを取り下げた途端に、解放されたのです。

 ここには、なにやら深遠な象徴的意味がありそうですが、私にはよく分かりません。
 ただ、幻覚とか錯覚とかではなく、インドの神秘が関わっているような気がします。

 なお、「こだま」に何かの存在を感じ取ったムア夫人は、最も神秘的な登場人物です。
 彼女は何も見ていないのに、アジズが無罪であると直感して、インド人側に立ちます。

 そのため「エスミス・エスムア」とインドの神名で呼ばれたのも、どこか象徴的です。
 そして船上で亡くなり、インド洋に葬られたとき本当に神となった、と私は思います。

 ちょうどそのとき、アデラが裁判の証言台で、アジズへの訴えを取り下げたのです。
 私には、神となったムア夫人が、アデラに適切な行動を取らせたように思えるのです。

 ところで、長官のタートンがフィールディングに言った、次のような言葉があります。
 イギリス人とインド人は、交際するのは良いが、心から親しくなってはいけない、と。

 なぜか? それぞれの民族が持つ神々が、対立するからではないのでしょうか。
 アジズとフィールディングがどんなに親しくなっても、越えられぬ溝が残りそうです。

 さいごに。(ifone にしたものの)

 ifone にしたものの、今のところほとんど使っていません。
 ホーム画面のアプリが多すぎて、何をどうしていいのか分からないのです。

 うっかり指が触れると、変なページに飛んでしまって、もとに戻らなくなるし。
 怖くて触る気になれません。(ラインだけでも早く始めなくては・・・)

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インドへの道2 [20世紀イギリス文学]

 「インドへの道」 E・M・フォースター作 小野寺健訳 (河出文庫)


 イギリスとインド、異なる文化を持つ者たちに現れるさまざまな亀裂を描いています。
 1924年刊行。フォースターの最後にして最大の傑作です。今回はその後半の紹介です。


インドへの道 (河出文庫 フ 21-1)

インドへの道 (河出文庫 フ 21-1)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2022/10/06
  • メディア: 文庫



 アジズは、フィールディングと町に帰ってきたところを、突如逮捕されました。
 先に帰ったアデラが、洞窟でアジズに襲われそうになった、と訴えていたからです。

 イギリス人たちはアジズを犯人に決めつけ、インド人たちはアジズに味方しました。
 チャンドラポワの町は、二つの人種の間で、一触即発の緊張した事態に陥りました。

 その中で、フィールディングだけは、変わらずアジズの無実を信じていました。
 彼はイギリス人のクラブを脱退し、仲間と縁を切って、インド人側についたのです。

 一方アデラは、洞窟での体験以降、消えることのないこだまに悩まされていました。
 もしかしたらあれは錯覚だったのか、と思った途端、こだまは小さくなるのでした。

 ムア夫人は、裁判が始まる前に船に乗っていましたが、その途上で亡くなりました。
 そして裁判当日、証言台に立ったアデラは、意外なことを口に出して・・・

 というように、物語も半分を過ぎたところから、急に面白くなり始めました。
 というか、ようやく本格的に物語が動き始めた、という感じです。

 ところで前回、私は主人公をインド人のアジズだと述べましたが、違ったようです。
 アジズは猜疑心が強く、やや狭量で身勝手な所もあり、主人公の器ではありません。

 主人公はイギリス人のフィールディングのようです。彼は覚悟を持って行動します。
 仲間のイギリス人を敵に回しても、自分の信念に従ってアジズの無実を訴えました。

 フィールディングについて、とても印象に残っているシーンがあります。
 それはベランダで、アデラの言った「こだま」の意味を考えている時のことです。

 遠くに見えるマラバー丘陵が、自分の方へ優雅に近づいて、美しさに溢れました。
 そして、全宇宙がひとつの丘のように見えた瞬間、彼の傍らをすり抜けたのです。

 マラバー丘陵は、イギリス人の前に立ちはだかるインドの神秘性の象徴でしょうか。
 そしてこの場面は、イギリス人がインド人を理解できないことを示しているのでは?

 実際この体験の後、フィールディングは自分の人生についての自信が揺らぎました。
 最後まで読むと、この場面が物語の上で、重要な伏線となっているのに気付きます。

 さて、ラストもまた、とても象徴的で印象に残りました。
 馬の遠乗りで出かけた帰り道で、急に大きな岩に邪魔されて・・・

 さりげないシーンですが、いつまでも目に焼きついて離れません。
 いつの日か、このふたりが本当の友となってほしいと、心から思いました。

 さいごに。(設定、難しすぎ)

 infobar から ifoneSE へ機種変更して、私もとうとうスマホデビューしました!
 ところが、さまざまな初期設定が難しすぎて、なかなか使えるようになりません。

 特に苦手なのは、「次の文字を正しく読み取って入力して」みたいなヤツです。
 4と9、1と7、dとqの見分けがつきにくくて、何度も失敗しています。

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インドへの道1 [20世紀イギリス文学]

 「インドへの道」 E・M・フォースター作 小野寺健訳 (河出文庫)


 イギリスとインド、異なる文化を持つ者たちに現れるさまざまな亀裂を描いています。
 1924年刊行。フォースターの最後にして最大の傑作です。分かりやすい小野寺訳です。


インドへの道 (河出文庫 フ 21-1)

インドへの道 (河出文庫 フ 21-1)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2022/10/06
  • メディア: 文庫



 主人公の外科医のアジズは、インドの上流階級に属する青年で、イスラム教徒です。
 普段から、「イギリス人と友達になるのは可能か」という問題を考えています。

 当時のインドはイギリスの支配下にあり、人種間に明らかな差別があったからです。
 イギリス人は、インド人はもちろん、インド人と交流する者さえ軽蔑していました。

 しかし、イギリス人の中にも、インドを好み、インドに理解を示す人物もいました。
 そのひとりが、官立大学の学長フィールディングで、この物語の第2の主人公です。

 フィールディングがアジズをお茶に招待したことで、ふたりに友情が芽生えました。
 そのお茶会には、イギリスの老婦人と若い娘もいて、和やかに時間が過ぎました。

 アジズはついその席上で、「マラバー洞窟に招待しますよ」と口走ってしまいます。
 うっかり言ったひとことが、やがてアジズ自身を縛り、悲劇へと導いていくのです。

 「誰一人乗り気な者はいなかった。ところが、それは実現してしまったのである。」
 そして、若い娘アデラは途中ではぐれて、なぜかひとり慌てて帰ってしまいました。

 アデラはいったいどうしたのか? なぜ何も言わずに帰ってしまったのか?
 マラバー洞窟で何があったのか? それとも、何もなかったのか?

 そして、帰ってきたアジズは、いきなり駅で逮捕されてしまい・・・
 もやもやしたままどんどん進みます。まるでミステリー小説です。

 舞台は、インドのチャンドラポワという架空の町です。
 冒頭におけるこの町の描写がすごい。最初から不吉なことが起こりそうなのです。

 「目に入るものすべてがあまりにも貧弱であまりにもつまらないものだから、ガンジ
 スが増水したときには、このおできのような余計者を洗いながして土に還してくれれ
 ばくらいの気持ちにはなった。家は倒れ、人は水に溺れて腐るにまかされていても、
 町全体の輪郭は、下等でも死ぬことはない生物のように、こっちが膨らめばあっちが
 縮んで一向に変わらないのだ。」(P9)

 これが、イギリス人側から見たチャンドラポワの姿だったのでしょう。
 イギリス人にとってインドは、「つまらないもの」「余計者」「下等」な生物です。

 そしてまたそれは、インド人が見た母国の惨めな姿だったのかもしれません。
 それは、イギリスの植民地となって、無力な自分たちの姿を写しているようです。

 最初からイギリス人には、インド人に対する蔑(さげす)みと侮りがありました。
 最初からインド人には、イギリス人に対する嫌悪と諦めがありました。

 そういった感情がぐじゃぐじゃと渦巻いていたのが、チャンドラポワの町なのです。
 インドにおけるそういった感情を、フォースターは書きたかったように思いました。

 現在、ようやく半分ほど読み終わったところです。しかし、まだ物語の発端です。
 このあと裁判に入りますが、絶望的な展開がありそうで、なかなか気が進みません。

 さいごに。(ifoneの値段にびっくり)

 これまで使っていたガラケーは、ラインができなくなるなど、不便になりました。
 infobar xv にはこだわりがありましたが、とうとうスマホに変える決意をしました。

 ifoneのSEにしました。最新機種は14万円(御冗談を!)もするので手が出ません。
 SEなら7万円台(それでも高いって!)でした。円安で値上げしたのでしょうか。

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真夜中の子供たち3 [20世紀イギリス文学]

 「真夜中の子供たち(下)」 サルマン・ラシュディ作 寺門泰彦訳 (岩波文庫)


 インド独立の夜中0時に生まれた子供たちを中心に、当時のインドを描いた小説です。
 1981年発表。全3巻。岩波文庫では上下二分冊。今回は下巻の内容を紹介します。


真夜中の子供たち(下) (岩波文庫 赤 N 206-2)

真夜中の子供たち(下) (岩波文庫 赤 N 206-2)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/06/17
  • メディア: 文庫



 1962年11月、サリーム・シナイが15歳(?)のとき、中印国境紛争が休戦しました。
 「お祝いに遠足に行きましょう」と言われ、サリームが連れて行かれた場所は・・・

 なんと病院でした。手術で鼻から膿を出したら、テレパシー能力まで奪われました。
 しかし、その代わりにサリームには、すべてを嗅ぎ分ける嗅覚が備わりました。

 その嗅覚のおかげか、印パ戦争で爆撃された際、サリームだけが助かりました。
 ところが飛んできた短壺が頭に当たり、その衝撃ですべての記憶が失われたのです。

 6年後のパキスタンでは、3人の兵士と1匹の犬の小隊が活動していました。
 しかし、ある小隊では、追跡犬の代わりを嗅覚の鋭い「犬男」が務めていて・・・

 という具合で、第三巻は最初から笑える展開です。
 相変わらずバカバカしくも楽しいエピソードがあり、物語の味付けとなっています。

 ある兵士は「犬男」にいたずらをしようとして、彼の使う便器に電流を流しました。
 彼はまるで気づかず、放尿しながらそのモノから電気を吸収し、鼻で蓄電して・・・

 しかし、もっとも面白かったのは、サリームが自分の 〇 に求愛する場面でした。
 人から奪った呪文の羊皮紙を使って・・・この行為によって彼は清浄さを失い・・・

 サリームは記憶を一掃したことでリセットされたのか、ようやく浄化されました。
 名も無いただの「犬男」として生きることで、彼は罪滅ぼしをしたのでしょうか。

 さて、サリームは犬になったり、籠の中に隠れて透明人間となったりしましたが、
 自分を「無」にした結果、逆に「自分はすべてである」と悟ることになりました。

 「あるがままの自分とは? 私の答えはこうだ。私は私の前に過ぎ去ったすべてのも
 の、私が在り、見て、行なったすべてのもの、私に対してなされたすべてのものの総
 計である。この世に在ることによって私に影響を与え、かつ私から影響をうけた、す
 べての人、すべての物、それがすなわち私である。私は私が去ったあとに起こる、し
 かも私が来なかったら起こらなかったであろうすべてのものである。」(P335)

 なるほど。だから、時としてどうでもいいようなことが、細かく描かれているのか。
 この小説は、サリームを描きながら、同時にインドそのものを描いています。

 余談ですが、この物語についての感想を付け加えるなら「とにかく長い」に尽きます。
 しかも、ぐじゃぐじゃしているために、何度も迷子になりました。

 結末にたどり着いたころには、頭も体も疲れてしまい、うまく理解できませんでした。
 直前で15インチのうんこを出す男が出て来たりして、翻弄されてしまいました。

 この小説は、決して読みやすくはありません。また、決して万人向けではありません。
 しかし、それでも購入しておくことを勧めます。そのうちまた絶版になると思うので。

 さいごに。(あなたはスタバで恥ずかしげもなくほうじ茶を注文できるか)

 私はスタバが好きです。あの空間がたまらない。時々、文庫本を持って行きます。
 ところが、私はコーヒーが好きではない。では、どうするか?

 「ほうじ茶のホット、ストレートで!」
 コーヒーの名店ではありますが、私は恥ずかしげもなくこういう注文ができます。

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