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ミドルマーチ4 [19世紀イギリス文学]

 「ミドルマーチ4」 ジョージ・エリオット作 廣野由美子訳 (古典新訳文庫)


 架空の町ミドルマーチに住む数人の男女を軸に、様々な人間模様を描いた作品です。
 1871年刊行です。古典新訳文庫で全4巻です。今回はその第4巻を紹介します。


ミドルマーチ4 (光文社古典新訳文庫 Aエ 1-5)

ミドルマーチ4 (光文社古典新訳文庫 Aエ 1-5)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2021/03/10
  • メディア: 文庫



 リドゲイトは、ロザモンドとの新生活のため作った借金を、返済できずにいました。
 屋敷を他人に譲って狭い家に移ろうという計画は、妻ロザモンドに妨げられました。

 夫婦仲はすっかり冷めました。ロザモンドは不愉快のすべてを夫のせいにしました。
 リドゲイトはバルストロードに援助を頼みましたが、あっけなく拒絶されました。

 実はそのころバルストロードは、昔の知り合いのラッフルズにゆすられていました。
 彼には、銀行家として名を成す前、誰にも言えない後ろめたい過去があったのです。

 しかしバルストロードは、リドゲイトを拒絶した翌日、彼に援助を申し出ました。
 喜ぶリドゲイト。しかし、これは喜ぶべきことなのか? 裏に何かあるのでは?

 ラッフルズが病死し、バルストロードはもう秘密が漏れないと思いましたが・・・
 ラッフルズを診察して銀行家の援助を受けたリドゲイトには、あらぬ疑いが・・・

 「ミドルマーチ」の面白いところは、結婚の「その後」を描いているところです。
 ドロシアにしてもリドゲイトにしても、新生活の幻滅が生々しく描かれています。

 そこが、結婚で完了したオースティンの物語とは、根本的に違うところです。
 どろどろした感情に目を向けた点に、「ミドルマーチ」の価値があると思います。

 そのような中で、対照的に際立つのが、バルストロードの妻であるハリエットです。
 ここまでほとんど目立たなかった彼女が、ここでもっとも感動的な場面を作ります。

 「彼女は悲しみに沈みつつも、夫を責めようとはせず、恥辱と孤独をともに分かち合
 おうとしていた。(中略)彼女の手と目は、優しく彼のうえに留まっていた。彼はわ
 っと泣き出し、彼女は夫の傍らに坐って、二人はともに泣いた。」(P240~P245)

 バルストロードにとって不幸中の幸いは、妻が思いやり深い女だったということです。
 一方リドゲイトにとっての不幸は、妻が思いやりに欠けた女だったということです。

 この巻でもっとも印象に残るのは、リドゲイト夫婦の溝がどんどん深まる場面です。
 特に、甘やかされて育ったロザモンドは、自分のことしか考えられず身勝手で・・・

 しかし、リドゲイトにとっての救いは、ドロシアが良き理解者であったことです。
 それにしても、リドゲイトがドロシアにことの顛末を語る場面は実に痛々しいです。

 「ぼくはバルストロードさんから金を受け取ったので、あの人の人格がぼくをも包み
 込んでしまったわけです。ぼくはだめになってしまって、どうしようもありません。
 枯れたトウモロコシの穂みたいなものです。いったんやってしまったことは、取り返
 しがつきません」(P271)

 リドゲイトに同情したドロシアは、彼の潔白を伝えるためロザモンドを訪問します。
 ところが、ドロシアの家で見たものは・・・最後の最後まで目が離せない展開です。

 この作品は第4巻に入ってもダレることなく、かえっていっそう面白くなりました。
 しかも、終盤に入ってドロシアは、我々読者にとって想定外の決心をして・・・

 ところで、後半に重要な役割を果たすラディスローは、あまり存在感がありません。
 だから、なぜそれほどドロシアの心を惹きつけるのか、私には分かりませんでした。

 ただし、彼は次のような名言を残しています。
 背筋がぞっとするようなセリフですが、彼の気持ちが素直に吐露されています。

 「あの人に比べられる女性なんてひとりもいない。ほかの女の生きた手に触れるよ
 りも、死んだ手でもいいから、あの人に触れるほうが、ぼくにはいい」(P303)

 最終章は「フィナーレ」となっていて、登場人物の「その後」が描かれています。
 私としては、リドゲイトとロザモンドの「その後」が、少しだけ残念でした。

 さて、ようやく最後まで読みました。本当にすばらしい作品でした。
 「今年読んだ小説ベスト5」に、必ず入る作品だと今から宣言しておきます。

 さいごに。(股関節の痛み)

 先日、400mハードルを完走してから、右の股関節に時々激痛が走ります。
 指で押さえると痛みはやわらぎますが、忘れた頃にまた痛くなるので少し不安です。

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ミドルマーチ3 [19世紀イギリス文学]

 「ミドルマーチ3」 ジョージ・エリオット作 廣野由美子訳 (古典新訳文庫)


 架空の町ミドルマーチに住む2人の男女を軸に、様々な人間模様を描いた作品です。
 1871年刊行です。古典新訳文庫で全4巻です。今回はその第3巻を紹介します。


ミドルマーチ 3 (光文社古典新訳文庫)

ミドルマーチ 3 (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/07/08
  • メディア: 文庫



 ドロシアは、夫カソーボンの心の中に、何らかの危機が訪れたことを察しました。
 夫が医師リドゲイトにどんな相談をしているのか、ドロシアは聞きに行きました。

 ある夜カソーボンはドロシアに、自分の研究のふるい分けの作業を手伝わせました。
 彼は、自分の生涯をかけた研究を、ドロシアに託そうとしているかのようでした。

 「私が死んだら、私の願っていることを実行してくれるかどうか、よく考えたうえで、
 答えてほしい。私がやめてほしいと思うことはせず、私が望んでいることをしてくれ
 るかどうか、ということをね」(P111)

 「全神話解読」を怪しげな謎解きだと考えるドロシアは、答えるのに躊躇しました。
 翌日、夫のもとに行くと、テーブルに両腕をのせてうつ伏せになってなっていて・・・

 ドロシアに同情し、憤慨する人々。カソーボンの遺言補足書には何が書かれていたか?
 法律を学ぶためにロンドンへ去るラディスロー。ドロシアへの思いを胸に秘めて・・・

 「荷物といえば、旅行鞄ひとつしかないような人間は、自分の思い出を頭のなかにし
 まっておくしかないのです」(P255)

 「男には、人生で一度しか経験できないようなものがあります。そして、自分にとっ
 ていちばんいい時期が終わったことを、いつか悟らざるをえないのです。(中略)も
 ちろん、これからもぼくは生きていきますよ。夢うつつのうちに天国を見てしまった
 男みたいな生き方になるでしょうけれども」(P446)

 第3巻(第5部・第6部)は「転」に当たる巻で、いろいろな変化が起きました。
 最大の出来事がカソーボンの死です。ドロシアの人生観も大きく変わっていきます。

 読みどころは多いのですが、特に良い味を出していたのがフェアブラザーです。
 フレッドのために、メアリへの密かな思いを隠して、ふたりの仲立ちになって・・・

 フェアブラザーがフレッドに代わって彼の気持ちを伝える場面は、非常に哀切です。
 そして、感動的です。こういうのを高潔な態度と言うのでしょう。

 また、フレッドを雇う決心をしたケイレプ・ガースも、良い味を出していました。
 ケレイプとスーザン夫婦の、お互いを信頼し思いやっている会話もすばらしいです。

 「おまえは、自分の値打ち以下のものしか手にしていない。私なんかと結婚して。」
 「私は自分の知っている中で、最高の人と結婚したのですよ」

 善良な人々は、物語を感動的にします。しかし、物語を面白くするのは悪党です。
 途中出場のラッフルズは、また違った意味で良い味(?)を出していました。

 バルストロードに妙な絡み方をしてくるラッフルズとは、いったい何者なのか?
 バルストロードの怪しげな過去が、やがて徐々に明かされていき・・・

 さて、物語も半ばを過ぎましたが、エリオットの文章はまったくだれません。
 相変わらず、絶妙な比喩がばんばん登場します。読んでいて時々うなりました。

 「偏見とは、匂いを放つ物体のように、実体と捉えどころのなさという二重の要素を
 備えているものだ。実体性という点ではピラミッドのように堅いが、捉えどころのな
 さという点では、谺(こだま)のそのまた谺のように消え入りそうで、暗闇のなかで
 香りを放つヒヤシンスの記憶のように淡い。」(P17)

 「噂というものは、しばしば軽率に、しかし効果的に伝えられていくものだ。それは、
 蜜蜂が好みの蜜を探しながらぶんぶん飛び回っているときに、(自分が粉だらけにな
 っているとも気づかず」花粉を撒き散らすやり方に似ている。」(P371)

 ところで、この本の巻末(P460~P461)には、詳細な人物関係図が載っています。
 ありがたく思って見てみたのですが、複雑に入り組んでいて頭に入りませんでした。

 さいごに。(大会に出ました)

 先週、読書0ページの私はもちろん練習0時間でした。それでも大会は出ました。
 400ハードルを1分11秒かけてなんとか完走しました。けがをしなくて良かった!

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ミドルマーチ2 [19世紀イギリス文学]

 「ミドルマーチ2」 ジョージ・エリオット作 廣野由美子訳 (古典新訳文庫)


 架空の町ミドルマーチに住む2人の男女を軸に、様々な人間模様を描いた作品です。
 1871年刊行です。古典新訳文庫で全4巻です。今回はその第2巻を紹介します。


ミドルマーチ2 (光文社古典新訳文庫 Aエ 1-3)

ミドルマーチ2 (光文社古典新訳文庫 Aエ 1-3)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/11/08
  • メディア: 文庫



 市長の長男フレッド・ヴィンシーは、職に就かず毎日をだらだらと過ごしています。
 金持ちのフェザストーンの相続人と目されているため、甘やかされているのです。

 フレッドは、フェザストーンの看護をしているメアリー・ガースに求愛しています。
 メアリーもフレッドに好意を持っていますが、彼が職についてないので応じません。

 フレッドは、仲間から借りた160ポンドを返すため、メアリーの父に借金しました。
 しかし、彼の見込みが甘かったせいで、その金を返すことができなくなったのです。

 ガース家は困り果て、フレッドも良心を痛めますが、どうすることもできません。
 そのころフェザストーンが死の床に就き、フレッドへの相続の期待が高まりました。

 と同時に、フェザストーンの親類たちが、何かおこぼれをもらおうと集まりました。
 そんな人々の卑しさを、何も期待していないメアリーは、冷徹に観察していました。

 「彼女はすでに、人生とはまさに喜劇だと思う境地に至っていた。そのなかで自分は、
 卑劣な役や不誠実な役は演じまいと、誇り高く、というよりも広い心で構えていた。
 (中略)みんなばかげた妄想に取りつかれていた。自分も例外なく道化師帽をかぶっ
 た愚か者であるのに、それには気づかず、他人の愚かさは見え透いていて、自分だけ
 は見透かされないと思っているのだ。」(P191)

 そんなメアリーだったからこそ、フェザストーンの最後の頼みに応じられず・・・
 それによって、さまざまなどんでん返しがあり・・・そしてフレッドは・・・

 と、フレッドとメアリーの恋愛は、遺産問題と絡まって、実に面白い展開をします。
 フレッドにとって不本意な展開ですが、最終的にはプラスになるような気がします。

 さて、ここで興味深いのが、フレッドのメアリに対する愛情です。
 メアリーは美人でもなく金持ちでもありませんが、心が豊かでまっとうな女性です。

 そんなメアリーを愛したところに、フレッドというのらくら青年の美点があります。
 彼は、軽薄でばかげた青年に見えますが、本当は純な心を持っているのではないか?

 ところで、メアリーの母親もしっかりしていて、見栄えはメアリーより良いのです。
 それはめったにないことです。そのことを、次のように絶妙な表現で伝えています。

 「母親を見て、娘の方もこんなふうになってほしいと思われるようならば、それは持
 参金にも匹敵する財産だ。しかし実際には、母親は『娘も間もなく、私みたいになっ
 てしまうのですよ』と予言する背後霊のような役割を果たしている場合の方が、ずっ
 と多いようだ。」(P38)

 この第2巻では、リドゲイトとロザモンドの関係もいっきに進みました。
 噂を恐れたリドゲイトは、ロザモンドと距離をとりますが、そのことがかえって・・・

 また、ドロシアとラディスローも、微妙な仕方で接近していきます。
 ふたりともまだ自分の本当の気持ちに気づいていないようですが・・・

 「ミドルマーチ」はここでようやく中間点です。
 第3巻はどんな展開をするでしょうか。目が離せません。

 さいごに。(幻想的な青いラン)

 先週訪れた花博で、青いランを見ました。とても幻想的な美しさでした。
 また、さりげなく植えてある花たちにも、疲れた心を癒されました。

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ミドルマーチ1 [19世紀イギリス文学]

 「ミドルマーチ1」 ジョージ・エリオット作 廣野由美子訳 (古典新薬文庫)


 架空の町ミドルマーチに住む2人の男女を軸に、様々な人間模様を描いた作品です。
 1871年刊行です。作者の代表作であり、ヴァージニア・ウルフに激賞されました。


ミドルマーチ1 (光文社古典新訳文庫)

ミドルマーチ1 (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/01/08
  • メディア: 文庫



 ドロシア・ブルックと妹のシーリアは、幼い頃両親を亡くし伯父に育てられました。
 伯父のブルック氏はそこそこ良い家柄で、ふたりは何不自由なく育てられました。

 ドロシアは美しいので、魅力的な青年ジェイムズ・チェッタムが恋していました。
 ところが18歳のドロシアは、45歳の牧師エドワード・カソーボンに惹かれたのです。

 カソーボンは「全神話解読」の執筆に向けて、日々神話の研究に明け暮れています。
 そんな彼がドロシアには、立派な精神で自分を導いてくれるように見えたのです。

 「この方は、高貴な内面生活というものを理解しておられるのだ。この方となら、魂
 の交わりというものが可能かもしれない。」(P47)
 
 つまり、ドロシアは結婚に対して、高い理想(というより幻想)を持っていました。
 そして、カソーボンの求婚を即座に受け入れ、ローマへの新婚旅行に旅立ちました。

 理想的な結婚をしたにもかかわらず、ドロシアもカソーボンも幸せではなく・・・
 ローマのドロシアの宿に、カソーボンの甥ウィル・ラディスローの訪問があり・・・

 というように、このあとの展開が、もうなんとなく読めるような気がします。
 それでいながら、この物語から目が離せません。この先どうなってしまうのやら?

 第一巻は、第1部「ミス・ブルック」と、第2部「老いと若さ」から成っています。
 そしてこの巻は以上のように、カソーボン夫妻を中心として物語が進行しています。

 それと同時に、ミドルマーチにやってきた若き医者リドゲイトの物語も進行します。
 ほか、フェアブラザー牧師一家との交流、市長ヴィンシー氏の娘ロザモンドとの恋。

 さらに、ドロシアの妹シーリアとジェイムズ・チェッタムとの淡い恋や、フレッド
 ・ヴィンシーとメアリ・ガースとの微妙な関係などが、重層的に展開しています。

 ミドルマーチの人々を描くことにより、「人間」とは何かを考察した小説です。
 冒頭を飾る次の言葉が、そのことを象徴しているように思います。

 「人間の歴史とは何か? いろいろな要素が入り混じった人間という得体の知れない
 存在が、さまざまな時の試練を経ていかに振る舞うか?」(P6)

 多くの人々が登場するので、誰が誰なのか分からなくなってしまうこともあります。
 そういうときは栞が役に立ちます。主要登場人物がコメント入りで書いてあるので。

 ちなみに私は、ドロシアとシーリアの伯父アーサー・ブルックが気に入りました。
 ブルック氏は60がらみの愚かな男として描かれますが、いい味を出しているのです。

 「実を言うと、私は結婚の罠に掛かってしまうほど、誰かを愛したことはない。結婚
 というのは罠だからね。」(P87)

 このセリフは、独身を通したブルック氏が言うと、ちょっと滑稽で笑えます。
 ところが、のちの展開を考えると、この言葉は真実を言い当てているので驚きます。

 さて、私はこの作品がジェイン・オースティンの小説に似ていると思いました。
 文章が美しく、ユーモアがあり、先が読めて読みやすい、などの共通点があります。

 さらに、結婚をテーマとしている点でも同じですね。
 この先、ドロシアとカソーボンの結婚は、いったいどうなっていくのでしょうか?

 さいごに。(花博)

 仕事の引き継の忙しい中を縫って、先日の日曜日に、家族で花博に行ってきました。
 色んな色のチューリップに囲まれ、優雅な時間を過ごせたので、心が癒されました。

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二人の女王 [19世紀イギリス文学]

 「二人の女王」ヘンリー・ライダー・ハガード作 大久保康雄訳(創元推理文庫)


 アフリカの奥地にあるという白色人種の国を目指して、冒険する男たちの物語です。
 「ソロモン王の洞窟」の続編で、アラン・クォーターメンのシリーズの第2作です。


二人の女王 (創元推理文庫 518-3)

二人の女王 (創元推理文庫 518-3)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1975/02/14
  • メディア: 文庫



 アラン・クォーターメンは、ひとり息子に死なれて、悲しみのどん底にありました。
 彼は、この悲しみを癒してくれるのは、自然のエネルギーだけだと感じていました。

 「たしかに、悲しみにうちひしがれたときや、屈辱にまみれたときには、文明は、ま
 るで私たちの力になってくれない。そんなとき、私たちは、後へ後へとあとずさりし
 て、自然の大きな懐へとびこんで、子供のようにそこに身を横たえる。自然は私たち
 を慰め、痛みを忘れさせてくれるだろう。」(P14)

 そんな折突然、クォーターメンのもとへ、カーティス卿とグッド大佐が訪れました。
 この3人は、3年前に「ソロモン王の洞窟」を求めてアフリカを探検した仲間です。

 そして、「もう一度アフリカ探検に」という話になりました。あの大自然の中へ!
 3人は、ケニア山の奥にあるという、伝説の白色人種の国を目指して出発しました。

 途中、ズル人の老戦士ウンスロボガースを仲間に加え、一行はタナ河を遡ります。
 宣教師マッケンジーの伝導館においては、獰猛なマサイ族との殺戮戦がありました。

 一行のカヌーが洞穴に飲み込まれ、火柱が上がる水面を抜けて出た場所は・・・
 ズ・ペンディ国を統治するのは、ニレプタとソレイスという双子の美しい女王・・・

 この物語の魅力は、エキゾチックな雰囲気です。
 アフリカ奥地に謎の白人王国があり、ふたりの女王が治めている、という設定です。

 特に姉のニレプタは、情もあり知性もあり、たいへん魅力的に描かれています。
 そしてときどき、次のような気の利いたセリフを吐きます。

 「結婚とは、口をつけて飲むまではどんな味がするものか誰にもわからぬ酒杯のよう
 なものじゃ。」(P273)

 「幸福とは、めったに姿を見せぬ白い鳥のようなものじゃ。いま見かけたと思うと、
 あっという間に、はるか遠くへ飛び去り、いつしか雲のなかに姿を消してしまう。そ
 れゆえ、たとえ一瞬でも、その鳥がわたしたちの手にとまるようなことがあったら、
 しっかりつかまえておかなければならぬ。」(P313)

 双子姉妹の女王によって治められた王国は、微妙なバランスを保っていました。
 しかし、外部からの侵入者クォーターメンらによって、大きな内乱が勃発しました。

 その展開を、ロマンティックと言う人もいますが、私には少々愚かしく思えました。
 ふたりの女王は、内乱を避ける方法を、考えることができなかったのでしょうか?

 あっというまに国を割る内乱に突入してしまう展開は、いかがなものでしょうか?
 B級小説っぽい雰囲気にあふれています。そういうところは、嫌いでないのですが。

 ちなみに、B級っぽい感じをぎりぎりのところで救っているのが、作者の文章です。
 たとえば、読者は物語の中で、次のような素敵な文に不意に出会って驚くのです。

 「どんな真剣な事件にも、たいていユーモアという形の銀の縁がとり巻いていて、見
 る目さえあれば笑ってすまされるということを、私たちは心から感謝すべきであろう。
 ユーモアのセンスは、人生における貴重な財産の一つだ」(P277)

 ところで、結末はなかなか衝撃的でした。最も印象に残ったのは妹王ソレイスです。
 ひとりひとりに感謝の言葉を述べたあと、彼女はどのような行動に出たのか?!

 そして、ウンスロボガースの死! そして、クォーターメンの死!
 しかし、クォーターメンは、ファンに惜しまれて、のちに復活するのだそうです。

 さて、名作「洞窟の女王」にも続編があって、それが「女王復活」です。
 こちらも絶版です。もし手に入ったら、ぜひ読んでみたいです。


女王の復活 (創元推理文庫 518-4)

女王の復活 (創元推理文庫 518-4)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1977/03/18
  • メディア: 文庫



 さいごに。(奈良天理ラーメン)

 先日の奈良旅行の帰りに、「奈良天理ラーメン」というカップ麺を買いました。
 スーパーで250円ぐらいでしたが、これが、めちゃくちゃおいしかったです。


寿がきや 全国麺めぐり 奈良天理ラーメン 117g ×12個

寿がきや 全国麺めぐり 奈良天理ラーメン 117g ×12個

  • 出版社/メーカー: 寿がきや食品
  • 発売日: 2020/03/16
  • メディア: 食品&飲料



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ノーサンガー・アビー [19世紀イギリス文学]

 「ノーサンガー・アビー」ジェイン・オースティン作 中野康司訳(ちくま文庫)


 社交界で知り合った兄妹に、ノーサンガー・アビーに招待された少女の物語です。
 作者の死後1818年に「説得」と合本で刊行されましたが、実質的には処女作です。


ノーサンガー・アビー (ちくま文庫 お 42-8)

ノーサンガー・アビー (ちくま文庫 お 42-8)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2009/09/09
  • メディア: 文庫



 17歳のキャサリンは大地主のアレン夫妻に、一緒にバースに行こうと誘われました。
 バースで社交界デビューを果たし、25歳のヘンリー・ティルニーと知り合いました。

 キャサリンはダンスの後でヘンリーとおしゃべりし、すっかり彼を気に入りました。
 また、ヘンリーの妹とも知り合い、彼らが立派な家柄の出であることも知りました。

 キャサリンは、年上のイザベラと、その兄で気取り屋のジョンとも知り合いました。
 ジョンには好意を寄せられますが、彼の虚言癖によりたびたび振り回されるのです。

 ティルニー家はバースを去るとき、キャサリンを彼らの屋敷に招待してくれました。
 その屋敷こそが「ノーサンガー・アビー」(元修道院の屋敷をアビーと言います)。

 ゴシック小説ファンのキャサリンは、アビーと聞いただけでワクワクし始めました。
 多くの謎とスリルに満ちた古い修道院は、よくゴシック小説の舞台となるからです。

 ノーサンガー・アビーの主人ティルニー将軍は、キャサリンを丁重に迎えました。
 しかし、キャサリンはなぜか将軍に対して、不自然で冷たいものを感じました。

 ミス・ティルニーが亡き母の部屋を案内しようとすると、将軍はきつく止めました。
 なぜ母の部屋が立ち入り禁止なのか? キャサリンの妄想があふれ出しました。

 「ティルニー夫人はまだ生きていて、なにかわけがあって、秘密の部屋に閉じ込めら
 れていて、冷酷な夫から毎晩粗末な食事を与えられているのだ。」(P284)

 翌日、ミス・ティルニーとその部屋に行くと、将軍がいて大声で怒鳴り・・・
 しかし、もっとも不可解なのは、キャサリンが理由もなく追い出されたことで・・・

 という具合に、この作品はなんとなくミステリー小説ふうなのです。
 「あとがき」によると、ホラー小説の読みすぎを揶揄しているのだそうです。

 キャサリンはゴシックのファン。その愛読書はラドクリフの「ユードルフォの謎」。
 彼女が「世界一すてきな本」という「ユードルフォの謎」を、読んでみたいです。


ユドルフォ城の怪奇 上

ユドルフォ城の怪奇 上

  • 出版社/メーカー: 作品社
  • 発売日: 2021/09/02
  • メディア: 単行本



 「子供のころのキャサリン・モーランドを知っている人は、彼女が小説のヒロインに
 なるように生まれついたなんて絶対に思わないだろう。」(P8)

 という冒頭で分かる通り、主人公キャサリンは、どこにでもいる平凡な女の子です。
 平凡な少女をヒロインにした点で、当時の小説のヒロイン像に異を唱えています。

 オースティンは、当時流行の小説やホラー小説のパロディを書きたかったのですね。
 一方、次のような記述からは、小説を書くプライドのようなものが感じ取れます。

 「つまり小説とは、偉大な知性が示された作品であり、人間性に関する完璧な知識と、
 さまざまな人間性に関する適切な描写と、はつらつとした機知とユーモアが、選び抜
 かれた言葉によって世に伝えられた作品なのである。」(P47)

 しかし、処女作であるこの作品には、まだどこか習作っぽい雰囲気がありました。
 オースティンは、何を書きたいのか充分に的が絞れていないように思えました。

 たとえば「ノーサンガー・アビー」という語が登場するのは、やっとP209からです。
 この辺りを境に前後半が分かれ、そこに大きな断絶があるように感じられました。

 さて、すでにオースティンの作品は四つ紹介しました。
 あと二作品「分別と多感」「マンスフィールド・パーク」も今年中に読みたいです。


分別と多感 (ちくま文庫 お 42-6)

分別と多感 (ちくま文庫 お 42-6)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2007/02/01
  • メディア: 文庫



マンスフィールド・パーク (ちくま文庫 お 42-9)

マンスフィールド・パーク (ちくま文庫 お 42-9)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2010/11/12
  • メディア: 文庫



 さいごに。(「砂の惑星」を見てしまった)

 先日から咳が出始めて、昨日の午後急に熱が出たので、医者で診てもらいました。
 検査の結果、コロナでもインフルでもなくひと安心。念のため仕事は休みました。

 処方してもらった風邪薬が効いたのか、一日ですんなり回復しました。
 貴重なお休みの日、Uネクストで「DUNE砂の惑星」を見ました。良かったです!


DUNE/デューン 砂の惑星 [DVD]

DUNE/デューン 砂の惑星 [DVD]

  • 出版社/メーカー: ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
  • 発売日: 2022/10/07
  • メディア: DVD



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説得 [19世紀イギリス文学]

 「説得」 ジェイン・オースティン作 中野康司訳 (ちくま文庫)


 周りに「説得」されて婚約を解消したアンが、8年後に元恋人と再会する物語です。
 1818年に刊行された最後の長編小説です。「説きふせられて」の題でも出ています。


説得 (ちくま文庫 お 42-7)

説得 (ちくま文庫 お 42-7)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2008/11/10
  • メディア: 文庫



 ウォルター・エリオットは虚栄心の塊で、准男爵であることを鼻にかけています。
 13年前に妻が亡くなってからは、大きな屋敷で贅沢三昧の暮らしを続けてきました。

 エリオット家には3人の娘がいて、29歳の長女エリザベスが切り盛りをしています。
 27歳の次女アンがこの物語の主人公です。3女のメアリーはすでに結婚しています。

 さて、贅沢に慣れた一家は毎年借金を重ね、生活様式を変える必要に迫られました。
 エリオット家はこれまでの屋敷を他人に貸して、バースに引き込むことにしました。

 そして彼らの屋敷を借りることになったのは、海軍で活躍したクロフト提督でした。
 その妻には弟がいました。それがウェントワース大佐だと知ってアンは驚きました。

 ウェントワースは、以前アンが周りに説得されて婚約を解消した相手だったのです。
 当時23歳の彼はまだ財産がなくて、准男爵家には不釣り合いだと考えられたのです。

 しかし、この8年間にウェントワースは手柄を立て、相当な財産を築いていました。
 彼は今も、アンを許していないようでした。一方アンは今では、後悔していました。

 「あのときの自分と同じような状況に立たされた若い娘が、もしいま自分に助言を求
 めてきたら、アンは、あのような不確実な将来の幸福のために、あのような絶対確実
 な不幸を選ぶような助言は絶対に与えないだろう。」(P50)

 アンが妹メアリーの嫁いだマスグローヴ家にいるとき、ウェントワースが来て・・・
 ウェントワースはマスグローヴ家の娘たちと仲良くなり、屋敷に通うように・・・

 読んでいるうちに、しだいに穏やかで優しい気持ちになっていきます。
 それもみな、主人公アンの良識と思いやりによるものでしょう。

 アンには早く幸せになってほしい。早くウェントワースとよりを戻してほしい。
 しかし、ふたりの関係は遅々として進みません。展開が遅くてじれったくなります。

 やや退屈な中盤をなんとか持ちこたえさせているのが、怪しげな〇〇〇〇〇氏です。
 なぜ急に態度を改め交際を求めてきたのか? こういう悪党が物語を面白くします。

 第21章で氏の正体が明かされてから、物語はテンポが良くなりいっきにラストへ。
 かつて〇〇〇〇〇氏は、何を企んだのか? そして今彼は、何を企んでいるのか?

 そして、アンの控えめだがしっかりした態度が、幸せを呼び寄せます。
 ウェントワースとのほんのちょっとした会話が、ふたりの運命を変えるのです。

 「でも時が経てばいろいろ変わるでしょう」
 「いいえ、私はそんなに変わっていませんわ」
 「ずいぶん昔の話です! 八年半といえば一昔前です!」(P373)

 良い人と悪い人が明確に分けられているため、展開も文章も分かりやすかったです。
 アンが絶対幸せになって終わるはずだという確信が持てて、安心して読めました。

 ところで、時代が時代なので、物語のいたるところから階級差別を感じました。
 アンと従兄のエリオットとの次のような会話から、当時の英国の状況が分かります。

 「エリオットさん、私が考える良き交際相手とは、知性と教養にあふれた、話題の豊
 富な人たちですわ。それが私の言う良き交際相手ですわ」
 「いや、それは違いますね」とエリオット氏は穏やかに言った。「それは良き交際相
 手ではなくて、最高の交際相手です。良き交際相手に必要なのは、家柄と教育と礼儀
 作法だけです。」(P246)

 アンの言葉はそのままオースティンの言葉でしょう。作者の趣味の良さを感じます。
 次は、出版時に合本になっていた「ノーサンガー・アビー」を読んでみたいです。

 さいごに。(Uネクストでムーは・・・)

 Uネクストでは、「超ムーの世界R」の全186話がすべて見られます。すばらしい!
 しかし186話もあると逆に見る気が失せて、「退職後でいいか」と思ってしまいます。

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ロード・ジム2 [19世紀イギリス文学]

 「ロード・ジム」 ジョセフ・コンラッド作 柴田元幸訳 (河出文庫)


 海難事故で自分の弱さを露呈した船員が、英雄的行動を志して悲劇に至る物語です。
 1900年刊のコンラッドの代表作です。河出文庫の柴田訳が格段に分かりやすいです。


ロード・ジム (河出文庫)

ロード・ジム (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2021/06/18
  • メディア: Kindle版



 マーロウ船長は、友人のスタインにジムの世話を頼み、ジムは奥地へ赴任しました。
 ジムにとっては人生をやり直すチャンスであり、二度と戻らぬ覚悟でいました。

 ジムは、流れ者のシェリーフ・アリの野営地を陥落させ、人々から信頼を得ました。
 古い大砲二門を、小山の上に運び上げることは、ジム以外にはできないことでした。

 族長ドラミンの息子ダリン・ワリスと親交を結び、また、美しい娘と結ばれました。
 やがてジムは、現地において伝説的存在となり、「ロード・ジム」と呼ばれました。

 ところが、ジムに恨みを抱いている者がいました。小悪党のコーネリアスです。
 そこへ、ブラウンという悪党が流れてきたことによって、意外な展開が・・・

 「事実というものは往々にして、この上なく狡猾に配置された言葉以上に謎めいて
 いるものだ。」(P457)

 なぜジムは、戦わなかったのか? なぜジムは、弁明しなかったのか?
 誰の理解も期待しないジムの胸には、常にあの「飛び降り」があったのではないか?

 「君はいつまでも、彼らにとって解きがたい謎であり続けるだろうよ。」(P411)
 マーロウのこの言葉は、奇しくもその通りとなりました。

 ジムの行動には、確かに理解しがたいものがあります。
 愛する女性や自分を慕う人々のために、説明はするべきですよ。

 逆に、ブラウンの卑劣で残虐な行動は、小気味いいほど分かりやすかったです。
 コーネリアスの卑怯な行動も、好感が持てるぐらいに徹底していました。

 皮肉なことに、現地人の中ではコーネリアスこそが、ジムの最大の理解者なのです。
 実際コーネリアスは、ジムがブラウンに会いに来るという予言を的中させました。

 「まっすぐここへ、あなた様と話をしに来ますよ。とにかく馬鹿みたいな男ですか
 ら。会えばどれだけ馬鹿だか分かります。(中略)幼い子供みたいなのです。」
 (P505)

 考えてみると、ブラウンを簡単に信じたところなど、ただのお人よしの子供です。 
 しかし、その純粋さゆえに、読者はジムに魅了されるのかもしれません。

 さて、コンラッドの作品ンいは、有名な「闇の奥」があります。
 「闇の奥」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2011-03-19

 また、「シークレット・エージェント」も古典新訳文庫から出ています。


シークレット・エージェント (光文社古典新訳文庫)

シークレット・エージェント (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/06/10
  • メディア: 文庫



 さいごに。(与党支持の私が、野党候補者に投票する理由)

 昨年の参院補選では、圧倒的優位の与党W氏を、Y氏が倒して話題になりました。
 その直後、Y氏は2年も前に終わっている不倫を蒸し返され、総スカンを食いました。

 しまいには、これまで二人三脚で歩んできた知事にさえ、見捨てられてしまいました。
 私はここに納得できない! Y氏に同情票を1票!(あくまでも同情票)

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ロード・ジム1 [19世紀イギリス文学]

 「ロード・ジム」 ジョセフ・コンラッド作 柴田元幸訳 (河出文庫)


 海難事故で自分の弱さを露呈した船員が、英雄的行動を志して悲劇に至る物語です。
 1900年に出ました。コンラッドの代表作です。1965年に映画化されています。

 以前は講談社文芸文庫でしか読めませんでした。しかもひどく古い訳でした。
 現在は、河出文庫から柴田元幸の訳が出ています。格段に分かりやすいです。


ロード・ジム (河出文庫)

ロード・ジム (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2021/06/18
  • メディア: Kindle版



 主人公のジムは、のちに「ロード・ジム」(ジム閣下)と呼ばれるようになる男です。
 牧師の息子ですが、大きな理想を持って船乗りとなり、活躍の場を求めていました。

 「二年間訓練を受けた末に船乗りとなって、己の想像力がすでによく知っている世界
 に入ってみると、そこには奇妙に冒険が欠けていた。」(P19)

 航海中に怪我をしますが、退院後は本国へ帰らずパトナ号の一等航海士となりました。
 パトナ号は化石的に古い蒸気船で、800人もの巡礼者たちを載せていました。

 ある夜、船が異常事態に陥りますが、船長や船員たちは密かにボートで脱出しました。
 ジムは船客と運命を共にしようと思いながら、無意識にボートに飛び降りていました。

 しかしパトナ号は沈まず、フランス軍艦に助けられ、船員の行動は問題となりました。
 船長らが逃げてしまったあと、ジムはひとり裁判にかけられ、屈辱を味わいました。

 ジムに同情したマーロウ船長(語り手)は、ジムに知り合いの工場を紹介しました。
 ジムは居場所を見つけましたが、しばらくのちに、なぜか突然去って行き・・・

 以前、講談社文芸文庫で読んだときには、これを孤高の英雄の物語とみなしました。
 講談社文芸文庫「ロード・ジム」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2011-03-21

 しかし、今回新訳で読み直してみて、次のように思い直しました。
 これは、英雄的な冒険に憧れた青年の悲劇なのではないか。しかも、やや滑稽な。

 ジムを追い詰めたのは、自分は英雄的な人物だ、というジム自身の思い込みでは?
 だからジムは、自分自身の犯した卑劣な行動を、決して許せなかったのでしょう。

 「でもぼくは、こいつを乗り越えなくちゃいけない。何ひとつ逃れちゃいけないん
 です、さもないと・・・駄目です、絶対何ひとつ逃れやしません。」(P209)

 トンズラした船長らに比べて、裁判を受けたジムは、確かにとても立派でした。
 だから最初、現実逃避のように遠くへ流れていくジムの姿に、違和感を覚えました。

 ジムは、英雄として行動したかったので、ひとりでも裁判に立ち向かったのでは?
 そして、英雄として存在したかったので、パトナ号事故の噂から逃げ回ったのでは?

 ジムのそのような性向を、スタインは「ロマンチスト」と呼びました。なるほど。
 確かにジムは夢や空想を追っていて、現実離れした面があるように思います。

 さて現在、ちょうど半分ほどを読み終わりました。
 マーロウがスタインにジムを預けるところからです。物語はここからが面白い!

 「自分の命は救われたが、人生はもう終わったとーー足元の地面を失って、目の
 前に見えるものも消えて、耳に聞こえる声もなくなって。すべて滅ぼされたんだ
 とーー」(P157)

 しかし、ここから、ロマンチスト・ジムの人生やり直し大作戦が始まります。
 がんばれ、ジム。彼は、失った名誉を取り戻すことができるのだろうか。

 さいごに。(パラレル・ワールド)

 うちではしょっちゅうパラレルワールドが出現します。
 というのも、今使っていた消しゴムが、忽然として消えてしまっていたり・・・

 そういう時、私と娘は、「パラレル・ワールドに行っちゃった」と言います。
 その証拠に、探すのをやめると、忽然と現れることが多いので。

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透明人間 [19世紀イギリス文学]

 「透明人間」 H・G・ウェルズ作 橋本槙矩訳 (岩波文庫)


 透明人間となった科学者が巻き起こす、数々の事件を描いた物語です。
 「タイムマシン」「宇宙戦争」と並ぶ、ウェルズのSF小説の代表作です。


透明人間 (岩波文庫)

透明人間 (岩波文庫)

  • 作者: H.G. ウエルズ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1992/06/16
  • メディア: 文庫



 ある寒い日、ロンドン郊外のアイピング村の宿屋に、外套を着た男が泊まりました。 
 その男は体中に包帯を巻いていて、なぜか人々が近づくことを嫌がっていました。

 部屋に実験道具を運び込み、何やらやっている男のことは、やがて噂になりました。
 多くの人々の注目が集まる中、とうとう男は宿屋で正体を現します。

 男が顔の包帯を外すと、そこには何もなく・・・
 巡査も来て男を捕まえようとするが、男が服を脱ぐと何も見えなくなり・・・

 ところで、「透明人間」という技術は、実際に可能なのでしょうか?
 この小説では、一応次のように説明されていますが、よく分かりません。

 「研究の肝心のポイントは、ある種のエーテル波動の二つの発光中心点の中間に、
 その屈折率が低くなるような透明な物質を置くことなのだ。」(P152)

 研究を重ねてようやく透明人間になったものの、彼は孤独でつらいことばかり・・・
 われわれ読者が透明人間に同情し始めたとき、彼は恐ろしい考えを打ち明けて・・・

 小学生のころは透明人間になってみたかった。「透明人間」なんて歌も流行ったし。
 しかしこの小説を読むと、透明人間に対する憧れなんかは吹き飛んでしまいます。

 でもよく考えてみると、元に戻る薬を発明できなかった点に、彼の不幸があります。
 「天狗の隠れ蓑」があって、自由自在に姿を消せるのなら、きっと楽しいでしょう。

 さて、セイントの「透明人間の告白」という小説もあり、椎名誠が押しています。
 科学研究所の事故によって透明になってしまう、という話のようです。


透明人間の告白 上 (河出文庫)

透明人間の告白 上 (河出文庫)

  • 作者: H・F・セイント
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2011/12/03
  • メディア: 文庫



 さいごに。(年末年始)

 年末年始は6日間、仕事を完全に休みました。
 年末は大掃除と読書。年始は親戚周りと読書。充実した読書時間を過ごせました。

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