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豹頭の仮面 グイン・サーガ① [日本の現代文学]

 「豹頭の仮面 グイン・サーガ①」 栗本薫 (ハヤカワ文庫)


 亡国の世継ぎレムスと双子の姉リンダが、豹の仮面戦士グインと冒険する物語です。
 1979年に刊行され、外伝を合わせ150巻以上続いた、グイン・サーガの第一巻です。


豹頭の仮面―Guin saga 1 (1979年) (ハヤカワ文庫―JA)

豹頭の仮面―Guin saga 1 (1979年) (ハヤカワ文庫―JA)

  • 出版社/メーカー:
  • メディア: 文庫



 中原で最も豊かで美しい王国パロは、突然モンゴール兵に攻められ滅亡しました。
 城が落ちるとき、双子の遺児レムスとリンダは、不思議な力で脱出させられました。

 弟のレムスは聖王アルドロスの世継ぎです。姉のリンダは予知能力を備えています。
 ふたりは辺境の森をさまよっているとき、ゴーラ国の兵たちに捕らえられました。

 しかしふたりは、見知らぬ戦士に助けられました。戦士は、豹の頭をしていました。
 豹頭の戦士はグインと名乗りましたが、なぜかそのほかの記憶が無かったのです。

 「俺は何者だ――グイン? それが俺の名なのか? 俺は誰と戦い、なぜこの森にい
 る? なぜこんなーーこんなものをかぶせられ、どんな呪いでとることさえできない
 のだろう」(P45)

 ただ「アウラ」という言葉だけが頭に鳴り響きますが、その意味も分かりません。
 グインは自分の記憶を求めて、そして双子を守りながら、冒険の旅に出るのです。

 その夜三人は、森の中でグール(食屍鬼)たちに襲われて・・・
 モンゴール兵に捕らえられ、黒死病の黒伯爵によって塔に幽閉され・・・

 グインは、レムスとリンダを安全なところへ導くことができるのか?
 グインは何者なのか? なぜ豹頭の仮面をつけていたのか?

 150巻以上も続く「グイン・サーガ」の第1巻です。読み出したら止まりません。
 私は一話完結だと思っていましたが、この巻は物語の途中で終わってしまいました。

 先が気になりますが、第2巻「荒野の戦士」もまた途中までで終わるらしいのです。
 続きを読み始めたら全巻読むことになりそうです。続きは退職後の楽しみにします。

 さて、この物語の魅力は次々に現れる化け物たちでしょう。特にドール(食屍鬼)!
 ドールは、死肉を食ってその死体に乗り移ります。いわゆるゾンビですね。

 「首のない屍。背中から腰まで、真二つに割られ、血を吹き出させたままの者。ちぎ
 れた腕が指先で歩き、重い武器でおしつぶされて、人間の奇怪でいやらしい戯画のよ
 うなすがたになった死体につきしたがっている。」(P63)

 しかもこのゾンビたちは、斬っても斬っても死にません。
 それどころか、二つに斬れば二つに分かれ、数を増やして襲ってくるのです。

 三人は、この絶体絶命のピンチを、いかにして脱したか?
 いいですね。こういうおどろおどろしい描写が、物語をスリリングにしてくれます。

 ところで、読書仲間からは、第5巻まで読めとアドバイスされました。
 というのも、第1巻に始まる「辺境篇」が完結するのが、第5巻だからだそうです。

 さいごに。(土日も出勤)

 先週もそうでした。今週も土日に出勤して、なんとか仕事に間に合わせています。
 これほど多忙なのは、年度初めの4月だけだと信じたい!

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コンビニ人間 [日本の現代文学]

 「コンビニ人間」 村田沙耶香 (文春文庫)


 コンビニで18年間バイトを続ける、36歳で恋愛経験のない女性を描いた物語です。
 2016年に刊行されて、その年の芥川賞を受賞し、作者を一躍有名にした話題作です。


コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間 (文春文庫)

  • 作者: 村田 沙耶香
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/09/04
  • メディア: Kindle版



 古倉恵子は、子供の頃から他人と感覚がズレていて、周囲に馴染めませんでした。
 トラブルを避けるため会話をしなかった古倉を変えたのが、コンビニだったのです。

 古倉は大学1年のとき、スマイルマートのオープニングスタッフとして働きました。
 店のマニュアル通りに動いたとき、初めて世界の正常な部品になれたと感じました。

 「私は、今、自分が生まれたと思った。世界の正常な部品としての私が、この日、確
 かに誕生したのだった。」(P25)

 以後18年間、36歳の現在まで店員を続け、世界の歯車となって回り続けてきました。
 周囲に合わせて笑ったり怒ったりし、なんとか普通の人のように振る舞っています。

 ただし、この年で結婚も就職もしていないことが、なぜおかしいのか分かりません。
 しかし、自分が周りから浮いてしまい異物となっている、と感じることはできます。

 「正常な世界はとても強引だから、異物は静かに削除される。まっとうでない人間は
 処理されていく。そうか、だから治らなくてはならないんだ。」(P84)

 あるとき、35歳で独身の白羽という、やる気のない新人が入ってきました。
 あっという間にクビになりますが、その後、古倉は白羽と再会して・・・

 サイテー男の白羽がいい味を出しています。こういうクズ野郎が話を面白くします。
 古倉と白羽の会話の場面が実に面白いです。古倉を前に白羽は急に饒舌になります。

 「この世界は、縄文時代と変わってないんですよ。ムラのためにならない人間は削除
 されていく。狩りをしない男に、子供を産まない女。現代社会だ、個人主義だといい
 ながら、ムラに所属しようとしない人間は、干渉され、無理強いされ、最終的にはム
 ラから追放されるんだ」(P92)

 そういう白羽に、古倉はどのような提案をしたか?
 このときのやり取りが、また実に笑えます。ある意味、似たもの同士ですよね。

 とにかく、めちゃくちゃ面白い小説です。中編なので、あっという間に読めます。
 古倉が自分を「コンビニ人間」だと認識する結末も、良かったです。

 作者の村田沙耶香もまた、小説を書きながらコンビニで働いていたそうです。
 なるほど、だから描写が生き生きしているのかと、納得しました。

 さいごに。(今年もまた桜の季節が)

 年度末から年度初めにかけて、課長職の引き継ぎがあり、めちゃ忙しかったです。
 気が付くといつの間にか、今年も桜の咲く季節がやってきていました。

 18年前、自然に囲まれたこの土地を気に入って、家族でここに移り住みました。
 寝室から桜が楽しめるのですが、今年は開花に気付く余裕もありませんでした。

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ジョーカー・ゲーム [日本の現代文学]

 「ジョーカー・ゲーム」 柳広司 (角川文庫)


 スパイ養成学校の創設者結城中佐と、部下のスパイたちの活躍を描いた連作小説です。
 2008年に刊行され、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞を受賞した傑作です。


ジョーカー・ゲーム (角川文庫)

ジョーカー・ゲーム (角川文庫)

  • 作者: 柳 広司
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2011/06/23
  • メディア: 文庫



 1年半前、佐久間陸軍中尉は武藤大佐に呼ばれ、D機関への出向を命じられました。
 D機関とはスパイの養成学校のことで、佐久間の任務は参謀本部との連絡係でした。

 佐久間は武藤大佐から、アメリカ人技師のスパイ容疑の証拠を探せと言われました。
 D機関の三好少尉一行は憲兵隊に偽装し、アメリカ人技師宅に踏み込みますが・・・

 まさか、それが罠だったとは! いったい誰が仕組んだ罠だったのか?
 そして、証拠のマイクロフィルムは、いったいどこに隠してあったのか?

 以上は冒頭のタイトル作「ジョーカー・ゲーム」です。
 ほか全5編、すべてD機関の活躍を描いたスパイ小説で、いずれもめちゃ面白い。

 「ロビンソン」もまた、実に印象的な作品です。 
 ロンドンで活動中の伊沢が、スパイ容疑で逮捕されたところから始まります。

 英国諜報機関に利用され、味方に偽情報を流したことで、どのような結果が?
 結城中佐が餞別として与えた「ロビンソン・クルーソー」には、どんな意味が?

 全5編を通して独特の味わいを醸し出しているのが、D機関の創設者結城中佐です。
 audibleの中でも、結城の静かだがドスの聞いた声は、とても印象的でした。

 さて、昭和12年、結城中佐の発案でスパイ養成学校(D機関)が開設されました。
 ここで鍛え上げられた者たちは、世界各地で「見えない存在」となって活動します。

 「スパイがその存在を知られるのは、任務に失敗した時—即ち敵に発見された時だけ
 だ。(中略)諸君の未来に待っているものは、真っ黒な孤独だ。孤独と不安。やがて
 自分自身の存在すら疑わしく思えてくる。そこでは、外部に支えられた虚構など、砂
 でできた城のように時間とともに崩れてゆく。」(P27)

 結城のこの言葉の中に、スパイというものの本質が表されていると思いました。
 この作品集は、スパイの活躍を描く以上に、彼らの深い孤独をも描いています。

 「とらわれないこと。しかし、それは同時にこの世界の何ものも信じないこと—愛情
 や憎しみを取るに足りないものとして切り捨て、さらには唯一の心の拠り所さえ裏切
 り、捨て去ることを意味している。」(P271)

 この作品には、続編「ダブル・ジョーカー」があります。
 タイトル作ほか全5編が収録されている、連作小説です。


ダブル・ジョーカー (角川文庫)

ダブル・ジョーカー (角川文庫)

  • 作者: 柳 広司
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2012/06/22
  • メディア: 文庫



 「ダブル・ジョーカー」は、もう一つの諜報部「風機関」との戦いを描いています。
 「殺すな死ぬな」のD機関、「躊躇なく殺せ潔く死ね」の風機関。勝つのはどちらか?

 私的にもっとも興味深かったのが、「棺」です。若かりし日の結城が登場します。
 結城はどのようにして敵地から脱出したのか? どのようにして左手を失ったのか?

 続編も人気が出て、その後シリーズ化され、現在では4巻まで出ているようです。
 また、実写映画化やアニメ化もされれいます。


「ジョーカー・ゲーム」シリーズ【4冊 合本版】 (角川文庫)

「ジョーカー・ゲーム」シリーズ【4冊 合本版】 (角川文庫)

  • 作者: 柳 広司
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/07/24
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(どらやきの日)

 4月4日は4が合わさるので「しあわせの日」です。
 「どらやきを食べて幸せになろう」ということで、どらやきの日でもあります。

 「そんなのこじつけじゃないか」などと突っ込まずに、楽しくどらやきを食べたい。
 丸京製菓の「塩もち入りどらやき」がスーパーにあったら、私は必ず買ってしまう。

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鹿の王2 [日本の現代文学]

 「鹿の王3~4」 上橋菜穂子 (角川文庫)


 謎の病から生き延びて放浪する男と、謎の病の治療法を求める男を描いた物語です。
 2014年刊行のファンタジー小説で本屋大賞。角川文庫全4巻中3~4巻の紹介です。


鹿の王 3 (角川文庫)

鹿の王 3 (角川文庫)

  • 作者: 上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/07/25
  • メディア: 文庫



鹿の王 4 (角川文庫)

鹿の王 4 (角川文庫)

  • 作者: 上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/07/25
  • メディア: 文庫



 何者かにさらわれたユナを探し求めて、ヴァンは火馬の民のもとにやって来ました。
 それを陰ながら助けたのが、谺主の洞窟で知り合った、跡追いの女人サエでした。

 ヴァンは、火馬の民の族長オーファンから、「キンマの犬」について聞きました。
 それは、ミッツァル(黒狼熱)という病、侵略者を滅ぼす力を与えられた獣です。

 東乎瑠(つおる)人の持ち込んだ麦は、現地の麦と混ざったとたん毒を持ちました。
 その毒麦を食べても死ななかった火馬がいて、その火馬の肉を食べた山犬がいます。

 その山犬たちは毒麦でも黒狼熱でも死にませんでした。それが「キンマの犬」です。
 「キンマの犬」に噛まれても現地人は死にませんが、侵略者たちはすぐ死ぬのです。

 火馬の民はミッツァルに、キンマの神の摂理とその意志を見て、こう考えました。
 キンマの犬とミッツァルがあれば、戦わずして故郷を取り戻せるのではないか、と。

 「侵略者の毒に汚されても生き延びよ! さすれば、おまえたちは、以前より強くな
 る! そう、キンマの神は我らに教えてくださったのだ。―—ユタカの大地を侵した
 者だけを殺す毒を犬の牙に与えて」(P60)

 その夜ヴァンの夢の中に、「犬の王」と名のる初老の男が現れました。
 彼は普段は病んだ年寄りですが、我が身を脱いでキンマの犬を操ることができます。

 犬の王はヴァンに、火馬の民の希望を託しますが、ヴァンにはそれができません。
 やがてサエとともにユナを探して旅する中で、ヴァンはホッサルと出会いました。

 ところが、火馬の民の企みの背後には、意外な人物の予想を超える企みがあり・・・
 という具合で、「鹿の王」は後半も読み出したらなかなか本が置けません。

 しかし、もっとも印象的だったのはヴァンの生き様です。特にあの感動的なラスト!
 あのような決断を下せるのは、ヴァンだけでしょう。彼こそ本物の「鹿の王」です。

 「飛鹿の群れの中には、群れが危機に陥ったとき、己の命を張って群れを逃がす鹿が
 現れるのです。長でもなく、仔も持たぬ鹿であっても、危難に逸早く気づき、我が身
 を賭して群れをたすける鹿が。」(第4巻P19)

 さて、本書「鹿の王」は本屋大賞だけでなく、日本医療小説大賞も受賞しています。
 ミッツァルという架空の病を扱いながらも、随所で命や病の本質を考察しています。

 「身体も国も、ひとかたまりの何かであるような気がするが、実はそうではないの
 だろう。雑多な小さな命が寄り集まり、それぞれの命を生きながら、いつしか混然
 一体となって、ひとつの大きな命をつないでいるだけなのだ。そういう大きな――
 多分、この世のはじまりのときに神々がその指で紡ぎ出した――理の中に、我々は
 生まれ、そして、消えていく。」(第4巻P191)

 「〈・・・病は〉この上なく魅力的なのだ。恐ろしいが、たまらなく心惹かれる。
 この世の裏側に隠れている――闇の底に隠れている――生き物の真実が、病という
 現象の中に、鬼火のようにチラチラと光って見えるからだ。」(第4巻P282)

 さいごに。(「鹿の王 ユナと約束の旅」)

 アニメ映画「鹿の王 ユナと約束の旅」は、2022年にアニメ映画になりました。
 この濃密な内容をわずか2時間足らずで表現した点に、巷では賛否両論でした。

 私の読書仲間は口をそろえて、原作を読んでから見た方がいいと言っていました。
 そうしないと理解に苦しむのだそうです。では、私も見てみようか。



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鹿の王1 [日本の現代文学]

 「鹿の王1~2」 上橋菜穂子 (角川文庫)


 謎の病から生き延びて放浪する男と、謎の病の治療法を求める男を描いた物語です。
 2014年刊行のファンタジー小説です。翌2015年に本屋大賞の第1位となりました。


鹿の王 1 (角川文庫)

鹿の王 1 (角川文庫)

  • 作者: 上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/06/17
  • メディア: 文庫



鹿の王 2 (角川文庫)

鹿の王 2 (角川文庫)

  • 作者: 上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/06/17
  • メディア: 文庫



 ヴァンは、ピュイカ(飛鹿)に乗る軍団独角(どっかく)の頭で、物語の主人公です。
 強大な東乎瑠(つおる)帝国と戦って敗れ、岩塩鉱で奴隷として労働していました。

 あるとき岩塩鉱がオッサム(山犬)に襲われ、全員が咬まれて謎の病で死にました。
 なぜかヴァンは生き延びて、つながれていた鎖を怪力で断ち切り、脱出を試みます。

 岩塩鉱の建物で食べ物を漁っていると、泣き声が聞こえ、女の幼子を見つけました。
 女児を背負って逃亡したヴァンは、自分の感覚が鋭くなっていることに気づきます。

 交易都市カザンに向かう途中、トマという青年に出会い彼の故郷オキを頼りました。
 ピュイカの扱いに慣れたヴァンは、トマの家族に歓迎され、ひと冬を過ごし・・・

 ホッサルは、東乎瑠帝国に仕えるオタワル人の医術師で、もうひとりの主人公です。
 岩塩鉱を全滅させた謎の病を調査するため、マコウカンを従えてやってきました。

 彼は死体を観察して、この病がミッツァル(黒狼熱)ではないかと考えました。
 それは、約250年前に大流行し、古オタワル王国を滅亡に追い込んだ伝説の病です。

 また彼は、ひとつの壊された足枷を見て、生き延びた者がいることを知りました。
 もし生き延びた者がいるのなら、ミッツァルの特効薬作りのヒントになります。

 ホッサルは、「跡追い」の女人サエに、逃亡奴隷ヴァンの行方を探らせました。
 サエはわずかな痕跡をたどりオキに向かいますが、途中多くの山犬に襲われ・・・

 読みだしたら止まりません。さすが、本屋大賞になった作品です。
 物語世界がとても緻密に構築されているため、その中にどっぷりと入り込めます。

 たとえば、舞台となっているアカファ地方は、現在東乎瑠帝国領となっています。
 しかし、以前はアカファ王国の地であり、今もゆるやかな自治が許されています。

 以前アカファ王国は、繫栄していた古オタワル王国の一地方にすぎませんでした。
 オタワル王国でミッツァルが流行したとき、アカファは被害を受けませんでした。

 そこで、オタワル王国最後の王が、アカファの首都に遷都し王権を譲ったのです。
 しかし、オタワル人はオタワル聖領にいて、その後のアカファを支え続けました。

 そして、オタワル人は今も、アカファにおいて大きな影響力を持ち続けて・・・
 という具合です。物語の背景だけ見ていても、とてもわくわくしてきます。

 それだけでなく、アカファや東乎瑠の文化についても実に詳細に描かれています。
 食については、目で見えるようです。作者は文化人類学者だそうで、さすがです。

 私としては特に、ヴァンが獣に咬まれたあとに見た夢が、とても気になります。
 それは、腕の傷口から木の根が生え、枝分かれして全身を満たすというものです。

 ヴァンは、おそらくその時点で生まれ変わりました。理由はまだ分かりません。
 しかし、人間離れした怪力や鋭い直感は、その日を境に発揮され始めたのです。

 そして第2巻では、ヴァンは山犬と同調し、彼らの光る命の糸が見えたりします。
 そのことを、謎の老人谺主(こだまぬし)は「裏返し」と呼びます。それは何か?

 さて、ヴァンはなぜ生き残ったのか? ホッサルはヴァンを見つけ出せるのか?
 ミッツァルはなぜ再び現れたのか? ミッツァルの特効薬はできるのか?

 気にかかる点は多いのですが、私にはオタワル人の生き方が興味深かったです。
 「他者を生かし幸せにすることで、自分も生き幸せになる」という価値観が。

 「食われるのであれば、巧く食われればよい。食われた物が、食った者の身体と
 なるのだから」(1巻P287)

 さいごに。(「クソ野郎」訴訟に思う)https://news.yahoo.co.jp/articles/d5e1a03060af420f78b515f1a2581f65a80e9f4d

 クソ野郎訴訟の大石晃子(れいわ新選組)が、まさか高裁で完全勝利するとは!
 クソには色んな意味があるとはいえ、クソ野郎はとてもひどい侮蔑表現ですよ。

 たとえば「大石晃子のクソ野郎」(良い意味)という表現は、許されるでしょうか?
 私は絶対ダメだと思います。言葉が乱れると国も乱れます。嘆かわしいことです。

 以前、れいわの山本太郎が、国会で首相を「増税クソメガネ」と言い放ちました。
 れいわの「クソ」好きは分かりますが、もっと品のある言葉選びをしてほしいです。

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あと少し、もう少し [日本の現代文学]

 「あと少し、もう少し」 瀬尾まいこ (新潮文庫)


 寄せ集めの中学生6人が、駅伝で県大会を目指す姿を描いた、青春小説の傑作です。
 2012年刊行の陸上小説。私はこの作品こそが、瀬尾の代表作だと思っています。


あと少し、もう少し (新潮文庫)

あと少し、もう少し (新潮文庫)

  • 作者: 瀬尾 まいこ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/03/28
  • メディア: 文庫



 市野中学校は小規模校ながら、毎年中学駅伝で県大会に出場している強豪校です。
 ところが、名顧問の満田先生が転勤して、素人の女子教員上原が顧問となりました。

 陸上部で長距離を走れるのは、桝井と設楽(したら)と俊(しゅん)の3人です。
 中学駅伝は、18キロを3キロずつ6人でタスキをつなぐので、あと3人必要です。

 部長の桝井(ますい)は苦労して人を集め、ようやくメンバー6人を揃えました。
 実に個性的な6人が、それぞれの思いを抱きながら、同じ目標に向かって走ります。

 1区は設楽です。桝井に次ぐ実力を持っていますが、以前はいじめられっ子でした。
 ところが不良の大田から意外なことを聞きます。設楽は大田にどう思われていたか?

 2区は大田です。勉強を放棄し、髪を染めてタバコを吸う、乱暴な不良少年です。
 大田が荒れたのはなぜか? また、今駅伝で心を燃え立たせているのはなぜか?

 3区はジローです。生徒会書記で、バスケ部部長。明るく誰とでも仲良くなれます。
 唯一苦手なのが、4区を走る渡部です。しかし、その渡辺にどう思われていたか?

 4区は渡部です。吹奏楽部で走るのは速いけど、理屈っぽいので敬遠されています。
 渡部が、周囲と距離をおいているのはなぜか? 必死で守ろうとしているのは何か?

 5区は唯一の2年生の俊介です。敬愛する桝井から走りを学んで、今が伸び盛りです。
 しかし、切ない秘密を持っていました。それは何か? それに気づいた人はいるか?

 6区は桝井です。陸上部の部長として、誰よりもチームのために尽くしてきました。
 ところがスランプが続いています。桝井に何があったのか? それに気づいた人は?

 6人は時にぶつかりますが、「走りたい」という気持ちのもとでまとまっていきます。
 その姿がさわやかで美しく、感動的なので、私は何度も涙が出そうになりました。

 さて、走るのは6人ですが、チームにはもうひとりとても大切なメンバーがいます。
 それが監督の上原です。上原の章はありませんが、彼女は陰の主人公だと思います。

 もちろん主人公は桝井でしょう。その桝井を大きく成長させたのが素人の上原です。
 名監督の満田のもとでは学べなかったことを、桝井は上原のもとで学んでいます。

 桝井にとって、何のアドバイスもできない上原は、イライラさせられる存在でした。
 ストップウォッチも扱えず、大会ではおろおろし、威厳のかけらもない監督・・・

 「だけど、大田はこっそりタバコをやめている。今の設楽の走る理由は、きっと義務
 感だけじゃない。あれだけかたくなだった渡部がメンバーになった。ジローはいつだ
 って変わらず楽しそうで、俊介は二年で唯一のメンバーなのに変な気負いはない。そ
 こは上原がいたからだというのもある。」(P322)

 桝井はそのように回想していますが、おそらく自分でも分かっているはずです。
 苦労はしたけど、上原のおかげで一番多く学び成長したのは、自分自身であると。

 「走れなくてもいい。私が、ううん、私たちが望んでいるのはそんなことじゃないか
 ら。でも、6区を走るのは桝井君だよ」(P355)・・・上原だからこそ言えた言葉です。

 陸上や走ることが好きな人はもちろん、すべての中高生に読んでほしい作品です。
 読後、たっぷりと余韻に浸っているうちに、自分も走りたくなってきます。

 ところで、タイトルの「あと少し、もう少し」は、あと少しがんばるという意味のほか、
 あと少しもう少しこのメンバーで走りたい、という意味を持っています。

 さいごに。(豚バラばかり)

 先日、家族で「さとしゃぶ」を食べました。奮発して「国産牛コース」にしました。
 しかし、私は豚バラが好きなので、豚バラばかり食べました、ああ、もったいなかった!

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獣の奏者Ⅱ王獣編 [日本の現代文学]

 「獣の奏者Ⅱ王獣編」 上橋菜穂子 (講談社文庫)


 霧の民の血を引く天涯孤独の少女エリンと、闘蛇や王獣などの獣たちとの物語です。
 2006年に「闘蛇編」「王獣編」が出て、2009年に「探求編」「完結編」が出ました。


獣の奏者 1-4 I-IV 完結セット (講談社文庫)

獣の奏者 1-4 I-IV 完結セット (講談社文庫)

  • 作者: 上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー:
  • メディア: 文庫



 あるときエリンは、傷ついた王獣リオンの鳴き声に、竪琴の音でこたえてみました。
 すると、リオンは餌を食べ始めました。初めてエリンとリオンの心が通ったのです。

 そしてこの瞬間、エリンは図らずも、運命の決定的な曲がり角を曲がったのでした。
 このことはカザルムで秘密にされました。政治で利用されることを恐れたからです。

 やがてエリンはリオンと言葉を交わし、その背に乗って飛べるようにもなりました。
 保護区で飼われている王獣では考えられないことです。ではなぜそれができたのか?

 それはエリンが、王獣規範を逸脱してエリンを育てたからであるようなのです。
 そこで疑問が浮かびます。王獣規範は、王獣と会話させないために作られたのでは?

 エリンはリオンと一緒にいるとき、霧の民の男から警告を受けました。
 そしてエリンは、「精霊鳥」のことや「操者の技」のことを知りました。

 「神々の山脈の向こう、はるかな故地で、大いなる罪を犯して死んだ我らの祖先たち
 は、自分たちの罪を激しく悔い、子孫たちに自分たちの轍を踏ませぬように、自らに
 呪いをかけた。——魂となっても、神々の安らぐ世へは行かず、(操者の技〉を使う
 者が現れたとき、それを警告する精霊鳥となるようにと。」(P131)

 「わたしたちは、二度と再び、〈操者の技〉が使われることのないよう——一族の者
 たちが過去を忘れ去って、再び〈操者の技〉を編みだすことがないように、幼いころ
 から戒律とともに、〈操者の技〉を教えこまれる。だが、きみは、己の才覚だけで、
 〈操者の技〉を編みだしてしまった」(P132)

 真王がカザルム王獣保護区に行幸した帰り、大公軍と思しき闘蛇軍に襲われました。
 エリンはリオンの背に乗って真王を助け、いやおうなく戦乱の中に巻き込まれ・・・

 というように、真王が闘蛇軍の急襲に遭う所から、物語は一気に白熱していきます。
 一方、エリンは闘蛇からあることに気付いて・・・本当にこれは大公の仕業なのか?

 汚い陰謀に取り込まれるエリン。そして、真王の護衛イアルもまた同じように・・・
 緊迫した状況で、エリンとイアルの運命が交差する場面もまた一つの見どころです。

 そして、エリンが語る霧の民の言い伝え・・・
 真王の祖先は何か? 霧の民の祖先は何か? はるか昔にいったい何があったのか?

 「人というものが、こんなふうに物事を考えて、進んでいく生き物であるのなら、そ
 のまま行ってしまえばいい。(中略)そうやって滅びるなら、滅びてしまえばいい」
 (P382)

 エリンはいかに決意し、いかに行動するか?
 そして、新真王セィミヤは、どんな選択をするか?・・・

 終盤は手に汗を握る展開です。結末もすばらしいです。いつまでも余韻が残ります。
 そして、続きを読みたいという読者が続出し、とうとう2009年に続刊が出ました。

 続く「探求編」と「完結編」は、まだ購入していません。
 しかし、いずれ読みたいと思っています。

 さいごに。(うんち君、見ーつけた)

 私の部屋の片隅に「うんち君」が隠れていました。娘が隠しておいたようです。
 見つけた人は隠してよいことになっているので、私は娘の筆入れに入れました。

 うんち君は1時間で見つかることもあれば、3か月間現れないこともあります。
 妻はうんち君を捨てようとするので、妻には見つからないよう心掛けています。

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獣の奏者Ⅰ闘蛇編 [日本の現代文学]

 「獣の奏者Ⅰ闘蛇編」 上橋菜穂子 (講談社文庫)


 霧の民の血を引く天涯孤独の少女エリンと、闘蛇や王獣などの獣たちとの物語です。
 2006年に「闘蛇編」「王獣編」が出て、2009年に「探求編」「完結編」が出ました。


獣の奏者 1-4 I-IV 完結セット (講談社文庫)

獣の奏者 1-4 I-IV 完結セット (講談社文庫)

  • 作者: 上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー:
  • メディア: 文庫



 ソヨンは、霧の民の掟に背いて大公領の男と結婚し、10年前にエリンを生みました。
 今、世話していた最強の「闘蛇」全てが死んだ罪で、処刑されることとなりました。

 娘のエリンは、闘蛇に食い殺される母を助けるため、闘蛇の群れの中に入りました。
 しかし、母は掟破りの「操者の技」を使って、エリンを闘蛇に乗せて逃がしました。

 真王領に流れ着いたエリンは、心優しい老人ジョウンに助けられ、育てられました。
 元教導師長のジョウンから、さまざまな知識や竪琴を学び、幸せに過ごしました。

 ある日、崖から落ちたジョウンを助けたとき、エリンは「王獣」の親子を見ました。
 それは、オオカミのような顔を持つ巨大な鳥で、「闘蛇」を餌食とする聖獣でした。

 エリンは、14歳のときにカザルム王獣保護場に入舎し、獣の医術師を目指しました。
 そこで、傷ついた王獣リオンと出会い、心を込めて世話しているうちに・・・

 この物語のテーマは、「闘蛇」「王獣」など獣と人間との関わり方にあるようです。
 特に、入舎試験のエリンの作文に、そのことがよく表れています。

 「生き物であれ、命なきものであれ、この世に在るものが、なぜ、そのように在るの
 か、自分は不思議でならない。(中略)自分も含め、生き物は、なぜ、このように在
 るのかを知りたい。」(P277)

 また、エリンが養蜂を通して抱いた、生物の世界のイメージも、印象に残りました。
 すべての生き物の命はどれも等しく、暗闇に浮かぶ一つの光の点のようなもの・・・

 「エリンはときおり、自分が小さな光の点になって、広大な星空の中に、ぽつんと浮
 かんでいるような心地になることがあった。——人も獣も虫も、あらゆるものが小さ
 な光の点となって、等しく闇の中に輝いているような、そんなものとして、この世を
 感じることが。」(P253)

 ところで、舞台となっている国はリョザ神王国で、真王という女王が治めています。
 真王の王祖は、はるか昔に神々の山脈の向こうから、王獣を従えて降臨したのです。

 しかし、四代目の王が隣国から攻められた際、「闘蛇の笛」を臣下に与えました。
 闘蛇で敵国を倒した臣下は、大公の称を得て、他の土地を治めるようになりました。

 これ以後、行政を司る真王の真王領と、軍事を司る大公の大公領に分かれました。
 そして、大公領の中には、真王の命を狙う「血と穢れ」のような集団も現れて・・・

 というように、途中から人間の権力闘争も絡まり、物語を面白くしています。
 そして、人間の最大の武器が王獣や闘蛇などの生物である点が、実に興味深いです。

 さらに、主人公エリンの背後には「霧の民」(戒めを守る者)という謎があります。
 このあと、エリンの運命はいかに? 「Ⅱ王獣編」も楽しみです。

 さいごに。(不毛な喧嘩)

 米大統領選で、私はトランプさんを応援しています。
 理由は、前の治世で戦争がなかったから。バイデンさんになって世は乱れました。

 しかし、妻はトランプ嫌いなので、米大統領選の話になると喧嘩になるのです。
 実にバカバカしい。投票権もない他の国のことで、わが家が戦争になるなんて。

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新世界より [日本の現代文学]

 「新世界より(上・中・下)」 貴志祐介 (講談社文庫)


 1000年後の日本を舞台に、呪力を持った人々の世界を描いた、長編SF小説です。
 2008年に刊行され、日本SF大賞を受賞し、2012年にはアニメが放映されました。


新世界より 文庫 全3巻完結セット (講談社文庫)

新世界より 文庫 全3巻完結セット (講談社文庫)

  • 作者: 貴志 祐介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/01/14
  • メディア: 文庫



 舞台は今から1000年後の日本のある町で、人々は生まれながら呪力を持っています。
 ミノシロという巨大な芋虫や、化けネズミという人型ネズミなどが生息しています。

 また、町はしめ縄で囲われていて、子どもはその外へ出ることを禁じられています。
 しめ縄の中は呪力で守られていますが、外には悪鬼などがいて危害を加えられます。

 渡辺早季は、12歳で呪力を授かると、儀式を受けて「全人学級」に進級しました。
 儀式では、自分の呪力を封印して、新たに真言(マントラ)を与えられました。

 全人学級では、小学校時代の友人秋月真理亜、朝比奈覚、青沼瞬と再会しました。
 この3人のほか、伊東守、天野麗子を合わせて6人が第一班を形成していました。

 学校では班ごと行動しますが、呪力で劣る麗子はいつのまにかいなくなりました。
 また、競技会で規則を破った片山学もまた、いつのまにかいなくなっていました。

 どうやらこの社会に適応しない子供たちは、どんどん排除されるらしいのです。
 そして、そういった残酷なシステムは、子どもたちの目から巧みに隠されています。

 夏季キャンプでは、各班がカヌーで利根川を進み、野営することになっていました。
 5人は禁じられていた区域に立ち入り、そこで「悪魔のミノシロ」に遭遇しました。

 しかし、それはミノシロに偽装していた国立国会図書館つくば館だったのです。
 彼らは「悪魔のミノシロ」に問いかけ、大人たちが禁じていた知識を得ました。

 サイコキネシス(PK)の発展、PKによる無差別テロ、PK能力者に対する弾圧、
 PK能力者の逆襲と政府の瓦解、人口の激減、PK能力者による支配と腐敗・・・

 5人の少年たちは、この1000年の血なまぐさい歴史を初めて知り、驚愕しました。
 そこで離塵師に出会ったことで、化けネズミの戦闘に巻き込まれることになり・・・

 ひとりの強力な呪力者が、核兵器にも匹敵する力を持つ、という事実。
 人類は強力な呪力を持つと、その使用を抑制できなくなる、という現実。

 そのためにあみ出された「愧死機構」と、不適応者を排除する異常な教育制度。
 読みだしたら止まりません。どっぷりとこの異様な世界に入り込みます。

 ただし、この世界観は読む人を選びます。私にとっては、少し気持ち悪かったです。
 SFファンタジーのつもりで読み始めたのに・・・これはホラー小説ですよ。

 もうひとつ人を選ぶ理由があります。それは、物語があまりにも長すぎることです。
 講談社文庫では三分冊で1500ページ近く。その半分だったら全部読めたのですが。

 私は第二章「夏闇」(中巻の途中)で諦めました。全6章なので、約3分の1です。
 しかし、そのあとの展開と結末は気になります。では、どうしたか?

 実は、Uネクストでアニメ(全25話)を見たのです。(それなら原作を読めよ!)
 アニメは割と原作に忠実でした。ちなみに、1.6倍で見たので時短にはなりました。

 ところで、彼らが14歳になると、話がさらに暗く気味悪くなって・・・
 悪鬼とは何か? 業魔とは何か? 彼らが26歳になったときに大惨事が・・・



 さいごに。(ドヴォルザークの「新世界より」)

 「『新世界より』と言ったら、ドヴォルザークだろ」、と言う人も多いでしょう。
 この小説の題名も、ドヴォルザーク「新世界より」の第2楽章から付けられました。

 ドヴォルザークの交響曲では、第2楽章と第4楽章がとても有名です。
 しかし、私は第1楽章が好きです。特に50秒ぐらいのところからが超カッコいい!



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幽霊列車 [日本の現代文学]

 「幽霊列車」 赤川次郎 (文春文庫)


 列車の乗客が消えた表題作など、中年警部と女子大生が事件を解決する短編集です。
 1976年刊行の「幽霊列車」は赤川のデビュー作で、「幽霊シリーズ」の第一作です。


新装版 幽霊列車 (文春文庫) (文春文庫 あ 1-39)

新装版 幽霊列車 (文春文庫) (文春文庫 あ 1-39)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/01/04
  • メディア: 文庫



 岩湯谷駅で乗車した8人が、次の大湯谷駅に着いたときには全員消えていました。
 この幽霊列車事件の謎を解くため、40歳の宇野警部は客を装い、調査を始めました。

 推理オタクの21歳の女子大生永井夕子と出会い、一緒に事件を追いかけますが・・・
 走る列車から、どのようにして乗客はいなくなったのか? なぜいなくなったのか?

 以上の表題作「幽霊列車」は、赤川次郎の記念すべきデビュー作です。
 そして本書は、宇野警部と夕子が初めて出会う作品です。のちにシリーズ化します。

 デビュー作の割には完成度が高く、文章のテンポもよくて、とても面白かったです。
 トリックもなかなか凝っていました。また、謎が解明されていく場面もうまいです。

 内容にはたいへん満足しました。しかし、その一方で違和感を覚えたのも確かです。
 冴えない中年警部が、美人女子大生に気に入られ、関係まで持ってしまうのはなぜ?
 
 さて、この短編集には、「幽霊列車」を含めて全5作が収録されています。
 どの作品も、良い意味でも悪い意味でも娯楽小説です。とても上質な娯楽小説です。

 もっとも面白かったのは「善人村の村祭」です。推理小説というより冒険小説です。
 宇野警部と永井夕子が偶然訪れた「善人村」では、元日に年に一度の祭があります。

 村人たちはとても親切で、ふたりは至れり尽くせりの歓迎を受けました。
 村長の屋敷に泊まると、その妖艶な妻が裸になって、宇野の床に入ってきて・・・

 ふたりは危機に陥って、初めて行き過ぎた歓迎ぶりの意味に気付きました。
 「正月のお祭のために私たちが必要だったのね。〇〇〇〇として」(P354)

 「善人村」ではるか昔から続けられてきた祭とは、どのようなものだったのか?
 宇野警部と夕子は、その祭においていったいどのような役割を担っていたのか?

 特に村長の妻の絢路夫人が、良い味を出していました。この人をぜひ映像で見たい。
 また、善人ばかりの村の秘密が明かされていくところが、とてもスリリングでした。

 ところで、私は先ほど収録されている作品を、良くも悪くも娯楽小説と評しました。
 というのも「幽霊列車」以外の作品は、推理小説としては物足りなかったからです。

 しかし、赤川作品にはほかに「マリオネットの罠」という高評価の作品があります。
 機会があったらぜひ読んでみたいです。


マリオネットの罠 (文春文庫)

マリオネットの罠 (文春文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/09/20
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(エンドレスエイト)

 Uネクストに31日間お試しで入り、「涼宮ハルヒの憂鬱」(全24話)を見ています。
 その中の「エンドレスエイト」というエピソードは、同じ話を8回繰り返すのです。

 2回目から7回目の6回は見る意味がありません。ファンは怒ったのではないか?
 もしお金を払って見ていたのなら、私も怒ったと思います。無料で良かった。

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