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居酒屋 [19世紀フランス文学]

 「居酒屋」 エミール・ゾラ作 古賀照一 (新潮文庫)

 働き者のジェルヴェーズら夫婦が、まじめな気持ちを失ったとたん、
 あっという間に、どん底まで転がり落ちていく物語です。

 ジェルヴェーズは、死にものぐるいで働いて、とうとう自分の店を持ち、
 評判を得て、三人を雇うまでになります。夢を実現したのです。
 ここで、この小説が終わってくれたら、「努力する者が報われる」という、
 とても道徳的な(しかしありふれた)話になったはずです。
 
 しかし、夫クーポーが、仕事中に、屋根から転落したときに、
 彼らの人生の転落も、始まっていたのです。

 ここから、なんと四百ページにもわたって、
 この一家の没落が、これでもか、これでもかと、
 むごいほどリアルに、描かれていくのです。

 クーポーは、怠け癖がつき、「居酒屋」の酒におぼれ、
 前夫ランティエが、一家に入り込み、彼らを食い物にし、
 ジェルヴェーズは、美食を始め、働く意欲を失っていきます。
 こうなると、もう、歯止めがききません。

 客は減り、雇い人はいなくなり、店は旧敵ヴィルジニーに売られ、
 自分は一洗濯女に成り下がり、借金は返せず、信用を失い、
 支援者のグージェにも見捨てられ、食う物もなく、プライドも無くなり、
 やがて酒におぼれ、狂死への道をひた走るのです。

 「不潔も一つの暖かいねぐらであり、
 彼女はけっこう楽しくそこにうずくまっていた。
 なにもかも散らかったままに放っておき、
 ゴミが穴をふさいで辺り一面ほこりがたまるのを待ち、
 家じゅうが自分のまわりで無気力に麻痺してゆくのを感じる、
 これは彼女にとって酔いしれるような、まことの快楽であった。」

 次々に現れる、このようなみじめな描写に、
 私は、やめてくれ、やめてくれ、と思いつつも、
 一方で、堕落していく心地よさを、自分も感じながら、
 小説にのめり込んでいきました。

 ジェルヴェーズの死については、最後にこう書かれています。
 「腐りきった生活の汚辱と疲労から死んだのだ。」

 彼女に代わって、社会と男たちに復讐するのは、家出をしたナナです。
 彼女は、自覚こそしていませんが、続編「ナナ」において、
 母親ジェルヴェーズの無念を、何十倍にもして晴らすのです。

 さて、「居酒屋」は、新潮文庫で読むことができます。
 ぜひ、「ナナ」と一緒に、並べておきたい本です。

 「居酒屋」と「ナナ」は、装丁も素晴らしく、
 持つことの喜びを、教えてくれます。
 
居酒屋 (新潮文庫 (ソ-1-3))








ナナ (新潮文庫)








 この二冊は、「ルーゴン・マッカール叢書」という作品群の一部です。
 ゾラは、バルザックの作品群、「人間喜劇叢書」に、影響されました。

 新潮文庫で読める、「ルーゴン・マッカール」は、「居酒屋」と「ナナ」、
 同じく、「人間喜劇」は、「ゴリオ爺さん」と「谷間の百合」です。
 どちらも、二冊で1セット、というような感じがあります。
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