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宵山万華鏡 新釈走れメロス [日本の現代文学]

 「宵山万華鏡」 森見登美彦 (集英社文庫)


 祇園祭宵山におけるさまざまな非日常的出来事を描いた、幻想的な連作短編集です。
 2009年の刊行です。6編から成り、「きつねのはなし」に通じるものがあります。


宵山万華鏡 (集英社文庫)

宵山万華鏡 (集英社文庫)

  • 作者: 森見 登美彦
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/06/26
  • メディア: 文庫



 「宵山姉妹」「宵山金魚」「宵山劇場」「宵山回廊」「宵山迷宮」「宵山万華鏡」
 「姉妹」と「万華鏡」、「金魚」と「劇場」、「回廊」と「迷宮」がセットです。

 もっとも面白かったのは、「宵山金魚」でした。これは、ドタバタ劇でした。
 祇園祭のしきたりを守らなかった青年が、宵山様のもとに連れ出される話です。

 藤田は、高校時代の同級生の乙川に、宵山を案内してもらうことになりました。
 ところが藤田は乙川とはぐれてしまい、立ち入り禁止区域に入ってしまいました。

 たちまちやってきた祇園祭司令部。「くそたわけ! 宵山様に申し訳ないと思え!」
 御輿でかつがれ、宵山様のもとにしょっぴかれます。その、宵山様とは・・・

 「意味はない。意味のないところに意義がある。」(P98)
 無意味でバカバカしい展開です。そういう点で、もっとも森見らしさを感じました。

 続く「宵山劇場」は、その舞台裏を明かした作品で、ワンセットで味わいたいです。
 小長井と山田川がナイスコンビです。ほのぼのとした味わいがあってオススメです。

 「宵山回廊」と「宵山迷宮」は、一転してちょっと怖い感じのする物語です。
 千鶴が会いに行くと、叔父は言いました。「明日からはもう、会えなくなる」と。

 叔父は15年前の宵山で娘の京子を失いました。京子はその日から行方不明なのです。
 ところが、露店で買った万華鏡で宵山をのぞくと、そこに娘の京子が映って・・・

 「あの子はずっと宵山にいたんだ。だから俺もずっと宵山にいる」(P161)
 「おれはこの一日から出ることはない」という叔父の言葉は、どういうことなのか?

 続く「宵山迷宮」は、画廊の柳さんの話です。彼もまた宵山を繰り返していて・・・
 骨董屋の乙川が言う「水晶玉」とは何か? なぜ彼らはみな宵山を繰り返すのか?

 最後に、さまざまなエピソードが、種明かし的に語られるのが「宵山万華鏡」です。
 しかしすべての謎が解けるわけではありません。いったい宵山様とは何だったのか?

 もう一度全6編を読み直したくなりました。そういう意味で、魅力的な短編集です。
 また、京都の祇園祭宵山を、実際に見に行きたくなります。

 「祇園祭というからには八坂神社が本拠地なのだと理屈では分かっても、縦横無尽に
 祭りが蔓延して、どちらの方角に八坂神社があるのかさえあやふやである。祭りがぼ
 んやりと輝く液体のようにひたひたと広がって、街を吞みこんでしまっている。」
 (P64)

 さて、森見の連作短編集にはほかに「新釈 走れメロス」(角川文庫)があります。
 「走れメロス」「山月記」「藪の中」など名作が、森見流にアレンジされています。


新釈 走れメロス 他四篇 (角川文庫)

新釈 走れメロス 他四篇 (角川文庫)

  • 作者: 森見 登美彦
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2015/08/22
  • メディア: 文庫



 「走れメロス」は、自分を信じる友のため命をかけて走り続ける男の物語です。
 太宰治の傑作ですが、森見流にアレンジされるとこんなふうになってしまう!

 大学の詭弁論部所属の芽野と芹名は親友で、「阿呆の双璧」と言われています。
 ふたりは「パンツ番長戦」で引き分けとなって以来、お互いを認め合う仲です。

 あるとき芽野が、悪名高き図書館警察長官に談判に行って捕まりました。
 長官に、ブリーフ一丁で踊って学園祭のフィナーレを飾れ、と命令されました。

 芽野は、姉の結婚式に出るため猶予を請い、身代わりに芹名を差し出しました。
 しかし、芹名には分かっていたのです。芽野には戻る気がないということが。

 「これは信頼しないという形をとった信頼、友情に見えない友情だ」(P135)
 そして、フィナーレのブリーフ一丁踊りは・・・

 タイトル作は面白いです。あまりにもくだらなくて涙が出そうになります。
 ただし、ほかの4編はぱっとしません。原作を読んだ方が良いと思います。

 さいごに。(バウンドケーキ?)

 「パウンドケーキ」のことを、これまで「バウンドケーキ」だと思っていました。
 うちではそれをネタにして、妻も娘もわざと「バウンドケーキ」と言っています。

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四畳半タイムマシンブルース [日本の現代文学]

 「四畳半タイムマシンブルース」 森見登美彦 (角川文庫)


 タイムマシンを使って壊れたリモコンを取り戻そうとするSF青春ドタバタ劇です。
 2020年刊行。上田誠の戯曲「サマータイムマシン・ブルース」とのコラボ作品です。


四畳半タイムマシンブルース (角川文庫)

四畳半タイムマシンブルース (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/06/10
  • メディア: 文庫



 「ここに断言する。いまだかつて有意義な夏を過ごしたことがない、と。」(P5)
 8月12日の昼下がり、「私」と小津は四畳半の部屋の炎熱地獄に苦しんでいました。

 というのも昨日、部屋でドタバタするうちにクーラーのリモコンを壊したからです。
 昨日は明石さんが多くの仲間たちを集めて、ここでポンコツ映画を撮ったのでした。

 明石さんは「私」の憧れの女子学生で、五山送り火見物に誘いたいと思っています。
 しかし彼女は、すでに誰かと約束しているようなのです。でも、いったい誰と?

 さて、昨日の仲間たちが再び集まったところで、ヘンテコなものが見つかりました。
 それは、黒光りする古畳で、「ドラえもん」に出て来るタイムマシンのようでした。

 このマシンを使えば、昨日壊れたリモコンを取り戻せる、と考えた一行は・・・
 しかし、過去を改変してしまった場合、全宇宙が消滅する危険性に気付き・・・

 「全宇宙消滅の危機に直面した我々の取るべき道はただひとつであった。タイムマシ
 ンに乗って『昨日』へ行き、クーラーのリモコンがきちんと壊れるように辻褄を合わ
 せた上で、小津たちをすみやかに連れ戻すことである。」(P111)

 小津という男のキャラクターと、昨日と今日の辻褄合わせが、この小説の命です。
 小津がやたら人の足を引っ張るのに、最後はパズルのピースがピタッと合うのです。

 特に、「私」と明石さんの場面がサイコーです。いかにして五山送り火に誘うのか?
 明石さんのキャラがいいですね。そして、結末もすばらしいです。

 この小説では、森見節も健在でした。たとえば、相島氏の次の言葉は印象的でした。
 作者の一番言いたいことも、この中にあるのではないか?

 「たとえばこんな四畳半アパートの一室にひとりで籠もっているとしよう。こんなと
 ころにどんな可能性がある? ここには恋も冒険もない。なーんにもない。昨日は今
 日と同じで、今日は明日と同じ。まるで味のしないハンペンのような毎日ですよ。そ
 れで生きていると言えますか?」(P168)

 この小説の原案は上田誠となっています。2001年に初演された戯曲なのだそうです。
 竹書房文庫から出ていましたが現在は品切れです。手に入ったら読んでみたいです。


サマータイムマシン・ブルース (竹書房文庫)

サマータイムマシン・ブルース (竹書房文庫)

  • 出版社/メーカー: 竹書房
  • 発売日: 2005/08/01
  • メディア: 文庫



 さいごに。(体育つらい?)

 寒い日が続きます。この時期の体育は長距離走なので、娘は憂鬱そうです。
 「そんなの、遊んでるようなものだろ!」と言ったら、娘に怒られました。

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「失われた時を求めて」への招待 [20世紀フランス文学]

 「『失われた時を求めて』への招待」 吉川一義 (岩波新書)


 「失われた時を求めて」の核心部分を、多方面から易しく解き明かした入門書です。
 著者はプルースト研究の第一人者で、岩波文庫「失われた時を求めて」の訳者です。


『失われた時を求めて』への招待 (岩波新書 新赤版 1884)

『失われた時を求めて』への招待 (岩波新書 新赤版 1884)

  • 作者: 吉川 一義
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2021/06/22
  • メディア: 新書



 第1章 プルーストの生涯と作品
 第2章 作中の「私」とプルースト ——一人称小説の狙い
 第3章 精神を描くプルースト ——回想、印象、比喩
 第4章 スワンと「私」の恋愛心理
 第5章 無数の自我、記憶、時間
 第6章 「私」が遍歴する社交界
 第7章 「私」とドレフュス事件および第一次世界大戦
 第8章 「私」とユダヤ・同性愛
 第9章 サドマゾヒズムから文学創造へ
 第10章 「私」の文学創造への道

 以上の10章で構成されています。第1章、第2章、第3章、第5章が良かったです。
 中でも私にとって特に面白かったのは、第2章における「語り手の私」の考察です。

 「語り手の『私』は、最晩年の老人といった具体的肉体をもつ存在ではなく、むしろ
 あらゆる言説が生じるところに発生する語る声として、抽象的な発話の現在として、
 『失われた時を求めて』の至るところに偏在すると考えるべきだろう。」(P44)

 つまり「語り手の私」は、その場面その場面で時間を超越して現れると言います。
 これは、私の頭の中にある、「時間を越えて浮遊する魂」のイメージと重なります。

 物語の冒頭で語られる朦朧とした意識は、死の前に体から抜け出る魂を暗示します。
 そのことについて私は、「失われた時を求めて1」で以下のように考察しました。

 ・・・私はこの朦朧状態は、時空をさ迷う「魂」を暗示していると思っています。
 永遠の眠りに就く直前に、体から抜け出た「魂」が、人生を回想しているのだ・・・

 そして、この「魂=語り手の私」は、最後の最後に小説を書こうと覚悟を決めます。
 ところが、おそらくその直後に、寿命が来てしまうのではないのでしょうか。

 「失われた時を求めて」という小説の終りは、「浮遊する魂」の消滅を意味します。
 ということで、私は「失われた時を求めて」は、書かれなかったと思っています。

 繰り返します。「失われた時を求めて」は書かれなかった。これが物語のオチです。
 いけませんね、著書の紹介よりも、私の勝手な夢想ばかりを書いてしまいました。

 ところで、巻末の「失われた時を求めて」年表と、プルースト略年譜はすばらしい。
 前者が左のページ、後者が右のページにあり、簡単に対照することができます。

 特に前者は、ぐじゃぐじゃになっていた頭の中を整理するのに大変役立ちました。
 たとえば、ジルベルトと会ったのが12歳頃、アルベルチーヌと会ったのは18歳頃。

 と、これまであやふやだった年齢が、だいたいイメージできるようになりました。
 右ページのプルースト略年譜を対照しながら読むと、さらに興味深かったです。

 余談ですが、本書でもっとも印象に残っていた部分は、ジッドの日記の引用です。
 ジッドは、前日のプルーストとの対話について、次のように記したのだそうです。

 「プルーストは自分のユラニスム(少年愛・男色)を否定したり隠したりするどころ
 か、それを表に出した。いや、それを鼻にかけていた、と言いたいほどだ。女は精神
 的にしか愛したことはなく、セックスは男としかしたことはないと言う」(P175)

 さて吉川一義には、ほかにも「絵画で読む『失われた時を求めて』」もあります。
 こちらは中公新書で、物語に登場する主要な絵画の多くをカラーで載せています。

 たとえば、カルパッチョの「聖女ウルスラ伝」など、見慣れない絵画があって良い。
 そこで語られる「祖母=母」という仮説(?)も、実に面白かったです。


カラー版 絵画で読む『失われた時を求めて』 (中公新書 2716)

カラー版 絵画で読む『失われた時を求めて』 (中公新書 2716)

  • 作者: 吉川 一義
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2022/09/20
  • メディア: 新書



 さいごに。(リレーラン、雨天中止)

 日曜日に、出場予定だったリレーラン大会が、天候大荒れのため中止になりました。
 それでも我々は駅前に集まって、「お疲れさん会」をやりました。久々に飲んだ!

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失われた時を求めて14 [20世紀フランス文学]

 「失われた時を求めて7」 マルセル・プルースト作 吉川一義訳 (岩波文庫)


 記憶の中から失われた時を紡ぎ出して、人生の本質を考察する長大な小説です。
 20世紀を代表する作品であり、世界一長い小説としてギネスに登録されています。

 第三篇「ゲルマントのほう」は、1920年から21年にかけて刊行されました。
 前回は岩波文庫版の第7巻の前半を紹介しました。今回はその後半を紹介します。


失われた時を求めて(7)――ゲルマントのほうIII (岩波文庫)

失われた時を求めて(7)――ゲルマントのほうIII (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/06/18
  • メディア: 文庫



 「私」は、憧れだったゲルマント公爵邸の晩餐に、とうとうやってきました。
 公爵邸のサロンは、フォーブール・サン=ジェルマン第一の地位を保っていました。

 特に公爵夫人(オリヤーヌ)は社交界の花形で、その言動は注目の的でした。
 ロシア大公に「トルストイを暗殺させるお考えですね」と言ったことさえあります。

 「私」は晩餐会の間、さまざまなおしゃべりを耳にして、幻滅を味わっていました。
 くだらない話題しか出ないのは、私が参加しているからではないのか、と考えます。

 このあと「私」はシュルリュス邸を訪問しましたが、なぜか男爵は不機嫌でした。
 「私はあなたを買いかぶっていた。われわれの関係もこれで終わりだ」と言います。

 以前男爵の届けてくれた本の装丁には、忘れなぐさの飾りがついていたそうです。
 そして、それは「私をお忘れなく」というメッセージであり、告白であったのです。

 「私はあなたのために、口に出すことこそ控えはしたが、それこそ誰もが垂涎の的と
 するような厚遇を授けようと考えていた。そんなことも知らずに拒絶する道を選んだ
 のは、あなたの勝手です。」(P470)

 わめき散らす男爵に対して怒った「私」は、彼のシルクハットを踏みつけて壊し・・・
 男爵は「私」との関係は終わりだと言いながら、なぜかいつまでも引き留めて・・・

 第7巻「ゲルマントのほうⅢ」の半分以上がゲルマント公爵邸の晩餐会の場面です。
 P163からP448の約300ページほどが占められているのです。わずか数時間のために。

 しかし、えんえんと続くこの場面は、ただただ退屈なだけです。
 おそらく、晩餐会の長く退屈な時間を、読者にも味わわせようとしたのでしょう。

 むしろ面白いのは、それが終わってから立ち寄ったシュルリュス邸訪問の場面です。
 やっぱりシュルリュス男爵ですよ。この男の謎めいた変人ぶりは魅力的です。

 わめきながら「私」を非難するかと思えば、「あなたを愛するがゆえ」と言ったり、 
 ふたりの仲は終わりだと言っておきながら、「泊まっていくように」と言ったり。

 この矛盾する言動の裏には、男爵が高慢でしかも〇〇であるという事実があります。
 小説でそれが充分暗示されているのに、「私」がまるで気づかない点が面白いです。

 この場面では、「私」という存在感の無い男が、珍しく思い切った行動に出ます。
 なんと、わいわいわめく男爵の、シルクハットを踏みつけて壊してしまうのです。

 意志薄弱で頼りない「私」が、これほど大胆な行動に出たことはありませんでした。
 そういう意味で、実に興味深い場面です。

 さて、シャルリュス男爵の本領発揮は、次の「ソドムとゴモラ」でしょう。
 しかしその前に、この巻の末尾で語られる、スワンの凋落した姿に注目です。

 ゲルマント侯爵夫人がスワンに言います。「一緒にイタリアにいきませんか」と。
 10か月も前のことなのに、スワンは行けそうにないと答えます。その理由は・・・

 「その何ヵ月も前に死んでいるからです。」スワンは死の病におかされています。
 やがて訪れるスワンの死を暗示して、「ゲルマントのほう」は終わるのです。

 さいごに。(おいしかったラーメン)

 先日、県内にある某ラーメン店に行きました。めちゃおいしかったです。
 チャーシューめんを食べましたが、チャーシューの量が半端なくてたいへんでした。

ラーメン.png

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失われた時を求めて13 [20世紀フランス文学]

 「失われた時を求めて7」 マルセル・プルースト作 吉川一義訳 (岩波文庫)


 記憶の中から失われた時を紡ぎ出して、人生の本質を考察する長大な小説です。
 20世紀を代表する作品であり、世界一長い小説としてギネスに登録されています。

 第三篇「ゲルマントのほう」は、1920年から21年にかけて刊行されました。
 岩波文庫版の第7巻には、「ゲルマントのほう」の後半が収められています。


失われた時を求めて(7)――ゲルマントのほうIII (岩波文庫)

失われた時を求めて(7)――ゲルマントのほうIII (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/06/18
  • メディア: 文庫



 祖母の死から数か月後、「私」のパリの住居にアルベルチーヌが不意に訪れました。
 バルベックの頃より豊満で大人びていました。それ以来彼女は時々訪ねてきました。

 そして、バルベックでは許してくれなかったキスを、あっさり許してくれたのです。
 その後関係を持つようになりますが、「私」はもう彼女を愛していなかったのです。

 ある日母から、ゲルマント公爵夫人を追い回すのはやめるように、と言われました。
 そこで「私」は、公爵夫人を待ち伏せするのをやめて、夫人をすっかり諦めました。

 ところが、ヴィルパリジ侯爵夫人の晩餐会で、公爵夫人から声をかけてきたのです。
 「どうして一度も私に会いに来てくださらないの?」と。まるで夢のようでした。

 「美しい夜の沈黙にも似た孤独の静寂(しじま)のなかで、われわれが空の無限のか
 なたでおのが軌道をたどる社交界の大貴婦人を想い描いているとき、そんな虚空から、
 金星やカシオペア座では知られているはずもない自分の名を刻んだ隕石よろしく、晩
 餐への招待とか意地の悪い陰口とかが落ちてくると、こちらは仰天して小躍りしたり
 不愉快になったりせざるをえないのだ。」(P88)

 ゲルマント公爵夫人が「私」を晩餐に招待したのは、サン=ルーの親友だからです。
 一方、「私」がシャルリュス男爵と面識があると言うと、夫人はとても驚きました。

 というのも、男爵は「私」と一度も会ったことがないように振舞っていたからです。
 公爵夫人は言います。「あの人、ときどきちょっと頭が変じゃありませんこと?」

 そこで「私」は、シャルリュス男爵にブロックを紹介したときを思い出しました。
 男爵はブロックを見ると一瞬驚いて、その後なぜか彼にむかって激怒したのでした。

 その後サン=ルーから、男爵が自分に話があると言っていたことを聞きました。
 そこで、ゲルマント公爵夫人の晩餐会に出たあと、男爵を訪問することにして・・・

 なぜシャルリュス男爵は、「私」のことを知らないと言っていたのか?
 なぜシャルリュス男爵は、ブロックにたいして激怒して見せたのか?

 ここでも、シャルリュス男爵の謎めいた行動が、物語を面白くしています。
 いったい、シャルリュス男爵は「私」にどんな話があるというのでしょうか?

 さて、この巻の前半では、サン=ルーとの友情が印象的に描かれていました。
 彼との再会は、今まで忘れていたドンシエールでの時間を、思い出させました。

 「われわれは自分の人生を十全に活用することがなく、夏のたそがれや冬の早く訪れ
 る夜のなかにいくばくかの安らぎや楽しみを含むかに見えたそんな時間を、未完のま
 ま放置している。だがそんな時間は、完全に失われたわけではない。新たな楽しい時
 間がそれなりの調べを奏でるとき、その瞬間も同じくか細い筋を引いて消えてゆくの
 だが、以前の時間はこのあらたな瞬間のもとに駆けつけ、オーケストラの奏でる豊饒
 な音楽の基礎、堅固な支えとなってくれるのだ。かくして失われた時は、たまにしか
 見出されなくとも存在し続けている典型的な幸福のなかに伸び広がっている。」(P125)
 
 それにしても分かりづらいです。表現が凝りすぎています。
 かつてはこういう文章が苦痛でしたが、今ではこういう文章こそが楽しみです。

 さて、この部分を端的に言えば、こういうことになるでしょうか。
 以前の幸福な時間は失われたように見えるが、ふとした瞬間に見出されるのだ、と。

 サン=ルーとの食事のあと、いよいよゲルマント公爵邸での晩餐会となります。
 「私」はようやく憧れの舞台に上がります。いったいどのような展開になるのか?

 さいごに。(スナック菓子禁止)

 今年は陸上競技で結果を出したいので、スナック菓子をやめることにしました。
 しかし、そう宣言した矢先、無意識にお菓子を食べていました。習慣って恐ろしい。

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自転しながら公転する2 [日本の現代文学]

 「自転しながら公転する」 山本文緒 (新潮文庫)


 母の面倒を見ながら契約社員として働き、恋に悩む32歳の都の日々を描いた物語です。
 2020年刊行、2021年本屋大賞第5位、作者の最高傑作。今回はその後半の紹介です。


自転しながら公転する(新潮文庫)

自転しながら公転する(新潮文庫)

  • 作者: 山本文緒
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/10/28
  • メディア: Kindle版



 貫一は立ち食い寿司での仕事が決まり、ふたりで熱海に旅行する計画を立てました。
 都はショップでのごたごたを乗り越え、正社員に推薦してもらうことになりました。

 父の手術をきっかけに、両親は自宅を売って小さい家に引っ越すことにしました。
 家を出ることになった都は、貫一との関係を真剣に考える必要に迫られました。

 熱海の旅行で改めて貫一と結婚したいと思った都は、同棲することを提案しました。
 ところが、貫一はその問題に向き合おうとせず、ふたりは言い合いになりました。

 そこで、都は貫一の脚を後ろからローキックして倒し(逆「貫一お宮の像」)・・・
 貫一は腹を決めて、ふたりは安らかに眠ったが、想定外のことが起こって・・・

 「楽しかった。俺なんかに優しくしてくれてありがとう」・・・
 今度こそ本当に失望した都は、貫一のラインをブロックし、電話番号を削除し・・・ 

 というように、貫一と都の物語が一旦終わるのが、P535です。(あと120ページ)
 そして、ベトナム人のニャン君が再登場するのが、P558です。(あと100ページ)

 高級ホテルのラウンジでニャン君と再会したとき、「やっぱりな」と思いました。
 ところがところが予想は大きく裏切られ、感動のどんでん返しに向かって行きます。

 エピローグでは、「は?」と思いました。最初は、意味が分からず読み返しました。
 そして、「そういうことか!」と驚いたあと、プロローグを読み返しました。

 「山本文緒の最高傑作」の名に恥じない名作です。
 2024年が始まったばかりなのに、いきなりすごい作品に出会ってしまいました。

 最後になりますが、この物語には印象的な脇役がふたりいます。そよかと時子です。
 そよかは都の、時子は母桃枝の友人です。ふたりとも友達の有難さを痛感させます。

 そよかは年下でありながら、都にはっきりものを言い、時には説教さえします。
 それは都を思ってのことで、都はそよかによって何度か大事なことに気付かされます。

 時子はがさつでイライラさせられますが、しかしまごころをもって接しています。
 桃枝はそんな時子のよって知らず知らずのうちに癒され、感謝するようになります。

 そよかは都を救い、時子は桃枝を救いました。
 貫一や都の父には、こういう友達がいませんでした。だから自分を追い詰めました。

 大人になってからの友達は大事です。自分には、こういう友人がいるでしょうか?
 幸い思い当たります。来週、一緒に駅伝を走る仲間がいます。わずか4人ですが。

 さいごに。(ジョッグ中に見た風景2)

 先日は夕方の日の沈むころ、ジョギングをしていました。
 夕焼け空を反射して、富士山が美しい色に染まっていました。眼福、眼福。

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自転しながら公転する1 [日本の現代文学]

 「自転しながら公転する」 山本文緒 (新潮文庫)


 母の面倒を見ながら契約社員として働き、恋に悩む32歳の都の日々を描いた物語です。
 2020年に刊行し、翌年山本は病死しました。2021年本屋大賞第5位の最高傑作です。


自転しながら公転する(新潮文庫)

自転しながら公転する(新潮文庫)

  • 作者: 山本文緒
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/10/28
  • メディア: Kindle版



 32歳で独身の与野都は、アウトレットモールの店で派遣社員として働いています。
 重い更年期障害の母の面倒を見るため、東京の会社を辞め実家から通っています。

 都は前の職場で店長の経験があるため、今の職場の店長から頼りにされています。
 しかし、マーチャンダイザーが変わってから、何かとトラブルが多くなりました。
 
 そのころ都は、同じモール内の回転寿司店で働く羽島貫一と付き合い始めました。
 貫一は30歳です。生活は不安定ですが気が合うため、やがて深い仲になりました。

 貫一は読書家で「貫一お宮」に掛けて、「金色夜叉」を貸してくれたりしました。
 また、貫一は時々含蓄に富んだ言葉を吐くのでした。

 「なんで私がここまでやんなきゃならないのとか、不平不満が爆発しそうでさー。
 家事をやりつつ、家族の体調も見つつ、仕事も全開で頑張るなんて、そんな器用
 なこと私にはできそうもない。」
 「そうか、自転しながら公転してるんだな(中略)地球は秒速465メートルで自転
 して、その勢いのまま秒速30キロで公転している」(P102)

 4月にふたりは温泉旅行に行き、そこで都は貫一の半生の苦労を知りました。
 腕のいい寿司職人だが大酒飲みで認知症になった父。出て行って行方が知れぬ母。

 貫一自身は中卒で無職。そのことを知った都の父は、貫一の前でぶちまけ・・・
 都と貫一の関係は続くのでしょうか? そして、都が結婚する相手は?・・・

 650ページほどある大作です。現在その半分ほどを読み、違和感を覚えています。
 いつまで貫一の話が続くのか? どこでベトナム人の恋人の話が出るのか?

 というのもプロローグでは、ベトナム人と結婚する場面が描かれているからです。
 読者は、都とベトナム人との結婚という結末を知った状態で、読み進めるのです。

 確かに、ニャン君というベトナム人が出てきて、一度だけ都はデートをしました。
 ニャン君の家は大金持ちなので、「金色夜叉」の伏線がうまく生かされています。

 つまり、都がニャン君の富に惹かれて貫一を捨てる、という結末が見えています。
 しかし、それにしてもニャン君の登場する場面は少なくて、存在感がないのです。

 一方、貫一は良いところもダメなところも、はっきりと印象的に描かれています。
 そのため私は、読んでいて「貫一と結婚してほしい」と、心から願っていました。

 実際、都と最も仲の良いそよかも、そして都の母も、貫一のことを認めています。
 それなのに、貫一と別れてしまうとは! でも、いったいどのように?

 「おれたちはすごいスピードで回りながらどっか宇宙の果てに向かってるんだよ」
 貫一の言ったこの言葉が、ふたりの行く末を象徴しているような・・・(P103)

 さて、都の父についても触れておきたいです。貫一に比べて実に格好悪いのです。
 妻の桃枝も呆れています。しかし、最も苦しんでいたのは父だったのではないか?

 「お前たちは気楽でいいよな、適当に責任なく働いたり、ずっと家にいたりでよく
 て。俺は大変なんだよ。休職して会社に戻って、微妙なポジションで肩身が狭くて
 も、頑張って家族のために働いてるよ。更年期障害とかで家事が全然できない女房
 のパンツまで洗ってるよ。なあ、貫一君、結婚ってそういうことだ。」(P297)

 寛一と都の結婚は前途多難です。
 このあとの展開が気になります。いったいどうなるのやら・・・

 さいごに。(ジョッグ中に見た風景)

 先日の日曜日はとてもよく晴れて、ジョギング中に富士山がきれいに見えました。
 スマホを持っていたので、思わず立ち止まってカシャリ。贅沢なコースです。

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プラナリア [日本の現代文学]

 「プラナリア」 山本文緒 (文春文庫)


 表題作は、乳がんの手術を受けた後、何もかも面倒臭くなった25歳の女子の話です。
 2000年刊行。表題作を含む全5編の短編を収録していて、直木賞受賞の作品集です。


プラナリア (文春文庫)

プラナリア (文春文庫)

  • 作者: 山本 文緒
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/09/02
  • メディア: 文庫



 「プラナリア」は、「プラナリアになりたい」と言う女性春香が主人公です。
 「そういうもんに生まれてたら、取った乳も勝手に盛り上がってきて・・・」

 プラナリアというのは、切っても切っても再生してしまう、不思議な生き物です。 
 そして25歳の春香は、2年前に乳がんの手術をして、左の胸を切除していたのです。

 定期的に病院でホルモン剤を打たれますが、疲労感でなにもやる気が無くなります。
 会社をやめて、5歳年下の大学生の恋人豹介と一緒に、だらだらと過ごしています。

 ある日春香はデパートで、入院仲間の永瀬と再会して、甘納豆屋で働くことに・・・
 「乳がんが持ちネタ」と言った春香に、永瀬が贈ったものとは・・・

 結末がいいです。春香の気持ちは、分かる気もしますが、私は豹介に同情しました。
 はっきり言って、めんどくせー女です。うちの奥さんがとても可愛く思えてきます。

 「ネイキッド」は、「36歳無職」の女性泉水(いずみ)が主人公です。
 2年前に離婚し、会社を辞め「さもしい生き方」もやめ、だらだら暮らしています。

 「自分の立っていた固いはずの地面が、こんなにも簡単に割れてしまう薄い氷だとは
 知らなかった。氷が割れて沈んだ水の底で凍え死ぬのかと思っていたら、意外にもそ
 こは暇という名のぬるま湯で満ちていた。」(P71)

 夜中の漫画喫茶で、以前の部下のチビケンに再会し、深い仲になってしまいました。
 泉水は、自分とチビケンは負け組同士でお似合いだと思い、付き合いは続きました。

 かつての同業者の兵藤(ひょうどう)が、泉を自分の会社に雇いたいと言いました。
 チビケンは泉水の復帰に賛成します。しかし泉水は迷っていて・・・

 「疑問を持ちつつもまた前へ前へと進んでいくのだ。それが何故だか分からないがと
 ても悔しかったのだ。転んで怪我をしても、やがてその傷が治ったなら立ち上がらな
 くてはならないのが人間だ。それが嫌だった。」(P106)

 「ネイキッド」はマイ・ベストです。チビケンが、とても良い味を出していました。
 終盤の泉水とチビケンの展開は、実に惜しい。ハッピーエンドを期待していたのに!

 私は、チビケンは得がたい男だと思います。善良で、泉を幸せにしてくれる男です。
 しかし・・・結末はちょっと切なくなりました。静かで悲しい余韻が残りました。

 「どこかではないここ」は、夫がリストラされたため奮闘する妻加藤が主人公です。
 深夜のパートを始め、不良娘と軽薄な息子と我儘な母と病気の義父を抱えて・・・

 ひとりで頑張りながらも、娘には「お母さんの生き方が嫌いなの」と言われます。
 読んでいて切なくなりますが、ラストは良いです。これをきっかけに変われるか?

 「囚われ人のジレンマ」は、大手通信機器メーカーの美都(みと)が主人公です。
 美都には、付き合って7年になる恋人の浅丘がいますが、彼はまだ大学院生です。

 美都は25歳の誕生日の日、浅丘から「結婚してもいいよ」と言われ、迷いました。
 後日、浅丘から指輪まで渡されましたが、美都はなかなか結婚に踏み切れません。

 そして、デザイナーの大石と浮気をしたり、合コンで会った男と浮気をしたり・・・
 浅丘とは喧嘩をしたり仲直りをしたり・・・そしてあるとき突然、彼の母が・・・

 浅丘は、頭でっかちの子供です。そしてそれは美都も同じです。ふたりは同類です。
 面白い物語ですが、浅丘に対しても美都に対しても、読んでいてイライラします。

 「あいあるあした」は、居酒屋をやっている36歳の男、真島が主人公です。
 7年前に離婚して、現在はすみ江という手相観の女と同棲しています。

 11歳になるひとり娘が、久しぶりに真島に髪を切ってもらうためにやって来て・・・
 その後、すみ江は部屋からいなくなり・・・元妻は再婚して渡米することに・・・

 「あいあるあした」だけが、男を主人公にしていたため、共感しやすかったです。
 「髪はパパに切ってもらう」という娘が、とてもいじらしくて、泣けてきます。

 すみ江も、太久郎も、とても情があって良い人たちです。
 この後、真島とすみ江はどうなるか?・・・この作品は、マイ・ベスト2です。

 さて、山本文緒の最高傑作は、死の直前に書いた「自転しながら公転する」です。
 帯には、「恋愛、仕事、家族のこと。ぜんぶがんばるなんて、無理。」とあります。


自転しながら公転する(新潮文庫)

自転しながら公転する(新潮文庫)

  • 作者: 山本文緒
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/10/28
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(家電店の親切な対応)

 母が初売りで買ったCDラジカセが、数日で故障し、CDを再生しなくなりました。
 ところが、母はそのレシートをうっかり捨ててしまい、購入した証拠がありません。

 ダメもとで店舗に相談すると、店の販売履歴から伝票の控えを見つけてくれました。
 おかげで交換してもらえました。忙しい中、丁寧な対応をしてくれた店員さんに感謝!

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卵の緒 [日本の現代文学]

 「卵の緒」 瀬尾まいこ (新潮文庫)


 血のつながらない母と息子(小学5年)を描き、親子とは何かを追求した物語です。
 2002年に出た、瀬尾まいこのデビュー作です。「7's blood」も収録されています。


卵の緒 (新潮文庫)

卵の緒 (新潮文庫)

  • 作者: まいこ, 瀬尾
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/06/28
  • メディア: 文庫



 母と二人で暮らしている小学5年生の鈴江育生は、自分を捨て子だと思っています。
 あるとき「へその緒」を見せてと言うと、母は「卵の殻」を見せてくれたのです。

 母は言います。自分は育生を卵で産んだのだ、だから卵の殻を置いているのだと。
 そして、本当の親子の証だと言って、思いっきり強く育生を抱きしめるのでした。

 「母さんは、誰よりも育生が好き。それはそれはすごい勢いで、あなたを愛してるの。
 今までもこれからもずっと変わらずによ。ねえ、他に何がいる?」(P21)

 やがて母が再婚して名字が朝井に変わり、子供ができたとき母が話したことは・・・
 女子大生時代の母が、どんなふうに恋愛して、どんなふうに結婚したのか?・・・

 血のつながらない親子を描いている点で、「そして、バトンは渡された」と同じです。
 → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2023-12-12

 しかし、この物語の魅力はなんと言っても、エネルギッシュで愛情深い母でしょう。
 へその緒なんてスーパーで100円ぐらいで売っている、と言い切ってしまえる母!

 この母が育生に一度だけ語る、「母と育生の物語」も、非常に味わいがありました。
 ただし、なぜ父親が死んでしまったのか(自殺?)、もう少し知りたかったです。

 さて、この文庫にはもう一作「7's blood」も収録されています。
 こちらは半分血が違う異母姉弟の物語です。いずれも心がほっこりする物語です。

 高校3年の七子は母と二人暮らしです。その家に小学5年の七生がやってきました。
 七生は父の愛人の子で、母が事件を起こしたため、一緒に暮らすことになりました。

 七生が来て5日目に、七子の母が倒れて入院し、姉弟2人の生活が始まりました。
 七生はとても素直で明るい子でしたが、なぜか七子にはかわいいと思えなくて・・・

 しだいにふたりの気持ちが接近し、かけがえのない存在になっていくところが良い。
 そして七子は、母が七生を引き取った理由に気付く! やがて訪れる切ない別れ!

 瀬尾まいこには、「あと少し、もう少し」という陸上小説もあります。
 中学生の駅伝大会を描いています。箱根駅伝を見ていたら、読みたくなりました。


あと少し、もう少し (新潮文庫)

あと少し、もう少し (新潮文庫)

  • 作者: 瀬尾 まいこ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/03/28
  • メディア: 文庫



 さいごに。(今年は補足の年)

 以前は絶版で読めなかった本で、最近読めるようになったものがいくつかあります。
 たとえば、「ノートルダム・ド・パリ」「ミドルマーチ」「牡猫ムルの人生観」・・・

 ほか、「死せる魂」「アンクル・トム」「ジェルミナール」「告白」(ルソー)・・・
 今年は国にこだわらず、これらの作品を読んでいきます。もちろん、プルーストも。

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涼宮ハルヒの憂鬱 [日本の現代文学]

 「涼宮ハルヒの憂鬱」 谷川流 (角川文庫)


 涼宮ハルヒとSOS団を作ったキョンが、世界を破滅から救う荒唐無稽な物語です。
 2003年に角川スニーカー文庫で刊行。のちにシリーズ化。ラノベの金字塔です。

 「涼宮ハルヒの消失」の純文学的要素が買われて(?)、角川文庫にも入りました。
 ただしカバーは、スニーカー文庫版のイラストの方が良い。買うのは恥ずかしいが。


涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2003/06/07
  • メディア: 文庫



涼宮ハルヒの憂鬱 (角川文庫)

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川文庫)

  • 作者: 谷川 流
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/01/24
  • メディア: 文庫



 「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者が
 いたら、あたしのところに来なさい。以上」(P11)

 この自己紹介はギャグなのか? 後ろの席を見てみると、それは大変な美女でした。
 こうして、高校一年の「俺」ことキョンは、涼宮ハルヒと出会ってしまったのです。

 涼宮は、「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」(SOS団)を結成し、
 キョンのほか、文学少女の長門有希と、美少女の朝比奈みくるを仲間に入れました。

 文芸部の部室を占領し、コンピュータ部からパソコンを奪い、活動の準備をします。
 転校生の古泉一樹が加わった後、キョンは突然長門から意味不明の話を聞きました。

 「この銀河を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒ
 ューマノイド・インターフェース。それが、わたし」(P114)

 長門は言います。3年前に地球で異常な情報フレアがあり、その中心に涼宮が・・・
 この3年間、あらゆる角度から涼宮を調査してきたが、その正体は不明であり・・・

 それから、「あなたは涼宮ハルヒに選ばれた。それには必ず理由があるはず」と・・・
 さらに、「あなたと涼宮ハルヒがすべての鍵を握っている」と・・・

 P100ぐらいまで、つまり長門のこの説明まで、実に残念な作品だと思っていました。
 ロリ巨乳の朝比奈にバニーガールのコスプレをさせるとか、あまりにもくだらない!

 ところが長門の話の場面から、急激に物語は壮大で、荒唐無稽で、面白くなるのです。
 世界は3年前から始まった? 世界は涼宮ハルヒによって造られた?・・・

 この作品は、ラノベをバカにしている私に、読書仲間の若者が紹介してくれました。
 「ラノベに対する考え方が変わる」とのことです。その通りです。恐れ入りました。

 特に、世界観のスケールがすごい。日本SF大賞を取ってもいい作品だと思います。
 比べるのも悪いが、森目の「ペンギン・ハイウェイ」よりはるかに優れていないか?

 また、涼宮が憂鬱である理由を語っている言葉(P216~)は、けっこう文学的です。
 自分がこの地球でどれだけちっぽけな存在か自覚してから、世界は色あせて・・・

 物語は、最後の最後まで展開が読めませんでした。
 そして、あのラスト。いい感じで終わるところもすばらしい。

 ただし、キョンがなぜ涼宮や朝比奈に気に入られたのかが、まったく分かりません。
 そこがラノベっぽい点ですが、もしかしたらのちほど種明かしがあるのでしょうか。

 「涼宮ハルヒの憂鬱」は、「このライトノベルがすごい」の2005年版で堂々第一位。
 人気作となり続編が出て、シリーズ化されました。現在12巻まで出ているようです。

 中でも傑作とされるのは、本作と、第4作の「涼宮ハルヒの消失」です。
 こちらは、アニメ映画となって2010年に上映されました。ちょっと見てみたいです。



 さいごに。(リゾートだったら)

 昨年は、年末の12/27~12/29の3日間、出張が入ってしまいました。
 仕事の始まる前の朝と、終わってからの夕方、近くの海岸に足を運びました。

 きれいな写真が撮れたので、友人にLineで送ると、「リゾートか?」との返信。
 ああ、私もいつか、年末年始をリゾートで過ごしてみたいです。

IMG_0499-2.png

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