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ジェルミナール3 [19世紀フランス文学]

 「ジェルミナール(下)」 エミール・ゾラ作 安士正夫訳 (岩波文庫)


 炭坑労働者の悲惨な生活と、彼らのストライキをリアルに描き出した長編小説です。
 1885年刊行です。岩波文庫から三分冊で出ています。今回はその下巻を紹介します。


ジェルミナール 下 (岩波文庫 赤 544-9)

ジェルミナール 下 (岩波文庫 赤 544-9)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2024/03/19
  • メディア: 文庫



 恐るべき事件の後、町は不気味に静まり、エティエンヌは炭坑の地下に潜みました。
 ストライキは続き、人々は飢えによる苦しみにあえぎ、餓死する者も出てきました。

 そのような状況の中、ル・ヴォルー坑ではベルギー人たちを雇って入坑させました。
 怒る坑夫たちは400人の暴徒となって、炭坑を守る兵隊たちと激しく衝突しました。

 兵隊は一斉に射撃し、多くの犠牲者が出ました。マユは心臓を撃たれて死にました。
 暴徒たちの行動は鎮圧され、坑夫を率いたエティエンヌは一転してなじられました。

 会社は再開され、エティエンヌは誓いを破り、カトリーヌとともに入坑しました。
 ところがその前日、ルヴァクが裏切り者を制裁するため、炭坑に細工をしたのです。

 激震があり、炭坑が崩れ落ちて、20人ほどの人々がその中に閉じ込められました。
 その中には、エティエンヌとカトリーヌと、彼女の情夫のシャヴァルがいました。

 岩を打って助けを求めると、カトリーヌの兄が音を聞きつけ、助けに向かい・・・
 閉じ込められた因縁の3人。彼らに何が起こるか? 彼らは無事に救助されるか?

 終盤にきて恐ろしい展開がありますが、この部分こそゾラの描写の白眉だそうです。
 本書は、炭坑での労働の悲惨さを容赦なく描いているため、高く評価されています。

 さて、意外だったのは結末部です。エティエンヌはひとりパリへ旅立ちます。
 私はこの小説を、救いのない物語だと思いましたが、最後に希望を持たせています。

 「鉱山の底の辛い体験によって自分が成熟し、力強くなったことを感じた。彼の教育
 は完了した。そして彼が見たままに欠陥を見出したままに、社会に対して戦いを宣し
 て、革命の兵士たる理論家としていよいよ出陣したのである。」(P208)

 「人々は芽生えていた。真黒な、復讐に燃えた軍団は畔の中でおもむろに萌え、来る
 べき世紀の収穫となるために成長していて、その発芽は間もなく大地をはじけさせよ
 うとしていた。」(P212)

 ここでようやくタイトル「ジェルミナール」(芽月)の意味が分かりました。
 しかし彼には、パリになんか行かずに、カトリーヌと幸せになってほしかったです。

 正直に言って、このあとエティエンヌが、パリで幸せになるようには思われません。
 炭坑に閉じ込められたとき彼は、恋敵であるシャヴァルを〇〇しています。

 ここに、エティエンヌの隠れた本性が垣間見えているような気がしてなりません。
 この先彼は、孤独で冷酷で利己的な革命家に、育っていくのではないでしょうか。

 余談ですが、「ジェルミナール」はフランス文学史上に残る大傑作として有名です。
 それなのに、岩波文庫版は活字は小さく漢字は旧字体です。しかも、現在絶版です。

 「居酒屋」と「ナナ」は、新潮文庫からオシャレなカバーで出ているというのに・・・
 新潮文庫で新訳を出してくれるといいのですが。もっと読まれてもいい作品ですよ。

 そういえば、エティエンヌにはクロードという名の兄がいて、画家になっています。
 クロードを主人公にした作品が1886年刊の「制作」で、岩波文庫から出ていました。

 印象派の画家たちを描いた小説で、私は印象派が好きなので注目していました。
 最近まで書店で見かけていましたが、現在は絶版です。復刊されたら読みたいです。


制作 (上) (岩波文庫)

制作 (上) (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1999/09/16
  • メディア: 文庫



制作 (下) (岩波文庫)

制作 (下) (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1999/09/16
  • メディア: 文庫



 さいごに。(来年度の人事)

 3年間のプロジェクトが終了し、某課長のおかげで、ある程度の成果を出せました。
 そのため、プロジェクトの主任だった私が、某課長のポジションを引き継ぐことに!

 これで、4月からはさらに忙しくなります。やれやれ。
 しかし、56歳の老いぼれに仕事を与えてくれたことは、ありがたいことなのかも。

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ジェルミナール2 [19世紀フランス文学]

 「ジェルミナール(中)」 エミール・ゾラ作 安士正夫訳 (岩波文庫)


 炭坑労働者の悲惨な生活と、彼らのストライキをリアルに描き出した長編小説です。
 1885年刊行です。岩波文庫から三分冊で出ています。今回はその中巻を紹介します。


ジェルミナール 中 (岩波文庫 赤 544-8)

ジェルミナール 中 (岩波文庫 赤 544-8)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2024/03/11
  • メディア: 文庫



 ある日、炭坑夫たちは一斉にストライキに入り、代表者は支配人の家を訪れました。
 その際、優秀な炭坑夫で人望あるマユが、エティエンヌに推され口火を切りました。

 「(我々の要求は、)我々が当然もらうべきものを、会社が自分たちで分配している
 我々の儲けを、我々によこして率直に公平な態度を示してくれることです。一体、恐
 慌に見舞われる毎に、株主の配当を救うために労働者を飢え死に任せるということは
 正しいことでしょうか?」(P36)

 要求は受け入れられず、ストライキは2週間続けられ、とうとう財源が尽きました。
 飢餓の恐怖が迫る中でも、彼らは正義の時代の到来と万人の幸福を信じていました。

 エティエンヌはインタナショナルの役員を呼び寄せ、炭坑夫全員を加盟させました。
 インタナショナルからは4000フランが送られましたが、それもすぐに尽きました。

 そしてさらに2週間が過ぎて、炭坑夫の町は断末魔の苦しみにあえいでいました。
 会社との2度目の会見も虚しく、追い詰められた炭坑夫らは集って話し合いました。

 「賃金制度は奴隷状態の新しい形だ。」
 エティエンヌの思いは、しだいに賃金制度の撤廃を求める政治思想に達しました。

 まず国家を破壊しなければならない、人民が統治権を握れば改革が始まるだろう。
 平等を旨とする自由な家族を造ることだ、市民的、政治的、経済的に平等な・・・

 「惨めな人間を奴らは機械の餌食に投げあたえ、家畜同然に抗夫町の中にかこい、
 大会社は徐々に彼らを吸収し、奴隷状態を制度化し、千人ばかりの怠け者が富み栄
 えるために一国の全労働者を、数百萬の腕を配下に編入する脅威を示している。だ
 が、もはや抗夫は無知ではない、地の底で圧し潰されているけだものではない。」
 (P129)

 カトリーヌと駆け落ちしたシャバルもまた、ストライキへの参加を表明しました。
 しかし・・・彼は会社にいかに取り込まれ、仲間からいかなる仕打ちを受けたか?

 エティエンヌは、エスカレートした集団をもはや統率することができず・・・
 食品店のメグラが犠牲となり・・・彼はどのようなおぞましい仕返しをされたか?

 中巻に入ってストライキに入ると、作者ゾラの描写がさらに凄みを増しました。
 特に、仲間の裏切りに対する仕返しの場面が、目を覆いたくなるぐらいでした。

 炭坑の象徴であるボイラーが壊され、施設が次々と破壊されるのは理解できます。
 しかし、炭坑内で人が働いているのを知りながら・・・彼らは何を破壊したか?

 この勢いのまま、下巻に突入します。下巻も楽しみです。
 岩波文庫版は読みにくいですが、だんだん慣れてきました。

 さいごに。(プロテインを買いに行ったのに)

 ドンキホーテでプロテインを購入しました。これを飲んで、走れる体にしたいです。
 ところが、ラミーが税込み150円と激安だったので、つい箱買いしてしまいました。

 「プロテインを飲んでも、ラミーを食べたら意味ない」と、妻と娘に言われました。
 ああ、ドンキに行ったことが失敗でした。自分の弱さを痛感しました。

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ジェルミナール1 [19世紀フランス文学]

 「ジェルミナール(上)」 エミール・ゾラ作 安士正夫訳 (岩波文庫)


 炭鉱労働者の悲惨な生活と、彼らのストライキをリアルに描き出した長編小説です。
 1885年刊行。主人公エティエンヌは、「居酒屋」の主人公ジェルヴェーズの子です。

 岩波文庫から三分冊で出ていました。ゾラの大傑作ですが、現在上と中は絶版です。
 私は2016年の復刊で買いましたが、活字が小さく、漢字は旧字体で読みにくいです。


ジェルミナール 上 (岩波文庫 赤 544-7)

ジェルミナール 上 (岩波文庫 赤 544-7)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2024/02/28
  • メディア: ペーパーバック



 ある町に一文無しの青年が流れてきました。名前はエティエンヌ・ランティエです。
 勤めていた鉄道会社で上司を殴って追い出され、仕事がないかと炭抗を見ています。

 「窪みの底に押しこめられているこの炭坑は、彼に、人間どもを喰らうためにそこに
 うずくまっている貪欲な動物の邪悪な姿をしているように思われた。」(P11)

 たまたまひとりの運搬婦が亡くなったので、エティエンヌは運よく雇われました。
 しかし、仕事はきつく、賃金は安く、労働環境は悲惨で、上役の態度は理不尽です。

 それでもエティエンヌはまじめに働き、やがて周囲に認められるようになりました。
 彼は、炭坑夫のために予備基金を新設して、組合を作り、その書記となりました。

 何年か経てばお金がたまって、ストライキをしても、生活に困らなくなるはずです。
 しかし、エティエンヌの社会主義的思想は、会社から警戒されるようになりました。

 恐慌で痛手を受けた会社は、費用を切り詰めるために、ある企みを持っていました。
 それは、予備基金が少ない今のうちに、あえてストライキをさせるというものです。

 会社は、炭坑夫の賃金を減らすため支払いの方法を変え、容赦なく罰金をとり・・・
 彼らを追い詰めストライキをさせて、屈服させたあと賃金を減らしてやろうと・・・

 搾取される炭坑夫をこれでもかと描くことで、資本家の汚さや卑劣さが際立ちます。
 その象徴が炭坑です。それは700人の人間昆虫を飲み込んでしまう巨大な腸です。

 まさに、炭坑が人間を食い物にしているということを、強烈にイメージさせます。
 上記P11の引用も非常に秀逸だと思います。ゾラの文章をじっくり味わえる箇所です。

 さて、エティエンヌ・ランティエは、「居酒屋」の主人公ジェルヴェーズの子です。
 彼女が、最初の夫ランティエのもとで産んだ、2人の息子のうちのひとりなのです。

 「彼女(=ジェルヴェーズ)は彼(=エティエンヌ)の父親(=ランティエ)から捨
 てられ、他の男と一緒になった後に又も彼の父親につかまり、自分を食い物にしてい
 る二人の男に挟まれて暮し、彼等と共に泥溝の中、酒の中、汚物の中を転げまわって
 いたのである。」(P60)

 懐かしい! 「居酒屋」を読んだのは、今から14年も前のことでした。
 それにしても、あのひどい環境にいたエティエンヌが、まっとうに育っているとは!
 「居酒屋」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2010-02-03

 ところで、私はタイトル「ジェルミナール」を、登場人物の名だと思っていました。
 途中、いつになったら「ジェルミナール」が登場するのかと、やきもきしました。

 ところが、「ジェルミナール」はフランス革命月の「芽月」を指すのだそうですね。
 そして、彼らの活動が、社会変革の「芽」となる、という意味を含むのだそうです。

 さて、現在上巻が終わったばかりです。このあとが気になります。
 エティエンヌらはストライキを強行しそうですが、いったいどうなるのでしょうか。

 さいごに。(安本丹)

 岩波文庫の「ジェルミナール」は読みにくいので、読む速度は時速40ページです。
 特に旧字体が難しい。対を「對」、体を「體」、図を「圖」、台を「臺」・・・

 しかし、もっとも首をひねったのが、「安本丹」です。いったいなんと読むのか?
 答えは、おそらく「あんぽんたん」です。最近使わなくなった言葉ですね。

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デ・トゥーシュの騎士 [19世紀フランス文学]

 「デ・トゥーシュの騎士」 ドールヴィイ作 中条省平訳 (ちくま文庫)


 幽閉された騎士デ・トゥーシュを救出する、ふくろう党の活躍を描いた物語です。
 1799年に起こったふくろう党の事件を題材に、波乱万丈の物語に仕立てました。


デ・トゥーシュの騎士 (ちくま文庫)

デ・トゥーシュの騎士 (ちくま文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2012/06/01
  • メディア: 文庫



 王政復古時代のある日、ベルシー神父はトゥフドリス姉妹の家を訪れました。
 途中、神父は幽霊に遭遇したのです。「あれは・・・デ・トゥーシュの騎士だ」

 この言葉をきっかけに、神父の妹ペルシー老嬢による、昔語りが始まりました。
 それは、ふくろう党の決死の12人による、デ・トゥーシュ奪回計画の顛末です。

 アヴランシュ監獄における奇襲と脱出、クタンス監獄における奪回・・・
 エメとジャックの悲劇・・・最後まで読むとエメが隠れた主役だと分かります。

 「この地上で絶対的に美しいものがたどる運命を、彼女もたどることになる!
 彼女の物語は消えてしまうのだよ・・・彼女を愛した十一人の男の物語が消えて
 しまうように。」(P86)

 訳者解説によると、作者はデ・トゥーシュが死んでいると思っていたそうです。
 ところが狂人として施設に幽閉されていることを知り、会いに行ったと言う。

 そのときの経験によって、結末部分の後日譚が生まれました。
 ただ、デ・トゥーシュとジャック氏とエメの関係を、もっと知りたかったです。

 ところでこの小説、最初の30ページほどは、なかなか物語が始まりませでした。
 そして、ベルシー兄妹の醜さが、これでもかと描かれます。しかも華麗な文体で。

 「神父の妹は不愉快な罪悪のように醜かったが、神父は妹ほど醜くはないものの、
 愉快な罪悪のように醜かった。」(P28)

 「愉快な罪悪のよう」、こんな表現、読んだことがありません。クセになります。
 時々まどろっこしく感じるものの、とても味わい深い表現が、次々と登場します。

 「反時代的ダンディズム」「世紀末デカダンスの美学」などと言われた名文です。
 今では失われた文章です。そういう意味で、ドールヴィイの作品は貴重です。

 さて、ドールヴィイといったら、短編集「悪魔のような女たち」なのだそうです。
 ぜひ読んでみたいのですが、現在は出版社にも在庫なし。重版してほしいです。


悪魔のような女たち (ちくま文庫)

悪魔のような女たち (ちくま文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2020/10/14
  • メディア: 文庫



 さいごに。(私のお菓子を奪う)

 娘の持っているお菓子を、うっかり間違って食べてしまうのは、私の得意技でした。
 ところが、娘は最近食べ盛りなので、私の買ってきたお菓子を奪おうとするのです。

 意地汚いと思いつつも、少し感心します。
 幼稚園の頃、食べるのが遅くてやきもきしていたことを思えば・・・

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ロレンザッチョ [19世紀フランス文学]

 「ロレンザッチョ」 ミュッセ作 渡辺守章訳 (光文社古典新訳文庫)


 16世紀のフィレンツェで実際に起きた、メディチ家暗殺事件を題材にした戯曲です。
 五幕39場という長大な構成だったため、発表当時は上演不可能とされていました。

 光文社古典新訳文庫から出ています。文章は分かりやすいです。
 日本では1993年に、訳者渡辺守章の演出、堤真一主演で、初上演されました。


ロレンザッチョ (光文社古典新訳文庫)

ロレンザッチョ (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: ミュッセ
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/08/09
  • メディア: 文庫



 16世紀のフィレンツェは、メディチ家のアレクサンドルが独裁していました。
 その従弟のロレンゾは、この暴君に取り入りながら、暗殺の機会を狙っていたが・・・

 「崇高な目的のために、おぞましい道を選んだ」(P155)・・・
 「悪徳は、初めは単なる衣装だったが、今では肌に貼りついてしまった」(P159)

 アレクサンドルと放蕩を楽しむふりをするうちに、本当にわが身を汚していました。
 自分こそが独裁者を倒すというロレンゾの理想は、ほとんど誰にも理解されません。

 ロレンゾの狂気に近い執念と、孤独と諦念が、この劇を奥深いものとしています。
 「僕という人間は、もはや一つの廃墟にすぎない」(P196)

 しかも随所で、ロレンゾとアレクサンドルの同性愛的な関係が、暗示されています。
 妖しい雰囲気が全編を包んでいて、暗殺という行為にエロスの香りがします。

 そういう意味で、この戯曲は、ほかにはない味わいがあります。傑作だと思います。
 しかし、なんといっても長い。260ページほどあります。正直、無駄な部分が多い。

 それでいて、ロレンゾがなぜ暗殺を決意したのか、大事な部分がよく分かりません。
 ロレンゾは、アレクサンドルに、恋していた故に殺したのかもしれない・・・

 1993年に、銀座セゾン劇場で上演された舞台は、どうだったのでしょうか。
 ロレンゾとアレクサンドルがキスするシーンがあったとか。まあ、いいのだけど。

 ちなみに、この本の本文のあと、訳注・解題・あとがきが130ページ続いています。
 読まないって! 余計な部分をカットして、700円ぐらいで出してほしかった。

 さいごに。(新しい読書仲間)

 娘のクラスでは読書ミッションというのがあって、今回のミッションは宮沢賢治。
 そこで、私の本棚から宮沢賢治の文庫本を持って行って読んでいます。

 「注文の多い料理店は面白い」とか「この話は意味が分からない」とか言ってます。
 ようやく娘と本について話ができるようになりました。新しい読書仲間の誕生です。

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モンテ・クリスト伯(抄訳)2 [19世紀フランス文学]

 「モンテ・クリスト伯(下)」 A・デュマ作 大友徳明訳 (偕成社文庫)


 無実の罪で捕らわれた男が脱獄し、自分を陥れた者たちに復讐する物語です。
 以前、講談社文庫の完訳を読み、今年、偕成社文庫の抄訳を読み直しました。


モンテ・クリスト伯[下] (偕成社文庫)

モンテ・クリスト伯[下] (偕成社文庫)

  • 作者: アレクサンドル・デュマ
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2010/10/15
  • メディア: 文庫



 下巻に入るとモンテ・クリスト伯爵は、いよいよかつての婚約者と再会します。
 モルセール伯爵夫人は、早くもモンテ・クリスト伯の正体に気付いています。

 「伯爵さま、アラビアには、同じ屋根の下でパンと塩をわかちあった者は、永遠
 の友だちとなるという、うるわしい風習がありましたね。」
 「それはわたしも知っていますが、ここはフランスで、アラビアではありません。
 フランスにはパンと塩をわかちあうことも、永遠の友だちも存在しません。」

 この言葉の中に、二人それぞれの思いが全て込められています。
 この再会の場面は、物語を通して最も切なかったです。

 「エドモン、あなたのところにやってきたのは、モルセール夫人ではなくて、メ
 ルセデスなのです。」
 「メルセデスは死にました・・・わたしはもう、そういう名の人は知りません。」
 「メルセデスは生きています。・・・メルセデスだけは、あなたに会ったとき、
 あなただとわかりました。」

 この物語は、愛と憎しみの物語でした。
 そして、「復讐はむなしい」ということを、教えてくれました。

 ダングラールを、フェルナンを、ヴィルフォールを、巧みに陥れていき・・・
 しかし、復讐を果たすうちに、自分の行為に迷いが生じるようになって・・・

 「ゆるやかな曲がりくねった坂道をたどって、復讐の頂点に達した伯爵は、この
 山の反対側に、疑惑の谷があることに気づいたのだ。」(P369)

 抄訳を選んだのは、できるだけ簡単にこの大作を味わいたいと思ったからです。
 しかし読み終えてから思ったのは、「もう一度完訳を読みたい」ということです。

 それは、偕成社文庫版がもの足りないというのではありません。むしろ逆です。
 作品がそれだけ魅力的だったので、もう一度しっかり読みたいと思いました。

 現在出ている完訳は岩波文庫版です。初訳は1956年と古いのですが、味わい深い。
 全7巻です。いつでも読み出せるように、1巻から3巻までは買ってあります。


モンテ・クリスト伯(全7冊セット) (岩波文庫)

モンテ・クリスト伯(全7冊セット) (岩波文庫)

  • 作者: アレクサンドル・デュマ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2000/04
  • メディア: 文庫



 また、今回改めて感じたことは、これも「ナポレオン物」のひとつだということ。
 冒頭部分、百日天下、人々の回想場面など、随所でナポレオンが登場します。

 ナポレオンの本も読みたくなりました。
 ナポレオンのマイブームの時に買った、鶴見祐輔の書いた本を読んでおきたいです。


ナポレオン (潮文庫 黄 1A)

ナポレオン (潮文庫 黄 1A)

  • 作者: 鶴見 祐輔
  • 出版社/メーカー: 潮出版社
  • メディア: 文庫



 さいごに。(今年は余裕でマグロ組)

 小学校の水泳の授業が始まりました。今年は最高レベルのマグロ組に入れました。
 市民プールで、クロール50mと平泳ぎ50mを、泳げるようにしておいて良かったです。

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モンテ・クリスト伯(抄訳)1 [19世紀フランス文学]

 「モンテ・クリスト伯(上)」 A・デュマ作 大友徳明訳 (偕成社文庫)


 無実の罪で捕らわれた男が脱獄し、自分を陥れた者たちに次々と復讐する物語です。
 世代を超えて愛され、多くの児童版が抄訳で出ています。文庫本ではありません。


モンテ・クリスト伯[上] (偕成社文庫)

モンテ・クリスト伯[上] (偕成社文庫)

  • 作者: アレクサンドル・デュマ
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2010/10/15
  • メディア: 文庫



 一等航海士のエドモン・ダンテスは、マルセイユで婚約パーティーを開きました。
 次期船長に任命され、大きな幸福をつかみかけたそのとき、突然逮捕されました。

 逮捕された理由もわからず、ダンテスは尋問され、イフの城塞に監禁されました。
 それから14年・・・ダンテスはいかに脱出し、いかに巨万の富を得たのか?!

 ダンテスはなぜ逮捕されたのか? 陰謀を企てたのは誰だったのか?
 そしてダンテスは、いかに復讐を成し遂げていったのか?!

 「モンテ・クリスト伯」については、すでに2010年に紹介しています。
 「モンテ・クリスト伯」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2010-01-15

 今年、木曜劇場の「モンテ・クリスト伯」を見て、読み直したくなりました。
 では、どの本で読み直すべきか。これが大きな問題でした。

 家にある講談社文庫版(絶版)は完訳で、全5巻、2000ページ超になります。
 岩波文庫版も完訳で、全7巻。無理です。今回は児童版の抄訳を選びました。

 岩波少年文庫は上中下の全三冊です。訳は古いものの、味わいがあります。
 抄訳とはいえ必要十分な量があり、内容は濃いので大人でも満足できます。


モンテ・クリスト伯 (上) (岩波少年文庫 (503))

モンテ・クリスト伯 (上) (岩波少年文庫 (503))

  • 作者: アレクサンドル・デュマ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2000/06/16
  • メディア: ペーパーバック



 その対極にあるのが、青い鳥文庫の「巌窟王」です。1冊で完結しています。
 分かりやすいのですが、明らかに児童向けなので、大人にはもの足りないです。


巌窟王 (講談社青い鳥文庫)

巌窟王 (講談社青い鳥文庫)

  • 作者: アレクサンドル デュマ
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1989/05/10
  • メディア: 文庫



 その中間に位置するのが、偕成社文庫です。上下二巻で分量がちょうどいい。
 訳は新しく分かりやすかったので、私はこの本を買いました。挿絵もきれい。

 この本を手に入れた店は、地元の繁華街の書店です。二冊で約1600円でした。
 ところが、この本は既に絶版だと言うではありませんか!

 アマゾンでは古本が、上巻5600円で下巻4900円と、眼を疑う高値。(6/14現在)
 二冊で10,000円超です。たまたま手に入れられて、本当にラッキーでした。


モンテ・クリスト伯[上] (偕成社文庫)

モンテ・クリスト伯[上] (偕成社文庫)

  • 作者: アレクサンドル・デュマ
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2010/10/15
  • メディア: 文庫



 さいごに。(ドラマ「モンテ・クリスト伯」)

 木曜劇場「モンテ・クリスト伯」が終了しました。最終回は2時間スペシャル。
 マイ・ルール(=ドラマの拡大版は見ない)に背いて、見てしまいました。

 ドラマの副題は「華麗なる復讐」。華麗だって? この復讐は趣味悪かったです。
 最後までねちねちと復讐が続けられ、後味が悪かったです。復讐は、むなしい!

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にんじん [19世紀フランス文学]

 「にんじん」 ルナール作 高野優訳 (新潮文庫)


 にんじんと呼ばれ、母親から不当な扱いを受ける男の子の、成長を描いた物語です。
 ルナール自身の幼少期の体験をもとにした、49のエピソードから成っています。

 2014年に新潮文庫から新訳が出ました。とても分かりやすい訳です。
 原書と同じ挿し絵が入っていているのも嬉しいです。


にんじん (新潮文庫)

にんじん (新潮文庫)

  • 作者: ジュール ルナール
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/09/27
  • メディア: 文庫



 主人公は、赤毛でソバカスがあるため「にんじん」と呼ばれる男の子です。
 にんじんは、母親によって虐待されています。この虐待がなかなかひどい。

 家の雑用を押し付けられ、おいしいものは与えられませんが、それはまだいい。
 極めつけは、おねしょをスープに混ぜて、飲ませられる場面でしょう。

 この母親の残酷な仕打ちは理解に苦しみます。彼女は精神的な病気でしょうか。
 訳者はあとがきで、「モラル・ハラスメント」として解釈していますが・・・

 一方で父親は、にんじんに不器用ながらも愛情を持って接しています。
 たとえば、お父さんとの手紙のやりとりは、冷淡というよりもユーモラスです。

 「おまえが手紙に書いてきた作家たちは、私やおまえと同じく人間だ。
  つまり、彼らにできることは、おまえにもできるということだ。
  だから、まず自分で本を書きなさい。」

 ほかにも随所で、残酷な母親と優しい父親、という構図が成り立っています。
 しかし、最後まで読んで、私はそのとらえ方が大きく変わりました。

 「ぼくも母親が嫌いなんだ。」というにんじんに、父親が答えた言葉は・・・
 この言葉は、母親に対してあまりにも残酷ではないか?

 この小説は、虐待を生き抜いた男の子が、人間的に成長する物語だと言われます。
 しかし私には、ダメな母親が、最後にのけものにされる物語だと思いました。

 ある意味、この物語で一番かわいそうなのは、母親なのかもしれません。
 このような終わり方をしたところに、ルナールの幼少期の深い傷跡が見えます。

 さて、49の小話のうち最も面白かったのは、「赤いほっぺ」です。
 にんじんが、ヴィオロン先生のことを告げ口した本当の理由は・・・

 にんじんの屈折した心理が読み取れて面白いです。
 「赤いほっぺ」は、単独のショートショートとして楽しむことができそうです。

 ところで、恥ずかしながら私は、49になって初めて「にんじん」を読みました。
 実際に読んでみて、今まで漠然と抱いていたイメージが、だいぶ変わりました。

 さいごに。(ころぼっくるヒュッテ)

 家族旅行初日は、台風が次々に三つも発生した日で、天気が不安定でした。
 車山は、肩の駐車場から歩いて登りましたが、山頂は霧の中でした。

 しかし、ころぼっくるヒュッテで食べたボルシチが、とてもおいしくて良かったです。
 知る人ぞ知る老舗のヒュッテです。来年はここに泊まろうか、と話しています。

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死都ブリュージュ [19世紀フランス文学]

 「死都ブリュージュ」 ローデンバック作 窪田般彌(はんや)訳 (岩波文庫)


 愛妻の面影を求め続ける男と、愛妻に生き写しの女との、愛の悲劇の物語です。
 世紀末のブリュージュを舞台に、ベルギーのローデンバックが書いた傑作です。

 岩波文庫から1988年に出ています。1976年に刊行されたものの改訳です。
 ブリュージュを描いた三十数点の挿絵が、幻想的な雰囲気を醸し出しています。


死都ブリュージュ (岩波文庫)

死都ブリュージュ (岩波文庫)

  • 作者: G. ローデンバック
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1988/03/16
  • メディア: 文庫



 愛妻を亡くしたユーグは、5年前にブリュージュに移り住みました。
 まだ40になったばかりなのに、仕事もせず、生きた屍のように暮らしています。

 夕方はいつも、妻の面影を求めて、ブリュージュの街をさまよい歩いています。
 そしてある日、ユーグが散歩中に見かけた女は、亡き妻に瓜二つでした。

 いや、あれは妻だ、妻が帰ってきたのだ。死もここでは一時の不在にすぎない。
 永遠に終わってしまったと思われた恋が、今また始まろうとしているのだ!

 彼女の名はジャーヌ。幻影だと知りつつも、ユーグは彼女と暮らし始めます。
 しかし身代わりの愛は幻滅に変わり、やがて悲劇的な結末へ向かって・・・

 私がこの物語を知ったのは、中野京子の「怖い絵」によってです。
 クノップフの「見捨てられた街」は、死都ブリュージュを描いた絵だそうです。

 44歳のクノップフは、小説「死都ブリュージュ」に激しく心を捕えられました。
 以来まるで取りつかれたように、彼はブリュージュの絵ばかり描き続けました。

 「見捨てられた街」は、内部に死を抱えたまま、ゆっくり海を迎えています。
 「やがて確実に、全てが海底という記憶の底へ沈んでゆくだろう。」・・・

 地味なのに、心をかきみだされる絵です。人をとても不安にさせる絵です。
 この絵を見て、ぜひ「死都ブリュージュ」を読んでみたいと思ったのです。

クノップフimg_0.jpg

 さて、恥ずかしながら私は、ブリュージュを架空の街だと思っていました。
 もちろん実在の都市です。ブルッヘとオランダ語読みした方が分かりやすい。

 ブリュージュは、かつては繁栄を誇った商業都市で、その後衰退しました。
 この死都の絵が三十数点も、物語の中に挿し込まれています。

 というのも、主人公はユーグでもジャーヌでもなく、死都ブリュージュだから。
 「あらゆる都市は一つの精神状態であって、」われわれに感染するのだそうです。

 この物語を読むと、ブリュージュという都市に、ますます興味が湧いてきます。
 中公新書の「ブリュージュ」本は、アマゾンで1円です。読んでみたいです。


ブリュージュ―フランドルの輝ける宝石 (中公新書)

ブリュージュ―フランドルの輝ける宝石 (中公新書)

  • 作者: 河原 温
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2006/05
  • メディア: 新書



 さいごに。(もしクーラーが無かったら)

 先日、気温36度を記録しました。クーラーが無かった、どうなっていただろうか。
 昨年、思い切って家にクーラーを設置して、本当に良かったと思っています。

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シルヴェストル・ボナールの罪 [19世紀フランス文学]

 「シルヴェストル・ボナールの罪」 A・フランス作 伊吹武彦訳 (岩波文庫)


 本に囲まれてひっそりと暮らす老学者の日常が、日記体でつづられていく物語です。
 アナトール・フランス37歳の時の小説で、彼の出世作です。

 岩波文庫から出ています。A・フランスの作品中、現在唯一文庫で出ている本です。
 訳はだいぶ古いようですが、読みやすくて、しみじみとした味わいのある文章です。


シルヴェストル・ボナールの罪 (岩波文庫)

シルヴェストル・ボナールの罪 (岩波文庫)

  • 作者: アナトール フランス
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1975/07/16
  • メディア: 文庫



 主人公は、学士院会員のシルベストル・ボナール老人です。
 パリの本に囲まれた部屋で、中世の修道院の研究を続けています。

 1861年12月、54歳のとき、研究資料としてたいへん貴重な写本が発見されました。
 8年後、62歳のボナールは、写本を求めてイタリアへ旅立ちましたが・・・

 写本はどこへ行ったのか? 競売で値をつり上げるのは誰か?
 そして、ナポリで出会ったトレポフ夫人とは、いったい誰なのか?

 ・・・私は正直に言って、最初はこの小説に、たいして期待していませんでした。
 しかし、読んでみるととても面白くて美しい作品で、想像以上に良かったです。

 この小説は二部構成です。第一部は、自分にとって大切な本にまつわる物語です。
 第二部は、自分がかつて愛した女性の孫娘にまつわる物語です。

 どちらも心温まるエピソードが、穏やかで品のある口調で語られています。
 この小説の魅力は、愛すべき主人公老ボナールの、語り口と人間性にあります。

 ところでタイトルの「罪」とは何か? 最後の最後にようやく分かりますが・・・
 それが罪と呼べるものなのかどうか・・・

 さて、他の登場人物では、第二部に登場するプレフェール女史が傑作でした。
 悪い女ですが、滑稽で笑えます。ボナールとは違う意味で、愛すべき人物でした。

 この作品の随所から、そこはかとない哀愁が漂ってきました。
 例えば、部屋の本をみんな読んだのかと尋ねられたボナールは、こう答えます。

 「悲しいことにみんな読みました。だからこそ何も知らないのです。
 何しろどの本もほかの本と矛盾しないものは一冊もない、」(P185)

 アナトール・フランスの小説集が、白水社から単行本で出ています。
 新訳ではありませんが、いろんな作品があるので、文庫化を期待したいです。


アナトール・フランス小説集〈1〉シルヴェストル・ボナールの罪

アナトール・フランス小説集〈1〉シルヴェストル・ボナールの罪

  • 作者: アナトール フランス
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2001/01
  • メディア: 単行本



 さいごに。(あった! シュガーラスク味)

 甘い味の「うまい棒」があることを、妻と娘は長い間信じてくれませんでした。
 しかし3人で100円ショップに行った時、シュガーラスク味を見つけました。

 「ほらね。パパの言ったとおりだろ!」と言ったら、
 「もっとマシなことで自慢してよ。」と、2人に言われてしまいました。


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