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木精(こだま) [日本の近代文学]

 「木精(こだま)―或る青年期と追想の物語―」 北杜夫 (新潮文庫)


 ドイツの研究所で学ぶ30歳の「ぼく」の、過去の追想と将来の希望を描いた物語です。
 初期の傑作「幽霊」の20年後に書かれた続編です。自伝的要素の強い小説です。
 「幽霊」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2020-01-26-2


木精―或る青年期と追想の物語―(新潮文庫)

木精―或る青年期と追想の物語―(新潮文庫)

  • 作者: 北 杜夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/09/06
  • メディア: Kindle版



 30歳の「ぼく」は、ドイツのチュービンゲンにある、神経研究所で学んでいます。
 実は日本を離れたのは、倫子(のりこ)という人妻と別れるためでもありました。

 それにも関わらず、あれから2年たった今も、倫子のことばかり思い出します。
 4年前の出会い、初めての関係、4歳の子、数々の逢瀬、口喧嘩、そして別れ・・・

 「ぼくらの恋は、背徳の、不倫の恋であることに間違いはなかった。そしてそのゆえ
 に、それはときにはほの暗く、ときには閃光のように燃え、一種ほろ苦い蜜の味を有
 していたのかもしれない。」(P124)

 日本の雑誌に送った作品が評価され、「ぼく」は小説家になる夢を持ち始めました。
 クレッチュマー教授に学び、ドクターまで取りながら、「ぼく」は迷っていました。

 とうとう「ぼく」は、3年間の留学を終えるころ、日本に帰る決心をしました。
 その前にスイスに旅行し、敬愛する作家トーマス・マンの墓のある教会に詣で・・・

 この場面がとても印象に残っています。おそらく北の体験とほぼ同じなのでしょう。
 北自身も、トーマス・マンの作品に、とても大きな影響を受けたのです。

 「静かに! このおびえたような鼓動は一体何なのだろう? 長いこと急坂を登って
 きたための動悸なのだろうか。いや、長年、ぼくの精神を少しずつ育んでくれた旋律
 が、この墓の周囲に漂っているのではなかろうか。
 『ぼくはやってきました、遠い国から』
  と、半ば無意識に、墓石に向かってささやいた。」(P139)

 北は、マンの「トニオ・クレーゲル」から、特に大きな影響を受けたのだそうです。
 そこで、ペンネームを「杜夫」(トニオ = 杜二夫 → 杜夫)にしたとも言います。

 そして、「トニオ・クレーゲル」は、この作品の随所に登場し、時に引用されます。
 人妻倫子との禁断の恋の始まりを思い出し、当時の心情を次のように書いています。

 「ぼくという人間は、トニオ・クレーゲル少年のごとく、ひそかな愛慕をよせたハン
 ス・ハンゼンやインゲボルク・ホルムからは決して好意を持たれることもなく、せい
 ぜい芸術家の女友達リザヴェーダ・イワノヴナなどと冷静な友情を結べるくらいが実
 情なのではあるまいか。」(P92)

 トニオも、ハンゼン少年に好意を寄せるという、ある意味禁断の恋を経験します。
 自分とトニオを重ね合わせ、すでにこの時点で、恋の終わりを予感しているのです。

 さて、この作品は北の青年期とトーマス・マンへの思いが分かる点で興味深いです。
 ただ、別れた女のことをいつまでもうじうじ書いている点は、引いてしまいました。

 たとえば、「ぼく」の書いた手紙を倫子がブラジャーの中へ入れておいたとか・・・
 ああ恥ずかし。いい年してそんなこと書いてるなよ、体がかゆくなってくるよ!

 ついでながら、私には倫子という女性が、あまり魅力的には思えなかったです。
 「ぼく」からの手紙を、夫に読まれてしまうなんて・・・ちょっとバカっぽいです。

 私には倫子がつまらない女に思えたので、主人公「ぼく」に共感できませんでした。
 倫子を追想する「木精」よりも、母を追想した「幽霊」の方が、はるかに良かった。

 ところで、トーマス・マンについては、2013年~14年にひととおり読んでいます。
 もちろん、「トニオ・クレーゲル」もすでに紹介しています。
 「トニオ・クレーガー」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2013-10-24

 ラストのクライマックスで、「ぼく」は「トニオ・クレーゲル」を手に旅をします。
 この場面が良いです。本当に北杜夫は、「トニオ・クレーゲル」が好きなんですね。

 さいごに。(奈良弾丸ツアー)

 昨年12月、娘が修学旅行で奈良に行きながら寺を見なかったので、私は怒りました。
 そこで、我が家では2月11日(日)に日帰りで、「追」の修学旅行を決行しました。

 午前に法隆寺を、午後に興福寺と東大寺を回りましたが、日程が超ハードでした。
 それでも娘は、教科書に載っている国宝を見ることができて、満足だったようです。

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草の花 [日本の近代文学]

 「草の花」 福永武彦 (新潮文庫)


 術中死した青年汐見の半生を、彼の残した二冊のノートをもとに描いた物語です。
 1954年刊行。福永の文壇出世作です。愛と孤独を描いた、私小説的な作品です。


草の花 (新潮文庫)

草の花 (新潮文庫)

  • 作者: 武彦, 福永
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2023/11/14
  • メディア: ペーパーバック



 サナトリウムでの汐見茂思(しおみしげし)は、生きることに無関心に見えました。
 そして彼は雪の日に、当時非常に困難だった肺摘の手術を受け、死んでいきました。

 「あれは自殺ではなかったろうか」 汐見の術中死は、そのように見えました。
 彼の死後、「私」(語り手)には、生前彼が書いていた2冊の手帳が残されました。

 手帳の最初で彼は述べます。「もう苦しむのをやめて僕の眼を過去に向けよう」と。
 「僕は昔生きた足跡をもう一度歩き、そうすることで、もう一度生きよう」と。

 第一の手帳には、18歳の春、主に高校弓道部の合宿での出来事が書かれています。
 「僕」(汐見)は、以前から1年後輩の藤木忍に、ひそかな思いを寄せていました。

 ところが、藤木が自分を避けているように感じて、汐見は練習に集中できません。
 汐見の藤木への愛はいわば公然の秘密であり、仲間たちは彼を心配しますが・・・

 新潮文庫の作品紹介にはこう書いてありました。「青春の途上でめぐりあった藤木忍
 との純粋な愛に破れ、藤木の妹千枝子との恋にも挫折した汐見茂思。」と。

 だから、汐見青年が、忍と千枝子の藤木姉妹との恋愛に破れる物語だと思いました。
 ところが、まさか藤木忍が男だったとは! 前半は、当時には珍しいBL小説です。

 しかし、ただのBLではなく哲学小説なのです。プラトン哲学が時々前面に出ます。
 そのひとつがイデア論です。(そういえば、プラトンもまた男色家でした。)

 「もし君が愛したら、・・・いいかい、その時には人間の経験を絶したイデアの世界に
 僕等の魂が飛翔して行くんだ、時間もなく、空間もなく、そこには永遠の悦びがある
 んだ・・・(中略)愛することによってのみ、僕たちは地上の孤独からイデアの世界に
 飛翔することができるんだ。その中でこそ真に生きられるんだ。」(P113)

 汐見を拒む藤木の気持ちは分かります。その愛は藤木にとってただただ重荷でした。
 純粋で精神的な愛について語る汐見は、とても真剣で、断定的で、一方的すぎます。

 「本当の友情というものは、相手の魂が深い谷間の泉のように、その人間の内部で眠
 っている、その泉を見つけ出してやることだ、それを汲み取ることだ。それは普通に、
 理解するという言葉の表すものとはまったく別の、もっと神秘的な、魂の共鳴のよう
 なものだ。」(P96)

 もし、これほど熱心に愛を語る18歳がいたら、正直言って気持ちが悪いし怖いです。
 汐見は、独特の理知と感性を持っていた分、きっと生きづらかったと思います。

 第二の手帳では、24歳の汐見が藤木の妹千枝子を愛し、別れるまでを描いています。
 自分の中に亡くなった兄を見る汐見は、千枝子にとっても重荷だったことでしょう。

 ところで、この作品のタイトルは、冒頭のエピグラフから取られています。
 「人はみな草のごとく、その光栄はみな草の花の如し。」(ペテロ前書)

 人生の華やかな体験も、草の花と同じで一時のものにすぎない、ということか。
 そして、人もまた草と同じで一時のもので、むなしい存在だということか・・・

 さいごに。(私の場合は元が取れない)

 audibleは月額1500円。だから、文庫本2~3冊分聞けば元が取れると言われます。
 しかしそれは「audibleを聞くなら本を買わなくていい」という人に限った話です。

 私は、本を読みながらaudibleを聞いています。そうすると速く正確に読めるので。
 つまり、audibleを読書の補助に使う場合は、本を購入するので元が取れません。

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砂の上の植物群 [日本の近代文学]

 「砂の上の植物群」 吉行淳之介 (新潮文庫)


 父の幻影に惑わされている中年男が、性的荒廃への道を転げ落ちていく物語です。
 1964年刊行。作品中の「父」は、実父で詩人の吉行エイスケをモデルにしています。


砂の上の植物群 (新潮文庫)

砂の上の植物群 (新潮文庫)

  • 作者: 淳之介, 吉行
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2023/11/05
  • メディア: 文庫



 伊木一郎は、30代後半の化粧品セールスマンで、妻と小学生の息子を養っています。
 伊木は父の幻影にとらわれています。父は奔放に生きて18年前に34歳で死にました。

 あるとき、気まぐれで登った観光塔の中で、女子高生の津上明子と出会いました。
 明子に誘われ旅館に入り、行為に及んだあと、明子が処女だったことを知りました。

 3日後、同じ観光塔でふたりが再会したとき、明子は伊木に奇妙な依頼をしました。
 「あたしの姉を、誘惑してしまって。そうしてほしいの」

 明子の姉は京子と言い、5年前に病死した両親の代わりに、酒場で働いていました。
 京子の「純潔は大事」という言葉は、あるときから明子に重荷になっていたのです。

 伊木は、京子が働くバー「鉄の槌」に通って、彼女と関係を持つようになりました。
 ふたりの性の相性はぴったりで、しだいに彼らは背徳にのめりこんでいきました。

 しかし、伊木はある日、父が生前馴染みだった芸者に産ませた娘がいると聞き・・・
 その子の名前を聞いて驚き・・・京子は父が残した凶器だったのではないか?・・・

 「京子を抱えて、斜面をゆるやかな速度でずり落ちはじめたことを、彼は知った。今
 度の場合、斜面の下に在るものを、彼は予測できない。唯、大きく開いた傷口のよう
 なものが、そこで彼を待ち受けていることだけは分かった。」(P208)

 はい、はい、勝手にどこまでも落ちて行ってくださいな。
 伊木一郎たちに、大いなる愛情を込めて、「ヘンタイ野郎万歳!」と言いたいです。

 そう言いたくなる気持ちは、読んでもらえれば分かるでしょう。
 この小説が映画化されたと聞いて驚きましたが、日活と聞いて妙に納得しました。

 さて、このタイトルは、抽象画家パウル・クレーの作品名から取られています。
 しかし、その絵はとてもかわいらしくて、小説とマッチしているように思えません。

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 さいごに。(読書0ページ)

 最近、日中と夜の寒暖の差が大きいので、疲れます。つい、長風呂してしまうし。
 風呂から出たらぐったりで、そのまま寝てしまいます。今日も本が読めなかった。

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仮面の告白 [日本の近代文学]

 「仮面の告白」 三島由紀夫 (新潮文庫)


 同性愛の傾向を持つ「私」が半生を振り返り、その苦悩を表した自伝的小説です。
 1949年刊行。当時、同性愛のテーマは珍しかったため、大きな反響を呼びました。


仮面の告白 (新潮文庫)

仮面の告白 (新潮文庫)

  • 作者: 三島 由紀夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/10/28
  • メディア: 文庫



 「私」は子供の頃、グイド・レーニの「聖セバスチャン」の絵に衝撃を受けました。
 美しい青年が裸で縛られ殉教する姿に美を見て、初めて性的な興奮を覚えたのです。

 「その絵を見た刹那、私の全存在は、或る異教的な歓喜に押しゆるがされた。私の血
 液は奔騰し、私の器官は色をたたえた。この巨大な・張り裂けるばかりになった私の
 一部は、今までになく激しく私の行使を待って、私の無知をなじり、憤ろしく息づい
 ていた。」(P40)

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 中学2年生のとき、近江という年上の粗暴な生徒と知り合い、初めて恋をしました。
 「私」は近江の腋毛に憧れ、その裸を見たいと感じ、この頃から悪習を始めました。

 その頃、同級生が女性の裸に興奮するのに、自分はそうならないことに気付きます。
 相変わらず、年上のたくましい青年や年下の美しい青年に、情欲を感じるのでした。

 高等学校では草野という親友ができ、その妹の園子を愛しく思うようになりました。
 と同時に自分の性癖を顧みて、自分に園子を愛する資格があるだろうかと考えます。

 遠縁の娘である千枝子と接吻したとき、「私」はまったく快感を覚えませんでした。
 後に21歳の「私」と19歳の「園子」は相思相愛となり、園子に接吻しますが・・・

 「私」は愛する女に対して、情欲を感じることができるか?
 情欲の無い愛は成立するのか? 「私」と園子の愛はどうなるのか?

 「仮面の告白」は高校時代の読書会の選択図書の一冊で、非常に人気がありました。
 「ヘンタイ小説」という間違った噂が広まっていて、多くの男子が選んだのです。

 当時(1980年代前半)においても、こういう方面の理解は進んでいませんでした。
 逆に言うと、刊行された1949年当時、三島のこの作品がいかに進んでいたことか!

 さて、私は「ヘンタイ小説」という噂ゆえに、読書会でこの本を選びませんでした。
 ある意味正解でした。ヘンタイ的にうまい文章ゆえ、理解できなかったと思うので。

 たとえば、上記で引用したP40などは、非常に繊細に遠回しに表現されています。
 当時の私には、「私の一部」「私の行使」が何なのか、分からなかったでしょう。

 また、三島は「近江の腋毛(わきげ)」などとあからさまな書き方はしていません。
 「腋窩(えきか)に見られる豊穣な毛」です。腋毛さえ優雅に見せてしまうのです。

 ところで、私的にはこの小説は、園子が出てきてからいっきに面白くなりました。
 「私」に多く共感しました。特に、義務観念から娼婦のもとへ行く場面などは・・・ 

 そして、結末に至るラストの緊張感! 胸を締め付けられるような、切ない余韻!
 テーマに対する興味を別にしても、非常にすばらしい文学作品だと断言できます。

 財務省を辞めてまでして小説を書こうとした三島の、命のほとばしりを感じます。
 三島が生涯こだわり続ける「男と死と美」が、すでに前面に押し出されています。

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 さいごに。(野球場へ)

 娘は高校では放送部に入り、地元の高校生の野球大会のアナウンスを時々やります。
 先日久々に野球場に行きました。球場の外で、娘のアナウンスを聞くために。(笑)

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金閣寺 [日本の近代文学]

 「金閣寺」 三島由紀夫 (新潮文庫)


 吃音で劣等感を持つ学僧が、美の象徴である金閣寺に放火するまでを描いた物語です。
 1956年刊行。実際の事件をもとに書かれ、三島由紀夫の最高傑作と言われています。


金閣寺 (新潮文庫)

金閣寺 (新潮文庫)

  • 作者: 由紀夫, 三島
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2023/04/01
  • メディア: 文庫



 私の手元にあるのは、新潮文庫から平成22年に出たキンキラキンの限定カバー版です。
 しばらく前に古本屋で250円で手に入れました。「金閣寺」といったらこの本ですよ。

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 左は、2015年に出た黄金色のカバー。右は、2010年に出たキンキラキンのカバー。
 詳しくは → https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2016-03-30

 主人公の溝口は生来の吃音のせいで、常に外界と隔てられているように感じています。
 幼い頃「金閣ほど美しいものはない」と父から聞かされ、金閣に憧れを抱いています。

 「夜空の月のように、金閣は暗黒時代の象徴として作られたのだった。(中略)闇の
 なかに、美しい細身の柱の構造が、内から微光を放って、じっと物静かに坐っていた。
 (P27)

 と、溝口は想像しています。
 そして溝口自身は、金閣寺の完璧な美から、疎外されているように感じていました。

 やがて父が死ぬと、溝口はその遺言に従って、京都に出て金閣寺の徒弟となりました。
 戦時中、金閣も空襲で焼かれると考えると、金閣は悲劇的な美しさに輝き出しました。

 金閣は、自分と同じ現象界のはかなさの象徴となり、金閣と親しむようになりました。
 しかし終戦後に金閣が残ると、それは現象界から超絶した永遠性の象徴となりました。 

 「金閣と私との関係は絶たれたんだ」
 戦後人々の邪悪さを見るにつけ、溝口もまた心の暗黒面に深く沈もうと考え・・・

 さて、このあと金閣は、さまざまな場面で溝口の前に立ち現れます。
 たとえば女を抱こうとしたとき、その乳房が金閣となって目的を達せなくなったり。

 溝口は、自分を寄せ付けない絶対的な美である金閣を、憎むようにさえなります。
 その後「金閣を焼かねばならない」と決意する真理を、私は理解できませんでした。

 老師との関係の悪化、母の失望、親友の鶴川の死、悪友の柏木の影響、有為子の記憶。
 生まれつきの吃り・・・しかし、もっと根本的な原因が、金閣自体にあるのでは?

 正直に言って、私はこの小説を、うまく消化できませんでした。
 少し時間を置いて、もう一度読み返さなければならないと思います。

 さいごに。(推しが変わった?)

 妻が野球中継を見ていたので、内心驚きました。妻はルールさえ知らなかったので。
 しかも、パリーグの試合です。どうやらオリックスを応援しているらしい。

 実は、WBCを最も熱心に見ていたのは妻です。そこで、推しができたようなのです。
 そういえば、最近ジャニーズの番組を見る頻度が減ったような・・・

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夏子の冒険 [日本の近代文学]

 「夏子の冒険」 三島由紀夫 (角川文庫)


 突飛な行動をとる美しいお嬢様夏子と、仇討ちの青年との恋と冒険のドタバタ劇です。
 1951年に出ました。村上春樹の「羊をめぐる冒険」の元ネタという説があります。


夏子の冒険 (角川文庫)

夏子の冒険 (角川文庫)

  • 作者: 三島 由紀夫
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2009/03/25
  • メディア: 文庫



 「あたくし修道院へ入る」
 夏子は絶望していたのです。情熱を宿している青年がひとりもいないことに。

 「まるで袋小路の行列だわ(中略)だってあの中どのの男のあとについて行っても
 すばらしい新しい世界へ行ける道はふさがれていることがよくわかるもの」(P15)

 こうして20歳の美しい松浦夏子は、修道院に入るため、家族と北海道に渡りました。
 ところが連絡船の中、猟銃を抱えた青年に出会い、その情熱的な瞳に惹かれました。

 夏子は、その青年井田が、仇の熊をつけ狙っていることを知り、魅力を感じました。
 そして、その仇討ちのともをするべく、宿に置手紙を残して失踪して・・・

 という具合に、北海道を舞台に、夏子の恋と冒険は始まります。
 ふたりはかたきの熊を倒すことができるか? 夏子は憧れの恋を手に入れられるか?

 さて、この小説は、夏子と井田の「熊をめぐる冒険」と言うことができます。
 そして村上春樹の「羊をめぐる冒険」は、この小説の書き換えだと言われています。

 たとえば「羊をめぐる冒険」第一章「1970/11/25」は、三島が自決した日だと言う。
 そう言われて、改めて興味が湧きました。「羊をめぐる冒険」も再読したいです。

 ところで私は、「羊をめぐる冒険」に対する興味から、この小説を読みました。
 では、そういう興味を抜きにして、「夏子の冒険」は面白かったか?

 正直に言って、微妙なところです。というのも、主人公のお嬢様が・・・
 夏子の思いのままふるまう姿を、魅力的だと思えれば、素敵な小説だと思います。

 1951年当時、男を屁とも思わない女性は、きっと珍しくて、新鮮だったでしょう。
 だから、夏子のような女性を描く意味は、大きかったのかもしれません。

 しかし、「春の雪」の綾倉聡子に魅了された私には、あまり響きませんでした。
 伯爵家の美貌の令嬢聡子に比べたら、夏子はただのつまらないお転婆娘ですよ。

 と、書いているうちに、今度は「春の雪」を再読したくなりました。
 あの世界こそが、三島由紀夫です。やっぱり、聡子ですよ。綾倉聡子ですよ!
 「春の雪」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2015-12-23-1

 「夏子の冒険」が興味深い作品であることは確かで、読む価値はあると思います。
 しかし、他の三島作品に比べて、一段も二段も落ちるような気がしてしまいます。

 さて、次は「金閣寺」を読みたいです。三島の最高傑作とも言われる作品です。
 だからこそ、これまで読み始められませんでした。もう何年も積ん読状態です。

 さいごに。(またしてもカラオケネタ)

 私の通っているカラオケ屋には、グッチ雄三の「一週間」がありません。
 しかし、ディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」はあります。

 試しに「スモーク・・・」で、「一週間」を歌ってみたら、ちゃんと歌えました!
 ただし、曲が6分以上と長いので、途中で「演奏停止」ボタンを押しています。

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瓶詰の地獄 [日本の近代文学]

 「瓶詰の地獄」 夢野久作 (角川文庫)


 夢野の短編の代表作「瓶詰の地獄」「死後の恋」など、全7編の短編集です。
 ペンネームは、福岡地方の方言で夢想家を意味する「夢の久作」からきています。


瓶詰の地獄 (角川文庫)

瓶詰の地獄 (角川文庫)

  • 作者: 夢野 久作
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2009/03/21
  • メディア: 文庫



 タイトル作「瓶詰の地獄」は、海岸に流れ着いた瓶の中の手紙で構成されています。
 瓶は3つあり、それぞれには、無人島に流れ着いた兄妹の状況が描かれています。

 第一の手紙には、ふたりがしっかり抱き合ったまま身を投げる、と書かれています。
 それは「犯した罪のつぐない」というが・・・いったいこの兄妹に何があったのか?

 とても完成度の高い作品だとは思いますが、私的には少しもの足りなかったです。
 というのも、第一の手紙で内容があらかた想像できてしまったためです。

 「死後の恋」こそ、私は夢野久作の短編の、最高傑作だと思います。
 「キチガイ紳士」と呼ばれるロシア人が語る、ロマノフ王家の末路に関わる話です。

 反革命軍に身を投じたコルニコフは、リヤトニコフという少年兵士を知りました。 
 あるときリヤトニコフは、身分を証明する数々の宝石類をコルニコフに見せました。

 実はリヤトニコフは王家の末裔で、血統を絶やさぬために家から出されたのでした。
 その宝石類は、子孫を残すために親から与えられた、大事な資本だと言うのです。

 なぜリヤトニコフは、自分にこんな大事な打ち明け話をしたのか?
 宝石類への欲望で目がくらんだ彼には、リヤトニコフの気持ちが想像できません。

 彼は、リヤトニコフが死んだら宝石類を手に入れようと考え、斥候に志願して・・・
 リヤトニコフの秘密とは? そして、リヤトニコフのある思いとは?

 「鉄鎚(かなづち)」もまた、読み応えのある作品でした。
 父が「悪魔」と呼んでいた相場師の叔父に、弟子入りした「私」の物語です。

 「私」の一家は、叔父によってめちゃくちゃにされ、父は叔父を憎んで死にました。
 私は父から、「もし叔父に会ったら鉄鎚で脳天をぶち割れ」と、言われていました。

 ところが父の死後、どこからともなく現れた叔父に、私は養われるようになります。
 そして「私」の電話番のおかげで、叔父の財産はどんどん増えていくのです。

 そこへ、伊奈子というさらに悪魔的な女がやってきて・・・
 「私」は、叔父が身を亡ぼすことを知りながら、冷然とそれを観察し・・・

 「ホントウの悪魔とは、自分を悪魔と思っていない人間を指して言うのであるーー
 自分では夢にも気付かないまんまに、他人の幸福や生命をあらゆる残忍な方法で否
 定しながら、平気の平左で白昼の大道を闊歩していくものが、ホントウの悪魔でな
 ければならぬ」(P115)

 面白い作品ですが、「伊奈子」が登場して、話が複雑になりすぎたように思います。
 伊奈子を登場させなくても、充分に味わい深い作品になったと、私は思うのですが。

 さて、夢野久作の短編におけるマイベストは、なんといっても「一足お先に」です。
 タイトルがサイコー。しかも、次のような謎めいた言葉から物語が始まります。

 「トックの昔に断り棄てられた、私の右足の幽霊が私に取り憑いて、私に強盗、強
 姦、殺人の世にも恐ろしい罪を犯させている事がわかったとしたら、私は一体どう
 したらいいのだろう。」(P175)

 主人公は、病気で右脚を切断して、外科病院に入院している新東という青年です。
 新東は、無くなった脚に痛みを覚えたり、その脚が歩き回る夢を見たりしています。

 そんな折、副院長から脚を失った後に夢遊病になった例を聞き、心配になりました。
 夢中遊行を起こさないため、今後は脚の夢を見ないようにと考えたりしました。

 ところがある朝、副院長に「歌原未亡人は貴方が殺したのでしょう」と言われ・・・
 そう言われて、自分が夜中に歌原未亡人を殺し、宝石類を盗んだ記憶が蘇って・・・

 と、非常にスリリングな展開をします。しかも、最後のどんでん返し!
 私のイチオシの夢の作品です。怪奇小説的な味わいのある、ミステリー作品です。

 さいごに。(スコーンセット)

 日光の中禅寺湖畔にある英国大使館別荘で、スコーンのセットを食べました。
 絶景を前に、家族とのティータイムは格別。実にぜいたくなひとときでした。

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少女地獄(夢野久作) [日本の近代文学]

 「少女地獄」 夢野久作 (角川文庫)


 病的な嘘つき姫草ユリ子の悲劇を描いた「何でも無い」など、3編の短編集です。
 「ドグラ・マグラ」刊行の翌年、最晩年の1936年に出た書簡形式の短編小説集です。


少女地獄 (角川文庫)

少女地獄 (角川文庫)

  • 作者: 夢野 久作
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 1976/11/29
  • メディア: 文庫



 「少女地獄」は、「何でも無い」「殺人リレー」「火星の女」から成っています。
 「何でも無い」は、姫草ユリ子という女が自殺した、ということから始まります。

 昭和8年5月、姫草ユリ子と名乗る19歳の少女が、臼杵耳鼻科医院を訪れました。
 院長の臼杵は、ユリ子を看護婦として採用し、彼女のおかげで医院は繁盛しました。

 あるときユリ子は、以前白鷹先生のもとで働いていたと、臼杵に告げました。
 そして、そのころからユリ子の言葉に、ほころびが生じ始めたのです。

 白鷹先生と会う約束をしながらも、そのたびに相手の都合で会うことができず・・・
 ようやく会うことができましたが、白鷹先生の様子はどこかおかしくて・・・

 ユリ子の嘘を最初に見抜いたのは、臼杵の妻でした。さすが、女の勘は鋭いですね。
 しかし妻は、怒るどころか彼女に共感し、同情すらしています。

 「みんなあの娘の虚栄だと思うわ。そんな人の気持、あたし理解ると思うわ(中略)
 あの人は地道に行きたい行きたい。みんなに信用されていたいいたいと、思い詰めて
 いるのがあの娘の虚栄なんですからね。そのために虚構を吐くんですよ」(P47)

 自分が打ち立てた嘘の世界が壊されないよう、ユリ子はさらに大きな嘘をつきます。
 そうして自分を守るために、命がけで嘘をつくユリ子は、ある意味けなげでした。

 「如何なる悪党、または如何なる芸術家も及ばない天才的な、自由自在な、可憐な、
 同時に斃れて止まぬ意気組を以て、冷厳、酷烈な現実と闘い抜いて来たか。」(P92)

 ところで、タイトルの「何でも無い」とは、どういうことでしょうか。
 嘘で塗り固めた殻を外していくと、そこには「何にも無い」ということでしょうか。

 それがバレてしまったとき、ユリ子には死ぬという選択肢しか残っていませんでした。
 まさに、少女が地獄へ進んで落ちていくような物語でした。

 「火星の女」は、女学校の近くで、少女の焼死体が発見されるところから始まります。
 その後女学校の校長は発狂し、大坂で火星の女を探しているところを保護されました。

 校長のもとにはある手紙が来ていて、それが精神的なダメージとなっていたのです。
 差出人は「火星さん」というあだなの卒業生で、焼死体も彼女のものでした。

 事件に続いて、学校の女性教諭が自殺し、書記が大金を持って失踪し・・・
 さらに教育行政官まで辞任して・・・

 「私は、校長先生と御一緒に、腐敗、堕落しております現代の自分勝手な、利己主義
 一点張の男性の方々に、一つの頓服薬として「火星の女の黒焼」を一服ずつ差し上げ
 たいのです。」(P134)

 「火星の女」の手紙には何が書いてあったのか?
 「火星の女」は、いったいどんなことをしたのか?

 「私の心の底の底の空虚と、青空の向こうの向こうの空虚とは、全くおんなじ物だと
 言う事を次第次第に強く感じて来ました。そうして死ぬるなんて言う事は、何でもな
 い事のように思われて来るのでした。」(P142)

 あのような大胆な復習をさせたのは、空虚からくるマイナスエネルギーなのでしょう。
 表面のきれいごとと、裏面の汚らわしさ。まさに、校長は空虚の象徴的存在でした。

 「何でもない」も「火星の女」も、とても鮮烈な印象を残す作品でした。
 それに比べて、「殺人リレー」はページ数も少なく、やや見劣りがしました。

 「殺人リレー」は、バスの女車掌のもとに来た、何枚もの手紙で構成されています。
 新高という運転手は殺人者で、女車掌と次々と関係を持って殺していくというが・・・

 新高を警戒し、友の仇を取ろうとしながらも、なぜかトミ子は惹かれてしまいます。
 トミ子はいかにして仇を取ったのか? それを成し遂げたあとの、意外な展開とは?

 同時収録の「童貞」は、主人公がバカバカしくて面白かったです。
 自分を天才音楽家だと思っている青年は、肺病やみのため死に場所を求めています。

 「タッタ一人で大地に帰るべく姿を晦ましてしまった彼の唯一の誇り・・・世にも
 尊い・・・世にもみじめな童貞の誇り・・・」(P191)

 そして彼は、自分を殺すのは女でなければならぬ、と考えています。
 そこへやってきた美しい令嬢は・・・泣けるような、笑えるような、結末でした。

 さいごに。(日光に行かずして)

 「日光に行かずして結構と言うなかれ」と言われています日光、今回が初訪問です。
 妹が日光に住んでいるので、お盆休みを使って、家族で行ってきました。

 奥日光の、戦場ヶ原が良かったです。やっぱり、自然の中で歩くのは気持ちいい!
 写真を撮りまくりました。今度は秋の紅葉シーズンに来たいです。

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ドグラ・マグラ2 [日本の近代文学]

 「ドグラ・マグラ(下)」 夢野久作 (角川文庫)


 病院に監禁されていた記憶喪失の青年にまつわる、奇怪な事件を描いた物語です。
 1935年刊行。日本探偵小説の三大奇書のうちのひとつ。下巻もカバーがサイコー。


ドグラ・マグラ(下) (角川文庫 緑 366-4)

ドグラ・マグラ(下) (角川文庫 緑 366-4)

  • 作者: 夢野 久作
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 1976/10/13
  • メディア: 文庫



 若林教授は、呉一郎による実母絞殺と花嫁絞殺事件を、独自に調査していました。
 そして、呉一郎に絵巻物を見せ、精神異常を起こさせた犯人がいると確信しました。

 呉一郎、伯母八代子、八代子の常雇い農夫、如月寺住職らから聴き取りをした結果、
 いやそのずっと前から、若林教授は絵巻物の祟りについて、知っていたようです。

 呉家の祖先なにがしが、最愛の夫人に死別したのを悲しみ、その屍を写生しました。
 ところが半分も描かないうちに、亡きがらは腐乱して、白骨となってしまいました。

 その絵巻は、弥勒座像の胎内に納めましたが、血縁の男たちは次々と狂いました。
 そこで今から百余年前の当主が、絵巻を焼いて灰にしたと言われていましたが・・・

 誰がそこから絵巻を盗んだのか? 誰がその絵巻を使って呉一郎を狂わせたのか?
 いったい何のために呉一郎は狂わされたのか? 「私」は本当に呉一郎なのか?

 事件がいよいよ大詰めに近づいたと思ったら、死んだ正木教授が出てきました。
 しかも、煙に巻くようなことばかり言います。正木教授の方がよほど狂人に近い。

 正木教授がペラペラとやるうちに、真相はどんどん遠ざかっていく気がします。
 正木教授がヘンなことばかり言っているのは、何かを隠しているからのようです。

 正木教授が打ち明けた、怪事件の犯人とは?
 また、呉一郎の本当の父親は誰だったのか?

 途中、物語の舞台は1000年前の中国に移って、興味深い展開をしました。
 呉(くれ)家の祖先は、1000年前の呉青秀(ごせいしゅう)につながりました。

 玄宗皇帝の時代、呉青秀が皇帝を諫めるために、自分の妻の死体を写生し・・・
 呉一郎も呉モヨ子も、1000年前の出来事をもう一度なぞっているだけなのか?

 知的好奇心に駆られる一方で、ぐじゃぐじゃ詰め込みすぎという感じもしました。
 だから、いろいろな人が謎解きをしています。だからこそ「奇書」なのでしょう。

 たとえば「アホダラ経」を削って、150ページほど短くしてほしかったです。
 「まんがで読破」版では、そのような工夫がしてあって読みやすいのだそうです。


ドグラ・マグラ (まんがで読破)

ドグラ・マグラ (まんがで読破)

  • 作者: 夢野久作
  • 出版社/メーカー: イースト・プレス
  • 発売日: 2008/10/01
  • メディア: 文庫



 さて、夢野久作にはほかに、いくつかの短編の名作があります。
 中でも「少女地獄」「瓶詰めの地獄」などは有名です。


少女地獄 (角川文庫)

少女地獄 (角川文庫)

  • 作者: 夢野 久作
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 1976/11/29
  • メディア: 文庫



瓶詰の地獄 (角川文庫)

瓶詰の地獄 (角川文庫)

  • 作者: 夢野 久作
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2009/03/21
  • メディア: 文庫



 さいごに。(うなぎ丼)

 久しぶりにうな丼を食べました。ダブルを注文しました。おいしかったです。
 ただし、中国産。日本産は、値段が倍以上。とても食べられません。

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ドグラ・マグラ1 [日本の近代文学]

 「ドグラ・マグラ(上)」 夢野久作 (角川文庫)


 病院に監禁されていた記憶喪失の青年にまつわる、奇怪な事件を描いた物語です。
 1935年刊行。日本探偵小説の三大奇書のうちのひとつです。カバーがすばらしい。


ドグラ・マグラ(上) (角川文庫 緑 366-3)

ドグラ・マグラ(上) (角川文庫 緑 366-3)

  • 作者: 夢野 久作
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 1976/10/13
  • メディア: 文庫



 ある日、目覚めた「私」は監禁されていて、自分の名前さえ思い出せませんでした。
 部屋にも見覚えがありません。すると隣から、痛々しい女の声が聞こえてきました。

 「お兄さま、お隣の部屋にいらっしゃるお兄様」「あたしです。お兄様の許嫁だった」
 「結婚式を挙げる前の晩の真夜中に、お兄様のお手にかかって死んでしまったのです」

 やがて若林という巨大な紳士が現れ、ここが九州大学精神病科の七号室だと言います。
 そして「私」が、狂人の解放治療という実験の研究材料となっていると言うのです。

 「私」の記憶が戻ったときには、空前絶後の犯罪事件の真相が分かるのだそうです。
 その事件は、ある青年が従妹との結婚式の前の晩に、相手を絞殺したというものです。

 「私」は、自分を思い出させるために、病院の中のある部屋に連れて行かれました。
 さまざまな資料の中に、「ドグラ・マグラ」という原稿があって・・・

 「私」は誰なのか? なぜ記憶がないのか? なぜ病院にいるのか?
 隣の少女は何者なのか? 若林教授はいったい何をしたかったのか?

 「この小説を読破したものは、必ず一度は精神に異常をきたす」と言われています。
 ある意味その通りです。読み始めたら続きが気になって、気が狂いそうになりました。

 ところが、上巻を読み終えても、少しも謎が解けていないのです。
 どういうことなのか気になって気になって、気が狂いそうになっています。

 謎の解明のヒントは、若林教授の前任者である正木教授の残した文書にあるようです。
 「胎児の夢」「遺言書」など6つの文書があり、作品の半分ほどを占めています。

 中でも「胎児の夢」という論文は、非常にユニークで印象に残りました。
 それは、胎内の胎児は10か月の間、数十億年の生物進化を夢に見る、というものです。

 そして胎児は、先祖の行ったさまざまな体験を、記憶として持っているというのです。
 このことは、「私」の事件の謎の解明において、とても重要な伏線となっています。

 また「遺言書」は、正木教授が自殺の理由を、映画のシナリオ風に説明したものです。
 「呉一郎」という名前が、実母と許嫁を絞殺した嫌疑者として、初めて登場します。

 そして、どうやら「呉一郎」は、物語の主人公「私」のことのようなのです。
 さらに、許嫁の「モヨ子」というのは、隣の部屋にいる少女のことのようなのです。

 しかし、あくまでも「そのよう」なのであり、はっきりしたことが分かりません。
 ふと気が付くと読者も「私」同様、犯人は自分じゃないかと考えてしまう仕掛けです。

 さて、正木教授の6文書のうち、もっとも読みにくいのが最初の「アホダラ経」です。
 「チャチャラカ、チャカポン」のリズムで、ぐじゃぐじゃと30ページ以上続きます。

 この部分で挫折する人が多いのだそうですが、実は効果的な攻略法があります。
 それは、ユーチューブの朗読を2倍速で聞きながら読む、という方法です。

 この朗読は、とてもうまいです。特に「アホダラ経」は節回しがすばらしいです。
 ぜひ聞いてください。「アホダラ経」は、5:11:40(5時間11分40秒)から始まります。

 ちなみにこの朗読をすべて聞くと、26時間以上になります。2倍速でも13時間です。
 語りの西村俊彦さん、よくぞやってくれました。本当にいい仕事をしています。



 最後になりましたが、「ドグラ=マグラ」について、次のような説明がありました。
 「切支丹伴天連の使う幻魔術のことを言った長崎地方の方言だそう」と。(P93)

 さいごに。(300m走)

 記録会で、300m走という種目に出ました。炎天下の中で走りました。
 タイムは41秒70。40秒ジャストを狙っていましたが、だいぶ甘かった!

 最近、おなかのたるみと、足腰の弱体化が、とても気になっています。
 もう少し体を絞って、脚力をつけて、せめて40秒台で走れるようにしたいです。

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