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小公子 [19世紀アメリカ文学]

 「小公子」 F・H・バーネット作 川端康成訳 (新潮文庫)


 突然跡取りとなった少年セドリックが、祖父伯爵のかたくなな心を癒す物語です。
 1886年に出た児童文学の傑作です。私は、川端康成訳の新潮文庫版で読みました。


小公子 (新潮文庫)

小公子 (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/06/24
  • メディア: 文庫



 名作なのでさまざまな訳が出ています。講談社からは村岡花子訳も出ています。
 文庫本では、羽田訳の角川文庫版や、土屋訳の古典新訳文庫版もオススメです。


小公子 (角川文庫)

小公子 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/01/22
  • メディア: 文庫



小公子 (光文社古典新訳文庫)

小公子 (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2021/03/12
  • メディア: Kindle版



 アメリカ生まれのセドリックは、7歳の天真爛漫な少年で誰からも好かれています。
 母と二人暮らしでしたが、靴磨きのディックや、ホップス氏などの友達がいました。

 ある日ひとりの弁護士が来て、セドリックを小公子フォントルロイ様と呼びました。
 祖父のドリンコート伯爵の息子たちが死んで、セドリックが跡継ぎになったのです。

 セドリックは伯爵のお城で暮らすために、母とともにイギリスに渡りました。
 純真で無邪気なセドリックと接するうちに、意地悪な伯爵の心はしだいに変化し・・・

 「本当に、世の中で、親切な心ほど強いものはない。その親切を、子どもの心は、か
 わいく、すっぽりと包んでいるのだ。」(P146)

 ここに、作者バーネットの言いたいことが表れているように思えます。
 そして、セドリックの優しい思いやりにあふれた心が、物語の魅力となっています。

 ここで忘れてはいけないのが、セドリックの美しい心を育てた母親の存在です。
 つらい境遇に耐えながらも、決して美しい心を失わない母は、たいへん印象的です。

 そして、伯爵が母と和解する場面は感動的です。 
 その和解の場面をもたらすのが、あのペテン師たちの事件です。

 終盤に登場する小悪党たちは、物語を面白くするだけでなく重要な意味を持ちます。
 ここで、ディックやホップス氏たちが再登場して、活躍してくれるのも嬉しいです。

 さて、「小公子」は、同じバーネット作の「小公女」とワンセットです。
 ともに1980年代に「世界名作劇場」で放映されました。

 「小公女セーラ」については、私は子供のころに家族で見ていました。
 逆境に負けず、常に気高く優しく振舞うセーラの姿は、とても印象に残っています。

 「小公女」も名作なので、さまざまな訳が出ています。私はまだ読んでいませんが。
 文庫本では、羽田訳の角川文庫版や、土屋訳の古典新訳文庫版などが良いようです。


小公女 (角川文庫)

小公女 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/06/15
  • メディア: Kindle版



小公女 (光文社古典新訳文庫)

小公女 (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2021/04/13
  • メディア: Kindle版



 さいごに。(もう一度奈良へ)

 先日の奈良ツアーでは、時間が足りなかったです。
 せっかく東大寺に行きながら、法華堂も戒壇院も見られませんでした。

 妻も娘もそれなりに満足したようですが、仏像マニアの私には物足りなかったです。
 また行きたいです。今度は一泊して、薬師寺や唐招提寺にも足を伸ばしたいです。

IMG_0629-2.png

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森の生活2 [19世紀アメリカ文学]

 「森の生活(ウォールデン)下」 ヘンリー・D・ソロー著 飯田実訳 (岩波文庫)


 ウォールデン湖の畔に自分で建てた小屋に住んで、自給自足した2年間の回想録です。
 1854年刊行。ノンフィクション文学の傑作です。写真入りの岩波文庫版がオススメ。


森の生活〈下〉ウォールデン (岩波文庫)

森の生活〈下〉ウォールデン (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1995/09/18
  • メディア: 文庫



 19世紀アメリカ社会の物質主義に反抗したソローは、ウォールデンに移住しました。
 自然の中でひとり自給自足の生活を営みながら、人はいかに生きるか思索しました。

 ベイカー農場を訪れたとき、ソローはアイルランド人の主人と話をしました。
 そのときの言葉の中に、彼の考え方と、彼の偏屈さが、よく表われています。

 「ぼくは茶もコーヒーもミルクも飲まず、バターも新鮮な肉も食べないので、そうい
 うものを買うために働く必要はない。また、あまり働かないからあまり食べる必要も
 なく、したがって食費はいくらもかからない。ところがあなたは、はじめから茶、コ
 ーヒー、バター、ミルク、牛肉などを飲み食いしているから、それを買うためには必
 死で働くほかはなく、必死で働けば、体力の消耗を補うために必死で食べなくてはな
 らない――といったぐあいで、結局、事態は少しも好転しないだけでなく、かえって
 わるくなるばかりではないか。満足することがないうえに、いのちをすり減らしてい
 るわけだから。」(P66)

 この言葉を、「なるほど」と思うか、「お節介だ」と思うかは、微妙なところです。
 書いてある言葉に共感はしますが、実際に言われたら、頭にきてしまうと思います。

 さて、ソローの行動で興味深いのは、人頭税問題です。
 人頭税の支払いを拒否し、1846年に保安官に逮捕され、投獄されてしまいました。

 しかし、ソローには信念がありました。「国家と個人の良心との間に相克が生じたら、
 市民は納税の拒否という平和的手段で、不正に抗議する権利がある」というのです。

 このことは、「市民の反抗」というエッセーで述べられているのだそうです。
 そして、ガンジーなど市民運動家に愛読され、大きな影響を与えたのだそうです。

 ところで面白いのは、おばが独断で税金を支払ったあとも、出獄を拒んだ点です。
 そういう仕方で抗議を続けたものの、彼はしまいには心ならずも追い出されました。

 さすが、ソロー。彼はちょっとした変人ですね。
 愛読書は古代インド叙事詩の「バガヴァッド・ギーター」。さすが、ソロー!

 「『自然』はどんな問いもつきつけはしないし、われわれ人間が発するどんな問いか
 けにも答えはしない。」(P203)

 自然はただそこにあって、黙ってその偉大さを感じさせるだけということでしょう。
 分かります、私も変人なので。ああ、また山に登って自然を感じたい!

 余談ですが、私も昔、ソローのような生き方に憧れました。山小屋に住みたいとか。
 しかし、結局まっとうな生き方を選びました。ソローのマネはなかなかできません。

 さいごに。(会場まで行ってみる)

 娘の初めての受験なので、とても慎重になってしまいます。
 当日遅刻しないように、休日に受験会場の高校まで娘と一緒に行ってみました。

 娘はひとりで電車に乗ったことがないので、ひとりで電車に乗る練習もしました。
 逆方向の電車に乗らないように教えたりと、けっこう楽しかったです。

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森の生活1 [19世紀アメリカ文学]

 「森の生活(ウォールデン)上」 ヘンリー・D・ソロー著 飯田実訳 (岩波文庫)


 ウォールデン湖の畔に自分で建てた小屋に住んで、自給自足した2年間の回想録です。
 1854年に出てソローの死後に評価が高まった、ノンフィクション文学の傑作です。

 講談社学術文庫や小学館文庫等からも出ていますが、私のオススメは岩波文庫版です。
 ウォールデンの味わい深い写真が差し込まれていて、読者を森の世界へいざないます。


森の生活 上: ウォールデン (岩波文庫)

森の生活 上: ウォールデン (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1995/09/18
  • メディア: 文庫



 著者のソローは、1845年7月にウォールデン湖の畔に小屋を建てて移住しました。
 本書は、それから2年余りにわたって過ごした自給自足の生活を描いたものです。

 ウォールデン湖の土地は、師であるラルフ・W・エマーソンの所有地でした。
 そして、そこで実験的に暮らしてみることを示唆したのも、エマーソンだったのです。

 だから、ソローの思索や行動には、エマーソンの思想の影響が見られます。
 自然の中でシンプルに暮らすことを目指したり、時には天地の霊力を感じ取ったりと。

 ソローは都会の生活を捨て、森に小屋を手作りし、必要最低限のものだけ揃えました。
 労働は生きていくために必要なことだけに限定して、多くの時間を思索にあてて・・・

 「私が森へ行ったのは、思慮深く生き、人生の本質的な事実のみに直面し、人生が教え
 てくれるものを自分で学び取れるかどうか確かめてみたかったからであり、死ぬときに
 なって、自分は生きてはいなかったことを発見するようなはめにおちいりたくなかった
 からである。」(P163)

 「森の生活」は、アメリカ・ノンフィクション文学の最高傑作とも言われています。
 しかし私は「19世紀アメリカ文学のベスト10」に選びませんでした。
 「19世紀アメリカ文学のベスト10」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2014-08-14

 なぜかというと、7年前に読んだときには、まったく面白くなかったからです。
 それなのに、今読み直してみると、不思議と共感する部分が多かったです。

 その理由の一つは、岩波文庫新訳版の作りが良かったからでしょう。
 訳が分かりやすいのはもちろん、所々に挿入されている写真が実に味わい深いです。

 労働からも煩わしい人間関係からも解放された生き方は、とてもうらやましいです。
 写真を見ながら、自分もまたソローのようにウォールデンに住みたいと思いました。

 その一方、ソローが自分の気ままな生活を、自慢げに述べる場面が鼻につきました。
 村で働く人々を、巣穴を出たり入ったりするプレーリードックにたとえたりするし。

 ソローにはこう言ってあげたい。「あんたみたいに生きたくてもできないんだよ」。
 「そんな勝手な生き方は、あんたが独身だから、子供がいないからできるんだよ」。

 次は、下巻を読みます。
 また、エマーソンも気になります。特に「自己信頼」は評判が良いようです。


森の生活〈下〉ウォールデン (岩波文庫)

森の生活〈下〉ウォールデン (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1995/09/18
  • メディア: 文庫



エマソン論文集 上 (岩波文庫 赤 303-1)

エマソン論文集 上 (岩波文庫 赤 303-1)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1972/09/16
  • メディア: 文庫



 さいごに。(もうすぐ受験)

 娘の高校受験が迫っています。初めての受験で、娘は緊張しています。
 そんな娘を見ていると、こちらも緊張してきます。

 2月に私立の受験がありますが、本命は3月の公立の方です。
 結果はどうであれ、全力でがんばってほしいです。

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マクティーグ [19世紀アメリカ文学]

 「死の谷(マクティーグ)」 ノリス作 石田英二・井上宗次訳 (岩波文庫) 


 巨漢で鈍重な歯科医マクティーグの、結婚生活とその後の悲劇を描いた物語です。
 岩波文庫版は2020年2月に復刊されたばかり。初訳は1957年ですが分かりやすい。


死の谷 上 (岩波文庫 赤 316-1)

死の谷 上 (岩波文庫 赤 316-1)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/06/06
  • メディア: 文庫



死の谷 下―マクティーグ (岩波文庫 赤 316-2)

死の谷 下―マクティーグ (岩波文庫 赤 316-2)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/06/06
  • メディア: 文庫



 愚鈍で従順で巨体で怪力のマクティーグは、無免許で歯科医を営んでいました。
 彼には、たった一人だけ友だちがいました。同じアパートに住むマーカスです。

 あるときマクティーグのところへ、マーカスが恋人のトリナを連れて来ました。
 マクティーグは、治療を通じてトリナに惹かれ、友情と恋の板挟みになりました。

 マクティーグの悩みを知ったマーカスは、男気を起こしてトリナを譲りました。
 男同士の友情は、最高潮に達しました。しかし、トリナが富くじに当たると・・・

 さて。幸運に見えることが、あとから振り返ると、不幸の始まりだったりします。
 宝くじの当選によって、人生の歯車が狂い出すことは、世間でもよくあります。

 最高の友だちが最大の敵になったり、最愛の妻が憎たらしい相手になったり・・・
 そういう人間関係の変化が面白くて、前半からぐいぐい引き込まれました。

 下巻に入ってからは、物語の展開がさらに面白くなり、まったく目が離せません。
 訳は1957年と古いのに読みやすくて、私は物語にのめり込んでしまいました。

 そして、「死の谷」での衝撃のラスト。二人の友は、いかにして破滅したか?
 まったく、この二人ときたら! 悲しいと言うより、滑稽でした。

 ところで、マクティーグの不幸の原因は、体に流れる血の中にもあったようです。
 悲劇はすでに宿命として刻印されていたもので、彼の罪ではないのかもしれません。

 「彼の内部におけるあらゆる善きものの美しい生地の下に、代々伝わる悪の忌まわ
 しい流れが下水のように走っていたのだ。」(上巻P41)

 そういえば、マクティーグが変になったのは、ウィスキーを飲んでからでした。
 ならば、物語の最初に、彼の父について次のように書かれていることは重要です。

 「二週間に一度の日曜日ごとに、彼は酒で気が狂ったようになり、無責任な動物、
 獣、畜生になった。」(P11)

 この物語には、ほかにも魅力的なわき役たちがいて、味わいを深くしています。
 中でも、マリアとザーコフの「金の皿」をめぐる悲劇は、とても印象的でした。

 さいごに。(コロナが懐かしかったりして)

 予想はしていましたが、6月の残業時間は、余裕で過労死レベルでした。
 コロナの頃が懐かしい、在宅勤務が懐かしい、と言ったら、怒られるでしょうけど。

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フランクリン自伝 [19世紀アメリカ文学]

 「フランクリン自伝」 フランクリン作 松本慎一・西川正身訳 (岩波文庫)


 老齢のフランクリンが、生涯を振り返って息子に宛てて書き始めた自伝です。
 アメリカ建国の父の自伝として、ロングセラーを続けています。

 いくつかの文庫から出ていましたが、現在手に入るのは岩波文庫版です。
 初版が1956年。訳は古いですが、分かりやすかったです。


フランクリン自伝 (岩波文庫)

フランクリン自伝 (岩波文庫)

  • 作者: フランクリン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1957/01/07
  • メディア: 文庫



 フランクリンといえば、100ドル紙幣に描かれ、凧を使った雷の実験で有名です。
 1706年、彼はアメリカのボストンの、貧しい石鹸作りの家に生まれました。

 12歳の時から、印刷業者の兄のもとで、年季奉公をしながら学問に励みました。
 17歳の時、兄と衝突してフィラデルフィアに出て、波乱万丈の人生が始まります。

 渡英の機会を得て、ロンドンに行ってみたが・・・
 帰国して印刷業を始めてからは・・・

 アメリカンドリームがぎゅっと詰まった成功物語であり、自己啓発本です。
 ちょっとした冒険小説でもあります。

 特に面白かったのは、前半の第二章から第五章です。
 家を飛び出して働いて、渡英して、印刷業を始めて、結婚して・・・

 感心するのは、彼がとても多くの人物と知り合い、親しくなるところです。
 知事、大佐、大商人、詩人、弁護士、政治家、などなど。

 そしてフランクリンが苦境に立たされると、次々と支援者が現れるところです。
 彼には、きっととても大きな人間的魅力があったのでしょう。

 第六章には、彼に成功をもたらした「フランクリンの十三徳」が登場します。
 「節制」「沈黙」「規律」「決断」「節約」「勤勉」「誠実」と続きます。

 面白いのは、第十二徳の「純潔」。彼の生真面目な性格がよく分かります。
 「性交はもっぱら健康ないし子孫のためにのみ行い、・・・」(P158)

 フランクリンの成功は、勤勉と倹約のたまものだと思います。
 彼の真面目で誠実で、何事にも一生懸命な姿は、人の心を強く揺さぶります。

 ところが後半、十三徳の後から、文章が説明的で教訓的になってしまいました。
 そして最も残念なのは、未完であることです。晩年の大活躍が記されてません。

 フランクリンがもともと計画していた半分ほどしか書けなかったようです。
 アメリカ独立運動での活躍や、当事者しか知りえない裏話を読みたかったです。

 さいごに。(9歳)

 先日、うちの娘が9歳になりました。生意気になるのも、当然ですね。
 このブログを始めた頃は、まだ3歳でした。早いものです。

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大渦巻への落下 [19世紀アメリカ文学]

 「大渦巻への落下・灯台 ポー短編集ⅢSF&ファンタジー編」
 エドガー・アラン・ポー作 巽孝之訳 (新潮文庫)


 巨大な渦巻きに船ごと呑み込まれる名作「大渦巻への落下」など7編です。
 ポーはゴシックやミステリのほか、SFものも書いていました。

 新潮文庫から今年2015年3月に出ました。分かりやすい訳でした。
 特に「大渦巻への落下」は、待ちに待った新訳です。


大渦巻への落下・灯台: ポー短編集III SF&ファンタジー編 (新潮文庫)

大渦巻への落下・灯台: ポー短編集III SF&ファンタジー編 (新潮文庫)

  • 作者: エドガー・アラン ポー
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/02/28
  • メディア: 文庫



 「ゴシック編」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2010-04-08
 「ミステリ編」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2010-12-06

 ノルウェーの沿岸では、船を丸ごと呑みこむほどの巨大な渦巻が出現します。
 年老いた漁師が、3年前に体験した大渦巻への落下を物語ります。

 その日、いつものように漁に出た帰りに、突然のハリケーンに襲われました。
 船は強風によって進まず、大渦巻の中心へ徐々に引きずられていき・・・

 と私が書いても、なかなかこの恐ろしさが伝わらないのが残念。
 ハリー・クラークの有名な絵があるので、これを見て雰囲気を感じてください。

Maelstrom-Clarke.jpg

 以前、新潮文庫の旧版「黒猫・黄金虫」が、新版に編集し直されたとき、
 「メールストロムの旋渦」が削られたと思って、悲しみました。

 しかし「ポー短編集」は、ⅠとⅡで終わりではなかったのですね。
 「大渦巻への落下」と、タイトルを新たに復活したので、とても喜んでいます。

 もうひとつのタイトル作「灯台」も、未完の遺作として興味深い作品です。
 書かれていないからこそ、最後は不気味で恐ろしいです。

 サイボーグものの「使い切った男」の発想は、当時としては新しかったでしょう。
 狂気ものの「タール博士とフェザー教授の療法」も、面白かったです。

 しかし、残りの3作は読まなくてもいいでしょう。
 この本は、なんとなく中途半端。拾遺集的な編集だったのかもしれません。

 ところで、新潮文庫のポー短編集Ⅰ~Ⅲは、カバーイラストが少しコミカルです。
 内容を盛り込んでいるのは分かるけど、もっとミステリアスな絵にしてほしい。

 さいごに。(1週間早かった)

 じいじの所へ、お寿司とお酒を持っていきました。
 でも、父の日は来週だったんですね。1週間間違えました。

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秘密の花園 [19世紀アメリカ文学]

 「秘密の花園」 フランシス・H・バーネット作 土屋京子訳 (古典新訳文庫)


 3人の少年少女が、誰も足を踏み込まない「開かずの庭」を再生する物語です。
 1911年。19世紀末に出た「小公子」「小公女」と並んで、代表作として有名です。

 古典新訳文庫、新潮文庫などから出ています。
 古典新訳文庫版は、訳がとても分かりやすくて、活字も読みやすいです。


秘密の花園 (光文社古典新訳文庫)

秘密の花園 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: バーネット
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2007/05/10
  • メディア: 文庫



 新潮文庫版の瀧口訳は、少し古いのですが、味わいのある文章です。


秘密の花園 (新潮文庫)

秘密の花園 (新潮文庫)

  • 作者: フランシス・ホジソン バーネット
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1954/02/02
  • メディア: 文庫



 インドで両親を亡くし、イギリスのおじに引き取られた10歳の少女メアリ。
 住むことになった大きなお屋敷は、ちょっと謎めいていました。

 めったに顔を合わせないおじ。どこからか聞こえてくる子供の泣き声。
 人の住んでいない多くの部屋。そして、四方を壁に囲まれた不思議な庭。

 あるとき、メアリはコマドリに導かれて、ひとつの鍵を見つけました。
 それから、つたに隠れていた扉を発見して・・・

 この物語は、子供向けの名作として紹介されることが多いです。
 しかし、スピリチュアルな内容です。大人が読まなければもったいない。

 愛というものを、知らずに育った少女と少年。
 愛というものを、封印してしまった男。

 花園の再生は、命の再生であり、また愛の再生でもあったのです。
 この小説に影響されて、私はうちの小さな庭にラベンダーを植えました。

 さいごに。(清泉寮のパンシチュー)

 結婚したての頃に清泉寮で食べたパンシチューが、おいしくて忘れられません。
 今年の夏のキャンプの時、清泉寮で探したのですが、見つかりませんでした。

 後日電話で問い合わせると・・・
 パンシチューを出していた喫茶室は無くなって、セレクトショップになっていて、
 もうパンシチューは食べられない、とのこと。ああ、余計に食べたくなりました。

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19世紀アメリカ文学のベスト10を選びました2 [19世紀アメリカ文学]

 「文学全集 第Ⅴ集 19世紀アメリカ編」について若干の補足説明


 前回、「19世紀アメリカ文学のベスト10」を選びました。
 その10作品は、以下の通りです。

 1 「ホーソーン短篇小説集」ホーソーン(1837年~)岩波文庫 ¥907
 2 「ポー短編集Ⅰ・Ⅱ」ポー(1839年~)新潮文庫 ¥432・¥529
 3 「緋文字(ひもんじ)」ホーソーン(1850年)古典新訳文庫 ¥1296
 4 「白鯨」メルヴィル(1851年)岩波文庫 ¥1080・¥1080・¥1080
 5 「トム・ソーヤーの冒険」トウェイン(1876年)古典新訳文庫 ¥1008
 6 「デイジー・ミラー」ヘンリー・ジェイムズ(1878年)岩波文庫 ¥864
 7 「ワシントン・スクエア」ヘンリー・ジェイムズ(1880年)岩波文庫 ¥907
 8 「ハックルベリ・フィンの冒険」トウェイン(1885年)角川文庫 ¥821
 9 「アウルクリーク橋の出来事」ビアス(1892年)古典新訳文庫  ¥700
10 「シスター・キャリー」ドライサー(1900年)岩波文庫 ¥1166・¥1166

 このラインナップには、選んだ私自身が納得できていません。
 品切れのために、エントリーできなかった作品が多いからです。

 例えば、ジェイムズの「ある婦人の肖像」。岩波文庫で品切れになっています。
 この作品はジェイムズの代表作で、文学全集には絶対に外せない作品でしょう。

 私にとっても、「ある婦人の肖像」は、今年のベスト5に入る作品です。
 ぜひ、岩波文庫の定番にしてほしいです。
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-06-29
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-07-05

 次に、クーパーの「モヒカン族の最後」。ハヤカワ文庫で長らく品切れです。
 やや読みにくい文章なので、ぜひ、新訳を出してほしいです。
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-07-30

 さらに、アーヴィングの「スケッチブック」。新潮文庫等で品切れです。
 ついでに、メルヴィルの「バートルビー」。岩波文庫で品切れです。
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-03-02
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-07-31

 その他、手に入りにくい本もあります。ストウの「アンクル・トムの小屋」、
 ハウエルズの「サイラス・ラパムの向上」、ノリスの「死の谷」などです。

 では、こういった作品まで含めて、我が文学全集の改訂版を出しましょう。
 理想的な「文学全集 第Ⅴ集 19世紀アメリカ編」は、以下の通りです。
 (★印は前回のラインナップに有り)

 1  「モヒカン族の最後」クーパー(1826年)ハヤカワ文庫 品切れ
 2 ★「ポー短編集Ⅰ・Ⅱ」ポー(1839年~)新潮文庫 ¥432・¥529
 3 ★「緋文字(ひもんじ)」ホーソーン(1850年)古典新訳文庫 ¥1296
 4 ★「白鯨」メルヴィル(1851年)岩波文庫 ¥1080・¥1080・¥1080
 5  「アンクルトムの小屋」ストウ(1852年)旺文社文庫 品切れ
 6  「ある婦人の肖像」ヘンリー・ジェイムズ(1881年)岩波文庫 品切れ
 7 ★「ハックルベリ・フィンの冒険」トウェイン(1885年)角川文庫 ¥821
 8 ★「アウルクリーク橋の出来事」ビアス(1892年)古典新訳文庫  ¥700
 9  「死の谷(マクティーグ)」ノリス(1899年)岩波文庫 品切れ
10 ★「シスター・キャリー」ドライサー(1900年)岩波文庫 ¥1166・¥1166

 4編を入れ替えただけですが、だいぶ充実したような気がします。
 「アンクルトム」と「死の谷」は読んでいませんが、ぜひ読みたい作品なので。

 さて、「なぜエマソンやソーロウがないのか」という声も聞こえそうです。
 確かに、彼ら思想家が、アメリカ文学に与えた影響は大きいです。

 特に、ソーロウの「ウォルデン(森の生活)」は、文学としても評価が高い。
 しかし、私は選びませんでした。なぜか? ・・・面白くなかったからです。

 訳が悪かったのか。私には、森の生活が、趣味人の自己満足に見えました。
 「あ、そう。だからなに? 勝手にやってれば?」と思ってしまいました。

 しかし、「ウォルデン(森の生活)」を絶賛する人は多いです。
 もし、今後読み直す機会があって、その価値に気がついたらエントリーします。

 さいごに。(マスターズ陸上を断念)

 7月に傷めたひざがなかなか治りません。
 ジョッグはできるのだけど、ダッシュができません。

 残念ですが、マスターズ陸上全国大会は断念しようと思います。
 今年はアジア大会を兼ねているので、楽しみにしていたのですが。

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19世紀アメリカ文学のベスト10を選びました [19世紀アメリカ文学]

 「文学全集 第Ⅴ集 19世紀アメリカ編」


 文庫本で自分だけの文学全集をそろえることが、このブログの目標です。
 そろそろ第Ⅴ集の19世紀アメリカ文学編を決定する時期になりました。

 すでに、第Ⅰ集から第Ⅳ集は、以下のように完成しています。

 第Ⅰ集「19世紀フランス編」
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2010-10-23
 第Ⅱ集「19世紀イギリス編」
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2011-08-04
 第Ⅲ集「19世紀ロシア編」
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2012-12-22
 第Ⅳ集「19世紀ドイツ北欧編」
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2013-11-09

 第Ⅰ集から第Ⅳ集までは、20作品ずつ選びましたが、今回は10作品です。
 というのもアメリカ文学は、西欧に比べて半世紀ほど遅れているようだから。

 アメリカの独立は1776年です。
 この頃までアメリカには、日記とか説教集とか評論などしかありません。

 19世紀に入って、ワシントン・アーヴィングや、クーパーが活躍します。
 しかし、まだ彼らは先駆者という感じです。

 19世紀の半ばになって、ポーや、ホーソーンや、メルヴィルが活躍します。
 ここにきて、ようやくアメリカ文学が始まったという感じです。

 19世紀の後半になると、トウェインと、ヘンリー・ジェイムズが出ます。
 ここからいっきに、アメリカ文学は最盛期に向かって行きます。

 そして20世紀に、フィッツジェラルドや、ヘミングウェイらが出ます。
 この頃が、アメリカ文学の黄金期でしょう。

 西欧では、19世紀に小説の黄金期を迎えました。
 しかしアメリカでは、20世紀に入って黄金期を迎えたのです。

 というわけで、19世紀アメリカ文学編は10作品だけにしました。
 いつものように、文庫本のみで、品切れの本は除いています。

 1 「ホーソーン短篇小説集」ホーソーン(1837年~)岩波文庫 ¥907
   → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-06-02
 2 「ポー短編集Ⅰ・Ⅱ」ポー(1839年~)新潮文庫 ¥432・¥529
   → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2010-04-08
   → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2010-12-06
 3 「緋文字(ひもんじ)」ホーソーン(1850年)古典新訳文庫 ¥1296
   → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-03-08
 4 「白鯨」メルヴィル(1851年)岩波文庫 ¥1080・¥1080・¥1080
   → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-03-20
   → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-03-29
 5 「トム・ソーヤーの冒険」トウェイン(1876年)古典新訳文庫 ¥1008
   → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-03-05
 6 「デイジー・ミラー」ヘンリー・ジェイムズ(1878年)岩波文庫 ¥864
   → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-04-07
 7 「ワシントン・スクエア」ヘンリー・ジェイムズ(1880年)岩波文庫 ¥907
   → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-06-02
 8 「ハックルベリ・フィンの冒険」トウェイン(1885年)角川文庫 ¥821
   → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-07-19-1
   → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-07-19-2
 9 「アウルクリーク橋の出来事」ビアス(1892年)古典新訳文庫  ¥700
   → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-04-13
10 「シスター・キャリー」ドライサー(1900年)岩波文庫 ¥1166・¥1166
   → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-06-05
   → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-06-09

 以上で、全14冊、13,036円でした。

 例によって、「なんであの作品が入っていないの?」という声が聞こえそうです。
 次回に、若干の補足説明をさせてください。

 さいごに。(スマホ、やーめた)

 先日妻が、ようやくスマホにしました。アイフォンです。
 私も興味があったので、ちょっといじらしてもらったのですが・・・

 この年になると、新しいものに適応するのがたいへん。実にめんどくさいです。
 新しい操作方法に、ついていけないし、また、ついていく気もなくなりました。

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バートルビー [19世紀アメリカ文学]

 「幽霊船 他一篇」 メルヴィル作 坂下昇訳 (岩波文庫)


 「幽霊船」と「バートルビー」の傑作中編二篇を収録した作品集です。
 「バートルビー」は、与えられた仕事を何もしない男を描いています。

 岩波文庫から出ていましたが品切れ。楽天オークションで手に入れました。
 初版は1979年。訳は少し古いため、読みにくい個所がありました。


幽霊船 他1篇 (岩波文庫 赤 308-5)

幽霊船 他1篇 (岩波文庫 赤 308-5)

  • 作者: ハーマン・メルヴィル
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1979/12/17
  • メディア: 文庫



 弁護士事務所の助手として、バートルビーという青年が雇われました。
 彼は、清らげなまでに青白く、哀れを誘うほど恭しい男です。

 ところが、ある仕事を命じられたとき、バートルビーは言いました。
 「ぼく、そうしない方がいいのですが」。あくまで、柔和な表情で。

 その後は何を言ってもダメ。自分の仕事さえしなくなります。
 「ぼく、そうしない方がいいのです」と、穏やかに言って・・・

 すごいです。なかなかこんな風には言えません。
 呆れるというより、感心してしまいます。

 実は、ちょっと複雑な思いを持ちながら、この作品を読みました。
 というのも、私はバートルビーそっくりな人を知っているからです。

 彼は、仕事を割り振られると、「できない」と言って逃げていきます。
 比喩ではありません。上司の前から、本当に逃げて行くのです。

 そして、忙しい同僚をしりめに、ブラブラしています。
 当然誰からも相手にされませんが、本人はまったく気にしていません。

 すごいです。その超然とした態度は、神聖ですらあります。
 私は今後、この人に敬意を表して、バートルビーと呼ぼうと思います。

 さいごに。(恒例の出張)

 恒例の夏の出張に行ってきました。今年から1日増えて3泊4日です。
 ↓ 毎年すぐ近くに泊まるのに、忙しくて一度も行っていません。
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