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17世紀文学のベスト10を選びました [17世紀文学]

 「世界文学全集 第Ⅸ集 17世紀編」


 私のライフワークは、文庫本で自分だけの文学全集をそろえることです。
 その「文学全集」の第Ⅰ集から第Ⅷ集までは、以下のように完成しています。

・ 第Ⅰ集「19世紀フランス編」(20作)・2010年
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2010-10-23
・ 第Ⅱ集「19世紀イギリス編」(20作)・2011年
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2011-08-04
・ 第Ⅲ集「19世紀ロシア編」(20作)・・2012年
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2012-12-22
・ 第Ⅳ集「19世紀ドイツ北欧編」(20作)2013年
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2013-11-09
・ 第Ⅴ集「19世紀アメリカ編」(10作)・2014年
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2014-08-06-1
・ 第Ⅵ集「18世紀編」(10作)・・・・・2015年
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2015-09-25-2
・ 第Ⅶ集「古代編」(20作)・・・・・・・2016年
 → http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2016-12-27
・ 第Ⅷ集「中世編」(20作)・・・2017年・2018年
 → https://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2018-12-25


 今年2019年は、第Ⅸ集「17世紀編」(10作)を決めることになっています。
 文庫で手に入る主なものは、ほぼ読み終わったので、流れを振り返ってみます。

 先の16世紀に、スペインは新大陸の征服によって、大いに国力をつけました。
 騎士道小説に代わって悪漢小説が流行し、文学の黄金時代がもたらされました。

 その頂点で輝くのは、セルバンテスの大ベストセラー「ドン・キホーテ」です。
 この小説は、人間の心理を詳細に描くことで、近代小説に革新をもたらしました。

 黄金世紀を代表する劇作家がロペ・デ・ベガで、演劇の民衆化に貢献しました。
 セルバンテスとロペ・デ・ベガ。黄金期のこの二人の大家は絶対に外せません。

 この頃スペイン以上に国力を充実させたのが、エリザベス朝期のイギリスです。
 女王即位後、国外でスペイン無敵艦隊を破り、国内で宗教対立を終息させました。

 国の勢いに乗って、イギリス・ルネサンスは最盛期を迎えました。
 特に演劇界は、シェイクスピアの画期的な作品により、大いに盛り上がりました。

 彼は卓越した心理描写と温かい人間愛で、四大悲劇など数々の傑作を生みました。
 イギリス最大の劇作家であるシェイクスピアは、もちろん外せません。

 イギリスは17世紀の半ばに向かうと、王党派と議会派が争いあうようになります。
 1649年の清教徒革命で、クロムウェル率いる議会が勝利し、共和政となりました。

 この時代の文学は、厳粛な倫理観に満ちたピューリタニズムの影響を受けました。
 ピューリタニズム文学の代表で、英国最大の詩人ミルトンも外せません。

 フランスでは1624年にリシュリューが宰相に就くと、秩序は回復に向かいました。
 宗教戦争以来の混乱が収まり、絶対王権が確立し、秩序が重視されていきました。

 文学でも秩序重視の古典主義が起こり、コルネイユのルシッド論争がありました。
 17世紀の半ばにはモリエールとラシーヌが活躍しました。この3人は外せません。

 この時期、フランスではサロンが非常に発達し、女性の地位が向上していました。
 心理小説の祖「クレーヴの奥方」を書いた、ラファイエット夫人も外せません。

 ヨーロッパから遠く離れた中国では、明が滅亡して清による支配が始まりました。
 異民族に支配され、活躍の場を失った知識人は、細々と自民族の伝統を伝えます。

 蒲松齢は村塾を開く傍ら、地域の人々の話を集め、「聊斎志異」を書きあげました。
 のちに志怪小説を復興させ、日本で多くの翻案を生んだ「聊斎志異」は外せません。

 日本では17世紀の最後に、上方を中心にした元禄文化が栄えました。
 俳諧師から浮世草子作家に転身し、「好色一代男」を書いた井原西鶴も外せません。

 以上のことを踏まえて、「17世紀編」は、次の10作(?)に絞りました。
 「〇〇集」というのが多いので、10作といっても、かなり大部になりました。

 1「ドン・キホーテ」セルバンテス 1605年
 2「オルメードの騎士」ロペ・デ・ベガ 1625年
 3「シェイクスピア集」(「ハムレット」1602年「マクベス」「リア王」
       「オセロー」「ロミオとジュリエット」「ヴェニスの商人」)
 4「失楽園」ミルトン 1667年
 5「コルネイユ集」(「嘘つき男」1644年「舞台は夢」)
 6「モリエール集」(「タルチュフ」1664年「ドン・ジュアン」「人間嫌い」
           「守銭奴」「病は気から」)
 7「ラシーヌ集」(「アンドロマック」1667年「ブリタニキュス」「フェードル」)
 8「クレーヴの奥方」ラファイエット夫人 1678年
 9「聊斎志異」蒲松齢 1670年頃
10「井原西鶴集」(「好色一代男」1682年「好色五人女」「日本永代蔵」)


 さいごに。(町内運動会)

 今年の町内運動会は4種目に出場しました。リレーはアンカーをやりました。
 4チーム中2番手でもらって、1位でゴールしました。52歳にしては上出来。

 それで、なんと、いつもビリ争いをするうちの町内会が、総合優勝しました!
 この町内に引っ越してきて13年目ですが、初めてのことです。

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ブリタニキュス ベレニス [17世紀文学]

 「ブリタニキュス ベレニス」 ラシーヌ作 渡辺守章訳 (岩波文庫)


 皇帝ネロと皇帝ティチュスの時代を描いた、ローマ帝国モノの悲劇二編です。
 「アンドロマック」ほど知られていませんが、ラシーヌの代表作の一つです。

 2008年に岩波文庫から出た直後に買い、ようやく読みました。現在は絶版です。
 「フェードル アンドロマック」同様、渡辺訳は分かりやすかったです。
 「アンドロマック」→ https://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2010-02-23


ブリタニキュス ベレニス (岩波文庫)

ブリタニキュス ベレニス (岩波文庫)

  • 作者: ラシーヌ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2008/02/15
  • メディア: 文庫



 「ブリタニキュス」は1669年に上演されましたが、評判は芳しくなかったそうです。
 「ブリタニキュス」はクラウディウス帝の子。皇帝ネロの義理の弟に当たります。

 ネロン(=ネロ)が皇帝の座に着けたのは、母アグリピーヌのおかげです。
 それがよく分かっているからこそ、実の母アグリピーヌが疎ましくなってきました。

 その心につけこみ、ネロンを悪の道に走らせるのが、ナルシスという悪人です。
 ナルシスはブリタニキュスの後見をしていながら、ネロンのために彼を裏切り・・・

 「ブリタニキュス」は、ブリタニキュスとその恋人ジュニーの悲劇を描いています。
 しかし主役はどう見ても皇帝ネロです。ネロと母アグリピーヌの確執がテーマです。

 誰でも大人になるため、親から一歩踏み出すときが来ます。人生の変化のときです。
 ネロンにもそのときが来ました。そのとき彼を導いたのが、運悪くナルシスだった。

 その結果、3年間の善政もむなしく、ネロンは暴君の道を歩み始めるのです。
 最後はアグリピーヌも暗殺されることが暗示され、不気味な雰囲気で幕が下ります。

 「だが、わたしの死が、お前には何の役にも立たぬようにしてやろう。
 死ぬ時にこのわたしが、お前を無事安穏にしておくなどとは思わぬがよい。」

 実に後味が悪い。我々はこののちのネロの暴虐を知っているので、なおさらです。
 ラシーヌは、暴君ネロンが誕生する瞬間を描きたかったのかもしれません。

 さて、もう一方の「ベレニス」は、翌1670年に上演され、それなりに成功しました。
 「ベレニス」はパレスティナの女王です。ローマ皇帝ティチュスに愛されました。

 ティチュスとベレニスの婚礼が近づく中、皇帝の友アンティオキュスが悩んでいます。
 彼もベレニスを愛していたのです。彼は思いを断ち切り、ローマを離れようとします。

 ところが、ローマには、異国の女王を妃にしてはいけないという掟があったのです。
 皇帝はベレニスと別れるために、友であるアンティオキュスを彼女の元に遣わし・・・

 皇帝がアンティオキュスの恋心を知らないため、三人の関係はややこしくなります。
 主役はベレニスではなくて、皇帝ティチュスとその友アンティオキュスでしょう。

 ところで「ベレニス」の登場人物は良い子ちゃんばかりで、やや面白みに欠けます。
 私的には「ブリタニキュス」の方が面白かった。ネロンの個性が強烈だったので。

 この本も、「フェードル アンドロマック」と同じで、訳注がやたらと多いです。
 本文が二編で300ページ足らずなのに、訳注は250ページあります。読まないって!

 訳注をバッサリ切って、500円くらいで出ていたら、もっと読まれたのではないか。
 文庫本には専門的な訳注はいらない、というように割り切ってほしいと思います。

 さいごに。(シゲが出てるから)

 普段あまりドラマを見ないママさんが、最近NHKの夜のドラマを見ています。
 わけを聞いたら、「シゲが出ているから」とのこと。(シゲ=重岡くん)

 ママさんは、ジャニーズ・ウェストの重岡君のファンなのです。
 ドラマに出てくる重岡君が、いまいちチャライ役なので不満があるようです。

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ドン・キホーテ6 [17世紀文学]

 「ドン・キホーテ(後篇三)」 セルバンテス作 牛島信明訳 (岩波文庫)


 自分を偉大な騎士だと妄想するドン・キホーテと、従者サンチョの物語の最終巻です。
 岩波文庫版の「後篇三」には、第50章から最終の第74章までが収められています。

 「ドン・キホーテ」は、ここまで5回にわたり紹介してきました。
 以下の記事も、参考にしてください。

 前篇一 → https://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2010-01-13
 前篇二 → https://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2019-06-02
 前篇三 → https://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2019-06-08
 後篇一 → https://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2019-07-02
 後篇二 → https://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2019-07-20


ドン・キホーテ〈後篇3〉 (岩波文庫)

ドン・キホーテ〈後篇3〉 (岩波文庫)

  • 作者: セルバンテス
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2001/03/16
  • メディア: 文庫



 ドン・キホーテは侯爵夫妻に歓待され、サンチョは領主として島に赴きました。
 一方で、侯爵夫妻は憂さ晴らしに、さらに二人を愚弄しようと企んでいました。

 ドン・キホーテは、今の安楽な生活が、自分の理想像から離れていると感じました。
 もう一度遍歴の騎士として出立しようとしたとき、老女が救いを求めて来て・・・

 サンチョ・パンサは、意外にも島をうまく治め、偉大な領主と讃えられていました。
 しかし突然、敵の軍隊が押し寄せて来たため、急いで武装したのですが・・・

 「サンチョは裸で生まれて、今も裸、損もしなけりゃ得もしねえってね。わしは一
 文なしでこの島を治めにきて、一文なしでこの島を出ていく」(P76)

 最終巻に至って、サンチョの言葉はますます冴えまくっています。
 領主としての苦い体験によって、サンチョの言葉には深みも加わりました。

 「蟻が高望みをして羽を生やし、空を飛んだばっかりに雨燕やほかの鳥に食われた
 というが、わしはわしの体に生えた蟻の羽を、この馬小屋に置いていくよ。そいで、
 もういっぺん地べたにしっかりと足をつけて歩くつもりさね。」(P78)

 さて、ドン・キホーテは最後の最後に、急に正気に返って死んでいきます。
 あまりにも唐突なので、狂気を演じていただけなのではないかと疑ってしまいます。

 「人を愚弄する者たちも愚弄される者たちと同じく狂気にとらわれている」(P352)
 というより、彼らを愚弄する公爵夫妻の執拗さの方が、よほど気違いじみています。

 ドン・キホーテは狂気を演じることで、夫妻の狂気を気づかせようとしたのでは?
 ドン・キホーテは愚弄されることで、逆に侯爵夫妻を愚弄していたのではないか?

 この本が書かれてからすでに400年以上がたちました。
 しかしドン・キホーテは、今でも多くの問いを、我々に投げかけています。

 さいごに。(infobar xv 不具合)

 ブラウザでインターネットをしていると、急につながらなくなります。
 エラーメッセージが出ますが、訳のわからない記号なので、全く解決しません。

 しかし、しばらく放っておくと、またつながるようになります。どうして?
 エラーメッセージと解決策を、ぜひ日本語で表示してほしいです。

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ドン・キホーテ5 [17世紀文学]

 「ドン・キホーテ(後篇二)」 セルバンテス作 牛島信明訳 (岩波文庫)


 自分を偉大な騎士だと妄想するドン・キホーテと、従者サンチョの物語の後篇です。
 岩波文庫版の「後篇(二)」には、第25章から第49章までが収められています。


ドン・キホーテ〈後篇2〉 (岩波文庫)

ドン・キホーテ〈後篇2〉 (岩波文庫)

  • 作者: セルバンテス
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2001/03/16
  • メディア: 文庫



 人形劇での騎士物語を現実の出来事だと思い込んで、人形たちをめった切りにしたり、
 川につながれた舟を魔法の船だと思い込んで、勝手に乗り込んで沈没させたり・・・

 この巻に入っても、ドン・キホーテとサンチョのコンビは絶好調です。
 特に、森の中で侯爵夫妻と出会ってからの顛末は、後篇のクライマックスでしょう。

 侯爵夫妻は、ドン・キホーテの物語を読んでいて、彼ら主従のことを熟知しています。
 城では二人を大歓迎すると見せかけ、侯爵夫人はこの主従を愚弄して楽しみ・・・

 ドルシネアのかけられた魔法を解くために、サンチョは何をしなければならないか?
 ひげ面の老女たちのかけられた魔法を解くために、主従はどんな冒険に出たか?

 さらに彼らを笑いものにするため、侯爵夫妻はサンチョを島の領主にしますが・・・
 公爵の悪趣味が最も現われた場面であり、サンチョの最大の見せ場でもあります。

 サンチョは、いかにして老人の杖のトリックを見破ったか?
 サンチョは、いかにして告訴人である女の狂言を見破ったか? 

 自分が愚弄されていることに気付かないサンチョは、愚かな人間だでしょうか?
 いや、自分たちの俗悪さに気付かない侯爵夫妻こそ、本当に愚かな人間ですよ。

 さて、ドン・キホーテの言葉には、相変わらず真実と愛情がこもっています。
 彼はサンチョが領主として旅立つ際、次のような言葉で徳義の大切さを伝えました。

 「血は代々受け継がれるものだが、徳は個人がみずから獲得するものであってみれ
 ば、徳はそれ自体において、血統のもちえない価値を秘めているのじゃ。」(P291)

 次はいよいよ最終巻の後篇(三)です。
 いったいどのような形で、彼らの遍歴は終わるのでしょうか。楽しみです。

 さいごに。(録画用の容量不足)

 大型音楽番組があると、うちの女衆は、5~6時間をまるごと録画しています。
 その中で彼女らが見るのは、ジャニーズが出てくる20~30分だけなのですが。

 録画するための容量がどんどん少なくなってきたので、私に協力を求めてきました。
 「パパの『超ムーの世界R』を消して」と。・・・「おまえらの音楽番組を消せ!」

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ドン・キホーテ4 [17世紀文学]

 「ドン・キホーテ(後篇一)」 セルバンテス作 牛島信明訳 (岩波文庫)


 自分を偉大な騎士だと妄想するドン・キホーテと、従者サンチョの物語の後篇です。
 前篇が好評だったため、その10年ほど後に書かれました。前篇以上の面白さです。

 岩波文庫から全六冊で出ています。分かりやすくて、とても味わいのある名訳です。
 後篇最初となる「後篇(一)」には、第1章から第24章までが収められています。


ドン・キホーテ〈後篇1〉 (岩波文庫)

ドン・キホーテ〈後篇1〉 (岩波文庫)

  • 作者: セルバンテス
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2001/02/16
  • メディア: 文庫



 前篇でドン・キホーテを連れ戻した司祭と床屋が、1か月ぶりに彼を訪ねました。
 正気に見えたドン・キホーテですが、騎士の話になるとヘンなことを言い出します。

 「わしは遍歴の騎士として死すべき運命にあるのじゃ。トルコにはいつでも好きな時
 に、好きなだけの強大な軍勢を整えて、攻め寄せるなり退却するなり好きなようにさ
 せればよいわ。重ねて言うが、神はわしの意味するところをご存じだからな。」(P28)

 サンチョがやって来たので、ドン・キホーテが世間での自分の評判を尋ねると・・・
 「お前様を大変な狂人で、おいらをそれに輪をかけたばか者だと思ってます。」(P52)

 ドン・キホーテは自分の伝記が出ていると知り、カラスコにその内容を尋ねると・・・
 やって来たカラスコは、ひざまずいて彼をおだてあげながら、愚弄し始めました。

 ドン・キホーテの出発を止めてくれと頼まれて、カラスコが言うことには・・・
 「貴殿は明日ともいわず今日すぐにでも雄途につかれるがよい。」

 ドン・キホーテは出発の際、思い姫のドゥルシネーアに挨拶に行き・・・
 鏡の騎士と出会い、決闘することになって・・・

 狂人とみなされたドン・キホーテは、前篇同様、後編でも周囲から嘲弄されます。
 しかし、皆からばかにされる彼の方が、ずっと純粋で誠実で、高潔のように思えます。

 そういえばドン・キホーテは、第3章で、ちょっと気の利いたことを言っていました。
 この言葉は、彼が本当は馬鹿でも狂人でもないことを、暗示しているのではないか。

 「芝居においていちばん才能のいる役柄は道化であるが、それというのも、観客にば
 かに思われようとする者が本当にばか者であっては具合が悪いからですよ。」(P69)

 ドン・キホーテに劣らず、従者のサンチョも、含蓄に富んだことを言っています。
 彼の言葉は、バカと天才が紙一重である、ということを思い出させます。

 「島の領主にならなくっても、毎日食うパンは領主になって食うパンと同じ味がする
 だろうし、いやおそらくは、もっと旨いだろうからね。」(P83)

 そして、サンチョの妻もまた、なかなか面白いことを言っています。
 島の領主にこだわるサンチョに、次のように言い放ちます。

 「お前さんは領地なんぞなしでおっかさんの腹から出てきて、今日までそんなものな
 しで生きてきなさった。だから、神様に召されたときにゃ、領地なんぞ持たずに墓に
 行くのが、いや運ばれていくのが一番さね。」(P90)

 狂人・バカ・田舎者と言われる人々から、含蓄に富むセリフがポンポン飛び出します。
 後篇は前篇以上の名文の宝庫。「人生の書」と呼ばれる理由がここにあります。

 「よいか、ただ富を手にすること、それ自体が富の所有者を幸福にするのではないぞ。
 そうではなく富を使うこと、それも好き勝手ではなく、その正しい使い途を心得ている
 ことが所有者を幸福にするのじゃ。」(P110)

 「ところが、実は、舞台の上と同じことが、この世の実生活においても起こっているの
 じゃ。現実の世界でも、ある者は皇帝を演じ、またある者は教皇になっている。(中略
 )そして終末が来ると、人は皆墓のなかで平等になるのよ」(P191)

 さいごに。(イライラ気味)

 娘は最近イライラ気味です。妻によると、思春期の女の子特有の現象らしい。
 なんでもないことでイライラするので、ちょっとからかってみることもできません。

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ドン・キホーテ3 [17世紀文学]

 「ドン・キホーテ(前篇三)」 セルバンテス作 牛島信明訳 (岩波文庫)


 自分を偉大な騎士だと妄想するドン・キホーテと、従者サンチョの冒険の物語です。
 四百年も昔に書かれ、今なお読み継がれている、スペイン文学の傑作中の傑作です。

 岩波文庫から全六冊で出ています。分かりやすくて、とても味わいのある名訳です。
 前篇最後となる「前篇(三)」には、第35章から第52章までが収められています。


ドン・キホーテ〈前篇3〉 (岩波文庫)

ドン・キホーテ〈前篇3〉 (岩波文庫)

  • 作者: セルバンテス
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2001/02/16
  • メディア: 文庫



 ミコミコーナ姫を救うため、巨人を倒しに行くのだと思い込んだドン・キホーテ。
 夢の中で巨人と戦い、寝ぼけて酒の革袋を、巨人の頭だと思って切りつけました。

 ドン・キホーテには、部屋中にこぼれた赤ワインが、巨人の血に見えていました。
 サンチョに間違いを指摘されると、ドン・キホーテは平然とこう言ってのけます。

 「いったい何をほざいておるのじゃ、愚か者。お前、気はたしかなのか? ここ
 で起こることはすべて魔法のなせる業であると、わしはお前に言ったであろう。」 

 ドン・キホーテの妄想はますますひどくなり、馬鹿げたことを自信満々行います。
 読者もしだいに、ドン・キホーテの方が正しいのではないかと錯覚していきます。

 さて、第3巻に入ってすぐに、ガルデニオとドロテーアの物語は一段落しました。
 ところが、捕虜とソライダの物語、ドン・ルイスとクラーラの物語が始まります。

 作品では、騎士物語が四方八方にやたらと手足を伸ばしていると批判しています。
 「ドン・キホーテ」が同じ特徴を持つのは、騎士物語のパロディだからでしょう。

 第51章の山羊飼いとレアンドラの作中作は、明らかに蛇足ですよ。
 この手のお話には、もうお腹いっぱいです。

 やはり、ドン・キホーテの活躍を、もっともっと読みたいです。
 御婦人を救おうと、ドン・キホーテが向かったのは、マリア像を抱えた一行で・・・

 ところで、前篇のラストでは、その後の物語の予告的な話が挿入されています。
 後編も気になります。続けて読みたいです。

 さいごに。(中一はたいへん)

 小学校から中学校へ、生活は大きく変わるため、中一はたいへんだと言われます。
 朝練があり、放課後の部活があり、塾があり、宿題があり、娘も苦労しています。

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ドン・キホーテ2 [17世紀文学]

 「ドン・キホーテ(前篇二)」 セルバンテス作 牛島信明訳 (岩波文庫)


 自分を偉大な騎士だと妄想するドン・キホーテと、従者サンチョの冒険の物語です。
 四百年も昔に書かれ、今なお読み継がれている、スペイン文学の傑作中の傑作です。

 岩波文庫から全六冊で出ています。分かりやすくて、とても味わいのある訳です。
 2冊目の「前篇(二)」には、第22章から第34章までが収められています。


ドン・キホーテ〈前篇2〉 (岩波文庫)

ドン・キホーテ〈前篇2〉 (岩波文庫)

  • 作者: セルバンテス
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2001/01/16
  • メディア: 文庫



 旅するドン・キホーテとサンチョは、数珠つなぎにされた囚人たちに出会いました。
 ドン・キホーテは同情し、的外れな騎士道精神を発揮して、囚人たちを解放し・・・

 第二巻に入って、ドン・キホーテとサンチョのコンビは、ますます絶好調です。
 ばかばかしいことを、大まじめでやってしまうところが、実に味わい深いです。

 「偉大な騎士は皆、絶望と狂乱を経験した。だから自分も」と、ドン・キホーテは、
 ズボンを脱ぎ、下半身をあらわにして、宙返りをし・・・P124の挿し絵は笑えます。

 途中から、ドン・キホーテを故郷に帰そうとする司祭と床屋のコンビが登場します。
 このコンビが、ドン・キホーテとサンチョの旅を、いっそう面白くしてくれます。

 しかしながら、悪乗りしてドン・キホーテを笑いものにする司祭や床屋たちよりも、
 笑いもののドン・キホーテとサンチョの方が、ずっと立派に見えるから不思議です。

 さて、第24章では、謎の青年ガルデニオが登場して、物語に新しい展開があります。
 第28章ではドロテーアも出て来て、物語が重層的になり、一段と面白くなりました。

 ガルデニオはどうなるのか? ドロテーアはどうなるのか?
 この作中作が意外にも面白くて、ドン・キホーテたち以上に気になりました。

 まだ二冊目ですが、ここまで読んで思ったことが一つあります。それは・・・
 「ドン・キホーテほどの名作は、完訳を読まなければいけない」ということです。

 確かに冗長な部分はありますが、そこもそれなりに面白いです。
 また牛島訳は本当にすばらしいです。当時のスペインの空気まで伝わってきます。

 さいごに。(娘は大忙し)

 娘は中学に入ってから、部活動と、学校の宿題と、塾の宿題で、大忙しです。
 最近は、夜中の12時近くまで宿題をやっていることが、たまにあります。

 そういうときは、睡眠時間が足りなくて眠そうなので、少し心配になります。
 少しずつ慣れていって、宿題を効率よくこなせるようになるといいのですが。

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リチャード三世 [17世紀文学]

 「リチャード三世」 シェイクスピア作 河合祥一郎訳 (角川文庫)


 卑劣な手段で王位を簒奪し、破滅するまでを描いた、リチャード三世の史劇です。
 この劇によって、リチャード三世が極悪人だというイメージができ上がりました。

 私は角川文庫の河合訳で読みました。ちくま文庫の松岡訳も分かりやすいです。
 新潮文庫の福田訳はやや古いものの、今でも根強い人気があります。


新訳リチャード三世 (角川文庫)

新訳リチャード三世 (角川文庫)

  • 作者: ウィリアム シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2007/06/23
  • メディア: 文庫



シェイクスピア全集 (7) リチャード三世 (ちくま文庫)

シェイクスピア全集 (7) リチャード三世 (ちくま文庫)

  • 作者: W. シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1999/04/01
  • メディア: 文庫



リチャード三世 (新潮文庫)

リチャード三世 (新潮文庫)

  • 作者: ウィリアム シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1974/01/30
  • メディア: 文庫



 生まれつき醜悪な姿のリチャードは、心もゆがみ、狡猾で残忍な男となりました。
 この世の全てを憎悪し、次々と人を陥れることで、王座を手にしようとしました。

 「恋の花咲くはずもないこの俺は、もはや、悪党になるしかない。
 世の中のくだらぬ喜び一切を憎悪してやる。」(P10)・・・

 相手を心から心配しているかのように装い、お人よしの兄を易々と破滅させる。
 それでいて兄は、リチャードの善良さを疑わない。これこそ、本物の悪党ですよ。

 リチャード三世は、ハムレットと並んで、演じ甲斐のある役なのだそうです。
 なるほど、リチャード三世は、悪の魅力を放っています。そこには何かがある!

 おそらくリチャード三世は、幸せになりたくて王座を奪ったわけではない。
 自分を含めて、全てを破滅させるために、王座に就いたのではないか。

 リチャード三世は、王位に就くことによって、世の全てを嘲笑したのではないか。
 そのとき彼は、自分自身さえをも、嘲笑していたのではないか。

 そしてそれこそが、リチャード三世流の、全世界への復讐だったのではないか。
 この復讐は、自分自身が破滅することによって完結するのだ。

 と、とりとめもなく次から次に考えてしまいます。
 シェイクスピア劇のリチャード三世は、本当に奥が深く、興味深い人物です。

 ところが、実際のリチャード三世は、決して極悪人ではなかったようです。
 ヨーク朝最後の王を悪く描くのは、テューダー朝時代の社会事情でした。

 この史劇によって、リチャード三世は後々まで悪党のイメージが残りました。
 我々も、やっぱりリチャード三世は悪党でなければ、と思ってしまいます。

◎ さいごに(東京の家族旅行)

 都内で最も大きな書店として有名な、ジュンク堂池袋本店にも立ち寄りました。
 ジュンク堂は、スマホのアプリ「honto with」で、店内の在庫が分かるので便利。

 私の好きな文庫本コーナーが充実していたので、もっといろいろ見たかったです。
 急いでいたので滞在時間は15分。しかしここで「リチャード三世」を買いました。

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お気に召すまま [17世紀文学]

 「新訳 お気に召すまま」 シェイクスピア作 河合祥一郎訳 (角川文庫)


 男装の麗人ロザリンドと貴族の青年オーランド―との、恋を描いたドタバタ劇です。
 1599年に書かれて初演された、シェイクスピア喜劇の代表作です。

 私は角川文庫版で読みました。分かりやすいです。ちくま文庫版も分かりやすいです。
 新潮文庫版はカバーイラストが美しく、値段も安いのですが、訳が少し古いようです。


新訳 お気に召すまま (角川文庫)

新訳 お気に召すまま (角川文庫)

  • 作者: シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/08/24
  • メディア: 文庫



お気に召すまま−シェイクスピア全集 15  (ちくま文庫)

お気に召すまま−シェイクスピア全集 15  (ちくま文庫)

  • 作者: W. シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2007/06/01
  • メディア: 文庫



お気に召すまま (新潮文庫)

お気に召すまま (新潮文庫)

  • 作者: ウィリアム シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1981/07/28
  • メディア: 文庫



 元公爵の娘ロザリンドは、宮廷から追放されて、アーデンの森の中へ逃げ込みました。
 そこで青年貴族オーランドーに出会いました。二人は以前から惹かれ合っていました。

 ロザリンドは男装していたため、オーランドーは、それをロザリンドだと知りません。
 ロザリンドは遊び半分に、正体を隠したまま、オーランドーの恋の相談に乗り・・・

 この劇を一言でまとめるなら、「結婚、結婚、また結婚」とでもなるでしょうか。
 ドタバタとやっているうちに、あっちでもこっちでも結婚して、かたがついてしまう。

 正直に言って、この作品の結末には、大きな違和感が残りました。
 それだけ愛しながら、なぜオーランドーには、ロザリンドの正体が分からないのか?

 それに、ロザリンドは元公爵の娘でありながら、けっこうお下品なことを言います。
 「下したわけじゃないなんて、下の話はやめて。なんだかくさいわ。あほくさい。」

 この言葉のせいで、森の中に入ってからのロザリンドのイメージは「野ぐそ」でした。
 「野ぐそ」のシーンなどありませんが、私は「野ぐそ」をイメージしてしまいました。

 そういう余計な部分に気を取られていたせいか、中盤がよく頭に入りませんでした。
 特に、オーランドーが、男装したロザリンドと恋のレッスンをする場面は難しかった。

 ロザリンドを、ロザリンドだと気付かず、ロザリンドだと仮定して話しかけている?
 しかも、オーランド―は、ロザリンドの変装に気付いていたという解釈もあるという。

 この劇は、ちょっと高級なドタバタ劇にすぎないというのが、私による評価です。
 とはいえ、男装のロザリンドは、確かに印象に残るキャラクターではありますが。

 またさりげなく名言も飛び出します。「この世はすべて舞台。男も女も役者に過ぎぬ。
 退場があって、登場があって、人が自分の出番にいろいろな役を演じる。」・・・

 さいごに。(空飛ぶペンギン)

 東京の家族旅行で、一番印象的だったのは、サンシャイン水族館の空飛ぶペンギン。
 TVでも紹介されましたが、とても幻想的で不思議な空間で、私は癒されました。

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オセロー [17世紀文学]

 「新訳 オセロー」 シェイクスピア作 河合祥一郎訳 (角川文庫)


 ヴェニスの将軍でムーア人のオセローが、部下の姦計によって破滅する悲劇です。
 17世紀初頭に書かれたシェイクスピア四大悲劇のうち、二つ目の作品です。


新訳 オセロー (角川文庫)

新訳 オセロー (角川文庫)

  • 作者: シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/07/24
  • メディア: 文庫



オセロー―シェイクスピア全集〈13〉 (ちくま文庫)

オセロー―シェイクスピア全集〈13〉 (ちくま文庫)

  • 作者: ウィリアム シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2006/04/01
  • メディア: 文庫



 ヴェニスの軍人オセローは、冷静沈着でとても人望のある、ムーア人の将軍です。
 オセローは旗手イアーゴーを信頼していますが、彼はオセローを憎んでいました。

 イアーゴーはオセローに、副官キャシオーと妻が密通しているように匂わせ・・・
 姦計にひっかかったオセローは、貞節な妻デズデモーナを疑ってかかり・・・

 この戯曲の感想を一言でまとめるなら、「やりきれない!」です。
 気高いオセローが、どうしてイアーゴーのような悪党に、してやられたのか?

 「気をつけるんだな、ムーア人、娘に、ずっと。
 父を騙した女だ、騙されるぞ、おまえもきっと。」(P42)

 ブラバンショーのこの言葉が、まるで呪いのように、最後まで響き続けています。
 オセローの悲劇は、立派な人格を持ちながら、人を見る目を持たなかった点にある。

 いやいや、むしろ、イアーゴーの偽装の巧みさをほめる(?)べきかもしれません。
 正直者の仮面を被りながら、腹の中は真っ黒。こういうやからが、最もタチ悪い。

 「悪魔は最もおぞましい罪を犯すとき、まず神々しく見せかけるもんだ、」(P83)
 嫉妬するなと言いながら、オセローを嫉妬に狂わせる手口は、まさに悪魔的でした。

 しかしこのワルは、こんな粋なことも言っています。
 イアーゴーは、哲学を持ったワルであり、彼には、悪の魅力と存在感があります。

 「性格だと? くだらん! 自分がどういう人間か決めるのは、自分次第だ。」
 この戯曲は、「オセロー」ではなく、「イアーゴー」でもよかったかもしれません。

 一方、オセローを愛したデズデモーナも、オセロー思いのキャシオーも、共に・・・
 この作品は、偽りの正直者によって、本当の正直者がバカを見る物語でもあります。

 しかしそれにしても、デズデモーナはかわいそう。そういう同情からでしょうか?
 天王星の衛星や、小惑星に、デズデモーナ(不運)という名前が付けられています。

 さいごに。(卒業式)

 先日、娘の小学校の卒業式がありました。平日だったため、私は行けませんでした。
 入学式を、ついこのあいだのように思い出します。あのころは本当に幼かった。

 あれから6年。過ぎ去ってみると、あっという間でした。
 次の6年(中学・高校)も、あっという間に過ぎ去ってしまうのでしょうか。

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