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谷間の百合 [19世紀フランス文学]

 「谷間の百合」 バルザック作 石井晴一 (新潮文庫)

 人妻ゆえに愛欲を制して、恋人を息子のように愛した女の、苦悩の物語です。

 気高い女性が、夫のわがままに耐え、虚弱な子供に縛られ、
 恵まれない人生を送り、後悔しながら死んでいく姿は、少し悲しいです。

 しかし、と思うのです。それも、自分で選んだことなのではないかと。

 アンリエットは、フェリックスに社交界と人生を教えました。
 確かにアンリエットは、フェリックスに尽くして、彼を成功に導きました。

 しかし、彼の本当に欲しかったものだけは、与えませんでした。
 本心ではそれを、与えたかったにもかかわらず、決して許しませんでした。

 貞淑な人妻と言えば、聞こえは良いのですが、
 要するに、自分は汚れたくないのです。
 はっきり言いましょう。アンリエットは、ずるいのです!

 フェリックスが、欲求不満で(もちろん小説中にこんな表現は無い)、
 ダドレー夫人を愛してしまうのも、当然じゃありませんか。
 それを許さないのは、わがままです。要するに、嫉妬です。

 ダドレー夫人が、官能の権化で、下品な女だって?
 いいじゃありませんか!
 欲求不満な男は、みんなそういう女が好きなんです。

 それが許せないと言うなら、フェリックスに、すべてをあげてください。
 そうしたら、「人生悔い無し」と言って、最期を迎えられたでしょう。

 ところで、「ゴリオ爺さん」同様、この本にも、
 社交上のアドバイスが、書かれています。
 次の言葉は、アンリエットによる教えです。

 「あらゆるずるがしこさ、あらゆるごまかしのやり方は、
  いつかかならず露顕し、結局身の害となるのにひきかえて、
  率直にふるまっているかぎり、いかなる事態にたちいたっても、
  危険は比較的すくなくてすむということです。」(P256)

 「パリでは、評判がすべてで、権力を手に入れる鍵」と言った、
 ボーセアン夫人の教えと、なんと違うことでしょうか。
 良くも悪くも、アンリエットは、まじめな人なのですね。

 さて、「谷間の百合」は、新潮文庫と岩波文庫で読むことができます。
 私の本棚には、石井訳の新潮文庫版があります。
 平成十七年に改版になった本で、訳は読みやすかったです。

谷間の百合 (新潮文庫 (ハ-1-1))









ゴリオ爺さん (新潮文庫)
 「谷間の百合」と「ゴリオ爺さん」を
 一緒に並べると、
 ペアルックのようです。







谷間のゆり (岩波文庫)
 宮崎訳の岩波文庫版もおすすめです。
 岩波文庫では、他に「絶対の探究」や
 「知られざる傑作」等の
 バルザックの作品が読めます。
 さすが岩波さんです。

 
 
 蛇足ですが…

 フェリックスが、舞踏会で初めて、アンリエットを見た時、
 母親に抱きつく子供のように、いきなりその肩に、
 顔をすり付けてしまって(ヘンタイ!)、私はたまげました。

 でも、そのことが、アンリエットの官能を、呼び覚ましたのだと、
 後で分かって、二度びっくりでした。
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