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号泣する準備はできていた [日本の現代文学]

 「号泣する準備はできていた」 江國香織 (新潮文庫)


 タイトル作ほか、恋に迷う不安定な心理を描いた全12編の短編集です。
 恋愛小説のカリスマとも呼ばれる作者の、直木賞受賞作です。

 現在、新潮文庫で読むことができます。
 どの作品も20ページ前後で、とても読みやすいです。


号泣する準備はできていた (新潮文庫)

号泣する準備はできていた (新潮文庫)

  • 作者: 江國 香織
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/06/28
  • メディア: 文庫



 「人々が物事に対処するその仕方は、つねにこの世で初めてであり一度きりで
 あるために、びっくりするほどシリアスで劇的です。」(あとがき)

 実際、「びっくりするほどシリアスで劇的」な一瞬をとらえた物語ばかりです。
 それにしても江國香織は、そのような瞬間を鮮烈に書き表すのがうまいです。

 中でも傑作は、タイトルにもなった「号泣する準備はできていた」でしょう。
 深く深く愛し合って、半年前に別れた運命の男。彼からきた電話は・・・

 「たとえば悲しみを通過するとき、それがどんなにふいうちの悲しみであろう
 と、その人には、たぶん、号泣する準備ができていた。」(あとがき)

 「そこなう」も、印象に残る作品です。
 2人が15年かけて、ようやくたどり着いた幸せのはずだったのだが・・・

 最も気に入った作品は、「じゃこじゃこのビスケット」です。
 高校時代、精肉屋の同級生と行った、初めてのドライブは・・・

 「何ひとつ、ちっとも愉快ではなかった。美しくもなく、やさしくもなかった。
 それでも思いだすのは、あの夏の日のことだ。」(P43)

 その思い出を特別なものにしているのは、当時の純真な気持ちだと思います。
 私自身は、そういう純真さを失って、だいぶたちました。

 ところで、江國香織の「つめたいよるに」という短編集も、とてもオススメです。
 こちらも新潮文庫から出ています。どの作品も短くて読みやすいです。


つめたいよるに (新潮文庫)

つめたいよるに (新潮文庫)

  • 作者: 江國 香織
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1996/05/29
  • メディア: 文庫



 前半の「つめたいよるに」は、怪談めいた短編集ですが、怖くはありません。
 後半の「温かなお皿」は、習作的なショートショート集です。

 オススメは前半の「つめたいよるに」。特に、その冒頭の「デューク」です。
 愛犬デュークが死んだ翌日、私が出会ったハンサムな少年は・・・

 「草之丞の話」もまた、しみじみとした味わいを持つ名編です。
 ある日、おふくろと一緒にいたさむらいは幽霊で、僕の父親だというが・・・

 「スイート・ラバーズ」は、不思議な物語です。
 祖母が死んだ翌日に生まれた麻子は、祖母の生まれ変わりと言われたが・・・

 ほか、ヘビを見て、自分がヘビだった時を思い出す「いつか、ずっと昔」や、
 デビュー作で、唯一不気味な雰囲気をもつ「桃子」などが収められています。

 さて、江國香織にはほかにも「神様のボート」などの魅力的な作品があります。
 数年前に話題になった「冷静と情熱のあいだ」は、ぜひ読んでみたいです。


神様のボート (新潮文庫)

神様のボート (新潮文庫)

  • 作者: 江國 香織
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2002/06/28
  • メディア: 文庫



冷静と情熱のあいだ―Rosso (角川文庫)

冷静と情熱のあいだ―Rosso (角川文庫)

  • 作者: 江國 香織
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2001/09/25
  • メディア: 文庫



冷静と情熱のあいだ―Blu (角川文庫)

冷静と情熱のあいだ―Blu (角川文庫)

  • 作者: 辻 仁成
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2001/09
  • メディア: 文庫



 さいごに。(完全ヘンタイ?)

 娘が、「完全ヘンタイ」「不完全ヘンタイ」と、ヘンなことを言っていました。
 何を言っているのかと思ったら、小学3年の理科の教科書を読んでいたのです。

 蝶など蛹になるのが「完全変態」、トンボなど蛹にならないのが「不完全変態」。
 「おれは完全ヘンタイだあ」というギャグは、うちでは黙殺されるので悲しい。

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