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聖なる酔っぱらいの伝説 [20世紀ドイツ文学]

 「聖なる酔っぱらいの伝説」 ロート作 池内紀訳 (岩波文庫)


 タイトル作は、ある紳士に200フラン恵まれた酔っぱらいの、不思議な物語です。
 デビュー作「蜘蛛の巣」から遺作のタイトル作まで、全5編収録の作品集です。

 以前白水Uブックスから出ていましたが、現在は岩波文庫に入っています。
 池内紀氏の訳は、軽やかなリズムがあって分かりやすく、読みやすかったです。


聖なる酔っぱらいの伝説 他四篇 (岩波文庫)

聖なる酔っぱらいの伝説 他四篇 (岩波文庫)

  • 作者: ヨーゼフ・ロート
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2013/04/17
  • メディア: 文庫



 タイトル作「聖なる酔っぱらいの伝説」は、ロートが死ぬ直前に書いた短編です。
 セーヌ川の橋の下に住むアンドレアスは、ある日金持ちの紳士に出会いました。

 「二百フランを受け取ってもらえないものだろうか。」
 はからずも大金を手に入れたアンドレアスは、この時から急にツキはじめました。

 安酒場では割のいい仕事をもらい、買った財布にはお金が入っていて・・・
 昔の女に会い、旧友に会い、美しい踊り子に会い、そしてテレーズに会って・・・

 「願わくは、かくも軽やかな、かくも美しい死をめぐみたまえ!」
 という言葉で作品を締めくくってから間もなく、ロート自身も天に召されました。

 軽やかなのに、しみじみしていて、楽しいのに、もの悲しい、独特の味わいです。
 パリに行きたくなります。この本をもってセーヌ河畔を歩いてみたいです。

 といっても、パリなんかには行けないので、せめて映画だけでも見てみたい。
 1988年のイタリア映画「聖なる酔っぱらいの伝説」は、評判が良いようです。

 他の三つの短編もみな、しみじみとした味わいがある、叙情豊かな作品です。
 中でも「皇帝の胸像」では、作者のオーストリアに対する郷愁が伝わってきます。

 「まことの祖国、つまり、『祖国喪失者』にも祖国であるような、唯一ありうる
 祖国、他民族国家のオーストリア君主国は、まさしくそのような国だった。」

 常にはみ出し者のユダヤ人にとって、そこは安心できる国だったようです。
 ロートは生涯、崩壊したオーストリアを、懐かしく思い出していたそうです。

 「蜘蛛の巣」はデビュー作で、過激な民族主義に走る青年を描いた中編です。
 ナチスの台頭とヒトラーの独裁を先取りして描いた異色の作品です。

 「ナチ党は熱気をはらんでいた。興奮につつまれていた。つぎつぎと人びとが
 馳せ参じる。」「ヒトラーは一つの『危険』そのものだった。」(P87~P88)

 これが書かれたのは1923年。ヒトラーが頭角をあらわすかなり前のことです。
 のちにこの作品を読み返した人々は、その予見的な内容に驚いたといいます。

 さて、代表作「ラデツキー行進曲」は、岩波文庫から上下二分冊で出ています。
 いつ絶版になるか分からない(?)ので、機会があればぜひ読んでおきたいです。


ラデツキー行進曲(上) (岩波文庫)

ラデツキー行進曲(上) (岩波文庫)

  • 作者: ヨーゼフ・ロート
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/07/17
  • メディア: 文庫



 さいごに。(セブンブリッジ)

 娘にセブンブリッジを教えてもらいました。娘は学校の先生に教わったとのこと。
 休み時間に先生も含めてやっているとか。娘はかなり強い方なのだそうです。

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