SSブログ

世界文学の流れをざっくりとつかむ1(序章ー1) [世界文学の流れをざっくりとつかむ]

 【世界文学の流れをざっくりとつかむ1】

≪はじめに≫

 このブログを始めてから、8年ほどたちました。記事はいつのまにか1000を超え、自分でもよくここまで続いたと驚いています。

 このブログは、世界の文学作品を幅広く読みながら、文庫本だけで自分の文学全集をそろえるという目的でやってきました。そして、毎年少しずつ私の文学全集に収録する本を決定してきました。おそらく、すでに半分以上の作業が終わっているのではないかと思います。

 さて、こうして世界の文学をいろいろ漁ってきますと、自分の読んできた作品を、もう一度系統立てて整理したいと思うようになりました。たとえば、この作品は世界文学の流れの中でどういう位置を占めているのか、この作品とこの作品はどのようにつながっているのか、ということが気になってきたのです。

 そこで、世界文学の流れについて解説した本を探したのですが、意外と少ないようです。たとえば、フランス文学史とか、ルネサンス文学とか、地域や時代を絞り込んだ本は見かけます。しかし、世界文学の長い歴史を簡潔に分かりやすく解説したものは、あまり無いようなのです。

 それならば自分で少しずつまとめてみよう。そう考えて、「世界文学の流れをざっくりとつかむ」の連載を始めることにしました。時間的・空間的にとても広い範囲を扱いますが、その全体の流れや傾向を「ざっくりと」わしづかみにすることを目的としています。

 そのため、細かい部分には目をつぶっています。たとえば、18世紀のドイツ文学の章では、「ドイツ古典主義などというものは無い」と述べると思います。ドイツ文学者からは「何をバカなことを」と思われるかもしれません。しかしそれは、ひとつの考え方を提示しただけですので、ご理解いただけたらと願っています。

 私は文学の研究者などではなく、ただの本好きにすぎません。ここに述べる内容は、専門的な知識の裏付けがあるわけではありません。所々で勝手なことを述べていますが、素人ゆえの大胆さだと思ってお笑いください。

 では、今回は人類がいつから文学を持っていたかという問題について、私の思うところを述べてみたいと思います。

ラスコー展.jpg

≪序章≫ 文字誕生以前

1 文学的なものの兆し(ラスコーの壁画)

 私たちの先祖であるホモサピエンスは、数万年前にはアフリカからユーラシア大陸に進出し、その中の一団はさらにアメリカ大陸へ渡っていきました。今から1万年以上前までに、彼らは大陸の隅々にまで到達していたと言われています。その間、どれだけの危険に遭遇し、どれだけの困難を乗り越えてきたでしょうか。それは、彼らにとって大きな挑戦であり、命がけの冒険であったはずです。もし、彼らにそれを表現する手段があったのなら、壮大な叙事詩を作り、後の世に残してくれたに違いありません。

 今から1万5000年ほど前のヨーロッパには、ホモサピエンスに属するクロマニョン人がいて、フランスのラスコー洞窟に壁画を残しました。そこには多くの牛、馬、イノシシ、ヤギなどが、壁一面に描かれています。どの絵も生命力に満ちていて、生き生きとしています。これは、人類の残した最古のそして最高の芸術のひとつです。

 赤土や木炭で描かれた動物たちは、今にも動き出しそうな迫力があります。この絵は、命がけで動物たちと格闘し、毎日を全力で生きていた当時の人だからこそ、描けたものだと思います。そこには、強い感情が表れています。それは、多くの動物たちをもたらしてほしいという願いだったかもしれません。または多くの動物たちを与えられたことへの感謝の念だったかもしれません。いずれにしても、命の尊さをよく知っている人々の思いが表れています。描かれた動物たちからは、雄たけびや足音が聞こえるようです。そしてその背後からは、人々のさまざまな思いが声となって聞こえてくるようです。

 私には、ここに文学的なものの萌芽が現れているように感じられます。もちろん、ラスコーの洞窟壁画は絵であって、文学ではありません。しかし、文字として残されなかった物語らしきものを、この絵から感じ取ることができます。

 2016年の冬、東京国立科学博物館で「ラスコー展」が開かれ、現在では公開されていない壁画が、実物大のレプリカとなって展示されました。再現された壁画を前にして、動物たちとの戦いを物語る語り部の姿や、多くの獲物を願うために祈りの歌を歌う呪術者の姿が、浮かんでくるように感じました。語り部たちが語り始め、呪術師たちが祈り始めたら、そこから物語や歌が生じ、口承文学が生まれます。ラスコーの洞窟壁画は、古代の口承文学の姿について、私の想像をかきたててくれました。

 この展覧会を見てから私は、ラスコーの壁画を描いた者たちは、文学らしきものを持っていたと思うようになりました。

 「ラスコー展」では、もうひとつ興味深い事実を知ることができました。それは、鹿の絵の下に謎めいた記号があることです。これを、最古の文字ではないかと考えている研究者もいるようです。もしそうであるならば、今後どこかの洞窟でまとまった数の文字が発見され、人類最古の叙事詩が解読されてもおかしくないということになります。1万年前の叙事詩など、考えただけでもワクワクしてしまいます。

 次回は、口承文学についてもう少し述べていきたいと思います。

 さいごに。

 「世界文学の流れをざっくりとつかむ」は、月1回ぐらいのペースで連載していきたいと思います。書き始めると書きたいことが次々と出てくるので、「ざっくりと」書いていくことはなかなか難しいです。

nice!(3)  コメント(0) 

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。