世界文学の流れをざっくりとつかむ6(第1章ー4) [世界文学の流れをざっくりとつかむ]
≪第1章≫ オリエント
4 ヘブライ人の叙事詩(「旧約聖書」)
エジプト新王国がラムセス二世のもとで盛んに活動していた紀元前13世紀ごろから、オリエント地方ではアラム人、フェニキア人、ヘブライ人の3民族が独自の活動を展開し始めました。アラム人はらくだを使って交易を行ったため、アラム文字は商用語として内陸部に広がりました。フェニキア人はレバノン杉で船を作って地中海で交易を行ったため、フェニキア文字は地中海沿岸に広がりました。フェニキア文字はやがてギリシア文字を生み、全ヨーロッパに大きな影響を及ぼすことになりました。
では、ヘブライ人は何をしたのか? 彼らはユダヤ教という一神教を生み出し、その聖典である「旧約聖書」を編集しました。「旧約聖書」は古代ヘブライ人と唯一神ヤハウェとの交流の物語ですが、のちにキリスト教の聖典ともなり、現在も世界中で読まれています。
前13世紀ごろ、エジプトで生活していたヘブライ人の一団が、モーセというリーダーのもと、エジプトを脱出しました。これが「出エジプト」と呼ばれる出来事です。後ろからファラオの軍隊が迫ったとき、モーセが目の前の海を二つに割って人々を渡らせたというエピソードは有名です。約束の地に入るまでの苦難はたいへんなものだったため、彼らは自民族がたどった歴史をヘブライ文字で記しました。
ヘブライ人の歴史は、長い年月をかけて、多くの人々によって書き継がれました。そのため内容は、神話、歴史、習俗、思想など、多岐にわたっています。その中には、天地創造、アダムとイブ、エデンの園、ノアの箱舟、バベルの塔、モーゼの出エジプト、十戒、ダヴィデ王とソロモン王、バビロン捕囚など、我々にとっても馴染みのある物語がたくさんあります。
これらの物語をもとに「旧約聖書」が編集されたのは、前5世紀から前4世紀にかけてのことのようです。そのころヘブライ人はしだいにまとまりを失い始め、またヘブライ語が一般的ではなくなっていきました。そういう時期だからこそ、民族の記録の収集と編纂がヘブライ語でおこなわれたのです。
ここで注目したいことは、ヘブライ人が民族をまとめるための武器として、叙事詩の編集を意識的におこなったということです。彼らは自民族にとって本当に価値ある物語を選び、それを書くにあたって、たいへん美しい言葉を使うよう気を配りました。ですからヘブライ語の「旧約聖書」は、叙事詩と呼ぶのにふさわしい内容をもち、叙事詩と呼ぶのにふさわしい文体で書かれています。この編集作業によって、ヘブライ人の歴史の決定版が作られました。
さらに重要なことは、ヘブライ人はこれらの物語を、神の力によって書かれたと考えたことです。古代ヘブライには預言者がいました。それは、神からの言葉を預かり、人々に伝える役割を果たす存在です。「旧約聖書」は一般的に、彼ら預言者が神から授かった言葉をそのまま述べたものだと考えられています。だからその内容は神聖であり、真実として受け止められました。
モーセが海を割ったという、我々にとっては荒唐無稽に感じられるエピソードも、ヘブライ人にとっては自民族が実際に経験した歴史の一場面です。それはヘブライ人全体に共通する記憶であり、民族をまとめ結びつける役割を果たしています。アラム人もフェニキア人も滅んでしまった現在、ユダヤ人だけが生き残っているのも、彼らが「旧約聖書」という民族叙事詩を持ったからだとも考えられます。
叙事詩が民族をまとめる役割を果たすという点は、ホメロスなどの叙事詩についても同じことが言えます。また、神の力によって物語が書かれるという考え方は、古代の文学の一つの特徴でもあります。ギリシアのホメロスの叙事詩も、女神の力を借りて語られました。次回は、全ヨーロッパの人々にとって心のふるさとでもある、ホメロスの叙事詩について述べていきたいと思います。
さいごに。(薬屋のチョコは・・・)
薬屋で売っているお菓子は、体に良いものばかりセレクトされていると思っていた。
そのわりに、スーパーのお菓子と変わらないのはなぜか、と不思議に思っていた。
「このチョコは、薬屋で買ったんだから、体に悪いものではない」と言ったら、
妻にも、小学生の娘にも、笑われてしまった。では、なぜ薬屋でチョコを売るのか?
4 ヘブライ人の叙事詩(「旧約聖書」)
エジプト新王国がラムセス二世のもとで盛んに活動していた紀元前13世紀ごろから、オリエント地方ではアラム人、フェニキア人、ヘブライ人の3民族が独自の活動を展開し始めました。アラム人はらくだを使って交易を行ったため、アラム文字は商用語として内陸部に広がりました。フェニキア人はレバノン杉で船を作って地中海で交易を行ったため、フェニキア文字は地中海沿岸に広がりました。フェニキア文字はやがてギリシア文字を生み、全ヨーロッパに大きな影響を及ぼすことになりました。
では、ヘブライ人は何をしたのか? 彼らはユダヤ教という一神教を生み出し、その聖典である「旧約聖書」を編集しました。「旧約聖書」は古代ヘブライ人と唯一神ヤハウェとの交流の物語ですが、のちにキリスト教の聖典ともなり、現在も世界中で読まれています。
前13世紀ごろ、エジプトで生活していたヘブライ人の一団が、モーセというリーダーのもと、エジプトを脱出しました。これが「出エジプト」と呼ばれる出来事です。後ろからファラオの軍隊が迫ったとき、モーセが目の前の海を二つに割って人々を渡らせたというエピソードは有名です。約束の地に入るまでの苦難はたいへんなものだったため、彼らは自民族がたどった歴史をヘブライ文字で記しました。
ヘブライ人の歴史は、長い年月をかけて、多くの人々によって書き継がれました。そのため内容は、神話、歴史、習俗、思想など、多岐にわたっています。その中には、天地創造、アダムとイブ、エデンの園、ノアの箱舟、バベルの塔、モーゼの出エジプト、十戒、ダヴィデ王とソロモン王、バビロン捕囚など、我々にとっても馴染みのある物語がたくさんあります。
これらの物語をもとに「旧約聖書」が編集されたのは、前5世紀から前4世紀にかけてのことのようです。そのころヘブライ人はしだいにまとまりを失い始め、またヘブライ語が一般的ではなくなっていきました。そういう時期だからこそ、民族の記録の収集と編纂がヘブライ語でおこなわれたのです。
ここで注目したいことは、ヘブライ人が民族をまとめるための武器として、叙事詩の編集を意識的におこなったということです。彼らは自民族にとって本当に価値ある物語を選び、それを書くにあたって、たいへん美しい言葉を使うよう気を配りました。ですからヘブライ語の「旧約聖書」は、叙事詩と呼ぶのにふさわしい内容をもち、叙事詩と呼ぶのにふさわしい文体で書かれています。この編集作業によって、ヘブライ人の歴史の決定版が作られました。
さらに重要なことは、ヘブライ人はこれらの物語を、神の力によって書かれたと考えたことです。古代ヘブライには預言者がいました。それは、神からの言葉を預かり、人々に伝える役割を果たす存在です。「旧約聖書」は一般的に、彼ら預言者が神から授かった言葉をそのまま述べたものだと考えられています。だからその内容は神聖であり、真実として受け止められました。
モーセが海を割ったという、我々にとっては荒唐無稽に感じられるエピソードも、ヘブライ人にとっては自民族が実際に経験した歴史の一場面です。それはヘブライ人全体に共通する記憶であり、民族をまとめ結びつける役割を果たしています。アラム人もフェニキア人も滅んでしまった現在、ユダヤ人だけが生き残っているのも、彼らが「旧約聖書」という民族叙事詩を持ったからだとも考えられます。
叙事詩が民族をまとめる役割を果たすという点は、ホメロスなどの叙事詩についても同じことが言えます。また、神の力によって物語が書かれるという考え方は、古代の文学の一つの特徴でもあります。ギリシアのホメロスの叙事詩も、女神の力を借りて語られました。次回は、全ヨーロッパの人々にとって心のふるさとでもある、ホメロスの叙事詩について述べていきたいと思います。
さいごに。(薬屋のチョコは・・・)
薬屋で売っているお菓子は、体に良いものばかりセレクトされていると思っていた。
そのわりに、スーパーのお菓子と変わらないのはなぜか、と不思議に思っていた。
「このチョコは、薬屋で買ったんだから、体に悪いものではない」と言ったら、
妻にも、小学生の娘にも、笑われてしまった。では、なぜ薬屋でチョコを売るのか?
「モーセが目の前の海を二つに割って人々を渡らせたというエピソードは有名です....」
米国では、キリスト教会の聖者でもフィクションだと思っていたのに、2011年3月の日本の大地震のおかげ(?)で、信じる者が大増加しました...
by サンフランシスコ人 (2019-01-15 07:44)
ひょっとしたら、同じような出来事があったのかもしれませんね。
by ike-pyon (2019-01-19 07:52)