SSブログ

チャンドス卿の手紙 [19世紀ドイツ北欧文学]

 「チャンドス卿の手紙」 ホーフマンスタール作 丘沢静也訳 (古典新訳文庫)


 有名な劇作家チャンドス卿が、創作活動を停止するに至った苦悩を表現しています。
 作者の転換点となった作品で、自身の問題を、チャンドス卿に託して描いています。


チャンドス卿の手紙/アンドレアス (光文社古典新訳文庫)

チャンドス卿の手紙/アンドレアス (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/11/06
  • メディア: 文庫



チャンドス卿の手紙 他十篇 (岩波文庫)

チャンドス卿の手紙 他十篇 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1991/01/16
  • メディア: 文庫



 若くして詩で名声を博したチャンドス卿は、文学の営みをやめようと考えました。
 そこで、年上の友人フランシス・ベーコンに、その思いを伝える手紙を書きました。

 「これまでの私の文学の仕事と現在の私とのあいだには奈落があって、橋が架かって
 おりません。まったく同様に、これからの私に期待されているらしい文学の仕事と、
 現在の私とのあいだにも奈落があって、橋が架かっておりません。」(P11)・・・

 チャンドス卿には、言葉の限界を知った詩人特有の、精神的変容があったようです。
 そしてこれまでと違い、日常的な何気ない物に生命の輝きを見るようになりました。

 「目立たない形をしたものや、置かれたり立てかけられたりしていても無視される
 ものや、訴えかける特徴のないものこそが、謎めいていて、言葉にならず、節度を
 知らないあの恍惚の、源泉となりうるのです。」(P27)

 さらにチャンドス卿は、そういうものは言葉で充分に捉えられないと感じています。
 そういう言葉に対する不信(?)から、彼は筆を折ったようなのです。

 「解説」にはこう書かれています。「言葉には限界があるのだということを、沈黙
 を梃子にして訴えながら、心臓で考えようとしている」(P252)と。なるほど。

 またホーフマンスタール自身も、この作品の前後から韻文を書かなくなっています。
 だからこの作品は、文学史上とても重要だということになっていますが・・・

 しかし正直に言うと、ただ書けなくなった詩人の言い訳のように聞こえなくもない。
 芸術家は行き詰ったとき、何かと小難しいことを論じて打開しようとするものです。

 「チャンドス卿の手紙」よりもはるかに興味深い作品が、「騎兵物語」なのです。
 わずか15ページほどですが、「チャンドス卿」同様、多くの研究論文が出ています。

 1848年7月の日暮れ、偵察コマンド隊がミラノを通過したあとの進軍中のことです。
 曹長のアントン・レルヒは、街道から外れた村を「怪しい」と思って偵察し・・・ 

 死んだように静まり返ったその村で、曹長は異界に入り込んでしまったようです。
 こちらに向かってくる、同じ隊の曹長は、なんと・・・!

 ドッペルゲンガーに会うのは、死の前兆だと言いますが、曹長もまた・・・
 最後にもう一度読み返して、いろいろと考えたくなる、イミシンな作品でした。

 「バソンピエール元帥の体験」も短いながら、とても鮮烈な印象を残す物語です。
 これは、元帥当人の回想録やゲーテの談話をもとに書かれた物語なのだそうです。

 元帥は若いころ、小間物屋のとても美しい夫人と知り合い、一夜を共にしました。
 翌朝、逢瀬の約束をして、二人は別れました。しかし、元帥が会いに行くと・・・

 読んだあとも謎が残ります。女は、誓いが守れなくて急死したのでしょうか。
 しかし私には、一夜を共にした女は、死に瀕した女の生霊だったように思えます。

 あるいは、すべてが元帥の夢だったようにも受け取れます。
 よく分からないゆえに、なんとも言えない怖さがある作品です。

 「アンドレアス」は、世間知らずな青年貴族の旅における体験を描いています。
 教養小説ですが、未完に終わっていて、収録されているのは冒頭部分のみです。

 そのため、どうしても中途半端な感じがしてしまいます。
 その一方で、とても印象に残る場面もあります。たとえば12歳のときの犬殺し。

 「誰にでも尻尾をふる、卑しい奴め」 彼はそう罵って、近寄る子犬を・・・
 昔の死んだ犬と、今死んだ番犬と、そして自分の間に、何かつながりがあり・・・

 「彼は予感した。十分な高さからの視線が、切り離されたすべての人をひとつに
 するのだ。孤独は錯覚にすぎない。」(P182)

 さて、チャンドス卿同様、ホーフマンスタールも若くして詩で名声を得ました。
 そしてチャンドス卿同様、詩を放擲しました。その詩が岩波文庫から出ています。


ホフマンスタール詩集 (岩波文庫)

ホフマンスタール詩集 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/01/16
  • メディア: 文庫



 さいごに。(走高跳で3位入賞)

 先日、娘の陸上の大会がありました。コロナの影響で、無観客で行われました。
 娘は走高跳に出場しました。目標は1m35。しかし、1m40をクリアしたと言う。

 初めて3位に入賞しました。娘にしては、上出来でした。見たかった!
 しかも、競技会後に練習させてもらったら、1m45もクリアできたと言います。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。