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樹影譚 [日本の近代文学]

 「樹影譚」 丸谷才一 (文春文庫)


 樹の影の固定観念を持つ老小説家が、その理由を思いがけなく発見する物語です。
 村上春樹の「若い読者のための短編小説案内」で、興味深い紹介がされていました。


樹影譚 (文春文庫)

樹影譚 (文春文庫)

  • 作者: 丸谷 才一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1991/07/10
  • メディア: 文庫



 老小説家の古屋逸平は、なぜか樹の影に惹かれ、作品中にも何度か描いてきました。
 楡の夕影を見たとき、「樹の影、樹の影、樹の影」と無意識につぶやいていました。

 講演旅行で郷里に帰ったとき、古屋のファンだという老女の屋敷に招かれました。
 その老女が古びた写真を、古屋に手渡しました。そこに写っていたのは・・・

 樹の影の記憶は、どこからもたらされたのか?
 「キノカゲ、キノカゲ、キノカゲ」・・・あの言葉は、どこからもたらされたのか?

 非常にうまくて面白い作品です。なんとも言えない不思議な余韻を残します。
 また、最後まで謎が残ります。いったい、あの老女は何だったのか?・・・

 タクシーで老女の屋敷に向かう辺りから、異界を訪れる雰囲気になりました。
 そしてランプが出たところから、まったくあちらの世界へ入り込んだような・・・

 それにしても、ラストの「前世へ、未生(みしょう)以前へ」とはどういうことか?
 さまざまな解釈が成り立ちそうな作品です。短編小説のお手本のような作品です。

 さて、この短編集には、ほか2編が収録されています。
 どちらも若い世代を主人公にしていて、「樹影譚」とはまったく違う作風でした。

 「鈍感な青年」は、若い男女の恋の物語です。みずみずしい青春小説です。
 図書館で出会った初心(うぶ)な男女が、初めてのデートのあと・・・

 私は、青年の死んだ親友のことが気になりました。何かわけがありそうだったので。
 その死の理由は謎のまま残されました。私としては、そこが知りたかったのですが。

 「夢を買います」は、銀座の若いホステスが一人称で語る物語です。
 彼女は援助交際している宗教学者に、友人の見た夢をアレンジして語って・・・

 私は女性の一人称小説は苦手なのですが、意外とすんなり物語の世界に入れました。
 導入部の夢の話から興味深かった。ただし他の二編に比べてこれはオマケ的作品か。

 ところでこの本には、独特の美点があります。それは活字がとても大きいことです。
 ページ数を稼ぐための処置かもしれませんが、老眼に苦しむ私にはありがたいです。

 このブログでは丸谷才一の「女ざかり」「文学のレッスン」等を紹介してきました。
 「女ざかり」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2017-06-19
 「文学のレッスン」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2013-10-18

 しかし、なんと言っても代表作は、「笹まくら」なんだそうです。絶対読みたい!
 「若い読者のための短編小説案内」でも、「樹影譚」の章で取り上げられています。


笹まくら (新潮文庫)

笹まくら (新潮文庫)

  • 作者: 才一, 丸谷
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1974/08/01
  • メディア: 文庫



 しかし「笹まくら」以上に読みたいのが、丸谷才一が翻訳している「ユリシーズ」。
 ジェイムズ・ジョイスの名作です。読もう読もうと思いながらも機会がなくて・・・


ユリシーズ 文庫版 全4巻完結セット (集英社文庫ヘリテージ)

ユリシーズ 文庫版 全4巻完結セット (集英社文庫ヘリテージ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/02/01
  • メディア: 文庫



 さいごに。(年末ジャンボ)

 今年も小遣いで年末ジャンボを3枚購入し、妻と娘に1枚ずつ配りました。
 4等の5万円以下なら、ひとり占めしていい、ということにしています。

 勝負事が嫌いなうちの女性陣は、「900円がもったいない」と文句を言います。
 「もったいないと思ったら、当選するようしっかり祈れ」と言ってやりたい。

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