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ゴルディアスの結び目 [日本の現代文学]

 「ゴルディアスの結び目」 小松左京 (角川文庫)


 タイトル作は、憑きものにつかれた少女の心の中を、装置を使って探検する物語です。
 1977年に刊行された短編集です。全4作が収録されています。


ゴルディアスの結び目 (ハルキ文庫 こ 1-5)

ゴルディアスの結び目 (ハルキ文庫 こ 1-5)

  • 作者: 小松 左京
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 1998/04/01
  • メディア: 文庫



 「かつて、それは『部屋』だった。(中略)いま、それは、直径二十五センチ弱の、
 表面にわずかな凹凸のあるボールになっている。」(P75)

 間口5m、高さ4m、奥行き7mの鉄筋の部屋が、今では小さな球体となっている!
 しかも重量は50トン・・・冒頭から驚愕しました。いったいどういうことか?

 サイコ・エクスプローラー(心理探検家)の伊藤は、山奥の病院に呼ばれました。
 そこでは、18歳の少女マリアが、4本の鉄の帯で寝台に縛り付けられていました。

 マリアの口には3センチほどの牙があり、頭には3本の角が生えていました。
 そして彼女は、縛られたまま寝台を持ち上げ、岩や石を降らせるというのです。

 マリアは八ヶ月前、四歳年上の恋人をかみ殺し、その心臓を食べたのだそうです。
 伊藤は彼女を救うべく、装置を使って彼女の心の中に入り込んで・・・

 マリアには何が憑いているのか? なぜ何もない空間から岩が降ってくるのか?
 院長は何を探ろうとしているのか? 病院を運営する財団の真の目的は何か?

 「彼女は、憑きものを・・・つまり超常現象を、精密な科学観測の場へもたらしてく
 れる媒体だ。」(P132)

 伊藤は、マリアの心の奥に何を見たのか?
 そして、恐るべき結末!・・・

 私はNHK「100分de名著」の小松左京スペシャルで、この小説を知りました。
 短編ながら、壮大なスケールです。そして、描写がすごい。いろんな意味で。

 「一見野菊に似た花の一つ一つは、膿みただれた痔瘻の肛門そっくりの色と形をして
 おり、花びらには血と膿がしたたり、花芯のまわりには淫らな毛がはえ、乾いた糞便
 さえこびりついている。時おりいくつかの花の中心がひらいて、中から血まじりの太
 い糞便がのろりと吐き出されてきた。(中略)はい出して来た黄褐色の糞便は、巨大
 なみみずのように、自分であたりをのろのろと這いまわり・・・」(P145)

 この物語の真の魅力は、小松一流のユニークで壮大な宇宙観にあると思います。
 しかしどうしても、うんこのミミズが這いまわる光景ばかりが、印象に残りました。

 さて、冒頭の「岬にて」は、人が死ぬために集うという、不思議な島の物語です。
 しかし難解で、私には結末がどういうことなのか、まったく分かりませんでした。

 「すぺるむ・さぴえんすの冒険」は、ある男に不思議なメッセージが届く物語です。
 そのメッセージは次のような内容で、眠っている間に、何度も届けられてきました。

 「お前を人類の中からただ一人えらんで、宇宙の一切の秘密と真理を教えよう。そ
 の代償に、こちらは二百二十億の全人類の生命をうばう・・・」(P157)

 どうやらこのメッセージは、超空間のゲートを通って、送られてきているようです。
 何者からのメッセージか? なぜ彼が選ばれたのか? 彼はどのように対応するか?

 「あなろぐ・らう゛」もまた、作者一流の宇宙観が味わえる作品です。
 しかし、全体を通して小難しいことばかり述べていて、物語の魅力はいま一つです。

 以上、全4編ありますが、完成度は「ゴルディアスの結び目」が突出していました。
 「ゴルディアスの結び目」を読むためだけにも、この本を買う価値はあります。

 さいごに。(「逃げるんですか」に思う)

 G7の会見を終えて立ち去る総理に、「逃げるんですか」と言った記者がいました。
 もちろん、逃げたのではないのは明らかでした。これはただの無礼な言葉です。

 だから、首相はスルーしても良かったのに、すぐに戻ってきて質問に答えました。
 無礼な人にも向き合って答える首相を、このときばかりはかっこいいと思いました。

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