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フランス革命史 [19世紀フランス文学]

 「フランス革命史」 ミシュレ著 桑原武夫ほか訳 (中公文庫)


 英雄中心ではなく「人民中心」の、当時としては画期的なフランス革命史です。
 国立古文書保管所の歴史部主任であり、歴史家でもあるミシュレの代表作です。

 中公文庫から二分冊で出ています。全訳ではなく、所々要約されています。
 中公公論の「世界の名著」シリーズの文庫版で、冒頭に詳細な解説があります。


フランス革命史〈上〉 (中公文庫)

フランス革命史〈上〉 (中公文庫)

  • 作者: ジュール ミシュレ
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2006/12
  • メディア: 文庫



フランス革命史〈下〉 (中公文庫)

フランス革命史〈下〉 (中公文庫)

  • 作者: ジュール ミシュレ
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2006/12
  • メディア: 文庫



 ミシュレは実証的に革命史を描きましたが、文章には時々感情が混じります。
 たとえばバスチーユ襲撃を扱った部分は、歴史書というより小説に近いです。

 「朝の光とともにパリの上に一つの考えが輝き、そして、すべての人が同じ光 をみ
 た。人々の心のうちに一つの光がさし、ひとりひとりの胸に一つの声が聞こえた。
 『行け、そしてバスチーユを攻略するのだ!』」(P133)

 人々の心に光がさしたり、声が聞こえたり・・・
 でも、こういう文学的な表現だからこそ、読んでいて面白いのです。

 そして、もうひとつの特徴が、主役がなんでもない「人々」であることです。
 名も無き人々のエピソードが集積して、ひとつの大きな物語となっています。

 バスチーユを攻撃する人々。ヴェルサイユへ行進する女たち。
 扇動されて、虐殺を行う人々。政治に飽きて、無関心になる人々。

 善人もいれば、悪人もいます。英雄もいれば、俗物もいます。
 そういう雑多な人々すべてをひっくるめた「人民」が、革命を推進します。

 「第一ページから最終ページにいたるまで、この歴史にはひとりの英雄
 しかいない。すなわち、人民である。」(P75)

 それだからといって、英雄をないがしろにしているわけではありません。
 たとえば、ミラボーやダントンに対しては、思い入れたっぷりに描いています。

 また、何人かの小さな英雄たちも、印象的に描かれています。
 危険を顧みず王を弁護し、断頭台に消えた老マルセルブ(下・P70)は素晴らしい。

 ところで、この本は所々に飛躍があって、少し分かりにくかったです。
 それもそのはず。原作の5分の1しか訳されてないのだそうです。

 さて、ミシュレには、ライフワークである長大な「フランス史」があります。
 藤原書店から全六巻で抄訳が出ています。単行本で1冊5000円ほど。文庫化を期待!


フランス史 1 〔中世(上)〕 (フランス史(全6巻))

フランス史 1 〔中世(上)〕 (フランス史(全6巻))

  • 作者: ジュール ミシュレ
  • 出版社/メーカー: 藤原書店
  • 発売日: 2010/04/26
  • メディア: 単行本



 さいごに。(安心してください)

 最近、娘(小3)がはまっているのが、「とにかく明るい安村」です。
 お風呂に入る前、パンツ一丁で、「安心してください、はいてます」をやる。

 「品のない芸はやめなさい」と注意すると、余計に面白がってやるのです。
 困ったことです。でも、こんなことするのも、せいぜいあと1年でしょうか。

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従妹ベット2 [19世紀フランス文学]

 「従妹ベット」 バルザック作  (新潮文庫)


 老嬢ベットが復讐のためマルネフ夫人と組んで、ユロ一族を破滅に導く物語です。
 私は新潮文庫版で読みました。初版が1968年ですが、訳は分かりやすかったです。


従妹ベット〈上〉 (新潮文庫)

従妹ベット〈上〉 (新潮文庫)

  • 作者: バルザック
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1968/01
  • メディア: 文庫



 下巻に入ってベットとマルネフ夫人は絶好調です。
 二人は最強タッグですね。

 主人公のベットは、相変わらず黒幕的な存在で、老獪に立ち回ります。
 ユロ一家の味方を演じながら、じわじわと破滅に追い込んでいきます。

 表立って悪をなすのは、魔性の女マルネフ夫人です。
 彼女の堕落ぶりときたら!

 自分の欲望を満たすために、男どもを誘惑し破滅させる毒婦、マルネフ夫人。
 特に二十二章で、スタインボックを誘惑するところが印象的でした。

 下巻は、マルネフ夫人を中心に展開します。
 その悪徳ぶりといい、壮絶な最後といい、「マルネフ夫人の物語」です。

 我々男たちは、アドリーヌのような貞淑で敬虔な女性を理想としていながらも、
 悲しいことに、ついついマルネフ夫人のような妖婦に惹かれてしまうものです。

 だから、ユロの気持ちも分かる気がします。
 とはいえ、この結末は! いやはや、やりきれないですね。

 ところで、ユロ男爵は、「絶対の探求」のバルタザールによく似ています。
 どちらも最初はまともな人間で、どちらも奥さんは善良な人でした。

 しかしユロは女に狂い、バルタザールは化学に狂い、一家を破滅させました。
 二人のきちがいじみた熱情は、バカを通り越して、崇高でさえあります。

 さて、これで文庫で読めるバルザック作品は、ほとんど読んでしまいました。
 文庫化されていない他の作品を、読みたいです。

 さいごに。(バンニーキルク)

 「バンニーキルク」と聞いてピンとくる人は、相当の陸上おたくでしょう。
 南アフリカの選手で、ケニアのベットとともに、アフリカ陸上界の英雄です。

 8月の世界陸上で、男子400mを43秒48という驚異的なタイムで制しました。
 やけくそのように最初からぶっとばしていく走りは、とても感動的でした。

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従妹ベット1 [19世紀フランス文学]

 「従妹ベット」 バルザック作 平岡篤頼訳 (新潮文庫)


 老嬢ベットが復讐のためマルネフ夫人と組んで、ユロ一族を破滅に導く物語です。
 バルザック最晩年に書かれた傑作で、「従兄ポンス」の姉妹編です。

 新潮文庫と岩波文庫から出ていましたが、現在はどちらも品切れです。残念。
 私は新潮文庫版で読みました。初版が1968年ですが、訳は分かりやすかったです。


従妹ベット〈上〉 (新潮文庫)

従妹ベット〈上〉 (新潮文庫)

  • 作者: バルザック
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1968/01
  • メディア: 文庫



従妹ベット 上 (岩波文庫 赤 529-5)

従妹ベット 上 (岩波文庫 赤 529-5)

  • 作者: バルザック
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1950/07/05
  • メディア: 文庫



 舞台は1830年代から1840年代のパリです。
 陸軍省局長のユロ・デルヴィ男爵邸を中心に、物語が繰り広げられます。

 ユロ男爵は60歳になりながらも、女に血道をあげて一家を窮地に陥れています。
 美しくて善良な夫人アドリーヌは、ダメ男ユロとの生活を耐え忍んでいます。

 男爵夫人アドリーヌの従妹が、中年の独身女「従妹ベット」です。
 ベットは、若い亡命貴族のスタインボックをかくまい、密かに愛しています。

 しかしベットは、アドリーヌの娘にスタインボックを取られて復讐を誓い・・・
 そして、同じアパルトマンに住む魔性の女マルネフ夫人と協定を結んで・・・

 「この公理は心に留めておくといい。パリでは、やましい人間のなれ合いこそ、
 神聖同盟のように弾力無比なのだという公理を。利害関係だけで結ばれた人間
 はいつかかならず仲間割れするが、堕落した人間は同士はいつまでたっても仲
 がいい。」(P252)

 主人公は、老嬢ベット。彼女が密かに企てる復讐が、この小説のテーマです。
 しかし上巻を読んだ段階では、ベットはどちらかというと影武者的な存在です。

 なんといっても、強烈な個性を発揮してすばらしいのは、ユロ男爵です。
 本当にどうしようもない好色ジジイです。(ユロ男爵、バンザイ!)

 ユロは、美しい女を見つけたら、いてもたってもいられなくなってしまいます。
 家では食べる物にも困っているのに、愛人のためにお金をじゃんじゃん使います。

 「お前を思う気持ちが、どんなにひどいことまでわしにさせるか、わかったかね?
 ・・・家族にたいする罪だって、平気で犯させるんだ・・・」(P299)(アホか)

 本当にアホなことに、メカケに逃げられると悔しがって、妻に愚痴ってしまう。
 アドリーヌはアドリーヌで、そんなユロを慰めてしまう。なんというお人よし!

 さて、私は上巻を読み終わったばかりです。
 下巻でユロは、ますますひどいことになりそうで、楽しみです。

 さいごに。(ケニアのベット)

 「ケニアのベット」といって、ピンときた人は、相当の陸上オタクです。
 今年の世界陸上の400mハードルで、ケニア勢初の金メダルを獲得した選手です。

 「ケニアといえば長距離」というイメージを、一新した歴史的なレースでした。
 手に汗を握りながら、私は何度も何度も録画を見てしまいました。

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魔の沼 [19世紀フランス文学]

 「魔の沼」 ジョルジュ・サンド作 杉捷夫訳 (岩波文庫)


 迷い込んだ森の中で夜を明かすうちに、運命を変えた若い農夫と娘の愛の物語です。
 ジョルジュ・サンドの田園小説の傑作として名高い小説です。

 岩波文庫で出ていましたが現在は品切れ。うちには1990年の復刊版がありました。
 初訳は1948年。旧字体で言葉遣いが古いですが、その割には分かりやすかったです。


魔の沼 (岩波文庫)

魔の沼 (岩波文庫)

  • 作者: ジョルジュ・サンド
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1952/02/05
  • メディア: 文庫



 村一番の働き者で正直なジェルマンは、2年前に最愛の妻を亡くしていました。
 彼は今28歳。小さな子供が3人いるため、周りから再婚を勧められています。

 死んだ妻を忘れられず、気乗りがしないまま、彼は相手の家に向かいました。
 近所の16歳の娘マリを、同じ方角の村に送るため、一緒に出発しました。

 ところが、森の道で魔法にかけられたように迷い・・・
 一夜を明かすうちに、ジェルマンが気づいた自分の本心は・・・

 すがすがしい印象が残る作品です。とても健全な恋愛小説だと思いました。
 特に、「世紀児の告白」でどろどろした恋愛を読んだあとなので。

 ジェルマンもマリも、誠実でとても好感が持てる人物です。
 物語の展開も、ほぼ期待どおりに進んで裏切ることが無く、好感が持てました。

 ただし、「魔の沼」というタイトルは、少しホラーっぽいと思います。
 森や沼の場面では、いつ魔物が出てくるのかと、変な期待をしてしまいました。

 さて、ジョルジュ・サンドは日本では、田園小説ばかり読まれているようです。
 しかしサンドらしい作品は、女性解放をテーマにした「アンディアナ」など。

 岩波文庫の「アンディアナ」の初版は1937年。
 古本ならアマゾンで1円から手に入りますが、ぜひ新訳を出してほしいです。

 なお、藤原書店から「ジョルジュ・サンド・セレクション」が出ています。
 「モープラ」「コンシュエロ」も入っています。ぜひ文庫化してほしい!


モープラ    ジョルジュ・サンドセレクション 1

モープラ ジョルジュ・サンドセレクション 1

  • 作者: ジョルジュ・サンド
  • 出版社/メーカー: 藤原書店
  • 発売日: 2005/07
  • メディア: 単行本



 さいごに。(最大のイベント)

 24日(月)に夏休みを取り、土日月の2泊3日で山梨にキャンプに行きます。
 明日の朝出発です。これが毎年、我が家の最大のイベントです。

 キャンプといっても、キャンプ場内のトレーラーハウスに泊まります。
 うちは車が軽しかないため、テントや寝袋などが積めないので。


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世紀児の告白 [19世紀フランス文学]

 「世紀児の告白」 ミュッセ作 小松清訳 (岩波文庫)


 憂鬱な世紀病を患った作者たち世代の、愛と青春を描いた半自伝的な小説です。
 ミュッセとジョルジュ・サンドとの、熱狂的な恋愛から生まれた作品です。

 岩波文庫から出ていましたが品切れ。1994年に復刊された本が家にありました。
 初版は1953年。漢字は旧字体で、言葉遣いも古いので、少し読みにくいです。


世紀児の告白 (上) (岩波文庫)

世紀児の告白 (上) (岩波文庫)

  • 作者: ミュッセ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1953/06/25
  • メディア: 文庫



 帝政期の熱狂の中で生まれ、熱狂が消え去った後に青春期を迎えた「私」たち世代。
 19世紀の青年たちは、空虚、憂鬱、倦怠、絶望という名の世紀病を患っていました。

 ずっと信じ続けていた愛人に裏切られた「私」は、放蕩に走り始めました。
 しかし心の中はいつも満たされず、自分が世紀病を患っていることを知るのです。

 父の死をきっかけに、放蕩をやめますが・・・
 しかし、ピエルソン夫人に出会って・・・

 「世紀児の告白」は、ジョルジュ・サンドとの愛が描かれていることで有名です。
 この二人の激しい恋は、当時もっとも有名な恋愛事件でした。

 23歳のミュッセは、美しくダンディな青年詩人として社交界に出入りしていました。
 28歳のサンドは、夫と別居中の女流作家で、男装して社交界に出入りしていました。

 1833年の夏、二人は会合の席で運命的な出会いをしました。
 二人は愛し合い、傷つけ合い、翌年の春にはヴェネチアで破局を迎えました。

 その後も1836年まで、くっついたり離れたりしながら二人の関係は続きました。
 そして、この恋愛は二人の人生と作品に、大きな影響を与えたのです。

 ミュッセの詩の作風はがらりと変わり、内省的で深みのあるものになりました。
 1936年に「世紀児の告白」を出しますが、30歳までに力を使い尽くしました。

 一方サンドの方は、その後も様々なジャンルの小説をいくつも書き上げました。
 そして、ショパンやリストなどとも関係を持ち、恋の方でも充実していました。

 さて、この小説で感心したのは、ミュッセのカッコ悪さです。
 嫉妬で泣いたりわめいたり、一転して許しを求めたり、恥ずかしい恥ずかしい。

 しかし、こういう自分のかっこ悪さを隠さず、そのまま描いたところがいいです。
 もしかしたら、そういうところがサンドの母性本能をくすぐったのでしょうか?

 ミュッセはこの作品を、サンドを傷つけたことの償いのつもりで書いたそうです。
 だから、自分はありのままに書き、夫人(サンド)は理想化して書いたそうです。

 さいごに。(東京は暑かった)

 お盆に4日間、東京へ出張に行きました。日中は外での仕事なので暑かったです。
 家に帰って来た夜はへとへとで、そのまま11時間眠り続けました。

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二人の愛人 [19世紀フランス文学]

 「二人の愛人」 ミュッセ作 新庄嘉章訳 (新潮文庫)


 性格が対照的な二人の愛人の間で、愛の綱渡りを続ける25歳の青年貴族の物語です。
 美しい中編小説で、ミュッセの代表作ではありませんが、捨てがたい魅力があります。

 新潮文庫で出ていましたが現在は品切れ。うちには昭和62年の第46刷がありました。
 訳は古いですが、読みにくくありません。アマゾンで古本が1円で出ています。


二人の愛人 (新潮文庫 ミ 1-1)

二人の愛人 (新潮文庫 ミ 1-1)

  • 作者: ミュッセ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1952/04
  • メディア: 文庫



 1825年のパリに、ヴァランタンという25歳の青年が住んでいました。
 彼は一種の二重人格で、ある時は気障な伊達男、ある時は慎ましい倹約家でした。

 そして、二つの性格に対応するかのように、二人の愛人を持っていました。
 一人は金持ちで才気活発なパルヌ侯爵夫人、一人は貧しくて優しいドゥロネイ夫人。

 二人にはそれぞれ違った、すばらしい魅力があります。
 「どうして一人だけを愛さねばならないのだ?」(P83)

 ヴァランタンは二人の間で悩み・・・(ただの優柔不断なんだよ、おまえは)
 そして最後に選んだのは・・・(ただのマザコンなんだよ、おまえは)

 と、ツッコミどころ満載で、そういう意味で楽しく読めました。
 主人公ヴァランタンが、それほど真面目に悩んでいないところがいいですね。

 二人の愛人のうち、一人は既婚者で、一人は未亡人です。
 選ぶのは結婚相手ではなく、遊び相手(=愛人)ですからね。

 「二人の愛人」は、愛すべき作品です。決して傑作ではありませんが。
 ミュッセの傑作は、戯曲「戯れに恋はすまじ」と小説「世紀児の告白」でしょう。

 「戯れに恋はすまじ」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2011-11-01
 「世紀児の告白」→ 岩波文庫から出ていましたが、現在は品切れ。

 ところで、平野啓一郎の「葬送」という長編小説が、ずっと気になっています。
 ショパンとドラクロワの物語ですが、もちろんサンドとミュッセも出てきます。


葬送〈第1部(上)〉 (新潮文庫)

葬送〈第1部(上)〉 (新潮文庫)

  • 作者: 平野 啓一郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/07/29
  • メディア: 文庫



 さいごに。(今年もお盆は出張)

 8月12日から15日まで、恒例のお盆の出張で、東京に来ています。
 今回初めて、予約投稿機能を使ってみました。投稿できているかな?

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ツールの司祭 [19世紀フランス文学]

 「ツールの司祭・赤い宿屋」 バルザック作 水野亮訳 (岩波文庫)


 陰謀によって全てを奪われる司祭と、全てを奪っていく司祭を描いた物語です。
 バルザックの中編の傑作で、写実小説として名高い作品です。

 岩波文庫から出ていましたが現在は品切れ。アマゾンで比較的安価で出ています。
 旧字体ですが活字が大きいので救われます。きれいな挿絵が所々に入っています。


ツールの司祭/赤い宿屋 (岩波文庫 赤 530-1)

ツールの司祭/赤い宿屋 (岩波文庫 赤 530-1)

  • 作者: バルザック
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1945/11/30
  • メディア: 文庫



 1826年、ツールにはガマールという老嬢が営んでいる下宿屋がありました。
 そこには、二人の対照的な老司祭が、下宿していました。

 一人はビロトー師。親友が残した家具で快適な生活を送る、人の好い司祭です。
 一人はトルーベール師。貧しい生活を送りながら、密かな野望を持っています。

 ある日ビロトー師は、ガマール老嬢から疎まれていることに突然気づきました。
 家主の陰湿ないじめに耐えきれず、ビロトー師は下宿を出る決心をしました。

 しかし、そこに罠があることも知らずに・・・
 この陰謀には、トルーベール師が絡んでいて・・・

 これまたバルザックらしい、救いの無い物語です。
 善良なビロトー師が財産を奪われる姿は、「従兄ポンス」にそっくりです。

 ビロトー師の不幸は、悪意というをあまりにも知らなかったところにあります。
 だから、自分の人生を左右する事件に真剣に向きあえず、他人任せにしてしまう。

 「そして彼は自分の生活を、わづか一本の編み目がはづれると、横糸全体が引き
 裂けてしまふ靴下に較べてみるのだった。」(P111)

 物語のクライマックスは、トルーベール師と、リストメール老婦人の対決です。
 この場面は、緊張感にあふれていてみごと。二人とも生き生き描かれています。

 特に、トルーベール師の悪党ぶりがいいですね。司祭という名の悪魔ですよ。
 こういう人間はホンモノです。決して敵に回したくありません。

 ところで、この本を読んで二つほど疑問が残りました。
 一つは題名について。もう一つは「参事会員」について。

 まず、解説に「本篇の題名は(略)司祭ビロトー師を指す」と書いてあります。
 しかし、トルーベール師も司祭です。題名は、この二人を指すのではないか?

 また、小説冒頭で、ビロトー師は参事会員になりたがっています。
 しかし、うだつの上がらないトルーベールは、すでに参事会員です。なぜか?

 当時の時代背景を知らないと、分からないことが多いですね。
 こういうことに詳しい方、できれば教えていただけないでしょうか。

 さて、この本には「赤い宿屋」という小品も収録されています。
 無実でありながら処刑された青年の話が発端となって・・・

 驚くことべきに、訳は昭和18年のものです。よくぞ戦時中にこれだけの仕事を!
 70年も昔の訳文なので、旧字体ではありますが、文章は分かりやすかったです。

 さいごに。(氷枕大活躍)

 暦の上では秋ですが、まだまだ暑い日が続きます。
 うちには今年エアコンが付きましたが、リビングに1台あるだけです。

 そのため寝室はむし暑いので、寝苦しい時には氷枕を使っています。
 頭がひんやりして、すぐに眠れます。今年は氷枕が大活躍です。

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従兄ポンス2 [19世紀フランス文学]

 「従兄ポンス」 バルザック作 水野亮訳 (岩波文庫)


 病床の美術収集家ポンス老人が、貪欲な者たちの餌食となる物語です。
 2013年の秋に、岩波文庫から復刊されました。今が購入のチャンス。


従兄ポンス〈上〉 (岩波文庫)

従兄ポンス〈上〉 (岩波文庫)

  • 作者: H. バルザック
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1970/12/16
  • メディア: 文庫



 ポンスの受難の物語の後篇です。
 とうとう最後まで救いの無い物語でした。あらすじを読んで、知ってはいましたが。

 門番女、古物商、ユダヤ人骨董商、医師、法律屋、公証人、劇場主、部長夫人・・・
 欲に目のくらんだ連中が、よってたかって・・・

 略奪者の中で、キーパーソンは門番女のシボ夫人です。彼女の役割は大きい。
 もし彼女だけでも正直な人間だったら、これほどひどい目には遭わなかったはず。

 世間知らずの老人が食い物にされるこの物語は、現代にも通じる所があります。
 一人暮らしの老人が押し売りの被害にあう事件は、大きな社会問題となりました。

 ただし、前回も書きましたが、ポンスは自分の宝にあまりにも執着しすぎました。
 宝を持っていながら、その使い道を知らなかったことが、ポンスの不幸でした。

 「宝物を持っているくせにあくせく働いて、からだを終らせてしまうのは、
 じつにバカげてる。」(P91)という、親友シュムケの忠告はもっともです。

 さて、「従兄ポンス」を読んだら、姉妹編の「従妹ベット」を読まねばなりません。
 ところが、「従妹ベット」は、現在岩波文庫でも新潮文庫でも品切れなのです。

 岩波文庫で復刊されることを期待しているのですが、なかなか復刊されません。
 もちろん、何度もHPで復刊リクエストをしてきました。(私ひとりか?)

 愚かなことに私は、昨年新潮文庫版が復刊されたとき、購入を見送ったのです。
 「新版が出る前兆だ!」と勝手に解釈したからです。あの判断は間違いでした。

 それで結局、ヤフーオークションで古本を手に入れました。
 定価より少し高い金額で落札しました。これから読むのが楽しみです。

 さいごに。(川遊び)

 先日、1日夏季休暇を取って、家族3人で山の清流へ川遊びに行きました。
 山の水は冷たくて、空気がおいしくて、気持ちが良かったです。

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従兄ポンス1 [19世紀フランス文学]

 「従兄ポンス」 バルザック作 水野亮訳 (岩波文庫)


 病床の美術収集家ポンス老人が、貪欲な者たちの餌食となる物語です。
 バルザック最晩年の傑作です。姉妹編に「従妹ベット」があります。

 2013年の秋に、岩波文庫から復刊されました。今が購入のチャンス。
 初版が1930年ですが、改版されているため読みやすかったです。


従兄ポンス〈上〉 (岩波文庫)

従兄ポンス〈上〉 (岩波文庫)

  • 作者: H. バルザック
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1970/12/16
  • メディア: 文庫



従兄ポンス〈下〉 (岩波文庫)

従兄ポンス〈下〉 (岩波文庫)

  • 作者: H. バルザック
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1972/10/16
  • メディア: 文庫



 老音楽家のポンスは、ある事件をきっかけに、親類から締め出されました。
 貧しいポンスに寄り添うのは、同じく老音楽家で親友のシュムケだけです。

 ところが、ポンスのコレクションに莫大な価値があることが分かると・・・
 宝の山に目を付けた貪欲な連中は、ある陰謀をめぐらして・・・

 現在、前編を読み終わったところですが、実にバルザックらしい小説です。
 欲望に取りつかれた人々の醜悪さを、露骨に容赦なく描いています。

 ほんと、人はカネのためには、とんでもない悪党にだってなりますよね。
 そして食い物にされるのは、いつも決まって弱者です。

 とはいえ、哀れなポンスにも、不幸を招いた原因があります。
 それは、自分のコレクションに対する過剰な執着です。

 病気で倒れた時、コレクションを少しは処分して、カネを作るべきでした。
 そういう対処が自分でできないから、他人に付け入られてしまうのです。

 さて、前編の最後に、次のような予告がありました。
 「彼は病床にたかってくるガリガリ亡者どもの餌食となるのである」(P288)

 すでにポンスは充分ひどい目にあっているのに、この先いったいどうなるのか?
 (実は「あらすじ」を読んでしまったので、次の展開を知っているのだが。)

 さいごに。(金魚)

 町内の夏祭りで、娘が金魚すくいをやって、金魚を2匹持って帰りました。
 金魚鉢に入れて飼っています。水の中を泳ぐ姿は、涼しげでいいですね。

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艶笑滑稽譚 [19世紀フランス文学]

 「艶笑滑稽譚 第一輯」 バルザック作 石井晴一訳 (岩波文庫)


 様々な時代の様々な人々が登場する、風刺的でエロティックな滑稽話集です。
 ラブレーの「ガルガンチュア物語」のオマージュで、文豪の隠れた傑作です。

 2012年に岩波文庫から出ました。美しい挿絵が豊富に収録されています。
 訳は、古典的で風流な言葉遣いのため、とても分かりにくかったです。


艶笑滑稽譚 第一輯-贖い能う罪 他 (岩波文庫)

艶笑滑稽譚 第一輯-贖い能う罪 他 (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2012/11/16
  • メディア: Kindle版



 艶かしくて笑える滑稽な話が、10話収録されています。
 「教養人のためのちょっと高級な猥談集」という感じです。

 中でも特に気に入ったのは、4つめの「悪魔の相続人」です。
 90歳をこえてなお驚異的な精力で現役を続けている「参事会員殿」の話です。

 彼には、50年も前から悪魔が住みついているという噂がありました。
 あるとき、参事会員殿の足先から、恐ろしく伸びた爪がのぞいていて・・・

 でも、あれは本当に悪魔だったのでしょうか?
 こういう悪魔なら、いてもいいかなと思いました。

 2つめの「贖い能う罪」も、印象に残る物語です。
 聖リドワール様の伝説が要になっていますが、とうてい信じられない伝説です。

 5つめの「ルイ十一世陛下のご遊楽」では、「くそ」という太字が頻出します。
 まるで「くそ」まみれだと思ったら、その内容も・・・

 この本は第一輯です。第三輯まで出ています。
 すべてを訳すのに、17年かかったのだそうです。

 なるほど、時間をかけて言葉を選んでいます。
 古風できらびやかであじわい深い文章です。これは名訳でしょう。

 しかし個人的には、もっと分かりやすい言葉で訳してほしかったです。
 これでは半分古文ですよ。正直に言って、第二輯以降は読む気がしません。

 ところで、ラブレーをそろそろ読みたいと思っています。
 2005年にちくま文庫から、分かりやすい訳が出ているので。


ガルガンチュア―ガルガンチュアとパンタグリュエル〈1〉 (ちくま文庫)

ガルガンチュア―ガルガンチュアとパンタグリュエル〈1〉 (ちくま文庫)

  • 作者: フランソワ ラブレー
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2005/01
  • メディア: 文庫



 さいごに。(河口湖で買った焼き物)

 河口湖のハーブフェスティバルの会場で、三島手という焼き物を買いました。
 作者は氏家孝法さん。山梨県大月市の工房で作っているそうです。

DSCF1651-2.jpg

 左の湯のみは3000円。右のマグカップは3500円。
 どちらも、男心をくすぐるデザインです。

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