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地下室の手記 [19世紀ロシア文学]

 「地下室の手記」 ドストエフスキー作 江川卓訳 (新潮文庫)


 自意識過剰の元役人が地下室にひきこもり、人間の非合理性を訴えた記録です。
 ドストの大きな転換点となる作品で、このあと「罪と罰」が生まれました。

 新潮文庫、古典新訳文庫などから出ています。どちらも分かりやすいです。
 新潮文庫の江川訳は名訳。2013年に改版が出て、活字が読みやすくなりました。


地下室の手記 (新潮文庫)

地下室の手記 (新潮文庫)

  • 作者: ドストエフスキー
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1970/01/01
  • メディア: 文庫



地下室の手記(光文社古典新訳文庫)

地下室の手記(光文社古典新訳文庫)

  • 作者: ドストエフスキー
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2007/05/10
  • メディア: 文庫



 小役人の40歳の男が、昨年遠い親戚から、遺産を贈られました。
 彼は仕事をやめて家にひきこもり、どうしようもないことを書き連ねて・・・

 第一部の第2章の冒頭は傑作です。
 私はこの一文で、彼の世界にすっかり引き込まれてしまいました。

 「ところで諸君、きみらが聞きたいと思うにしろ、思わないにしろ、ぼくがいま
 話したいと思うのは、なぜぼくが虫けらにさえなれなかったか、という点である。」

 「ぼく」は「虫けらにさえなれなかった」! こんなこと、なかなか言えません。
 注目すべきは、そう書きながら彼は、快楽を味わっていたはずだという点です。

 「こうした血のにじむような屈辱、だれから受けたともわからぬ嘲笑こそ、例の快
 楽のはじまりなのであり、ときにはそれが官能的な絶頂感にも達する・・」(P28)

 つまり、屈辱を味わうことによって、快楽を感じるわけです。
 りっぱなヘンタイですよ。

 だからといって、「こんなヘンタイの言うこと聞いちゃいられない」とは ならない。
 むしろ、実に興味深く読ませていただきました。

 たとえば、「ヘンリ・ライクロフトの私記」のライクロフトもまた、遺産を贈られ、
 田舎にひきこもりましたが、彼は物知り顔で説教くさいことばかりを書きつづった。
 「ヘンリ・ライクロフトの私記」→ http://ike-pyon.blog.so-net.ne.jp/2010-09-07

 それに比べて、地下室のこのヘンタイ男は、実にかわいい。
 私は、どうしても、こちらのヘンタイ男に、魅力を感じてしまう。

 この本は名言の宝庫ですが、サイコーだったのは次の言葉です。(P230)
 「世界なんか破滅したって、ぼくがいつも茶を飲めれば、それでいいのさ。」

 ところで、タイトルの「地下室」は、この男の内部にある「地下室」のことらしい。
 この「地下室」はスゴい。屈辱や嘲笑を、官能的な快楽に昇華させるのだから。

 なお、この作品は、二部構成です。
 第一部は、「ぼく」の思想表明。そして第二部は、その実例集です。

 第一部は、もしかしたら「うざい」と感じるかもしれません。事実、少しうざい。
 もし、そう感じたら、第二部から読んでください。具体的で、面白いです。

 さいごに。(お菓子のバイキング)

 先日、紅葉を見に行った時、家族3人でお菓子のバイキングをやりました。
 500円で、お皿に好きなだけお菓子を盛りつけます。ただし取るのは1回きり。

 こういうのに、私はめっぽう強い。効率よく真剣に盛りつけました。
 いつも私の言うことなんか聞かない娘も、私と全く同じように盛りつけました。
 そのため娘は、たくさん盛り込みすぎて、食べきれませんでした。

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