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平家物語2 [日本の古典文学]

 「平家物語(下)」 尾崎士郎訳 (岩波現代文庫)


 繁栄の極みにあった平家が没落し、合戦によって滅亡するまでを描いた物語です。
 幼い頃より琵琶に親しんだ尾崎士郎の訳は、読みやすい名調子で貫かれています。


現代語訳 平家物語(下) (岩波現代文庫)

現代語訳 平家物語(下) (岩波現代文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2015/04/17
  • メディア: 文庫



 下巻には、第7巻から第12巻まで、平家物語の後半が収められています。
 都落ちした平家が、院宣を受けた源氏に追討され、滅亡するまでを描いています。

 義仲の登場、平家一門の都落ち、頼朝が征夷大将軍に、義仲の最期、一ノ谷の戦い、
 維盛の入水、屋島の戦い、壇ノ浦の戦い、平家滅亡、義経の都落ち、建礼門院の死。

 下巻の前半では、都に義仲、西に平家、東に頼朝と、勢力は三分されていました。
 義仲が味方である源氏に追い詰められる場面が、最初のクライマックスです。

 義仲の前で、最後に強敵を討ち取って見せ、名残惜しみながら落ちていった巴御前。
 義仲に自害させるため命がけで敵を防ぎ、最後は太刀を口に含んで果てた今井兼平。

 倶利伽羅峠で平家の大軍を破り、旭将軍と呼ばれながら、同じ源氏に討たれた義仲。
 「木曽の最後」における、義仲と兼平の悲しい結末は、涙無しには読めません。

 そして、下巻の後半に入ると、滅びゆく平家一門の人々が主役となります。
 動かしがたい時代の流れに吞まれた彼らは、いかに生き、いかに死んでいったか?

 都落ちから俊成の家に戻り、一ノ谷での死後千載集によみ人しらずで歌を残した忠度。
 仁和寺に駆けつけ、下賜されていた琵琶の名器青山を返上し、一ノ谷で果てた経正。

 都に置いてきた妻子を思いきれず、高野山で出家し、熊野で入水する道を選んだ維盛。
 南都焼き討ちの罪を一身に被り、鎌倉で生き恥をさらした上で、無残に斬られた重衡。

 平家一の武勇を誇り、壇ノ浦で義経を追い詰め、最後まで戦い抜いて入水した教経。
 平家の滅亡を宿命として受け入れ、一門の最後を全て見届けた上で、入水した知盛。

 平家の総帥でありながら勇断を下せず、一門を滅亡に導き、生き恥までさらした宗盛。
 平家の面々それぞれに、それぞれの人間模様があり、読んでいて面白かったです。

 わずか八歳で分けも分からず、平家一門と運命をともにし、壇ノ浦で入水した安徳帝。
 入水したところを捕えられ、大原で寂しく暮らし、人知れず世を去った建礼門院・・・

 灌頂巻の女院の姿が印象的です。「この世のことはすべて、車輪の廻るようなもので、
 いかなる快楽も、全く束の間の夢まぼろし、流転きわまりないものです。」(P358)

 壇ノ浦で最後の戦いに挑んだ平家も、同じように考えていたのではないでしょうか。
 彼らは自分たちの時代が終わったことを察して、華々しく死のうとしたのではないか?

 「平家物語」には、武士の生き様があらわれています。武士の美学が詰まっています。
 貴族の世から武士の世へ。その移り変わりを象徴するのが「平家物語」です。

 「平家物語」は、ある意味、武士たちの建国神話です。まさに武士たちの叙事詩です。
 琵琶法師に語られながら、内容が増補されていったという形成過程も、叙事詩的です。

 世界文学史的に見ても、中世文学を代表する作品の一つだと、私は考えています。
 もっともっと世界で訳され、知られてもいい作品だと思います。

 ところで、下巻を読み終わったあと、以前読んだ「平家物語」の原文を見てみました。
 そして改めて、文章の味わい深さは、原文にはかなわないと思いました。

 時間が許したら、ぜひ原文をもう一度、ゆっくり音読してみたいです。
 なお、「すらすら読める平家物語」もオススメですが、現在は絶版です。


平家物語 (岩波文庫  全4冊セット)

平家物語 (岩波文庫 全4冊セット)

  • 作者: 山下宏明
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2000/07/07
  • メディア: 文庫



すらすら読める「平家物語」 (PHP文庫)

すらすら読める「平家物語」 (PHP文庫)

  • 作者: 高野 澄
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2002/12
  • メディア: 文庫



 さいごに。(今年もよろしくお願いします。)

 明けましておめどうございます。このブログは今、ちょうど10年目に入っています。
 今年も、みなさまよろしくお願いいたします。

 10年前、娘はまだ3歳でした。今年、娘は中学生になります。半分は大人です。
 娘が独り立ちできるよう、昨年一年、少しずつ子離れしてきたつもりですが・・・

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