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どこに転がっていくの、林檎ちゃん [20世紀ドイツ文学]

 「どこに転がっていくの、林檎ちゃん」 ペルッツ作 垂野創一郎訳 (ちくま文庫)


 捕虜収容所での屈辱を晴らすため、全てを犠牲にして仇敵を追う男の、冒険物語です。
 1928年に出てベストセラーとなった長編小説で、レオ・ペルッツの代表作です。


どこに転がっていくの、林檎ちゃん (ちくま文庫)

どこに転がっていくの、林檎ちゃん (ちくま文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2018/12/11
  • メディア: 文庫



 元陸軍少尉のヴィトーリンは、ロシアの捕虜収容所で受けた屈辱が忘れられません。
 故国に戻ってすぐ、何もかも捨てて、捕虜収容所司令官セリュコフを追い始めます。

 復讐を誓った仲間たちは、ウィーンの安逸な生活の中で、仇敵への恨みを忘れ・・・
 唯一ともに出発したコホウトは、国境を越えることができず・・・

 監獄に連行されたヴィトーリンは、そこで地下活動家アルテミエフと出会いました。
 「どこに転がっていくの、林檎ちゃん、お池に落ちてしまうわよ」・・・

 この文章から、私は田中清代(きよ)の絵本、「トマトさん」をイメージしました。
 トマトさんはコロコロ転がって・・・それから川に入って流されて・・・(笑)

 しかしもちろん、ヴィトーリンの旅は、そんなのどかなものではありません。
 途中、犠牲となった人々もいます。その中には、印象的な人物もいました。

 前線地帯でチャンスを待つヴィトーリンは、あるとき熱病を患った男を助けました。
 すると若きガガーリン伯爵は、命がけでヴィトーリンの前線突破を手伝った末・・・

 ツァーリの元侍従ピストルコス男爵は、モスクワにひっそりと隠れ住んでいました。
 ところが、あまりにも不幸な偶然によって、敵に自分の正体がバレてしまい・・・

 そして、なんといっても印象的なのは、地下運動家のボス・アルテミエフです。
 ヴィトーリンに便宜を与えながら、実に皮肉な展開によって破滅に追い込まれ・・・

 あちこち世界を飛び回り、ようやく突き止めたセリュコフの居場所は、なんと!
 多くの犠牲を払い、ようやくセリュコフと対面したヴィトーリンが、行ったことは?

 「いつか戻ってきて復讐してやる! 確かに心安らぐ夢だった。最悪の時をやりす
 ごさせてくれた。でもしょせんは病の一症状にすぎない。今になってもそれがわか
 らないのかね」(P59)

 最初、こんな言葉を吐いた教授を、裏切り者だと思いました。
 しかし、あまりにも虚しい結末を読んだ今、教授は正しかったとさえ思います。

 ところで、この本はタイトルとカバーイラストで、とても損をしていますよ。
 せめてカバーイラストだけでも、ハードボイルドっぽくしてほしかったです。

 さいごに。(幸せな死を迎えたのでは)

 母から電話が来て、私が駆けつけたとき、すでに父の意識はありませんでした。
 救急隊の方が、心臓マッサージをやってくれましたが、結局だめでした。

 突然だった分、痛がる様子もなく、安らかな表情で亡くなりました。
 苦しまず人に迷惑もかけず、幸せな死を迎えたことで、少し慰められています。

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