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見仏記(けんぶつき) [哲学・歴史・芸術]

 「見仏記」 いとうせいこう・みうらじゅん著 (角川文庫)


 仏友の二人が仏像を求め、気ままに旅して雑感を綴ったユニークな仏像案内記です。
 いとうが文を書き、みうらが挿絵を描いて、連載時から仏像ファンを魅了しました。


見仏記 (角川文庫)

見仏記 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1997/06/01
  • メディア: 文庫



 みうらじゅんは小学生から仏像マニアで、仏像スクラップブックを作っていました。
 それをいとうせいこうに見せたときから、連載企画「見仏記」が始まったのです。

 「見仏記」はその第1巻です。東北から九州まで、とても充実した旅をしています。
 興福寺、東大寺、法隆寺、薬師寺、東寺、広隆寺、立石寺、中尊寺、大宰府・・・

 この仏友(ぶつゆう)二人は、気ままに旅をしています。たとえば冒頭の興福寺。
 「阿修羅がいるよ」と言いながらも、阿修羅像についてはほとんど書かれていない。

 国宝館の山田寺仏頭は、「加藤登紀子」のひとことで済ませてしまう。(笑)
 おみやげやをのぞいていたら時間がなくなり、東大寺では戒壇院も大仏殿もスルー。

 しかし時々、仏像マニアならではの、とても興味深い指摘をします。
 仏像は帰化しないガイジンであり、我々はそれを見て古都の情緒に浸っているとか。

 外国人向け日本ガイドを、日本人が真似したところから仏像観光が始まったとか。
 人は自分を超える存在を想像し続けたが、馬頭観音のバリエーションを出ないとか。

 また、黒石寺(こくせきじ)で、蘇民祭で使う六角柱の護符に五芒星を見つけたり、
 慈恩寺薬師堂の日光月光菩薩に、三本足のカラスが彫られているのを知ったり・・・

 旅を重ねるうちに、いとうせいこうの文章は深くなっていきます。
 最後の旅の、平等院の阿弥陀如来の描写など、仏像マニアをうならせる名文です。

 「そこに鎮座している阿弥陀の、大きくて優しい目は、さっきの対岸に向かってい
 た。ゆったりと遠くを眺めている。何かを考えている様子もなく、その顔はただた
 だ空という感じがした。ひたすらな無の中にいて、内面など存在していないのだ。
 微笑まず、悲しまず、とにかく虚。」(P286)

 最後に、「33年後に三十三間堂で会おう」と言って別れる場面はちょっと粋です。
 33年後と言わず、もっと二人で仏遊してほしい、と思った人は多かったようです。

 この旅は、その後も続けられ、文庫の「見仏記」は7巻まで出ているようです。
 「TV見仏記」も始まり、一緒に見仏する臨場感を味わえるようになりました。

 この番組は人気が出てシリーズ化され、DVD化されました。仏像ファンは必見。
 目的は仏像を見に行くことですが、実はそれ以外の場面がとても面白いです。

 二尊院へ行く途中、「マツタケ200円」というのを見て、思わず買ったら紙細工。
 みうらはおみやげを買いすぎて、二尊院に着いたときには、「入るカネねえよ」。


みうらじゅん・いとうせいこうのTV見仏記 1 [DVD]

みうらじゅん・いとうせいこうのTV見仏記 1 [DVD]

  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
  • 発売日: 2002/11/22
  • メディア: DVD



 さて、いとうせいこうは2013年の「想像ラジオ」で、芥川賞候補となりました。
 そのほかにも、「解体屋外伝」など、気になる作品をいくつか書いています。
 「想像ラジオ」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2016-01-05


解体屋外伝 (講談社文庫)

解体屋外伝 (講談社文庫)

  • 作者: いとう せいこう
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/10/09
  • メディア: 文庫



 さいごに。(偉い人のしるし)

 小学1年生だった私が、父の横腹の盲腸の傷跡を見て、「これ何?」と聞くと、
 父は即座に「偉い人のしるしだよ」と答えました。私はそれを信じてしまった!

 学校でみんなに、「あんたの父ちゃんに偉い人のしるしがある?」と聞いても、
 「ある」と答えた子はいなかったので、私は誇らしい気持ちになったものです。

 あれが、単なる盲腸の跡だと知ったのは、だいぶ経ってからのことでした。
 今では、父の絶妙な切り返しに、ただ感心するばかりです。偉い人のしるしとは!

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