見仏記(けんぶつき) [哲学・歴史・芸術]
「見仏記」 いとうせいこう・みうらじゅん著 (角川文庫)
仏友の二人が仏像を求め、気ままに旅して雑感を綴ったユニークな仏像案内記です。
いとうが文を書き、みうらが挿絵を描いて、連載時から仏像ファンを魅了しました。
みうらじゅんは小学生から仏像マニアで、仏像スクラップブックを作っていました。
それをいとうせいこうに見せたときから、連載企画「見仏記」が始まったのです。
「見仏記」はその第1巻です。東北から九州まで、とても充実した旅をしています。
興福寺、東大寺、法隆寺、薬師寺、東寺、広隆寺、立石寺、中尊寺、大宰府・・・
この仏友(ぶつゆう)二人は、気ままに旅をしています。たとえば冒頭の興福寺。
「阿修羅がいるよ」と言いながらも、阿修羅像についてはほとんど書かれていない。
国宝館の山田寺仏頭は、「加藤登紀子」のひとことで済ませてしまう。(笑)
おみやげやをのぞいていたら時間がなくなり、東大寺では戒壇院も大仏殿もスルー。
しかし時々、仏像マニアならではの、とても興味深い指摘をします。
仏像は帰化しないガイジンであり、我々はそれを見て古都の情緒に浸っているとか。
外国人向け日本ガイドを、日本人が真似したところから仏像観光が始まったとか。
人は自分を超える存在を想像し続けたが、馬頭観音のバリエーションを出ないとか。
また、黒石寺(こくせきじ)で、蘇民祭で使う六角柱の護符に五芒星を見つけたり、
慈恩寺薬師堂の日光月光菩薩に、三本足のカラスが彫られているのを知ったり・・・
旅を重ねるうちに、いとうせいこうの文章は深くなっていきます。
最後の旅の、平等院の阿弥陀如来の描写など、仏像マニアをうならせる名文です。
「そこに鎮座している阿弥陀の、大きくて優しい目は、さっきの対岸に向かってい
た。ゆったりと遠くを眺めている。何かを考えている様子もなく、その顔はただた
だ空という感じがした。ひたすらな無の中にいて、内面など存在していないのだ。
微笑まず、悲しまず、とにかく虚。」(P286)
最後に、「33年後に三十三間堂で会おう」と言って別れる場面はちょっと粋です。
33年後と言わず、もっと二人で仏遊してほしい、と思った人は多かったようです。
この旅は、その後も続けられ、文庫の「見仏記」は7巻まで出ているようです。
「TV見仏記」も始まり、一緒に見仏する臨場感を味わえるようになりました。
この番組は人気が出てシリーズ化され、DVD化されました。仏像ファンは必見。
目的は仏像を見に行くことですが、実はそれ以外の場面がとても面白いです。
二尊院へ行く途中、「マツタケ200円」というのを見て、思わず買ったら紙細工。
みうらはおみやげを買いすぎて、二尊院に着いたときには、「入るカネねえよ」。
さて、いとうせいこうは2013年の「想像ラジオ」で、芥川賞候補となりました。
そのほかにも、「解体屋外伝」など、気になる作品をいくつか書いています。
「想像ラジオ」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2016-01-05
さいごに。(偉い人のしるし)
小学1年生だった私が、父の横腹の盲腸の傷跡を見て、「これ何?」と聞くと、
父は即座に「偉い人のしるしだよ」と答えました。私はそれを信じてしまった!
学校でみんなに、「あんたの父ちゃんに偉い人のしるしがある?」と聞いても、
「ある」と答えた子はいなかったので、私は誇らしい気持ちになったものです。
あれが、単なる盲腸の跡だと知ったのは、だいぶ経ってからのことでした。
今では、父の絶妙な切り返しに、ただ感心するばかりです。偉い人のしるしとは!
仏友の二人が仏像を求め、気ままに旅して雑感を綴ったユニークな仏像案内記です。
いとうが文を書き、みうらが挿絵を描いて、連載時から仏像ファンを魅了しました。
みうらじゅんは小学生から仏像マニアで、仏像スクラップブックを作っていました。
それをいとうせいこうに見せたときから、連載企画「見仏記」が始まったのです。
「見仏記」はその第1巻です。東北から九州まで、とても充実した旅をしています。
興福寺、東大寺、法隆寺、薬師寺、東寺、広隆寺、立石寺、中尊寺、大宰府・・・
この仏友(ぶつゆう)二人は、気ままに旅をしています。たとえば冒頭の興福寺。
「阿修羅がいるよ」と言いながらも、阿修羅像についてはほとんど書かれていない。
国宝館の山田寺仏頭は、「加藤登紀子」のひとことで済ませてしまう。(笑)
おみやげやをのぞいていたら時間がなくなり、東大寺では戒壇院も大仏殿もスルー。
しかし時々、仏像マニアならではの、とても興味深い指摘をします。
仏像は帰化しないガイジンであり、我々はそれを見て古都の情緒に浸っているとか。
外国人向け日本ガイドを、日本人が真似したところから仏像観光が始まったとか。
人は自分を超える存在を想像し続けたが、馬頭観音のバリエーションを出ないとか。
また、黒石寺(こくせきじ)で、蘇民祭で使う六角柱の護符に五芒星を見つけたり、
慈恩寺薬師堂の日光月光菩薩に、三本足のカラスが彫られているのを知ったり・・・
旅を重ねるうちに、いとうせいこうの文章は深くなっていきます。
最後の旅の、平等院の阿弥陀如来の描写など、仏像マニアをうならせる名文です。
「そこに鎮座している阿弥陀の、大きくて優しい目は、さっきの対岸に向かってい
た。ゆったりと遠くを眺めている。何かを考えている様子もなく、その顔はただた
だ空という感じがした。ひたすらな無の中にいて、内面など存在していないのだ。
微笑まず、悲しまず、とにかく虚。」(P286)
最後に、「33年後に三十三間堂で会おう」と言って別れる場面はちょっと粋です。
33年後と言わず、もっと二人で仏遊してほしい、と思った人は多かったようです。
この旅は、その後も続けられ、文庫の「見仏記」は7巻まで出ているようです。
「TV見仏記」も始まり、一緒に見仏する臨場感を味わえるようになりました。
この番組は人気が出てシリーズ化され、DVD化されました。仏像ファンは必見。
目的は仏像を見に行くことですが、実はそれ以外の場面がとても面白いです。
二尊院へ行く途中、「マツタケ200円」というのを見て、思わず買ったら紙細工。
みうらはおみやげを買いすぎて、二尊院に着いたときには、「入るカネねえよ」。
さて、いとうせいこうは2013年の「想像ラジオ」で、芥川賞候補となりました。
そのほかにも、「解体屋外伝」など、気になる作品をいくつか書いています。
「想像ラジオ」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2016-01-05
さいごに。(偉い人のしるし)
小学1年生だった私が、父の横腹の盲腸の傷跡を見て、「これ何?」と聞くと、
父は即座に「偉い人のしるしだよ」と答えました。私はそれを信じてしまった!
学校でみんなに、「あんたの父ちゃんに偉い人のしるしがある?」と聞いても、
「ある」と答えた子はいなかったので、私は誇らしい気持ちになったものです。
あれが、単なる盲腸の跡だと知ったのは、だいぶ経ってからのことでした。
今では、父の絶妙な切り返しに、ただ感心するばかりです。偉い人のしるしとは!
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