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ブラウン神父の無垢なる事件簿 [20世紀イギリス文学]

 「ブラウン神父の無垢なる事件簿」チェスタートン作 田口俊樹訳(ハヤカワ文庫)


 冴えない風貌のブラウン神父が、鋭い推理で事件を解決する、傑作第一短編集です。
 1911年に出てのちにシリーズ化されました。推理小説の古典的な作品です。


ブラウン神父の無垢なる事件簿 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ブラウン神父の無垢なる事件簿 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/03/24
  • メディア: 文庫



 ブラウン神父シリーズの定番は創元推理文庫版です。唯一全シリーズが出ています。
 カバーイラストもいいです。ただし、文章が読みにくかったので、私はやめました。


ブラウン神父の童心 (創元推理文庫)

ブラウン神父の童心 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/01/12
  • メディア: Kindle版



 大金持ちのスマイズが自分のマンションで殺され、その死体までも無くなりました。
 しかし、監視していた4人の男たちは皆、誰も怪しい人物は見なかったと言います。

 ブラウン神父はすぐに見抜きました。「人というのは相手の尋ねたことには決して答
 えません。人は相手が意味していることに答えるのです。」(P186)

 ブラウン神父は言います。男が入って出ていったのに、誰も気づかなかったのだと。
 「透明人間?」と聞くと「精神的なね」と神父。いったい犯人は誰だったのか?

 これはミステリ史に残る名編「透明人間」。多くの推理小説家に影響を与えました。
 そして、「折れた剣の看板」もまた、たいへん有名な作品です。

 イギリスの英雄セントクレア将軍が、最後に愚かで無謀な戦いを挑んだのはなぜか?
 騎士道精神に溢れたブラジルのオリヴィエが、将軍に残虐な復讐をしたのはなぜか?

 「賢者が木の葉を隠すのはどこか。森の中です。その森がなかったら賢者はどうする
 でしょう?」「どうするんだね?」「隠すために森をつくるのです」(P371)

 ブラウン神父は、残された記録と証言から、恐るべき真実を導き出します。
 セントクレアは最後の戦いで何をしたのか? その身に何が起こったのか?・・・

 私にとって最も印象的だったのは、「サラディン公爵の罪」です。異色の作品です。
 サラディン公爵の前に現れたイタリア人は、父の仇をとるため決闘を申し込みました。

 戦いで侯爵が倒れたそのとき、執事のポールは主人の席で悠然と食事をしていて・・・
 いったい、この執事はどういうつもりなのか? 執事が語る意外な真実!

 「神の鉄槌」もまた、とても印象に残る作品でした。ブラウン神父の推理が冴えます。
 ボーン大佐は鍛冶屋の女房を訪ねたとき、頭蓋骨を金槌でつぶされて亡くなりました。

 怪力がなければできない仕業です。しかし、凶器の金槌はとても小さなものでした。
 なぜ大きな金槌が使われなかったのか? どのようにして頭蓋骨を砕いたのか?

 「どうしてわかったんです? あなたは悪魔なのか?」
 「私は人間です。だから、あらゆる悪魔を心に飼っています。」(P324)

 そして、ラストを飾る「三つの凶器」は、とても感動的な作品です。
 慈善家のアームストロング卿が殺され、その使用人や卿の娘アリスが疑われました。

 ところが秘書のロイスが自首したのです。彼はアリスとの結婚を反対されていました。
 しかし、凶器が三つもあるという不自然さから、ブラウン神父は真相を見抜きました。

 「どれほどおぞましい失敗も罪のように人生を蝕むことはありません。あなた方おふ
 たりはこれから幸せになれそうな気が私はします。」(P418)

 ブラウン神父は名探偵シャーロック・ホームズの最大のライバルだと言います。
 しかしブラウン神父の魅力は、推理以上にこういう温かい言葉にあるように思います。

 さて、全12編の作品において、犯罪と推理が、芸術作品のように扱われています。
 次のような言葉に、作者チェスタートンの独特の美学が垣間見えています。

 「犯罪というものはどんな芸術作品とも似ています。神聖なるものであれ、悪魔的な
 ものであれ、芸術作品にはどんなものにも欠けてはならない特徴があります。すなわ
 ち、完成形はいかに複雑であっても、その核となるものはいたって単純だということ
 です。」(P120)

 シリーズ第二弾「ブラウン神父の知恵」も第三弾「ブラウン神父の不信」も好評です。
 ただし、創元推理文庫版でしか読めません。私には訳の文章が合いませんでした。


ブラウン神父の知恵【新版】 (創元推理文庫)

ブラウン神父の知恵【新版】 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/03/18
  • メディア: 文庫



ブラウン神父の不信【新版】 (創元推理文庫)

ブラウン神父の不信【新版】 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/05/21
  • メディア: 文庫



 なお、チェスタートンは、1905年に「木曜日だった男」を刊行しています。
 ちょっとわけの分からない作品でした。このブログでもすでに紹介済みです。
 「木曜日だった男」→ https://ike-pyon.blog.ss-blog.jp/2016-10-03

 さいごに。(咳厳禁)

 娘の受験が目の前に迫っています。と同時に、コロナ感染者数が急激に増えています。
 職場では多くの人と接しているので、絶対に感染しないように神経を尖らせています。

 それにしても、社会全体が疑心暗鬼になってきているように感じます。
 少しでも咳をしようものなら(たとえ花粉でも)、周囲の冷たい視線を浴びます。

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