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ダロウェイ夫人 [20世紀イギリス文学]

 「ダロウェイ夫人」 ヴァージニア・ウルフ作 土屋政雄訳 (古典新訳文庫)


 ダロウェイ夫人がパーティーを開く日の様子を、意識の流れの添って描いた物語です。
 1925年に出たウルフの代表作です。1997年になって映画化されています。

 私は最初角川文庫版を読みましたが、よく分からないまま終わってしまいました。
 オススメは古典新訳文庫の土屋政雄訳です。驚くほど分かりやすかったです。


ダロウェイ夫人 (光文社古典新訳文庫)

ダロウェイ夫人 (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2010/05/11
  • メディア: 文庫



ダロウェイ夫人 (角川文庫)

ダロウェイ夫人 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2022/02/02
  • メディア: 文庫



 クラリッサ・ダロウェイは、上流階級に属し、何不自由なく生活している夫人です。
 パーティーを開く日、花を買いに行く途上で、彼女はさまざまなことを回想しました。

 かつて愛したピーター、古くからの知人ヒュー、親友のサリー、夫のリチャード・・・
 そして、現在の自分を振り返り、「無」であると感じます。「完全な無に思える」と。

 「クラリッサは、自分が透明になったような奇妙な感覚にとらわれた。見えず、知られ
 ず、もう結婚することもなく、子を生むこともない。ボンド通りの意外なほどの――で
 も、なんだか厳かな――行進に混じり、ついていくだけ。ダロウェイ夫人というこの感
 覚。もうクラリッサですらなく、リチャード・ダロウェイの妻というこの感覚。」
 (P24)

 その日クラリッサは思いがけなくピーターの来訪を受け、昔を懐かしく思い出します。
 そして自問しました。私はどんな人生を生きてきたというのか、と。

 一方ピーターもまた、我が身を振り返ります。今もなお女性問題を抱えている自分を。
 そして突然涙がどっとあふれ出し、クラリッサの前で恥も外聞もなく泣き出しました。

 そのとき帰還兵のセプティマスは、妻のレーツィアとともに家に帰るところでした。
 従軍で精神を病んだセプティマスは、死んだ戦友エバンズの幻影におびえて・・・

 クラリッサからピーターへ、ピーターからセプティマスへ、その妻レーツィアへ。
 描写する心情の主体は次から次に移り変わり、読んでいて幻惑されるようでした。

 時にはまったく筋と関係ない通行人の心情まで写し取るので、戸惑ってしまいます。
 しかし、人々の生の意識を拾い上げていくところに、この作品の独自性があります。

 特に、クラリッサのきらめくような心情の発露は、この小説の一番の魅力でしょう。
 過ぎ去った時間が突如現在に蘇り、彼女の心情を強烈に揺さぶる描写はみごとです。

 ところで私は、セプティマスとレーツィアが出てくるたびに、心が暗くなりました。
 悲劇的結末にじわじわと進んでいくこのふたりの内面など、読みたくなかったです。

 ところが解説によると、セプティマスはクラリッサの分身として構想されたと言う。
 そういえば、当初はクラリッサが自殺する展開だったと、聞いたことがあります。

 なるほど。クラリッサが自殺しなくて良かったです。彼女に自殺は似合いません。
 作者も彼女に自己を投影させすぎた結果、自殺の役をセプティマスに回したのでは?

 最後のパーティーの場面は秀逸。上流階級のきらびやかな世界とその裏にある倦怠。
 そして最後の場面! クラリッサとピーターは、このあとどんな会話をするのか!?

 さて、ウルフにはほかに「灯台へ」があります。こちらを代表作と考える人も多い。
 岩波文庫から出ているのでぜひ読みたいです。


灯台へ (岩波文庫)

灯台へ (岩波文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2004/12/16
  • メディア: 文庫



 さいごに。(私にモデルナを)

 うちの地元では、モデルナワクチンは副反応の発生率が高いので敬遠されています。
 その結果、モデルナを投入したワクチン接種会場が、ガラガラなのだそうです。

 それなら私に接種券をまわしてほしかった! 私は断然モデルナワクチン希望です。
 というのも、人並みに副反応を起こして、妻と娘を見返してやりたいので。

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