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砂の女 [日本の現代文学]

 「砂の女」 安部公房 (新潮文庫)


 捕らえられて砂穴で暮らす男の、脱出を試みる姿と心情の変化を描いた物語です。
 1962年に刊行されて評判となり、現在では世界二十カ国以上で翻訳されています。


砂の女 (新潮文庫)

砂の女 (新潮文庫)

  • 作者: 公房, 安部
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2023/05/16
  • メディア: 文庫



 ある年の8月に、教員をしている男が昆虫採集に出かけて、行方不明となりました。
 捜索願もむなしく、失踪の理由が分からないまま、7年後に死亡認定を受けました。

 男は3日間の休暇を取って、ある村の砂丘に、新種の昆虫を探しに来ていたのです。
 夕方、砂穴の底にあり30前後の女がいる家に、一夜だけのつもりで宿を借りました。

 男が「風呂にしたい」と言うと、女は「明後日にして下さい」と言います。
 男が「明後日にはぼくはいないよ」と言うと、女は「そうですか?」と言います。

 夜、女は砂掻きを始め、男が手伝うと「最初の日からじゃわるいから」と言います。
 男が「ぼくがいるのは今夜だけだよ」と言うと、女は「そうですか?」と言います。

 女が言うには、砂掻きをしないと家が埋まり、砂がすべてを腐らせるのだそうです。
 実はこうして何軒もの人々が奴隷のように働くことで、部落が守られていたのです。

 男は憤慨し、バカバカしくなって、砂掻きを途中でやめてしまいました。
 翌朝、女は裸で寝ていて・・・そして、外に出ると縄梯子が消えていて・・・

 言わずと知れた名作です。私は若いころに一度読みました。今回は再読です。
 下手なホラー小説より、よほど怖い小説だと感じました。

 男は昆虫を捕らえて採集箱に入れます。しかし今、男自身が捕らえられたのです。
 しかも男を閉じ込めているのが砂です。男が、その流動性に憧れていた砂なのです。

 「いいですか、砂ってやつは、こんなふうに、年中動きまわっているんだ・・・そ
 の、流動するってところが、砂の生命なんだな・・・絶対に、一カ所にとどまって
 なんかいやしない・・・」(P32)

 その流動性ゆえに砂は部落を襲い、人々を不自由にしています。
 砂が男を閉じ込めてその自由を奪っている、という点に皮肉で深い意味があります。

 「砂の女」については、以前、NHK100分de名著で放送されました。
 講師のヤマザキマリが、男の愚かしさを痛快に指摘していて、面白かったです。

 ただ、私は砂に落ちた男と、仕事に縛られる自分を重ね合わせ、悲哀を感じました。
 自由を求めるがゆえに社会に囚われる、という大きな矛盾を考えさせられました。

 あるときは仮病を使い、あるときは女を人質にし、あるときは女をだまして・・・
 男は砂の穴から脱出できるか? しかし、男にとって何が幸福なのだろうか?・・・

 ラストの場面がすばらしい。これを、希望というのか、絶望というのか・・・
 私は、なによりも怖いのは、その生活に慣れてしまう自分自身だと思いますが・・・

 ところで、安部公房の作品で、もうひとつオススメなのが「箱男」です。
 若いころ安部公房のマイブームがあって、そのころ読みました。再読したいです。

 さいごに。(つい見てしまう)

 野球中継なんて、WBCの前までは、まったく見ていませんでした。
 ところが、妻と一緒に見ているうちにハマってきました。見てみると面白いですね。

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